(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6684112
(24)【登録日】2020年3月31日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】遮熱タイルの製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 33/24 20060101AFI20200413BHJP
C04B 35/18 20060101ALI20200413BHJP
E04F 13/14 20060101ALI20200413BHJP
C04B 33/13 20060101ALI20200413BHJP
【FI】
C04B33/24 Z
C04B35/18
E04F13/14 103A
C04B33/13 A
C04B33/13 B
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-40226(P2016-40226)
(22)【出願日】2016年3月2日
(65)【公開番号】特開2017-154934(P2017-154934A)
(43)【公開日】2017年9月7日
【審査請求日】2019年1月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000170716
【氏名又は名称】黒崎播磨株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000198787
【氏名又は名称】積水ハウス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】特許業務法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】俣野 泰司
(72)【発明者】
【氏名】吉富 丈記
(72)【発明者】
【氏名】岡本 慎平
(72)【発明者】
【氏名】水津 裕行
(72)【発明者】
【氏名】小野村 寛
【審査官】
末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−234361(JP,A)
【文献】
特開2015−086350(JP,A)
【文献】
特開2014−109000(JP,A)
【文献】
特開2014−040351(JP,A)
【文献】
特開平11−199311(JP,A)
【文献】
特開2011−226156(JP,A)
【文献】
特開2009−143794(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 33/13−33/18
C04B 33/24−33/26
C04B 35/16−35/22
E04F 13/14−13/15
E04D 1/04
E04D 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイル用の粘土(以下、単に「粘土」という。)を5質量%以上30質量%以下、粘土を除く白色系を呈するアルミナ−シリカ質原料を40質量%以上、粒径が0.2mm以下のガラスフリット粉末(以下、単に「ガラスフリット粉末」という。)を0.5質量%以上5質量%未満含み、粘土/ガラスフリット粉末の質量比が3以上15以下である原料配合物を混練、成形、焼成する、遮熱タイルの製造方法。
【請求項2】
前記原料配合物中の粘土の含有量が10質量%以上21質量%以下、ガラスフリット粉末の含有量が1質量%以上3質量%以下、粘土/ガラスフリット粉末の質量比が7以上10以下である、請求項1に記載の遮熱タイルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮熱タイル
の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のタイル、特に屋根や外壁、外床等、屋外に使用されるタイルは、直射日光により温められる。特に熱を吸収しやすい濃色の磁器タイルでは、特に夏場の炎天下において60℃〜80℃もの高温に達することがある。そしてその熱は建物の室内に伝わり、夏場の冷房効果を効率的に得るための妨げになっている。また、近年はタイルを躯体に張り付ける際、モルタルで施工するのみでなく、有機系の接着剤を用いて施工することが多くなってきている。このような接着剤を用いる施工ではタイルの温度が高温になれば、接着剤の劣化が促進され最悪の場合タイル剥離の問題が懸念される。
【0003】
タイル表面が高温になるのを防止する技術としては、特許文献1に、表面に赤外線反射性を有する無機顔料を含む釉薬を施すことで遮熱性を確保する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−143794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術においては、タイル表面に赤外線反射特性を有する無機顔料を含む釉薬を施す処理が必要であり、製造に手間とコストを要していた。また、釉薬を施すとタイル表面が光ってしまい、意匠性に問題があった。さらにタイルには、所定の強度も必要である。
【0006】
そこで本発明が解決しようとする課題は、遮熱タイルにおいて、手間とコストを要することなく、意匠性、遮熱性及び強度を確保できる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一観点によれば、
タイル用の粘土
(以下、単に「粘土」という。)を5質量%以上30質量%以下、粘土を除く
白色系を呈するアルミナ−シリカ質原料を40質量%以上、粒径が0.2mm以下のガラスフリット粉末(以下、単に「ガラスフリット粉末」という。)を0.5質量%以上5質量%未満含み、粘土/ガラスフリット粉末の質量比が3以上15以下である原料配合物を混練、成形、焼成
する、遮熱タイル
の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明において原料配合物の主原料であるアルミナ−シリカ質原料はその色が白色系であるので、本発明の遮熱タイルも白色系を呈する。これにより、日光の反射率が向上するので、釉薬を施すといった手間とコストを要することなく遮熱性を確保できる。また、白色系を呈することで意匠性も確保できる。さらに、原料配合物にガラスフリット粉末を適量含有するので、焼成中に適量の液相が生成することで強度を確保できるとともに、比較的低温で焼成することができるのでエネルギーコストを低減できる。しかも、ガラスフリット粉末の含有量は5質量%未満に限定しているので、焼成中の液相の増加による発色を低減でき、遮熱性及び意匠性が害されることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】遮熱タイルの遮熱性の評価方法を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明において原料配合物は、粘土を除くアルミナ−シリカ質原料を40質量%以上、粘土を5質量%以上30質量%以下、ガラスフリット粉末を0.5質量%以上5質量%未満含有する。
【0012】
粘土を除くアルミナ−シリカ質原料としては、ろう石、シャモット、ムライト、ボーキサイトなどが挙げられ、いずれも白色系を呈する。これらのアルミナ−シリカ質原料が40質量%未満であると、遮熱タイルがそもそも白色系を呈さなくなり、また、焼結が進み過ぎて発色するので、遮熱性及び意匠性が低下する。
【0013】
粘土としては、タイルの原料として一般的に使用されているものを使用することができる。粘土が5質量%未満であると成型性の低下(素地密度の低下)により強度が低下する。一方、粘土が30質量%を超えると、粘土は一般的に不純物成分として鉄分を多く含むため、焼成時に発色して遮熱性及び意匠性が低下する。原料配合物中の粘土の含有量は10質量%以上21質量%以下であることが好ましい。
【0014】
ガラスフリット粉末としては、前述のとおり粒径が0.2mm以下のものを使用する。このガラスフリット粉末が0.5質量%未満であると焼成中に液相が不足して焼結性も低下するので、強度が低下する。一方、ガラスフリット粉末が5質量%を超えると、焼成中に液相が過剰となり、各原料中の不純物として存在する鉄分等が液相を介して全体に拡散し、遮熱タイルが黄色や茶色に発色するので、遮熱性及び意匠性が低下する。例えば、ガラスフリット粉末が5質量%を超えると、アルミナーシリカ質原料に不可避的に含まれる鉄分等が焼成過程で発色してしまい、遮熱性及び意匠性が低下する。原料配合物中のガラスフリット粉末の含有量は1質量%以上3質量%以下であることが好ましい。また、ガラスフリット粉末の軟化点は900℃以下であることが好ましい。
【0015】
本発明において原料配合物中の粘土とガラスフリット粉末は反応焼結によって強度を発現するが、その質量比(粘土/ガラスフリット粉末の質量比)は3以上15以下となるようにする。この質量比が3未満であると、粘土とガラスフリット粉末の反応が不十分なため強度が低下する。この質量比が15を超えた場合も同様に強度が低下する。
【0016】
ここで、タイルの技術分野においてガラス原料を使用すること自体は、特開平11−199311号公報に開示されているように公知である。しかし、この特開平11−199311号公報の技術では、ガラス屑を5〜45wt%使用しているため焼成中に液相が過剰となる。液相が過剰になると前述のとおり、遮熱タイルが黄色や茶色に発色するので遮熱性及び意匠性が低下する。また、特開平11−199311号公報には「ガラス屑」を使用することが開示されているのみで、「粒径が0.2mm以下のガラスフリット粉末」を使用することは開示されていない。すなわち、本発明は「粒径が0.2mm以下のガラスフリット粉末」を前述のとおり特定の範囲で使用し、しかも粘土/ガラスフリット粉末の質量比を限定することで、意匠性、遮熱性及び強度をバランス良く確保できる点で、特開平11−199311号公報の技術を凌駕するものである。
【実施例】
【0017】
表1に示す各例の原料配合物100質量%に対して適量(外掛けで3〜5質量%程度)の水を添加して混練し、所定の形状に成形した。その後、その成形体をトンネルキルンにより1260℃で焼成し、遮熱タイルとした。ここで、表1において「その他原料」にはガラス屑及びタルク(珪酸マグネシウム(3MgO・4SiO
2・H
2O))が含まれる。このうち「ガラス屑」は、粒径が0.2mm以下である「ガラスフリット粉末」に比べサイズ(粒径)が遥かに大きく、ガラスフリット粉末とは明確に区別されるものである。なお、ガラスフリット粉末としては軟化点が800℃のものを用いた。
【0018】
各例の遮熱タイルについて、色、遮熱性及び曲げ強度をそれぞれ以下の要領で評価した。
【0019】
(1)色の評価
人間の目視により、白色、淡黄色、黄色、薄茶色、茶色、こげ茶色のいずれに該当するかを判定し、比較例1(黄色)を基準として相対評価した。表1では、比較例1よりも色がうすい場合(白色)を◎、比較例1よりも色が少しうすい場合(淡黄色)を○、比較例1と同等の場合(黄色)を△、比較例1よりも色が濃い場合(茶色、こげ茶色)を×として表記した。
【0020】
(2)遮熱性の評価
図1に概念的に示すように、評価対象の評価試料とアスファルトからなる基準試料とを対比して遮熱性を評価した。
評価試料及び基準試料は、いずれも30cm角、5cm厚の大きさとし、厚さ5cmの発泡スチロールで囲み、表面のみを表に出し、センサーを表面中央にセットした。センサーは、各試料に5.3mmの孔を開け、当該試料の裏面側から表面に通すことで表面中央にセットした。なお、センサーは黒色のためビームランプからのビーム(光線)の吸収が良く温度が上がる傾向にあるため、穿孔時に発生した切粉を掛け、センサー先端を薄く隠した。
予備試験により、基準試料の表面温度が照射開始から約3時間で60℃に到達する距離を確認し、試料とビームランプの距離(照射距離)をこれに合わせた。具体的には照射距離は565mm前後とし、試料により微調整した。
評価試料と基準試料は、同じ照射距離に調節して同じ条件で照射し、その間に3mm厚さの発泡スチロール板からなる隔壁を設置し、相互の光線の影響を排除した。
遮熱性の評価は、基準試料の表面温度が60℃の時の評価試料の表面温度との差が10℃以上ある場合、すなわち評価試料の表面温度が50℃以下の場合に遮熱効果が認められるとした。この温度差は15℃以上(評価試料の表面温度は45℃以下)であることが好ましい。
なお、遮熱性は、表1中の代表的な例についてのみ評価した。本発明の材料系においては、遮熱性は色と相関関係があるので、色の評価が◎、○、△、×のそれぞれの一例について遮熱性を評価した。
【0021】
(3)曲げ強度の評価
曲げ強度は、JIS R2213(耐火れんがの曲げ強さの試験方法)に準拠して評価した。
【0022】
(4)総合評価
色の評価が◎、○、又は△であり、かつ曲げ強度が15MPa以上の場合を合格とした。一方、色の評価が×、又は曲げ強度が10MPa以下の場合を不合格とした。
【0023】
【表1】
【0024】
表1に示すとおり、本発明の範囲内にある実施例1〜9はいずれも総合評価が合格であり、良好な意匠性、遮熱性及び強度を確保できた。特に、粘土及びガラスフリット粉末の含有量と粘土/ガラスフリットの質量比が好ましい範囲(粘土:10質量%以上21質量%以下、ガラスフリット粉末:1質量%以上3質量%以下、質量比:7以上10以下)にある実施例1〜3は、さらに良好な意匠性、遮熱性及び強度を確保できた。なお、通常、タイルの焼成温度は1300〜1400℃程度であるが、実施例1〜9では1260℃という低温焼成で、良好な意匠性、遮熱性及び強度を確保できた。
【0025】
一方、比較例1は粘土が少ない例で、強度が低下した。比較例2はアルミナ−シリカ質原料が少ない例で、色の評価が×であった。
比較例3は粘土が多い例で、色の評価が×であった。
比較例4はガラスフリット粉末が少ない例で、強度が低下した。比較例5はガラスフリット粉末が多い例で、色の評価が×であった。
比較例6は粘土/ガラスフリットの質量比が小さい例、比較例7は前記質量比が大きい例で、いずれも強度が低下した。
【0026】
なお、本発明の遮熱タイルは、屋根や外壁、外床等の屋外用タイルとして利用可能であり、また、製鉄や化学・発電プラント設備用遮熱タイル、工業炉用遮熱タイル、土木建築用遮熱タイルとしても利用可能である。