(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記(メタ)アクリレート系重合性化合物の組成物が、前記(A)及び(B)のいずれかと、(C)と、(D)とを含み、前記水接触角が26°以上60°以下である請求項1に記載の透明積層体。
前記(A)主鎖と側鎖がアルキル鎖からなる3価アルコールのエステル(メタ)アクリレートが、トリメチロールプロパントリアクリレートである請求項1から3のいずれかに記載の透明積層体。
前記(メタ)アクリレート系重合性化合物の組成物における前記トリメチロールプロパントリアクリレートの含有量が、24.8質量%未満である請求項4に記載の透明積層体。
前記(C)ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートが、エチレンオキサイド(EO)鎖の繰り返し単位が8より大きいポリエチレングリコールジアクリレートを含有する請求項1から5のいずれかに記載の透明積層体。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(透明積層体)
本発明の透明積層体は、少なくとも透明性基板と構造体層とを有し、更に必要に応じて、その他の部材を有する。
前記構造体層は、表面に凸部及び凹部の少なくともいずれかを有し、隣接する前記凸部の平均距離又は隣接する前記凹部の平均距離が、可視光の波長以下である。
前記構造体層は、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の重合物からなる。
前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、(メタ)アクリレート系重合性化合物の組成物を含む。
前記(メタ)アクリレート系重合性化合物の組成物は、以下の(A)及び(B)の少なくともいずれかと、(C)と、(D)とを含む。
(A)主鎖と側鎖がアルキル鎖からなる3価アルコールのエステル(メタ)アクリレート
(B)エチレンオキサイド変性ビスフェノールAのエステルジ(メタ)アクリレート
(C)ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート
(D)主鎖が直鎖アルキル鎖からなる2価アルコールのエステルジ(メタ)アクリレート
前記構造体層の表面の水接触角は、26°以上74°以下であり、
かつ前記構造体層の180℃における貯蔵弾性率は、0.5GPa未満である。
【0012】
本発明者らは、医療用顔面保護マスクに適用できる顔面保護用光学素子として、透明基材に微細かつ緻密な凹凸(モスアイ;蛾の目)構造を有する透明積層体について研究していたところ、該透明積層体が、防汚性、耐擦傷性に優れたものであることはもちろんのこと、それ以外にも、使用面や製造・加工面の観点から、以下に記載の課題を解決することが、実用化を図るうえで重要との認識に至った。
課題1.医療用顔面保護マスク(以下、「マスク」ともいう)として使用した際の、呼気によるマスク表面の曇りを防止する(防曇性の向上)。
課題2.マスクに製造・加工する際に、透明積層体表面を保護するため表面保護フィルムを使用するが、該表面保護フィルムの選択性を向上させ、該表面保護フィルムによる悪影響を防止する。
課題3.マスク製造時に、マスク形状に合わせた透明積層体の打ち抜き加工を行うが、その加工する際に、透明積層体にひびが生じないようにする(耐クラック性の向上)。
【0013】
上記課題1、及び課題2は、透明積層体表面の表面エネルギーに依存しており、その尺度として水接触角で示すことができる。課題3は、透明積層体の弾性率(≒硬さの指標)に依存している。
課題1は、透明積層体を構成する材料に依拠し、水接触角を低くする(親水性を持たせる)材料を使用することで、呼気中水分を濡れ広がらせて防曇作用を持たせ、解消することができる。しかし一方、材料に親水性を持たせると、課題2として表面保護フィルムが透明積層体表面に密着し過ぎ、表面保護フィルムの粘着剤が透明積層体表面の凹凸内部に残留したり、表面保護フィルムを剥離する際、剥離力が上昇することにより、透明積層体表面の微細凹凸が破壊されたりすることが生じる。これにより、光学特性、防汚性、防曇性などに悪影響を及ぼすことになる。
課題3は、マスクを製造する際、可撓性を有する樹脂基材上に構造体層を貼り付け、樹脂基材ごとマスクの形状に打ち抜き加工を行うが、その加工する際に、構造体層の弾性率が高過ぎると透明積層体にひびが入り、不良品の発生につながる。
【0014】
つまり、マスクへの実用化を考慮すると、水接触角は低くしさえすれば(親水性を持たせれば)よいというものではなく、防汚性や防曇性以外にも、表面保護フィルムとの密着性等の観点から考慮する必要があり、また、弾性率は高くしさえすればよいというものではなく、耐傷性以外にも、耐クラック性の観点から考慮する必要がある。さらに、水接触角や弾性率といった物性値以外にも透明積層体を構成する成分によって、上記各特性は影響を受けることから、これらを総合的に判断する必要がある。
【0015】
本発明者らは、透明積層体を構成する材料の組成、及びその透明積層体が示す特性について検討を重ねた結果、特定の成分からなる活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を含み、かつ水接触角や弾性率が所定の値を示す透明積層体が、上記課題に挙げた、防汚性、防曇性、耐擦傷性、表面保護フィルムの選択性向上や該表面保護フィルムによる悪影響防止、耐クラック性の全ての項目においてバランスよく、良好な結果を示すことを見出した。
本発明で規定する水接触角や弾性率の値は、上記特許文献1や2で開示する範囲とは異なっており、本発明者らは、開示の技術範囲とは異なる範囲の特性を示す透明積層体が、医療用顔面保護マスク等への実用化を考えた際、最適な態様となることを見出したものである。
【0016】
本発明の透明積層体の構成の断面図の一例を
図1A及びBに示す。同図に示すように、この透明積層体1は、表面に数十nm〜数百nmの可視波長領域以下の微細凹凸構造(以下、「モスアイ構造」ともいう)を有する。
透明積層体1は、透明性基板11と、表面に可視光の波長(360nm〜830nm)以下の間隔で凸部又は凹部からなる構造体12aを複数有する構造体層12とを有する。
構造体層12の表面には凸状または凹状の構造体12aが形成されているが、この複数の構造体12aは、複数の列をなすように配置されている。
図2Aには、表面が凸状の構造体層12を有する本発明の透明積層体の斜視図の一例を示す。また、
図2Bには、表面に形成された複数の凸部の配列の平面図の一例を示す。
【0017】
本発明の透明積層体は、微細な凹凸構造体12aが形成されている構造体層12を透明性基板11の表裏両面に有していてもよい(
図1B)。
両面にそれぞれ微細かつ緻密な凹凸を有する透明積層体は、該透明積層体と空気との界面での反射を有効に抑えることができる。該透明積層体は、透過特性および反射特性などの視認性により優れたものとなるため、好ましい態様といえる。
【0018】
該透明積層体1は、例えば、可視光に対して透明性を有しており、その屈折率nとしては、1.40以上2.00以下が好ましく、1.43以上2.00以下がより好ましい。また、波長550nmの光に対して透過率は、98.5%以上が好ましい。
構造体層12の屈折率は、透明性基板11の屈折率と同様またはほぼ同様であることが好ましい。内部反射を抑制し、コントラストを向上することができるからである。
【0019】
<透明性基板>
前記透明性基板の材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、透明性を有するプラスチック材料、ガラスなどを主成分とするものが挙げられる。
【0020】
前記ガラスとしては、例えば、ソーダライムガラス、鉛ガラス、硬質ガラス、石英ガラス、液晶化ガラスなど(「化学便覧」基礎編、P.I−537、日本化学会編参照)が挙げられる。
前記プラスチック材料としては、透明性、屈折率、および分散などの光学特性、さらには耐衝撃性、耐熱性、および耐久性などの諸特性の観点から、例えば、ポリメチルメタアクリレート、メチルメタクリレートと他のアルキル(メタ)アクリレート、スチレンなどといったビニルモノマーとの共重合体などの(メタ)アクリル系樹脂;ポリカーボネート、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート(CR−39)などのポリカーボネート系樹脂;(臭素化)ビスフェノールA型のジ(メタ)アクリレートの単独重合体ないし共重合体、(臭素化)ビスフェノールAモノ(メタ)アクリレートのウレタン変性モノマーの重合体及び共重合体などといった熱硬化性(メタ)アクリル系樹脂;ポリエステル特にポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートおよび不飽和ポリエステル、アクリロニトリル−スチレン共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、エポキシ樹脂、ポリアリレート、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、シクロオレフィンポリマー(商品名:アートン、ゼオノア)、シクロオレフィンコポリマーなどが挙げられる。また、耐熱性を考慮したアラミド系樹脂の使用も可能である。ここで、(メタ)アクリレートは、アクリレートまたはメタアクリレートを意味する。また、(メタ)アクリル系樹脂とは、アクリル系樹脂またはメタアクリル系樹脂を意味する。
【0021】
前記透明性基板として、可撓性を有する樹脂基板を用いることが好ましい。特に可撓性の透明性基板を用いた透明積層体は、顔面保護用光学素子として医療用の顔面保護マスクへ好ましく適用できる。
【0022】
構造体層12と透明性基板11とを別成形し、透明性基板11としてプラスチック材料を用いる場合、プラスチック表面の表面エネルギー、塗布性、平面性などをより改善するために、表面処理として下塗り層を設けるようにしてもよい。この下塗り層としては、例えば、オルガノアルコキシメタル化合物、ポリエステル、アクリル変性ポリエステル、ポリウレタンなどが挙げられる。また、下塗り層を設けるのと同様の効果を得るために、透明性基板11の表面に対してコロナ放電処理、UV照射処理などを行うようにしてもよい。
構造体層12と透明性基板11とを別成形し、透明性基板11がプラスチックフィルムである場合には、透明性基板11は、例えば、上述の樹脂を伸延、あるいは溶剤に希釈後フィルム状に成膜して乾燥するなどの方法で得ることができる。
【0023】
透明性基板11の平均厚みは、透明積層体1の用途に応じて適宜選択することができ、例えば10μm以上500μm以下が好ましく、50μm以上500μm以下がより好ましく、50μm以上300μm以下が特に好ましい。例えば、顔面保護用光学素子として用いた場合、10μm以上であると飛来物からの保護性能が向上するからである。一方、500μm以下だと軽量化でき、また可撓性を有することで曲面形状に変形できるので、保護部材としての装着感が向上するからである。
前記透明性基板の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、フィルム状、プレート状を挙げることができる。ここで、フィルムにはシートが含まれる。
【0024】
<構造体層>
前記構造体層は、表面に凸部及び凹部の少なくともいずれかを有し、隣接する前記凸部の平均距離又は隣接する前記凹部の平均距離が、可視光の波長以下である。
前記構造体層は、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の重合物を含有する。
【0025】
前記構造体層の平均厚みL(μm)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.8μm〜10μmが好ましく、1μm〜4μmがより好ましい。
この平均厚みLは、厚み計(株式会社ミツトヨ、ライトマチックVL−50S−B)を用いて透明積層体の総厚と透明性基板の厚みを各10回測定してその平均厚を求め、透明積層体の平均厚から透明性基板の平均厚を差し引くことにより算出することができる。
【0026】
<<凸部及び凹部>>
図2Bに示すように、複数の構造体12aは、透明性基板11上に形成された構造体層12の表面に2次元配列されている。構造体12aは、反射の低減または透過の向上を目的とする光の波長帯域以下の短い間隔(平均配置ピッチ)で周期的に2次元配列されていることが好ましい。
本発明で間隔(ピッチ)とは、隣接する凸部の距離、又は隣接する凹部の距離をいう。
【0027】
複数の構造体12aは、それぞれ、構造体層12の表面において複数列のトラックT1,T2,T3,・・・(以下総称して「トラックT」ともいう。)をなすような配置形態を有する。本発明において、トラックとは、複数の構造体12aが、列をなして連なった部分のことをいう。トラックTの形状としては、直線状、円弧状などを用いることができ、これらの形状のトラックTをウォブル(蛇行)させるようにしてもよい。このようにトラックTをウォブルさせることで、外観上のムラの発生を抑制できる。
トラックTをウォブルさせる場合には、各トラックTのウォブルは、同期していることが好ましい。すなわち、ウォブルは、シンクロナイズドウォブルであることが好ましい。このようにウォブルを同期させることで、六方格子または準六方格子の単位格子形状を保持し、充填率を高く保つことができる。ウォブルしたトラックTの波形としては、例えば、サイン波、三角波などを挙げることができる。ウォブルしたトラックTの波形は、周期的な波形に限定されるものではなく、非周期的な波形としてもよい。ウォブルしたトラックTのウォブル振幅は、例えば10nm〜1μm程度に選択される。
【0028】
構造体12aは、例えば、隣接する2つのトラックT間において、半ピッチずれた位置に配置されている。具体的には、隣接する2つのトラックT間において、一方のトラック(例えばT1)に配列された構造体12aの中間位置(半ピッチずれた位置)に、他方のトラック(例えばT2)の構造体12aが配置されている。その結果、
図2Bに示すように、隣接する3列のトラック(T1〜T3)間においてa1〜a7の各点に構造体12aの中心が位置する六方格子パターンまたは準六方格子パターンを形成するように構造体12aが配置されている。
ここで、六方格子とは、正六角形状の格子のことをいう。準六方格子とは、正六角形状の格子とは異なり、歪んだ正六角形状の格子のことをいう。例えば、構造体12aが直線上に配置されている場合には、準六方格子とは、正六角形状の格子を直線状の配列方向(トラック方向)に引き伸ばして歪ませた六方格子のことをいう。構造体12aが円弧状に配置されている場合には、準六方格子とは、正六角形状の格子を円弧状に歪ませた六方格子、または正六角形状の格子を配列方向(トラック方向)に引き伸ばして歪ませ、かつ、円弧状に歪ませた六方格子のことをいう。構造体12aが蛇行して配列されている場合には、準六方格子とは、正六角形状の格子を構造体12aの蛇行配列により歪ませた六方格子、または正六角形状の格子を配列方向(トラック方向)に引き伸ばして歪ませ、かつ、構造体12aの蛇行配列により歪ませた六方格子のことをいう。
【0029】
構造体12aが準六方格子パターンを形成するように配置されている場合には、
図2Bに示すように、同一トラック(例えばT1)内における構造体12aの配置ピッチP1(例えばa1〜a2間距離)は、隣接する2つのトラック(例えばT1およびT2)間における構造体12aの配置ピッチ、すなわちトラックの延在方向に対して±θ方向における構造体12aの配置ピッチP2(例えばa1〜a7、a2〜a7間距離)よりも長くなっていることが好ましい。このように構造体12aを配置することで、構造体12aの充填密度の更なる向上を図れるようになる。
構造体12aの具体的な形状としては、例えば、錐体状、柱状、針状、半球体状、半楕円体状、多角形状などが挙げられるが、これらの形状に限定されるものではなく、他の形状を採用するようにしてもよい。錐体状としては、例えば、頂部が尖った錐体形状、頂部が平坦な錐体形状、頂部に凸状または凹状の曲面を有する錐体形状が挙げられるが、これらの形状に限定されるものではない。頂部に凸状の曲面を有する錐体形状としては、例えば、放物面状などの2次曲面状が挙げられる。また、錐体状の錐面を凹状または凸状に湾曲させるようにしてもよい。後述するロール原盤露光装置(
図4参照)を用いてロール原盤を作製する場合には、構造体12aの形状として、頂部に凸状の曲面を有する楕円錐形状、または頂部が平坦な楕円錐台形状を採用し、それらの底面を形成する楕円形の長軸方向をトラックTの延在方向と一致させることが好ましい。ここで、楕円、球体、楕円体などの形状には、数学的に定義される完全な楕円、球体、楕円体などの形状のみならず、多少の歪みが付与された楕円、球体、楕円体などの形状も含まれる。平面形状としては楕円形に類するものに限らず、円形であってもよい。
【0030】
光学調整機能の向上の観点からすると、頂部の傾きが緩やかで中央部から底部に徐々に急峻な傾きの錐体形状が好ましい。また、光学調整機能の向上の観点からすると、中央部の傾きが底部および頂部より急峻な錐形形状、または、頂部が平坦な錐体形状であることが好ましい。構造体12aが楕円錐形状または楕円錐台形状を有する場合、その底面の長軸方向が、トラックの延在方向と平行となることが好ましい。
構造体12aは、その底部の周縁部に、頂部から下部の方向に向かってなだらかに高さが低下する曲面部15を有することが好ましい。透明積層体1の製造工程において透明積層体1を原盤などから容易に剥離することが可能になるからである。なお、曲面部15は、構造体12aの周縁部の一部にのみ設けてもよいが、上記剥離特性の向上の観点からすると、構造体12aの周縁部の全部に設けることが好ましい。
構造体12aの周囲の一部または全部に突出部14を設けることが好ましい。このようにすると、構造体12aの充填率が低い場合でも、反射率を低く抑えることができるからである。突出部14は、成形の容易さの観点からすると、隣り合う構造体12aの間に設けることが好ましい。また、構造体12aの周囲の一部または全部の表面を荒らし、微細の凹凸を形成するようにしてもよい。具体的には例えば、隣り合う構造体12aの間の表面を荒らし、微細な凹凸を形成するようにしてもよい。また、構造体12aの表面、例えば頂部に微小な穴を形成するようにしてもよい。
【0031】
なお、
図1A、
図1B、
図2A、及び
図2Bでは、各構造体12aが、それぞれ同一の大きさ、形状および高さを有しているが、構造体12aの構成はこれに限定されるものではなく、基体表面に2種以上の大きさ、形状および高さを有する構造体12aが形成されていてもよい。
トラックの延在方向(X方向)における構造体12aの高さH1は、トラックの配列方向(Y方向)における構造体12aの高さH2よりも小さいことが好ましい。すなわち、構造体12aの高さH1、H2がH1<H2の関係を満たすことが好ましい。H1≧H2の関係を満たすように構造体12aを配列すると、トラックの延在方向の配置ピッチP1を長くする必要が生じるため、トラックの延在方向における構造体12aの充填率が低下するためである。このように充填率が低下すると、光学調整機能の低下を招くことになる。
なお、構造体12aの高さH1、H2は全て同一である場合に限らず、各構造体12aが一定の高さ分布をもつように構成されていてもよい。高さ分布を有する構造体12aを設けることで、光学調整機能の波長依存性を低減することができる。したがって、優れた光学調整機能を有する透明積層体1を実現することができる。
ここで、高さ分布とは、2種以上の高さを有する構造体12aが構造体層の表面に形成されていることを意味する。例えば、基準となる高さを有する構造体12aと、この構造体12aとは異なる高さを有する構造体12aとが形成されていてもよい。この場合、基準とは異なる高さを有する構造体12aは、例えば構造体層12の表面に周期的または非周期的(ランダム)に設けられる。その周期性の方向としては、例えば、トラックの延在方向、列方向などが挙げられる。
【0032】
構造体層12の表面に設けられた構造体12aの凸部の平均アスペクト比(前記凸部の平均高さ/隣接する前記凸部の平均距離)又は凹部の平均アスペクト比(前記凹部の平均深さ/隣接する前記凹部の平均距離)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.66〜1.96が好ましく、0.76〜1.96がより好ましい。平均アスペクト比が0.66以上であると、低反射特性を向上できる。一方、平均アスペクト比が1.96以下であると、離型性などを向上できる。
構造体12aの平均配置ピッチP(隣接する凸部の平均距離、又は隣接する凹部の平均距離という)は、光学調整機能を目的とする光の波長帯域以下であることが好ましい。本発明でいう光学調整機能を目的とする光の波長帯域とは、例えば、可視光の波長帯域(360nm〜830nmの波長帯域)以下をいう。
構造体12aの凸部の平均高さH、又は凹部の平均深さHとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、100nm〜300nmが好ましく、190nm〜300nmがより好ましく、180nm〜230nmがさらに好ましい。構造体12aの凸部の平均高さH、又は凹部の平均深さHが100nm以上であると、低反射特性を向上できる。一方、構造体12aの凸部の平均高さH、又は凹部の平均深さHが300nm以下であると、離型性などを向上できる。
ここで、凸部又は凹部の平均配置ピッチ(平均距離(Pm))、及び凸部の平均高さ又は凹部の平均深さ(Hm)は、以下のようにして測定できる。
【0033】
[Pm(nm)、Hm(nm)の測定]
まず、凸部又は凹部を有する前記構造体層の表面Sを原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)により観察し、AFMの断面プロファイルから凸部又は凹部のピッチ、及び凸部の高さ又は凹部の深さを求める。これを前記構造体層の表面から無作為に選び出された10箇所において繰り返し行い、ピッチP(1)、P(2)、・・・、P(10)と、高さ又は深さH(1)、H(2)、・・・、H(10)とを求める。
ここで、前記凸部のピッチは、前記凸部の頂点間の距離である。前記凹部のピッチは、前記凹部の最深部間の距離である。前記凸部の高さは、前記凸部間の谷部の最低点を基準とした前記凸部の高さである。前記凹部の深さは、前記凹部間の山部の最高点を基準とした前記凹部の深さである。
次に、これらのピッチP(1)、P(2)、・・・、P(10)、及び高さ又は深さH(1)、H(2)、・・・、H(10)をそれぞれ単純に平均(算術平均)して、凸部又は凹部の平均距離(Pm)、及び凸部の平均高さ又は凹部の平均深さ(Hm)とする。
なお、前記AFM観察においては、断面プロファイルの凸の頂点、又は凹の底辺が、立体形状の凸部の頂点、又は凹部の最深部と一致するようにするため、断面プロファイルを、測定対象となる立体形状の凸部の頂点、又は立体形状の凹部の最深部を通る断面となるように、切り出している。
構造体12aが異方性を有する形状(例えば楕円錐形状や楕円錐台形状など)である場合には、各ピッチP(1)、P(2)、・・・、P(10)は、それぞれ以下のようにして求めることもできる。
図2Bで表される各ピッチP1、P2に対して以下の式(1)のようにしてピッチP(1)を求め、これと同様な方法で、P(2)、・・・、P(10)を求め、無作為に選び出された10箇所におけるピッチP(1)、P(2)、・・・、P(10)から、これらの平均をとることにより、平均配置ピッチ(Pm)を求めてもよい。
ピッチP=(P1+P2+P2)/3・・・(1)
但し、P1:トラックの延在方向の配置ピッチ(トラック延在方向周期)、P2:隣接するトラック間の構造体の配置ピッチ。尚、トラックの延在方向に対するトラック間の構造体の配列方向θは、θ=60°−δで表され、δは、好ましくは0°<δ≦11°、より好ましくは3°≦δ≦6°である。
また、構造体12aの高さは、トラック間方向(Y方向)の高さである。通常、構造体12aのトラック延在方向(X方向)の高さH1は、トラック間方向(Y方向)の高さよりも小さく、また、構造体12aのトラック延在方向以外の部分における高さはトラック間方向の高さとほぼ同一であるため、本発明では、断りの無い限り、構造体12aの高さをトラック間方向の高さで代表する。尚、構造体12aが凹部である場合、構造体12aの高さ(Hm)は、構造体12aの深さ(Hm)とする。
【0034】
構造体12aの配置が、六方格子パターンまたは準六方格子パターンを形成する場合、トラックの延在方向の構造体12aの配置ピッチをP1、隣接するトラック間における構造体12aの配置ピッチをP2としたとき(
図2B参照)、比率P1/P2が、1.00≦P1/P2≦1.1の関係を満たすことが好ましい。このような数値範囲にすることで、楕円錐または楕円錐台形状を有する構造体12aの充填率を向上することができるので、光学調整機能を向上することができる。
構造体層12の表面における構造体12aの充填率は、100%を上限として、40%以上であり、65%以上が好ましく、73%以上がより好ましく、86%以上がさらに好ましい。充填率をこのような範囲にすることで、反射防止特性を向上することができる。充填率を向上させるためには、隣接する構造体12aの下部同士を接合する、または、構造体12aの底面の楕円率を調整などして構造体12aに歪みを付与することが好ましい。
ここで、構造体12aの充填率(平均充填率)は以下のようにして求めた値である。
まず、透明積層体1の表面を走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いてTop Viewで撮影する。次に、撮影したSEM写真から無作為に単位格子Ucを選び出し、その単位格子Ucの配置ピッチP1、およびトラックピッチTpを測定する(
図2B参照)。また、その単位格子Ucの中央に位置する構造体12aの底面の面積Sを画像処理により測定する。次に、測定した配置ピッチP1、トラックピッチTp、および底面の面積Sを用いて、以下の式(2)より充填率を求める。
充填率=(S(hex.)/S(unit))×100・・・(2)
但し、構造体12aの配置が、六方格子パターンまたは準六方格子パターンの場合の単位格子面積:S(unit)=P1×2Tp
単位格子内に存在する構造体12aの底面の面積:S(hex.)=2S
上述した充填率算出の処理を、撮影したSEM写真から無作為に選び出された10箇所の単位格子について行う。そして、測定値を単純に平均(算術平均)して充填率の平均率を求め、これを透明積層体表面における構造体12aの充填率とする。
【0035】
構造体12aが重なっているときや、構造体12aの間に突出部14などの副構造体があるときの充填率は、構造体12aの高さに対して5%の高さに対応する部分を閾値として面積比を判定する方法で充填率を求めることができる。
構造体12aが、その下部同士を重ね合うようにして繋がっていることが好ましい。具体的には、隣接関係にある構造体12aの一部または全部の下部同士が重なり合っていることが好ましく、トラック方向、θ方向、またはそれら両方向において重なり合っていることが好ましい。このように構造体12aの下部同士を重なり合わせることで、構造体12aの充填率を向上することができる。構造体12a同士は、使用環境下の光の波長の最大値の1/4以下の部分で重なり合っていることが好ましい。これにより、優れた光学調整機能を得ることができるからである。
【0036】
配置ピッチP1に対する、構造体底面の径2rの比率((2r/P1)×100)は、85%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、95%以上がさらに好ましい。このような範囲にすることで、構造体12aの充填率を向上し、光学調整機能を向上できるからである。比率((2r/P1)×100)が大きくなり、構造体12aの重なりが大きくなりすぎると光学調整機能が低減する傾向にある。したがって、屈折率を考慮した光路長で使用環境下の光の波長帯域の最大値の1/4以下の部分で構造体12a同士が接合されるように、比率((2r/P1)×100)の上限値を設定することが好ましい。ここで、配置ピッチP1は、構造体12aのトラック延在方向(X方向)の配置ピッチであり、径2rは、トラック延在方向(X方向)の構造体12aの底面の径である。なお、構造体12aの底面が円形である場合、径2rは直径となり、構造体12aの底面が楕円形である場合、径2rは長径となる。
構造体12aが準六方格子パターンを形成する場合には、構造体12aの底面の楕円率eは、100%<e<150%以下であることが好ましい。この範囲にすることで、構造体12aの充填率を向上し、優れた光学調整機能を得ることができるからである。
【0037】
透明性基板11の平均厚みは、透明積層体1の用途に応じて適宜選択され、用途に応じた可撓性や剛性を有することが好ましいが、例えば、上述した範囲で形成されるとよい。
また、構造体層12は、用途に応じて、又は透明性基板の片面、及び両面のいずれに形成されるかにより、適当な平均膜厚で形成されるが、例えば、上述した範囲で形成されるとよい。また、両面に形成される場合、必ずしも両側の構造体層の平均膜厚が同じである必要はない。
構造体層12を透明性基板の両面に形成した場合、透明性基板11の片面に設けられた構造体層12の構造体12aの高さをHa、透明性基板11の平均厚みをT、透明性基板11の他面(高さHaの構造体層が設けられた面と反対側の面)に設けられた構造体層12の構造体12aの高さをHbとした場合に、シールドを固定化し歪みのない安定した視界が得られる点から、Ha:T:Hb=18〜30:800〜300000:18〜30が好ましく、Ha:T:Hb=18〜30:1000〜50000:18〜30とすることがより好ましい。
【0038】
<<活性エネルギー線硬化性樹脂組成物>>
前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物としては、少なくとも下記に示す(メタ)アクリレート系重合性化合物の組成物を有し、更に必要に応じて、光重合開始剤や、その他、フィラーや各種機能性添加剤などの成分を含んでもよい。
前記(メタ)アクリレート系重合性化合物の組成物としては、以下の(A)及び(B)の少なくともいずれかと、(C)と、(D)とを含む。
(A)主鎖と側鎖がアルキル鎖からなる3価アルコールのエステル(メタ)アクリレート
(B)エチレンオキサイド変性ビスフェノールAのエステルジ(メタ)アクリレート
(C)ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート
(D)主鎖が直鎖アルキル鎖からなる2価アルコールのエステルジ(メタ)アクリレート
【0039】
ここでいうエステル(メタ)アクリレートとは、分子中に、酸基(酸無水物や酸クロライドを含む)と水酸基との反応で得られたエステル結合を有する(メタ)アクリレートであり、ウレタン結合もシロキサン結合も有さないものをいう。
上記(A)及び(B)の少なくともいずれかを含むとは、(A)を含む、(B)を含む、及び(A)と(B)とを含むのいずれの態様も含むものである。
前記(A)主鎖と側鎖がアルキル鎖からなる3価アルコールのエステル(メタ)アクリレートとしては
、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパンなどの、アルキル鎖からなる主鎖と側鎖とを有し、かつ水酸基を有する3価のアルコールと、(メタ)アクリル酸との反応生成物が挙げられ、中でもトリメチロールプロパントリアクリレートなどが好ましい。
前記(B)エチレンオキサイド変性ビスフェノールAのエステルジ(メタ)アクリレートとしては、構造中に有するエチレンオキサイド(EO)鎖の繰り返し単位の合計数をnとした時にn=4、10、17のものなどが挙げられ、中でも構造中に有するエチレンオキサイド鎖の繰り返し単位の合計数n=4のものが好ましい。
前記(C)ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートとしては、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、テトラメチレングリコールジアクリレートなどが挙げられ、中でもポリエチレングリコールジアクリレートなどが好ましい。
前記(C)ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートは、エチレンオキサイド(EO)鎖の繰り返し単位が8より大きいポリエチレングリコールジアクリレートを含有することがより好ましい。
前記(D)主鎖が直鎖アルキル鎖からなる2価アルコールのエステルジ(メタ)アクリレートとしては、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、1,10−デカンジオールジアクリレートなどが挙げられ、中でも1,6−ヘキサンジオールジアクリレートなどが好ましい。
【0040】
前記(メタ)アクリレート系重合性化合物の組成物における前記トリメチロールプロパントリアクリレートの含有量は、24.8質量%未満であることがより好ましい。
また、前記(メタ)アクリレート系重合性化合物の組成物における前記ポリエチレングリコールジアクリレートの含有量は、37.2質量%未満であることがより好ましい。
【0041】
−光重合開始剤−
前記光重合開始剤としては、例えば、光ラジカル重合開始剤、光酸発生剤、ビスアジド化合物、ヘキサメトキシメチルメラミン、テトラメトキシグリコユリルなどが挙げられる。
前記光ラジカル重合開始剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−ジフェニル−フォスフィンオキサイド、エトキシフェニル(2,4,6−トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、ビス(2,6−ジメチルベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシド、ビス(2,6−ジクロルベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシド、1−フェニル2−ヒドロキシ−2メチルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1,2−ジフェニルエタンジオン、メチルフェニルグリオキシレートなどが挙げられる。
【0042】
前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物における前記光重合開始剤の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.1質量%〜10質量%が好ましく、0.5質量%〜8質量%がより好ましい。
【0043】
−フィラー−
前記フィラーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、無機微粒子および有機微粒子のいずれも用いることができる。無機微粒子としては、例えば、SiO
2、TiO
2、ZrO
2、SnO
2、Al
2O
3などの金属酸化物微粒子を挙げることができる。
【0044】
−機能性添加剤−
前記機能性添加剤としては、例えば、レベリング剤、表面調整剤、消泡剤などを挙げることができる。
【0045】
前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、活性エネルギー線が照射されることにより硬化する。前記活性エネルギー線としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、電子線、紫外線、赤外線、レーザー光線、可視光線、電離放射線(X線、α線、β線、γ線等)、マイクロ波、高周波などが挙げられる。
【0046】
<<構造体層の特性>>
前記構造体層の表面の水接触角は、26°以上74°以下であり、
かつ前記構造体層の180℃における貯蔵弾性率は、0.5GPa未満である。
特に、前記(メタ)アクリレート系重合性化合物の組成物が、前記(A)主鎖と側鎖がアルキル鎖からなる3価アルコールのエステル(メタ)アクリレート、及び前記(B)エチレンオキサイド変性ビスフェノールAのエステルジ(メタ)アクリレートの両成分を含有する場合、前記水接触角は26°以上74°以下の範囲で、本発明の効果が十分発揮される。
前記(メタ)アクリレート系重合性化合物の組成物が、前記(A)主鎖と側鎖がアルキル鎖からなる3価アルコールのエステル(メタ)アクリレート、又は前記(B)エチレンオキサイド変性ビスフェノールAのエステルジ(メタ)アクリレートのいずれかの成分を含有する場合、前記水接触角は26°以上60°以下の範囲であるとより好ましい。
前記水接触角、前記貯蔵弾性率、及び前記表面弾性率は、以下のようにして測定することができる。
【0047】
[水接触角(°)]
協和界面科学社製CA−V型を用いて測定する。1μLの水をサンプル表面に滴下した後、11秒後の接触角を測定する。測定は、サンプルに水を滴下する位置を変えて3回実施し、それらの平均値を求める。
【0048】
[貯蔵弾性率(GPa、180℃)]
厚さ50μmの離型処理されたPETフィルム上に前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を配し、さらに厚さ50μmの離型処理されたPETフィルムにて挟み、アプリケータにてPETフィルム上から滑らせながら均し、UV光を積算光量が1000mJ/cm
2となるよう照射して硬化させる。硬化後に離型処理されたPETフィルムを両面剥がして、前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化物の厚みをマイクロメータにて測定する。前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物については、厚み100μm程度になるようにアプリケータのクリアランスを調整し、最終硬化物の厚みを各々計測して、貯蔵弾性率測定へ用いる。動的粘弾性測定装置(DMA)として、TA instruments製 RSA−3を用いて測定する。
【0049】
<その他の部材>
前記その他の部材としては、中間層、保護層、粘着層、接着層などが挙げられる。
【0050】
<<中間層>>
種々の目的に応じて、前記透明性基板と、前記構造体層との間に中間層を設けてもよい。
例えば、前記中間層を設けることにより、前記透明性基板と前記構造体層との接着性を向上することができる。
前記中間層の屈折率は、干渉ムラを防止するために、前記構造体層の屈折率と近いことが好ましい。または、前記中間層の屈折率は、前記構造体層の屈折率と前記透明性基板の屈折率との間であることが好ましい。
【0051】
前記中間層は、例えば、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を塗布することにより形成してもよい。前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物としては、前記構造体層の構成成分と同じであっても異なっていてもよい。前記塗布の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ワイヤーバーコーティング、ブレードコーティング、スピンコーティング、リバースロールコーティング、ダイコーティング、スプレーコーティング、ロールコーティング、グラビアコーティング、マイクログラビアコーティング、リップコーティング、エアーナイフコーティング、カーテンコーティング、コンマコート法、ディッピング法などが挙げられる。
【0052】
前記中間層の平均厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.01μm〜10μmが好ましく、0.1μm〜5μmがより好ましい。
【0053】
<<保護層>>
前記保護層としては、前記構造体層が形成された前記透明積層体を、製造又は成形加工する際に、前記構造体層が傷付くのを防止する層であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。前記保護層は、前記透明積層体を使用する際には、剥がされる。
【0054】
<<粘着層、接着層>>
前記粘着層及び前記接着層としては、前記透明性基板上に形成され、前記透明積層体を、被加工物、被着体などに接着させる層であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0055】
前記透明積層体は、インモールド成形用フィルム、インサート成形用フィルム、オーバーレイ成形用フィルムに特に適している。
【0056】
前記透明積層体の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、以下に記載する製造方法などが挙げられる。
【0057】
<透明積層体の製造方法>
前記透明積層体の製造方法としては、例えば、未硬化樹脂層形成工程と、構造体層形成工程とを含む製造方法が挙げられ、更に必要に応じて、その他の工程を含んでもよい。
【0058】
<<未硬化樹脂層形成工程>>
前記未硬化樹脂層形成工程としては、透明性基板上に活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を塗布して未硬化樹脂層を形成する工程であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0059】
前記透明性基板としては、前記透明積層体の説明で記載したとおりである。
前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物としては、前記透明積層体の前記構造体層の説明で記載したとおりである。
【0060】
前記未硬化樹脂層は、前記透明性基板上に前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を塗布して、必要に応じて乾燥を行うことにより形成される。前記未硬化樹脂層は、固体の膜であってもよいし、前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に含有される低分子量の硬化性成分によって流動性を有した膜であってもよい。
【0061】
前記塗布の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ワイヤーバーコーティング、ブレードコーティング、スピンコーティング、リバースロールコーティング、ダイコーティング、スプレーコーティング、ロールコーティング、グラビアコーティング、マイクログラビアコーティング、リップコーティング、エアーナイフコーティング、カーテンコーティング、コンマコート法、ディッピング法などが挙げられる。
【0062】
前記未硬化樹脂層は、活性エネルギー線が照射されていないため、硬化していない。
【0063】
前記未硬化樹脂層形成工程においては、前記中間層が形成された前記透明性基板の前記中間層上に前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を塗布して前記未硬化樹脂層を形成してもよい。
前記中間層としては、前記透明積層体の説明で記載したとおりである。
【0064】
<<構造体層形成工程>>
前記構造体層形成工程としては、前記未硬化樹脂層を微細な凸部及び凹部のいずれかを有する転写原盤に密着させ、前記転写原盤が密着した前記未硬化樹脂層に活性エネルギー線を照射し前記未硬化樹脂層を硬化させて前記微細な凸部及び凹部のいずれかを転写することにより、構造体層を形成する工程であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0065】
−転写原盤−
前記転写原盤は、微細な凸部及び凹部のいずれかを有する。
前記転写原盤の材質、大きさ、構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記転写原盤の微細な凸部及び凹部のいずれかの形成方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、所定のパターン形状を有するフォトレジストを保護膜として前記転写原盤の表面をエッチングすることにより形成することが好ましい。
【0066】
−活性エネルギー線−
前記活性エネルギー線としては、前記未硬化樹脂層を硬化させる活性エネルギー線であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記透明積層体の説明で記載したとおりである。
【0067】
ここで、前記構造体層形成工程の具体例を、図を用いて説明する。
【0068】
所定のパターン形状を有するフォトレジストを保護膜として転写原盤の表面をエッチングすることにより微細な凸部及び凹部のいずれかを形成した転写原盤を用いて構造体層を形成する。
【0069】
[転写原盤の構成]
図3Aは、転写原盤であるロール原盤の構成の一例を示す斜視図である。
図3Bは、
図3Aに示したロール原盤の一部を拡大して表す平面図である。
図3Cは、
図3BのトラックT1、T3‥における断面図である。ロール原盤31は、上述した構成を有する透明積層体を作製するための転写原盤、より具体的には、前記構造体層の表面に複数の凸部又は凹部を成形するための原盤である。ロール原盤31は、例えば、円柱状又は円筒状の形状を有し、その円柱面又は円筒面が構造体層の表面に複数の凸部又は凹部を成形するための成形面とされる。この成形面には、例えば、複数の構造体32が2次元配列されている。
図3Cにおいて、構造体32は、成形面に対して凹状を有している。ロール原盤31の材料としては、例えば、ガラスを用いることができるが、この材料に特に限定されるものではない。
【0070】
ロール原盤31の成形面に配置された複数の構造体32と、前記構造体層の表面に配置された複数の凸部又は凹部とは、反転した凹凸関係にある。すなわち、ロール原盤31の構造体32の配列、大きさ、形状、配置ピッチ、高さ又は深さ、及びアスペクト比などは、前記構造体層の凸部又は凹部と同様である。
【0071】
[ロール原盤露光装置]
図4は、ロール原盤を作製するためのロール原盤露光装置の構成の一例を示す概略図である。このロール原盤露光装置は、光学ディスク記録装置をベースとして構成されている。
【0072】
レーザー光源41は、記録媒体としてのロール原盤31の表面に着膜されたレジストを露光するための光源であり、例えば、波長λ=266nmの記録用のレーザー光34を発振するものである。レーザー光源41から出射されたレーザー光34は、平行ビームのまま直進し、電気光学素子(EOM:Electro Optical Modulator)42へ入射する。電気光学素子42を透過したレーザー光34は、ミラー43で反射され、変調光学系45に導かれる。
【0073】
ミラー43は、偏光ビームスプリッタで構成されており、一方の偏光成分を反射し他方の偏光成分を透過する機能をもつ。ミラー43を透過した偏光成分はフォトダイオード44で受光され、その受光信号に基づいて電気光学素子42を制御してレーザー光34の位相変調を行う。
【0074】
変調光学系45において、レーザー光34は、集光レンズ46により、ガラス(SiO
2)などからなる音響光学素子(AOM:Acousto−Optic Modulator)47に集光される。レーザー光34は、音響光学素子47により強度変調され発散した後、レンズ48によって平行ビーム化される。変調光学系45から出射されたレーザー光34は、ミラー51によって反射され、移動光学テーブル52上に水平かつ平行に導かれる。
【0075】
移動光学テーブル52は、ビームエキスパンダ53、及び対物レンズ54を備えている。移動光学テーブル52に導かれたレーザー光34は、ビームエキスパンダ53により所望のビーム形状に整形された後、対物レンズ54を介して、ロール原盤31上のレジスト層へ照射される。ロール原盤31は、スピンドルモータ55に接続されたターンテーブル56の上に載置されている。そして、ロール原盤31を回転させると共に、レーザー光34をロール原盤31の高さ方向に移動させながら、ロール原盤31の周側面に形成されたレジスト層へレーザー光34を間欠的に照射することにより、レジスト層の露光工程が行われる。形成された潜像は、円周方向に長軸を有する略楕円形になる。レーザー光34の移動は、移動光学テーブル52の矢印R方向への移動によって行われる。
【0076】
露光装置は、
図2Bおよび
図3Bに示した六方格子または準六方格子の2次元パターンに対応する潜像をレジスト層に形成するための制御機構57を備えている。制御機構57は、フォーマッタ49とドライバ50とを備える。フォーマッタ49は、極性反転部を備え、この極性反転部が、レジスト層に対するレーザー光34の照射タイミングを制御する。ドライバ50は、極性反転部の出力を受けて、音響光学素子47を制御する。
【0077】
このロール原盤露光装置では、2次元パターンが空間的にリンクするように1トラック毎に極性反転フォーマッタ信号と回転コントローラを同期させて信号を発生し、音響光学素子47により強度変調している。角速度一定(CAV)で適切な回転数と適切な変調周波数と適切な送りピッチでパターニングすることにより、六方格子または準六方格子パターンを記録することができる。
【0078】
[レジスト成膜工程]
まず、
図5Aの断面図に示すように、円柱状又は円筒状のロール原盤31を準備する。このロール原盤31は、例えば、ガラス原盤である。次に、
図5Bの断面図に示すように、ロール原盤31の表面にレジスト層(例えば、フォトレジスト)33を形成する。レジスト層33の材料としては、例えば、有機系レジスト、無機系レジストなどが挙げられる。前記有機系レジストとしては、例えば、ノボラック系レジスト、化学増幅型レジストなどが挙げられる。前記無機系レジストとしては、例えば、金属化合物などが挙げられる。
【0079】
[露光工程]
次に、
図5Cの断面図に示すように、ロール原盤31の表面に形成されたレジスト層33に、レーザー光(露光ビーム)34を照射する。具体的には、
図4に示したロール原盤露光装置のターンテーブル56上にロール原盤31を載置し、ロール原盤31を回転させると共に、レーザー光(露光ビーム)34をレジスト層33に照射する。このとき、レーザー光34をロール原盤31の高さ方向(円柱状又は円筒状のロール原盤31の中心軸に平行な方向)に移動させながら、レーザー光34を間欠的に照射することで、レジスト層33を全面にわたって露光する。これにより、レーザー光34の軌跡に応じた潜像35が、例えば可視光波長と同程度のピッチで、レジスト層33の全面にわたって形成される。
【0080】
潜像35は、例えば、ロール原盤表面において複数列のトラックTをなすように配置されるとともに、六方格子パターンまたは準六方格子パターンを形成する。潜像35は、例えば、トラックの延在方向に長軸方向を有する楕円形状である。
【0081】
[現像工程]
次に、例えば、ロール原盤31を回転させながら、レジスト層33上に現像液を滴下して、レジスト層33を現像処理する。これにより、
図5Dの断面図に示すように、レジスト層33に複数の開口部が形成される。レジスト層33をポジ型のレジストにより形成した場合には、レーザー光34で露光した露光部は、非露光部と比較して現像液に対する溶解速度が増すので、
図5Dの断面図に示すように、潜像(露光部)35に応じたパターンがレジスト層33に形成される。開口部のパターンは、例えば六方格子パターンまたは準六方格子パターンなどの所定の格子パターンである。
【0082】
[エッチング工程]
次に、ロール原盤31の上に形成されたレジスト層33のパターン(レジストパターン)をマスクとして、ロール原盤31の表面をエッチング処理する。これにより、
図5Eの断面図に示すように、錐体形状を有する構造体(凹部)32を得ることができる。錐体形状は、例えば、トラックTの延在方向に長軸方向をもつ楕円錐形状又は楕円錐台形状であることが好ましい。前記エッチングとしては、例えば、ドライエッチング、ウエットエッチングを用いることができる。このとき、エッチング処理とアッシング処理とを交互に行うことにより、例えば、錐体状の構造体32のパターンを形成することができる。以上により、目的とするロール原盤31が得られる。
【0083】
[転写処理]
図6Aの断面図に示すような未硬化樹脂層36が形成された透明性基板11を用意する。
次に、
図6Bの断面図に示すように、ロール原盤31と、透明性基板11上に形成された未硬化樹脂層36とを密着させ、未硬化樹脂層36に活性エネルギー線37を照射し未硬化樹脂層36を硬化させて微細な凸部及び凹部のいずれかを転写する。微細な凸部及び凹部のいずれか12aが形成された構造体層12と一体になった透明性基板11とを剥離することにより、本発明の透明積層体1が得られる(
図6C)。
【0084】
また、前記透明積層体が、
図1Bで示されるように、透明性基板の両側に構造体層を有するものである場合には、さらに以下の工程を経ることにより得られる。
上記のようにして得られた片側に構造体層が形成された透明積層体1を用い(
図7A)、さらに、
図7Bに示すように、ロール原盤31と、片面に構造体層が形成された透明性基板11の反対側の表面上に塗布された未硬化樹脂層36とを密着させた後、紫外線などのエネルギー線をエネルギー線源37から未硬化樹脂層36に照射して未硬化樹脂層36を硬化させ、硬化した構造体層12と一体となった透明性基板11を剥離する。これにより、
図7Cに示すように、複数の構造体12aを有する構造体層12を透明性基板11の両面に有する透明積層体1が得られる。
【0085】
<<透明積層体の他の製造方法>>
前記透明積層体は、上述のようにして得られたロール原盤を用いて、以下の方法により製造することもできる。
上記で作製したロール原盤上に、所定量の前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を垂らし、透明性基板をかぶせ、ロール原盤全体にローラーにて拡げ、その後、透明性基板側から紫外線などのエネルギー線を照射して、転写材料である前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化を行った後、転写材料が硬化してできた構造体層と一体となった透明性基板をロール原盤から離型する。これにより、本発明の透明積層体が得られる。
【0086】
<透明積層体の変形例>
<<第1の変形例>>
図10Aに示すように、透明積層体1の表面に設けられた複数の構造体12aが、隣接するトラックT間において四方格子パターンまたは準四方格子パターンをなすようにしてもよい。また、同様に、透明積層体1の裏面に設けられた複数の構造体12aが、隣接する3列のトラックT間において四方格子パターンまたは準四方格子パターンをなすようにしてもよい。
ここで、四方格子とは、正四角形状の格子のことをいう。準四方格子とは、正四角形状の格子とは異なり、歪んだ正四角形状の格子のことをいう。例えば、構造体12aが直線上に配置されている場合には、準四方格子とは、正四角形状の格子を円弧状に歪ませた四方格子、または正四角形状の格子を配列方向(トラック方向)に引き伸ばして歪ませ、かつ、円弧状に歪ませた四方格子のことをいう。構造体12aが蛇行して配列されている場合には、準四方格子とは、正四角形状の格子を構造体12の蛇行配列により歪ませた四方格子、または正四角形状の格子を配列方向(トラック方向)に引き伸ばして歪ませ、かつ、構造体12の蛇行配列により歪ませた四方格子のことをいう。
【0087】
構造体12aが、四方格子パターンまたは準四方格子パターンで配置されている場合、同一トラック内における構造体12aの配置ピッチP1は、隣接する2つのトラック間における構造体12aの配置ピッチP2よりも長いことが好ましい。また、同一トラック内における構造体12aの配置ピッチをP1、隣接する2つのトラック間における構造体12aの配置ピッチをP2としたとき、P1/P2が1.4<P1/P2≦1.5の関係を満たすことが好ましい。このような数値範囲にすることで、楕円錐または楕円錐台形状を有する構造体12aの充填率を向上することができるので、光学調整機能を向上することができる。また、トラックに対して45度方向または約45度方向における構造体12aの高さまたは深さは、トラックの延在方向における構造体12aの高さまたは深さよりも小さいことが好ましい。
トラックの延在方向に対して斜となる構造体12aの配列方向(θ方向)の高さH3は、トラックの延在方向における構造体12aの高さH1よりも小さいことが好ましい。すなわち、構造体12aの高さH1、H3がH1>H3の関係を満たすことが好ましい。
【0088】
<<第2の変形例>>
図11に示すように、複数の構造体12aを透明積層体1の表面にランダム(不規則)に2次元配列するようにしてもよい。構造体12aの形状、大きさおよびは高さの少なくとも1つをランダムに変化させるようにしてもよい。
上述の構造体12aを有する透明積層体1を作製するための原盤の作製方法としては、例えば、アルミニウム基材などの金属基材の表面を陽極酸化する方法を用いることができるが、この方法に特に限定されるものではない。
第2の変形例では、複数の構造体12aをランダムに2次元配列しているので、外観上のムラの発生を抑制できる。
【0089】
<<第3の変形例>>
図12Aに示すように、透明積層体1が全体として帯状の形状を有するようにしてもよい。このような形状とすることで、透明積層体1をロール・ツー・ロール工程により容易に作製することができる。また、ロール状などに透明積層体1を巻回して原反とすることで、取り扱いを容易とすることができる。
また、透明積層体1の構成として上述の構成を採用する場合、
図12Bに示すように、透明積層体1の最表面に、構造体12aを保護する保護層6を、粘着層2を介してさらに設けることもできる。透明積層体1を巻回して原反とする場合にも、構造体12aの破損を抑制し、光学調整機能の低下を抑制することができるからである。なお、保護層6や粘着層2は、透明積層体1の使用時には除去される。
【0090】
<本発明の透明積層体の適用例>
本発明の前記透明積層体は、反射防止特性、透過性、防汚性、防曇性、保護特性など全ての項目に対しバランスよく良好な結果を示すことから、これらの利点を活かし、顔面保護マスク、ディスプレイフィルム、配電盤や分電盤などの表示部に使用する表示面フィルム(特に防曇性に優れていることから、内側に使用するフィルムに好適に使用できる)、バイクの表示機器の表示面に使用する表示面フィルム(特に防曇性に優れていることから、内側に使用するフィルムに好適に使用できる)、競馬などに使用するスポーツ用ゴーグルへの適用が可能である。
中でも、前記透明積層体を医療用の顔面保護用光学素子として使用するのが好ましい。
【0091】
<<顔面保護用光学素子>>
本発明の前記透明積層体の反射防止特性、透過性、防汚性、防曇性、保護特性などの利点を活かし、前記透明積層体を顔面への飛来物から顔面を保護しつつ必要な視界を確保する医療用の顔面保護用光学素子として好ましく使用することができる。
本発明の顔面保護用光学素子を用いた医療用の顔面保護マスクは、防汚性、耐擦傷性に優れ、さらに呼気に含まれる水分を瞬時に平滑化し曇りを防ぐことから、曇りの発生を効果的に防止し、透過性に優れたものとなる。
【0092】
(物品)
本発明の前記透明積層体を用い、更に必要に応じて、その他の部材を用い、物品を形成することができる。
前記物品としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前述した顔面保護マスク、ディスプレイフィルム、配電盤や分電盤などの表示部、バイクの表示機器の表示部、スポーツ用ゴーグルなどを挙げることができる。
中でも、前述したように、本発明の透明積層体を顔面保護用光学素子として使用し、外科手術時や歯科治療時等に用いる、医療用の顔面保護マスクなどの物品へ好ましく適用できる。本発明の顔面保護用光学素子を、ゴーグル型、顔面マスク型などの光学素子の取り付け治具に着脱可能に取り付けることにより、または顔面マスクに固着することにより、顔面保護具を得ることができる。
【0093】
図8Aは、顔面マスク71に本発明の顔面保護用光学素子1をアイシールド73として固着した顔面保護具70の一実施形態の平面図であり、
図8Bは、顔面に着用されている顔面保護具70の斜視図である。
顔面マスク71は、着用者の鼻、口及び顎の一部を覆い、紐72等で顔面に保持される。顔面マスク71としては、任意の医療用顔面マスクを使用することができ、例えば、通気性を有し、かつ細菌の侵入を防止するために多層構造となっているものを使用することができる。
一方、顔面保護用光学素子1は、着用者の視界を遮ることなく、着用者の目に液体や飛散物が飛来することを防ぐアイシールド73として、顔面マスク71に接合領域74a、74bで固着されている。
アイシールド73は、顔面マスク71の幅に対して十分に大きな幅を有し、着用者の目の周囲を広く覆える大きさを有している。また、アイシールド73は、下辺中央に凹み75を有している。顔面保護具70を顔面に着用した場合に、この凹み75があることにより、アイシールド73は着用者の鼻の周囲で曲がり、アイシールド73が顔面に沿った曲面になる。
接合領域74a、74bは、顔面マスク71の左右両端部であって、着用時に鼻の側方となる部分に設けられている。接合領域74a、74bにおけるアイシールド73と顔面マスク71との固着方法としては、超音波溶着、熱接着、鋲等の機械的接合などをあげることができる。接合領域74a、74bの大きさは、アイシールド73を固定できればよく、例えば、幅3〜15mm、長さ5〜30mmとすることができる。これにより、アイシールド73を紐72で顔面に押さえつけることが不要となり、顔面保護具70を簡便に着脱することができる。
なお、本発明において、アイシールド73として使用する本発明の顔面保護用光学素子1は、顔面マスク71に着脱自在に取り付けてもよい。
上記でアイシールドとして使用する顔面保護用光学素子1は、上述した製造方法により透明積層体として得られた後、顔面保護具に取り付けるため所定のサイズに裁断されることにより、使用される。尚、この裁断工程を含む、顔面保護具等の物品を製造、加工する際、透明積層体表面を保護するため、表面保護フィルムを透明積層体表面に配してもよい。
【0094】
本発明の透明積層体を有する物品は、インモールド成形、インサート成形、オーバーレイ成形により形成することができる。
【0095】
前記透明積層体は、前記物品の一部に形成されていてもよいし、全面に形成されていてもよい。
前記物品の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、以下のインモールド成形による製造方法が好ましく挙げられる。
【0096】
<<本発明の透明積層体を有する物品の製造方法>>
前記物品の製造方法としては、例えば、加熱工程と、透明積層体成形工程と、射出成形工程とを含む製造方法が挙げられ、更に必要に応じて、その他の工程を含んでもよい。
【0097】
<<加熱工程>>
前記加熱工程としては、透明積層体を加熱する工程であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記透明積層体は、本発明の前記透明積層体である。
【0098】
前記加熱としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、赤外線加熱であることが好ましい。
前記加熱の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記透明性基板が樹脂製基材である場合には、前記樹脂製基材のガラス転移温度近傍若しくはガラス転移温度以上であることが好ましい。
前記加熱の時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0099】
<<透明積層体成形工程>>
前記透明積層体成形工程としては、加熱された前記透明積層体を所望の形状に成形する工程であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、所定の金型に密着させて、空気圧により、所望の形状に成形する工程などが挙げられる。
【0100】
<<射出成形工程>>
前記射出成形工程としては、所望の形状に成形された前記透明積層体の透明性基板側に成形材料を射出し、前記成形材料を成形する工程であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0101】
前記成形材料としては、例えば、樹脂などが挙げられる。前記樹脂としては、例えば、オレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、ABS樹脂(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)、AS樹脂(アクリロニトリル−スチレン共重合体)、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリフェニレンオキシド・ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート、ポリカーボネート変性ポリフェニレンエーテル、ポリエチレンテレフタレート、ポリスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキシド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、液晶ポリエステル、ポリアリル系耐熱樹脂、各種複合樹脂、各種変性樹脂などが挙げられる。
【0102】
前記射出の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、所定の金型に密着させた前記透明積層体の透明性基板側に、溶融した前記成形材料を流し込む方法などが挙げられる。
【0103】
前記物品の製造方法は、インモールド成形装置、インサート成形装置、オーバーレイ成形装置を用いて行うことが好ましい。
【0104】
ここで、本発明の透明積層体を有する物品の製造方法の一例を、図を用いて説明する。この製造方法はインモールド成形装置を用いた製造方法である。
まず、透明積層体500を加熱する。加熱は赤外線加熱が好ましい。
続いて、
図9Aに示すように、加熱した透明積層体500を、第1金型501と第2金型502との間の所定の位置に配置する。このとき、透明積層体500の透明性基板が第1金型501を向き、構造体層が第2金型502を向くように配置する。
図9Aにおいて、第1金型501は、固定型であり、第2金型502は、可動型である。
【0105】
第1金型501と第2金型502との間に透明積層体500を配置した後、第1金型501と第2金型502とを型締めする。続いて、第2金型502のキャビティ面に開口されている吸引穴504で透明積層体500を吸引して、第2金型502のキャビティ面に透明積層体500を装着する。そうすることにより、キャビティ面が透明積層体500で賦形される。また、このとき、図示されていないフィルム押さえ機構で透明積層体500の外周を固定し位置決めしてもよい。その後、透明積層体500の不要な部位をトリミングする(
図9B)。
なお、第2金型502が吸引穴504を有さず、第1金型501に圧空孔(図示せず)を有する場合には、第1金型501の圧空孔から透明積層体500に圧空を送ることにより、第2金型502のキャビティ面に透明積層体500を装着する。
【0106】
続いて、透明積層体500の透明性基板に向けて、第1金型501のゲート505から溶融した成形材料506を射出し、第1金型501と第2金型502を型締めして形成したキャビティ内に注入する(
図9C)。これにより、溶融した成形材料506がキャビティ内に充填される(
図9D)。更に、溶融した成形材料506の充填完了後、溶融した成形材料506を所定の温度まで冷却して固化する。
【0107】
その後、第2金型502を動かして、第1金型501と第2金型502とを型開きする(
図9E)。そうすることにより、成形材料506の表面に透明積層体500が形成され、かつ所望の形状にインモールド成形された物品507が得られる。
最後に、第1金型501から突き出しピン508を押し出して、得られた物品507を取り出す。
また、より形状が複雑な場合には、予め上記と同様の工程にて、前記成形材料の追加樹脂を加えずプレフォームを行い、その後本成形に供することにより物品の製造を行ってもよい。
【実施例】
【0108】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
以下の実施例において、各測定及び評価は、以下のようにして行った。
【0109】
<水接触角(°)>
協和界面科学社製CA−V型を用いて測定した。1μLの水をサンプル表面に滴下した後、11秒後の接触角を測定した。測定は、サンプルに水を滴下する位置を変えて3回実施し、それらの平均値を求めた。
【0110】
<貯蔵弾性率(GPa、180℃)>
厚さ50μmの離型処理されたPETフィルム上に前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を配し、さらに厚さ50μmの離型処理されたPETフィルムにて挟み、アプリケータにてPETフィルム上から滑らせながら均し、UV光を積算光量が1000mJ/cm
2となるよう照射して硬化させた。硬化後に離型処理されたPETフィルムを両面剥がして、前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化物の厚みをマイクロメータにて測定した。前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物については、厚み100μm程度になるようにアプリケータのクリアランスを調整し、最終硬化物の厚みを各々計測して、貯蔵弾性率測定へ用いた。動的粘弾性測定装置(DMA)として、TA instruments製 RSA−3を用いて測定した。
【0111】
<表面弾性率(GPa、室温)>
Fisher instruments製PICODENTOR HM500を用いて透明積層体の表面の弾性率を測定した。
【0112】
<マンドレル試験(mm)>
JIS K5600−5−1に準拠し、テスター産業株式会社製、PI−801塗膜屈曲試験機を用い、マンドレル径を順次変えて、透明積層体上の構造体層にクラックが入るマンドレル径を測定した。マンドレル径が小さいほど屈曲性に優れていることを表す。また、最小のマンドレル径は2mmであるため、2mm>の記載はクラックの発生が無いことを表す。
【0113】
<引張破断伸度(%)>
厚さ50μmの離型処理されたPETフィルム上に前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を配し、さらに厚さ50μmの離型処理されたPETフィルムにて挟み、硬化物層の厚みが約100μmとなるようにクリアランスを調整したアプリケータにてPETフィルム上から滑らせながら均し、UV光を積算光量が1000mJ/cm
2となるよう照射して硬化させた。硬化後に離型処理されたPETフィルムを両面剥がして、前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化物の厚みをマイクロメータにて測定した。
前記硬化物層を幅10mm×80mm長の短冊状に打ち抜いてサンプルとした。
引張試験機(島津製作所株式会社製 オートグラフAG−X 5kN)を用い、サンプルの両端を固定し、引張速度300mm/minで引張り、破断した際の初期からのサンプルの伸び率を測定した。
【0114】
<打ち抜き試験(裁断時のクラック発生有無)>
株式会社マテックス精工製ハンドトグルプレスを用い、0.7mm厚・刃先42°のトムソン刃型により本発明の透明積層体のサンプルに対し、打ち抜き試験を実施し、打ち抜き後の切断面を光学顕微鏡にて観察し、クラックの発生有無を確認した。以下の判定方法に基づき、クラックの発生の有無及びクラックの大きさを評価した。
判定方法:透明積層体断面のエッジ部から90度方向のクラック端部までの距離L1を測定した。これをクラックの生じた10点箇所において行った。該L1の10点の平均値を求めた。これをクラック長さとして、以下の判断基準により評価した。
【0115】
−判断基準−
クラック大:クラックの長さが100μm以上
クラック中:クラックの長さが50μm以上、100μm未満
クラック小:クラックの長さが5μm以上、50μm未満
クラック無し:クラックの長さが5μm未満
【0116】
<プロテクトフィルム剥離力(N/25mm)>
JIS Z−0237に準拠し、90度剥離試験にて測定した。25mm幅に切り出した市販のアクリル粘着層を有するプロテクトフィルムを透明積層体上の構造体層に貼りつけ、24h静置した。その後、今田製作所株式会社製、引張圧縮試験機 SV−55C−2Hを用いて、引張速度300mm/minにてサンプルからプロテクトフィルムを剥離し、剥離した際の剥離力を測定した。剥離力は、取扱い上の観点から0.1N/25mm〜0.8N/25mmが好ましい。
【0117】
<耐指紋性(指紋拭き取り性)>
サンプル(透明積層体上の構造体層)に指紋を付けた後、ワイピングクロスで水拭きして、指紋の拭き取り具合を目視にて確認した。1回水拭きと5回水拭きの結果を確認した。
ワイピングクロスは、クリーンルーム用ワイピングクロスのサヴィーナ ミニマックス(KBセレーン株式会社製)を使用した。
【0118】
<防曇性>
本発明の透明積層体のサンプルを、口から約2.5cmの距離に置き、サンプルに息を吹きかけることにより防曇性を評価した。息の吹きかけ時間は約3秒間とした。3回連続して評価を実施した。その結果、曇りが発生しない場合を○、曇が発生した場合を×として評価した。
【0119】
(実施例1)
<微細な凹部を有する転写原盤(ガラスロール原盤)の作製>
まず、外径126mmのガラスロール原盤を準備し、このガラスロール原盤の表面に以下のようにしてレジスト層を形成した。即ち、シンナーでフォトレジストを質量比で1/10に希釈し、この希釈レジストをディッピング法によりガラスロール原盤の円柱面上に平均厚み70nm程度に塗布することにより、レジスト層を形成した。次に、ガラスロール原盤を、
図4に示したロール原盤露光装置に搬送し、レジスト層を露光することにより、1つの螺旋状に連なると共に、隣接する3列のトラック間において六方格子パターンをなす潜像がレジスト層にパターニングされた。具体的には、六方格子状の露光パターンが形成されるべき領域に対して、0.50mJ/mのレーザー光を像様に照射し六方格子状の露光パターンを形成した。
【0120】
次に、ガラスロール原盤上のレジスト層に現像処理を施して、露光した部分のレジスト層を溶解させて現像を行った。具体的には、図示しない現像機のターンテーブル上に未現像のガラスロール原盤を載置し、ターンテーブルごと回転させつつガラスロール原盤の表面に現像液を滴下してその表面のレジスト層を現像した。これにより、レジスト層が六方格子パターンに開口しているレジストガラス原盤が得られた。
【0121】
次に、ロールエッチング装置を用い、CHF
3ガス雰囲気中でのプラズマエッチングを行った。これにより、ガラスロール原盤の表面において、レジスト層から露出している六方格子パターンの部分のみエッチングが進行し、その他の領域はレジスト層がマスクとなりエッチングはされず、楕円錐形状の凹部がガラスロール原盤に形成された。この際、エッチング量(深さ)は、エッチング時間によって調整した。最後に、O
2アッシングにより完全にレジスト層を除去することにより、凹形状の六方格子パターンを有するガラスロール原盤を得た。
【0122】
<透明積層体の作製>
次に、上述のようにして得られたロール原盤を用いて、UVインプリントにより透明積層体を作製した。具体的には、以下のようにして行った。
まず、モスアイ形状をもつ上記で作製した原盤上に下記組成からなるUV硬化樹脂組成物(成分表を下記表1−1に示す)を数滴垂らし、透明な基体としてポリカーボネート製フィルム(C000、住友化学株式会社製)をかぶせ、原盤全体にローラーにて拡げた。
その後、ポリカーボネート製フィルム側から紫外線を1000mJ/cm
2で照射し、樹脂の硬化を行った後、原盤から離型し、透明積層体を得た。
−構造体層用紫外線硬化性樹脂組成物−
・トリメチロールプロパントリアクリレート
(miramer M300(Miwon製)) 24.27質量%
・ポリエチレングリコールジアクリレート
(NKエステルA−600(新中村化学工業(株))) 23.00質量%
・1,6−ヘキサンジオールジアクリレート
(miramer M200(Miwon製)) 45.73質量%
・2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド
(重合開始剤:Lucilin TPO(BASF S.E製)) 7.00質量%
尚、上記Miwonとは、Miwon specialty chemical Co.,Ltdである。
得られた透明積層体の構造体層の平均厚みは3μm、凸部の平均距離(Pm)は178nm、凸部の平均高さ(Hm)は245nm、平均アスペクト比(Hm/Pm)は、1.38であった。
得られた透明積層体の特性を評価するため、上述した方法に従い、水接触角(°)、貯蔵弾性率(GPa、180℃)、表面弾性率(GPa、室温)、マンドレル試験(mm)、引張破断伸度(%)、打ち抜き試験、プロテクトフィルム剥離力(N/25mm)、耐指紋性、防曇性の各項目について、測定及び評価を行った。結果を表2−1に示す。
【0123】
(実施例2〜6)
実施例1において、構造体層用紫外線硬化性樹脂組成物を下記表1−1に示す組成に変更した以外は、実施例1と同様にして、透明積層体を得た。
得られた透明積層体の特性を評価するため、実施例1と同様の測定及び評価を行った。結果を、表2−1に示した。
【0124】
(比較例1〜7)
実施例1において、構造体層用紫外線硬化性樹脂組成物を下記表1−2に示す組成に変更した以外は、実施例1と同様にして、透明積層体を得た。
得られた透明積層体の特性を評価するため、実施例1と同様の測定及び評価を行った。結果を、表2−2に示した。尚、比較例4は、防曇性の結果が悪く、本発明で要求する防曇性能は得られなかった。そのため、残った評価項目においては、測定しなかったものもあり、その場合には、その旨、表中に示した。
【0125】
【表1-1】
【0126】
【表1-2】
【0127】
【表2-1】
【0128】
【表2-2】
【0129】
上記実験結果より、本発明の透明積層体は、表面保護フィルムとの適度な密着性を担保しており、表面保護フィルムとの密着性が良すぎることから生じる微細な凹凸形状の破壊という弊害を有効に防止でき、防汚性、防曇性などに優れた透明積層体であること、さらに構造体層が適度な硬さと柔軟性を有していることから、耐クラック性に優れた透明積層体であることが確認できた。