(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
工作機械設備に配設した複数のセンサからのセンサ情報を時系列情報として取得するとともに、前記工作機械設備を運転するための各種のパラメータ設定値を出力する接続部を備え、前記工作機械設備の状態を診断し、該工作機械設備を正常な状態に保持する予兆保全設備の制御部に実行させる予兆保全プログラムであって、
前記時系列情報を学習情報とした統計的手法により、前記工作機械設備の状態を示す指標である状態測度として、前記工作機械設備の正常状態からの乖離度合いを示す指標である異常測度を算出するとともに前記乖離度合いが所定の値を超えたときに異常予兆有と診断する状態測度算出ステップと、
前記工作機械設備のどの部位に異常予兆が発生しているのかを特定するとともに関係するパラメータを特定する要因特定ステップと、
前記関係するパラメータに対して、前記状態測度算出ステップにより算出された前記乖離度合いに基づいて、前記パラメータ設定値を算出する設定値算出ステップと、を備え、
前記工作機械設備が1ワークの工作を開始してから該工作が終了する期間である1工作工程において、前記1工作工程を開始してから所定の時間経過後又は所定の工作の段階が終了したときに前記接続部を介して前記センサから取得した時系列情報に対して、前記状態測度算出ステップにより前記異常測度が最大で異常予兆有と診断したときに、前記要因特定ステップにより異常予兆発生部位を特定し、
前記設定値算出ステップにより関係するパラメータ設定値を算出し、前記1工作工程内において、前記1工作工程が開始してから所定の時間経過後に、または、前記1工作工程の所定の工作の段階前に前記接続部を介して、前記工作機械設備に前記パラメータ設定値を出力すること、
を実行させる予兆保全プログラム。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」と称する)につき詳細に説明する。なお、各図は、本発明を十分に理解できる程度に、概略的に示してあるに過ぎない。また、各図において、共通する構成要素や同様な構成要素については、同一の符号を付し、それらの重複する説明を省略する。
【0010】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態である機械設備管理システムの全体構成図である。
機械設備管理システム1000は、予兆保全設備としての管理装置100と、第1機械設備としての工作機械設備200とが通信可能に接続されている。
工作機械設備200は、1ワークで1つの工作物の作製(工作)を、複数回繰り返し実行する機械設備である。工作機械設備200は、複数のセンサやアクチュエータ等(
図3参照)と、制御装置150とを備える。工作機械設備200は、複数のセンサの時系列情報を管理装置100に送信し、管理装置100から受信するパラメータ設定値に従って、アクチュエータを駆動する。
【0011】
図2は、工作機械設備の乖離度の変化を示す図である。横軸は、I工作工程での時間である。なお、1つの工作物を作製する1工程は、複数段階の作業工程から成り立っている。また、次工程以降については、第2実施形態として説明する。
【0012】
工作機械設備200(
図1)は、複数段階の実行に伴い、乖離度が時間的に変動する。そして、乖離度が第1閾値を超えた場合に、管理装置100は、異常予兆有りと判定したときに、工作機械200が工作に使用するパラメータを1工程内(例えば、I工程の最終段階終了後)で修正する。
【0013】
図3は、工作工程の一例を示す図である。
具体的に、工作機械設備200の工作工程として、固定された被部材160の表面に対して、移動可能なカッター140で切込みを入れる工程について説明する。
Zステージ120は、カッター140を上下に移動させるアクチュエータである。XYステージ125は、カッター140及びZステージ120をX−Y方向に移動させるアクチュエータであるが、ここでは、X方向に移動させるものとする。測長センサ110は、カッター140のZ方向の変位を測定するレーザ測長センサである。温度センサ115は、カッター140の近傍に設置されており、カッター140の温度を計測する。なお、測長センサ110以外に、カッター140のXY方向の位置を計測する他のレーザ測長センサ(図示せず)も設けられている。ファン130は、カッター140等に冷却風を吹き付けるものであり、風量に応じて、カッター140の温度を低下させる。なお、切削であれば、ファン130の流量を変えることなく、切削油の流量を変えても構わない。
【0014】
工作機械設備200は、カッター140で被部材160の表面に切込みを入れるために、Zステージ120がカッター140を切込位置161まで下方に下げ、XYステージ125がカッター140及びZステージ120をX方向に移動させる。ここで、Zステージ120の目標位置Zや、XYステージ125の目標位置X,Y等を制御装置150が制御するための「パラメータ」と称する。なお、カッター140の切込みを多数回繰り返すと、切込み位置が切込位置161から切込位置162(A位置)までズレるものとする。また、切込位置161と切込位置162との距離をΔLとする。
【0015】
管理装置100は、例えば、特許第5827426号等に記載の予兆診断方法を使用して、所属クラスタの異常測度(乖離度)を演算し、設備の異常予兆診断を行う。具体的には、管理装置100は、測長センサ110の時系列情報(正規化値)と正常状態の値との差(異常測度特徴成分91(
図4))と、温度センサ115の時系列情報(正規化値)と正常状態の値との差(異常測度特徴成分92(
図4))とのベクトル和の大きさ(距離d(
図4))である乖離度(異常測度)が第1閾値(
図2)を超えたとき、工作機械設備200の異常予兆有りと判定する。なお、正規化は、距離dを、所属クラスタの広がりを示す半径で除して行われる。また、センサの検出値及び経過時間を代表値(平均値、標準偏差等)で除算するなどして無次元量化しても構わない。
【0016】
管理装置100は、異常予兆有りと判定したとき、測長センサ110による異常測度特徴成分91と温度センサ115による異常測度特徴成分92との何れか大きい方を特定する。管理装置100は、特定した異常測度特徴成分に関係する パラメータを特定し、特定したパラメータの設定値を出力する。
【0017】
管理装置100は、異常予兆有りと判定した場合、例えば、測長センサ110による異常測度の方が温度センサ115による異常測度よりも大きいとき、パラメータとしてZステージ120の位置を特定し、パラメータ設定値をΔLだけ戻した値に設定する。これにより、カッター140の位置は、A位置の高さからB位置の高さまで戻る。
【0018】
一方、管理装置100は、温度センサ115による異常測度の方が測長センサ110による異常測度よりも大きいとき、パラメータとしてファン130の風量を特定し、風量を増加したパラメータ設定値を出力する。つまり、カッター140のZ方向の位置ズレの原因が、カッター140の加熱等だとしたとき、ファン130の風量を増加し、カッター140を冷却する。
【0019】
図1の説明に戻り、管理装置100は、制御部10と記憶部20と接続部40とを備え、工作物を作成する工作機械設備200に発生する異常予兆を捉え、パラメータ設定値を修正する機能を有する。接続部40は、複数のセンサ(測長センサ110、温度センサ115等)の情報を各工程中に複数回取得すると共に、工作機械設備200を運転するための各種のパラメータ設定値を出力するものである。制御部10は、CPU(Central Processing Unit)であり、プログラムを実行することにより、状態測度算出部1と、要因特定部3と、設定値算出部4としての機能を実現する。
【0020】
状態測度算出部1は、乖離度算出部2を備える。乖離度算出部2は、工作機械設備200の正常状態からの乖離度(距離d(
図4))を算出し、算出された乖離度が第1閾値(
図2)を超えたときに異常予兆有と判定する。
【0021】
図4は、乖離度を演算するためのクラスタを説明する説明図である。横軸は、特徴αであり、本実施形態では、カッター140の位置を示す測長センサ110の値を正規化したものである。縦軸は、特徴βであり、本実施形態では、温度センサ115の値を正規化したものである。ここで、なお、他のセンサ、例えば、XYステージ125の位置を示す測長センサ等の軸があれば、多次元で表現される。また、本実施形態では、診断対象である機械設備が正常に稼働している間にセンサで測定することで得られた時系列データ(以下、「正常データ」という)を用いる。
【0022】
工作機械設備200は、所定の運転プロセスを繰り返すため、各工程において、センサの時系列データが略同一になる。したがって、工作機械設備200が正常であれば、特徴ベクトルが密集することが多い。
【0023】
ベクトル量子化法においては、正常データを学習データとして予めクラスタリングをしておき、診断対象となる現在の時系列データ(以下、「診断データ」ともいう)と、当該診断データが所属するクラスタの代表値(例えば、重心)との距離に基づいて乖離度を算出するものである。ベクトル量子化法によれば、予め生成したクラスタを用いることで、高速に、また安定した精度で乖離度を算出することができる。
【0024】
クラスタリングの方法としては、例えば、k平均法を用いることができる。また、診断データ(測長センサ110の値、温度センサ115の値)が所属するクラスタの判定には、例えば、k−NN法を用いることができる。
図4に示すように、学習データが、クラスタA(黒丸「●」で示した学習データをメンバX
Aとするクラスタ)とクラスタB(黒四角「■」で示した学習データをメンバX
Bとするクラスタ)とにクラスタリングされているとする。k−NN法によれば、破線の円で示したように、まず、診断データqの最近傍のk個(この例では5個)のメンバX
A,X
Bを抽出する。そして、各クラスタについて抽出されたメンバ数を計数して、抽出されたメンバ数の最も多いクラスタが、診断データqの所属クラスタであると判定する。この例では、クラスタBの所属するメンバX
Bが3個と最も多く抽出されたため、診断データqの所属クラスタはクラスタBと判定される。
【0025】
次に、乖離度算出部2は、所属クラスタであるクラスタBの代表値c(例えば、所属メンバの重心を用いることができる)から診断データqまでのベクトルの大きさ(距離d)を時系列情報毎に演算し、演算結果を工作機械設備200の正常状態からの乖離の大きさを示す乖離度とする。
なお、乖離度は、診断データqと所属クラスタの代表値cとの距離dをそのまま用いてもよいが、正規化することが好ましい。ここで正規化は、距離dを、所属クラスタの広がりを示す半径で除することで行うことができる。クラスタの半径は、特に限定されるものではないが、例えば、代表値cから各メンバまでの距離の平均値、代表値cから最遠に位置するメンバまでの距離、メンバの標準偏差又は標準偏差を定数倍したもの、などを用いることができる。
【0026】
ところで、クラスタBの代表値cから診断データqまで進むベクトル(特徴ベクトル)は、特徴α(位置)の成分と、特徴β(温度)との成分に分解することができる。以下、特徴α(位置)の成分や特徴β(温度)等の成分を異常測度特徴成分と称する。また、
図4においては、特徴α(位置)の成分の方が特徴β(温度)との成分よりも大きい。このことを利用して作成された要因特定テーブル30(
図5)を用いて、管理装置100は、パラメータとしてZステージ120の位置を特定する。逆に、特徴β(温度)の成分の方が特徴α(位置)の成分よりも大きいとき、管理装置100は、パラメータとしてファン130の風量を特定する。
【0027】
なお、診断データqの所属クラスタの判定は、k−NN法に限定されるものではない。
例えば、診断データqと各クラスタの代表値cとの距離が最も近いクラスタを所属クラスタであると判定することもできる。クラスタは、正常データの数が増加するにつれて、半径が大きくなるものであるが、所定の大きさまで大きくなったクラスタを分割して、小さくすることもできる。
【0028】
図5は、クラスタの分割を説明する説明図である。
例えば、
図5(a)に示すように、クラスタ中心がC
Aであり、クラスタ半径がr
Aであったとする。その後、
図5(b)に示す学習対象データq
Aの追加により、クラスタの更新が行われ、クラスタ中心がC
Aaに移動すると共に、クラスタ半径がr
Aa(≧r
A)に変化したとする。
【0029】
このように、クラスタのメンバ数が増大すると、それに伴ってクラスタ半径も徐々に大きくなる。なお、クラスタ半径が大きくなり過ぎると、異常予兆を診断する際の感度が低下する可能性がある。クラスタ半径が非常に大きい場合には、異常予兆の発生初期の特徴ベクトルがクラスタに含まれてしまい、「異常予兆なし」と診断されてしまうからである。
【0030】
したがって、本実施形態では、クラスタを更新した後のクラスタ半径r
Aaが所定閾値rth以上である場合、
図5(c)に示すようにクラスタに二つに分割するようにした。なお、クラスタの分割は、クラスタに属する全メンバに対してランダムに二つのクラスタを割り振った後、クラスタ中心等を再計算して行う。
【0031】
これによって、
図5(c)に示すように、■印のメンバを有するクラスタ(クラスタ中心C1
A,クラスタ半径r1
A)と、△印のメンバを有するクラスタ(クラスタ中心C2
A,クラスタ半径r2
A)と、が生成される。
【0032】
乖離度算出部2は、センサの時系列情報の正常状態の値により構成されるクラスタの所定の位置(例えば、重心)cからの距離dに基づいて異常予兆の有無を診断し、異常予兆無と診断したときにその時系列情報を前記クラスタの構成メンバとして組み入れ、学習する。
【0033】
図6は、センサ時系列情報を用いて、部位を特定する方法を説明する説明図である。
ここでは、工作機械設備200は、測長センサ110や温度センサ115だけでなく、より多くのセンサA,B,C,D,・・・,X,Y,Zを有するものとして説明する。横軸は、各センサA,B,C,D,・・・,X,Y,Zの時系列情報であり、縦軸は、所属クラスタの代表値cから診断データqまで進むベクトル(特徴ベクトル)の成分(異常測度特徴成分)である。要因特定部3は、例えば、特徴ベクトルの成分(異常測度特徴成分)の最も大きな値のセンサCの部位を特定する。
【0034】
【表1】
表1は、特定された部位(特定部位)とパラメータ時系列情報との関係を説明する表である。
例えば、特定部位が「Zステージ」であれば、パラメータとして、例えば、「Zステージ位置」だけでなく、「XYステージの移動速度」も考えられる。例えば、移動速度を遅くすれば、カッター140が冷却される。また、異常発生がZステージ120の傾斜に起因していれば、「XYステージの位置」も考えられる。このときには、パラメータを直接検出するセンサとして、Z軸用の測長センサ110(
図1)だけでなく、例えば、XYステージの位置を測定するXY軸用の測長センサ(レーザ測長器)が追加される。
【0035】
つまり、パラメータを直接するセンサの時系列情報であるパラメータ時系列情報は、特定部位が「Zステージ」であれば、例えば、z,dx/dt,dy/dt,x,yの時系列情報である。
【0036】
図7は、特定された部位に関係するパラメータを特定する方法を説明する説明図である。
そこで、要因特定部3(
図1)は、これらのパラメータP1,P2,P3,P4,P5を直接検出するセンサの時系列情報(パラメータ時系列情報)及びその演算値(例えば、位置を微分した速度)を用いて、それぞれの異常測度特徴成分を求め、最も大きな値を示すパラメータP5を、関係パラメータとして特定する。また、要因特定部3は、要因特定テーブル30(
図5)のパラメータ欄34を用いて、パラメータを特定することもできる。
【0037】
図8は、要因特定テーブルの一例を示す図である。
要因特定テーブル30は、例えば、異常予兆を示す部位が新たに見つかったときに、図示しない管理画面を用いて、修正・更新されるものである。要因特定テーブル30は、測長センサ110による異常測度特徴成分31と温度センサ115による異常測度特徴成分32とに応じて、異常兆候を示す部位を特定している部位欄33と、その部位に関係するパラメータを列挙しているパラメータ欄34と、そのパラメータの設定値(パラメータ設定値24(
図1))を格納するパラメータ設定値欄35とからなるデータベースである。
【0038】
例えば、測長センサ110(
図3)による異常測度特徴成分が温度センサ115(
図3)による異常測度特徴成分よりも大きいときには(測長センサによる異常測度特徴成分:大、温度センサによる異常測度特徴成分:小)、部位欄33の「Zステージ」が特定され、さらに、パラメータ欄34の「Zステージ位置」と、パラメータ設定値欄35の「切り込み位置を浅くする」とが特定される。なお、「切り込み位置を浅くする」量は、一段階又は複数段階で特定されれば構わない。
【0039】
逆に、温度センサ115による異常測度特徴成分が測長センサ110による異常測度特徴成分よりも大きいときには(測長センサによる異常測度特徴成分:小、温度センサによる異常測度特徴成分:大)、部位欄33の「ファン」が特定され、さらに、パラメータ欄34の「風量」と、パラメータ設定値欄35の「風量増加」とが特定される。
【0040】
さらに、温度センサ115による異常測度特徴成分と測長センサ110による異常測度特徴成分とが同程度であって、その値が大きいときには(測長センサによる異常測度特徴成分:大、温度センサによる異常測度特徴成分:大)、部位欄33の「Zステージ」及び「ファン」が特定され、パラメータ欄34の「Zステージ位置」及び「風量」と、パラメータ設定値欄35の「切り込み位置を浅くする」及び「風量増加」とが特定される。
【0041】
また、温度センサ115による異常測度特徴成分と測長センサ110による異常測度特徴成分とが同程度であって、その値が小さいときには(測長センサによる異常測度特徴成分:小、温度センサによる異常測度特徴成分:小)、部位欄33の「Zステージ」及び「ファン」が特定され、パラメータ欄34の「Zステージ位置」及び「風量」と、パラメータ設定値欄35の「位置不変」及び「停止」とが特定される。
【0042】
図1の説明に戻り、要因特定部3は、所属クラスタの代表値c(例えば、重心)から測長センサ110及び温度センサ115の特徴点の診断データqに進むベクトル(特徴ベクトル)の大きさ(距離d=乖離度))が第1閾値(
図2)よりも大きくなったとき、異常兆候の要因となる部位を特定する。また、要因特定部3は、要因特定テーブル30を用いて、状態測度算出部1により異常予兆有と診断された時系列情報と関係する工作機械設備200の部位とパラメータとを特定する。つまり、要因特定部3は、要因特定テーブル30(
図8)の部位欄33を用いて、部位を特定する。
【0043】
設定値算出部4は、前記した
図7の方法によって、異常予兆有りと診断されたときに、工程内で乖離度の値が所定範囲内に納まる時系列を求め、その時系列での関係パラメータの値をパラメータ設定値24(
図1)に設定する。
【0044】
また、設定値算出部4は、接続部40を介して、特定されたパラメータ設定値24を工作機械設備200に出力する。なお、設定値算出部4は、工作機械設備200の運転開始時に設定されているパラメータ設定値24を、接続部40を介して工作機械設備200に出力しても構わない。
【0045】
また、設定値算出部4は、接続部40を介して工作機械設備200に出力するときに、所定の変化率で、パラメータ設定値24を出力しても構わない。パラメータ設定値24を目標値まで徐々に変化させることにより、工作機械設備200の突然の動作変動を防止することができる。
【0046】
図9は、予兆保全システムの動作を説明するためのフローチャートである。
工作機械設備200は、制御装置150(
図1)に設定されたパラメータ設定値を適用したシーケンスに基づいて、稼働するものとする。
管理装置100は、工作機械設備200に対して、初期状態(運転開始時)のパラメータ設定値24を送信する(SP1)。
【0047】
工作機械設備200は、受信したパラメータ設定値24を用いて、初期設定を行い(SP3)、複数段階からなる一工程の機械工作を開始する(SP5)。工作機械設備200は、工作開始情報を管理装置100に送信し、センサの時系列情報を管理装置100に逐次送信する(SP7)。なお、工作機械設備200は、センサの時系列情報を管理装置100に逐次送信することなく、破線で示すように、1工程の最終段階終了(SP9)の後に、管理装置100に、センサの時系列情報を一括送信しても構わない。
【0048】
管理装置100は、工作機械設備200から、センサの時系列情報を受信し(SP11)、各工程で蓄積された時系列情報を用いて、受信時の乖離度を演算する(SP13)。SP13の後、管理装置100は、工程内の各々の乖離度が所定値(第1閾値(
図2))を超えているか否か判定する(SP15)。乖離度が所定値以下であれば(SP15で所定値以下)、管理装置100は、異常予兆無しと判断し、時系列情報の受信(SP11)及び乖離度の演算(SP13)を継続する。
【0049】
一方、何れかの時系列での乖離度が所定値を超えたとき(SP15で所定値超)、管理装置100は、異常予兆有りと判断し、異常予兆部位の特定を行う(SP17)。具体的には、管理装置100は、センサ毎に、異常測度(乖離度)を演算し、異常測度特徴成分が最大のセンサの部位を特定したり、要因特定テーブル30を参照し、異常測度特徴成分の大小に基づいて、センサの部位を特定したりする。SP17の後、管理装置100は、特定した部位に関係する関係パラメータを特定する(SP19)。具体的には、管理装置100は、特定された部位に関係する複数種類のパラメータを直接検出するセンサの時系列情報(パラメータ時系列情報)及びその演算値を用いて、それぞれの異常測度特徴成分を求め、最も大きな異常測度特徴成分を示す関係パラメータを特定する。なお、要因特定部3は、要因特定テーブル30(
図8)のパラメータ欄34を用いて、関係パラメータを特定することもできる。
【0050】
SP19の後、管理装置100は、パラメータ設定値24(
図1)の算出を行う(SP20)。まず、パラメータ設定値の時系列情報から工作機械設備200の運転開始時のパラメータ設定値(パラメータ初期設定値)と一致するパラメータ設定値を選び出す方法について説明する。次に、要因特定テーブル30を用いてパラメータ設定値を決定する方法について説明する。
【0051】
図10は、特定されたパラメータを用いて、パラメータ設定値を算出するためのフローチャートである。このルーチン(SP20a)は、
図9のSP20で起動する。つまり、SP15で異常予兆有りと診断された後に起動する。なお、SP1(
図9)において、初期状態(運転開始時)のパラメータ設定値24が特定されている。なお、工作機械設備200は、工作等の各処理を所定の周期(ベースタイム)内で実行するように構成されている。
【0052】
管理装置100は、SP19で特定された関係パラメータの「単位時間あたりの変動量」をテーブルから取得する(SP50)。この「単位時間あたりの変動量」は、パラメータを変動させて、乖離度やセンサ実測値等の修正に用いるためのものであり、修正可能な量に、適宜設定されている。また、管理装置100は、「単位時間あたりの変動量」に、例えば、ベースタイムの周期(例えば、20mSec)を乗算し、変動量Δを演算する。なお、管理装置100は、予め演算した変動量Δをテーブルから取得しても構わない。
【0053】
SP50の後、管理装置100は、SP11(
図9)で受信した時系列情報(センサ実測値)が所定範囲に納まっているか否か判定する(SP54)。このセンサ実測値が所定範囲未満のとき(SP54で「所定範囲未満」)、管理装置100は、現在のパラメータ設定値24に対して、変動量Δを加算した値を、新たなパラメータ設定値24にする(SP56)。
【0054】
一方、センサ実測値が所定範囲を超えたとき(SP54で「所定範囲超」)、管理装置100は、現在のパラメータ設定値24に対して、変動量Δを減算した値を、新たなパラメータ設定値24にする(SP58)。管理装置100は、センサ実測値が所定範囲内であったり(SP54で「所定範囲内」)、パラメータ設定値24の加減算を行ったりしたとき(SP56,58)、管理装置100は、処理を元のルーチン(
図9)に戻す(RETURN)。
【0055】
図9のフローチャートの説明に戻り、管理装置100は、記憶部20(
図1)に格納されているパラメータ設定値24を工作機械設備200に送信し(SP22)、処理をSP11に戻し、工作機械設備200が送信する時系列情報の受信を繰り返す。なお、適宜、割込処理等によって、管理装置100の繰り返し処理が中断される。
【0056】
工作機械設備200は、時系列情報受信後、パラメータ設定値を更新する(SP23)。これにより、工作機械設備200は、一工程が終了し(SP24)、次段工作指示を行い(SP25)、次段の工作工程を開始する(SP5)。
【0057】
次に、
図11のフローチャートを参照して、要因特定テーブルを用いたパラメータ設定値を算出するルーチン(SP20b)について説明する。
管理装置100は、異常予兆部位の特定(SP17)で演算した異常測度特徴成分を取得する(SP70)。SP70の後、管理装置100は、要因特定テーブル30(
図5)を用いて、異常予兆部位とパラメータとを特定し(SP72)、パラメータ設定値を特定し(SP74)、元のルーチン(
図8)に戻る。
【0058】
(第2実施形態)
前記第1実施形態では、1工作工程での処理を説明したが、複数工程でも継続して同一処理が行われる。以下、1工作工程が複数あるときについて説明する。なお、本第2実施形態の機械設備管理システムの構成は、前記第1実施形態の機械設備管理システム1000の構成と同一である。
【0059】
図12は、1工作工程が複数あるときの異常測度(乖離度)の変化を示す図である。上図は、工作機械設備200の全体の乖離度の変化を示し、下図は、
図2と同一図であり、工作機械設備200の1工作工程における乖離度の変化を示す。下図の横軸は1工程の時間であり、上図の横軸は、時間軸を100工程まで延ばしたものである。なお、本実施形態においても、1つの工作物を作製する1工程は、複数段階の作業工程から成り立っている。
【0060】
そして、前記第1実施形態と同様に、工作機械設備200の各工程内(例えば、工程1)において、乖離度が第1閾値(下図)を超えたときに、管理装置100は、異常予兆有りと判定する。つまり、管理装置100は、工作機械設備200が工作物を製作する工程内において、乖離度が第1閾値を超えたときに、工作物に問題が生じる異常予兆を検出する。そして、管理装置100は、乖離度が第1閾値を超えたときに、工作機械200が工作に使用するパラメータを1工程内で修正する。この修正により、工作機械設備200(
図1)は、1工作工程を多数回実行するにつれて、乖離度の増加を回避させようとする。
【0061】
しかしながら、工作機械設備200(
図1)は、上図に示すように、1工作工程のパラメータ修正を多数回実行するにつれて、乖離度が徐々に大きくなってしまうことがある。この場合、一旦、乖離度が第1閾値を超えれば、以後、ほぼ全ての工程で、パラメータの修正が行われる。そして、管理装置100は、乖離度が第2閾値(>第1閾値)を超えたときに、工作機械設備200が異常予兆発生したと判断し、その旨を音や画面で外部に報知する。なお、管理装置100は、乖離度が第1閾値を超えただけでは、外部への報知を行わない。乖離度が「異常閾値」(>第2閾値)を超えたときには、工作物が作れなくなる可能性が生じるので、管理者は、工作機械設備200の保守を行う必要がある。
【0062】
また、管理装置100は、乖離度が第2閾値(>第1閾値)に到達する前に、異常予兆の発生を検出することができる。この異常予兆の発生段階では、工作機械設備200は、工作物を作製することができ、適宜、設備保全が行われる。
【0063】
(第3実施形態)
前記第1,2実施形態の工作機械設備200は、
図2に記載の測長センサ110、温度センサ115、Zステージ120、XYステージ125やファン130等を設け、カッター140による切込み加工を行っていたが、他のセンサやアクチュエータを有する工作機械設備を設け、他の工作を行っても構わない。
【0064】
図12、本発明の第2実施形態である機械設備管理システムの全体構成図である。
機械設備管理システム1001は、管理装置100と、第1機械設備としての工作機械設備200と、複数の第2機械設備としての工作機械設備210,・・・とが通信可能に接続されている。
工作機械設備200は、1ワークで1つの工作物の作製(工作)を、複数回繰り返し実行する機械設備である。工作機械設備200は、複数のセンサの時系列情報を管理装置100に送信し、管理装置100から受信するパラメータ設定値に従って、複数のアクチュエータやファン130等を駆動する。工作機械設備210,・・・は、工作機械設備200と同一であってもよく、異なった構成であってもよい。例えば、工作機械設備210,・・・は、複数のセンサ及び複数のアクチュエータを有していれば、制御装置150を有していなくても構わない。このときには、工作機械設備210,・・・の複数のセンサ及び複数のアクチュエータは、破線で示すように、工作機械設備200の制御装置150によって制御される。
【0065】
管理装置101は、前記第1実施形態の管理装置100と同様に、工作物を作成する工作機械設備200,210,・・・に発生する異常予兆を捉え、パラメータ設定値を修正する機能を有する。管理装置101は、制御部11の内部に状態測度算出部1と要因特定部3と設定値算出部4を備え、状態測度算出部1が状態測度算出部5に変わり、乖離度算出部2が乖離度算出部6に変わっている点で相違する。
【0066】
乖離度算出部6は、前記第1実施形態の管理装置100と同様に、工作機械設備200の正常状態からの乖離度(距離d(
図4))を算出し、算出された乖離度が第1閾値(
図12)を超えたときに異常予兆有と判定する。しかしながら、乖離度算出部2は、工作機械設備200と工作機械設備210,210,・・・との組合せ設備の乖離度を算出し、算出された乖離度が第2閾値(
図12)を超えたときに異常予兆有と判定する機能を有する点で相違する。
【0067】
1工作工程が複数あるときの異常測度(乖離度)の変化を示す図は、
図12と同様であり、下図は、工作機械設備200の1工作工程における乖離度の変化を示す。しかしながら、上図は、複数の工作機械設備200,210,・・・の全体の乖離度の変化を示す点で前記第2実施形態と相違する。
【0068】
そして、前記第1,2実施形態と同様に、工作機械設備200の各工程内(例えば、工程1)において、乖離度が第1閾値(
図12の下図)を超えたときに、管理装置100は、異常予兆有りと判定する。つまり、管理装置100は、複数の工作機械設備200,210,・・・の全体での異常予兆を検出すると共に、工作機械設備200が工作物を製作する工程内において、乖離度が第1閾値を超えたときに、工作物に問題が生じる異常予兆を検出する。そして、管理装置101は、乖離度が第1閾値を超えたときに、工作機械200が工作に使用するパラメータを1工程内で修正する。
【0069】
また、
図12の上図において、複数の工作機械設備200,210,・・・(
図13)は、工作工程を多数回実行するにつれて、全体の乖離度が徐々に大きくなる。そして、管理装置101は、全体の乖離度が第2閾値(>第1閾値)を超えたときに、工作機械設備200,210,・・・が異常予兆発生したと判断し、その旨を音や画面で外部に報知する。なお、管理装置101は、全体の乖離度が第1閾値を超えただけでは、外部への報知を行わない。なお、複数の工作機械設備200,210,・・・は、全体の乖離度が「異常閾値」を超えたときに、工作物が作れなくなる可能性が生じ、設備の保守を行う必要がある。
【0070】
また、管理装置100は、全体の乖離度が第2閾値(≠第1閾値)に到達する前に、異常予兆の発生を検出することができる。この異常予兆の発生段階では、複数の工作機械設備200,210.・・・は、それぞれの工作物を作製することができ、適宜、設備保全が行われる。
【0071】
(変形例)
本発明は前記した実施形態に限定されるものではなく、例えば、以下のような種々の変形が可能である。
(1)前記実施形態の状態測度算出部1は、工作機械設備200の工作中に時系列情報を逐次受信し、又は1工程が終了してから(SP11)、乖離度及び異常測度を演算した。つまり、状態測度算出部1は、1工程を開始してから所定の時間経過後に、乖離度及び異常測度を演算していた。これに限らず、状態測度算出部1は、1工程内における所定段階が終了したときに乖離度及び異常測度を演算しても構わない。また、設定値算出部4は、次段の工作開始前にパラメータ設定値24を工作機械設備200に送信した(SP22)。言い換えれば、設定値算出部4は、1工程が開始してから所定の時間経過後に、工作機械設備200に対して、接続部40を介して、パラメータ設定値24を送信していたということができる。設定値算出部4は、1工程が開始してから所定の時間経過後でなく、次工程の所定段階前に送信しても構わない。
【0072】
(2)前記実施形態の工作機械設備200は、工作物(出力物)を作製するものとしていたが、風力発電設備、タービン、エンジン等の機械設備でも構わない。これらであれば、管理装置100は、機械設備が出力する出力状態を正常に保持することを目的に、乖離度や異常測度を演算する。
【解決手段】工作機械設備200の出力状態(工作物)を正常に保持する管理装置100であって、工作機械設備200に配設した複数のセンサの情報をセンサ時系列情報として取得する接続部40と、工作機械設備200が1工程を開始してから該1工程が終了する期間において、前記1工程を開始してから所定の時間経過後、又は前記1工程での所定段階が終了したときに、センサ時系列情報を学習情報とした統計的手法により異常測度を算出する状態測度算出部1と、工作機械設備200のどの部位に異常予兆が発生しているのかを特定すると共に、特定された部位に関係するパラメータを特定する要因特定部3と、特定された部位に関係するパラメータ設定値を算出する設定値算出部4とを備える。