特許第6683983号(P6683983)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6683983
(24)【登録日】2020年3月31日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】撥液性の膜
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/20 20060101AFI20200413BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20200413BHJP
   B65D 65/02 20060101ALI20200413BHJP
【FI】
   B32B27/20 Z
   B32B27/30 Z
   B65D65/02 E
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-182148(P2018-182148)
(22)【出願日】2018年9月27日
(65)【公開番号】特開2020-49824(P2020-49824A)
(43)【公開日】2020年4月2日
【審査請求日】2019年8月21日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000208455
【氏名又は名称】大和製罐株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】502435454
【氏名又は名称】株式会社SNT
(73)【特許権者】
【識別番号】591176225
【氏名又は名称】桜宮化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092901
【弁理士】
【氏名又は名称】岩橋 祐司
(72)【発明者】
【氏名】白鳥 世明
(72)【発明者】
【氏名】藤本 幸司
(72)【発明者】
【氏名】堀田 芳生
(72)【発明者】
【氏名】松川 義彦
(72)【発明者】
【氏名】金森 進一郎
(72)【発明者】
【氏名】橋本 香奈
(72)【発明者】
【氏名】城戸 淳
(72)【発明者】
【氏名】小林 充伸
【審査官】 清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−122106(JP,A)
【文献】 特開平11−029722(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0076840(US,A1)
【文献】 米国特許第06462115(US,B1)
【文献】 特開2015−214340(JP,A)
【文献】 特開2018−135144(JP,A)
【文献】 特開2013−208818(JP,A)
【文献】 特開2016−166308(JP,A)
【文献】 特開2013−091289(JP,A)
【文献】 特開2018−058648(JP,A)
【文献】 特開2017−114106(JP,A)
【文献】 特許第6522841(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
C09D 1/00−10/00
101/00−201/10
B65D 65/00−65/46
B05D 1/00−7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材表面に形成される撥液性の膜であって、
(A)前記基材表面に微粒子および熱可塑性樹脂によって凹凸に形成されたアンダーコート部と、
(B)(i)前記微粒子よりも小さい粒径の多数の親水性微粒子によって形成された微細な凹凸構造部、(ii)前記微細な凹凸構造部の表面と結合する撥液性部位、(iii)前記アンダーコート部の表面と前記微細な凹凸構造部との間に介在し、および、前記微細な凹凸構造部と前記撥液性部位との結合部分を覆うように分布されたバインダー樹脂、を有するトップコート部と、
を備える撥液性の膜。
【請求項2】
前記微細な凹凸構造の表面には、前記撥液性部位の集合部分と、前記親水性微粒子の親水性表面の露出部分とが、分布している、請求項記載の撥液性の膜。
【請求項3】
前記微細な凹凸構造の表面には、前記撥液性部位の集合部分と、前記バインダー樹脂に含まれる親水性部位の集合部分とが、分布している、請求項記載の撥液性の膜。
【請求項4】
O/W型エマルションの付着防止に適する、請求項または記載の撥液性の膜。
【請求項5】
前記親水性微粒子は親水性シリカ微粒子であり、前記バインダー樹脂はビニル系樹脂である、請求項1からのいずれかに記載の撥液性の膜。
【請求項6】
前記バインダー樹脂は塩化ビニル樹脂および酢酸ビニル樹脂の共重合体である、請求項記載の撥液性の膜。
【請求項7】
請求項1からのいずれかに記載の撥液性の膜を表面に有する包装材。
【請求項8】
請求項1からのいずれかに記載の撥液性の膜を蓋材表面に有する包装容器。
【請求項9】
請求項1からのいずれかに記載の撥液性の膜を表面に有する物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐久性を改善した撥液性の膜に関する。
【背景技術】
【0002】
食品、医薬品、化粧品、日用品などの生活品包装材用フィルムやシートには様々な機能が求められているが、特に、高い粘性を持った液体や半固体、ゲル状物質等の内容物が付着しにくく、接触部分に内容物が残留しにくいものが強く求められている。付着防止機能が劣っている包装材用フィルムやシートを使用すると、例えば、内容物がケーキなどのクリーム、ヨーグルト、プリン、ゼリー、シロップ、団子のタレといった食品であれば、包装材用フィルムやシートに付着・残留したまま廃棄されてしまい、食品ロスの問題やプラスチックリサイクルの促進を阻害する問題が生じる。また、内容物を取り出す際に、包装用フィルムやシートに付着した内容物で、手、服または周辺にあるものを汚してしまうという問題もある。さらに、内容物が残留した包装材用フィルムやシートを放置すると、腐敗や異臭が発生したり、虫などが集まったり、様々な悪影響を招いてしまう。包装材用フィルムやシートに付着する内容物の量を少しでも減少させることができる技術は、非常に重要である。
【0003】
例えば特許文献1には、物品表面に粒径100nm以上の微粒子から形成された一次凹凸と、粒径7〜90nmの微粒子から形成された二次凹凸と、二次凹凸にコーティングされた撥油剤とを備えた撥油性コーティングの発明が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−140625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1のような微粒子および撥油剤で形成された膜の場合、実用化するうえで必要な耐久性を改善する必要がある。本発明の目的は、耐久性に優れた撥液性(撥水性および撥油性を指す)の膜、およびそれを表面に用いた包装材、包装容器、物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の一態様に係る撥液性の膜は、
基材表面に形成される撥液性の膜であって、
(A)前記基材表面に微粒子および熱可塑性樹脂によって凹凸に形成されたアンダーコート部と、
(B)(i)前記微粒子よりも小さい粒径の多数の親水性微粒子によって形成された微細な凹凸構造部、(ii)前記微細な凹凸構造部の表面と結合する撥液性部位、(iii)前記アンダーコート部の表面と前記微細な凹凸構造部との間に介在し、および、前記微細な凹凸構造部と前記撥液性部位との結合部分を覆うように分布されたバインダー樹脂、を有するトップコート部と、
を備えている。
【0008】
以上の構成の撥液性の膜によれば、基材表面または凹凸に形成されたアンダーコート部の表面に、親水性微粒子による微細な凹凸構造部と、その表面に結合した撥液性部位と、撥液性部位を有さないバインダー樹脂と、からなる撥液性コーティングが形成され、膜の表面の撥液性部位による撥液性が維持される。特に、膜の表面には、多数の親水性微粒子によって細かな凹凸構造が形成されており、その凹凸構造の表面には、多数の撥液性部位が外側に向かって配向された状態になっているので、撥液性部位が優れた撥液性を発揮することができる。加えて、バインダー樹脂が、親水性微粒子による微細な凹凸構造部を、基材表面またはアンダーコート部の表面に強固に固定するとともに、撥液性部位を、微細な凹凸構造部の表面に強固に固定する。従って、耐久性を改善された撥液性の膜を提供することができる。
【0009】
撥液性の膜をアンダーコート部およびトップコート部の2層構造にする場合、アンダーコート部には、トップコート部の親水性微粒子よりも大きい粒径の微粒子が含まれている。こうすれば、アンダーコート部の比較的大きな粒径の微粒子で形成される凹凸構造の表面に、トップコート部の親水性微粒子による微細な凹凸構造が形成され、全体として大きな凹凸構造が得られる。アンダーコート部の微粒子の最小粒径を、トップコート部の親水性微粒子の最大粒径よりも大きくすることが好ましい。両者の微粒子が形成する凹凸構造が、全体として起伏の激しい凹凸構造となり、より撥液性を高めるという効果がある。
【0010】
撥液性の膜において、親水性微粒子による微細な凹凸構造の表面には、撥液性部位の集合部分と、親水性微粒子の親水性表面の露出部分(親水性部位)とが、分布した状態になっていてもよい。または、バインダー樹脂に親水性部位が含まれている場合は、親水性微粒子による微細な凹凸構造の表面に、撥液性部位の集合部分と、バインダー樹脂に含まれる親水性部位の集合部分とが、分布した状態になっていてもよい。これらの構成の場合、特に、O/W型エマルションの付着防止に適する撥液性の膜を提供することができる。微細な凹凸構造の表面に撥液性部位と親水性部位とが例えば交互に分布した状態になっていれば、その親水性部位にエマルションの連続相の水が引き寄せられ、エマルション中のミセルが撥液性の膜に接触して壊れてしまうことを防止しやすい。また、撥液性の膜をO/W型エマルションから剥がす際や、撥液性の膜からO/W型エマルションを取り除く際には、表面に分布した撥液性部位によって、O/W型エマルションの付着が防止されるので、O/W型エマルションが撥液性の膜に残留しにくくなる。特に、撥液性の膜が長時間、O/W型エマルションと接触した状態が続いた後でも、O/W型エマルションの付着防止機能を発揮することができる。
なお、一実施例の撥液性の膜を用いてケーキクリームの付着試験を実施した際、ケーキクリームに接触していた表面に、結露が生じたことが確認された。
【0011】
撥液性の膜において、親水性微粒子を親水性シリカ微粒子として、バインダー樹脂をビニル系樹脂としてもよい。特に、バインダー樹脂を、塩化ビニル樹脂および酢酸ビニル樹脂の共重合体としてもよい。親水性シリカ微粒子を用いることで、他の親水性酸化物微粒子よりも撥液性に優れた撥液性の膜を提供することができる。また、バインダー樹脂による耐久性の効果と塗布性との両方を考慮すると、親水性シリカ微粒子とビニル系樹脂の組み合わせが好ましい。
【0012】
本発明の他の一態様に係る包装材は、その表面に上記の撥液性の膜を用いて得られる。また、本発明の他の一態様に係る包装容器は、上記の撥液性の膜を蓋材表面として用いる。上記の撥液性の膜は、例えば、パウチ用フィルムまたはシート、ケーキ包装用フィルムまたはシートなど、様々な物品の表面を形成するのに用いられる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、耐久性に優れた撥液性の膜、およびそれを表面に用いた包装材、包装容器、物品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】一実施形態に係る撥液性フィルムの概略断面図である。
図2】上記の撥液性フィルムのトップコート部の概略断面図である。
図3】実施例6のクリーム付着試験の結果を示す写真である。
図4】実施例7の撥液性フィルム表面の電子顕微鏡画像および元素分布を示す画像。
図5】実施例10の撥液性フィルム表面の電子顕微鏡画像である。
図6】実施例11の撥液性フィルム表面の電子顕微鏡画像である。
図7】塗液の成分同士の懸濁性および分散性試験の結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
図1は、一実施形態に係る撥液性フィルムの概略断面図である。図1に示すように、撥液性フィルムは、基材と、この基材の少なくとも一方の面に形成される撥液性の膜10とを備えている。
【0016】
基材は、支持体となる物品であれば特に制限はなく、例えば樹脂を含むフィルム、紙、または金属箔からなる層を少なくとも1層以上有する。樹脂を含むフィルムとしては、スチレン系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ナイロン系樹脂、エチレンビニルアルコール共重合体及びアクリル系樹脂から少なくとも1種選択される樹脂フィルムが用いられる。基材が多層である場合、その積層方法は特に限定されず、ドライラミネート法やウエットラミネート法、ヒートラミネート法などを用いることができる。また、基材に無機・金属蒸着処理などが施されていてもよい。基材には印刷が施されていてもよく、その印刷方式も特に限定されるものではなく、グラビア印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷など公知のものを用いることができる。
【0017】
基材の厚さは特に限定されるものではないが、フィルムとして1〜200μm、シートとして200〜10000μm程度が一般的に使用される。
【0018】
撥液性の膜10は、比較的大きな凹凸構造を形成するアンダーコート90と、微細な凹凸構造を形成するトップコート60との2層構成である。
【0019】
アンダーコート90は、微粒子としてのシリカビーズ70と、熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物80とからなる。シリカビーズ70には、結晶性シリカ、非晶性シリカ(乾式シリカ、湿式シリカ、シリカゲル等)があるが特に限定されず公知のものを適宜使用できる。シリカビーズ70の形状は特に限定されず、多面体や凹凸形など様々な形状を選択できる。また、多孔質性のシリカビーズを用いてもよい。
熱可塑性樹脂としては特に限定されないが、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリスチレン、ナイロン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリアセタール、ポリメチルメタクリレート、メタクリルスチレン共重合体、酢酸セルロース、ポリウレタン、ポリカーボネートなどが用いられる。
【0020】
樹脂組成物80の厚さは、特に限定されないが、シリカビーズ70の粒径と比べて、幾らか小さくなる。シリカビーズ70が全て樹脂組成物80に埋まっているのではなく、シリカビーズ70の一部が樹脂組成物80から出ている状態になっている。
【0021】
アンダーコート90は、シリカビーズ70および樹脂組成物80を溶媒に溶かしまたは分散させたアンダーコート塗液を、基材に塗布し乾燥して形成される。溶媒としては使用する熱可塑性樹脂を溶解し又は分散させるものであればよく、特に限定されないが、n−ヘキサンやシクロヘキサン、トルエン、ベンゼン、キシレンなどの炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)などのケトン類、アルコール類などがある。
【0022】
トップコート60は、微細な凹凸構造30と撥液性部位40とバインダー樹脂50とを有する層であり、アンダーコート90の比較的大きな凹凸構造の表面を覆うように形成されている。微細な凹凸構造30は、数珠状に接続した多数の親水性微粒子20で形成され、多孔質構造になっている。この凹凸構造30は、バインダー樹脂50によってアンダーコート90の表面に強固に固定されている。また、撥液性部位40は、微細な凹凸構造30の表面と結合しており、その結合部分がバインダー樹脂50で覆われるとともに、撥液性部位40の先端は外側に向かって配向している。
【0023】
トップコート60は、親水性シリカ微粒子と、金属アルコキシドであるジルコニウムアルコキシド、チタニウムアルコキシド、シリコンアルコキシドなどと、撥液性部位40であるフルオロ基を有するパーフルオロアルキルシラン(FAS)と、バインダー樹脂50としての塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体と、水、加水分解触媒としての塩酸を、有機溶媒に溶かしまたは分散させたトップコート塗液を、アンダーコート90の表面に塗布し乾燥して形成される。
【0024】
微細な凹凸構造30を形成する複数の親水性微粒子20は、親水性シリカ微粒子同士が金属アルコキシドによって接続されて凝集体になったものである。例えばシリコンアルコキシドは、シリカ(Si0)となって微細な凹凸構造中に残存する。ここでは、市販品の親水性シリカ微粒子を用いると説明したが、その他、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム(アルミナ)などを用いて、凹凸構造を形成してもよい。
【0025】
パーフルオロアルキルシラン(FAS)は、塗布過程で、その反応基部分(Si)が親水性シリカ微粒子の表面や金属アルコキシドと結び付き、撥液性部位40であるフルオロ基が外側に向かって配向した状態で、親水性微粒子20の微細凹凸構造30の表面に共有結合されている。
【0026】
パーフルオロアルキルシラン(FAS)は、アルキルシランのアルキル基のいくつかがフッ化炭素基(パーフルオロ基)に置換されたものであり、例えば、CF3(CH2)2Si(OCH3)3、CF3(CF2)5(CH2)2Si(OCH3)3、CF3(CF2)7(CH2)2Si(OCH3)3、CF3(CF2)7(CH2)2SiCH3(OCH3)2、CF3(CF2)3(CH2)2Si(OCH3)3、CF3(CF2)7(CH2)2SiCl3が挙げられるが、その中でも、C8のへプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン、C6のトリデカフルオロオクチルトリメトキシシラン、あるいはC4のノナフルオロヘキシルトリメトキシシランが好ましく、安全面と撥油特性からすればC6のトリデカフルオロオクチルトリメトキシシランがより好ましい。
【0027】
バインダー樹脂50としては、ここではビニル系樹脂を用いると説明したが、他の樹脂を用いても構わない。
【0028】
トップコート塗液の調製の際、固形分を100%とした場合のバインダー樹脂の割合は、概ね1〜50%であることが好ましい。バインダー樹脂50が多いと、微細な凹凸構造30がバインダー樹脂50に埋没してしまって撥液性に影響が出る。一方、バインダー樹脂50が少ないと、微細な凹凸構造30や撥液性部位40の固定に影響が出て、十分な耐久性が得られない。本実施形態においては、微細な凹凸構造30の表面を部分的にバインダー樹脂50が覆う程度が好ましく、親水性微粒子20の親水性の表面が部分的に露出されていることが好ましい。
【0029】
親水性微粒子20の粒径であるが、平均一次粒子径が5〜100nmであることが好ましい。平均一次粒子径が上記範囲であれば、親水性シリカ微粒子が適度な凝集状態となって、多孔質状の微細な凹凸構造が形成され易くなる。
【0030】
トップコート60の厚さは特に限定されないが、0.1〜3.0μmであってもよい。
【0031】
トップコート塗液の調製の際の溶媒としては、固形成分を溶解し又は分散させるものであればよく、特に限定されるものではない。
【0032】
本実施形態の撥液性フィルムによれば、凹凸に形成されたアンダーコート90の表面に、親水性微粒子20による微細な凹凸構造30と、その表面に結合した撥液性部位40と、バインダー樹脂50と、からなるトップコート60が形成され、撥液性部位40による撥液性が維持される。特に、トップコート60の表面には、多数の親水性微粒子20によって細かな凹凸構造30が形成されており、その凹凸構造30の表面には、多数の撥液性部位40が外側に向かって配向された状態になっているので、撥液性部位40が優れた撥液性を発揮することができる。加えて、バインダー樹脂50が、親水性微粒子20による微細な凹凸構造30を、アンダーコート90の表面に強固に固定するとともに、撥液性部位40を、微細な凹凸構造30の表面に強固に固定する。従って、耐久性を改善された撥液性フィルムを提供することができる。
【0033】
アンダーコート90には、トップコート60の親水性微粒子20よりも大きい粒径のシリカビーズ70が含まれている。こうすれば、アンダーコート90のシリカビーズ70で形成される凹凸構造の表面に、トップコート60の親水性微粒子20による微細な凹凸構造30が形成され、全体として大きな凹凸構造が得られる。シリカビーズ70の最小粒径を、親水性微粒子20の最大粒径よりも大きくするとよい。両者の微粒子が形成する凹凸構造が、全体として起伏の激しい凹凸構造となり、より撥液性を高めるという効果がある。
【0034】
以上により本実施形態では、耐久性に優れた撥液性フィルムが得られ、それを表面に用いた包装材、包装容器、物品を提供することができる。
【0035】
なお、本実施形態の撥液性フィルムは、生活品包装材用フィルムまたはシートに適している。例えば、食品や化粧品、洗剤やシャンプーリンスなどが入っているパウチ用の包装材として、または、例えば、ヨーグルトやプリン、ゼリーなどの食品容器の蓋材用の包装材として、本実施形態の撥液性フィルムを利用できる。また、クリームを使用したケーキ用の包装材として、団子等の粘性のあるタレがかかっている食品用の包装材としても、本実施形態の撥液性フィルムを利用できる。
【0036】
図2に、本実施形態の撥液性フィルムのトップコート60の概略断面図を示す。図2を使って、生クリームなどのO/W型エマルションに対する付着防止性について説明する。トップコート60の断面構造において、バインダー樹脂50は、基材またはシリカビーズ70の表面と親水性微粒子20との間に介在し、および、親水性微粒子20と撥液性部位40との結合部分を覆うように分布されている。なお、親水性微粒子20同士は、シリコンアルコキシドに由来するシリカ22によって数珠状に連結している。
空気雰囲気下では、その表面自由エネルギーの関係から撥液性部位40が外側に向かって配向する。撥液性部位40同士は凝集しやすく、図2のように、撥液性部位40の集合体が、親水性微粒子20からなる微細な凹凸構造30の表面のところどころに分布するようになる。一方、微細な凹凸構造30の表面のところどころには親水性微粒子20の親水性の表面が露出した状態になっている。
【0037】
例えば、撥液性フィルムに生クリーム(O/W型エマルション)が接触している状態では、生クリーム21中のミセル(油滴)は安定した状態を保つことができる。撥液性フィルムのトップコート60と生クリームとの界面において、親水性微粒子20の親水性の表面(親水性部位)が生クリームの連続相である水(または水蒸気)を引き寄せるので、生クリーム中のミセルがトップコート60に接触して壊れてしまうことを防止しやすい。また、撥液性フィルムを生クリームから剥がす際や、撥液性フィルムから生クリームを取り除く際には、表面に分布した撥液性部位40によって、生クリームの付着が防止されるので、生クリームが撥液性フィルムに残留しにくくなる。特に、撥液性フィルムが長時間、生クリームと接触した状態が続いた後でも、生クリームの付着防止機能が発揮される。
【0038】
仮に、本実施形態の撥液性フィルムのトップコート60の表面が撥液性部位40だけで覆われているとすれば、水よりも親和性のあるミセルが撥液層に接触する可能性が高まる。そうするとミセルが壊れてしまい、生クリームの付着防止性が低下すると考えられる。これに対して、図2のように、トップコート60の表面に撥液性部位と親水性部位とが交互に分布したような状態であれば、その親水性部位が、生クリームの連続相である水を引き寄せて、ミセルが撥液層に接触する可能性を低くする効果が生じ、結果として、生クリームに対する付着防止性に優れた撥液性フィルムが得られる。
【0039】
あるいは、バインダー樹脂50に親水性部位が含まれている場合は、トップコート60の表面に、撥液性部位40の集合部分と、バインダー樹脂50に含まれる親水性部位の集合部分とが、交互に分布した状態になっていても、同様の効果が得られる。
【実施例】
【0040】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。表1は、実施例に用いたアンダーコート塗液の配合表である。
【0041】
【表1】
【0042】
表2は、実施例に用いたトップコート塗液の配合表である。バインダー樹脂として、塩化ビニルと酢酸ビニルの共重合樹脂(塩酢ビ樹脂)を使用し、親水性微粒子として、平均一次粒子径が40nmの市販品の親水性フュームドシリカ微粒子を使用し、金属アルコキシドとしてオルケイ酸テトラエチル(TEOS)を使用し、撥水性部位を含有するシラン化合物にパーフルオロアルキルシラン(FAS)を使用した。また、必要な加水分解触媒および溶媒を用いて、表2のとおり配合した。
【0043】
【表2】
【0044】
表3に、各サンプルに用いた基材、アンダーコート、トップコート、塗布量を示す。
【0045】
【表3】
【0046】
<評価方法>
表3の参考例1、実施例2〜11および比較例1のサンプルを下記の方法で試験し、評価した。
(1)水の接触角:撥液性フィルムの上に純水10μLを載せて、接触角計CA−DT
(協和界面科学社製)を用いて測定した。
(2)水の転落角:撥液性フィルムの上に純水10μLを載せて、基材を傾けたとき、
純水が転落したときの基材の傾斜角度を測定した。
(3)油の接触角:撥液性フィルムの上にオレイン酸10μLを載せて、接触角計CA
−DT(協和界面科学社製)を用いて測定した。
(4)密着性 :撥液性フィルムにJIS Z 1522:2009で規定されたセロテープ12mm
(登録商標、ニチバン:CT-12)を貼付後、セロテープを剥がした
ときの塗膜剥離の有無を測定した。
【0047】
【表4】
【0048】
表4のとおり、参考例1は、基材にトップコートのみを形成したものであるが、
水の接触角は150度、
水の転落角は 15度、
油の接触角は128度となり、
一定以上の撥液性が得られることが分かった。
【0049】
また、実施例2〜7は、参考例1と同じトップコートを使用して塗装したものであるが、アンダーコートがあることにより
水の接触角は150度以上、
水の転落角は 12度以内、
油の接触角は133度以上、となり、参考例1よりも撥液性が向上していることが分かる。
【0050】
また、実施例8〜11では、トップコートの撥液性部位の添加量が異なるが、大きく撥液性の低下は見られなかったため、クリームの付着は未処理のフィルムと比較した。
【0051】
参考例1、実施例2〜実施例11では、セロテープによる剥離は見られなかったが、バインダー樹脂を含まない比較例1は、セロテープにより全面剥離が見られた。バインダー添加の効果があった。
【0052】
<クリーム付着試験>
次に、表3のサンプルを下記の方法で試験し、評価した。
(A)クリーム付着試験:アクリル板にクリーム3gを載せて、参考例1、実施例2〜4の各サンプル(大きさ60mm×60mm)で蓋をし、10分後の付着量を測定した。測定結果を表5に示す。
(B)クリーム付着試験:市販品の4号サイズのホールケーキに、実施例6のサンプルをケーキ帯として用いた場合のクリーム付着量を未処理のフィルムと比較した。(図3に試験結果の写真を示す。)
(C)クリーム付着試験:市販品のショートケーキ凍結品を室温で解凍し、実施例8および9の各サンプル(大きさ55mm×70mm)をケーキ円周部に貼り付けて、72時間冷蔵保管し、付着量を測定した。測定結果を表6に示す。
(D)クリーム付着試験:アクリル板にクリーム3gを載せて、実施例10〜11の各サンプル(大きさ60mm×60mm)で蓋をし、10分後の付着量を測定した。測定結果を表7に示す。
【0053】
アンダーコートおよびトップコートのいずれも塗布しない未処理の基材に対しても同様に試験した。どのクリーム付着試験においても、未処理のものとの比較により、サンプルへのクリームの付着が大幅に低減できたことが分かった。
【0054】
【表5】

【0055】
【表6】
【0056】
【表7】
【0057】
<表面の観察>
次に、図4(A)に実施例7の撥液性フィルムの電子顕微鏡画像(SEM像)を示す。その白枠内について、F元素、Si元素およびC元素の分布を示す画像(エネルギー分散型X線分析(EDX)による元素分析)を図4(B)〜(D)に示す。図4(A)のSEM像の明るい部分がシリカであり、図4(B)〜(D)の各元素の分布についても、明るい部分に対象元素が多く分布している。
特に、図4(B)によれば、シリカビーズの配置に関わらず、撥液性部位(フッ素元素)が表面の全体にほぼ平均に分布していることが分かる。このような撥液性部位の分布が、優れた撥液性の理由であると考えられる。
【0058】
図5、6に実施例10、11の撥液性フィルムのSEM像(3500倍〜10万倍)を示す。3500倍の画像によると、シリカビーズのほとんどがトップコートによって覆われていることが分かる。また、画像全体を覆っているのは親水性微粒子であり、5万倍の画像をみると、個々の親水性微粒子が100nm程度の粒径になって、全体的に多孔質状の凹凸構造を形成していることが分かる。
【0059】
<塗液の懸濁性および分散性試験>
次に、トップコート塗液の成分について、表8の組み合わせに従って塗液を調製し、懸濁性および分散性について評価した。
表8および図7に示すように、どの成分の組み合わせであっても、塗液における分離は無かった。このため、トップコート塗液は調製が容易で、塗布性に優れることが分かる。
懸濁性については、親水性シリカ微粒子を含む塗液はいずれも親水性シリカ微粒子による白濁が認められた。一方、親水性シリカ微粒子を含まない成分の組み合わせについては、FAS/TEOSおよびFAS/塩酢ビについては透明となり、TEOS/塩酢ビについては懸濁した。従って、FAS/塩酢ビについては分離もせず、透明であったことから、トップコートに両者はある程度の親和性を有すると判断され、FASと親水性微粒子の表面との結合部分が塩酢ビによって覆われて、FASが塩酢ビによって強固に保持されるものと考えられる。
以上のことから表面全体にフッ素元素がほぼ平均に分布し、塩酢ビによって強固に保持された撥液性部位を形成することが可能となる。
【0060】
【表8】
【符号の説明】
【0061】
10・・・撥液性の膜
20・・・親水性微粒子
30・・・微細な凹凸構造
40・・・撥液性部位
50・・・バインダー樹脂
60・・・トップコート
70・・・シリカビーズ
80・・・熱可塑性樹脂を含有する樹脂組成物
90・・・アンダーコート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7