特許第6683733号(P6683733)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6683733
(24)【登録日】2020年3月30日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】発酵乳製品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23C 9/13 20060101AFI20200413BHJP
【FI】
   A23C9/13
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-556114(P2017-556114)
(86)(22)【出願日】2016年12月15日
(86)【国際出願番号】JP2016087327
(87)【国際公開番号】WO2017104729
(87)【国際公開日】20170622
【審査請求日】2018年6月25日
(31)【優先権主張番号】特願2015-244855(P2015-244855)
(32)【優先日】2015年12月16日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】303036670
【氏名又は名称】合同酒精株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 温
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 智子
(72)【発明者】
【氏名】吉川 潤
【審査官】 西村 亜希子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−033093(JP,A)
【文献】 特公昭44−027714(JP,B1)
【文献】 特表2010−512798(JP,A)
【文献】 特表2005−521391(JP,A)
【文献】 特開2002−306063(JP,A)
【文献】 特許第3145829(JP,B2)
【文献】 特許第3182954(JP,B2)
【文献】 国際公開第2013/039188(WO,A1)
【文献】 中国特許出願公開第104673773(CN,A)
【文献】 上野川修一編,乳の科学,1998年 3月25日,第3刷,p.19
【文献】 香川芳子監修,食品成分表2014,2014年 2月10日,初版第1刷,pp.200-201
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/WPIDS/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料乳と、乳酸菌と、を混合し、混合液を得る第1工程と、
前記混合液を発酵させる第2工程と、
を順次行う発酵乳の製造方法であって、
上記第2工程が終了する前に、前記原料乳及び/又は前記混合液にペニバチルス属由来のプロテアーゼを添加する工程(プロテアーゼ添加工程)を行い、且つ
前記プロテアーゼの添加量が、前記原料乳の全質量を基準として0.25〜10.0PU/gであることを特徴とする発酵乳の製造方法。
【請求項2】
前記原料乳に含まれる乳脂肪分(質量%)と前記プロテアーゼの添加量(PU/g)との比(前記乳脂肪分:前記プロテアーゼの添加量)が、50:1〜1:10である、請求項1記載の発酵乳の製造方法。
【請求項3】
前記原料乳に含まれる乳脂肪分が0〜10質量%である、請求項1又は2記載の発酵乳の製造方法。
【請求項4】
前記原料乳に含まれる無脂乳固形分が3.0〜20質量%である、請求項1〜のいずれか一項記載の発酵乳の製造方法。
【請求項5】
前記プロテアーゼが、下記の(1)〜(5)の性質を有することを特徴とする請求項1〜のいずれか一項記載の発酵乳の製造方法。
(1)ペニバチルス属に属する細菌により産生され、
(2)中性範囲でκ−カゼイン及びヘモグロビンを分解し、
(3)pH5.5〜9.0で安定であり、至適pHが7.0〜8.0であり、
(4)20〜75℃で作用し、至適温度が50〜60℃であり、
(5)SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動法による分子量が32,000〜34,000Daと推定されるプロテアーゼ。
【請求項6】
更にラクターゼ、グルコースイソメラーゼ、グルコースオキシダーゼ、トランスグルタミナーゼ、リパーゼ、セルラーゼ、アミラーゼ、イヌリナーゼ、ラッカーゼ、パーオキシダーゼ、及び、前記プロテアーゼ以外のプロテアーゼから選択される1種又は複数種を上記原料乳及び/又は上記混合液に添加する工程を含む、請求項1〜のいずれか一項記載の発酵乳の製造方法。
【請求項7】
発酵乳の製造方法であって、
原料乳と、乳酸菌と、を混合し、混合液を得る第1工程と、
上記混合液を発酵させる第2工程と、
上記第2工程が終了する前に、上記原料乳及び/又は上記混合液にペニバチルス属由来のプロテアーゼを添加する工程(プロテアーゼ添加工程)と
を含み、
所望の前記発酵乳のカード硬さと、原料乳に含まれる乳脂肪分と、ペニバチルス属由来プロテーゼの添加量と、を指標として、当該乳脂肪分と当該プロテアーゼの添加量を決定し、発酵工程を行い、且つ
前記プロテアーゼの添加量が、前記原料乳の全質量を基準として0.25〜10.0PU/gであることを特徴とする発酵乳の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は2015年12月16日に出願した日本出願特願2015−244855号に基づく優先権を主張し、その内容の全ては参照により本願に組み込まれるものとする。本発明は、発酵乳製品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発酵乳には、大きく二つのタイプがある。一つは前発酵タイプであり、大型の製造タンク内で原料乳を発酵させ、得られた発酵乳を破砕した後、個食容器に充填したものである。もう一つは後発酵タイプであり、個食容器に原料乳及び乳酸菌等を充填した後、発酵させたものである。いずれのタイプにおいても、個食容器に充填・発酵された発酵乳は流通経路に乗せて、最終消費者に届けられる。
【0003】
従来、流通経路において、個食容器内の発酵乳が崩れてしまう問題や、果肉物を添加した発酵乳の場合、個食容器の底部に果肉物が沈降してしまう問題が生じていた。この問題を防ぐ方法として、発酵乳に寒天、ゼラチン等のゲル化剤を添加し、発酵乳の硬度を増大させる方法が挙げられる。しかしながら、ゲル化剤を添加すると発酵乳が崩れにくくなる一方、発酵乳本来の滑らかな食感が失われる問題があった。
【0004】
上記の問題を解決するために発酵乳を製造する際に、酵素を添加する方法が提案されている(例えば、特許文献1、2)。特許文献1にはパーオキシダーゼを使用する方法、特許文献2にはトランスグルタミナーゼを使用する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3145829号
【特許文献2】特許第3182954号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、パーオキシダーゼを添加して発酵乳を製造すると、滑らかさや保水性の向上が図られると共に、硬度が低下することが記載されている。
特許文献2には、トランスグルタミナーゼを添加して発酵乳を製造すると、トランスグルタミナーゼの酵素作用により乳タンパク質間及び乳タンパク質内(分子間及び分子内)のネットワークが形成(ゲル化)されることが記載されている。特許文献2には、得られた発酵乳の硬度について記載はないが、上記のトランスグルタミナーゼの作用機序からすると、発酵乳の硬度が増大することが推測される。
【0007】
特許文献1又は2の発明によって、発酵乳の硬度を低下又は増大させることが期待される。しかしながら、いずれの酵素も発酵乳の硬度を低下させるだけであるか、又は増大させるだけであるにすぎない。従来の技術では、1つの酵素によって、発酵乳本来の滑らかさを維持した上で、発酵乳の硬度を所望の値に調節することは困難であった。
【0008】
そこで、本発明は、発酵乳製品本来の滑らかさを維持した上で、発酵乳製品の硬度を所望の値に調節することができる発酵乳製品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、特定のプロテアーゼを乳に添加して発酵することにより、発酵乳製品のカードの硬度を調節することができ、またその内部がより均一でなめらかとなることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
従って、本発明によれば、
〔1〕 原料乳と、乳酸菌と、を混合し、混合液を得る第1工程と、
前記混合液を発酵させる第2工程と、
を順次行う発酵乳製品の製造方法であって、
上記第2工程が終了する前に、前記原料乳及び/又は前記混合液にペニバチルス属由来のプロテアーゼを添加する工程(プロテアーゼ添加工程)を行うことを特徴とする発酵乳製品の製造方法;
〔2〕 前記原料乳に含まれる乳脂肪分(質量%)と、前記プロテアーゼの添加量(PU/g)との比(前記乳脂肪分:前記プロテアーゼの添加量)が、50:1〜1:10である、前記[1]記載の発酵乳製品の製造方法;
[3] 前記プロテアーゼの添加量が、前記原料乳の全質量を基準として0.05〜10.0PU/gである、前記[1]又は[2]記載の発酵乳製品の製造方法;
[4] 前記原料乳に含まれる乳脂肪分が0〜10質量%である、前記[1]記載の発酵乳製品の製造方法;
[5] 前記原料乳に含まれる無脂乳固形分が3.0〜20質量%である、前記[1]〜[4]記載の発酵乳製品の製造方法;
[6] 前記プロテアーゼが、下記の(1)〜(5)の性質を有することを特徴とする[1]〜[5]のいずれか記載の発酵乳製品の製造方法。
(1)ペニバチルス属に属する細菌により産生され、
(2)中性範囲でκ−カゼイン及びヘモグロビンを分解し、
(3)pH5.5〜9.0で安定であり、至適pHが7.0〜8.0であり、
(4)20〜75℃で作用し、至適温度が50〜60℃であり、
(5)SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動法による分子量が32,000〜34,000Daと推定されるプロテアーゼ;
[7] 更にラクターゼ、グルコースイソメラーゼ、グルコースオキシダーゼ、トランスグルタミナーゼ、リパーゼ、セルラーゼ、アミラーゼ、イヌリナーゼ、ラッカーゼ、パーオキシダーゼ、及び、前記プロテアーゼ以外のプロテアーゼから選択される1種又は複数種を上記原料乳及び/又は上記混合液に添加する工程を含む、前記[1]〜[6]のいずれか記載の発酵乳製品の製造方法;
[8] ペニバチルス属由来のプロテアーゼを含有する発酵乳製品であって、
クリープメータを用いて測定した場合のカードの破断点が、0.002〜1.0Nであることを特徴とする発酵乳製品;
[9] 発酵乳製品の製造方法であって、
原料乳と、乳酸菌と、を混合し、混合液を得る第1工程と、
上記混合液を発酵させる第2工程と、
上記第2工程が終了する前に、上記原料乳及び/又は上記混合液にペニバチルス属由来のプロテアーゼを添加する工程(プロテアーゼ添加工程)と
を含み、
所望の前記発酵乳製品のカード硬さと、原料乳に含まれる乳脂肪分と、ペニバチルス属由来プロテーゼの添加量と、を指標として、当該乳脂肪分と当該プロテアーゼの添加量を決定し、発酵工程を行うことを特徴とする発酵乳製品の製造方法
が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、発酵乳製品の本来のなめらかさを維持した上で、発酵乳製品の硬度を所望の値に調節することができる発酵乳製品及びその製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、パネルAが製造例1及び製造例5のヨーグルト、パネルBが製造例2及び製造例6のヨーグルトについて、クリープメータによる破断強度解析の結果を示す図である。
図2図2は、パネルAが製造例1及び製造例5のヨーグルト、パネルBが製造例2及び製造例6のヨーグルトについて、クリープメータによるテクスチャ解析の結果を示す図である。
図3図3は、製造例3及び製造例7のヨーグルトについてクリープメータによる破断強度解析の結果を示す図である。
図4図4は、製造例3及び製造例7のヨーグルトについてクリープメータによるテクスチャ解析の結果を示す図である。
図5図5は、製造例4及び製造例8のヨーグルトについてクリープメータによる破断強度解析の結果を示す図である。
図6図6は、製造例4及び製造例8のヨーグルトについてクリープメータによるテクスチャ解析の結果を示す図である。
図7図7は、酵素添加量を変化させた場合のクリープメータによる破断強度解析の結果を示す図である。
図8図8は、本発明のプロテアーゼによる発酵反応における発酵時間に対するSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動の経時変化を示す図である。
図9図9は、本発明に好適なプロテアーゼのpH依存性の結果を示す図である。
図10図10は、本発明に好適なプロテアーゼとラクターゼを併用した場合のクリープメータによる破断強度解析の結果及び乳糖分解率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る発酵乳製品の製造方法は、ペニバチルス属由来のプロテアーゼ、乳酸菌スターター及び原料乳を必須的に用い、安定剤等の添加剤を任意で用いる。以下、(1)発酵乳製品の原材料、及びその(2)添加量、(3)発酵乳製品の性質、(4)発酵乳製品の製造方法、(5)用途、の順で説明する。
【0014】
≪発酵乳製品の原材料≫
<中性プロテアーゼ>
本発明において好適に使用することができるプロテアーゼは、以下の性質を有する。
(1)ペニバチルス属に属する細菌により産生され、
(2)中性範囲でκ−カゼイン、ヘモグロビンを分解し、
(3)至適pHは7.0〜8.0であり、
(4)pH5.5〜9.0で安定である中性プロテアーゼであり、
(5)20〜75℃で作用し、至適温度が55℃であり、
(6)電気泳動法による分子量が32,000〜34,000Daと推定される。
ペニバチルス属は旧来バチルス属に分類されていたが、近年再分類され、新たな属として提案された。上記の性質を有するプロテアーゼは、バチルス・ポリミキサから再同定されたペニバチルス・ポリミキサ或いはペニバチルス・エスピーを含む別の種から得ることができる。文献等によっては、バチルス・ポリミキサと表示されている場合があるが、同義である。
【0015】
本発明において使用することができるプロテアーゼは、詳細には、次の性質を有する。
(a)作用
中性プロテアーゼとしての一般的性質を示し、pHの中性範囲でカゼイン、ヘモグロビンなどの蛋白質を分解してペプチド乃至遊離のアミノ酸を生成する。
酸化インシュリンのB鎖に対してはPha(1)−Val(2)、His(5)−Leu(6)、His(10)−Leu(11)、Glu(13)−Ala(14)、Ala(14)−Ler(15)、Ler(15)−Tyr(16)、Tyr(16)−Leu(17)、Leu(17)−Val(18)、Gly(23)−Phe(24)、Phe(24)−Phe(25)、Phe(25)−Tyr(26)及びLys(29)−Ala(30)の12ヶ所のペプチド結合を切断することが確認されている。
(b)基質特異性
κ−カゼインに対し、pHの中性範囲において温和な蛋白分解作用を示す。α−カゼイン及びβ−カゼインに対しては、pHの中性範囲においても蛋白分解作用をほとんど示さない。
(c)至適pH及び安定pH範囲
イ 至適pH:κ−カゼインに対する蛋白分解作用の至適pHは、7.0〜8.0である。
ロ 安定のpH範囲:5.5〜9.0の範囲で極めて安定である。
(d)作用適温の範囲
20℃〜75℃の範囲で作用し、至適温度は50〜60℃である。最適温度は55℃である。
(e)pH、温度などによる失活の条件
pH3.0以下及びpH10.0以上では、活性は完全になくなる。また、65℃、10分間の加熱処理により、完全に失活する。
(f)阻害、活性化及び安定化
エチレンジアミンテトラアセテート(EDTA)、クエン酸、0−フェナンスロリン、2,2−ジピリジル、フッ化ソーダのごとき、金属キレート剤、及びN−ブロモサクシニイミド(NBS)、沃素のごとき酸化剤によって阻害される。
カルシウムイオンにより安定化され、活性には亜鉛イオンが必要である。
(g)分子量
電気泳動法による分子量は、32,000〜34,000Daと推定される。
【0016】
プロテアーゼは、その触媒部位により、以下の5種類に分類される。酸性プロテアーゼ(触媒部位;アスパラギン酸、例;ペプシン)、金属プロテアーゼ(触媒部位;金属)、セリンプロテアーゼ(触媒部位;セリン、例;トリプシン)、システインプロテアーゼ(触媒部位;システインのようなSH基をもつアミノ酸、例えば、パパイン)、及び、これらのうち少なくとも2つを混合した混合型(例えば、アクチナーゼAS)である。本発明で使用するペニバチルス属由来のプロテアーゼは、中性金属プロテアーゼに分類される。後述するように、中性プロテアーゼの場合、発酵によって乳のpHが低下することで失活するため、本発明を使用した乳製品中においてプロテアーゼは失活している状態となる。
【0017】
本発明のプロテアーゼはエンド型の中性金属プロテアーゼである。エンド型のプロテアーゼは、タンパク質を大まかに分解し、低分子化する作用を有する。乳タンパク質にプロテアーゼを作用させると、多くの場合において、苦味を呈する。しかし、上記の本発明に係るプロテアーゼを乳タンパク質に作用させても苦味は生じず、味や匂いに対して影響しない。
【0018】
牛乳カゼインの一成分であるκ−カゼイン(カッパーカゼイン)は、カゼインミセル形成のうえで重要な役割を果たしている。上記のプロテアーゼは、特にこのκ−カゼインを特異的に分解し、他のカゼインタンパクには構造上の大きな変化を与えることなく、得られた発酵乳製品の食感(なめらかさ)を改善することができる。
【0019】
(原料生物の種類)
プロテアーゼは、微生物を含む、非常に広範囲の生物から単離されている。好ましいプロテアーゼは、価格や反応性の面から微生物由来プロテアーゼである。例えば、このようなプロテアーゼとしては、バチルス(Bacillus)属又はペニバチルス属(paenibacillus)、ジオバチルス属(Geobacillus)、アスペルギルス(Aspergillus)属、リゾプス属(Rhizopus)、リゾムコール属(Rhizomucor)ストレプトマイセス属(Streptomyces)に属する微生物由来のプロテアーゼ、乳酸菌由来のプロテアーゼなどが挙げられる。本発明の酵素として使用できるプロテアーゼは、ペニバチルス属(paenibacillus)由来のプロテアーゼであり、具体的には、好ましいプロテアーゼは、Paenibacillus polymyxa、Paenibacillus macerans、Paenibacillus pabuli、Paenibacillus peoriae、Paenibacillus thiaminolyticus、Paenibacillus validus、Paenibacillus glucanolyticus、Paenibacillus kobensis、Paenibacillus lautus、Paenibacillus alginolyticus、Paenibacillus alvei、Paenibacillus amylolyticus、Paenibacillus chitinolyticus、Paenibacillus chondroitinus、Paenibacillus curdlanolyticus、Paenibacillus durus、Paenibacillus ehimensis、Paenibacillus sp.からなる群から選択される微生物(細菌)に由来するプロテアーゼである。
【0020】
酵素は、精製酵素、半精製酵素、粗製酵素、破砕菌体(好ましくは凍結乾燥品)などのいずれの形態でもよく、κ−カゼインの分解作用を有していればよいが、κ−カゼインを分解する多くのプロテアーゼは苦味や異味を生じやすいという理由から、ペニバチルス(Paenibacillus)属、特にPaenibacillus polymyxa、又は、16S rDNAの相同性がPaenibacillus polymyxaの配列と比較して98%以上であるPaenibacillus属に属する微生物(細菌)、に由来する前述の性質を有する金属プロテアーゼであることが好ましい。これらの属に由来する金属プロテアーゼは、乳に添加した場合であっても、乳に含まれるκ−カゼインを分解する作用を有し、かつ、処理乳に苦味や異味が生じない。
【0021】
本発明に好適な金属プロテアーゼは、発酵乳製品の一般的な醗酵温度である43℃において、アゾカゼインを基質としてpH4.5で、1時間反応させた場合の残存活性が10%以下である。当該性質により、醗酵調製物に当該プロテアーゼ活性が残存せず、保存時に、当該プロテアーゼが醗酵調製物に悪影響を与えないことが可能となる。
【0022】
(金属プロテアーゼの製法)
本発明に使用される金属プロテアーゼは、従来の一般的な方法で微生物から回収され、精製されたものであることができる。従って、当該プロテアーゼの生産は、遺伝子組換え又は非遺伝子組換えによって実施することができる。例えばPaenibacillus polymyxa NBRC 15309株をDifco社製ニュートリエント培地等で培養し、培養物からろ過又は遠心した培養上清として得ることができる。また、得られた培養上清液をカラムクロマトグラフィーや硫安分画などによって適宜精製して用いることもできる。得られた酵素液の形状は液状の他、スプレードライや凍結乾燥により粉末状にしても良い。その際には日常的に用いられる安定剤や賦形剤を添加しても良い。
【0023】
(金属プロテアーゼの添加量)
金属プロテアーゼは、原料乳の全質量を基準として、0.05〜10.0PU/gの範囲で添加することが好適である。より好適には0.25〜5.0PU/gの範囲で添加することができる。本範囲内であれば、発酵乳製品のカード内部の硬さのムラが減少し、食感がなめらかになるからである。また、その添加量を変化させることにより、カード内部の硬さを変化させ、調節することが可能となる。例えば、比較的乳脂肪分の高い原料乳(例えば、1.5%超5.0%以下)に対し、4.0PU/gのプロテアーゼを添加しても、カードの形状を保つことができるため、後発酵タイプの発酵乳製品に好適に使用でき、更に、0.25PU/g以上添加することにより、カードにより十分な柔らかさを付与できる。他方、低脂肪乳や無脂肪乳(例えば、1.5%以下)に対しては、本発明のプロテアーゼを添加することで、カードの適度な硬さを付与することが可能となる。即ち、所望のカード硬さの発酵乳製品を得るためには、原料乳に含まれる乳脂肪分と、ペニバチルス属由来プロテーゼの添加量と、を指標として、当該乳脂肪分と当該プロテアーゼの添加量を決定し{例えば、ある乳脂肪分の原料乳に対し、事前にプロテアーゼの添加量を振って検討し、当該添加量を決定する(検量線等を作成して決定する)}等として、発酵工程を行えばよい。
【0024】
上記の金属プロテアーゼの添加量(酵素量)は、以下の方法により定義される酵素量1.0PUに基づいて酵素質量当たりの酵素活性として算出することができる。0.6%カゼイン水溶液(pH7.5、2mM酢酸カルシウム含有50mMトリス塩酸緩衝液)に酵素希釈液1mLを添加し、30℃で10分間反応後、トリクロロ酢酸試薬(pH4.0、1.8%無水酢酸ナトリウム、1.8%トリクロロ酢酸、1.98%酢酸)5mLを加えて反応を停止し、更に30℃で30分静置し、濾過後、275nmの吸光度を測定する。この条件下で1分間に1μgのチロシンに相当するアミノ酸を遊離する酵素量(酵素活性)を1PU(Protease Unit)と定義する。
【0025】
<乳酸菌スターター>
本発明の乳製品は、その製造方法において乳酸菌スターターを用いる。本発明において、使用する乳酸菌としては、特に限定はされないが、例えば、Lactobacillus.delbrueckii subsp. bulgaricus, Streptococcus thermophilus,Lactobacillus casei,Lactobacillus paracaseiなど従来使用されている乳酸菌が使用できる。これら乳酸菌スターターの入手方法としては、一般に流通している市販品を購入することができるし、独自に分離した菌株を使用することもできる。尚、同一種の乳酸菌を複数組み合わせて使用しても、或いは、異なる種の乳酸菌を複数組み合わせて使用してもよい。また、スターターと同時にビフィズス菌などのプロバイオティクス菌を同時に添加して使用してもよい。
【0026】
(乳酸菌スターターの添加量)
乳酸菌スターターの添加量としては、特に限定はされない。一般的な量を添加することができる。例えば、クリスチャン・ハンセン社凍結乾燥スターターを使用する場合、原料乳を基準として、0.1〜0.5mg/gであるが、乳酸菌の生育が可能な添加量であれば、添加量は特に限定されない。
【0027】
<原料乳>
原料乳としては、特に限定されないが、生乳、原乳、全脂乳、脱脂乳、ホエイ、バターなどの乳成分を含む液体及び粉末の溶解液であり、これらを組み合わせて使用することができる。
【0028】
原料乳に含まれる乳脂肪分は、0〜10質量%であることが好ましい。より好ましくは、0.1〜5.0質量%であり、更に好ましくは、1.0〜5.0質量%である。中性プロテアーゼの存在下において、乳脂肪分が低くなるほど、発酵乳製品の硬度が増大する傾向にある。中性プロテアーゼの存在下において、乳脂肪分が高くなるほど、発酵乳製品の硬度を低下させることができる。原料乳に含まれる乳脂肪分は、乳の種類によって異なるが、バター等を添加することによって乳脂肪分を調節することが可能である。
【0029】
原料乳に含まれる無脂乳固形分は、3.0〜20質量%であることが好ましい。
下限値未満でも上限値超でも、発酵乳製品の滑らかさが不足するおそれがある。下限値未満では発酵乳製品が固まり難く、上限値超では発酵乳製品が固まりすぎてしまう可能性がある。また、本発明の乳製品は、固形物(例えば、チーズ)及びゲル状の物(例えば、ヨーグルト)に限定されず、液体状及びゾル状の物(例えば、ドリンクタイプのヨーグルト)も含まれるが、その場合、上記無脂乳固形分は、下限値(3.0%)未満であってもよい。無脂乳固形分には、カゼインを主成分とするタンパク質、乳糖を主成分とする糖、各種無機塩を主成分とする塩類等が含まれる。
【0030】
原料乳に含まれる乳脂肪分(質量%)とペニバチルス属由来のプロテアーゼの添加量(PU/g)との比(前記乳脂肪分:前記プロテアーゼの添加量)が、50:1〜1:10であることが好ましい{即ち、乳脂肪分(質量%)をaとし、プロテアーゼの添加量(PU/g)をbとした場合、a/b(質量%・g/PU)が50〜0.1となる}。また、当該比の値とプロテアーゼの添加量による硬度変化は、当該比が相対的に高い程、無添加の発酵乳製品と比較して、当該プロテアーゼの添加により、発酵乳製品の硬度が下がる(柔らかくなる)傾向にある。他方、当該比が相対的に低い程、無添加の発酵乳製品と比較して、当該プロテアーゼの添加により、発酵乳製品の硬度が上がる(硬くなる)傾向を示す。
【0031】
<任意成分>
本発明の乳製品の製造方法には、必要に応じ、各種成分を添加することができる。具体例としては、乳製品の安定化に寄与する金属塩類、各種糖類、アスコルビン酸、グリセリン等、使い勝手をよくするための賦形剤である澱粉、デキストリン、緩衝作用を有する無機塩類、乳由来成分である乳糖、乳清、乳タンパク類、ゲル化剤である寒天、ゼラチン、ペクチン等を挙げることができる。
【0032】
(ラクターゼ)
本発明の乳製品の製造方法においては、ラクターゼ溶液等のラクターゼ製品を添加することもできる。このラクターゼ溶液等は、特に限定されず、市販の製品を用いることができる。
【0033】
(他酵素)
本発明の乳製品の製造方法においては、液状、粉末状等の各種酵素製品を添加することもできる。この酵素製品は特に限定されないが、例えば、グルコースイソメラーゼ、グルコースオキシダーゼ、トランスグルタミナーゼ、リパーゼ、セルラーゼ、アミラーゼ、イヌリナーゼ、第2のプロテアーゼから選択される1種又は複数種であり、市販の製品を用いることができる。
【0034】
第2のプロテアーゼとしては、バチルス(Bacillus)属、ジオバチルス属(Geobacillus)、アスペルギルス(Aspergillus)属、リゾプス属(Rhizopus)、リゾムコール属(Rhizomucor)ストレプトマイセス属(Streptomyces)に属する微生物由来のプロテアーゼ、乳酸菌由来のプロテアーゼなどを使用できる。具体的には、好ましいプロテアーゼは、Bacillus licheniformis、Bacillus subtilis、Bacillus amyloliquefaciens、Bacillus sp.、Geoacillus caldoproteolyticus、Aspergillus sp.、Aspergillus oryzae、Aspergillus melleus、Lactobacillus helveticus、Lactobacillus bulgaricus及びStreptococcus thermophilusからなる群から選択される微生物に由来するプロテアーゼである。
【0035】
≪乳製品の性質≫
<食感の評価>
本発明の発酵乳製品の有する食感(なめらかさ、粘性)、硬度の評価(破断強度解析)については、株式会社山電社製、クリープメータ(RE2−33005C)を使用した物性値に基づいて行うことができる。
【0036】
(なめらかさ)
食感における「なめらかさ」については、クリープメータによる波形の直線性に基づき、評価をすることができる。より波形に乱れがない(直線に近い)ことにより、食感として、よりなめらかであるといえる。
【0037】
(粘性)
粘性(糸引き性:テクスチャ解析)については目視及び後述するプランジャー上昇時の接線の傾きで評価できる。接線の傾きがより小さくなれば、発酵乳製品がより粘性を有し、より濃厚感を有し、発酵乳製品に口中でよりまとまる感覚を付与できると考えられる。
【0038】
(硬度)
本発明の発酵乳製品のカードの硬度としては、後述する破断強度解析により、評価することができる。具体的な物性値として、カードをくずさずクリープメータによりプランジャーを押し下げた場合に、カードが崩れる時点の荷重(N)を「破断点」(クリープメータにより自動計算される値)として、その硬度を評価することが可能である。本発明の発酵乳製品の硬度としては、所望の硬さに調節可能であり、特に限定されないが、例えば、好ましい硬度(破断点)として、0.002〜1.0Nであり、より好ましくは、0.005〜0.5Nである。
【0039】
(発酵によるタンパク質のSDS−PAGEの変化)
本発明の金属プロテアーゼを含む原料乳を発酵させた場合に、その前後においてκ−カゼイン以外の乳タンパクの変化が最小限であることが好適である。味や風味等を変化させることなく食感を改善させることが可能となるからである。このことは、発酵前後の発酵物をSDS−PAGEに供し、その表れる各バンドの変化によって確認できる。
【0040】
ここで、各バンドの画分の割合は、SDS−PAGEに供した泳動後のゲルを乾燥後、EPSON社製スキャナGT‐X820でグレースケールの画像として取り込み、ImageJソフトウェア(NIH,Bethesda,MD)により、各バンドの濃度(タンパク量)を測定することで算出することができる。
【0041】
本発明では、本発明に係る金属プロテアーゼを原料乳に添加後、20〜60℃において、5時間発酵後の、SDS‐PAGE電気泳動による約25kDa以外のバンドの画分が、発酵前と比較して、大きく変動しないことが好ましい。このような特性により、発酵乳製品のカード硬さやなめらかさ等を調整しながら、その他の本来の風味等を酵素処理により損なうことを防ぐことができると推定される。尚、SDS‐PAGE電気泳動による各バンドの分子量は公知の方法により算出することができ、各バンドエリアの分子量範囲についても、同様に公知の方法により算出することができる。
【0042】
≪乳製品の製造方法≫
本発明の乳製品の製造方法は、原料乳と、乳酸菌と、を混合し、混合液を得る第1工程と、混合液を発酵させる第2工程と、を順次行い、第2工程が終了する前に、前記原料乳及び/又は前記混合液にペニバチルス属由来のプロテアーゼを添加する工程(プロテアーゼ添加工程)を含むものであればよく、具体的な製造方法は特に限定されない。例えば、乳製品が発酵乳である場合には、その製造方法は(1)牛乳に乳酸菌スターターと金属プロテアーゼを所定の濃度で同時に添加する、(2)43℃で10〜15分間程度撹拌する、(3)得られた混合液をガラス容器に分注し、43℃で5時間発酵させる、(4)得られた発酵調整物は1日以上4〜5℃で冷蔵保存する、等の工程を含むものである。
【0043】
≪乳製品の用途≫
前発酵タイプはドリンクタイプやフルーツヨーグルト等に用いることができる。後発酵タイプはプレーンヨーグルト等に用いることができる。また、ラクターゼの活性に影響を与えないため、ラクターゼを添加した乳製品とすることも可能である。
【実施例】
【0044】
以下、実施例及び比較例によって、本発明を説明するが、本発明は実施例、比較例に限定されるものではない。
【0045】
≪発酵乳製品の製造≫
<製造例1>
(材料)
牛乳:明治おいしい牛乳(乳脂肪分3.8±0.3質量%、無脂乳固形分8.6±0.3質量%)
中性プロテアーゼ:Paenibacillus polymyxa NBRC 15309株をDifco社製ニュートリエント液体培地に植菌し、30℃で2日間培養した培養液を10000gで10分間遠心した上清を透析によって脱塩して用いた。尚、当該プロテアーゼは、前述の(a)〜(g)の性質を有するものであった。
乳酸菌スターター:乳酸菌粉末FD−DVS YF−L812 Yo−Flex(クリスチャン・ハンセン社製:Lactobacillus.delbrueckii subsp.及びStreptococcus.thermophilusの混合である)。
(製造方法)
牛乳450gを滅菌済みガラス容器に入れ、乳酸菌スターターYF−L812と中性プロテアーゼを同時に添加した。スターター添加濃度は原料乳を基準として0.1mg/g、中性プロテアーゼ添加濃度は1.0(PU/g)とした。スターター、中性プロテアーゼを添加した牛乳は、恒温水槽中において43℃で10〜15分程度撹拌した。続いて、ガラス容器(ダイソー社製、220ml)に分注し、43℃で5時間醗酵した。醗酵調製物は1日以上冷蔵保存(4〜5℃)し、製造例1のヨーグルトを得た。
【0046】
<製造例2>
乳酸菌スターターをFD−DVS YC−380 Yo−Flex(クリスチャン・ハンセン社製:Lactobacillus.delbrueckii subsp.及びStreptococcus.thermophilusの混合である。)とした以外は、製造例1と同様にして、製造例2のヨーグルトを得た。
【0047】
<製造例3>
牛乳を低脂肪牛乳(UHT殺菌牛乳:明治おいしい低脂肪乳 乳脂肪分1.2質量%、乳固形分11±1.0質量%)とした以外は、製造例1と同様にして、製造例3のヨーグルトを得た。
【0048】
<製造例4>
牛乳を無脂肪乳(UHT殺菌牛乳:小岩井無脂肪牛乳 乳脂肪分0.1質量%、乳固形分8.8±0.2質量%)とした以外は、製造例1と同様にして、製造例4のヨーグルトを得た。
【0049】
<製造例5>
中性プロテアーゼを添加しなかった以外は、製造例1と同様にして、製造例5のヨーグルトを得た。
【0050】
<製造例6>
中性プロテアーゼを添加しなかった以外は、製造例2と同様にして、製造例6のヨーグルトを得た。
【0051】
<製造例7>
中性プロテアーゼを添加しなかった以外は、製造例3と同様にして、製造例7のヨーグルトを得た。
【0052】
<製造例8>
中性プロテアーゼを添加しなかった以外は、製造例4と同様にして、製造例8のヨーグルトを得た。
【0053】
≪評価≫
<試験例1(食感についての物性評価)>
(破断強度解析)
製造例1(実施例)及び製造例2(実施例)のヨーグルト並びに製造例5(比較例)及び製造例6(比較例)のヨーグルトについて、物性の測定を行った。物性の測定は、山電社製のクリープメータ(RE2−33005C)を使用して行った。破断強度解析は、カードを崩さずに行った。結果を図1に示す。破断強度解析においては、プランジャーの圧入速度を1mm/s、サンプル厚さを47mm、プランジャ形状を径16mmの丸型、測定歪率を40%、ロードセルの規格を2Nに設定した。
【0054】
図1に示されるように、中性プロテアーゼを添加するとカードの硬さが減少する。酵素無添加の場合、カード内部の硬さにムラがある(実線の凸凹波形)ことが分かる。一方、中性プロテアーゼを添加するとカード内部の硬さのムラが減少し(点線の波形)、食感がなめらかになると解される。
【0055】
(テクスチャ解析)
テクスチャ解析は、スプーンで十分に撹拌してカードを崩し、専用カップに入れて測定した。テクスチャー解析においては、プランジャーの圧入速度を5mm/s、サンプル厚さを15mm、プランジャ形状を径16mmの丸型、測定歪率を66.66%、ロードセルの規格を2Nに設定した。この設定により、テクスチャー解析では、プランジャーをカード内に10mm挿入し、続いてプランジャーを上昇させ、プランジャーへの荷重変化が測定された。結果を図2に示す。プランジャーの挿入により増加した荷重は、プランジャーの上昇に伴いマイナス値を示し、プランジャーがカードの界面から離れると、糸引き様となった。中性プロテアーゼを添加した場合、酵素無添加と比較して付着性(荷重ゼロ以下の面積)が減少しているが、糸引き様の粘性が増加した。糸引き様の粘性は、プランジャーが上昇する際に逆に引っ張られるために荷重の上昇がなだらかになり、波形に接線を引いた場合、酵素無添加の接線(接線1及び接線3、実線)と比較して中性プロテアーゼ添加の接線(接線2及び接線4、破線)の傾きが小さくなる。接線の傾きは、エクセル(登録商標)を使用して以下のように求めた。波形の荷重が最少となった点より歪率14%の範囲で近似直線を引き、得られた近似直線より接線の傾きを求めた。詳細を表1に示す。この粘性のため食感は口中でまとまる感覚があり、濃厚かつなめらかになった。
【0056】
【表1】
【0057】
<試験例2(低脂肪乳における食感についての物性評価)>
(破断強度解析)
製造例3(実施例)、及び製造例7(比較例)のヨーグルトについて、試験例1と同様にして、破断強度解析を行った。結果を図3に示す。
【0058】
図3に示されるように、中性プロテアーゼを添加するとカードの硬さが増加した。酵素無添加(製造例7)の場合、カード内部の硬さにムラがある(実線の凸凹波形)ことが分かる。一方、中性プロテアーゼを添加するとカード内部の硬さのムラが減少し(点線の波形)、食感がなめらかになると解される。
【0059】
(テクスチャ解析)
テクスチャ解析を試験例1と同様に行った。結果を図4に示す。中性プロテアーゼを添加した場合、酵素無添加と比較して付着性(荷重ゼロ以下の面積)は増加し、表にはしていないが、接線の傾きは減少し、糸引き様の粘性が増加した。この粘性のため食感は口中でまとまる感覚があり、濃厚かつなめらかになった。
【0060】
<試験例3(無脂肪乳における食感についての物性評価)>
(破断強度解析)
製造例4(実施例)及び製造例8(比較例)のヨーグルトについて、試験例1と同様にして、破断強度解析を行った。結果を図5に示す。
【0061】
図5に示されるように、中性プロテアーゼを添加するとカードの硬さが増加した。酵素無添加(製造例8)の場合、カード内部の硬さにムラがある(実線の凸凹波形)ことが分かる。一方、中性プロテアーゼを添加するとカード内部の硬さのムラが減少し(点線の波形)、食感がなめらかになると解される。
【0062】
(テクスチャ解析)
テクスチャ解析を試験例1と同様に行った。結果を図6に示す。中性プロテアーゼを添加した場合、酵素無添加(製造例8)と比較して付着性(荷重ゼロ以下の面積)が増加した。表にはしていないが、接線の傾きは殆ど変化がなかったが、硬さと付着性の増加により、官能評価の結果、食感は口中でまとまる感覚があり、濃厚かつなめらかになった。
【0063】
<試験例4(濃度依存性)>
テクスチャ改変効果が見られる本発明の中性金属プロテアーゼの添加濃度を製造例1の発酵乳について添加濃度を変えて(0.05、0.10、0.25、1.0、2.0及び4.0PU/g)検討した。破断強度解析は、カードを崩さずに行った。結果を図7に示す。0.25PU/g以上の中性プロテアーゼを添加するとカードの硬さが減少する。4.0PU/gの中性プロテアーゼを添加してもカードの形状を保っており、後醗酵タイプの醗酵乳に使用可能であると考えられた。酵素無添加の場合、カード内部の硬さにムラがある(太実線の凸凹波形)が、0.05PU/g以上の中性プロテアーゼを添加するとカード内部の硬さのムラが減少し、食感がなめらかになると解される。
【0064】
<試験例5(食感についての官能試験)>
被験者10人について、中性プロテアーゼを添加したヨーグルト(製造例1)と無添加のヨーグルト(製造例5)について、以下の評価基準に基づいて、次の4つの基準において官能試験を行った。その結果を表2に示す。
【0065】
(評価基準)
評価基準としては、ヨーグルトの食感を、なめらかさ、口当たり、風味、濃厚感の4つの評価項目に分け、4段階の評価(とても良い=3点、良い=2点、普通=1点、悪い=0点)とし、平均点(○=2〜3点、△=1〜2点、×=0〜1点)を算出した。
【0066】
【表2】
【0067】
<試験例6(発酵前後のSDS‐PAGEにおけるバンドの変化)>
(発酵方法)
製造例1と同様に中性プロテアーゼの添加濃度を1.0PU/gとして43℃で10〜15分程度撹拌した後に、15mL容遠沈管に分注し、43℃で5時間発酵した。発酵前、発酵1、2、3、4及び5時間後の発酵液について、発酵過程のタンパク質変化を下記の方法に従い、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動により解析した。
【0068】
(SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動)
上記得られた発酵溶液を超純水で20倍に希釈し、SDS−PAGE用Sample Buffer(0.125M Tris-HCl pH6.8、0.0125% ブロモチモールブルー、20% グリセリン、2.5% SDS、2.5% 2-メルカプトエタノール)と1:1に混合し、95℃、5分間の加熱処理により泳動用サンプルを調製した。12.5%アクリルアミドゲル(4%スタッキングゲル、ゲル厚1mm、泳動距離50mm)に分子量スタンダード及び泳動用サンプルを供し、マリソル産業泳動漕にて、スタッキング10mA定電流、セパレーティング20mAにて泳動前線がゲル下端付近に達するまで泳動した。分子量スタンダード(レーンM)にはBIO−RAD#161−0313(プレステインド)を使用した。泳動後のゲルは、CBB染色液(APRO SP−4010)によるタンパク染色を1時間行った。泳動結果を図8に示す。また、ImageJによるバンドの解析結果を表3に示す。
【0069】
尚、表3に示すImageJによるバンドの解析結果におけるバンドエリアA(100〜40kDa)、バンドエリアB(33〜26kDa)、バンドエリアC(26〜23kDa)、バンドエリアD(20〜18kDa)、バンドエリアE(16.5〜15kDa)、バンドエリアF(14〜10kDa)は、泳動結果を示した図8右に示したA〜Fのバンドに対応している。
【0070】
【表3】
【0071】
発酵開始1時間目より、κ−カゼインのバンド{約25kDa(バンドエリアC)}が特異的に消失し、バンドエリアD及びFのバンドが増加した。醗酵開始2時間目以降、各バンドエリアの濃度に大きな変化はみられず、その他の乳由来タンパクの濃度は、発酵5時間後においても大きな変化が見られなかった。従って、本発明の製造方法によれば、食感以外には、乳の性質を大きく変化させることなく、その食感を改善させることができることが推認される。
【0072】
<試験例7(pH変化に伴うプロテアーゼ活性の変化)>
中性プロテアーゼのpH安定性試験を行った。中性プロテアーゼを50mM MES、1mM 酢酸Ca含有(pH6.5)で約1,000 PU/mLに希釈し、希釈後に1N塩酸でpH調製を行い、43℃、1時間加温した。プロテアーゼを測定し、pH未調整未加熱のサンプルを100%とした時の残存活性を求めた。プロテアーゼ活性は以下のように測定した。50mM MES、1mM 酢酸Ca含有(pH6.5)にAzocasein(SIGMA A2765)を5%に溶解し、基質とした。100 μLの5% Azocaseinに300 μLの50mM MES、1mM 酢酸Ca含有(pH6.5)及び100 μLの希釈酵素液を添加し、43℃、30分反応した後に、500 μLの10% トリクロロ酢酸により反応を停止した。遠心上清に等量の1N NaOHを添加して混合し、OD428nmの吸光度を測定した。結果を図9に示した。発酵乳の一般的な醗酵温度である43℃において、中性プロテアーゼはpH4.5、1時間で失活した。従って、醗酵調製物に中性プロテアーゼ活性が残存せず、保存時に、中性プロテアーゼが醗酵調製物に悪影響を与えないことが予想される。
【0073】
<試験例8(中性プロテアーゼとラクターゼ溶液の併用)>
中性プロテアーゼとラクターゼ溶液との併用について、食感の変化、及び、ラクターゼによる乳糖分解率への影響について検討した。製造例1と同様に、スターター添加濃度は0.1mg/g、中性プロテアーゼ添加濃度は1PU/gとし、ヨーグルトを製造した。上述した破断強度解析と同様に柔らかさ及びカード内部のムラ(なめらかさ)について検討した。結果を図10のパネルAに示す。尚、スターター、中性プロテアーゼを添加した牛乳は、43℃で10〜15分程度撹拌した後にガラス容器に分注し、43℃で5時間醗酵した。醗酵調製物は1日以上冷蔵保存し、物性測定を行った。破断強度解析は、カードを崩さずに行った。結果を図10のパネルBに示す。
【0074】
中性プロテアーゼはプロテアーゼであるにもかかわらず、ラクターゼと同時に添加した時に、ラクターゼの効果を打ち消すことはなく、乳糖分解による乳糖不耐症防止効果や甘味向上効果が期待できる。一方、ラクターゼも中性プロテアーゼの効果を打ち消さないので、なめらかな醗酵乳を製造可能であるといえる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10