(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記検索用軸値取得手段は、実吸入空気量がサチュレーションしない低負荷領域では、要求トルクの大きさにかかわらず、実吸入空気量に応じた値を検索用軸値として取得することを特徴とする請求項1に記載のエンジン制御装置。
前記エンジンデバイスは、燃料を噴射するインジェクタ、混合気に点火する点火プラグ、及び、排気ガスの吸気系への還流量を調節する排気ガス再循環バルブのうち、少なくともいずれか1つを含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のエンジン制御装置。
前記デバイス制御マップは、エンジン回転数と前記検索用軸値とインジェクタの目標燃料噴射量・目標噴射時期との関係を定めたマップ、エンジン回転数と前記検索用軸値と点火プラグの目標点火時期との関係を定めたマップ、及び、エンジン回転数と前記検索用軸値と排気ガス再循環バルブの目標バルブ開度との関係を定めたマップのうち、少なくともいずれか1つを含み、
前記制御目標値取得手段は、エンジン回転数と前記検索用軸値とを用いて前記マップを検索することを特徴とする請求項4に記載のエンジン制御装置。
【背景技術】
【0002】
従来から、エンジンの制御では、運転状態(例えば、エンジン回転数、吸入空気量、アクセル開度等々)を各種センサで検出し、そのセンサ値(入力値)を用いて、予め設定されて記憶されているマップ、すなわち、センサ値と制御目標値との関係を定めたマップ(ルックアップテーブル)を検索することにより、エンジンの制御目標値(例えば、目標燃料噴射量や目標点火時期、目標スロットル開度等々)を求める手法が広く用いられている。
【0003】
空気過剰率λが1.0の近傍、すなわちストイキオメトリ(以下、単に「ストイキ」という)領域でエンジンを制御するストイキ制御では、例えば、インジェクタの目標燃料噴射量や点火プラグの目標点火時期などの制御目標値を定める際に、実吸入空気量(負荷軸のパラメータ)とエンジン回転数とを軸として、各制御目標値を定めたマップ(ルックアップテーブル)が検索され、各制御目標値が取得される。
【0004】
一方、例えばポンピングロスを低減して燃料消費率を低減させるために、空気過剰率λが1.0よりも大きい領域(すなわち、燃料量に対して空気量が過剰な領域)でエンジンを制御するリーンバーン(希薄燃焼)制御も行われている。リーンバーン制御では、高負荷運転領域において、吸入空気量がサチュレーションする運転領域、すなわち、吸入空気量が変化しない運転領域が生じる。そのため、リーンバーン制御では、実吸入空気量をマップの検索軸として用いることは適切ではない。
【0005】
これに対して、特許文献1には、アクセルペダルの操作量から求められる目標トルク(要求トルク)に基づいてエンジンを制御する技術(内燃機関の制御装置)が開示されている。この特許文献1の制御装置は、アクセルペダル操作量センサによりアクセルペダルの操作量を検出し、この検出値を基にして機関が発生すべき目標トルク量を算出し、この目標トルク量になるように、必要空気量、必要燃料量、要求点火時期、ISC弁開度等の内燃機関の制御量を決定し、決定した制御量により、電子制御スロットル、インジェクタ、イグナイタ、及び、ISC制御弁を制御する。より詳細には、特許文献1の制御装置では、例えば、目標トルクTrqから要求燃料量Gfを算出する際に、予め目標トルクと機関回転数および目標空燃比などに関連したデータをマップの形でROMに記憶しておき、このマップを利用して要求燃料量Gfを算出する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、特許文献1の制御装置によれば、運転者のアクセルベダルの操作量に基づいて目標トルクを決定し、この目標トルクになるように吸入空気量、燃料噴射量、及び点火時期を定めることができる。しかしながら、空気(外気)の温度や圧力(気圧)によって空気の密度が変わるため、アクセルペダルの開度が同一すなわち目標トルク(要求トルク)が同一であっても、エンジンに吸入される実際の空気量(すなわち空気の質量)が異なることがある。すなわち、目標トルク(要求トルク)と実空気量とが一致しない場合が生じ得る。そのため、目標トルク(要求トルク)に基づいてマップを検索してエンジン制御すると、運転条件によってはエンジンの制御精度が落ちる場合がある。
【0008】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、リーンバーン(希薄燃焼)におけるエンジンの制御精度を向上することが可能なエンジン制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るエンジン制御装置は、エンジンに吸入される実吸入空気量を検出する空気量検出手段と、アクセルの操作量に応じて運転者の要求トルクを取得する要求トルク取得手段と、空気過剰率が1.0よりも大きいリーンバーン領域において、要求トルクの増加に対して実吸入空気量が増加する領域では、実吸入空気量に応じた値をデバイス制御マップの検索に用いる検索用軸値として取得し、要求トルクの増加に対して実吸入空気量が増加しない領域では、要求トルクに応じた値を検索用軸値として取得する検索用軸値取得手段と、リーンバーン領域における、検索用軸値とエンジンデバイスの制御目標値との関係を定めたデバイス制御マップを記憶する記憶手段と、検索用軸値取得手段により取得された検索用軸値を用いて記憶手段に記憶されているデバイス制御マップを検索してエンジンデバイスの制御目標値を取得する制御目標値取得手段とを備えることを特徴とする。
【0010】
本発明に係るエンジン制御装置によれば、空気過剰率(λ)が1.0よりも大きいリーンバーン領域(希薄燃焼領域)において、要求トルクの増加に対して実吸入空気量が増加する領域では、実吸入空気量に応じた値がデバイス制御マップの検索に用いる検索用軸値として取得され、要求トルクの増加に対して実吸入空気量が増加しない領域では、要求トルクに応じた値が検索用軸値として取得される。そして、取得された検索用軸値を用いてデバイス制御マップが検索されてエンジンデバイスの制御目標値が取得される。すなわち、実吸入空気量が変化(増大)する領域では要求トルクよりも精度が高い実吸入空気量でマップ検索が行われ、エンジンデバイスが制御されるため、制御精度を向上できる。また、この実吸入空気量を用いた制御領域を実空気量がサチュレーションする境目(限界)まで拡大できるため、制御精度を向上できる。その結果、リーンバーン(希薄燃焼)におけるエンジンの制御精度を向上することが可能となる。
【0011】
特に、本発明に係るエンジン制御装置では、検索用軸値取得手段が、実吸入空気量がサチュレーションしない低負荷領域では、要求トルクの大きさにかかわらず、実吸入空気量に応じた値を検索用軸値として取得することが好ましい。
【0012】
ところで、通常、アクセルペダルが踏み込まれてから実際にエンジンに吸入される空気量が増大されるまでには時間的な遅れが生じる。それに対して、この場合、実吸入空気量がサチュレーションしない低負荷領域では、要求トルクの大きさにかかわらず、実吸入空気量に応じた値が検索用軸値として取得される。そのため、吸入空気量の遅れを考慮することができ、制御精度をより高めることができる。
【0013】
本発明に係るエンジン制御装置では、記憶手段が、リーンバーン領域における、実吸入空気量と要求トルクと検索用軸値との関係を定めた検索用軸値マップを記憶し、検索用軸値取得手段が、空気量検出手段により検出された実吸入空気量、及び、要求トルク取得手段により取得された要求トルクを用いて、記憶手段に記憶されている検索用軸値マップを検索して検索用軸値を取得することが好ましい。
【0014】
この場合、実吸入空気量と要求トルクと検索用軸値との関係を定めた検索用軸値マップが記憶されており、実吸入空気量及び要求トルクを用いて、検索用軸値マップが検索されて検索用軸値が取得される。そのため、それぞれの関係が線形でなくても(非線形であったとしても)、マップを用いて、実吸入空気量と要求トルクとから上述した検索軸値を適切に取得することができる。
【0015】
本発明に係るエンジン制御装置では、上記エンジンデバイスが、燃料を噴射するインジェクタ、混合気に点火する点火プラグ、及び、排気ガスの吸気系への還流量を調節する排気ガス再循環バルブのうち、少なくともいずれか1つを含むことが好ましい。
【0016】
このようにすれば、より適切な軸成分(検索用軸値)で、インジェクタ(燃料量)、点火プラグ(点火時期)、排気ガス再循環バルブ(排気ガス還流量)の制御を行い、燃焼ロバスト性を確保することが可能となる。
【0017】
本発明に係るエンジン制御装置では、上記デバイス制御マップが、エンジン回転数と検索用軸値とインジェクタの目標燃料噴射量・目標噴射時期との関係を定めたマップ、エンジン回転数と検索用軸値と点火プラグの目標点火時期との関係を定めたマップ、及び、エンジン回転数と検索用軸値と排気ガス再循環バルブの目標バルブ開度との関係を定めたマップのうち、少なくともいずれか1つを含み、制御目標値取得手段が、エンジン回転数と検索用軸値とを用いて上記マップを検索することが好ましい。
【0018】
このようにすれば、実吸入空気量と要求トルクとのうち、より適切な軸成分(軸値)を用いて、マップ検索を行い、エンジンデバイスの目標制御値を取得することが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、リーンバーン(希薄燃焼)におけるエンジンの制御精度を向上することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図中、同一又は相当部分には同一符号を用いることとする。また、各図において、同一要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0022】
まず、
図1を用いて、実施形態に係るエンジン制御装置1の構成について説明する。
図1は、エンジン制御装置1の構成、及びエンジン制御装置1が適用されたエンジン10の構成を示す図である。
【0023】
エンジン10は、どのような形式でもよいが、例えば水平対向型の4気筒ガソリンエンジンである。また、エンジン10は、シリンダ内(筒内)に燃料を直接噴射する筒内噴射式のエンジンである。さらに、エンジン10は、ストイキ領域(λ=1)、及び、リーンバーン領域(λ>1)で運転されるエンジンである。エンジン10では、エアクリーナ16から吸入された空気が、吸気管15に設けられた電子制御式スロットルバルブ(以下、単に「スロットルバルブ」ともいう)13により絞られ、インテークマニホールド11を通り、エンジン10に形成された各気筒に吸入される。ここで、エンジン10に吸入される実吸入空気量は、エアクリーナ16とスロットルバルブ13との間に配置されたエアフローメータ14(特許請求の範囲に記載の空気量検出手段に相当)により検出される。また、インテークマニホールド11を構成するコレクター部(サージタンク)の内部には、インテークマニホールド11内の圧力(吸気マニホールド圧力)を検出するバキュームセンサ30が配設されている。さらに、スロットルバルブ13には、該スロットルバルブ13の開度を検出するスロットル開度センサ31が配設されている。
【0024】
シリンダヘッドには、気筒毎に吸気ポート22と排気ポート23とが形成されている(
図1では片バンクのみ示した)。各吸気ポート22、排気ポート23それぞれには、該吸気ポート22、排気ポート23を開閉する吸気バルブ24、排気バルブ25が設けられている。吸気バルブ24を駆動する吸気カム軸と吸気カムプーリとの間には、吸気カムプーリと吸気カム軸とを相対回動してクランク軸10aに対する吸気カム軸の回転位相(変位角)を連続的に変更して、吸気バルブ24のバルブタイミング(開閉タイミング)を進遅角する可変バルブタイミング機構26(特許請求の範囲に記載のエンジンデバイスに相当)が配設されている。この可変バルブタイミング機構26により吸気バルブ24の開閉タイミングがエンジン運転状態に応じて可変設定される。
【0025】
同様に、排気カム軸と排気カムプーリとの間には、排気カムプーリと排気カム軸とを相対回動してクランク軸10aに対する排気カム軸の回転位相(変位角)を連続的に変更して、排気バルブ25のバルブタイミング(開閉タイミング)を進遅角する可変バルブタイミング機構27(特許請求の範囲に記載のエンジンデバイスに相当)が配設されている。この可変バルブタイミング機構27により排気バルブ25の開閉タイミングがエンジン運転状態に応じて可変設定される。
【0026】
エンジン10の各気筒には、シリンダ内に燃料を噴射するインジェクタ12(特許請求の範囲に記載のエンジンデバイスに相当)が取り付けられている。インジェクタ12は、高圧燃料ポンプ(図示省略)により加圧された燃料を各気筒の燃焼室内へ直接噴射する。
【0027】
また、各気筒のシリンダヘッドには、混合気に点火する点火プラグ17(特許請求の範囲に記載のエンジンデバイスに相当)、及び該点火プラグ17に高電圧を印加するイグナイタ内蔵型コイル21が取り付けられている。エンジン10の各気筒では、吸入された空気とインジェクタ12によって噴射された燃料との混合気が点火プラグ17により点火されて燃焼する。燃焼後の排気ガスは排気管18を通して排出される。
【0028】
排気管18の集合部の下流かつ排気浄化触媒20の上流には、空燃比センサ19が取り付けられている。空燃比センサ19としては、排気ガス中の酸素濃度、未燃ガス濃度に応じた信号(すなわち混合気の空燃比に応じた信号)を出力でき、空燃比をリニアに検出することができるリニア空燃比センサ(LAFセンサ)が用いられる。
【0029】
LAFセンサ19の下流には排気浄化触媒20が配設されている。排気浄化触媒20は三元触媒であり、排気ガス中の炭化水素(HC)及び一酸化炭素(CO)の酸化と、窒素酸化物(NOx)の還元を同時に行い、排気ガス中の有害ガス成分を無害な二酸化炭素(CO
2)、水蒸気(H
2O)及び窒素(N
2)に清浄化するものである。
【0030】
排気管18には、エンジン10から排出された排気ガスの一部を、エンジン10のインテークマニホールド11に再循環させる排気ガス再循環装置(以下「EGR(Exhaust Gas Recirculation)装置」という)40が設けられている。EGR装置40は、エンジン10の排気管18とインテークマニホールド11とを連通するEGR配管41、及びEGR配管41上に介装され、排気ガス還流量(EGR流量)を調節するEGRバルブ42(特許請求の範囲に記載のエンジンデバイスに相当)を有している。EGRバルブ42は、エンジン10の運転状態に応じて、後述する電子制御装置50によって開度(EGRSTP)が制御される。
【0031】
なお、
図1には示していないが、エンジン10は、例えば、ターボチャージャなどの過給機を備えていてもよい。ターボチャージャは、排気管18に設けられたタービンと、吸気管15に設けられ、タービンと回転軸で連結されたコンプレッサとを有しており、排気のエネルギーでタービンを駆動することにより、同軸のコンプレッサで空気を圧縮する。なお、その場合、ターボチャージャ(コンプレッサ)で圧縮されて高温になった吸気を熱交換によって冷却するインタークーラを備えることが好ましい。
【0032】
上述したエアフローメータ14、LAFセンサ19、バキュームセンサ30、スロットル開度センサ31に加え、エンジン10のカムシャフト近傍には、エンジン10の気筒判別を行うためのカム角センサ32が取り付けられている。また、エンジン10のクランクシャフト10a近傍には、クランクシャフト10aの回転位置を検出するクランク角センサ33が取り付けられている。ここで、クランクシャフト10aの端部には、例えば、2歯欠歯した34歯の突起が10°間隔で形成されたタイミングロータ33aが取り付けられており、クランク角センサ33は、タイミングロータ33aの突起の有無を検出することにより、クランクシャフト10aの回転位置を検出する。カム角センサ32及びクランク角センサ33としては、例えば電磁ピックアップ式のものなどが用いられる。
【0033】
これらのセンサは、電子制御装置(以下「ECU」という)50に接続されている。さらに、ECU50には、エンジン10の冷却水の温度を検出する水温センサ34、潤滑油の温度を検出する油温センサ35、アクセルペダルの踏み込み量すなわちアクセルペダルの開度を検出するアクセルペダル開度センサ36、及び、車両の速度を検出する車速センサ37等の各種センサも接続されている。なお、例えば、車速センサ37などのセンサ値(検出値)を他の制御ユニットで読み込み、CAN(Controller Area Network)などを介して受信する構成としてもよい。
【0034】
ECU50は、演算を行うマイクロプロセッサ、該マイクロプロセッサに各処理を実行させるためのプログラム等を記憶するEEPROM、演算結果などの各種データを記憶するRAM、バッテリによってその記憶内容が保持されるバックアップRAM、及び入出力I/F等を有して構成されている。また、ECU50は、インジェクタ12を駆動するインジェクタドライバ、点火信号を出力する出力回路、及び、電子制御式スロットルバルブ13を開閉する電動モータ13aを駆動するモータドライバ等を備えている。
【0035】
ECU50では、カム角センサ32の出力から気筒が判別され、クランク角センサ33の出力から回転角速度およびエンジン回転数が求められる。また、ECU50では、上述した各種センサから入力される検出信号に基づいて、吸入空気量、吸気管負圧、アクセルペダル開度、混合気の空燃比、及びエンジン10の水温や油温等の各種情報が取得される。そして、ECU50は、取得したこれらの各種情報に基づいて、燃料噴射量や点火時期、及び、スロットルバルブ13やEGRバルブ42等の各種エンジンデバイスを制御することによりエンジン10を総合的に制御する。
【0036】
特に、ECU50は、リーンバーン(希薄燃焼)におけるエンジン10の制御精度を向上する機能を有している。そのため、ECU50は、要求トルク取得部51、記憶部52、検索用軸値取得部53、及び、制御目標値取得部54を機能的に備えている。ECU50では、EEPROM等に記憶されているプログラムがマイクロプロセッサによって実行されることにより、要求トルク取得部51、記憶部52、検索用軸値取得部53、及び、制御目標値取得部54の各機能が実現される。
【0037】
要求トルク取得部51は、アクセルの操作量(アクセルペダル開度)に応じて運転者の要求トルクを取得する。すなわち、要求トルク取得部51は、特許請求の範囲に記載の要求トルク取得手段として機能する。より具体的には、要求トルク取得部51は、例えば、予めEEPROM等に記憶されている、アクセル操作量(アクセルペダル開度)と要求トルク量との関係を定めたルックアップテーブル(マップ)をアクセルペダル開度に基づいて検索することにより要求トルクを取得する。なお、要求トルクは、アクセルペダル開度に加えて、例えばエンジン回転数や車速等を考慮して求めてもよい。要求トルク取得部51によって取得された要求トルクは検索用軸値取得部53に出力される。
【0038】
記憶部52は、上述したEEPROM等により構成され、空気過剰率λが1.0よりも大きいリーンバーン領域(希薄燃焼領域)における、実吸入空気量と要求トルクとデバイス制御マップの検索に用いる検索用軸値との関係を定めた検索用軸値マップを記憶する。すなわち、記憶部52は、特許請求の範囲に記載の記憶手段に相当する。ここで、実吸入空気量と要求トルクと検索用軸値との関係を定めたマップ(検索用軸値マップ)の一例を
図2に示す。
図2において、横軸(行)は要求トルク(Nm)であり、縦軸(列)は実吸入空気量(g/rev)である。検索用軸値マップでは、要求トルクと実吸入空気量との組み合わせ(格子点)毎に検索用軸値(無次元数)が与えられている。
【0039】
検索用軸値マップでは、空気過剰率λが1.0よりも大きいリーンバーン領域において、要求トルクの増加に対して実吸入空気量が増加する領域では、実吸入空気量に応じた値がデバイス制御マップの検索に用いる検索用軸値として設定される。一方、要求トルクの増加に対して実吸入空気量が増加しない領域(すなわち実吸入空気量がサチュレーションした領域)は、要求トルクに応じた値が検索用軸値として設定されている。また、検索用軸値マップでは、実吸入空気量がサチュレーションしない(すなわち増加する)低負荷領域では、要求トルクの大きさにかかわらず、検索用軸値が一定値(実吸入空気量に応じた値)となるように設定されている。
【0040】
そのため、例えば、
図2中の右斜め下向きの矢印で示されるように、初めは、要求トルクの増大(アクセルペダル開度の増大)に伴ってスロットルバルブ13の開度が増大され、吸入空気量が増えていくことにより、実吸入空気量に応じてマップの値(検索用軸値)が大きくなっていく。そして、その後、要求トルクに対して空気が入らなくなるポイントが出てくるため、そこからは、右方向の矢印で示されるように、要求トルクに応じて、マップの値(検索用軸値)が大きくなっていく。なお、高地や高外気温時には、標準状態よりも空気の密度が小さくなるため、標準状態のとき(実線矢印参照)よりも低い要求トルクにおいて吸入空気量が増大しなくなる(すなわちサチュレーションする)(一点鎖線矢印参照)。逆に、低外気温時には、標準状態よりも空気の密度が大きくなるため、標準状態のときよりも高い要求トルクにおいて吸入空気量が増大しなくなる(すなわちサチュレーションする)(破線矢印参照)。
【0041】
また、記憶部52は、空気過剰率λが1.0よりも大きいリーンバーン領域における、検索用軸値とエンジン回転数とエンジンデバイスの制御目標値との関係を定めたデバイス制御マップを記憶する。より具体的には、記憶部52は、デバイス制御マップとして、例えば、エンジン回転数(NE)と検索用軸値とインジェクタ12の目標燃料噴射量・目標噴射時期・噴射分割比(多段噴射時)との関係を定めたマップ、エンジン回転数と検索用軸値と点火プラグ17の目標点火時期との関係を定めたマップ、及び、エンジン回転数と検索用軸値とEGRバルブ42の目標バルブ開度(目標還流量)との関係を定めたマップを記憶している。また、記憶部52は、例えば、エンジン回転数と検索用軸値とTGV(タンブルジェネレートバルブ)の目標開度との関係を定めたマップや、エンジン回転数と検索用軸値と目標バルブタイミングとの関係を定めたマップ等も記憶している。さらに、記憶部52は、上述したリーンバーン制御用の各種マップに加えて、実吸入空気量を軸としたストイキ制御用のマップも記憶している。記憶部52に記憶されている各マップは、検索用軸値取得部53、及び、制御目標値取得部54において利用される。
【0042】
検索用軸値取得部53は、空気過剰率λが1.0よりも大きいリーンバーン領域において、上述したデバイス制御マップを検索するための検索用軸値を取得する。より具体的には、検索用軸値取得部53は、エアフローメータ14により検出された実吸入空気量、及び、要求トルク取得部51により取得された要求トルクを用いて、記憶部52に記憶されている検索用軸値マップを検索して検索用軸値を取得する。なお、格子点と格子点との間に位置するデータは補間処理により算出される。
【0043】
その結果、検索用軸値取得部53は、要求トルクの増加に対して実吸入空気量が増加する領域では、実吸入空気量に応じた値をデバイス制御マップの検索に用いる検索用軸値として取得する。一方、要求トルクの増加に対して実吸入空気量が増加しない領域では、検索用軸値取得部53は、要求トルクに応じた値を検索用軸値として取得する。
【0044】
特に、検索用軸値取得部53は、実吸入空気量がサチュレーションしない(すなわち増加する)低負荷領域では、要求トルクの大きさにかかわらず、実吸入空気量に応じた値を検索用軸値として取得する。すなわち、検索用軸値取得部53は、特許請求の範囲に記載の検索用軸値取得手段として機能する。なお、検索用軸値取得部53により取得された検索用軸値は、制御目標値取得部54に出力される。
【0045】
制御目標値取得部54は、検索用軸値取得部53により取得された検索用軸値を用いて、記憶部52に記憶されているデバイス制御マップを検索し、エンジンデバイスの制御目標値を取得する。すなわち、制御目標値取得部54は、特許請求の範囲に記載の制御目標値取得手段として機能する。
【0046】
より具体的には、制御目標値取得部54は、エンジン回転数(NE)と検索用軸値とを用いてデバイス制御マップを検索して、エンジンデバイスの制御目標値を取得する。上述したように、デバイス制御マップとしては、エンジン回転数(NE)と検索用軸値とインジェクタ12の目標燃料噴射量・目標噴射時期・多段噴射時の噴射分割比との関係を定めたマップ、エンジン回転数と検索用軸値と点火プラグ17の目標点火時期との関係を定めたマップ、エンジン回転数と検索用軸値とEGRバルブ42の目標バルブ開度との関係を定めたマップ、及び、エンジン回転数と検索用軸値と可変バルブタイミング機構26,27の目標駆動量(バルブタイミング)との関係を定めたマップなどを挙げることができる。
【0047】
ここで、例えば、目標燃料噴射量を例にして説明すると、ECU50のEEPROM等には、エンジン回転数(rpm)と検索用軸値と目標燃料噴射量との関係を定めたマップ(燃料噴射量マップ)が記憶されており、エンジン回転数と検索用軸値とに基づいてこの燃料噴射量マップが検索されることにより目標燃料噴射量が取得される。なお、他のエンジンデバイスの制御目標値も同様にして取得される。そして、各制御目標値に基づいてエンジンデバイスが制御(すなわち、エンジン10が運転)される。
【0048】
ここで、
図2中の矢印方向に要求トルクと実吸入空気量が変化した場合における各制御目標値の動き(変化)の一例を
図3示す。
図3の横軸は、検索用軸値すなわち要求トルク又は実吸入空気量(ただし吸気系デバイスの横軸は要求トルク)であり、縦軸は、上から順に、空気系デバイス(スロットル開度、過給圧)、燃料系デバイス(目標λ(燃料噴射量)、噴射時期)、点火系デバイス(点火時期、EGRバルブ開度)それぞれの目標制御値を示す。なお、エンジン回転数は一定と仮定した。
図3に示されるように、まず、要求トルクの増大に応じてスロットル開度及び過給圧(空気量)が増大されていくと、それに伴い、吸入空気量が増大する領域では、実吸入空気量に応じた軸値で、バルブタイミング、目標λ、噴射時期、点火時期、EGRが制御される。そして、吸入空気量が増大しなくなると(サチュレーションすると)、要求トルクに応じた軸値で、バルブタイミング、目標λ、噴射時期、点火時期、EGRが制御される。
【0049】
次に、
図4を参照しつつ、エンジン制御装置1の動作について説明する。
図4は、エンジン制御装置1によるマップ検索処理の処理手順を示すフローチャートである。本処理は、ECU50において、所定のタイミングで繰り返して実行される。
【0050】
まず、ステップS100では、リーンバーン(希薄燃焼)制御領域であるか否かについての判断が行われる。ここで、リーンバーン制御領域ではない場合には、ステップS102において、実吸入空気量を軸とするストイキ用の制御マップを用いたストイキ制御が実行され、その後、本処理から一旦抜ける。一方、リーンバーン制御領域であるときには、ステップS104に処理が移行する。
【0051】
ステップS104では、エアフローメータ14により検出された実吸入空気量が読み込まれるとともに、要求トルク取得部51においてスロットル開度から要求トルクが取得される。続いて、ステップS106では、ステップS104において取得された実吸入空気量及び要求トルクを用いて、記憶部52に記憶されている検索用軸値マップ(ルックアップテーブル)が検索されて検索用軸値が取得される。ここで、検索用軸値マップ及びその検索方法は上述したとおりであるので、ここでは、詳細な説明を省略する。
【0052】
次に、ステップS108では、ステップS106において取得された検索用軸値、及びエンジン回転数を用いて、記憶部52に記憶されている複数のデバイス制御マップが検索され、各エンジンデバイスの制御目標値が取得される。すなわち、例えば、インジェクタ12の目標燃料噴射量・目標噴射時期・目標分割比、点火プラグ17の目標点火時期、EGRバルブ42の目標バルブ開度(目標還流量)、及び、可変バルブタイミング機構26,27の目標駆動量(目標バルブタイミング)などが取得される。
【0053】
そして、ステップS110では、ステップS108において取得された各制御目標値に基づいてエンジン10が制御(運転)される。
【0054】
以上、詳細に説明したように、本実施形態によれば、空気過剰率λが1.0よりも大きいリーンバーン領域において、要求トルクの増加に対して実吸入空気量が増加する領域では、実吸入空気量に応じた値がデバイス制御マップの検索に用いる検索用軸値として取得され、要求トルクの増加に対して実吸入空気量が増加しない領域では、要求トルクに応じた値が検索用軸値として取得される。そして、取得された検索用軸値を用いてデバイス制御マップが検索されてエンジンデバイスの制御目標値が取得される。すなわち、実吸入空気量が変化(増大)する領域では要求トルクよりも精度が高い実吸入空気量でマップ検索が行われ、エンジンデバイスが制御されるため、制御精度を向上できる。また、この実吸入空気量を用いた制御領域を実空気量がサチュレーションする境目(限界)まで拡大できるため、制御精度を向上できる。その結果、リーンバーン(希薄燃焼)におけるエンジン10の制御精度を向上することが可能となる。なお、この場合、軸が異なるマップ(すなわち、実吸入空気量を軸とするマップと要求トルクを軸とするマップ)の切り替え(持ち替え)を行う必要がないため、マップ切り替え時に生じ得るトルク段差を防止することもできる。
【0055】
ところで、通常、アクセルペダルが踏み込まれてから実際にエンジン10に吸入される空気量が増大されるまでには時間的な遅れが生じる。それに対して、本実施形態によれば、実吸入空気量がサチュレーションしない低負荷領域では、要求トルクの大きさにかかわらず、実吸入空気量に応じた値が検索用軸値として取得される。そのため、吸入空気量の遅れを考慮することができ、制御精度をより高めることができる。
【0056】
本実施形態によれば、実吸入空気量と要求トルクと検索用軸値との関係を定めた検索用軸値マップが記憶されており、実吸入空気量及び要求トルクを用いて、検索用軸値マップが検索されて検索用軸値が取得される。そのため、それぞれの関係が線形でなくても(非線形であっても)、マップを用いて、実吸入空気量と要求トルクとから上述した検索軸値を適切に取得することができる。
【0057】
本実施形態によれば、上記エンジンデバイスとして、例えば、燃料を噴射するインジェクタ12、混合気に点火する点火プラグ17、及び、排気ガスの吸気系への還流量を調節するEGRバルブ42などを含んでいるため、より適切な軸成分(軸値)で、インジェクタ12(燃料量)、点火プラグ17(点火時期)、EGRバルブ42(排気ガス還流量)などの制御を行い、燃焼ロバスト性を確保することが可能となる。
【0058】
本実施形態によれば、エンジン回転数と検索用軸値とを用いて、上記デバイス制御マップ、例えば、エンジン回転数と検索用軸値とインジェクタ12の目標燃料噴射量・目標噴射時期との関係を定めたマップ、エンジン回転数と検索用軸値と点火プラグ17の目標点火時期との関係を定めたマップ、及び、エンジン回転数と検索用軸値とEGRバルブ42の目標バルブ開度との関係を定めたマップなどが検索されるため、実吸入空気量と要求トルクとのうち、より適切な軸成分(検索用軸値)を用いて、マップ検索を行い、目標制御値を取得することが可能となる。
【0059】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では、本発明をリーンバーン領域で運転を行う直噴エンジンの制御装置に適用した場合を例にして説明したが、本発明は、例えば、ポート噴射のリーンバーンエンジンの制御装置などにも適用することができる。また、本発明は、要求空気量に対して要求トルクと実吸入空気量とが比例関係にならない領域であれば、リーンバーン以外(例えば、ストイキの高負荷時など)にも対応することができる。
【0060】
また、上記実施形態では、エンジンデバイスとして、燃料を噴射するインジェクタ12、混合気に点火する点火プラグ17、排気ガスの吸気系への還流量を調節するEGRバルブ42、及び、バルブタイミングを可変する可変バルブタイミング機構26,27などを挙げたが、エンジンデバイスは、上記実施形態に限られることなく、例えば、シリンダ内のタンブルの強さを調節するTGV(タンブルジェネレートバルブ)等を含んでいてもよい。