特許第6684181号(P6684181)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6684181超音波送信制御装置、超音波送信制御プログラム及び超音波送信制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6684181
(24)【登録日】2020年3月31日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】超音波送信制御装置、超音波送信制御プログラム及び超音波送信制御方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/524 20060101AFI20200413BHJP
   G01S 15/96 20060101ALI20200413BHJP
【FI】
   G01S7/524 R
   G01S15/96
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-151954(P2016-151954)
(22)【出願日】2016年8月2日
(65)【公開番号】特開2018-21786(P2018-21786A)
(43)【公開日】2018年2月8日
【審査請求日】2019年8月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】堀内 秀樹
【審査官】 藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−28967(JP,A)
【文献】 特開2004−177276(JP,A)
【文献】 特開2007−85867(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/002739(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0026365(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/52− 7/64
G01S 15/00−15/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波振動子から物標への超音波送信を制御する超音波送信制御装置であって、
前記超音波振動子から物標へ照射される超音波を生成するための、自装置から前記超音波振動子へ送信される送信信号を生成する送信信号生成部と、
前記送信信号生成部からの前記送信信号が矩形波であるとしたときの、前記超音波振動子からの照射信号の立ち下がり時のリンギングの周波数成分が、前記矩形波の立ち下がり近傍から除去された信号波を、前記送信信号生成部からの前記送信信号とするための、前記送信信号生成部へ出力される制御信号を生成する送信信号フィルタ部と、
を備えることを特徴とする超音波送信制御装置。
【請求項2】
前記送信信号フィルタ部は、前記送信信号生成部からの前記送信信号が前記矩形波であるとしたときの、前記超音波振動子からの照射信号の立ち上がり時のリンギングの周波数成分が、前記矩形波の立ち上がり近傍から除去された信号波を、前記送信信号生成部からの前記送信信号とするための、前記送信信号生成部へ出力される前記制御信号を生成する
ことを特徴とする、請求項1に記載の超音波送信制御装置。
【請求項3】
超音波振動子から物標への超音波送信を制御する超音波送信制御装置であって、
前記超音波振動子から物標へ照射される超音波を生成するための、自装置から前記超音波振動子へ送信される送信信号を生成する送信信号生成部と、
(1)前記送信信号生成部からの前記送信信号が矩形波であるとしたときの、前記超音波振動子からの照射信号の立ち下がり時のリンギングがなくなるように、前記送信信号生成部からの前記送信信号の立ち下がりの速度を設定するとともに、(2)物標の位置及び速度のうちの少なくともいずれかの検出精度が所定精度になるように、前記超音波振動子からの照射信号の最大パワーの維持時間を設定するために、前記送信信号生成部からの前記送信信号の最大パワーの維持時間を設定するための、前記送信信号生成部へ出力される制御信号を生成する送信信号合成部と、
を備えることを特徴とする超音波送信制御装置。
【請求項4】
前記送信信号合成部は、(3)前記送信信号生成部からの前記送信信号が前記矩形波であるとしたときの、前記超音波振動子からの照射信号の立ち上がり時のリンギングがなくなるように、前記送信信号生成部からの前記送信信号の立ち上がりの速度を設定するための、前記送信信号生成部へ出力される前記制御信号を生成する
ことを特徴とする、請求項3に記載の超音波送信制御装置。
【請求項5】
超音波振動子から物標への超音波送信を制御する超音波送信制御プログラムであって、
前記超音波振動子から物標へ照射される超音波を生成するための、自装置から前記超音波振動子へ送信される送信信号を生成する送信信号生成ステップと、
前記送信信号生成ステップで生成する前記送信信号が矩形波であるとしたときの、前記超音波振動子からの照射信号の立ち下がり時のリンギングの周波数成分が、前記矩形波の立ち下がり近傍から除去された信号波を、前記送信信号生成ステップで生成する前記送信信号とするための、前記送信信号生成ステップへ出力される制御信号を生成する送信信号フィルタステップと、
をコンピュータに実行させるための超音波送信制御プログラム。
【請求項6】
超音波振動子から物標への超音波送信を制御する超音波送信制御方法であって、
前記超音波振動子から物標へ照射される超音波を生成するための、自装置から前記超音波振動子へ送信される送信信号を生成する送信信号生成ステップと、
前記送信信号生成ステップで生成する前記送信信号が矩形波であるとしたときの、前記超音波振動子からの照射信号の立ち下がり時のリンギングの周波数成分が、前記矩形波の立ち下がり近傍から除去された信号波を、前記送信信号生成ステップで生成する前記送信信号とするための、前記送信信号生成ステップへ出力される制御信号を生成する送信信号フィルタステップと、
を備えることを特徴とする超音波送信制御方法。
【請求項7】
超音波振動子から物標への超音波送信を制御する超音波送信制御プログラムであって、
前記超音波振動子から物標へ照射される超音波を生成するための、自装置から前記超音波振動子へ送信される送信信号を生成する送信信号生成ステップと、
(1)前記送信信号生成ステップで生成する前記送信信号が矩形波であるとしたときの、前記超音波振動子からの照射信号の立ち下がり時のリンギングがなくなるように、前記送信信号生成ステップで生成する前記送信信号の立ち下がりの速度を設定するとともに、(2)物標の位置及び速度のうちの少なくともいずれかの検出精度が所定精度になるように、前記超音波振動子からの照射信号の最大パワーの維持時間を設定するために、前記送信信号生成ステップで生成する前記送信信号の最大パワーの維持時間を設定するための、前記送信信号生成ステップへ出力される制御信号を生成する送信信号合成ステップと、
をコンピュータに実行させるための超音波送信制御プログラム。
【請求項8】
超音波振動子から物標への超音波送信を制御する超音波送信制御方法であって、
前記超音波振動子から物標へ照射される超音波を生成するための、自装置から前記超音波振動子へ送信される送信信号を生成する送信信号生成ステップと、
(1)前記送信信号生成ステップで生成する前記送信信号が矩形波であるとしたときの、前記超音波振動子からの照射信号の立ち下がり時のリンギングがなくなるように、前記送信信号生成ステップで生成する前記送信信号の立ち下がりの速度を設定するとともに、(2)物標の位置及び速度のうちの少なくともいずれかの検出精度が所定精度になるように、前記超音波振動子からの照射信号の最大パワーの維持時間を設定するために、前記送信信号生成ステップで生成する前記送信信号の最大パワーの維持時間を設定するための、前記送信信号生成ステップへ出力される制御信号を生成する送信信号合成ステップと、
を備えることを特徴とする超音波送信制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、物標を高い精度で検出する超音波計測技術に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波計測技術を用いて、物標を高い精度で検出することができる(例えば、特許文献1を参照。)。例えば、プランクトン等からの反射信号のドップラーシフトに基づいて、船舶の対水速度や潮流の速度を検出することができる。そして、魚群や海底からの反射信号の伝搬遅延時間に基づいて、魚群や深度を探知することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−166698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
超音波振動子から物標へ照射される超音波を生成するための、超音波振動子へ送信される送信信号が矩形波であるときには、超音波振動子からの照射信号の立ち下がり時及び立ち上がり時のリンギングが発生する。ここで、照射信号の立ち下がり時のリンギングが発生するときには、(1)超音波振動子の残留自己共振のため、送信から受信への切替が遅く、近距離の物標の検出ができず、(2)照射信号の不要な高周波成分のため、ドップラー測定精度が低い。そして、照射信号の立ち上がり時のリンギングが発生するときには、(1)送信信号の不要な高周波成分のため、振動素子が発熱し、(2)不要なリンギングのため、最大パワーの維持時間が短く、(3)照射信号の不要な高周波成分のため、ドップラー測定精度が低い。さらに、最大パワーの維持時間が短いときには、不十分なサンプル時間のため、物標の位置及び速度の検出精度が低い。
【0005】
そこで、前記課題を解決するために、本開示は、超音波計測技術を用いて、物標を検出するにあたり、近距離の物標の検出を可能にし、物標の位置及び速度の検出を高精度にし、振動素子の不要な発熱を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、超音波振動子からの照射信号の立ち下がり時(立ち上がり時を含めてもよい。)のリンギングの周波数成分をフィルタ処理により矩形波から除去した信号波を、超音波振動子への送信信号とすることとした。
【0007】
具体的には、本開示は、超音波振動子から物標への超音波送信を制御する超音波送信制御装置であって、前記超音波振動子から物標へ照射される超音波を生成するための、自装置から前記超音波振動子へ送信される送信信号を生成する送信信号生成部と、前記送信信号生成部からの前記送信信号が矩形波であるとしたときの、前記超音波振動子からの照射信号の立ち下がり時のリンギングの周波数成分が、前記矩形波の立ち下がり近傍から除去された信号波を、前記送信信号生成部からの前記送信信号とするための、前記送信信号生成部へ出力される制御信号を生成する送信信号フィルタ部と、を備えることを特徴とする超音波送信制御装置である。
【0008】
また、本開示は、超音波振動子から物標への超音波送信を制御する超音波送信制御プログラムであって、前記超音波振動子から物標へ照射される超音波を生成するための、自装置から前記超音波振動子へ送信される送信信号を生成する送信信号生成ステップと、前記送信信号生成ステップで生成する前記送信信号が矩形波であるとしたときの、前記超音波振動子からの照射信号の立ち下がり時のリンギングの周波数成分が、前記矩形波の立ち下がり近傍から除去された信号波を、前記送信信号生成ステップで生成する前記送信信号とするための、前記送信信号生成ステップへ出力される制御信号を生成する送信信号フィルタステップと、をコンピュータに実行させるための超音波送信制御プログラムである。
【0009】
また、本開示は、超音波振動子から物標への超音波送信を制御する超音波送信制御方法であって、前記超音波振動子から物標へ照射される超音波を生成するための、自装置から前記超音波振動子へ送信される送信信号を生成する送信信号生成ステップと、前記送信信号生成ステップで生成する前記送信信号が矩形波であるとしたときの、前記超音波振動子からの照射信号の立ち下がり時のリンギングの周波数成分が、前記矩形波の立ち下がり近傍から除去された信号波を、前記送信信号生成ステップで生成する前記送信信号とするための、前記送信信号生成ステップへ出力される制御信号を生成する送信信号フィルタステップと、を備えることを特徴とする超音波送信制御方法である。
【0010】
この構成によれば、照射信号の立ち下がり時のリンギングが発生しない。よって、(1)超音波振動子の残留自己共振がなく、送信から受信への切替が速く、近距離の物標の検出ができ、(2)照射信号の不要な高周波成分がなく、ドップラー測定精度が高い。
【0011】
また、本開示は、前記送信信号フィルタ部は、前記送信信号生成部からの前記送信信号が前記矩形波であるとしたときの、前記超音波振動子からの照射信号の立ち上がり時のリンギングの周波数成分が、前記矩形波の立ち上がり近傍から除去された信号波を、前記送信信号生成部からの前記送信信号とするための、前記送信信号生成部へ出力される前記制御信号を生成することを特徴とする超音波送信制御装置である。
【0012】
この構成によれば、照射信号の立ち上がり時のリンギングが発生しない。よって、(1)送信信号の不要な高周波成分がなく、振動素子が発熱せず、(2)照射信号の不要な高周波成分がなく、ドップラー測定精度が高い。そして、最大パワーの維持時間が長くなる。よって、十分なサンプル時間があり、物標の位置及び速度の検出精度が高い。
【0013】
上記目的を達成するために、(1)超音波振動子からの照射信号の立ち下がり時(立ち上がり時を含めてもよい。)のリンギングをなくすように立ち下がり(立ち上がりを含めてもよい。)の速度を設定した立ち下がり部分(立ち上がり部分を含めてもよい。)と、(2)物標の位置及び速度の検出を高精度にするように維持時間を設定した最大パワー部分と、を合成処理により合わせた信号波を、超音波振動子への送信信号とすることとした。
【0014】
具体的には、本開示は、超音波振動子から物標への超音波送信を制御する超音波送信制御装置であって、前記超音波振動子から物標へ照射される超音波を生成するための、自装置から前記超音波振動子へ送信される送信信号を生成する送信信号生成部と、(1)前記送信信号生成部からの前記送信信号が矩形波であるとしたときの、前記超音波振動子からの照射信号の立ち下がり時のリンギングがなくなるように、前記送信信号生成部からの前記送信信号の立ち下がりの速度を設定するとともに、(2)物標の位置及び速度のうちの少なくともいずれかの検出精度が所定精度になるように、前記超音波振動子からの照射信号の最大パワーの維持時間を設定するために、前記送信信号生成部からの前記送信信号の最大パワーの維持時間を設定するための、前記送信信号生成部へ出力される制御信号を生成する送信信号合成部と、を備えることを特徴とする超音波送信制御装置である。
【0015】
また、本開示は、超音波振動子から物標への超音波送信を制御する超音波送信制御プログラムであって、前記超音波振動子から物標へ照射される超音波を生成するための、自装置から前記超音波振動子へ送信される送信信号を生成する送信信号生成ステップと、(1)前記送信信号生成ステップで生成する前記送信信号が矩形波であるとしたときの、前記超音波振動子からの照射信号の立ち下がり時のリンギングがなくなるように、前記送信信号生成ステップで生成する前記送信信号の立ち下がりの速度を設定するとともに、(2)物標の位置及び速度のうちの少なくともいずれかの検出精度が所定精度になるように、前記超音波振動子からの照射信号の最大パワーの維持時間を設定するために、前記送信信号生成ステップで生成する前記送信信号の最大パワーの維持時間を設定するための、前記送信信号生成ステップへ出力される制御信号を生成する送信信号合成ステップと、をコンピュータに実行させるための超音波送信制御プログラムである。
【0016】
また、本開示は、超音波振動子から物標への超音波送信を制御する超音波送信制御方法であって、前記超音波振動子から物標へ照射される超音波を生成するための、自装置から前記超音波振動子へ送信される送信信号を生成する送信信号生成ステップと、(1)前記送信信号生成ステップで生成する前記送信信号が矩形波であるとしたときの、前記超音波振動子からの照射信号の立ち下がり時のリンギングがなくなるように、前記送信信号生成ステップで生成する前記送信信号の立ち下がりの速度を設定するとともに、(2)物標の位置及び速度のうちの少なくともいずれかの検出精度が所定精度になるように、前記超音波振動子からの照射信号の最大パワーの維持時間を設定するために、前記送信信号生成ステップで生成する前記送信信号の最大パワーの維持時間を設定するための、前記送信信号生成ステップへ出力される制御信号を生成する送信信号合成ステップと、を備えることを特徴とする超音波送信制御方法である。
【0017】
この構成によれば、照射信号の立ち下がり時のリンギングが発生しない。よって、(1)超音波振動子の残留自己共振がなく、送信から受信への切替が速く、近距離の物標の検出ができ、(2)照射信号の不要な高周波成分がなく、ドップラー測定精度が高い。そして、最大パワーの維持時間が長くなる。よって、十分なサンプル時間があり、物標の位置及び速度の検出精度が高い。
【0018】
また、本開示は、前記送信信号合成部は、(3)前記送信信号生成部からの前記送信信号が前記矩形波であるとしたときの、前記超音波振動子からの照射信号の立ち上がり時のリンギングがなくなるように、前記送信信号生成部からの前記送信信号の立ち上がりの速度を設定するための、前記送信信号生成部へ出力される前記制御信号を生成することを特徴とする超音波送信制御装置である。
【0019】
この構成によれば、照射信号の立ち上がり時のリンギングが発生しない。よって、(1)送信信号の不要な高周波成分がなく、振動素子が発熱せず、(2)照射信号の不要な高周波成分がなく、ドップラー測定精度が高い。
【発明の効果】
【0020】
このように、本開示によれば、超音波計測技術を用いて、物標を検出するにあたり、近距離の物標の検出を可能にし、物標の位置及び速度の検出を高精度にし、振動素子の不要な発熱を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本開示の超音波計測システムの構成を示す図である。
図2】本開示の超音波送信制御処理の流れを示す図である。
図3】本開示の超音波送信制御処理の流れを示す図である。
図4】本開示の超音波送信制御処理の内容を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
添付の図面を参照して本開示の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本開示の実施の例であり、本開示は以下の実施形態に制限されるものではない。
【0023】
本開示の超音波計測システムの構成を図1に示す。本開示の超音波計測システムは、超音波振動子1、超音波計測装置2及び物標表示装置3から構成される。超音波計測装置2は、超音波送信制御装置21及び物標検出装置22から構成される。超音波送信制御装置21は、送信信号生成部211及び(送信信号フィルタ部212又は送信信号合成部213)から構成される。
【0024】
超音波振動子1は、照射信号を送信し、反射信号を受信し、例えば、船舶Sの船首の船底に配置される。超音波計測装置2が備える物標検出装置22は、反射信号に基づいて、物標を検出し、例えば、船舶Sの船首の甲板下に配置される。物標表示装置3は、物標の位置や速度を表示し、例えば、船舶Sの操舵室に配置される。
【0025】
例えば、プランクトンP等からの反射信号のドップラーシフトに基づいて、船舶Sの対水速度や潮流の速度を検出することができる。そして、魚群Fや海底Uからの反射信号の伝搬遅延時間に基づいて、魚群Fや深度を探知することができる。
【0026】
超音波計測装置2が備える超音波送信制御装置21は、超音波振動子1から物標への超音波送信を制御するにあたり、図2に示すように送信信号フィルタ部212を適用してもよく、図3に示すように送信信号合成部213を適用してもよい。
【0027】
送信信号生成部211は、超音波振動子1から物標へ照射される超音波を生成するための、自装置21から超音波振動子1へ送信される送信信号を生成する。送信信号フィルタ部212又は送信信号合成部213は、送信信号生成部211からの送信信号を所望の送信信号とするための、送信信号生成部211へ出力される制御信号を生成する。
【0028】
送信信号生成部211及び(送信信号フィルタ部212又は送信信号合成部213)は、超音波送信制御装置21にインストールされたプログラムにより、又は、超音波送信制御装置21に搭載されたFPGA(Field Programmable Gate Array)等により、実現することができる。
【0029】
本開示の送信信号フィルタ部212による超音波送信制御処理の流れを図2に示す。送信信号フィルタ部212は、超音波振動子1からの照射信号の立ち下がり時及び立ち上がり時のリンギングの周波数成分をフィルタ処理により矩形波から除去した信号波を、超音波振動子1への送信信号とするための、送信信号生成部211へ出力される制御信号を生成する。以下に処理の流れを順序立てて説明する。
【0030】
送信信号フィルタ部212は、自装置21から超音波振動子1への送信信号として、矩形波を暫定的に設定する(ステップS1)。次に、自装置21から超音波振動子1への送信信号が矩形波であるとしたときの、超音波振動子1からの照射信号の立ち下がり時のリンギングの周波数成分が、矩形波の立ち下がり近傍から除去された信号波を、自装置21から超音波振動子1への送信信号とする(ステップS2)。
【0031】
送信信号フィルタ部212は、自装置21から超音波振動子1への送信信号が矩形波であるとしたときの、超音波振動子1からの照射信号の立ち上がり時のリンギングの周波数成分が、矩形波の立ち上がり近傍から除去された信号波を、自装置21から超音波振動子1への送信信号とする(ステップS3)。次に、自装置21から超音波振動子1への送信信号として、上記波形を最終的に確定する(ステップS4)。
【0032】
本開示の送信信号合成部213による超音波送信制御処理の流れを図3に示す。送信信号合成部213は、(1)超音波振動子1からの照射信号の立ち下がり時及び立ち上がり時のリンギングをなくすように立ち下がり及び立ち上がりの速度を設定した立ち下がり部分及び立ち上がり部分と、(2)物標の位置及び速度の検出を高精度にするように維持時間を設定した最大パワー部分と、を合成処理により合わせた信号波を、超音波振動子1への送信信号とするための、送信信号生成部211へ出力される制御信号を生成する。以下に処理の流れを順序立てて説明する。
【0033】
送信信号合成部213は、自装置21から超音波振動子1への送信信号が矩形波であるとしたときの、超音波振動子1からの照射信号の立ち下がり時のリンギングがなくなるように、自装置21から超音波振動子1への送信信号の立ち下がりの速度を設定する(ステップS5)。
【0034】
送信信号合成部213は、物標の位置及び速度のうちの少なくともいずれかの検出精度が所定精度になるように、超音波振動子1からの照射信号の最大パワーの維持時間を設定するために、自装置21から超音波振動子1への送信信号の最大パワーの維持時間を設定する(ステップS6)。
【0035】
送信信号合成部213は、自装置21から超音波振動子1への送信信号が矩形波であるとしたときの、超音波振動子1からの照射信号の立ち上がり時のリンギングがなくなるように、自装置21から超音波振動子1への送信信号の立ち上がりの速度を設定する(ステップS7)。
【0036】
本開示の超音波送信制御処理の内容を図4に示す。左欄は、本開示の超音波送信制御を行わない場合における、自装置21から超音波振動子1への送信信号及び超音波振動子1からの照射信号を示す。右欄は、本開示の超音波送信制御を行う場合における、自装置21から超音波振動子1への送信信号及び超音波振動子1からの照射信号を示す。
【0037】
まず、本開示の超音波送信制御を行わない場合について説明する。自装置21から超音波振動子1への送信信号は、キャリア波形に対して、矩形波のみであるマスク波形を合成したものである。
【0038】
超音波振動子1からの照射信号は、立ち下がり時及び立ち上がり時にリンギングを発生させる。ここで、超音波振動子1からの照射信号の立ち下がり時のリンギングが発生するときには、(1)超音波振動子1の残留自己共振のため、送信から受信への切替が遅く、近距離の物標の検出ができず、(2)超音波振動子1からの照射信号の不要な高周波成分のため、ドップラー測定精度が低い。そして、超音波振動子1からの照射信号の立ち上がり時のリンギングが発生するときには、(1)自装置21から超音波振動子1への送信信号の不要な高周波成分のため、振動素子が発熱し、(2)不要なリンギングのため、最大パワーの維持時間が短く、(3)超音波振動子1からの照射信号の不要な高周波成分のため、ドップラー測定精度が低い。さらに、最大パワーの維持時間が短いときには、不十分なサンプル時間のため、物標の位置及び速度の検出精度が低い。
【0039】
次に、本開示の超音波送信制御を行う場合について説明する。自装置21から超音波振動子1への送信信号は、キャリア波形に対して、前後がガウス波(三角波でもよく、ローレンツ波でもよい。)であり中間が矩形波であるマスク波形を合成したものである。
【0040】
ここで、送信信号フィルタ部212は、送信信号生成部211に対して、フィルタの時定数又はフィルタのカットオフ周波数を指定する制御信号を出力する。或いは、送信信号合成部213は、送信信号生成部211に対して、立ち上がり速度、最大パワー維持時間及び立ち下がり速度を指定する制御信号を出力する。
【0041】
超音波振動子1からの照射信号は、立ち下がり時及び立ち上がり時にリンギングを発生させない。ここで、超音波振動子1からの照射信号の立ち下がり時のリンギングが発生しないときには、(1)超音波振動子1の残留自己共振がなく、送信から受信への切替が速く、近距離の物標の検出ができ、(2)超音波振動子1からの照射信号の不要な高周波成分がなく、ドップラー測定精度が高い。そして、超音波振動子1からの照射信号の立ち上がり時のリンギングが発生しないときには、(1)自装置21から超音波振動子1への送信信号の不要な高周波成分がなく、振動素子が発熱せず、(2)不要なリンギングがなく、最大パワーの維持時間が長く、(3)超音波振動子1からの照射信号の不要な高周波成分がなく、ドップラー測定精度が高い。さらに、最大パワーの維持時間が長いときには、十分なサンプル時間があり、物標の位置及び速度の検出精度が高い。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本開示の超音波送信制御装置、超音波送信制御プログラム及び超音波送信制御方法は、超音波計測技術を用いて、物標を検出するにあたり、近距離の物標の検出を可能にし、物標の位置及び速度の検出を高精度にし、振動素子の不要な発熱を抑制するために、船舶の船底や車両の側面に配置される超音波振動子に対して有利に適用することができる。
【符号の説明】
【0043】
1:超音波振動子
2:超音波計測装置
3:物標表示装置
21:超音波送信制御装置
22:物標検出装置
211:送信信号生成部
212:送信信号フィルタ部
213:送信信号合成部
S:船舶
P:プランクトン
F:魚群
U:海底

図1
図2
図3
図4