特許第6684076号(P6684076)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6684076
(24)【登録日】2020年3月31日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】熱電変換素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/82 20060101AFI20200413BHJP
   H01L 37/00 20060101ALI20200413BHJP
【FI】
   H01L29/82 Z
   H01L37/00
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-218163(P2015-218163)
(22)【出願日】2015年11月6日
(65)【公開番号】特開2017-92163(P2017-92163A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2018年10月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】504124783
【氏名又は名称】アシザワ・ファインテック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】515308947
【氏名又は名称】加藤 岳仁
(73)【特許権者】
【識別番号】594175308
【氏名又は名称】東京鋼鐵株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112689
【弁理士】
【氏名又は名称】佐原 雅史
(74)【代理人】
【識別番号】100128934
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 一樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128141
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 圭一
(72)【発明者】
【氏名】石川 剛
(72)【発明者】
【氏名】萩原 直樹
(72)【発明者】
【氏名】加藤 岳仁
(72)【発明者】
【氏名】中野 收
【審査官】 上田 智志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−065254(JP,A)
【文献】 特開2014−154850(JP,A)
【文献】 特開2014−209594(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/151000(WO,A1)
【文献】 特開2012−235092(JP,A)
【文献】 特開平10−045910(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/82
H01L 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度勾配が生ずる方向にスピン流を生成する磁性体層と、
前記磁性体層上に形成され、前記磁性体層で生成されたスピン流を電流へと変換する導電層と、
を備え、
前記磁性体層は、少なくとも複数の金属酸化物により構成され
複数の前記金属酸化物は、酸化第一鉄、酸化第二鉄、及び、四酸化三鉄により構成されることを特徴とする、
熱電変換素子。
【請求項2】
複数の前記金属酸化物には、前記酸化第一鉄の粉体、前記酸化第二鉄の粉体、及び、前記四酸化三鉄の粉体が含まれることを特徴とする、
請求項1に記載の熱電変換素子。
【請求項3】
前記酸化第一鉄、前記酸化第二鉄、及び、前記四酸化三鉄は、圧延スケールから得られるものであることを特徴とする、
請求項1及び2のいずれかに記載の熱電変換素子。
【請求項4】
前記磁性体層は、前記酸化第一鉄の粉体、前記酸化第二鉄の粉体、前記四酸化三鉄の粉体及び、高分子化合物混合した混合物により構成され、
前記混合物は、塗布することにより前記磁性体層を形成可能であることを特徴とする、
請求項1乃至のいずれかに記載の熱電変換素子。
【請求項5】
前記高分子化合物は、重量平均分子量が15000以上且つ500000以下であることを特徴とする、
請求項に記載の熱電変換素子。
【請求項6】
前記高分子化合物には、芳香族炭化水素の重合体が含まれることを特徴とする、
請求項及びのいずれかに記載の熱電変換素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換素子に関し、特に、スピンゼーベック効果を利用した熱電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、磁性誘電体からなる熱スピン波スピン流発生部材に、逆スピンホール効果部材を設けた熱電変換素子が提案されていた(例えば、特許文献1参照)。熱電変換素子は、熱スピン波スピン流発生部材の厚さ方向に温度勾配を設けるとともに、磁場印加手段により逆スピンホール効果部材の長手方向と直交する方向に磁場Hを印加して逆スピンホール効果部材の両端から熱起電力Vを取り出していた。
【0003】
上記熱電変換素子における磁性誘電体として、ガーネットフェライト、MnxZn1−xFe2O4(但し、0<x<1)等のスピネルフェライト、或いは、六方晶フェライト、YIG(イットリウム鉄ガーネット)やイットリウムガリウム鉄ガーネット、即ち、一般式で表記するとY3Fe5−xGaxO12(但し、0≦x<5)からなるガーネットフェライト、或いは、YIGのYサイトをLa等の原子で置換したガーネットフェライト、例えば、LaY2Fe5O12等が提案されていた。
【0004】
また、上記熱スピン波スピン流発生部材に相当するものとして、所定の粒子径を有する磁性体粒子の融着体が提案されていた(例えば、特許文献2参照)。そして、その磁性体粒子を構成する材質として、イットリウム鉄ガーネットY3Fe5−xGaxO12(但し、x<5、YIG)、ガーネットフェライトMnxZn1−xFe2O4(但し、0<x<1)等のスピネルフェライト、或いは、六方晶フェライト等が挙げられていた。また、上記磁性体粒子の融着体は、磁性体粒子を含有する磁性体分散組成物を塗布、印刷した後、焼成する方法等によって得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011―249746号公報
【特許文献2】特開2014―209594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記前者の熱電変換素子は、発電特性が低い。また、上記後者の熱電変換素子は、上記熱スピン波スピン流発生部材に相当する部分を生成するのに、磁性体粒子を含有する磁性体分散組成物を塗布、印刷した後、焼成する方法を採用しており、プロセスの制約から量産化の観点で欠点を有していた。さらに、上記2つの熱電変換素子における磁性誘電体や磁性体粒子は、わざわざ専用の設備によって製造するものであり、製造コストが高くなる。
【0007】
本発明は、斯かる実情に鑑み、発電特性が高く、製造コストが低い熱電変換素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の熱電変換素子は、温度勾配が生ずる方向にスピン流を生成する磁性体層と、前記磁性体層上に形成され、前記磁性体層で生成されたスピン流を電流へと変換する導電層と、を備え、前記磁性体層は、少なくとも複数の金属酸化物により構成され、複数の前記金属酸化物は、酸化第一鉄、酸化第二鉄、及び、四酸化三鉄により構成されることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の熱電変換素子において、複数の前記金属酸化物には、前記酸化第一鉄の粉体、前記酸化第二鉄の粉体、及び、前記四酸化三鉄の粉体が含まれることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の熱電変換素子において、前記酸化第一鉄、前記酸化第二鉄、及び、前記四酸化三鉄は、圧延スケールから得られるものであることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の熱電変換素子において、上記金属酸化物系紛体の一次粒子の体積中位径が略1(μm)以下であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の熱電変換素子において、前記磁性体層は、前記酸化第一鉄の粉体、前記酸化第二鉄の粉体、前記四酸化三鉄の粉体及び、高分子化合物混合した混合物により構成され、前記混合物は、塗布することにより前記磁性体層を形成可能であることを特徴とする。

【0014】
また、本発明の熱電変換素子において、上記高分子化合物は、重量平均分子量が15000以上且つ500000以下であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の熱電変換素子において、上記高分子化合物には、芳香族炭化水素の重合体が含まれることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の熱電変換素子において、上記高分子化合物は、吸水率が0.25以下であることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の熱電変換素子において、上記高分子化合物は、線膨張率が3以上且つ12以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の熱電素子によれば、発電特性は高いが、製造コストが低くできるという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施の形態における熱電変換素子100を示す図である。
図2】本発明の実施の形態における熱電変換素子200を示す図である。
図3】本発明の熱電変換素子の発電特性、及び発電特性に経時変化に関する実験に用いた熱電変換素子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0021】
<1.熱電変換素子100の構成>
図1は、本発明の実施の形態における熱電変換素子100を示す図である。図1(a)は、本発明の実施の形態における熱電変換素子100の斜視図である。図1(b)は、本発明の実施の形態における熱電変換素子100中の電流の流れを示す図である。熱電変換素子100は、スピンベーゼック効果を利用した熱電変換素子である。熱電変換素子100は、図1(a)に示すように、基材10上に設けられ、磁性体層20と、導電層30とを備える。
【0022】
基材10は、例えば、フレキシブルな材質で構成された基板や、フレキシブルでない材質で構成された基板等、様々な態様のものが想定される。熱電変換素子100は、基材10上に、例えば、磁性体層20、導電層30が順に積層される構成が一例として挙げられる。導電層30に1対の電極41及び42を設けて、その電極41及び42から熱電変換素子100が熱電変換した電流を取り出す。以下において、それを前提に説明するが、熱電変換素子は、図2に示すように、基材10上に、導電層30、磁性体層20が順に積層された構成をした熱電変換素子200であってもよい。この場合、磁性体層20の一部を取り除いて導電層30を剥き出しにして、その剥き出した導電層30上に電極41及び42を設ける。
【0023】
<1−1.磁性体層20の構成>
磁性体層20は、スピンゼーベック効果を表す磁性体材料により構成される。スピンゼーベック効果は、磁性体材料に温度勾配を与えると、その温度勾配と平行な方向に電子スピンの流れであるスピン流が発生する現象である。したがって、磁性体層20に温度勾配を与えると、図1(b)に示すように、その温度勾配と平行な方向にスピン流が発生する。
【0024】
磁性体層20を構成する材質として、金属酸化物が想定される。磁性体層20を構成する金属酸化物として、例えば、酸化鉄、酸化クロム、Ru酸化物等が挙げられる。本発明において磁性体層20を構成する金属酸化物として、酸化鉄系の材料が好ましい。
【0025】
具体的には、酸化鉄系の材料として、例えば、四酸化三鉄(マグネタイト)、酸化第一鉄(ウスタイト)、酸化第二鉄(ヘマタイト)が想定される。以上の材質のうち、少なくとも2種の材質により磁性体層20は形成される。その材質の組合せとして、例えば、四酸化三鉄(マグネタイト)と酸化第一鉄(ウスタイト)、四酸化三鉄(マグネタイト)と酸化第二鉄(ヘマタイト)、四酸化三鉄(マグネタイト)と酸化第一鉄(ウスタイト)と酸化第二鉄(ヘマタイト)が一例として想定される。
【0026】
上記金属酸化物は、例えば、圧延スケールを用いることが一例として想定される。圧延スケールとは、鉄鋼等の加熱、圧延工程で発生する酸化スケールのことをいう。この圧延スケールは、少なくとも四酸化三鉄(マグネタイト)、酸化第一鉄(ウスタイト)、酸化第二鉄(ヘマタイト)を含む。
【0027】
磁性体層20を構成する材料として、上記金属酸化物を微粒子化したものと、高分子化合物とを混ぜた混合物が一例として想定される。上記金属酸化物を微粒子化したものと高分子化合物とを混ぜた混合物は、塗布することにより磁性体層20を形成可能である。上記金属酸化物を微粒子化したものと高分子化合物との混合物は、例えば、インク状にすることができる。インク状の混合物を導電層30上に塗布することにより、磁性体層20は出来上がる。上記金属酸化物を微粒子化する場合、金属酸化物の一次粒子径は、概ね1(μm)以下とすることが好ましい。
【0028】
磁性体層20を構成する材質を、上記金属酸化物を微粒子化したものと高分子化合物との混合物にすると、スピン流の伝播や、スピンコヒーレンス長の制御が可能となり、発電特性を高めることができる。
【0029】
一般的に、磁性体層は焼結により基材上に形成される。しかし、上記のように上記金属酸化物を微粒子化したものと高分子化合物とを混ぜた混合物を塗布して磁性体層20を形成させれば、焼結工程をなくすことができるため、製造コストを低下させることができる。
【0030】
また、上記高分子化合物として、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、熱可塑性樹脂、フェノール樹脂等が一例として想定される。なお、取扱いの観点を考慮すると、上記高分子化合物として、例えば、ポリスチレンやポリエチレンが好ましい。
【0031】
また、上記高分子化合物として、重量平均分子量が15000以上500000以下である高分子化合物が一例として想定される。これにより、場面に応じて様々な粘度の上記インク状の混合物を生成することができる。また、上記高分子化合物に芳香族炭化水素の重合体が含まれることが好ましい。重合(高分子量化)を容易にでき、重合成分による熱的強度、機械的強度を容易に変化させることができるためである。また、上記高分子化合物における高分子化合物の吸水率が0.25以下であることが好ましい。大気中での吸水により、基材からの剥離を防ぐため、吸水率は低い方が好ましいからである。また、上記高分子化合物における高分子化合物の線膨張率が略3(10−5/K)〜12(10−5/K)程度であることが好ましい。基材との膨張率の違いによる剥離を防止するためである。
【0032】
<1−2.導電層30の構成>
導電層30は、逆スピンホール効果を表す材料により構成される。したがって、スピンベーゼック効果により磁性体層20で生じたスピン流が導電層30に流入すると、逆スピンホール効果により導電層30中で上記スピン流と直交する方向に起電力が生じる。これにより、図1(b)に示すように、導電層30には電流が流れる。
【0033】
導電層30を構成する材質として、例えば、白金(Pt)、銅(Au)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、タングステン(W)、チタン(Ti)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、亜鉛(Zn)、スズ(Sn)、ニッケル(Ni)、炭素(C)、インジウム(In)のうち少なくとも1つ含んだものが一例として想定されるが、これに限るものではなく、その他の公知の導電性の材質であってもよい。
【0034】
また、導電層30の態様であるが、例えば、チタン箔やタングステン箔などの金属箔や、ITO(インジウムドープ酸化スズ膜)付ガラス基板、FTO(フッ素ドープ酸化スズ膜)付ガラス基板や、ガラス基板やプラスチック(例えば、PET、PEN)基板に導線高分子(例えば、PEDOT−PSS、ポリアニリン)を塗布したものが一例として想定されるが、これに限るものではなく、その他の態様であってもよい。
【0035】
<2.本発明の熱電変換素子の発電特性に関する実験>
<2−1.実験に用いる熱電変換素子>
本願出願人は、本発明の熱電変換素子の発電特性に関する実験を行うに当たって以下の実施例1に示す熱電変換素子と、比較用の比較例1に示す熱電変換素子とを作成した。これらの熱電変換素子は、図2に示す態様の基部10、導電層30、磁性体層20が順に積層された熱電変換素子200である。
【0036】
<2−1−1.実施例1の熱電変換素子>
実施例1の熱電変換素子は、基部10(ガラス基板)、及び導電層30(透明導電膜ITO)として、透明導電膜ITO付ガラス基板を用いた。そして、その透明導電膜ITO付ガラス基板上にスピンコーターを用いて磁性体層形成インクを塗布して磁性体層20を形成した。この磁性体層形成インクは、酸化第一鉄(ウスタイト)60重量%、酸化第二鉄(ヘマタイト)5重量%、四酸化三鉄(マグネタイト)35重量%の酸化鉄混合物10重量%をトルエン中でビーズミルを用いて攪拌、粉砕、分散させて微粒子化した後に、その微粒子化した酸化鉄混合物にポリスチレン10重量%を溶解させて作成した。このインク中での酸化鉄混合物の体積中位径(D50)は0.16(μm)であった。体積中位径の測定にはマイクロトラック・ベル製MT3000を用いた。なお、本明細書において体積中位径とは、体積基準の積算分布が50%になる粒子径を言う。また、上記スピンコーターにおける磁性体層の成膜速度は4000(rpm)とした。さらに、磁性体層20の一部をヘラ等を用いて一部を剥ぎ取り、超音波ハンダ付装置(黒田テクノ(株)製のサンボンダUSM−580)を用いて露出した透明導電膜に電極D1、D2を設けて、実施例1の熱電変換素子を作成した。また、実施例1の熱電変換素子は未封止とした。その実施例1の熱電変換素子は、図3に示すような薄板態様で、そのサイズは、20(mm)×20(mm)である。
【0037】
<2−1−2.比較例1の熱電変換素子>
比較例1の熱電変換素子は、実施例1と同様の構成で形成された熱電変換素子であり、透明導電膜ITO付ガラス基板上にスピンコーターを用いて磁性体層形成インクを塗布して磁性体層を形成した。この磁性体層形成インクは、四酸化三鉄(マグネタイト)10重量%をトルエン中でビーズミルを用いて攪拌、粉砕、分散させて微粒子化した後に、その微粒子化した四酸化三鉄(マグネタイト)にポリスチレン10重量%を溶解させて作成した。このインク中での四酸化三鉄(マグネタイト)の体積中位径(D50)は0.19(μm)であった。体積中位径の測定にはマイクロトラック・ベル製MT3000を用いた。また、上記スピンコーターにおける磁性体層の成膜速度は4000(rpm)とした。さらに、磁性体層の一部をヘラ等を用いて一部を剥ぎ取り、超音波ハンダ付装置(黒田テクノ(株)製のサンボンダUSM−580)を用いて露出した透明導電膜に電極D1、D2を設けて、比較例1の熱電変換素子を作成した。その比較例1の熱電変換素子は、図2に示すような薄板態様で、そのサイズは、20(mm)×20(mm)である。以上のように、比較例1は、実施例1と構造は同様であるが、磁性体層を形成する材料が主として異なる。
【0038】
<2−2.実験概要>
実施例1、及び比較例1において磁性体層の膜厚を変えた熱電変換素子をそれぞれ3つずつ作成した。そして、それらの熱電変換素子の薄板面の垂直方向(図2の矢印A方向)に温度差を与え、その際に発生する起電力をマルチメーター(KEITHLEY製 Model:2700)を用いて測定した。上記熱電変換素子の垂直方向に温度を与える高温源にはASONE製セラミックホットプレートCHP−170DNを用いた。また温度の測定には、COSTOM製サーモメータCT−05SD、FLIR製のCPA−0130Aを用いた。
【0039】
上記内容で発電特性を測定した結果を表1に示す。表1中のゼーベック係数は、温度差を与えた場合における熱電変換素子の発電特性の指標を示すものであり、この値が大きいほど良い熱電変換素子となる。
【0040】
【表1】
【0041】
表1に示すように、実施例1の熱電変換素子、及び比較例1の熱電変換素子の磁性体層の膜厚が大きくなると、ゼーベック係数も大きくなっていっている。したがって、熱電変換素子は、磁性体層の膜厚が大きい方が発電特性が良くなる。その上で、実施例1の熱電変換素子、及び比較例1の熱電変換素子の発電特性を比較する。
【0042】
比較例1の熱電変換素子の磁性体層の膜厚が2.9(μm)の時、比較例1の熱電変換素子のゼーベック係数は6(μV/K)であった。これに対し、実施例1の熱電変換素子の磁性体層の膜厚が2.7(μm)の時、実施例1の熱電変換素子のゼーベック係数は6.5(μV/K)であった。実施例1の熱電変換素子と比較例1の熱電変換素子のゼーベック係数を比較すると、実施例1の熱電変換素子の方が比較例1の熱電変換素子より磁性体層の膜厚の方が小さいのに、実施例1の熱電変換素子の方が比較例1の熱電変換素子よりゼーベック係数は大きい。
【0043】
また、比較例1の熱電変換素子の磁性体層の膜厚が3.3(μm)の時、比較例1の熱電変換素子のゼーベック係数は8.5(μV/K)であった。これに対し、実施例1の熱電変換素子の磁性体層の膜厚が3(μm)の時、実施例1の熱電変換素子のゼーベック係数は13.3(μV/K)であった。さらに、比較例1の熱電変換素子の磁性体層の膜厚が4.7(μm)の時、比較例1の熱電変換素子のゼーベック係数は12.9(μV/K)であった。これに対し、実施例1の熱電変換素子の磁性体層の膜厚が4.1(μm)の時、実施例1の熱電変換素子のゼーベック係数は15.5(μV/K)であった。
【0044】
実施例1の熱電変換素子と比較例1の熱電変換素子とを比較すると、熱電変換素子の磁性体層の膜厚が大きくなる程、ゼーベック係数の大きさの差が顕著に表れてきている。したがって、本発明の熱電変換素子は発電特性に優れている。
【0045】
<3.本発明の熱電変換素子の発電特性に経時変化に関する実験>
本願出願人は、本発明の熱電変換素子の発電特性に経時変化に関する実験を行うに当たって以下の実施例2に示す熱電変換素子と、比較用の比較例2に示す熱電変換素子とを作成した。これらの熱電変換素子も、図2に示す態様の基部10、導電層30、磁性体層20が順に積層された熱電変換素子200である。
【0046】
<3−1.実験に用いる熱電変換素子>
<3−1−1.実施例2の熱電変換素子>
実施例2の熱電変換素子は、実施例1の熱電変換素子と同様の内容で作成した。実施例2の熱電変換素子は、図2に示すような薄板態様で、実施例1の熱電変換素子とは薄板サイズが異なり、35(mm)×35(mm)である。
【0047】
<3−1−2.比較例2の熱電変換素子>
比較例2の熱電変換素子は、比較例1の熱電変換素子と同様の内容で作成した。比較例2の熱電変換素子は、図2に示すような薄板態様で、比較例1の熱電変換素子とは薄板サイズが異なり、35(mm)×35(mm)である。
【0048】
<3−2.実験概要>
実施例2の熱電変換素子、及び比較例2の熱電変換素子の薄板面の垂直方向(図2の矢印A方向)に温度差を与え、その際に発生する起電力をマルチメーター(KEITHLEY製 Model:2700)を用いて測定した。
【0049】
なお、実施例2の熱電変換素子、及び比較例2の熱電変換素子の磁性体層の成膜速度は4000rpmとした。また、実施例2の熱電変換素子、及び比較例2の熱電変換素子は未封止とし、作製から3日間の短期的な特性変化を観察した。なお作製から24時間後を第一測定とし、測定時以外は大気雰囲気、室温での静置状態とした。測定時における温度差は4[K]とした。温度の測定には、COSTOM製サーモメータCT−05SD、FLIR製のCPA−0130Aを用いた。
【0050】
比較例2の熱電変換素子の特性の経時変化を測定した結果、作製後72時間後で初期特性に対し、52%の特性保持率を示した。一方、実施例2の熱電変換素子の特性の経時変化を測定した結果、作製後72時間後における特性保持率は初期特性に対し69%であった。この結果を比較すると、明らかに実施例2の熱電変換素子の特性の経時変化の方が優れている。
【0051】
実施例1、2の熱電変換素子が比較例1、2の熱電変換素子と比較して良い特性を示すのは以下のような理由が考えられる。材料の粒子径と分散状態等の磁性体層中の物質(材料)のモルフォロジーにより、スピン流の伝搬経路におけるスピン流の状態が異なっていると考えられる。すなわち、材料の粒子径と分散状態等の磁性体層中の物質(材料)のモルフォロジーにより、電流発生に有効に寄与するスピン流の割合は異なってくると考えられる。この観点からすると、電流発生に有効に寄与するスピン流の割合は、実施例1、2の熱電変換素子の方が比較例1、2の熱電変換素子よりも高いと推察できる。したがって、電流発生に有効に寄与するスピン流を発生させるという観点からすると、金属酸化物として四酸化三鉄(マグネタイト)のみが含まれる磁性体層よりも、圧延スケール等をはじめとする複数の金属酸化物が混合される混合物が含まれる磁性体層の方が好ましい。
【0052】
以上説明したように、本発明の熱電変換素子のように、磁性体層を複数の金属酸化物、特に、複数の酸化鉄系粉体(例えば、酸化第一鉄及び/又は酸化第二鉄、並びに四酸化三鉄)により構成すると、磁性体層を単一の金属酸化物により構成した場合に比べて発電特性が良くなる。複数の酸化鉄系粉体が圧延スケールで形成される場合、製造コストを低減することができる。
【0053】
尚、本発明の熱電変換素子は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0054】
10 基材
20 磁性体層
30 導電層
41、42 電極
100 熱電変換素子
図1
図2
図3