【文献】
杉本和子、杉本恒美,SLDVと空中放射音波を用いたコンクリート非破壊検査−スペクトルエントロピーを用いた探査アルゴリズムに関する検討−,桐蔭論叢,2015年10月,第32号 2015年10月,第213頁〜第219頁
【文献】
杉本恒美 他2名,非破壊検査のための非接触音響探査法についての研究開発,道路政策の質の向上に資する技術研究開発成果報告レポート,新道路技術会議,2014年 7月,No.22-3 平成26年7月
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
被照射体の表面に音波を照射し、その表面の複数の測定箇所において振動速度を測定して、前記被照射体の強度の分布を判定する音波を用いた強度推定方法であって、
音波発信源から音波を照射し、前記被照射体の表面を振動させて、各測定箇所における振動速度を測定する工程と、
得られた振動速度を測定結果に基づいて、各測定箇所における周波数と振動速度との関係を表す振幅スペクトル(Sf)を求めた後、さらに周波数と振動エネルギー(PSD)との関係を求め、得られた周波数と振動エネルギー(PSD)との関係について特定範囲で積分値を求め、その積分値が最も小さい値であった測定箇所を最小PSD部とする工程と、
下記式(I)に基づいて、前記最小PSD部に対するその他の測定箇所の振動エネルギーの比である振動エネルギー比(VER(1))を求める工程と、
【数1】
(式(I)中のPSDminは、前記最小PSD部における、周波数と振動エネルギー(PSD)との関係についての積分値(積分範囲:f
1〜f
2)を意味し、式(I)中のPSDxは、前記最小PSD部以外の測定箇所における、周波数と振動エネルギー(PSD)との関係についての積分値(積分範囲:f
1〜f
2)を意味する。)
求められた振動エネルギー比(VER(1))の値が、第1の閾値以下であった測定箇所を強度が強い箇所であり、第1の閾値以上であった測定箇所を強度が弱い箇所である、と判定する工程と、
を備える強度推定方法。
被照射体の表面に音波を照射し、その表面の複数の測定箇所において振動速度を測定して、前記被照射体の強度の分布を判定する音波を用いた強度推定方法であって、
音波発信源から音波を照射し、前記被照射体の表面を振動させて、各測定箇所における振動速度を測定する工程と、
得られた振動速度を測定結果に基づいて、各測定箇所における周波数と振動速度との関係を表す振幅スペクトル(Sf)を求めた後、さらに周波数と振動エネルギー(PSD)との関係を求め、得られた周波数と振動エネルギー(PSD)との関係について特定範囲で積分値を求め、その積分値が最も小さい値であった測定箇所を最小PSD部とする工程と、
下記式(I)に基づいて、前記最小PSD部に対するその他の測定箇所の振動エネルギーの比である振動エネルギー比(VER(1))を求める工程と、
【数3】
(式(I)中のPSDminは、前記最小PSD部における、周波数と振動エネルギー(PSD)との関係についての積分値(積分範囲:f
1〜f
2)を意味し、式(I)中のPSDxは、前記最小PSD部以外の測定箇所における、周波数と振動エネルギー(PSD)との関係についての積分値(積分範囲:f
1〜f
2)を意味する。)
下記式(II)に基づいて、前記振幅スペクトル(Sf)からスペクトルエントロピー(H)を求める工程と、
【数4】
(式(II)においてSfは振幅スペクトルを意味する。)
求められたスペクトルエントロピー(H)の値が、第2の閾値以下であった測定箇所を強度が弱い箇所であり、第2の閾値以上であった測定箇所を強度が強い箇所である、と判定する工程と、
を備える強度推定方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者は鋭意研究開発を推し進め、欠陥検査にのみ用いられていた、空中放射音波を用いた非接触音響探査法を、健全部の評価(強度等)にも用いることができることを見出した。
【0009】
本発明は、非接触で被照射体の健全部の評価をすることができる、音波を用いた強度推定方法および強度推定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は鋭意検討し、上記課題を解決する方法を見出し、本発明を完成させた。
本発明は次の(i)〜(iv)である。
(i)被照射体の表面に音波を照射し、その表面の複数の測定箇所において振動速度を測定して、前記被照射体の強度の分布を判定する音波を用いた強度推定方法であって、
音波発信源から音波を照射し、前記被照射体の表面を振動させて、各測定箇所における振動速度を測定する工程と、
得られた振動速度を測定結果に基づいて、各測定箇所における周波数と振動速度との関係を表す振幅スペクトル(Sf)を求めた後、さらに周波数と振動エネルギー(PSD)との関係を求め、得られた周波数と振動エネルギー(PSD)との関係について特定範囲で積分値を求め、その積分値が最も小さい値であった測定箇所を最小PSD部とする工程と、
下記式(I)に基づいて、前記最小PSD部に対するその他の測定箇所の振動エネルギーの比である振動エネルギー比(VER(1))を求める工程と、
【数1】
(式(I)中のPSDminは、前記最小PSD部における、周波数と振動エネルギー(PSD)との関係についての積分値(積分範囲:f
1〜f
2)を意味し、式(I)中のPSDxは、前記最小PSD部以外の測定箇所における、周波数と振動エネルギー(PSD)との関係についての積分値(積分範囲:f
1〜f
2)を意味する。)
求められた振動エネルギー比(VER(1))の値が、第1の閾値以下であった測定箇所を強度が強い箇所であり、第1の閾値以上であった測定箇所を強度が弱い箇所である、と判定する工程と、
を備える強度推定方法。
(ii)さらに、下記式(II)に基づいて、前記振幅スペクトル(Sf)からスペクトルエントロピー(H)を求める工程と、
【数2】
(式(II)においてSfは振幅スペクトルを意味する。)
前記求められた振動エネルギー比の値が第1の閾値以下であり、かつ、求められたスペクトルエントロピーの値が第2の閾値以上である箇所を、強度が強い箇所と判定し、一方、前記求められた振動エネルギー比の値が第1の閾値以上であり、かつ、求められたスペクトルエントロピーの値が第2の閾値以下である箇所を、強度が弱い箇所と判定する工程と、
を備える、上記(i)に記載の強度推定方法。
(iii)被照射体の表面に音波を照射し、その表面の複数の測定箇所において振動速度を測定して、前記被照射体の強度の分布を判定する音波を用いた強度推定方法であって、
音波発信源から音波を照射し、前記被照射体の表面を振動させて、各測定箇所における振動速度を測定する工程と、
得られた振動速度を測定結果に基づいて、各測定箇所における周波数と振動速度との関係を表す振幅スペクトル(Sf)を求めた後、さらに周波数と振動エネルギー(PSD)との関係を求め、得られた周波数と振動エネルギー(PSD)との関係について特定範囲で積分値を求め、その積分値が最も小さい値であった測定箇所を最小PSD部とする工程と、
下記式(I)に基づいて、前記最小PSD部に対するその他の測定箇所の振動エネルギーの比である振動エネルギー比(VER(1))を求める工程と、
【数3】
(式(I)中のPSDminは、前記最小PSD部における、周波数と振動エネルギー(PSD)との関係についての積分値(積分範囲:f
1〜f
2)を意味し、式(I)中のPSDxは、前記最小PSD部以外の測定箇所における、周波数と振動エネルギー(PSD)との関係についての積分値(積分範囲:f
1〜f
2)を意味する。)
下記式(II)に基づいて、前記振幅スペクトル(Sf)からスペクトルエントロピー(H)を求める工程と、
【数4】
(式(II)においてSfは振幅スペクトルを意味する。)
求められたスペクトルエントロピー(H)の値が、第2の閾値以下であった測定箇所を強度が弱い箇所であり、第2の閾値以上であった測定箇所を強度が強い箇所である、と判定する工程と、
を備える強度推定方法。
(iv)被照射体の表面に音波を照射し、その表面の複数の測定箇所において振動速度を測定して、前記被照射体の強度の分布を判定する音波を用いた強度推定システムであって、
前記被照射体の表面を振動させ得る音波を発生させる音響発信源と、
前記被照射体の表面の振動速度を測定する計測器と、
得られた振動速度の測定結果を用いて、被照射体の強度の分布を特定する解析装置とを有し、
上記(i)〜(iii)のいずれか1に記載の強度推定方法を行うことができる、強度推定システム。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、非接触で被照射体の健全部の評価をすることができる、音波を用いた強度推定方法および強度推定システムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明について説明する。
本発明は音波を用いた強度推定方法および強度推定システムである。本発明の強度推定方法および本発明の強度推定システムによれば、被照射体の強度の分布を正確に把握することができる。被照射体としては、例えば、コンクリート構造物、地面(土、砂、石、アスファルト等)、木、液体、人体が挙げられる。
【0014】
本発明の強度推定方法は、本発明の強度推定システムによって実現することが好ましい。本発明の強度推定システムは、被照射体の表面に音波を照射し、その表面の複数の測定箇所において振動速度を測定して、被照射体の強度の分布を判定する強度推定システムであって、前記被照射体の表面を振動させ得る音波を発生させる音響発信源と、前記被照射体の表面の振動速度を測定する計測器と、得られた振動速度の測定結果を用いて、被照射体の強度の分布を特定する解析装置とを有し、前記解析装置によって特定の情報処理を行うことができる。本発明の強度推定システムとして、具体的には、例えば
図1に示す装置が挙げられる。
【0015】
(強度推定システム)
図1は、被照射体1の表面を振動させ得る音波を発生させる音響発信源11と、被照射体1の表面の振動速度を測定する計測器13と、被照射体1の強度の分布を特定するために用いる解析装置151を含むコンピュータ15とを有する装置10を示す概略図である。
図1に示す装置10は、さらに、任意波形発生装置17およびアンプ19を有しており、加えて、コンピュータ15は制御装置152および表示部153を含んでおり、制御装置152によって任意波形発生装置17を制御して、所望の周波数の音波を音響発信源11から発生することができる。任意波形発生装置17が発生するトリガ信号に制御装置152を同期させて計測することもできる。表示部153には、後に説明する振動速度分布図等を表示することができる。表示部とはディスプレイ画面等を意味する。
【0016】
図1に示す本発明の強度推定システム(装置10)において、音響発信源11はフラットスピーカである。本発明の強度推定システムにおいて音響発信源の数やスピーカの角度等は特に限定されない。
【0017】
音響発信源はフラットスピーカの他、パラメトリックスピーカも好ましく用いることができ、また、具体的に、アメリカンテクノロジー社製のLRAD(登録商標)を好ましく用いることができる。また、ラウドスピーカを用いることもできるが、この場合は、音響発信源と被照射体との距離を比較的近くする。その他に用いることができる音響発信源としては、パルスレーザ、高圧ガスガン、衝撃波管が挙げられる。
【0018】
また、音響発信源から被照射体へ照射される音波は、所望の周波数(ω)に調整することができ、かつ、被照射体の表面をその振動速度が計測器によって測定できる程度に、表面に平行方向ではない方向(好ましくは、表面に垂直方向)へ振動させることができる音波であればよく、空気中で振動振幅が減衰し難い可聴帯域の音波(音響波)が好ましい。なお、超音波は用い難い。超音波は空気中で振動振幅の減衰が大きいからである。
また、被照射体の共振周波数帯が不明な場合には、音響発信源から被照射体へ照射される音波は、ホワイトノイズであることが好ましい。全ての周波数を含んでいるからである。
【0019】
音響発信源から被照射体へ音波を照射することで、被照射体の表面に90dB以上の音圧を発生させることが好ましく、100dB程度の音圧を発生させることがより好ましい。
【0020】
図1に示す本発明の強度推定システム(装置10)において、計測器13はレーザドップラー振動計であることが好ましく、レーザ131を被照射体1に照射して、その表面の振動速度を測定することができる。得られた振動速度のデータは解析装置151で解析するために用いられる。
なお、本発明の強度推定システムにおいて計測器は、被照射体の表面の振動速度を非接触で測定できるものであれば特に限定されず、例えばレーザ変位計を用いることができ、レーザドップラー振動計であることが好ましい。被照射体と計測器とが比較的離れていても、被照射体の表面の振動を正確に測定することができるからである。
また、1度に1点の振動計測が可能なシングルレーザタイプのレーザ振動計を用いることは可能であるが、スキャニングレーザタイプのレーザ振動計を用いることが好ましい。スキャニング振動計であるレーザドップラー振動計としては、具体的に、ポリテックジャパン社製のPSV400−H4が挙げられる。このレーザドップラー振動計は解析装置の一部および制御装置を含むものである。
【0021】
図1に示す本発明の強度推定システム(装置10)において、解析装置151は、被照射体1における強度の分布を特定するための特定の情報処理を行うことができるものであれば特に限定されない。この特定の情報処理は本発明の強度推定方法が備えるものであり、後に詳細に説明する。
【0022】
図1に示す本発明の強度推定システム(装置10)において、任意波形発生装置17は、制御装置152の指令によって所望の周波数の音波を音響発信源11から発生させることができる装置である。例えば、ノイズ波やバースト波を発生可能な市販のファンクションジェネレータ等を用いることができる。送信する音波の波形は通常この任意波形発生装置により制御することができる。通常は簡単のために手動で制御するが、解析装置側から制御するようにシステムを構成することも可能である。任意波形発生装置17が発生するトリガ信号に制御装置152を同期させて計測することもできる。
また、アンプ19は特に限定されず、例えば、市販オーディオアンプ等を用いることができる。
【0023】
本発明の強度推定システムは、本発明の強度推定方法を実施することができる構成を備えている。
【0024】
(強度推定方法)
次に、本発明の強度推定方法について説明する。
本発明の強度推定方法は、被照射体の表面に音波を照射し、その表面の複数の測定箇所において振動速度を測定して、被照射体の強度の分布を判定する音波を用いた強度推定方法である。
そして、音波発信源から音波を照射し、前記被照射体の表面を振動させて、各測定箇所における振動速度を測定する工程を備える。
この工程は、例えば前述の本発明の強度推定システムを用い、音響発信源から被照射体へホワイトノイズを照射し、レーザドップラー振動計などの計測器を用いて、その表面の各測定箇所における振動速度を測定して行うことができる。振動速度は測定時間(時刻)との関係として得ることができる。
【0025】
なお、ここでの計測結果についてゲート処理を施して、目的信号のみを抽出することが好ましい。ゲート処理とは、時間的、周波数的に計測したい信号を取り出す処理であり、本発明者が既に行った特願2012−258888号に記載の処理が例示される。
【0026】
本発明の強度推定方法は、さらに、以下に説明する特定の情報処理を行う各工程を備える。
【0027】
本発明の強度推定方法は、特定の情報処理を行う工程として、前工程によって得られた振動速度を測定結果に基づいて、各測定箇所における周波数と振動速度との関係を表す振幅スペクトル(Sf)を求めた後、さらに周波数と振動エネルギー(PSD)との関係を求め、得られた周波数と振動エネルギー(PSD)との関係について特定範囲で積分値を求め、その積分値が最も小さい値であった測定箇所を最小PSD部とする工程を備える。
【0028】
この工程では、前工程によって得られた振動速度の測定結果をフーリエ変換して振幅スペクトル(Sf)を求め、さらに周波数と振動エネルギー(PSD)との関係を求める。
振動エネルギー(PSD)は、振動速度の2乗に比例する値である。
【0029】
また、レーザドップラー振動計などの計測器に共振周波数が存在する場合および多重反射による影響が無視できない場合には、一度、フーリエ変換後、周波数領域で指定範囲内のエネルギーを計算することが好ましい。
【0030】
次に、得られた周波数と振動エネルギー(PSD)との関係について、特定範囲で積分値を求める。
積分する範囲は特に限定されないが、計測器の共振周波数を含まない範囲で積分することが好ましい。例えばレーザドップラー振動計等の共振周波数のノイズが存在する場合、そのノイズを含まない範囲を積分する範囲としてもよい。具体的には、例えばレーザドップラー振動計等の共振周波数のノイズが1kHz以下に存在する場合、1350Hz〜8000Hzの範囲を積分する範囲としてもよい。
【0031】
このようにして、各測定箇所について、上記の積分値が得られる。そして、その積分値が最も小さい値であった測定箇所を、最小PSD部とする。
【0032】
次に、本発明の強度推定方法は、特定の情報処理を行う工程として、前記最小PSD部に対するその他の測定箇所の振動エネルギーの比である振動エネルギー比(VER(1))を求める。
【0033】
振動エネルギー比(VER(1))は、前記最小PSD部に対するその他の測定箇所の振動エネルギーの比であり、次の式(I)から算出される。
【0035】
すなわち、式(I)における分母(式(I)中の「PSD
min」)が、前記最小PSD部における、周波数と振動エネルギー(PSD)との関係についての積分値(積分範囲:f
1〜f
2)である。そして、式(I)における分子(式(I)中の「PSD
x」)が、前記最小PSD部以外の測定箇所における、周波数と振動エネルギー(PSD)との関係についての積分値(積分範囲:f
1〜f
2)である。
【0036】
そして、求められた振動エネルギー比(VER(1))の値が、第1の閾値以下であった測定箇所を強度が強い(硬い)箇所であり、その値が第1の閾値以上であった測定箇所を強度が弱い(柔らかい)箇所である、と判定する。
【0037】
第1の閾値は、被照射体の材質等によって概ね決まる値である。例えば、非照射体がコンクリートである場合、コンクリートの配合や相対的な評価にもよるが、第1の閾値は、1.2〜1.5程度である。
【0038】
次に、本発明の強度推定方法は、特定の情報処理を行う工程として、前記振幅スペクトル(Sf)からスペクトルエントロピー(H)を求める。
【0039】
各測定箇所におけるスペクトルエントロピー(H)は、次の式(II)より算出する。
【0041】
ここで、Sfは振幅スペクトルである。また、スペクトルエントロピー(H)の周波数計算範囲は特に限定されないが、前述の、周波数と振動エネルギー(PSD)との関係について積分値を求める範囲と同一とすることが好ましい。
【0042】
そして、求められたスペクトルエントロピー(H)の値が、第2の閾値以下であった測定箇所を強度が弱い(柔らかい)箇所であり、その値が第2の閾値以上であった測定箇所を強度が強い(硬い)箇所である、と判定する。
【0043】
第2の閾値は、被照射体の材質等によって概ね決まる値である。例えば、非照射体がコンクリートである場合、コンクリートの配合や相対的な評価にもよるが、第2の閾値は、12.5程度である。
【0044】
強度の判定については、上述したように、振動エネルギー比の値のみで判断してもよく、スペクトルエントロピーの値のみで判断してもよい。さらに、振動エネルギー比とスペクトルエントロピーの値を複合的に判定してもよい。すなわち、振動エネルギー比の値が第1の閾値以下であり、かつ、スペクトルエントロピーの値が第2の閾値以上である箇所を、強度が強い(硬い)箇所と判定し、一方、振動エネルギー比の値が第1の閾値以上であり、かつ、スペクトルエントロピーの値が第2の閾値以下である箇所を、強度が弱い(柔らかい)箇所と判定してもよい。
【0045】
上記のような一連の処理についての代表例を
図2にフローチャートとして表す。
図2に示すように、最初に、各計測点結果についてゲート処理(時間、周波数)を施し、目的信号のみを抽出する。次に振動エネルギーを計算する(レーザドップラー振動計に共振周波数が存在する場合には一度FFT(フーリエ変換)後周波数領域で指定範囲内のエネルギーを計算することが好ましい。)。次に計測点中の最も低い値を示したエネルギーを健全部の基準とし、振動エネルギー比を計算する。
【0046】
次に、前記振幅スペクトル(Sf)からスペクトルエントロピー(H)を求める。
【0047】
次に、振動エネルギー比(VER(1))の値が第1の閾値以下であった測定箇所を強度が強い(硬い)箇所であり、その値が閾値以上であった測定箇所を強度が弱い(柔らかい)箇所である、と判定する。また、スペクトルエントロピー(H)の値が第2の閾値以下であった測定箇所を強度が弱い(柔らかい)箇所であり、その値が第2の閾値以上であった測定箇所を強度が強い(硬い)箇所である、と判定する。
【0048】
このとき、振動エネルギー比(VER(1))の値が第1の閾値以下であり、かつ、スペクトルエントロピー(H)の値が第2の閾値以上である箇所を強度が強い(硬い)箇所であると判定してもよい。また、振動エネルギー比(VER(1))の値が第1の閾値以上であり、かつ、スペクトルエントロピー(H)の値が第2の閾値以下である箇所を強度が弱い(柔らかい)箇所であると判定してもよい。
【0049】
このようにして、被照射体の健全部についての強度の分布を判定する。
具体的な方法は、後述する実施例において説明する。
【0050】
次に、本発明者が、上記のような振動エネルギー比及びスペクトルエントロピーを用いた強度推定方法に関する本発明に至った経緯について記す。
【0051】
非接触音響探査法では、空中放射音波によりコンクリート壁面を振動させ、この振動をレーザ計測により、振動速度スペクトルとして計測する。欠陥部と比べると健全部はほとんど振動していないことから、従来は健全部で計測される振動速度スペクトルの物理的な意味については考慮してこなかった。しかしながら、同じ健全部でも振動速度スペクトルにはばらつきがあり、特に強度が明瞭に異なる場合にはそのスペクトルの分布にも差が出ることが考えられる。例えば、硬い部分と柔らかい部分が同じコンクリート壁面に存在したとすると、柔らかい部分は硬い部分に比べると振動しやすいため、振動エネルギー(比)として比較した場合には、柔らかい部分の振動エネルギーは高くなることが想定される。また、このことはスペクトルの分布にも影響し、硬い部分は柔らかい部分に比べると平坦なスペクトル分布特性、すなわち白色度の高い特性を持っていることが想定される。振動エネルギー(比)とスペクトルエントロピーは元来、計測時の受光漏れに起因する計測不良点の識別のために考案されたものであるが、実はこのような対象物の強度推定にも用いることができる。
【実施例】
【0052】
初めに、強度が異なる4種類の円筒状コンクリートを内包した供試体を用意した。円筒状コンクリートの半径は、約50mmである。この供試体の寸法図を
図3に示す。
【0053】
次に、
図4に示すように供試体を配置した後、長距離音響放射装置(LRAD)から供試体へ音波を照射して、供試体表面に100dBの音圧を発生させた。そして、スキャニング振動計(SLDV)を用いて、その表面の複数個所について振動速度を測定した。測定位置は、
図5に示すとおりである。強度が異なる円筒状コンクリートを、左から2、5、8、11として、測定した。その他の1、3、4、6、7、9、10、12は、周囲のコンクリートの測定である。なお、これら4つの円筒状コンクリートの圧縮強度は、測定箇所2、5、8、11について、それぞれ30、40、60、80N/m
2である。
【0054】
この際の測定条件は、以下のとおりである。
計測周波数範囲:500−7100Hz
音源:LRAD(Long Range Acoustic Devce)
LRADから測定面までの距離:2.549m
SLDVから測定面までの距離:3.165m
音波:トーンバースト波(変調周波数200Hz,interval=50ms)
測定点での加算平均回数:5回
測定面での最大音圧は:100dB程度
【0055】
次に、各測定箇所(12か所)の各々における振動速度の測定結果(振動速度と時間との関係)をフーリエ変換し、測定箇所ごとの振幅スペクトル(Sf)を求めた。
【0056】
次に、得られた振幅スペクトル(Sf)に基づいて、周波数と振動エネルギー(PSD)との関係を求めた。振動エネルギー(PSD)は、振動速度の2乗に比例する値である。
【0057】
そして、得られた周波数と振動エネルギー(PSD)との関係において、f
1=1350Hzからf
2=8192Hzまでの範囲で積分値(PSD積分値)を求めた。
その結果、1番のPSD積分値が最も小さくなったため、1番を「最小PSD部」と認定した。そして、他の測定箇所(11か所)について、1番と対比する振動エネルギー比(VER(1))を求めた。すなわち、前述の式(I)における分母を1番のものとし、他の各測定箇所におけるものを分子として、各々における振動エネルギー比(VER(1))を求めた。
【0058】
次に、各測定箇所における前述の式(II)に基づいてスペクトルエントロピーを計算した。なお、スペクトルエントロピー(H)の周波数計算範囲は1350〜8192Hzとした。
【0059】
このようにして得られた、1〜12番までの測定箇所の振動エネルギー比とエントロピースペクトルの計算結果を
図6に示す。
振動エネルギー比の第1の閾値を1.4程度とし、エントロピースペクトルの第2の閾値を12.5程度とすると、測定箇所2及び5は、振動エネルギー比が第1の閾値以上であり、エントロピースペクトルが第2の閾値以下であるので、強度が弱い柔らかいグループに分類される。一方、測定箇所8及び11は、振動エネルギー比が第1の閾値以下であり、エントロピースペクトルが第2の閾値以上であるので、強度が強い硬いグループに分類される。
【0060】
このように、非接触音響探査法の欠陥検出アルゴリズムを健全部に適用することで、コンクリートの強度推定に用いることができることが明らかになった。従来、健全部でのデータのばらつきには物理的な意味があるとは考えていなかったが、今回、初めて意味があることが示された。なお、本手法はコンクリート以外のものでも使用できるため、今後さらに適用範囲が広がっていくことが予想される。