特許第6683888号(P6683888)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6683888表面修飾金属化合物粒子、及び、表面修飾金属化合物粒子の製造方法
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  • 特許6683888-表面修飾金属化合物粒子、及び、表面修飾金属化合物粒子の製造方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6683888
(24)【登録日】2020年3月30日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】表面修飾金属化合物粒子、及び、表面修飾金属化合物粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 13/14 20060101AFI20200413BHJP
   C01G 25/02 20060101ALI20200413BHJP
   C01F 17/10 20200101ALI20200413BHJP
   C01B 13/36 20060101ALI20200413BHJP
【FI】
   C01B13/14 A
   C01G25/02
   C01F17/00 G
   C01B13/36
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-507444(P2019-507444)
(86)(22)【出願日】2018年2月16日
(86)【国際出願番号】JP2018005453
(87)【国際公開番号】WO2018173574
(87)【国際公開日】20180927
【審査請求日】2019年5月22日
(31)【優先権主張番号】特願2017-54541(P2017-54541)
(32)【優先日】2017年3月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000208662
【氏名又は名称】第一稀元素化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高崎 史進
【審査官】 村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−270040(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/035689(WO,A1)
【文献】 特開2004−018311(JP,A)
【文献】 特開2005−048034(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 13/14−13/36
C01G 1/00−99/00
C01F 1/00−17/00
C01G 25/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクリル酸、アクリル酸およびプロピオン酸より選ばれた一種以上のカルボン酸と、12−ヒドロキシステアリン酸と、により表面修飾された金属化合物粒子を有し、
メタクリル酸、アクリル酸およびプロピオン酸より選ばれた一種以上のカルボン酸の一部乃至全部がカルボン酸(プロトン化)型であることを特徴とする表面修飾金属化合物粒子。
【請求項2】
12−ヒドロキシステアリン酸がカルボキシレート(脱プロトン化)型であることを特徴とする請求項1記載の表面修飾金属化合物粒子。
【請求項3】
前記表面修飾金属化合物粒子を構成する金属酸化物及び金属水酸化物の金属がジルコニウムおよび希土類から選ばれた1種以上の金属であることを特徴とする請求項1又は2記載の表面修飾金属化合物粒子。
【請求項4】
請求項1〜3記載のいずれか1に記載の表面修飾金属化合物粒子の製造方法において、
(1) 水溶媒に分散した、ゼータ電位が正の金属化合物粒子に対して、12−ヒドロキシステアリン酸を添加し、混合する工程と、
(2) 水溶媒に分散した、ゼータ電位が正の金属化合物粒子に対して、メタクリル酸、アクリル酸およびプロピオン酸より選ばれた一種以上のカルボン酸を添加し、混合する工程と、
(3) 前記(1)及び(2)の工程を経て得られた生成物を純水で洗浄する工程と、
(4) 前記(3)の工程で得られた生成物にメタクリル酸、アクリル酸およびプロピオン酸より選ばれた一種以上のカルボン酸を添加し混合する工程と、
を含むこと特徴とする表面修飾金属化合物粒子の製造方法。
【請求項5】
前記(1)の工程において、12−ヒドロキシステアリン酸とジルコニウムとのモル比が0.01〜0.1であり、
前記(2)の工程において、メタクリル酸、アクリル酸、及び、プロピオン酸の総モル数とジルコニウムとのモル比が0.01〜0.5であり、
前記(4)の工程において、メタクリル酸、アクリル酸、及び、プロピオン酸の総モル数とジルコニウムとのモル比が0.01〜0.5であることを特徴とする請求項4記載の表面修飾金属化合物粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面修飾金属化合物粒子、及び、表面修飾金属化合物粒子の製造方法に関する。
【発明の背景】
【0002】
金属酸化物粒子及び金属水酸化物粒子は耐火物、セラミックス、光学材料および自動車排ガス触媒等の分野で広く使用されている。これらの用途において金属酸化物粒子及び金属水酸化物粒子は溶媒を介して他の材料と混合されて使用されることも多いため、その混合を容易にするため用途に応じて様々な溶媒に分散された、または、分散可能な金属酸化物粒子及び金属水酸化物粒子が求められている。特にエタノール等有機溶媒に分散可能な粒子の潜在的需要は大きい。そこで、有機溶媒に粒子を分散させるためにカルボン酸等の界面活性剤で粒子を表面修飾することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−31023号
【特許文献2】特開2007−254257号
【特許文献3】特開2006−82994号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の技術では、有機溶媒への分散性能を最大化するための界面活性剤の吸着状態の制御方法について示されていない。このように、従来技術では汎用される溶媒であるエタノール等に対する分散性に特化したカルボン酸による表面修飾金属酸化物粒子及び表面修飾水酸化物粒子は見出されていない。
【0005】
本発明は上記問題を鑑みて成されたものであって、その目的はエタノール等有機溶媒に対する分散性を最適化された表面修飾金属化合物粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者は鋭意検討の結果、金属化合物粒子を特定のカルボン酸により修飾する際に、カルボン酸の吸着状態を制御することで、金属化合物粒子をエタノール等有機溶媒に容易に分散できることを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明は下記の表面修飾金属化合物粒子、及び、表面修飾金属化合物粒子の製造方法に関する。
【0007】
つまり、本発明の表面修飾金属化合物粒子は、メタクリル酸、アクリル酸およびプロピオン酸より選ばれた一種以上のカルボン酸と、12−ヒドロキシステアリン酸と、により表面修飾された金属化合物粒子を有し、メタクリル酸、アクリル酸およびプロピオン酸より選ばれた一種以上のカルボン酸の一部乃至全部がカルボン酸(プロトン化)型であることを特徴とする。
【0008】
本発明において、好適には、12−ヒドロキシステアリン酸がカルボキシレート(脱プロトン化)型である。
【0009】
本発明において、好適には、前記表面修飾金属化合物粒子を構成する金属酸化物及び金属水酸化物の金属がジルコニウムおよび希土類から選ばれた1種以上の金属である。
【0010】
上記の表面修飾金属化合物粒子の製造方法において、
(1) 水溶媒に分散した、ゼータ電位が正の金属化合物粒子に対して、12−ヒドロキシステアリン酸を添加し、混合する工程と、
(2) 水溶媒に分散した、ゼータ電位が正の金属化合物粒子に対して、メタクリル酸、アクリル酸およびプロピオン酸より選ばれた一種以上のカルボン酸を添加し、混合する工程と、
(3) 前記(1)及び(2)の工程を経て得られた生成物を純水で洗浄する工程と、
(4) 前記(3)の工程で得られた生成物にメタクリル酸、アクリル酸およびプロピオン酸より選ばれた一種以上のカルボン酸を添加し混合する工程と、
を含む。
【0011】
上記の表面修飾金属化合物粒子の製造方法において、好適には、
前記(1)の工程において、12−ヒドロキシステアリン酸とジルコニウムとのモル比が0.01〜0.1であり、
前記(2)の工程において、メタクリル酸、アクリル酸、及び、プロピオン酸の総モル数とジルコニウムとのモル比が0.01〜0.5であり、
前記(4)の工程において、メタクリル酸、アクリル酸、及び、プロピオン酸の総モル数とジルコニウムとのモル比が0.01〜0.5である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の表面修飾金属化合物粒子によれば容易にエタノール等有機溶媒に分散した金属化合物粒子を得ることができるため、斯界において好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1で得られた前駆体粉末(a)、表面修飾ジルコニア粒子(b)および表面修飾ジルコニア粒子を純水で洗浄して得られた粉末(c)の赤外吸収スペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の表面修飾金属化合物粒子、及び、表面修飾金属化合物粒子の製造方法の一例に関して詳細を説明する。ただし、本発明はこれらの実施形態のみに限定されるものではない。
【0015】
<表面修飾金属化合物粒子>
本発明の最終的な狙いは、有機溶媒に分散した金属化合物粒子を得ることである。
本実施形態に係る表面修飾金属化合物粒子は、特に限定はされないが、それを有機溶媒に分散したときにおおむね1〜100nmのメディアン径を示すものである。ここで、メディアン径とは動的光散乱法による粒子径測定において粒子の累積体積頻度が50%となる粒子径のことを意味する。表面修飾金属化合物粒子を分散することができる有機溶媒としては、特に限定はされないが、エタノール、メチルイソブチルケトン、n−ブチルセロソルブ、n−エチルセロソルブおよびメチルエチルケトンおよびメタクリル酸メチル等の極性有機溶媒が挙げられる。これらの有機溶媒に対して、金属酸化物換算で少なくとも60重量%以上で溶解することができる。
【0016】
前記表面修飾金属化合物粒子としては、特に限定されないが、好適な例として、表面修飾金属酸化物粒子、表面修飾金属水酸化物粒子等が挙げられる。
表面修飾金属酸化物粒子及び表面修飾金属水酸化物粒子を構成する金属酸化物及び金属水酸化物とは、金属原子、酸素原子および水酸基を基本的構成要素とする物質全般、これらの混合物、複合物および固溶体も含まれる。この金属酸化物及び金属水酸化物の種類は、特に限定されないが、粒子としてよく利用されているジルコニア、ハフニア、セリア、その他希土類酸化物、チタニア、アルミナ、シリカ、水酸化ジルコニウム、水酸化ハフニウム、水酸化セリウム、その他希土類水酸化物、水酸化チタニウム、水酸化アルミニウム、これらの混合物、これらの複合物およびこれらの固溶体などが挙げられる。また、これらの結晶質/非晶質および結晶系の種別を問わない。ジルコニア及び水酸化ジルコニウムは通常、不可避不純物として酸化ジルコニウムに対して酸化ハフニウムを1.3〜2.5重量%含有しているものを意味する。また、ジルコニアは、結晶相の安定化剤として希土類元素、アルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素を含有するものであってもよい。また、金属酸化物及び金属水酸化物は、触媒特性、光触媒特性、蛍光特性および吸光特性等の物性改変を目的として金属元素以外の元素が添加されているものでもよく、最終的な応用物性に悪影響しない限り上記以外の不純物が含まれていても構わない。
【0017】
本実施形態に係る表面修飾金属化合物粒子は、メタクリル酸、アクリル酸およびプロピオン酸より選ばれた一種以上のカルボン酸と、12−ヒドロキシステアリン酸と、により表面修飾された金属化合物粒子を有する。表面修飾されるとは、金属化合物粒子の表面にこれらのカルボン酸が化学的あるいは物理的に吸着した状態を意味する。本実施形態ではさらにメタクリル酸、アクリル酸およびプロピオン酸より選ばれた一種以上のカルボン酸の一部乃至全部がカルボン酸型であることを必要とする。
【0018】
本明細書において、カルボン酸型とはカルボン酸のカルボキシル基の、プロトンの脱着による‐COOHおよび‐COOの2種類の化学状態のうち、プロトン化した‐COOHの状態のことを想定したものであり、客観的には表面修飾金属化合物粒子の赤外吸収スペクトル測定を行ったときに、1680〜1720cm−1の領域にC=O伸縮に帰属されるピークを示すことをもって、金属化合物粒子を修飾したカルボン酸がカルボン酸型で存在していると定義する。
【0019】
前記表面修飾金属化合物粒子の赤外吸収スペクトル測定を行ったときに、1680〜1720cm−1の領域にC=O伸縮に帰属されるピークが観測されることにより、12−ヒドロキシステアリン酸およびメタクリル酸、アクリル酸およびプロピオン酸より選ばれた一種以上のカルボン酸の一部乃至全部がカルボン酸型で存在することがわかる。さらに、十分な量の純水により洗浄した前記表面修飾金属化合物粒子の赤外吸収スペクトル測定を行った場合は、1680〜1720cm−1の領域にあるC=O伸縮に帰属されるピークは縮小または消失し、さらに、洗浄に使用された純水にメタクリル酸、アクリル酸およびプロピオン酸より選ばれた一種以上のカルボン酸が溶出する。これをもって、前記表面修飾金属化合物粒子の水溶性のメタクリル酸、アクリル酸およびプロピオン酸より選ばれた一種以上のカルボン酸がカルボン酸の状態で存在すると定義する。
【0020】
図1a〜cに、それぞれ、後述する実施例1で得られた表面修飾ジルコニア粒子前駆体、表面修飾ジルコニア粒子およびそれを純水で洗浄して得られた粉末の赤外吸収スペクトルを示す。実施例1で得られた表面修飾ジルコニア粒子では1700cm−1にピークが観測された。一方、該前駆体および洗浄して得られた粉末では、同ピークが存在しなかった。同時に、両者はエタノールに対してほとんど分散しなかった。このことは、表面修飾金属化合物粒子において、メタクリル酸、アクリル酸およびプロピオン酸より選ばれた一種以上のカルボン酸がカルボン酸型で吸着していることが分散性を担保するための最重要要件のひとつであるということを示している。
【0021】
表面修飾金属化合物粒子が有機溶媒に分散されるとき、この粒子にカルボン酸型で吸着しているカルボン酸が溶媒分散に対してどのような機構により寄与するかは不明であるが、仮説として、これらのカルボン酸型カルボン酸が溶媒分子と置換することで粒子の溶媒和が促進されることが考えられる。メタクリル酸、アクリル酸およびプロピオン酸の代わりに酢酸、ギ酸、酢酸エチル等を使用しても分散効果は得られないため、メタクリル酸、アクリル酸およびプロピオン酸は分子量、双極子モーメントおよび分極率などの物性がこの作用機構に適合していると考えられる。一方、12−ヒドロキシステアリン酸はカルボン酸型で存在していても構わないが、分子量などの不適合からか、上記メタクリル酸、アクリル酸およびプロピオン酸の様な機能は発揮されない。
【0022】
前記表面修飾金属化合物粒子において、12−ヒドロキシステアリン酸の吸着が有機溶媒への分散のための最重要要件のひとつとなる。上述したとおり、12−ヒドロキシステアリン酸はカルボン酸型で存在しても有機溶媒への分散に対してあまり有効ではないと考えられる。従って、前記表面修飾金属化合物粒子において12−ヒドロキシステアリン酸は全て上述したカルボン酸のカルボキシル基の2種類の化学状態のうち‐COOカルボキシレート(脱プロトン)型で存在していることが好ましい。この場合、‐COOが金属化合物粒子表面と吸着または結合し、有機溶媒との親和性能の主力である12−ヒドロキシステアリン酸の脂肪鎖部位が粒子外側に向けて配向するため、効率的に溶媒和に寄与することができると考えられる。一方、メタクリル酸、アクリル酸およびプロピオン酸より選ばれた一種以上のカルボン酸の一部がカルボキシレート型で存在していても構わないが、これらには上記の12−ヒドロキシカルボン酸のような機能はないと考えられる。
【0023】
前記表面修飾金属化合物粒子における12−ヒドロキシステアリン酸の吸着量は、特に限定されるものではないが、12−ヒドロキシステアリン酸とジルコニウムとのモル比[12−ヒドロキシステアリン酸]/[Zr]が、0.01〜0.1、好ましくは0.02〜0.05であり、メタクリル酸、アクリル酸およびプロピオン酸より選ばれた一種以上のカルボン酸の吸着量は、特に限定されるものではないが、メタクリル酸、アクリル酸およびプロピオン酸より選ばれた一種以上のカルボン酸の総モル数とジルコニウムとのモル比[メタクリル酸+アクリル酸+プロピオン酸]/[Zr]=0.01〜0.6、好ましくは0.1〜0.5である。これらの範囲の下限を下回る場合は、溶媒に対する分散性が損なわれる可能性があり、また、上限を超える場合は、表面修飾金属化合物粒子に想定される用途での応用特性に対して悪影響を及ぼす可能性があるため好ましくない。多くの場合、金属化合物粒子の表面を修飾しているカルボン酸は溶媒への親和性・分散性を向上させるためのものあって、それ以外の応用特性にとっては可能な限り少ないことが好ましい。
【0024】
本実施形態では、メタクリル酸、アクリル酸およびプロピオン酸より選ばれた一種以上のカルボン酸および12−ヒドロキシステアリン酸を併用して表面修飾するとともに、メタクリル酸、アクリル酸およびプロピオン酸より選ばれた一種以上のカルボン酸の一部乃至全部がカルボン酸型として存在するように制御することで、表面修飾に用いるカルボン酸の溶媒親和性能を効率よく発現させ、表面修飾に用いるカルボン酸の総量を必要最低限に留めている。
【0025】
表面修飾金属化合物粒子の表面には12−ヒドロキシステアリン酸およびメタクリル酸、アクリル酸およびプロピオン酸より選ばれた一種以上のカルボン酸以外の物質が吸着していても、有機溶媒に分散したときに1〜100nmのメディアン径を示すことと、応用物性への悪影響がない場合は、特にこれを問題としない。
【0026】
<表面修飾金属化合物粒子の製造方法>
本実施形態に係る表面修飾金属化合物粒子の製造方法について詳細に説明する。
【0027】
本実施形態に係る表面修飾金属化合物粒子の製造方法は以下(1)〜(4)の工程を含む。
(1) 水溶媒に分散した、ゼータ電位が正の金属化合物粒子に対して、12−ヒドロキシステアリン酸を添加し、混合する工程
(2) 水溶媒に分散した、ゼータ電位が正の金属化合物粒子に対して、メタクリル酸、アクリル酸およびプロピオン酸より選ばれた一種以上のカルボン酸を添加し、混合する工程
(3) 前記(1)及び(2)の工程を経て得られた生成物を純水で洗浄する工程
(4) 前記(3)の工程で得られた生成物にメタクリル酸、アクリル酸およびプロピオン酸より選ばれた一種以上のカルボン酸を添加し混合する工程
【0028】
以下に説明する工程(1)〜(4)において、一般的な化学反応速度の原理に基づき、工程における温度を調整することにより、製造上の都合に応じて反応速度を適宜変更することができる。
【0029】
工程(1)及び(2)について説明する。原料となる金属化合物粒子(例えば、金属酸化物粒子や金属水酸化物粒子)は、最終的に目的とする最終物性を満足する限り限定されるものではないが、通常は水に金属酸化物粒子、又は金属水酸化物粒子、若しくは、金属酸化物粒子と金属水酸化物粒子との混合物が、1〜100nmのメディアン径で分散したゾルを使用する。金属酸化物及び金属水酸化物の金属としてはジルコニウム、セリウム、その他希土類、チタニウム、アルミニウムおよびケイ素などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。例えば、出発原料として特許文献1、特許文献2および特許文献3に開示されたジルコニアゾルおよびセリアゾルを使用できる。以下、ゾルを含めた出発原料として使用される金属酸化物粒子及び金属水酸化物粒子のことを被修飾粒子とも呼ぶ。
【0030】
水に分散された被修飾粒子のゼータ電位は正であることが好ましい。これは、後段の表面修飾処理において、正のゼータ電位により、負電荷を帯びた12−ヒドロキシステアリン酸の‐COO基が被修飾粒子の表面に引きつけられ吸着または結合することで、溶媒への親和性が高い脂肪鎖が粒子外側に向いた溶媒和に適した配向状態が形成されるためである。この12−ヒドロキシステアリン酸はカルボキシレート型である。メタクリル酸、アクリル酸およびプロピオン酸より選ばれた一種以上のカルボン酸も、12−ヒドロキシステアリン酸と同様の機構により、カルボキシレート型で吸着または結合することが想定されるが、12−ヒドロキシステアリン酸のように有機溶媒との溶媒和にはあまり寄与せず、単純に被修飾粒子の表面を疎水化するように機能すると考えられる。12−ヒドロキシステアリン酸だけでは被修飾粒子表面が疎水化されない場合、水溶媒と被修飾粒子が分離せず、円滑に次工程(3)に移行することが困難になるため、その場合は、メタクリル酸、アクリル酸およびプロピオン酸より選ばれた一種以上のカルボン酸で補うこととなる。
【0031】
表面修飾に使用する12−ヒドロキシステアリン酸およびメタクリル酸、アクリル酸およびプロピオン酸より選ばれた一種以上のカルボン酸の量は、特に制限されるものではないが、モル比[12−ヒドロキシステアリン酸]/[Zr]=0.01〜0.1好ましくは0.02〜0.05およびモル比[メタクリル酸+アクリル酸+プロピオン酸]/[Zr]が0.01〜0.5好ましくは0.1〜0.4である。
【0032】
これらのカルボン酸の被修飾粒子への添加方法は、特に限定されるものではないが、通常は、まず、アルコール溶液とした12−ヒドロキシステアリン酸を水に分散した被修飾粒子のゾルなどを撹拌しているところへ添加する。溶媒となるアルコールの種類については、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノールおよびn−ブタノールなどが使用でき、アルコール以外の溶媒でも12−ヒドロキシステアリン酸が溶解するものであれば使用できる。このとき12−ヒドロキシステアリン酸の濃度に特に制限はないが、1〜20重量%好ましくは5〜16重量%である。つぎに、希釈していない、または、上記と同様のアルコールで任意に希釈した、メタクリル酸、アクリル酸およびプロピオン酸より選ばれた一種以上のカルボン酸を被修飾粒子に対して添加する。添加後は撹拌により上記カルボン酸および被修飾粒子の混合を行う。撹拌時間は特に限定されないが、通常30分〜2時間である。以上の工程(1)及び(2)を経て、通常はペースト状沈殿の生成物が得られる。
【0033】
次に、工程(3)について説明する。工程(1)及び(2)を経て得られた生成物を純水中に投入するか生成物に対して純水を加えるなどして、生成物に付着した不純物、すなわち被修飾粒子原料由来のイオン成分および工程(1)及び(2)で使用したアルコール溶媒等を除去する。これらの不純物が下流の応用製品において特に問題とならない場合は、工程(3)は必須ではないが、通常これらの不純物は可能な限り除去することが好ましい。以上の工程(3)を経て、通常は粉末状の生成物が得られる。
【0034】
次に、工程(4)について説明する。工程(4)で得られた生成物に、メタクリル酸、アクリル酸およびプロピオン酸より選ばれた一種以上のカルボン酸を添加し混合する。本実施形態の表面修飾金属化合物粒子はカルボン酸型で吸着したメタクリル酸、アクリル酸およびプロピオン酸より選ばれた一種以上のカルボン酸が必要であるが、工程(4)はそのカルボン酸型のカルボン酸を吸着させるための工程である。
【0035】
工程(1)の条件によっては、その終了時に、メタクリル酸、アクリル酸およびプロピオン酸より選ばれた一種以上のカルボン酸がカルボン酸型として被修飾粒子に吸着している状態も想定されるが、その場合でも、通常は、工程(3)の純水による洗浄により、カルボン酸型のカルボン酸は不純物とともに除去される。
【0036】
本工程で使用するメタクリル酸、アクリル酸およびプロピオン酸より選ばれた一種以上のカルボン酸の量は、特に限定されないが、モル比[メタクリル酸+アクリル酸+プロピオン酸]/[Zr]が0.01〜0.5好ましくは0.1〜0.4である。これらのカルボン酸の被修飾粒子への添加方法は、特に限定されるものではないが、通常は、特に溶媒などで希釈せずに工程(3)の生成物に対して直接添加する。添加後混錬などにより上記カルボン酸および被修飾粒子の混合を行う。以上の工程(4)を経て、通常は粉末状の生成物、すなわち本実施形態の表面修飾金属化合物粒子が得られる。
【実施例】
【0037】
以下に実施例を示し、本発明をより明確にする。なお、本発明は、これらの実施例の態様に限定されるものではない。実施例及び比較例において得られた表面修飾ジルコニア粒子中には、不可避不純物として酸化ジルコニウムに対して酸化ハフニウムを1.3〜2.5重量%含有している。実施例の分析条件を以下に示す。実施例で使用した試薬を以下に示す。以下重量%については単に%と記す。
【0038】
<赤外吸収スペクトル>
機種:FT/IR620(日本分光)
方法:ATR法(ATR−ONEユニット使用)
【0039】
<粒子径測定>
機種 :ゼータサイザーナノZS(マルバーン)
測定濃度:金属酸化物換算で30%
測定温度:25℃
散乱角度:173°
【0040】
<試薬>
12−ヒドロキシステアリン酸(東京化成工業)
n−ブタノール(シグマアルドリッチジャパン、1級)
メタクリル酸(東京化成工業)
アクリル酸(シグマアルドリッチジャパン、1級)
プロピオン酸(シグマアルドリッチジャパン、1級)
88%ギ酸(キシダ化学工業、特級)
氷酢酸(シグマアルドリッチジャパン、1級)
エタノール(シグマアルドリッチジャパン、1級)
無水クエン酸(キシダ化学、特級)
25%アンモニア水(シグマアルドリッチジャパン、特級)
【0041】
[実施例1]
先ず、以下の手順により被修飾粒子であるジルコニアゾルを得た。オキシ塩化ジルコニウム水溶液(ZrOとして、180.0g含有)886.7gへ純水を添加し、1000gとした。一方、水酸化ナトリウム水溶液(100%NaOHとして、187.0g含有)747.9gへ純水を添加し、1400gとし、90℃に加温した。そして、90℃に加温された水酸化ナトリウム水溶液にオキシ塩化ジルコニウム水溶液を添加し、その後、室温まで冷却を行った。この時の溶液のpHは、13.7であった。この溶液を濾過し、5000gの純水で洗浄を行い、水酸化ジルコニウム中の不純物を除去し、ウエットケーキ651.7gを得た。このウエットケーキ538.8gをビーカーに入れ、純水を添加し、1000gとした。これを10分間攪拌し、水酸化ジルコニウムを均一に分散させた。その後、解膠剤として、61%硝酸を60.35g添加し、100℃に加温し、72時間攪拌・保持することにより、ジルコニアゾルを得た。得られた溶液は、透明な薄い青色であり、完全にジルコニアゾルになっていることが判った。この後、室温まで冷却した後、メンブレンフィルターで限外濾過し、500gの純水で2回洗浄を行い、純水を加えてジルコニアゾル500.0gを得た。得られたジルコニアゾルは、pH3.3、ZrO濃度:30%、ゼータ電位:正であった。
【0042】
該ゾル150gを撹拌し、そこへ12−ヒドロキシステアリン酸のn‐ブタノール溶液(濃度:12%)を25g(モル比[12−ヒドロキシステアリン酸]/[Zr]=0.027)添加し、30分間撹拌した。つぎに、撹拌を継続したままメタクリル酸を6g(モル比[メタクリル酸]/[Zr]=0.19)添加し30分間撹拌した。撹拌を止めた後静置したところ、透明な上澄みとペースト状の沈殿物を得た。1Lの純水(イオン交換水)を撹拌しているところへ該沈殿物を滴下し、粉末状沈殿を得た。この粉末状沈殿をヌッチェでろ過し、さらに1Lの純水を通水し洗浄を行った後、脱水し前駆体粉末を得た。該粉末の赤外吸収スペクトルを図1aに示す。同スペクトルでは1700cm−1にピークが存在しなかった。該粉末にモル比[メタクリル酸]/[Zr]=0.11相当量のメタクリル酸を添加しよく混合した後、50℃の乾燥機内で2時間乾燥し、表面修飾ジルコニア粒子を得た。該粒子の赤外吸収スペクトルを図1bに示す。同スペクトルでは1700cm−1にC=O由来のピークが認められた。エタノールに該粒子を添加し、撹拌することでZrO:60%のゾルを得た。動的光散乱法により該ゾルの粒子径を測定したところ、6nmのメディアン径を得た。
【0043】
[実施例2]
前駆体粉末にモル比[アクリル酸]/[Zr]=0.13相当量のアクリル酸を添加した以外は実施例1と同様にして、表面修飾ジルコニア粒子を得た。該粒子の赤外吸収スペクトルでは1700cm−1にC=O由来のピークが認められた。エタノールに該粒子を添加し、撹拌することでZrO:60%のゾルを得た。動的光散乱法により該ゾルの粒子径を測定したところ、13nmのメディアン径を得た。
【0044】
[実施例3]
前駆体粉末にモル比[プロピオン酸]/[Zr]=0.12相当量のプロピオン酸を添加した以外は実施例1と同様にして、表面修飾ジルコニア粒子を得た。該粒子の赤外吸収スペクトルでは1700cm−1にC=O由来のピークが認められた。エタノールに該粒子を添加し、撹拌することでZrO:60%のゾルを得た。動的光散乱法により該ゾルの粒子径を測定したところ、10nmのメディアン径を得た。
【0045】
[実施例4]
先ず、以下の手順により被修飾粒子であるセリアゾルを得た。硝酸第二セリウム含有水溶液(CeをCeOとして120g含有、CeO2濃度6重量%;pH≦1)2000gを還流下で攪拌しながら100℃で24時間保持した。その後、一昼夜20〜25℃の雰囲気温度で静置した後、上澄みをデカンテーションで除去して沈殿物(セリアゾル前駆体、以下同じ)を残し、そこへ硝酸第二セリウムと純水を加えて2000g(該沈殿物の存在を考慮せず、CeをCeOとして120g含有、CeO濃度6重量%、pH≦1)とした。この沈殿物を共存させた硝酸第二セリウム含有水溶液を、再度、還流下で攪拌しながら1000℃で24時間保持した。その後、一昼夜20〜25℃の雰囲気温度で静置した後、上澄みをデカンテーションで除去して沈殿物を残し、そこへ硝酸第二セリウムと純水を加えて2000g(該沈殿物の存在を考慮せず、CeをCeOとして120g含有、CeO濃度6重量%、pH≦1)とした。この沈殿物を共存させた硝酸第二セリウム含有水溶液を、再度、還流下で攪拌しながら100℃で24時間保持した。その後、一昼夜20〜25℃の雰囲気温度で静置した後、上澄みをデカンテーションで除去し、濾過を行った。得られた沈殿物188g(wet)に純水を533ml加えることにより、セリアゾルを得た。
【0046】
上記の方法に従い得たセリアゾルを限外ろ過により精製および濃縮し、セリアゾル(pH3.1、CeO濃度:30%、ゼータ電位:正)を得た。出発原料として該ゾル150gを用いた以外は実施例1と同様にして表面修飾セリア粒子を得た。該粒子の赤外吸収スペクトルでは1700cm−1にC=O由来のピークが認められた。エタノールに該粒子を添加し、撹拌することでCeO:50%のゾルを得た。動的光散乱法により該ゾルの粒子径を測定したところ、35nmのメディアン径を得た。
【0047】
[比較例1]
実施例1で得た前駆体粉末を50℃の乾燥機内で2時間乾燥し、表面修飾ジルコニア粒子を得た。該粒子の赤外吸収スペクトルでは1700cm−1にピークが存在しなかった(図1a)。エタノールに該粒子を添加し撹拌したが沈殿物が多量に残り分散しなかった。
【0048】
[比較例2]
前駆体粉末にモル比[酢酸]/[Zr]=0.15相当量の氷酢酸を添加した以外は実施例1と同様にして、表面修飾ジルコニア粒子を得た。該粒子の赤外吸収スペクトルでは1700cm−1にピークが存在しなかった。エタノールに該粒子を添加し撹拌したが沈殿物が多量に残り分散しなかった。
【0049】
[比較例3]
前駆体粉末にモル比[ギ酸]/[Zr]=0.18相当量の88%ギ酸を添加した以外は実施例1と同様にして、表面修飾ジルコニア粒子を得た。該粒子の赤外吸収スペクトルでは1700cm−1にピークが存在しなかった。エタノールに該粒子を添加し撹拌したが沈殿物が多量に残り分散しなかった。
【0050】
[比較例4]
ジルコニアゾル150gを撹拌し、そこへメタクリル酸のn‐ブタノール溶液(成分濃度:3.4%)を25g(モル比[メタクリル酸]/[Zr]=0.027)添加し、30分間撹拌した以外は実施例1と同様にして、表面修飾ジルコニア粒子を得た。該粒子の赤外吸収スペクトルでは1700cm−1にC=O由来のピークが認められた。エタノールに該粒子を添加し撹拌したが沈殿物が多量に残り分散しなかった。
【0051】
[比較例5]
特許文献1の実施例1の方法に従い得たジルコニアゾル(ZrO:30%、pH3.3、ゼータ電位:正)にモル比[クエン酸]/[Zr]=0.3相当量の無水クエン酸を添加し、つぎに、アンモニア水を加えてpH9.0に調整した。さらに、限外ろ過で精製および濃縮しジルコニアゾル(ZrO:30%、pH7.8、ゼータ電位:負)を得た。出発原料として該ゾルを150g用いた以外は実施例1と同様に実施したが、カルボン酸と該ゾルの反応が十分進行せず、ほとんど前駆体粉末が得られなかった。
図1