特許第6683926号(P6683926)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6683926
(24)【登録日】2020年3月31日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】ローラチェーン
(51)【国際特許分類】
   F16G 13/06 20060101AFI20200413BHJP
【FI】
   F16G13/06 C
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-137454(P2016-137454)
(22)【出願日】2016年7月12日
(65)【公開番号】特開2018-9606(P2018-9606A)
(43)【公開日】2018年1月18日
【審査請求日】2019年4月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003355
【氏名又は名称】株式会社椿本チエイン
(74)【代理人】
【識別番号】100153497
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 信男
(74)【代理人】
【識別番号】100092200
【弁理士】
【氏名又は名称】大城 重信
(74)【代理人】
【識別番号】100110515
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 益男
(74)【代理人】
【識別番号】100189083
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 圭介
(72)【発明者】
【氏名】佐野 弘和
【審査官】 小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−309488(JP,A)
【文献】 特開2012−072798(JP,A)
【文献】 実開昭58−065447(JP,U)
【文献】 実開昭59−079657(JP,U)
【文献】 特開平10−078089(JP,A)
【文献】 米国特許第02909938(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0296087(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16G 13/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右一対の内プレートに前後一対のブシュを連結して成る複数の内リンクと、左右一対の外プレートに前後一対の連結ピンを連結して成る複数の外リンクと、前記ブシュに外嵌されるローラとを備え、前記ブシュ内に前記連結ピンを挿入することで前記内リンクおよび前記外リンクをチェーン長手方向に交互に屈曲可能に連結したローラチェーンであって、
前記ローラは、ローラ軸方向およびローラ周方向に連続的に板状に繋がった筒状に形成され、
前記ローラは、ローラ両端部の内径とローラ中央部の内径とが異なるとともに、ローラ両端部の外径とローラ中央部の外径とが異なるように湾曲して形成され、スプロケットとの接触時に、前記ブシュとスプロケットとの間で挟まれて弾性変形することを特徴とするローラチェーン。
【請求項2】
前記ローラは、前記ローラ両端部の内径が前記ローラ中央部の内径よりも大きくなるとともに、前記ローラ両端部の外径が前記ローラ中央部の外径よりも大きくなるように、湾曲して形成されていることを特徴とする請求項1に記載のローラチェーン。
【請求項3】
前記ローラは、前記ローラ両端部の内径が前記ローラ中央部の内径よりも小さくなるとともに、前記ローラ両端部の外径が前記ローラ中央部の外径よりも小さくなるように、湾曲して形成されていることを特徴とする請求項1に記載のローラチェーン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の内リンクおよび外リンクを無端状に連結したローラチェーンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、左右一対の内プレートに前後一対のブシュを連結して成る複数の内リンクと、左右一対の外プレートに前後一対の連結ピンを連結して成る複数の外リンクと、ブシュに外嵌されるローラとを備え、ブシュ内に連結ピンを挿入することで内リンクおよび外リンクをチェーン長手方向に交互に屈曲可能に連結したローラチェーンが知られている。
【0003】
このようなローラチェーンでは、チェーン駆動時に、スプロケットに対するローラの衝突に起因して騒音が発生することが知られており、この騒音を減少する目的で、図9(a)、(b)に示すように、バネ線材をコイル状に巻いたコイルばね状のローラ180をブシュ140に外嵌することが提案されている(例えば特許文献1、2を参照)。
【0004】
このローラ180では、スプロケットSとの衝突時に、ローラ180を構成する各リング状部180aが径方向に弾性変形することにより、スプロケットSとの衝突に起因した衝撃荷重を緩和し、スプロケットSとの噛み合い時に発生する騒音を低減する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−287637号公報
【特許文献2】米国特許第2,909,938号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、このようなコイルばね状のローラ180では、スプロケットSとの衝突時に、ローラ180を構成する各リング状部180aが均等に弾性変形するわけではなく、図9(a)、(b)に示すように、スプロケットSと接触する頻度の高い、大径のリング状部180aに偏って弾性変形が生じるため、当該大径のリング状部180aに塑性変形や破損が生じ易く、その結果、ローラ180の寿命が短くなってしまうという問題があった。
【0007】
また、大径のリング状部180aが楕円形状等に塑性変形した場合には、ブシュ140に対するローラ180の回転が鈍くなり、スプロケットSとの間の抵抗を低減するというローラ本来の機能が低下するとともに、ローラ180に部分的な破損等が更に生じ易くなる。
【0008】
また、近年、自動車エンジン内で使用されるタイミングチェーン等の用途においては、自動車エンジンの低燃費化等を目的としたチェーンの軽量化に対する要望が強くなってきている。これに伴い、ローラ180についても軽量化が求められており、コイルばね状のローラ180の場合、細いバネ線材からローラ180を形成する等の対応を図る必要があり、その結果、各リング状部180aの強度が低下し、上述した問題がより一層顕著になっていた。
【0009】
そこで、本発明は、これらの問題点を解決するものであり、簡素な構成で、スプロケットとの衝突に起因した衝撃荷重を緩和しつつも、ローラの長寿命化を図り、しかも、スプロケットと内プレートとの干渉を抑制するローラチェーンを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、左右一対の内プレートに前後一対のブシュを連結して成る複数の内リンクと、左右一対の外プレートに前後一対の連結ピンを連結して成る複数の外リンクと、前記ブシュに外嵌されるローラとを備え、前記ブシュ内に前記連結ピンを挿入することで前記内リンクおよび前記外リンクをチェーン長手方向に交互に屈曲可能に連結したローラチェーンであって、前記ローラは、ローラ軸方向およびローラ周方向に連続的に板状に繋がった筒状に形成され、前記ローラは、ローラ両端部の内径とローラ中央部の内径とが異なるとともに、ローラ両端部の外径とローラ中央部の外径とが異なるように湾曲して形成され、スプロケットとの接触時に、前記ブシュとスプロケットとの間で挟まれて弾性変形することにより、前記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0011】
本願請求項1に係る発明によれば、スプロケットとの接触時に、スプロケットおよびブシュとの間で挟まれて弾性変形するように、ローラが湾曲して形成されていることにより、ローラが弾性変形してバネ性を発揮し、スプロケットとの衝突に起因した衝撃荷重を緩和することが可能であるため、スプロケットとの噛み合い時に発生する騒音を低減することができる。
また、ローラが、ローラ軸方向およびローラ周方向に連続的に板状に繋がった筒状に形成されていることにより、従来のコイルばね状のローラのように、スプロケットから受ける衝撃力が大径のリング状部に偏って作用する場合とは異なり、スプロケットから受ける衝撃力をローラ全体の弾性変形によって吸収することが可能であるため、ローラの特定箇所の塑性変形や破損を抑制して、ローラの長寿命化を図ることができる。
【0012】
本請求項2に係る発明によれば、ローラ両端部の内径がローラ中央部の内径よりも大きくなるとともに、ローラ両端部の外径がローラ中央部の外径よりも大きくなるように、ローラが湾曲して形成されていることにより、ローラ両端部側からローラとブシュとの間に潤滑油が入り込み易くなるため、スプロケットとの接触時には、ローラとブシュとの間の潤滑油自体に、衝撃を緩和および減衰する機能を発揮させ、スプロケットとの衝突に起因した衝撃荷重をより一層緩和することができる。
また、本請求項2に係る発明では、ローラが、ローラ軸方向およびローラ周方向に連続的に板状に繋がった筒状に形成されているとともに、ローラ両端部の外径がローラ中央部の外径よりも大きくなるように、ローラが湾曲して形成されていることにより、スプロケットとの接触時に、ローラ軸方向に面状に連続するローラ外周面によって、スプロケットをローラ軸方向の内側に向けて円滑に誘導することが可能であるため、内プレートに対するスプロケットの干渉を抑制し、騒音の発生を防止することができる。
本請求項3に係る発明によれば、ローラ両端部の内径がローラ中央部の内径よりも小さくなるとともに、ローラ両端部の外径がローラ中央部の外径よりも小さくなるように、ローラが湾曲して形成されていることにより、ローラとブシュとの間に潤滑油を保持し易くなるため、スプロケットとの接触時には、ローラとブシュとの間の潤滑油自体に、衝撃を緩和および減衰する機能を発揮させ、スプロケットとの衝突に起因した衝撃荷重をより一層緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1実施形態に係るローラチェーンの内リンクを示す断面斜視図。
図2】第1実施形態に係るローラチェーンを示す断面図。
図3】第1実施形態において、スプロケットとローラとの接触状態を示す説明図。
図4】第1実施形態のローラの成形方法の一例を示す説明図。
図5】第2実施形態に係るローラチェーンの内リンクを示す断面斜視図。
図6】第2実施形態に係るローラチェーンを示す断面図。
図7】第2実施形態において、スプロケットとローラとの接触状態を示す説明図。
図8】第2実施形態のローラの成形方法の一例を示す説明図。
図9】従来のローラチェーンにおいて、スプロケットとローラとの接触状態を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の第1実施形態に係るローラチェーン10について、図1図4に基づいて説明する。
【0015】
第1実施形態のローラチェーン10は、自動車エンジン用のタイミングチェーンとして構成され、図1図2に示すように、左右一対の内プレート30に前後一対の円筒状のブシュ40を連結して成る複数の内リンク20と、左右一対の外プレート60に前後一対の連結ピン70を連結して成る複数の外リンク50と、ブシュ40に外嵌される金属製のローラ80とを備えている。これら複数の内リンク20および複数の外リンク50は、ブシュ40内に連結ピン70を挿入することで、チェーン長手方向に交互に屈曲可能に連結されている。
【0016】
各ローラ80は、図1図3に示すように、ローラ軸方向およびローラ周方向に連続的に板状に繋がった筒状に形成されている。
各ローラ80は、ローラ両端部がラッパ状に広がるように湾曲して形成され、ローラ両端部の内径がローラ中央部の内径よりも大きいとともに、ローラ両端部の外径がローラ中央部の外径よりも大きくなるように、湾曲して形成されている。
ローラ80の外周面は、ローラ軸方向におけるローラ両端部側からローラ中央部側に向けて滑らかに縮径するように、凹曲面状に形成されている。
ローラ80の内周面は、ローラ軸方向におけるローラ両端部側からローラ中央部側に向けて滑らかに縮径するように、凸曲面状に形成されている。
また、ローラ80は、その肉厚が全面的にほぼ均一に形成されている。
【0017】
本実施形態では、ローラ80は、板材を円筒状に形成した後、図4に示すように、ローラ両端部からローラ80の内周に治具T1を挿入することにより形成される。
なお、ローラ80の具体的な成形方法は、上記に限定されず、如何なるものでもよい。
【0018】
このようにして得られた第1実施形態のローラチェーン10では、スプロケットSとの接触時に、図3に示すように、ローラ80の外周面がローラ両端部付近の2箇所のスプロケット接触部81でスプロケットSに接触するとともに、ローラ80の内周面がローラ中央部付近の1箇所のブシュ接触部82でブシュ40に接触する。
このように、スプロケットSとの接触時に、ローラ軸方向にずれた2箇所のスプロケット接触部81および1箇所のブシュ接触部82で、スプロケットSおよびブシュ40に接触し、ブシュ40およびスプロケットSに挟まれることにより、ローラ80がそのほぼ全体で弾性変形し、スプロケットSとの衝突に起因した衝撃荷重を緩和することができる。
【0019】
なお、ローラ80の具体的形状については、上記に限定されず、ローラ両端部の内径がローラ中央部の内径よりも大きいとともに、ローラ両端部の外径がローラ中央部の外径よりも大きくなるように湾曲し、スプロケットSとの接触時に、ブシュ40とスプロケットSとの間で挟まれて弾性変形するように、ローラ80が形成されているものであれば如何なるものでもよい。
例えば、上記では、ローラ軸方向におけるローラ80の全体が湾曲しているものとして説明したが、ローラ中央部については湾曲させることなく、ローラ軸方向の外側に向けて拡径するようにローラ両端部側のみを湾曲させてもよい。この場合、ローラ中央部が円筒状のまま維持されるため、ローラ中央部(ブシュ接触部82)において、ローラ軸方向の所定距離に亘って、ローラ80の内周面とブシュ40の外周面とが接触するため、ブシュ40に対するローラ80の傾きが抑制される。
【0020】
次に、本発明の第2実施形態に係るローラチェーン10について、図5図8に基づいて説明する。ここで、第2実施形態では、ローラ80以外の構成については、前述した第1実施形態と全く同じであるため、ローラ80以外の構成については、その説明を省略する。
【0021】
第2実施形態のローラチェーン10では、ローラ80が、図5図7に示すように、ローラ軸方向およびローラ周方向に連続的に板状に繋がった筒状に形成されている。
各ローラ80は、ローラ中央部が樽状に膨らむように湾曲して形成され、ローラ両端部の内径がローラ中央部の内径よりも小さいとともに、ローラ両端部の外径がローラ中央部の外径よりも小さくなるように、湾曲して形成されている。
ローラ80の外周面は、ローラ軸方向におけるローラ両端部側からローラ中央部側に向けて滑らかに拡径するように、凸曲面状に形成されている。
ローラ80の内周面は、ローラ軸方向におけるローラ両端部側からローラ中央部側に向けて滑らかに拡径するように、凹曲面状に形成されている。
また、ローラ80は、その肉厚が全面的にほぼ均一に形成されている。
【0022】
本実施形態では、ローラ80は、板材を円筒状に形成した後、図8に示すように、ローラ両端部に対向配置された2つの治具T2を接近させて、ローラ両端部の径が小さくなるようにローラ80に力を加えることにより形成される。
なお、図8に示す治具T3は、2つの治具T2を位置決めするためのものである。
また、ローラ80の具体的な成形方法は、上記に限定されず、如何なるものでもよい。
【0023】
このようにして得られた第2実施形態のローラチェーン10では、スプロケットSとの接触時に、図7に示すように、ローラ80の外周面がローラ中央部付近の1箇所のスプロケット接触部81でスプロケットSに接触するとともに、ローラ80の内周面がローラ両端部付近の2箇所のブシュ接触部82でブシュ40に接触する。
このように、スプロケットSとの接触時に、ローラ軸方向にずれた1箇所のスプロケット接触部81および2箇所のブシュ接触部82で、スプロケットSおよびブシュ40に接触し、ブシュ40およびスプロケットSに挟まれることにより、ローラ80がそのほぼ全体で弾性変形し、スプロケットSとの衝突に起因した衝撃荷重を緩和することができる。
【0024】
なお、ローラ80の具体的形状については、上記に限定されず、ローラ両端部の内径がローラ中央部の内径よりも小さいとともに、ローラ両端部の外径がローラ中央部の外径よりも小さくなるように湾曲し、スプロケットSとの接触時に、ブシュ40とスプロケットSとの間で挟まれて弾性変形するように、ローラ80が形成されているものであれば如何なるものでもよい。
例えば、上記では、ローラ軸方向におけるローラ80の全体が湾曲しているものとして説明したが、ローラ中央部については湾曲させることなく、ローラ軸方向の外側に向けて縮径するようにローラ両端部側のみを湾曲させてもよい。この場合、ローラ中央部が円筒状のまま維持されるため、ローラ中央部(スプロケット接触部81)において、ローラ軸方向の所定距離に亘って、ローラ80の外周面とスプロケットSとが接触するため、スプロケットSに対するローラ80の傾きが抑制される。
【0025】
以上、本発明の実施形態を詳述したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行なうことが可能である。
【0026】
例えば、上述した実施形態では、ローラチェーンが自動車エンジン用のタイミングチェーンであるものとして説明したが、本発明のローラチェーンの用途はこれに限定されず、伝動用チェーンや搬送用チェーン等の如何なるものでもよい。
また、上述した実施形態では、チェーン幅方向に内リンクを1つ配置しているが、チェーン幅方向に内リンクを複数配置してもよい。
また、上述した実施形態では、ブシュが円筒状に形成されているが、ブシュの具体的形状は、上記に限定されず、例えば、ブシュの軸方向中央部が樽状に膨らむように湾曲したもの等の如何なるものでもよい。
また、ローラは、板材を筒状に丸めることで形成したものであってもよく、また、シームレスに形成したものであってもよい。
【符号の説明】
【0027】
10 ・・・ ローラチェーン
20 ・・・ 内リンク
30 ・・・ 内プレート
40 ・・・ ブシュ
50 ・・・ 外リンク
60 ・・・ 外プレート
70 ・・・ 連結ピン
80 ・・・ ローラ
81 ・・・ スプロケット接触部
82 ・・・ ブシュ接触部
S ・・・ スプロケット
T1〜3 ・・・ 治具
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9