(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本件発明に係るフィルム劣化防止材及び酢酸ガス除去剤の実施の形態を説明する。
【0016】
1.フィルム劣化防止材
まず、本件発明に係るフィルム劣化防止材の実施の形態を説明する。本実施の形態のフィルム劣化防止材は、いわゆるTACフィルム等の記録用フィルムを保存する際に、フィルムの劣化を防止するために用いられるものである。特に、本件発明に係るフィルム劣化防止材は、いわゆるビネガーシンドロームの発生を防止、或いはビネガーシンドロームの進行を抑制するために好適に用いることができる。以下では、記録用フィルムとして、主として、TACフィルムを例に挙げて説明する。
【0017】
1−1.ビネガーシンドロームの要因
当該フィルム劣化防止材の構成を説明するに先立ち、ビネガーシンドロームを発生又は進行させる要因について説明する。
【0018】
ビネガーシンドロームとは、上述したように、TACの加水分解により生じるフィルムの急激な劣化現象を指す。TACの加水分解を進行させる要因として、(1)TAC合成時の触媒(硫酸)の残存、(2)雰囲気湿度及び雰囲気温度、(3)TACの加水分解に伴い発生する酢酸ガスが考えられる。
【0019】
(1)触媒(硫酸)の残存
TACは、工業的には、セルロースと無水酢酸とを反応させることにより得られる。セルロースと無水酢酸との反応の際、硫酸が触媒として用いられる場合が多い。触媒として用いられた硫酸は製造の過程で取り除かれるが、触媒痕として、TACフィルム内には僅かではあるが硫酸が残存すると考えられる。
【0020】
(2)雰囲気湿度及び雰囲気温度
TACフィルムを保存容器内に保存する場合、この保存容器内の雰囲気湿度及び雰囲気温度が一定の条件に達した場合、上述した硫酸の存在等により、TACの加水分解反応が起こり易くなる。
【0021】
(3)酢酸ガス
TACは、加水分解反応により、セルロースと酢酸とに分解する。酢酸ガスはTACの加水分解を促進する触媒として作用する。このため、保存容器内の酢酸ガス濃度が高くなるとTACの加水分解反応が促進されて、TACフィルムの劣化が急激に進行する。
【0022】
1−2.フィルム劣化防止材の構成材料
(1)概要
上記のビネガーシンドロームの要因を鑑みれば、TACフィルムに残存する硫酸を除去することにより、ビネガーシンドロームの発生を防止することが考えられる。しかし、硫酸を除去するのは困難であることから、ビネガーシンドロームの発生防止又は進行抑制を図るには、保存雰囲気中の酢酸ガスを取り除くことにより、保存雰囲気を酢酸ガス濃度が低い状態に維持する必要がある。
【0023】
また、上述したように、TACフィルムの劣化が始まると、保存容器内にはTACフィルムから酢酸ガスが継続的に放散される。大型TACフィルムから発生する酢酸ガスの総発生量は、小型TACフィルムよりも極めて大きく、その酢酸ガスの放散速度も速い。したがって、このような大型TACフィルムの劣化を防止するには、大型TACフィルムの酢酸ガスの放散速度よりも速く雰囲気中の酢酸ガスを除去することができ、単位質量当たりの酢酸ガスの除去可能量の大きいフィルム劣化防止材を提供する必要がある。当該観点の下、本件発明者等は、アルカリ金属の炭酸塩又はアルカリ金属の炭酸水素塩を酢酸ガス除去剤として採用する本件発明に係るフィルム劣化防止材に想到した。
【0024】
(2)アルカリ金属の炭酸塩及びアルカリ金属の炭酸水素塩
a)適用可能なアルカリ金属の炭酸塩及びアルカリ金属の炭酸水素塩の種類
まず、本件発明に係るアルカリ金属の炭酸塩及びアルカリ金属の炭酸水素塩について説明する。
【0025】
アルカリ金属の炭酸塩として、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、
及び炭酸カリウム
のいずれかを用い
る。アルカリ金属の炭酸塩として、入手が容易であり、且つ、コスト的にも有利であるという観点から、炭酸ナトリウム又は炭酸カリウムが好ましく、取り扱いが容易であるという観点から、炭酸ナトリウムがさらに好ましい。
【0026】
アルカリ金属の炭酸水素塩として、炭酸水素ナトリウム又は炭酸水素カリウムを用い
る。取り扱いが容易であるという観点から、炭酸水素ナトリウム
が好ましい。
【0027】
b)酢酸ガス除去反応
まず、アルカリ金属の炭酸塩及びアルカリ金属の炭酸水素塩の酢酸ガス除去反応について説明する。
【0028】
アルカリ金属の炭酸塩の酢酸ガス除去反応は、下記の反応式(1)で示すことができる。なお、式中の「M」はアルカリ金属を示し、Li,Na,Kのいずれかである。
【0029】
M
2CO
3+2CH
3COOH→2CH
3COOM+CO
2+H
2O …(1)
【0030】
また、アルカリ金属の炭酸水素塩の酢酸ガス除去反応は、下記の反応式(2)で示すことができる。
【0031】
MHCO
3+CH
3COOH→CH
3COOM+CO
2+H
2O …(2)
【0032】
反応式(1)及び反応式(2)で示されるように、アルカリ金属の炭酸塩又はアルカリ金属の炭酸水素塩が、雰囲気中の酢酸ガスと反応すると、アルカリ金属の酢酸塩と二酸化炭素と水が生成される。このような作用により、雰囲気中の酢酸ガスは、アルカリ金属の炭酸塩又はアルカリ金属の炭酸水素塩によって除去される。
【0033】
上記反応の際、雰囲気中に存在する水蒸気や、酢酸ガス除去剤の表面で反応生成物として生じた水によって、反応生成物として生じたアルカリ金属の酢酸塩が電離してアルカリ金属イオンと酢酸イオンを生じ(下記反応式(3))、さらに酢酸イオンが水と反応する(下記反応式(4))。このとき、アルカリ金属イオンは全て電離するのに対し、弱酸である酢酸イオンはその一部が水由来の水素イオンと結合して元の酢酸に戻る。その結果、酢酸ガス除去剤の表面は塩基性となるため、反応式(1)及び(2)で示される酢酸ガス反応がさらに進行し易くなる。また、同じく反応生成物である二酸化炭素は、酢酸ガス除去剤の表面から雰囲気中に放散される。その結果、酢酸ガス除去剤の表面に存在し水に混合したアルカリ金属の酢酸塩は、酢酸ガス除去剤の表面から除去される。
CH
3COOM→CH
3COO
−+M
+ …(3)
CH
3COO
−+H
2O→CH
3COOH+OH
− …(4)
【0034】
このように、本件発明では、反応式(1)及び反応式(2)で示される酢酸ガス除去反応が右側に進行し易いことから、雰囲気中の酢酸ガスを迅速に除去することができる。
【0035】
このため、本件発明では、単位質量当たりの酢酸ガスの除去可能量を従来に比して大きくすることができる。また、これらのアルカリ金属の炭酸塩又はアルカリ金属の炭酸水素塩による酢酸ガス除去速度は、大型TACフィルムからの酢酸ガス放散速度よりも速く、雰囲気中の酢酸ガス濃度を低く維持することが可能である。
【0036】
したがって、本件発明によれば、従来と比較して、単位質量当たりの酢酸ガスの除去可能量が大きく、且つ、雰囲気中の酢酸ガ
スを迅速に除去することができるフィルム劣化防止材を提供することができる。このため、大型TACフィルムから大量の酢酸ガスが継続的に放散される場合であっても、酢酸ガス除去反応を継続的に行うことができ、保存容器内を酢酸ガス濃度が低い状態に維持することができる。
【0037】
これに対し、本件出願人が以前提案したカルボン酸塩、例えば、ポリアクリル酸ナトリウムを酢酸ガス除去剤として用いた場合、酢酸ガス除去反応は、下記の反応式(5)で示すことができる。
【0038】
−[CH
2−CH(COONa)]
n− + nCH
3COOH
→−[CH
2−CH(COOH)]
n− + nCH
3COONa …(5)
【0039】
反応式(5)に示すように、ポリアクリル酸ナトリウムが雰囲気中の酢酸ガスと反応すると、ポリアクリル酸ナトリウム中のNaが酢酸中のHと置換し、酢酸ナトリウムが生成する。酢酸ガス除去剤がポリアクリル酸ナトリウムの場合には、アルカリ金属の炭酸塩及びアルカリ金属の炭酸水素塩の場合とは異なり、酢酸ガス除去反応によって水も二酸化炭素等の気体も生成されない。
【0040】
このため、反応生成物である酢酸ナトリウムは、酢酸ガス除去剤の表面に堆積し易い。酢酸ガス除去反応が進むにつれて、酢酸ガス除去剤の表面が酢酸ナトリウムによって被覆され、酢酸との反応を物理的に妨げることになると考えられる。
【0041】
したがって、ポリアクリル酸ナトリウムは、アルカリ金属の炭酸塩及びアルカリ金属の炭酸水素塩と比較すると、単位質量当たりの酢酸ガスの除去可能量が小さい。このため、ポリアクリル酸ナトリウムは、小型TACフィルムから少量(例えば約80ppm)の酢酸ガスが放散される場合には有効であっても、大型TACフィルムから継続的に大量の酢酸ガスが放散される場合には、ポリアクリル酸ナトリウムの使用量によっては、保存容器内を酢酸ガス濃度が低い状態に維持することができない。
【0042】
また、ポリアクリル酸ナトリウムは、微粉末の状態で用いられるため、酢酸ガスとの接触面積を確保することができ、酢酸ガス除去速度が速い。しかしながら、ポリアクリル酸ナトリウムは、微粉末であるために、一般的にアルカリ金属の炭酸塩及びアルカリ金属の炭酸水素塩と比較すると、所定量の酢酸ガスを除去するために必要な容量(体積)が大きい。
【0043】
したがって、ポリアクリル酸ナトリウムを大型TACフィルム用劣化防止材として用い、大型TACフィルムから放出される大量の酢酸ガスを十分に除去するためには、大量の酢酸ガス除去剤が必要となり、酢酸ガス除去剤の体積が大きくなる。このため、大型TACフィルムを保存する保存容器の体積を大きくする必要があり、好ましくない。また、通常のサイズの大型TACフィルムの保存容器において、大型TACフィルムの収容を妨げない程度の量のポリアクリル酸ナトリウムを用いたのでは、大型TACフィルムから放出される大量の酢酸ガスを十分に除去することができない。
【0044】
同様に、アルカリ土類金属の炭酸塩、例えば、炭酸カルシウムを酢酸ガス除去剤として用いた場合に、酢酸ガス除去反応は下記の反応式(6)で示すことができる。
【0045】
CaCO
3+2CH
3COOH
→(CH
3COO)
2Ca+CO
2+H
2O …(6)
【0046】
反応式(6)に示すように、炭酸カルシウムが酢酸と反応すると、アルカリ金属の炭酸塩の場合と同様に、アルカリ土類金属の酢酸塩(酢酸カルシウム)と二酸化炭素と水とが生成する。しかしながら、アルカリ土類金属の炭酸塩は、アルカリ金属の炭酸塩と比較すると、水に対する溶解性が低い。そのため、アルカリ金属の炭酸塩を酢酸ガス除去剤として用いた場合の方が酢酸との反応性を向上できると考えられる。
【0047】
また、アルカリ土類金属の炭酸塩は、アルカリ金属の炭酸塩と比較すると、アルカリ性が弱いため、酢酸ガス除去反応に対する反応性が低い。さらに、アルカリ金属の酢酸塩(例えば、酢酸ナトリウム)は1つのアルカリ金属イオンに対して1つの酢酸イオンで構成されるのに対し、アルカリ土類金属の酢酸塩(例えば、酢酸カルシウム)は1つのアルカリ土類金属イオンに対して2つの酢酸イオンで構成される。このため、アルカリ土類金属の酢酸塩が酢酸ガス除去剤の表面に堆積した場合には、酢酸ガス除去剤の表面がより密に被覆され、酢酸ガス除去剤の表面から除去されないと考えられる。
【0048】
したがって、アルカリ土類金属の炭酸塩は、アルカリ金属の炭酸塩及びアルカリ金属の炭酸水素塩と比較すると、単位質量当たりの酢酸ガスの除去可能量が小さい。このため、アルカリ土類金属の炭酸塩は、大型TACフィルムから継続的に大量の酢酸ガスが放散される場合には、保存容器内を酢酸ガス濃度が低い状態に維持することができない。
【0049】
同様に、粒子状の水酸化ナトリウムを酢酸ガス除去剤として用いた場合には、酢酸ガス除去反応は下記の反応式(7)で示すことができる。
【0050】
NaOH+CH
3COOH→CH
3COONa+H
2O …(7)
【0051】
水酸化ナトリウムは、アルカリ性が強いので、酢酸とは容易に反応する。しかしながら、水酸化ナトリウムは、空気中の水分によって潮解する。水酸化ナトリウムは、保存容器内で潮解してTACフィルムに接触した場合に、TACフィルムが損傷するおそれがある。したがって、水酸化ナトリウムは、取り扱いが困難であり、フィルム劣化防止材という用途には適していない。
【0052】
1−3.フィルム劣化防止材の製品態様
次に、本件発明に係るフィルム劣化防止材の製品態様について説明する。当該フィルム劣化防止材は、以下のような製品態様を有し、上記酢酸ガス除去剤としてのアルカリ金属の炭酸塩又はアルカリ金属の炭酸水素塩を成分とするフィルム劣化防止剤の取り扱い性を向上したものであることが好ましい。なお、ここでいうフィルム劣化防止剤は、少なくとも上記酢酸ガス除去剤を成分とするものであり、上記酢酸ガス除去剤の他に、フィルム劣化防止性能を向上するための他の成分や、雰囲気中の水分を調整するための調湿剤等を含んでもよい。ここでは、アルカリ金属の炭酸塩又はアルカリ金属の炭酸水素塩、或いは、アルカリ金属の炭酸塩又はアルカリ金属の炭酸水素塩と他の成分との混合物を指して、フィルム劣化防止剤と称する。
【0053】
(1)第一の製品態様
本件発明に係るフィルム劣化防止材の第一の製品態様として、上記フィルム劣化防止剤を熱可塑性樹脂と混練成形して得られるものとすることができる。
【0054】
熱可塑性樹脂は、特に、限定することなく公知のものを用いることができる。例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリカーボネート(PC),ポリアセタール(ポリオキシメチレン POM)、ポリテレフタル酸ブチレン(PBT)、ポリテレフタル酸エチレン(PET)、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリアミド(PA)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−メタクリレート共重合体、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS)、ポリエステル、ポリアクリル酸エステル、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)等を用いることができ、これらは1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0055】
これらの中でも、成形品に対するガスの透過性が適切である樹脂を採用することが好ましく、当該観点から、ポリオレフィン樹脂、より好ましくは、低密度ポリエチレン樹脂を用いることが好ましい。
【0056】
なお、フィルム劣化防止剤を熱可塑性樹脂と混練成形する際には、公知の方法を採用することができ、特に限定されるものではない。
【0057】
(2)第二の製品態様
また、本件発明に係るフィルム劣化防止材は、上記フィルム劣化防止剤を容器の中に封入して成るものであってもよい。
【0058】
容器としては、例えば、シート状の包装部材を袋状に形成した袋体や、シート状の包装部材を箱状に形成した箱体を挙げることができる。袋体又は箱体は、その内部にフィルム劣化防止剤を封入した状態で、フィルム劣化防止剤がその外部に漏出しないように形成されたものであることが好ましい。
【0059】
袋体又は箱体を構成するシート状の包装部材としては、紙、布、不織布、或いは、食品等の包装に用いられる樹脂等から構成される包装用フィルム等を用いることができる。これらの包装部材についても、袋体又は箱体の内部に対するガスの透過性が適切である材料であることが好ましい。包装部材としては紙の場合は中性紙、さらに、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド等からなる布、不織布及び包装用フィルムを用いることができる。ここで、ガス透過性の低いポリエステル、ポリアミド等からなる包装用フィルムについてはごく微小のピンホールを開けて用いることが好ましい。より具体的には、ポリエチレンとしては低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)、ポリプロピレンとしては無延伸ポリプロピレン(OPP)、二軸延伸ポリプロピレン(CPP)等が好ましく用いられる。これらの合成樹脂フィルムは単層フィルムのみならず、異なる材質の包装用フィルムを積層した積層フィルムとしても用いられる。これらの積層フィルムとしては、OPP/CPP、OPP/LDPE、PET/LDPE、PET/CPP等の二層フィルム、LDPE/OPP/LDPE、LDPE/CPP/LDPE、CPP/OPP/LDPE等の三層以上の包装用フィルムが挙げられる。
【0060】
(3)第三の製品態様
さらに、本件発明に係るフィルム劣化防止材は、上記フィルム劣化防止材をシート状に加工して成るものであってもよい。フィルム劣化防止材は、例えば、上記フィルム劣化防止剤を上述の熱可塑性樹脂等と共に混練して、シート状に加工したものであってもよい。シート状に加工する方法に特に限定はない。
【0061】
但し、本件発明に係るフィルム劣化防止材は、上記例示した3つの製品態様に限定されるものではなく、どのような製品態様であってもよい。例えば、粉状のフィルム劣化防止剤そのものであってもよく、通気性を有する包装容器内にフィルム劣化防止剤を収容させたものであってもよく、特に限定されるものではない。さらに、上記いずれの製品態様を採用した場合であっても、フィルム劣化防止材には以下のインジケーター類を設けることが好ましい。
【0062】
(4)インジケーター類
上述した各製品態様のいずれを採用してもよいが、これらのフィルム劣化防止材には雰囲気中の酸性度を表すインジケーターを設けることが好ましい。インジケーターは、フィルム劣化防止材において、外部から視認可能な位置に設けられることが好ましい。雰囲気中の酸性度や湿度を、外部から容易に視認することができるようにするためである。
【0063】
酸性度を表すインジケーターとして、例えば、紙等のシート状媒体に、雰囲気中のpHによって呈色が変化する色素(pH指示薬)等を含む溶液を担持させたものを用いることができる。すなわち、pH試験紙と同様の構成を採用することができる。
【0064】
上記説明した実施の形態は、本件発明の一態様であり、本件発明の趣旨を逸脱しない範囲内において適宜変更することができる。例えば、用途・形状等は特に限定されるものではなく、適宜、種々の機能を付与するための添加剤等を含んでもよいのは勿論である。
【0065】
以下では実施例を挙げて、本件発明をより具体的に説明するが、下記実施例に本件発明が限定されるものではないのは勿論である。また、以下の実施例では、主として、酢酸ガス除去剤として用いるアルカリ金属の炭酸塩の酢酸ガス除去能力について評価した結果を示す。
【実施例1】
【0066】
実施例1では、酢酸ガス除去
剤として、アルカリ金属の炭酸塩である炭酸ナトリウム(Na
2CO
3、試薬特級、和光純薬工業株式会社製、199−01585)を採用した。そして、炭酸ナトリウムを50g計量して、市販のコピー用紙からなる箱体(寸法10cm×10cm×3cm)に収容し、酢酸ガス除去能力を評価するための試料1とした。
【実施例2】
【0067】
実施例2では、酢酸ガス除去
剤として、アルカリ金属の炭酸塩である炭酸カリウム(K
2CO
3、試薬特級、和光純薬工業株式会社製、162−03495)を採用した。そして、炭酸ナトリウム50gを実施例1と同一の箱体に収容し、試料2とした。
【実施例3】
【0068】
実施例3では、酢酸ガス除去
剤として、アルカリ金属の炭酸水素塩である炭酸水素ナトリウム(NaHCO
3、日本薬局方、和光純薬工業株式会社製、192−13805)を採用した。そして、炭酸水素ナトリウム50gを実施例1と同一の箱体に収容し、試料3とした。
【実施例4】
【0069】
実施例4では、酢酸ガス除去
剤として、アルカリ金属の炭酸水素塩である炭酸水素カリウム(KHCO
3、試薬特級、和光純薬工業株式会社製、166−03275)を採用した。そして、炭酸水素カリウム50gを実施例1と同一の箱体に収容し、試料4とした。
【0070】
[比較例1]
比較例1では、酢酸ガス除去
剤として、モレキュラーシーブ5A(和光純薬工業株式会社製、130−06075)を採用した。そして、モレキュラーシーブ5A100gを実施例1と同一の箱体に収容し、実施例1の試料と比較するための比較試料1とした。
【0071】
[比較例2]
比較例2では、酢酸ガス除去
剤として、ポリアクリル酸ナトリウム(Na−PAA、和光純薬工業株式会社製、196−02955、重合度22000〜70000)を採用した。そして、ポリアクリル酸ナトリウムを50g計量して、実施例1と同一の箱体に収容し、実施例1の試料と比較するための比較試料2とした。
【0072】
[比較例3]
比較例3では、酢酸ガス除去
剤として、炭酸カルシウム(CaCO
3、試薬特級、和光純薬工業株式会社製、030−00385)を採用した。そして、炭酸カルシウムを50g計量して、実施例1と同一の箱体に収容し、実施例1の試料と比較するための比較試料3とした。
【0073】
[比較例4]
比較例4では、酢酸ガス除去
剤として、粒子状の水酸化ナトリウム(NaOH、試薬特級、和光純薬工業株式会社製、198−13765、純度97%)を採用した。そして、水酸化ナトリウムを100g計量して、実施例1と同一の箱体に収容し、実施例1の試料と比較するための比較試料4とした。
【0074】
<評価>
以上の試料1〜3及び比較試料1〜4を用いて、各試料の酢酸ガス除去能力について評価した。評価方法及び評価結果の順に説明する。
【0075】
(1)評価方法
まず、保存容器に収容された大型TACフィルムから大量の酢酸ガスが継続的に発生している状態を再現するために、容量12.17Lのガラス製のデシケーター内に、経年劣化した映画フィルム(以下、劣化映画フィルムという)を収容した。デシケーター内の酢酸ガス濃度は、劣化映画フィルムを収容した直後から時間の経過と共に上昇し、その後ほぼ定常状態になった。但し、劣化映画フィルムの保存状況及び質量によって、デシケーター内に充満する酢酸ガス平衡濃度は異なっていた。また、同一の劣化映画フィルムを繰り返し用いる場合、当該酢酸ガス除去剤による酢酸ガスの中和が繰り返し起こることで、劣化映画フィルムから放散される酢酸ガス平衡濃度は変動した。そこで、本評価に際しては、まず、空の状態のデシケーター内に劣化映画フィルムを収容した後、デシケーター内部の酢酸ガス濃度が一定になるまで放置した。このときの酢酸ガス濃度を、試料を載置する直前の濃度とした。
【0076】
デシケーター内の酢酸ガス濃度が一定になった後、デシケーター内に試料を載置した。そして、試料を載置した直後のデシケーター内の酢酸ガス濃度を酢酸ガス検知管(ガステック株式会社製:No81,No81L)及びテドラーバッグを用いて測定した。その後、一定時間毎にデシケーター内の酢酸ガス濃度を測定し、記録した。
【0077】
(2)評価結果
以下、図面を参照しながら、各試料及び比較試料の評価結果について説明する。
【0078】
a)試料1
図1に、試料1を用いたときのデシケーター内の酢酸ガス濃度変化を示す。
【0079】
図1に示すように、酢酸ガス除去剤として炭酸ナトリウムを用いた場合、試料を載置する直前に約12000ppmであった酢酸ガス濃度は、試料を載置してから3時間が経過した時点で約40ppmに低下した。その後、デシケーター内の酢酸ガス濃度は約40ppmの状態で維持され、150時間経過後においてもデシケーター内の酢酸ガス濃度は約40ppmであった。
【0080】
このように、炭酸ナトリウムは、デシケーター内の酢酸ガス濃度を速やかに低下させることができると共に、デシケーター内の酢酸ガス濃度を長時間に亘って低く維持することができることが確認された。これは、炭酸ナトリウムの単位質量当たりの酢酸ガス除去量が大きく、且つ、炭酸ナトリウムの酢酸ガス除去速度が速いためであると考えられる。
【0081】
b)試料2
図2に、試料2を用いたときのデシケーター内の酢酸ガス濃度変化を示す。
【0082】
図2に示すように、酢酸ガス除去剤として炭酸カリウムを用いた場合、試料を載置する直前に約800ppmであった酢酸ガス濃度は、試料を載置してから4時間が経過した時点で約160ppmに低下した。その後170時間が経過するまでデシケーター内の酢酸ガス濃度は160ppm以下の状態で維持された。
【0083】
このように、炭酸カリウムは、デシケーター内の酢酸ガス濃度を速やかに低下させることができると共に、デシケーター内の酢酸ガス濃度を長時間に亘って低く維持することができることが確認された。これは、炭酸カリウムの単位質量当たりの酢酸ガス除去量が大きく、且つ、炭酸カリウムの酢酸ガス除去速度が速いためであると考えられる。
【0084】
c)試料3
図3に、試料3を用いたときのデシケーター内の酢酸ガス濃度変化を示す。
【0085】
図3に示すように、酢酸ガス除去剤として炭酸水素ナトリウムを用いた場合、試料を載置する直前に12000ppmであった酢酸ガス濃度は、試料を載置してから5日(120時間)が経過した時点で1200ppmに低下した。その後、デシケーター内の酢酸ガス濃度は8日(192時間)経過後に2000ppmになったが、その後は継続して2000ppm以下の状態で維持された。
【0086】
このように、炭酸水素ナトリウムは、デシケーター内の酢酸ガス濃度を速やかに低下させることができ、デシケーター内の酢酸ガス濃度を長時間に亘って低く維持することができることが確認された。これは、炭酸水素ナトリウムの単位質量当たりの酢酸ガス除去量が大きく、且つ、炭酸水素ナトリウムの酢酸ガス除去速度が速いためであると考えられる。
【0087】
d)試料4
図4に、試料4を用いたときのデシケーター内の酢酸ガス濃度変化を示す。
【0088】
図4に示すように、酢酸ガス除去剤として炭酸水素カリウムを用いた場合、試料を載置する直前に14000ppmであった酢酸ガス濃度は、試料を載置してから5日(120時間)が経過した時点で1200ppmに低下した。その後は継続して1200ppmを維持し、30日(720時間)が経過した時点でも1200ppmであった。
【0089】
このように、炭酸水素カリウムは、デシケーター内の酢酸ガス濃度を速やかに低下させることができ、デシケーター内の酢酸ガス濃度を長時間に亘って低く維持することができることが確認された。これは、炭酸水素カリウムの単位質量当たりの酢酸ガス除去量が大きく、且つ、炭酸水素カリウムの酢酸ガス除去速度が速いためであると考えられる。
【0090】
e)比較試料1
図5に、比較試料1を用いたときのデシケーター内の酢酸ガス濃度変化を示す。
【0091】
図5に示すように、酢酸ガス除去剤としてモレキュラーシーブ5Aを用いた場合、試料を載置する直前に約1600ppmであった酢酸ガス濃度は、試料を載置してから約3時間が経過した時点で約440ppmまで大きく低下した。しかしながら、酢酸ガス濃度は、50時間以降は再び上昇して約96時間が経過した時点で約1300ppmまで上昇し、約200時間が経過した時点でも約1000ppmであった。
【0092】
このように、モレキュラーシーブ5Aは、デシケーター内の酢酸ガス濃度を速やかに低下させることができることが確認された。しかしながら、モレキュラーシーブ5Aは、デシケーター内の酢酸ガス濃度を長時間に亘って低く維持することはできないことが確認された。
【0093】
モレキュラーシーブ5Aは、アルカリ金属の炭酸塩及びアルカリ金属の炭酸水素塩と比較すると、単位質量当たりの酢酸ガス除去量(酢酸吸着量)が少ない上に、酢酸ガスの吸着と放出が繰り返し起こる。このため、モレキュラーシーブ5Aを酢酸ガス除去剤として用いた場合、モレキュラーシーブ5Aの酢酸ガス除去可能量よりも大量の酢酸ガスがTACフィルムから放散されたときには、デシケーター内を酢酸ガス濃度が低い状態に維持することができないと考えられる。また、TACフィルムから放散される酢酸ガス量や放散速度と、モレキュラーシーブ5Aの酢酸ガス除去量又は酢酸ガス除去速度の差に応じて、デシケーター内の酢酸ガス濃度が変動したと考えられる。
【0094】
f)比較試料2
図6に、比較試料2を用いたときのデシケーター内の酢酸ガス濃度変化を示す。
【0095】
図6に示すように、酢酸ガス除去剤としてポリアクリル酸ナトリウムを用いた場合、試料を載置する直前に約500ppmであった酢酸ガス濃度は、試料を載置してから約3時間が経過した時点で約110ppmまで大きく低下し、その後、150時間までは90〜130ppmを維持していた。しかしながら、酢酸ガス濃度は、150時間以降は再び上昇して約240時間が経過した時点で約500ppmまで上昇し、約278時間が経過した時点でも約200ppmだった。
【0096】
このように、ポリアクリル酸ナトリウムは、デシケーター内の酢酸ガス濃度を速やかに低下させることができることが確認された。このことから、ポリアクリル酸ナトリウムは、小型TACフィルムの劣化防止、例えば、80ppm程度の少量の酢酸ガスを除去するには有効であると考えられる。しかしながら、ポリアクリル酸ナトリウムは、デシケーター内の酢酸ガス濃度を長時間に亘って低く維持することはできないことが確認された。ポリアクリル酸ナトリウムは、アルカリ金属の炭酸塩及びアルカリ金属の炭酸水素塩と比較すると、単位質量当たりの酢酸ガスの除去可能量が小さい。このため、ポリアクリル酸ナトリウムの酢酸ガス除去可能量よりも大量の酢酸ガスがTACフィルムから放散されたときには、デシケーター内を酢酸ガス濃度が低い状態に維持することができないと考えられる。また、TACフィルムから放散される酢酸ガス量又は放散速度と、ポリアクリル酸ナトリウムの酢酸ガス除去量又は酢酸ガス除去速度の差に応じて、デシケーター内の酢酸ガス濃度が変動したと考えられる。
【0097】
g)比較試料3
図7に、比較試料3を用いたときのデシケーター内の酢酸ガス濃度変化を示す。
【0098】
図7に示すように、酢酸ガス除去剤として炭酸カルシウムを用いた場合、試料を載置する直前に約800ppmであった酢酸ガス濃度は、試料を載置してから約1時間が経過した時点で約200ppmまで大きく低下した。しかしながら、酢酸ガス濃度は、3時間以降は再び上昇して約28時間が経過した時点で約700ppmまで上昇し、約160時間が経過した時点でも約700ppmだった。
【0099】
このように、炭酸カルシウムは、デシケーター内の酢酸ガス濃度を速やかに低下させることができることが確認された。このことから、炭酸カルシウムは、小型TACフィルムの劣化防止、例えば、80ppm程度の酢酸ガスを除去するには有効であると考えられる。しかしながら、炭酸カルシウムは、デシケーター内の酢酸ガス濃度を長時間に亘って低く維持することはできないことが確認された。炭酸カルシウムは、アルカリ金属の炭酸塩及びアルカリ金属の炭酸水素塩と比較すると、単位質量当たりの酢酸ガスの除去可能量が小さい。このため、炭酸カルシウムが備える酢酸ガスの除去可能量よりも大量の酢酸ガスがTACフィルムから放散されたときには、デシケーター内を酢酸ガス濃度が低い状態に維持することができないと考えられる。
【0100】
h)比較試料4
図8に、比較試料4を用いたときのデシケーター内の酢酸ガス濃度変化を示す。
【0101】
図8に示すように、酢酸ガス除去剤として水酸化ナトリウムを用いた場合、試料を載置する直前に約1600ppmであった酢酸ガス濃度は、試料を載置してから約1時間が経過した時点で約400ppmまで大きく低下した。しかしながら、酢酸ガス濃度は、4時間以降は再び上昇して約24時間が経過した時点で約600ppmまで上昇し、その後は低下して約100時間が経過した時点で約300ppmとなった。
【0102】
このように、水酸化ナトリウムは、デシケーター内の酢酸ガス濃度を速やかに低下させることができると共に、デシケーター内の酢酸ガス濃度を長時間に亘って低く維持することができることが確認された。しかしながら、水酸化ナトリウムは、上述したように、取り扱いが困難であるため、酢酸ガス除去剤という用途に適していない。
【0103】
以上から、試料1〜3は、デシケーター内の酢酸ガス濃度を長時間に亘って低く維持することができることが確認された。