特許第6683907号(P6683907)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6683907-免疫凝集用粒子及びその製造方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6683907
(24)【登録日】2020年3月31日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】免疫凝集用粒子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/553 20060101AFI20200413BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20200413BHJP
【FI】
   G01N33/553
   G01N33/543 581G
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-2498(P2016-2498)
(22)【出願日】2016年1月8日
(65)【公開番号】特開2017-122684(P2017-122684A)
(43)【公開日】2017年7月13日
【審査請求日】2018年8月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】390037327
【氏名又は名称】積水メディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】特許業務法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北原 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】中村 光浩
(72)【発明者】
【氏名】金平 幸輝
【審査官】 西浦 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】 特表2006−512264(JP,A)
【文献】 特開2007−022886(JP,A)
【文献】 特開2005−180921(JP,A)
【文献】 特開2008−222502(JP,A)
【文献】 特開2014−062920(JP,A)
【文献】 特開昭62−286533(JP,A)
【文献】 特開2007−205821(JP,A)
【文献】 特開2008−241357(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/087765(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
C01G 23/053
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶性の酸化チタンからなる粒子を含有し、平均粒子径が80nm以上140nm以下である、免疫凝集用粒子。
【請求項2】
前記免疫凝集用粒子がその表面に結合した分散剤をさらに備える、請求項1記載の免疫凝集用粒子。
【請求項3】
前記分散剤がポリエチレングリコール(PEG)である、請求項2に記載の免疫凝集用粒子。
【請求項4】
前記免疫凝集用粒子の結晶子サイズが0Å〜99Åである、請求項1から3のいずれか1項に記載の免疫凝集用粒子。
【請求項5】
前記免疫凝集用粒子の平均粒子径が120nm以下である、請求項1から4のいずれか1項に記載の免疫凝集用粒子。
【請求項6】
平均粒子径が140nm以下、結晶子サイズが0Å〜99Åである非晶性の酸化チタンからなる粒子の表面に、ポリエチレングリコール(PEG)を結合させる工程と、
前記工程後に、前記粒子の表面に抗体または抗原を結合させる工程と、を備える、免疫凝集用粒子の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の免疫凝集用粒子を用いる、免疫凝集測定試薬。
【請求項8】
請求項7に記載の免疫凝集測定試薬を用いる、免疫凝集測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化チタンからなる粒子を備える免疫凝集用粒子及びその製造方法に関する。また本発明は、免疫凝集用粒子を用いる免疫凝集測定試薬及び係る試薬を用いる免疫凝集測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
臨床検査の分野において検体中の微量物質を定量する方法として、抗原抗体反応を利用した免疫測定法が広く行われている。中でも抗体又は抗原等を担持させたラテックス粒子(以下、「感作ラテックス粒子」ともいう)を用いたラテックス免疫比濁法は簡便かつ測定時間が短いことから、広く検査室等で用いられている。ラテックス免疫比濁法による検体中の抗原または抗体の定量は、免疫複合体形成に伴う感作ラテックス粒子の凝集による吸光度変化を光学的に検出することにより行われる。この吸光度の変化は、感作ラテックス粒子の凝集による見かけの粒径変化に基づくものである。
【0003】
従来、ラテックス免疫比濁法は、検出対象物質と特異的に反応する抗原または抗体の固定化(感作)が容易であり、比較的安価で、かつ重合反応も制御しやすいことから、ポリスチレンを主成分とするポリスチレン系ラテックス粒子が用いられてきた。しかし、ポリスチレン系ラテックス粒子を用いたラテックス免疫比濁法では、微量成分の高感度測定がしにくい等の問題があった。そのため、ポリスチレンよりも高感度となる担体素材の開発が求められていた。
【0004】
上記問題を解決するには、免疫複合体形成に伴う感作ラテックス粒子の凝集による吸光度変化を増大させる必要がある。吸光度変化は、粒子を構成する成分の屈折率によって支配されていることが一般的に知られている為、屈折率が高い素材を用いた開発が従来より盛んに実施されており、例えば、高屈折率素材である酸化チタンを用いた粒子の開発がおこなわれていた。特許文献1では、屈折率が高いことで良く知られている酸化チタン微粒子を含むベース担体にリガンドを結合させた免疫測定用粒状担体が提案されている。しかしながら、特許文献1に係る免疫測定用粒状担体は産業上実用化されるには至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−241357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは酸化チタン粒子がポリスチレンよりも重いため、抗原と感作粒子が接触しても免疫複合体を形成できない問題点を見つけた。感作粒子自身の重量を軽くするために、粒子の粒径に着目し、鋭意検討した結果、酸化チタン粒子の粒径が小さい程感度が良好になることを見出した。
本発明は、ポリスチレンよりも高感度な担体素材として、非晶性の酸化チタンからなる粒子を備える免疫凝集用粒子及びその製造方法を提供することを課題とする。また本発明は、免疫凝集用粒子を用いる免疫凝集測定試薬及び係る試薬を用いる免疫凝集測定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ポリスチレンよりも高感度な担体素材として酸化チタン粒子に着目し、その問題点を洗い出して鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下に関する。
[1]非晶性の酸化チタンからなる粒子を含有し、平均粒子径が140nm以下である、免疫凝集用粒子。
[2]粒子の表面に結合した分散剤をさらに備える、[1]記載の免疫凝集用粒子。
[3]分散剤がポリエチレングリコール(PEG)である、[2]に記載の免疫凝集用粒子。
[4]粒子の結晶子サイズ0Å〜99Åである、[1]〜[3]のいずれか1項に記載の免疫凝集用粒子。
[5]免疫凝集用粒子の粒径が120nm以下である、[1]〜[4]のいずれか1項に記載の免疫凝集用粒子。
[6]粒径が140nm以下、結晶子サイズ0Å〜99Åである非晶性の酸化チタンからなる粒子の表面に、ポリエチレングリコール(PEG)を結合させる工程と、前記工程後に、抗体または抗原を結合させる工程と、を備える、免疫凝集用粒子の製造方法。
[7][1]〜[6]のいずれか1項に記載の免疫凝集用粒子を用いる、免疫凝集測定試薬。
[8][7]に記載の免疫凝集測定試薬を用いる、免疫凝集測定方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ポリスチレンよりも高感度な担体素材として、非晶性の酸化チタンからなる粒子を備える免疫凝集用粒子及びその製造方法が提供される。また本発明によれば、免疫凝集用粒子を用いる免疫凝集測定試薬及び係る試薬を用いる免疫凝集測定方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1Aは感度曲線であり、図1Bは感度曲線の拡大図(低CRP濃度領域)である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、実施形態を挙げて本発明の説明を行うが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0011】
[免疫凝集用粒子]
ポリスチレンの屈折率は1.58程度であるのに対して酸化チタンの屈折率は2以上あることから、酸化チタン粒子はポリスチレンよりも高感度な担体素材として期待されていたが実用化には至っていなかった。そこで、本発明者らは酸化チタン粒子の担体素材としての実用化に向けて、酸化チタンの問題点を洗い出した結果、酸化チタン自身がポリスチレンよりも重く、この為に、抗原又は抗体と感作粒子が接触しても免疫複合体を形成できないことを見出した。これを踏まえ、感作粒子自身の重量を軽くするために、粒子の粒径に着目し、鋭意検討した結果、後述の図1A図1Bの感度曲線に見られるように、酸化チタン粒子の粒径が小さいほど感度が良好になることを知見した。この知見は、担体粒子の粒径が大きくなるほど感度が向上するというこの技術分野における技術常識に反するものであった。また本発明者らは酸化チタン粒子の結晶子サイズ0Å〜99Åが免疫凝集反応に最適な範囲であることを見出した。本発明は上記知見に基づくものである。
即ち、本発明は、非晶性の酸化チタンからなる粒子を含有し、粒子の平均粒子径が140nm以下である、免疫凝集用粒子に関する。
【0012】
ここで、「平均粒子径」とは、例えば、特許第5002208号公報で知られているような公知の方法で調整することが可能である。大きすぎると、酸化チタンの重量が増し、免疫凝集反応を起こしづらくなることから、140nm以下が好ましく、更に好ましくは120nm以下である。下限としては20nm以上が好ましい。尚、本願における「平均粒子径」は、分散剤を備える態様においては、分散剤を結合させた後の粒子を精製水に0.05重量%分散させた分散体を動的光散乱法によって測定した値を指し、分散剤を備えない態様においては、粒子を精製水に0.05重量%分散させた分散体を動的光散乱法によって測定した値を指す。
【0013】
「酸化チタン」とは、分子式がTiO2で表わされる化合物であり、酸化チタン前駆体を加水分解した後、高温で焼成することによって結晶性が高くなることが知られている。「非晶性の酸化チタン」とは、粉末X線回折法による測定において、National Institute of Standards and Technology製のシリコン標準試料(SRM640c、結晶子サイズ140000Å)を内部標準試料として5重量%となるよう混合して測定した際に、シリコン(111)面の回折角2θ=28.4°付近のピーク高さに対して、アナターゼ(101)面の回折角2θ=25.4°付近のピーク高さの比率(相対強度)が50%以下であり、かつ結晶子サイズが0Å以上99Å以下であることを言う。結晶子サイズは、X線回折法による測定結果からシェラーの式を用いて算出されるアナターゼ(101)面の結晶子サイズを意味し、結晶子径が検出限界未満であったときを0Åとする。アナターゼ以外の結晶、具体的にはルチルまたはブルッカイトが有意に検出される場合、シリコン(111)面の回折角2θ=28.4°付近のピーク高さに対して、ブルッカイト(120)面および(111)面の回折角2θ=25.3°および25.6°付近のピーク高さの比率(相対強度)が50%以下であること、またルチル結晶に関しては、最強ピークがシリコン(111)面の回折角2θ=28.4°付近のピークと重なるため、シリコン(220)面の回折角2θ=47.3°付近のピーク高さに対して、ルチル(101)面の回折角2θ=36.2°付近のピーク高さの比率を求め、当該比率が50%以下であることとする。
結晶子サイズ D(Å)=K x λ/(β x cosθ)
(式中、K:Scherrer定数、λ:使用X線管球の波長、β:結晶子のサイズによる回析線の広がり、θ:回析角 2θ/θを意味する。)
本発明の粒子は、免疫凝集反応を惹起させかつ感度を高める最適な割合になるように、非晶性の状態に調整されていることが好ましい。これらの粒子の調製は、ゾルゲル法を用いることができる。
【0014】
「結晶子サイズ」は、例えば、特許第5002208号公報で知られているような公知の方法で調整することが可能である。結晶子サイズは、結晶化が進んでいない状態から加熱処理などの温度や時間に伴って大きく成長していく。結晶子サイズが小さい場合は、まだ結晶化が十分に進んでいない状態であると考えられる。本発明における非晶性の酸化チタンとは結晶子サイズが0Å以上99Å以下であることを言い、十分に結晶化が進んでいない状態を含んでなる。
本発明における非晶性の酸化チタンは、結晶子サイズが0Å以上99Å以下であることが好ましく、更に好ましくは、0Å以上50Å以下、更により好ましくは0Å以上40Å以下である。尚、本発明における結晶子サイズは、X線回折法による測定結果からシェラーの式を用いて算出されるアナターゼ(101)面の結晶子サイズによって定義づけられる値であり、酸化チタンの非晶性を示す尺度である。
【0015】
非晶性の酸化チタンからなる粒子は、例えば、特許第5002208号公報で知られているような公知の方法で作製することが可能である。一例を挙げると噴霧熱分解法、共沈法、逆ミセル法、ホットソープ法、ゾルゲル法などである。ここで用いる原料の有機チタン化合物は、例えばチタニウムメトキシド、チタニウムエトキシド、チタニウム−ジイソプロポキシド(ビス−2,4−ペンタンジオネート)、チタニウム−ジイソプロポキシド(ビスエチルアセトアセテート)などが挙げられる。
【0016】
免疫凝集用粒子は、表面に分散剤が結合していることが好ましい。分散剤としては、チタン粒子を安定的に分散できるものなら特に限定されないが、免疫凝集反応を促進し、かつ非特異的反応を抑制するポリオキシアルキレングリコールが好ましい。ポリオキシアルキレングリコールとしては、例えば、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、それらのコポリマーあるいは誘導体などが挙げられるが、中でもポリエチレングリコール(PEG)が好ましい。PEGは、分子量及び分岐鎖で更に分類される。分子量に関しては、高すぎると抗原抗体反応を阻害する恐れがあり、小さすぎると非特異的凝集を惹起するおそれがあるので、重量平均分子量1000〜50000が好ましい。分枝鎖に関しては、直鎖型、分枝型いずれでも構わないが、よりフレキシブル性が高く、免疫凝集反応を阻害しにくい直鎖型が好ましい。このようなPEGとしては、ポリエチレングリコール、メトキシポリエチレングリコールおよびその誘導体などが挙げられる。ポリオキシアルキレングリコールは、単独で用いても複数種を混合して用いても構わない。好ましくは、メトキシポリエチレングリコール誘導体のPEGが好適に用いられる。
【0017】
上記粒子の粒子径の変動係数(CV値)は、20%以下であることが好ましい。20%を超えると、試薬調製時のロット再現性が悪く、測定試薬の再現性が低下することがある。より好ましくは15%以下である。尚、上記粒子径の変動係数は、次の式により算出される。
粒子径の変動係数(CV値)=粒子径の標準偏差/平均粒子径
【0018】
上記粒子に検出対象物質と特異的に反応する物質を担持(感作)させる方法としては、物理的な吸着および化学結合による吸着方法であれば、特に限定されず、従来公知の方法により担持させればよい。
【0019】
また、担持後には、必要に応じてウシ血清アルブミン等でブロッキング処理を施し、適当な緩衝液に分散して感作酸化チタン粒子分散液を作製することができる。この感作酸化チタン粒子分散液に、測定に用いる緩衝液および標準物質等を添付し、粒子凝集測定試薬(キット)として用いることができる。
【0020】
上記検出対象物質と特異的に反応する物質が酸化チタン粒子に担持される量としては、用いられる検出対象物質と特異的に反応する物質の種類により異なり、特に限定されない。
【0021】
抗原や抗体などを担持する上記粒子を含む測定試薬を使用するにあたっては、測定感度の向上や抗原抗体反応の促進のために種々の増感剤を含有してもよい。上記増感剤としては、メチルセルロース、エチルセルロース等のアルキル化多糖類、プルラン、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。
【0022】
上記粒子を用いることで、高度に非特異的反応が抑制されるが、更に、検体中に存在する他の物質により引き起こされる非特異的反応を抑制するため、又は、試薬の安定性を高めるために、上記測定試薬を使用するにあたっては、アルブミン(ウシ血清アルブミン、卵性アルブミン)、カゼイン、ゼラチン等のタンパク質やその分解物、アミノ酸又は界面活性剤等を含有してもよい。
【0023】
また、検出対象物質は、適当な希釈液で希釈してもよい。上記希釈液としてはpH5.0〜9.0の緩衝液であればどのようなものでも用いることができ、たとえば、リン酸緩衝液、グリシン緩衝液、トリス緩衝液、ホウ酸緩衝液、クエン酸緩衝液等が挙げられる。
【0024】
本発明の抗原や抗体などを担持する上記粒子を含む測定試薬を用いれば、検体中の検出対象物質と酸化チタン粒子に担持された検出対象物質に特異的に反応する物質との反応により生じる粒子の凝集の度合いを光学的に測定することにより、検体中の検出対象物質の反応量を測定することができる。上記光学的測定には、散乱光強度、透過光強度、吸光度等を検出できる光学機器、またはこれらの検出方法を複数備えた光学機器などに代表される一般の生化学自動分析機であればいずれも使用することができる。
【0025】
上記凝集の度合いを光学的に測定する方法としては従来公知の方法が用いられ、例えば、凝集の形成を濁度の増加としてとらえる比濁法、凝集の形成を粒度分布又は平均粒径の変化としてとらえる方法、凝集の形成による前方散乱光の変化を積分球を用いて測定し透過光強度との比を比較する積分球濁度法等が挙げられる。
【0026】
また、凝集度合いの変化量の測定法としては、例えば、異なる時点で少なくとも2つの測定値を得、これらの時点間における測定値の増加分(増加速度)に基づき凝集の程度を求める速度試験(レートアッセイ)、ある時点(通常は反応の終点と考えられる時点)で1つの測定値を得、この測定値に基づき凝集の程度を求める終点試験(エンドポイントアッセイ)等が挙げられる。なかでも、測定の簡便性、迅速性の点から比濁法による終点試験が好適である。
【0027】
[免疫凝集用粒子の製造方法]
免疫凝集用粒子の製造方法は、(イ)粒径が140nm以下、結晶子サイズ0Å〜99Åである酸化チタンからなる粒子の表面に、PEGを結合させる工程と、(ロ)前記工程後に、抗体または抗原を粒子の表面に結合させる工程と、を備える。
PEGの結合は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、物理吸着やカテコール等のアンカーを介した化学結合が挙げられる。免疫凝集反応を阻害せず、かつ脱離の問題が少ないと考えられる化学結合が好ましい。
また、抗体または抗原の結合は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、物理吸着やクリック反応を用いた化学結合が挙げられる。操作の簡便さから、物理吸着が好ましい。化学結合を用いる場合は、酸化チタン表面の水酸基に化学結合するリンカー分子を介して、抗体または抗原のアミノ基、カルボキシル基、チオール基等を利用し結合することができる。そのようなリンカー分子としては、カルボキシル基、アミノ基、リン酸基、ホスホン酸基、シラノール基、サリチル酸基、ジオール基等を有する分子があげられ、具体的な例としては、コハク酸、ポリアクリル酸、エチレンジアミン、ポリエチレンイミン、リンゴ酸、ポリリン酸、アミノアルキルホスホン酸、3−アミノプロピルメトキシシラン、アミノサリチル酸、ドーパミン、ジヒドロキシフェニルエタノール、ジヒドロキシフェニルプロピオン酸、ジヒドロキシフェニル酢酸等が挙げられる。
前記免疫凝集用粒子を用いる免疫凝集測定試薬及び免疫凝集測定方法も本発明の1つである。該免疫凝集粒子を用いることで、従来のポリスチレン粒子では得られない高感度が得られ、より低濃度の被検物質を検出する診断が可能となる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例を基に、発明の実施形態を述べるが、本発明は実施例の範囲にとどまらない。
【0029】
(操作1:粒子(1)の作製)
チタンテトラエトキシドをアセトニトリル/エタノール溶液に加えて、0.1Mチタンテトラエトキシド溶液を調整した。この溶液にエタノールおよび0.1Mアンモニア水を混合し、室温で60分間攪拌して十分に加水分解を行った。このとき、目的の平均粒子径に応じてアンモニア水量を溶液の0.01〜1%の範囲で調節した。加水分解後、80℃で3時間以上攪拌を行い、加熱還流した。さらに、20000g、10分間で遠心分離を行い固形成分約20%に濃度調整して4種の粒子(1)の分散液を得た。
4種の粒子(1)について、超純水を用いて固形成分0.01%に濃度調整し、動的光散乱測定装置(スペクトリス社製、ゼータサイザーナノZS)を用い、動的光散乱法でキュミュラント解析により平均粒子径を測定した結果、それぞれおよそ(i)70nm、(ii)110nm、(iii)140nm、(iv)290nmであった。また、粒子(1)について粉末X線回折法で測定し、シェラーの式を用いて算出されるアナターゼ(101)面の結晶子サイズを測定したところ、0Å〜20.4Åであった((i)(平均粒子径70nm):0Å、(iv)(平均粒子径290nm):20.4Å)。また、National Institute of Standards and Technology製のシリコン標準試料(SRM640c、結晶子サイズ140000Å)を内部標準試料として5重量%となるよう混合して粉末X線回折法で測定した結果、シリコン(111)面の回折角2θ=28.4°付近のピーク高さに対して、アナターゼ(101)面の回折角2θ=25.4°付近のピーク高さの比率(相対強度)はそれぞれ50%以下であった。((i)(平均粒子径70nm):1%未満、(iv)(平均粒子径290nm):3%)。
【0030】
(操作2:粒子の表面に分散剤を結合させた粒子(2)の作製)
PEGとしてポリオキシエチレン−モノアリル−モノメチルエーテルと無水マレイン酸の共重合体(平均分子量;33659−日油製)1gに水5mlを添加し加水分解後得られた溶液と1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(同仁化学製)を、超純水を用いてそれぞれ濃度が50mg/mlおよび50mMとなるように混合し調整した。調整した溶液に4−アミノサリチル酸(和光純薬工業)を濃度0.1Mになるよう混合し、室温にて24時間振とう撹拌して反応させた。反応後、得られた溶液をスペクトラ/ポア CE 透析用チューブ(分画分子量=3500、Spectrum Laboratories,Inc.)に移し、室温で24時間透析を行った。透析後、凍結乾燥して得られた粉末に25mg/mlとなるようジメチルホルムアミド(DMF:和光純薬工業)を添加して混合し、4−アミノサリチル酸結合PEG溶液とした。
次にDMFを用いて4−アミノサリチル酸結合PEG溶液が終濃度0.6mg/ml、操作1で得られた平均粒子径の異なる粒子(1)が終濃度で固形成分0.5%となるよう調整し、20mlの反応溶液とした。この反応溶液を130℃で16時間加熱反応を行った。反応終了後、反応容器温度が50℃以下になるまで冷却し、エバポレータでDMFを除去した後に、蒸留水を添加して粒子の表面に分散剤を結合させた粒子(2)を得た。このように操作1で得られた平均粒子径の異なる粒子(1)をもとにして作製した免疫凝集用粒子(2)について、超純水を用いて固形成分0.01%に濃度調整し、動的光散乱測定装置(スペクトリス社製、ゼータサイザーナノZS)を用い、動的光散乱法でキュミュラント解析により平均粒子径を測定した結果、それぞれ粒子(1)の、(i)(平均粒子径70nm)から作製した粒子:80nm、(ii)(平均粒子径110nm)から作製した粒子:120nm、(iii)(平均粒子径140nm)から作製した粒子:150nm、(iv)(平均粒子径290nm)から作製した粒子:300nm、であった。
【0031】
(操作3:粒子(2)に抗CRP抗体を結合させた免疫凝集用粒子(3)の作製)
操作2で得られた、粒子の表面に分散剤を結合させた粒子(2)が固形成分0.5%となるよう20mMのHEPES緩衝液(pH7.0)で調整した。さらに、特開2011−209140号公報に記載の方法で作製した抗CRPモノクローナル抗体を終濃度0.25mg/mlとなるよう混合して、4℃にて24時間振とう撹拌して抗体を感作させた。感作後、20000g、10分間で遠心分離を行い、溶液の90%を除去して超純水に交換する操作を3回繰り返した。氷冷下で超音波分散を繰り返し、抗CRP抗体を結合させた免疫凝集用粒子(3)を得た。
【0032】
(操作4:CRP抗原との反応性)
得られた免疫凝集用粒子(3)を5mMのMOPS緩衝液(pH7.0)で、580nm波長の吸光度が1になるように希釈調整し、測定試薬(第2試薬)を作製した。
得られた第2試薬を用いてCRP抗原標準液を測定し感度曲線(検量線)を作成した。得られた感度曲線を図1A、感度曲線の拡大図(低CRP濃度領域)を図1Bに示す。なお、測定条件は以下の通りである。
(測定条件)
装置:日立7180型自動分析装置
使用波長:570/800nm
測光ポイント:19−34(エンドポイントアッセイ)
測定温度:37℃
測定試料(0〜42mg/dLのCRP標準液):2.4uL
各CRP標準液のCRP濃度:0.3mg/dL、0.6mg/dL、3mg/dL、18mg/dL、42mg/dL
第1試薬:ナノピア(登録商標)CRP緩衝液100μL(積水メディカル社製)
第2試薬:100μL(免疫凝集用粒子(3)液)
【0033】
測定は、測定試料、第1試薬を混合撹拌した後、更に第2試薬を添加し混合攪拌した。その後、一定時間経過後の濁度を計測するエンドポイントアッセイにて実施した。
図1Bより明らかなように、粒径が80nm、120nmの両粒子では、低値検体(0.3mg/dL)においてナノピアCRP試薬よりも非常に高い感度が得られた。一方、150nm、300nmではナノピアCRP試薬よりも低い感度となった。推測の域を脱しえないが、これらの結果は、粒子の重量すなわち粒径を調整したことによって、免疫凝集反応が惹起されるようになったと考えられる。
以上から、本発明の粒子を用いることで、従来のポリスチレンでは測定できなかった領域の低濃度検体を測定できることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の免疫凝集用粒子を用いると、従来のポリスチレン粒子では得られなかった高感度を実現でき、より低濃度の測定が必要となる診断薬に利用できる。
図1