特許第6684212号(P6684212)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ピルキントン グループ リミテッドの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6684212
(24)【登録日】2020年3月31日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】熱処理可能な被覆ガラス板
(51)【国際特許分類】
   C03C 17/34 20060101AFI20200413BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20200413BHJP
   C23C 14/14 20060101ALI20200413BHJP
   C23C 16/40 20060101ALI20200413BHJP
【FI】
   C03C17/34 Z
   C23C14/06 N
   C23C14/14 D
   C23C16/40
【請求項の数】18
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2016-533956(P2016-533956)
(86)(22)【出願日】2014年8月13日
(65)【公表番号】特表2016-530202(P2016-530202A)
(43)【公表日】2016年9月29日
(86)【国際出願番号】GB2014052473
(87)【国際公開番号】WO2015022528
(87)【国際公開日】20150219
【審査請求日】2017年8月9日
(31)【優先権主張番号】1314699.8
(32)【優先日】2013年8月16日
(33)【優先権主張国】GB
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591229107
【氏名又は名称】ピルキントン グループ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(72)【発明者】
【氏名】クレア ジェーン グッドウィン
(72)【発明者】
【氏名】キーラン ジェームズ チータム
(72)【発明者】
【氏名】ジョン アンドリュー リディアルフ
(72)【発明者】
【氏名】アンガラッド ナオミ エドワーズ
【審査官】 山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−153714(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/052749(WO,A1)
【文献】 特表2006−521470(JP,A)
【文献】 特表2008−539154(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 17/34
C23C 14/06
C23C 14/14
C23C 16/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低放射率及び/または太陽光制御被覆を有する熱処理された被覆ガラス板を製造する方法であって、順に以下のステップ、
a)ガラス基板を提供するステップと、
b)前駆物質としてチタンテトライソプロポキシド(TTIP)を使用して、化学蒸着(CVD)により、前記ガラス基板の表面上に少なくとも1つのCVD被覆を堆積するステップであって、前記CVD被覆が、ドープまたはアンドープの酸化チタン系の少なくとも1つの層を含む、ステップと、
c)物理蒸着(PVD)により、前記少なくとも1つのCVD被覆上に少なくとも1つのPVD被覆を堆積するステップであって、前記PVD被覆が、反射金属系の少なくとも1つの機能層と、前記CVD被覆と前記少なくとも1つの機能層との間に堆積される誘電材料系の少なくとも1つの層とを含む、ステップと、
d)前記ガラス基板を、被覆の堆積の後、当該ガラス基板の軟化点またはそれより高い580〜690℃の範囲の温度で熱処理して被覆ガラス板を強化し、次いで冷却するステップと、
を含む、前記方法。
【請求項2】
前記酸化チタン系の少なくとも1つの層が、少なくとも5nmだが最大でも60nmの厚さを有する、請求項1に記載の前記方法。
【請求項3】
前駆物質としてTTIPを使用して堆積される前記酸化チタン系の少なくとも1つの層が、前記PVD被覆と直接接触して位置する、請求項1または2に記載の前記方法。
【請求項4】
前記CVD被覆が、酸化ケイ素(例えば、オキシ炭化ケイ素、オキシ窒化シリカまたはケイ素)、酸化スズ(ドープまたはアンドープ)、酸化亜鉛(ドープまたはアンドープ)、またはこれらの材料のうちのいずれかの混合物系の少なくとも1つの層をさらに含む、請求項1〜3のいずれかに記載の前記方法。
【請求項5】
前記CVD被覆が、少なくとも1つの層を含み、前記少なくとも1つの層のそれぞれが、酸化チタン(TiO)系の層である、請求項1〜3のいずれかに記載の前記方法。
【請求項6】
前記ガラス基板から最も遠い前記CVD被覆の主表面が、最大でも3nm、好ましくは最大でも1nmの表面算術平均高さ値(Sa)を有する、請求項1〜5のいずれかに記載の前記方法。
【請求項7】
前記CVD被覆が、前記ガラス基板が450℃〜800℃の範囲、好ましくは550℃〜700℃の範囲の温度であるとき、前記ガラス基板上に堆積される、請求項1〜6のいずれかに記載の前記方法。
【請求項8】
前記PVD被覆がスパッタ堆積によって堆積される、請求項1〜7のいずれかに記載の前記方法。
【請求項9】
前記反射金属系の少なくとも1つの機能層が銀系機能層である、請求項1〜8のいずれかに記載の前記方法。
【請求項10】
前記熱処理された被覆板が、前記ガラス基板と前記少なくとも1つの機能層との間に位置する下位反射防止層をさらに含み、前記PVD被覆が、前記機能層の上に位置する上位反射防止層をさらに含む、請求項9に記載の前記方法。
【請求項11】
前記PVD被覆が、ドープまたはアンドープNiCr、Ti、Zn、Zr、Sn、Nb、ITO、TiO、ZnSn、ZnO、SnO、ZnAl、AlN、SiN、SiAl、またはそれらの混合物系の少なくとも1つの層をさらに含む、請求項9または10に記載の前記方法。
【請求項12】
少なくとも1つの機能層を含む被覆の前記下位反射防止層が、以下の層、
酸化チタン、酸化ケイ素(例えば、オキシ炭化ケイ素、オキシ窒化シリカまたはケイ素)、酸化スズ(ドープまたはアンドープ)、酸化亜鉛(ドープまたはアンドープ)、またはこれらの材料のうちのいずれかの混合物系の基層と、
ZnとSnとの酸化物及び/またはSnの酸化物等の、金属酸化物系の層と、
金属酸化物ならびに/またはSiの(酸)窒化物及び/もしくはAlの(酸)窒化物ならびに/またはそれらの合金系の分離層と、
Znの酸化物系の最上層と、
のうちの1つ以上の少なくとも1つの組み合わせを含む、請求項10に記載の前記方法。
【請求項13】
前記上位反射防止層が、以下の層、NiCrの酸化物系の層と、
Znの酸化物及び/またはTiの酸化物系の層と、
Siの(酸)窒化物、及び/もしくはAl(酸)窒化物、ならびに/またはそれらの合金、ならびに/またはAl、Si、Ti、及び/もしくはZrの酸化物系の層と、
ZnとSnとの酸化物及び/またはSnの酸化物等の、金属酸化物系の層と、
のうちの1つ以上の少なくとも1つの組み合わせを含む、請求項10に記載の前記方法。
【請求項14】
熱処理された被覆ガラス板であって、
a)ガラス基板と、
b)前記ガラス基板の表面上の少なくとも1つの被覆であって、前記被覆が、酸化チタン系の少なくとも1つの結晶層を含み、前記ガラス基板から最も遠い前記少なくとも1つの結晶層の主表面が、最大でも3nmの表面算術平均高さ値(Sa)を有する、前記被覆と、
c)前記少なくとも1つの被覆上の少なくとも1つのさらなる被覆であって、前記少なくとも1つのさらなる被覆が、反射金属系の少なくとも1つの機能層と、前記酸化チタン系の少なくとも1つの結晶層と前記少なくとも1つの機能層との間に堆積される誘電材料系の少なくとも1つの層とを含む、さらなる被覆と、を含む、前記被覆ガラス板。
【請求項15】
前記酸化チタン系の少なくとも1つの層が、前記少なくとも1つのさらなる被覆と直接接触して位置する、請求項14に記載の前記板。
【請求項16】
前記ガラス基板から最も遠い前記少なくとも1つの結晶層の前記主表面が、最大でも1nm、好ましくは最大でも0.7nmの表面算術平均高さ値(Sa)を有する、請求項14または請求項15に記載の前記板。
【請求項17】
前記少なくとも1つのさらなる被覆が、前記ガラス基板の表面上の前記少なくとも1つの被覆と前記少なくとも1つの機能層との間に堆積される少なくとも1つの誘電材料系の層をさらに含む、請求項14〜16のいずれかに記載の前記板。
【請求項18】
請求項15〜17のいずれかに記載の熱処理された被覆ガラス板を組み込む、複層ガラス窓。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低放射率(low−e)及び/または太陽光制御被覆を有する熱処理可能な被覆ガラス板の製造方法に関する。本発明はまた、該方法によって生成された被覆ガラス板に関する。
【0002】
安全特性を与えるように強化され、かつ/または曲げられた熱処理ガラス板は、多数の適用領域、例えば、建築物または自動車両のガラス窓に必要とされる。ガラス板を熱強化及び/または曲げるために、使用されるガラスの軟化点の近傍またはそれより高い温度での熱処理によってガラス板を加工し、次いで、急冷によりそれらを強化するか、または曲げ手段の助けを借りてそれらを曲げることが必要であることは、既知である。ソーダ石灰シリカ型の標準フロートガラスに適切な温度範囲は、典型的には約580〜690℃であり、ガラス板は、実際の強化及び/または曲げ工程の開始前に、この温度範囲で数分間維持される。
【0003】
以下の説明及び特許請求の範囲での「熱処理」、「熱処理された」、及び「熱処理可能な」とは、前述したような熱曲げ及び/または強化工程、ならびに他の熱工程を指すが、その工程中に被覆ガラス板は、数分の間、例えば、最大約10分間、約580〜690℃の範囲の温度に到達する。被覆ガラス板は、それが目立った損傷もなく熱処理を乗り切る場合、熱処理可能であると見なされるが、この熱処理により生じる典型的な損傷とは、高ヘイズ値、ピンホール、またはスポットである。
【0004】
low−e及び/または太陽光制御被覆の熱処理性を特徴付けるときに通常言及されるパラメータである「ヘイズ」が、それが被覆ガラス板の被覆、熱処理、加工、及び/または取り扱い中に生じ得る全ての種類の欠陥を十分には反映しないので、しばしば不十分であることは注目に値する。既知の熱処理可能な被覆ガラス板のうちの一部は、熱処理中のそれらの光学的特性及び特にそれらの反射色の顕著かつ明らかに目立つ変化を示す。熱処理の間の板の熱的性質を維持することも適切であり、これは、同様のシート抵抗を維持し、場合によっては、低いレベルのシート抵抗を得ることを特徴とし得る。
【0005】
low−e及び/または太陽光制御被覆は、物理蒸着(PVD)工程、例えば、スパッタリングによって堆積され得る。スパッタリングされたlow−e及び太陽光制御被覆積層体は、基板/基部誘電層配列/(Ag/誘電層配列)の繰り返し配列で通常構成され、n個の誘電層配列のそれぞれが同一の厚さまたは組成を有する必要はない。スパッタリングされた被覆積層体は、強化可能な被覆における余分な層の必要性及び三重銀太陽光制御積層体への潜在的な移行のため、その性質がより複雑になっている。したがって、現在、nが2または3に等しいことが産業においてより一般的である。誘電層は、概して、金属層よりも厚くかつ緩徐に堆積されるので、かなりの数のそのような層を有する積層体は、被覆生成設備において多数の陰極を必要とする。
【0006】
以前は、複雑な被覆積層体は、十分な数及び順序で異なる材料を作製するのに十分な数の陰極を得るために、被覆設備の増築を必要とした。余分なポンプ輸送セクションが、複数の反応工程を順に実行させるために増築に含まれなければならない。被覆ラインが技術導入のため長期間停止する必要があるので、これは莫大な費用をかけて、大きな混乱を伴い行われる。各新しい陰極及びポンプ輸送セクションは、付随的電源、真空ポンプ、コンベアセクション、サービス、制御システムへの計装及び統合も必要とする。下流物流の再構築及び可能性として新たな土木工事または建築物増築でさえも引き起こす可能性が高い。三重銀(n=3)及びさらに四重銀(n=4)積層体がより一般的になり、これらの問題は大きくなる可能性が高い。
【0007】
先行技術においてこれらの問題を緩和する試みが存在した。WO第2012052749A1号は、CVD被覆ガラスを製造するためにガラス基板の少なくとも1つの表面上に化学蒸着された(CVD)被覆を堆積することと、CVD被覆ガラスの表面上に、少なくとも3層の反射金属層を含むさらなる被覆をスパッタ堆積することと、を伴う被覆ガラスを製造するための工程を記載する。被覆下のCVDは、好ましくは、酸化チタンの層で上から被覆された酸化ケイ素の層である。しかし、実施例は、熱処理の際の高レベルのヘイズ及び熱処理前後両方の高レベルの可視光透過率を示す(7ページ、表3参照)。
【0008】
WO第00/32530A1号は、a)ガラス基板上に下層を堆積するステップと、b)続いて、下層が熱分解堆積工程によって堆積されることを特徴とする真空堆積法によって反射金属層を堆積するステップと、を含む、熱処理可能なlow−e被覆ガラスの生成のための工程を記載する。実施例は、オキシ炭化ケイ素下層を使用し、熱処理(HT)前には73.2〜76.3%、HT後には74.9〜78.2%の可視光透過率値を示す。実施例の放射率値は、HT前には0.060〜0.076、HT後には0.065〜0.072の範囲である。
【0009】
上述の問題を緩和し、かつ先行技術の工程と比較して改善された光学的特性を示すガラス窓をもたらす被覆ガラス窓の製造のための方法を提供することが望ましいであろう。
【0010】
本発明の第1の態様によれば、順に以下のステップ、
a)ガラス基板を提供するステップと、
b)前駆物質としてチタンテトライソプロポキシド(TTIP)を使用して、化学蒸着(CVD)により、ガラス基板の表面上に少なくとも1つのCVD被覆を堆積するステップと、
c)物理蒸着(PVD)により、少なくとも1つのCVD被覆上に少なくとも1つのPVD被覆を堆積するステップと、を含む、被覆ガラス板を製造する方法を提供する。
【0011】
驚くべきことに、本発明の方法における前駆物質としてのTTIPの使用は、上述される先行技術の工程によって得られた板と比較して、熱処理前後両方で改善された光学的特徴を示す被覆板の生成を可能にすることが見出された。その上、前駆物質としてのTTIPの使用は、容易に熱処理可能であるCVD被覆を供給するが、一方で、酸化チタン系の層(TiO)がPVDによって堆積された場合、これは、約5nmより厚い層を有する板で、HTの際に容認できないヘイズをもたらすであろう。さらに、本発明は、アルカリ障壁性能のため、下位反射防止層の基層として窒化物系の層を使用する必要性を回避することができる。窒化物層の堆積は、窒素雰囲気を必要とし、したがって、酸化物系層の次の堆積は、ガス分離を確実にするためにより長いコータを必要とするので、これは有利である。その上、前駆物質としてTTIPを使用することは、ガラスへのTiCl等の塩化物の堆積に関する不利益を回避し、それは困難であるほかに、NaClの形成、依りてはピンホールの形成をもたらし得、結果的にピンホールの形成をもたらし得る。
【0012】
本発明の方法は、多層被覆積層体の基部被覆が、必要とされる陰極の数を減少させるPVDではなく、CVDを介して作製されることを可能にする利点も有する。したがって、本発明は、low−e及び/または太陽光制御被覆において用いられる低誘電層に関する陰極の少なくとも大部分の必要性を回避する。これは、高い割合で他の層を堆積するか、またはその複雑さを増加させるために積層体に余分な層を追加するために使用される陰極を解放し得る。
【0013】
本発明の以下の考察で、反する記載がない限り、パラメータの許容範囲の上限または下限に対する代替値の開示は、該値の一方が他方よりも一層好ましいことの指示と相俟って、該代替物のより好ましい値とあまり好ましくない値との間にある、該パラメータの各中間値が、該あまり好ましくない値よりも、及び該あまり好ましくない値と該中間値との間にある各値よりも、それ自体好ましいことを暗示する記述として、解釈されるべきである。
【0014】
本発明の文脈で、層が特定の材料(単数または複数)「系」と言われる場合、このことは、層が、対応する該材料(単数または複数)で主に構成されることを意味し、これは、典型的には少なくとも約50原子%の該材料(単数または複数)を含むことを意味する。
【0015】
好ましくは、CVD被覆は、1つ以上の酸素含有物質の存在下で堆積される。好ましくは、該1つ以上の酸素含有物質は、有機酸素含有化合物、水、または酸素ガスのうちの1つ以上を含む。好ましくは、有機酸素含有化合物は、アルコール、またはエステル等のカルボニル化合物である。特に良好な結果が、β−水素を含むアルキル基を有するエステルを使用して得られた。β−水素を含むアルキル基は、好ましくは、2〜10個の炭素原子を含有する。より大きな分子はあまり揮発性ではない傾向にあり、それ故、CVD被覆の堆積において使用するにはあまり便利ではないので、そのような化合物が好ましい。好ましくは、エステルは、ギ酸エチル、酢酸エチル、プロピオン酸エチル、ギ酸イソプロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、及び/または酢酸t−ブチルである。
【0016】
好ましくは、CVD被覆の堆積は、TTIP及び酸素含有物質を含み得る前駆物質ガス混合物の調製を伴う。前駆物質ガス混合物は、搬送ガスまたは希釈剤、例えば、窒素、空気、及び/またはヘリウムをさらに含み得る。
【0017】
好ましくは、CVD被覆は、少なくとも5nm、より好ましくは少なくとも10nm、より一層好ましくは少なくとも20nm、最も好ましくは少なくとも25nmであるが、好ましくは最大でも60nm、より好ましくは最大でも50nm、より一層好ましくは最大でも40nm、最も好ましくは最大でも30nmの厚さを有し得る。
【0018】
好ましくは、CVD被覆は、酸化チタン(TiO)系の少なくとも1つの層(ドープまたはアンドープ)を含む。いくつかの実施形態において、xは1.5〜2.0であり得る。酸化チタン系の層は、好ましくは、少なくとも5nm、より好ましくは少なくとも10nm、より一層好ましくは少なくとも20nm、最も好ましくは少なくとも25nmであるが、好ましくは最大でも60nm、より好ましくは最大でも50nm、より一層好ましくは最大でも40nm、最も好ましくは最大でも30nmの厚さを有し得る。この層は、数ある用法の中でもとりわけ、ガラス側拡散障壁として機能する。
【0019】
好ましくは、酸化チタン系の少なくとも1つの層は、前駆物質としてTTIPを使用して堆積される。好ましくは、前駆物質としてTTIPを使用して堆積される酸化チタン系の少なくとも1つの層が、PVD被覆と直接接触して位置する。
【0020】
CVD被覆は、酸化チタン系ではない少なくとも1つの層をさらに含み得る。CVD被覆は、酸化ケイ素(例えば、オキシ炭化ケイ素、オキシ窒化シリカまたはケイ素)、酸化スズ(ドープまたはアンドープ)、酸化亜鉛(ドープまたはアンドープ)、またはこれらの材料のうちのいずれかの混合物系の少なくとも1つの層をさらに含み得る。
【0021】
いくつかの好ましい実施形態において、CVD被覆は、少なくとも1つの層を含み、少なくとも1つの層のそれぞれが、酸化チタン(TiO)系の層である。
【0022】
好ましくは、ガラス基板から最も遠いCVD被覆の主表面は、最大でも3nm、より好ましくは最大でも2nm、より一層好ましくは最大でも1nm、より一層好ましくは最大でも0.7nm、最も好ましくは最大でも0.5nmの表面算術平均高さ値(Sa)を有する。CVD被覆の該主表面は、少なくとも0.3nmのSaを有し得る。Saは、表面粗さの指標を与える。より滑らかなCVD被覆は、より滑らかなPVD被覆の堆積を容易にし得、結果として生じる被覆板が低い吸収及び低いシート抵抗(Rs)を示すので、有利であると考えられる。
【0023】
CVD被覆がガラス生成工程中に堆積される場合が、特に有利である。ガラス基板がフロートガラス基板を含む場合、好都合なことに、CVD被覆は、フロートバス、徐冷窯、または徐冷窯ギャップのいずれかにおいて、フロートガラス堆積工程の間に堆積される。CVD被覆の方法は、任意の化学蒸着技法、とりわけ、気圧化学蒸着(例えば、フロートガラス堆積工程中に実施されるオンラインCVD)である。
【0024】
CVD被覆は、好ましくは、ガラス基板が450℃〜800℃の範囲の温度であるとき、より好ましくはガラス基板が550℃〜700℃の範囲の温度であるとき、ガラス基板上に堆積され得る。ガラス基板がこれらの好ましい温度であるときにCVD被覆を堆積することは、強化能力(HT耐性)を改善することができる、被覆のより大きな結晶度を与える。
【0025】
好ましくは、CVD被覆は、実質的に気圧でフロートガラス生成工程中にガラスリボン上に堆積される。あるいは、CVD被覆は、低圧CVDまたは超高真空CVDによって堆積され得る。CVD被覆は、エアロゾル補助CVDまたは直接液体注入CVDを使用して堆積され得る。その上、CVD被覆は、マイクロ波プラズマ補助CVD、プラズマ助長CVD、リモートプラズマ助長CVD、原子層CVD、燃焼CVD(火炎熱分解)、熱線CVD、有機金属CVD、急速熱CVD、気相エピタキシー、または光開始CVDを使用して堆積され得る。ガラスリボンは、通常、保管またはフロートガラス生成施設から真空堆積施設への便利な輸送のために、CVD被覆の後(及び他の被覆の堆積の前)、シートに切断される。
【0026】
好ましくは、CVD被覆が堆積されるガラス基板の表面は、ガス側表面である。ガス側表面上の堆積は被覆の特性を改善することができるので、被覆ガラス製造業者は、通常、ガス側表面上(フロートガラスのスズ側表面とは対照的に)の被覆の堆積を好む。
【0027】
好ましくは、PVD被覆はスパッタ堆積によって堆積される。PVD被覆が、マグネトロン陰極スパッタリングを、DCモード、パルスモード、中間もしくは無線周波数モード、または他の任意の好適なモードのいずれかで適用される場合が特に好ましく、それにより金属製もしくは半導体用ターゲットが、好適なスパッタリング雰囲気中で反応的にまたは非反応的にスパッタリングされる。スパッタリングされる材料に応じて、平面状または回転管状ターゲットが使用され得る。被覆工程は、被覆の任意の反射防止層の任意の酸化物(または窒化物)層のいかなる酸素(または窒素)欠損も低く維持されて、熱処理中に被覆ガラス板の可視光透過率及び色の高い安定性を達成するように、好適な被覆条件を設定することにより行われるのが好ましい。本明細書において言及される光透過率値とは、概して、被覆無しで89%の光透過率Tを有する4mm厚標準フロートガラス板を備える被覆ガラス板に関して特定される。
【0028】
好ましくは、PVD被覆は、反射金属系の少なくとも1つの機能層を含む。好ましくは、該機能層は銀系機能層である。
【0029】
好ましくは、被覆板は、ガラス基板と少なくとも1つの機能層との間に位置する下位反射防止層をさらに含む。ガラス基板に最も近い機能層は、CVD被覆上に直接堆積され得、すなわち、光学的に、CVD被覆は、下位反射防止層または第1の誘電体として働くであろう。あるいは、PVD被覆は、好ましくは、CVD被覆と少なくとも1つの機能層との間に堆積された誘電材料系の少なくとも1つの層をさらに含み得る。
【0030】
好ましくは、PVD被覆は、機能層の上に位置する上位反射防止層をさらに含む。
【0031】
いくつかの実施形態において、板は2つ以上の機能層を含む。例えば、板は2つ、3つ、またはそれよりも多くの機能層を含み得る。板が2つ以上の機能層を含むとき、各機能層は、中央反射防止層によって、隣接する機能層から離間され得る。2つ以上の機能層を提供することによって、機能層は、誘電層(=中央反射防止層)を介在させることによって離間され得る。
【0032】
PVD被覆は、ドープまたはアンドープNiCr、Ti、Zn、Zr、Sn、Nb、ITO、TiO、ZnSn、ZnO、SnO、ZnAl、AlN、SiN、SiAlz、またはそれらの混合物系の少なくとも1つの層をさらに含み得る。通常、機能層はそのような層の間に堆積される。
【0033】
少なくとも1つの機能層を含む被覆の下位反射防止層は、以下の層、
酸化チタン、酸化ケイ素(例えば、オキシ炭化ケイ素、オキシ窒化シリカまたはケイ素)、酸化スズ(ドープまたはアンドープ)、酸化亜鉛(ドープまたはアンドープ)、またはこれらの材料のうちのいずれかの混合物系の基層と、
ZnとSnとの酸化物及び/またはSnの酸化物等の、金属酸化物系の層と、
金属酸化物ならびに/またはSiの(酸)窒化物及び/もしくはAlの(酸)窒化物ならびに/またはそれらの合金系の分離層と、
Znの酸化物系の最上層と、
のうちの1つ以上の少なくとも1つの組み合わせを含み得る。
【0034】
好ましくは、下位反射防止層は、少なくとも、ガラス基板から順に、
○ 酸化チタン、酸化ケイ素(例えば、オキシ炭化ケイ素、オキシ窒化シリカまたはケイ素)、酸化スズ(ドープまたはアンドープ)、酸化亜鉛(ドープまたはアンドープ)、またはこれらの材料のうちのいずれかの混合物系の基層と、
○ ZnとSnとの酸化物及び/またはSnの酸化物等の、金属酸化物系の層と、
○ Znの酸化物系の最上層と、を含む。
【0035】
下位反射防止層は、3層で上述したような順に構成され得る。
【0036】
いくつかの実施形態において、下位反射防止層は、ガラス基板から順に、
○ 酸化チタン、酸化ケイ素(例えば、オキシ炭化ケイ素、オキシ窒化シリカまたはケイ素)、酸化スズ(ドープまたはアンドープ)、酸化亜鉛(ドープまたはアンドープ)、またはこれらの材料のうちのいずれかの混合物系の基層と、
○ ZnとSnとの酸化物及び/またはSnの酸化物等の、金属酸化物系の層と、
○ 金属酸化物ならびに/またはSiの(酸)窒化物及び/もしくはAlの(酸)窒化物ならびに/またはそれらの合金系の分離層と、
○ Znの酸化物系の最上層と、を含む。
【0037】
下位反射防止層のZnとSnとの酸化物及び/またはSnの酸化物等の、金属酸化物系の層は、密で熱的に安定な層を提供し、かつ熱処理後のヘイズの低減に寄与することにより、熱処理中の安定性を向上させるように機能する。下位反射防止層のZnとSnとの酸化物及び/またはSnの酸化物等の、金属酸化物系の層は、少なくとも0.5〜10nm、より好ましくは0.5〜9nm、より一層好ましくは1〜8nm、より一層好ましくは1〜7nm、より一層好ましくは2〜6nm、より一層好ましくは3〜6nm、最も好ましくは3〜5nmの厚さを有し得る。約8nmの厚さ上限が、光干渉条件により好ましく、結果として生じる基層厚さの減少による熱処理性の低下により、これが、反射防止機能層に対する光干渉境界条件を維持するために必要であろう。
【0038】
下位反射防止層のZnとSnとの酸化物及び/またはSnの酸化物等の、金属酸化物系の層は、基層上に直接位置し得る。
【0039】
下位反射防止層のZnとSnとの酸化物(ZnSnO)系の層は、その金属総含有量の重量%のうち、好ましくは、約10〜90重量%のZn及び90〜10重量%のSn、より好ましくは約40〜60重量%のZn及び約40〜60重量%のSn、好ましくはそれぞれ約50重量%のZn及びSnを含む。いくつかの好ましい実施形態において、下位反射防止層のZnとSnの酸化物系の層は、最大でも18重量%のSn、より好ましくは最大でも15重量%のSn、より一層好ましくは最大でも10重量%のSnを含み得る。ZnとSnとの酸化物系の層は、Oの存在下で、混合ZnSnターゲットの反応性スパッタリングにより堆積され得る。
【0040】
金属酸化物ならびに/またはケイ素の(酸)窒化物及び/もしくはアルミニウムの(酸)窒化物ならびに/またはそれらの合金系の分離層は、少なくとも0.5nm、好ましくは0.5〜6nm、より好ましくは0.5〜5nm、より一層好ましくは0.5〜4nm、最も好ましくは0.5〜3nmの厚さを有し得る。これらの好ましい厚さは、熱処理の際のヘイズのさらなる改善を可能にする。分離層は、堆積工程中及び引き続く熱処理中に保護を提供する。分離層は、その堆積直後に本質的に完全に酸化されるか、または、酸化物層のその後の堆積中に、それが本質的に完全に酸化された層に酸化するかのいずれかである。
【0041】
分離層は、Oの存在下でのTi系のターゲットの反応性スパッタリングにより、または後で酸化されるTi系の薄層を堆積することにより、例えば、僅かに準化学量論的な酸化チタン系のセラミックターゲット、例えばTiO1.98ターゲット、からの非反応性スパッタリングを用いて、本質的に化学量論的または僅かに準化学量論的な酸化物として、堆積され得る。本発明の文脈では、「本質的に化学量論的な酸化物」とは、化学量論量の少なくとも95%だが最大でも105%である酸化物を意味するが、一方で、「僅かに準化学量論的な酸化物」とは、化学量論量の少なくとも95%だが100%未満である酸化物を意味する。
【0042】
分離層が金属酸化物系のとき、該分離層は、Ti、NiCr、InSn、Zr、Al、及び/またはSiの酸化物系の層を含む。
【0043】
用語「Siの(酸)窒化物」は、Si窒化物(SiN)及びSi酸窒化物(SiO)の両方を包含するが、一方で、用語「Alの(酸)窒化物」は、Al窒化物(AlN)及びAl酸窒化物(AlO)の両方を包含する。Si窒化物、Si酸窒化物、Al窒化物、及びAl酸窒化物層は、好ましくは本質的に化学量論的(例えば、Si窒化物=Si、x=1.33)であるが、被覆の熱処理性がそのことにより悪影響を受けない限り、準化学量論的または、超化学量論的でさえあり得る。そのような層の1つの好ましい組成は、本質的に化学量論的混合窒化物Si90Al10である。
【0044】
Siの(酸)窒化物及び/もしくはAlの(酸)窒化物ならびに/またはそれらの合金の層は、窒素及びアルゴンを含むスパッタリング雰囲中で、Si及び/もしくはAl系のターゲットからそれぞれ反応的にスパッタリングされ得る。Siの(酸)窒化物及び/もしくはAlの(酸)窒化物ならびに/またはそれらの合金系の層の酸素含有量は、スパッタリング雰囲気中の残留酸素または該雰囲気中の追加酸素の制御含有量に起因し得る。Si(酸)窒化物及び/またはAl(酸)窒化物の酸素含有量が、その窒素含有量より際だって低ければ、すなわち、層内の原子比率O/Nが1より際だって小さく維持されるならば、概して好ましい。Si窒化物及び/またはAl窒化物を、極少酸素含有量で使用するのが、最も好ましい。この特徴は、該層の屈折率が、無酸素Si窒化物及び/またはAl窒化物の層の屈折率から際だっては異ならないことを確実にすることにより制御され得る。
【0045】
混合Si及び/もしくはAlターゲットを使用すること、または金属もしくは半導体をこの層のSi及び/またはAl成分に別法で追加することは本発明の範囲内である。AlをSiターゲットと混合することは周知で確立されているが、他の混合ターゲットが排除されることはない。追加成分は、典型的には、最大でも約10〜15重量%の量で存在し得る。Alは、通常、混合Siターゲットに約10重量%の量で存在する。
【0046】
分離層は、その金属酸化物ならびに/またはケイ素の(酸)窒化物及び/もしくはアルミニウムの(酸)窒化物ならびに/またはそれらの合金に加えて、次の元素、Ti、V、Mn、Co、Cu、Zn、Zr、Hf、Al、Nb、Ni、Cr、Mo、Ta、Siのうちの少なくとも1つから、または、例えば、ドーパントまたはアロイアントとして使用される、これらの材料のうちの少なくとも1つに基づく合金から選択された、1つ以上の他の化学元素をさらに含み得る。
【0047】
Znの酸化物系の最上層は、主に、その後堆積される機能層のための成長促進層として機能する。Znの酸化物系の最上層は、最大約10重量%(ターゲット金属含有量に関する重量%)の量のAlまたはSn等の金属と、任意選択的に混合される。AlまたはSn等の該金属の典型的な含有量は、約2重量%であるが、Alが実際は好ましい。ZnO及び混合Zn酸化物は、その後堆積される機能層の所与の厚さで低シート抵抗を達成する助けになる成長促進層として極めて有効であることが証明された。下位反射防止層の最上層を、Oの存在下でZnターゲットから反応的にスパッタリングするか、それを、酸素を含まないかまたは、概して約5体積%以下の、少量のみの酸素を含む雰囲気中で、セラミックターゲット、例えば、ZnO:Al系、をスパッタリングすることにより堆積される場合、好ましい。Znの酸化物系の最上層は、少なくとも2nm、好ましくは2〜15nm、より好ましくは4〜12nm、より一層好ましくは5〜10nm、より一層好ましくは5〜9nmの厚さを有し得る。
【0048】
銀系の機能層(複数可)は、low−e及び/または太陽光制御被覆の分野で一般的であるように、何らの添加剤も無しに、銀を主成分とし得る。しかし、高透光性で低光吸収性の赤外線反射層(複数可)としてその(それらの)機能に必要な銀系の機能層(複数可)の特性がそのことにより実質的に損なわれない限り、ドープ剤、合金添加剤等を追加し、または場合によっては極薄金属または金属化合物層を追加することにより、銀系の機能層(複数可)の特性を修正することは、本発明の適用範囲内にある。
【0049】
銀系の機能層の厚さは、その技術上の目的により支配される。通常のlow−e及び/または太陽光制御被覆目的では、単一銀系の層の好ましい層厚は、5〜20nm、より好ましくは5〜15nm、より一層好ましくは5〜12nm、より一層好ましくは7〜11nm、最も好ましくは8〜10nmである。そのような層厚では、熱処理後の86%を上回る光透過率及び0.05未満の垂直放射率が、単一銀被覆に対して容易に達成され得る。より良好な太陽光制御特性を狙うのであれば、銀系の機能層の厚さを増大させれば十分であり、または数個の離間された機能層が提供されればよい。
【0050】
板が2つの銀系の機能層を含むとき、ガラス基板から最も遠く位置する銀系の機能層は、好ましくは5〜25nm、より好ましくは10〜21nm、より一層好ましくは13〜19nm、より一層好ましくは14〜18nm、最も好ましくは15〜17nmの厚さを有し得る。
【0051】
板が3つの銀系の機能層を含むとき、ガラス基板から最も遠く位置する2つの銀系の機能層は各々独立に、好ましくは5〜25nm、より好ましくは10〜21nm、より一層好ましくは13〜19nm、より一層好ましくは14〜18nm、最も好ましくは15〜17nmの厚さを有し得る。
【0052】
好ましくは、下位反射防止層内のZnの酸化物系の最上層は、機能層と直接接触している。
【0053】
中央反射防止層(複数可)は、以下の層、Znの酸化物及び/またはTiの酸化物系の層と、
NiCrの酸化物系の層と、
ZnとSnとの酸化物及び/またはSnの酸化物等の、金属酸化物系の層と、
Siの(酸)窒化物及び/もしくはAlの(酸)窒化物ならびに/またはそれらの合金、ならびに/またはAl、Si、Ti、及び/もしくはZrの酸化物系の層と、
のうちの1つ以上の少なくとも1つの組み合わせを含み得る。
【0054】
いくつかの好ましい実施形態において、各機能層は、中央反射防止層によって、隣接する機能層から離間され、
各中央反射防止層は、少なくとも、
中央反射防止層が間に位置する機能層の外のガラス基板の一番近くに位置する機能層から順に、
Znの酸化物系の障壁層と、
ZnとSnとの酸化物及び/またはSnの酸化物等の、金属酸化物系の層と、
Siの(酸)窒化物、及び/もしくはAl(酸)窒化物ならびに/またはそれらの合金、ならびに/またはAl、Si、Ti、及び/もしくはZrの酸化物系の層と、
Znの酸化物系の最上層と、を含む。
【0055】
いくつかの他の好ましい実施形態において、各機能層は、中央反射防止層によって、隣接する機能層から離間され、
各中央反射防止層は、少なくとも、
中央反射防止層が間に位置する機能層の外のガラス基板の一番近くに位置する機能層から順に、
NiCrの酸化物系の障壁層と、
Znの酸化物系の障壁層と、
Siの(酸)窒化物及び/もしくはAlの(酸)窒化物ならびに/またはそれらの合金、ならびに/またはAl、Si、Ti、及び/もしくはZrの酸化物系の層と、
ZnとSnとの酸化物及び/またはSnの酸化物等の、金属酸化物系の層と、
Znの酸化物系の最上層と、を含む。
【0056】
NiCrの酸化物系の層は、好ましくは少なくとも0.3nm、より好ましくは少なくとも0.4nm、より一層好ましくは少なくとも0.5nm、最も好ましくは少なくとも0.6nmはあるが、好ましくは最大でも5nm、より好ましくは最大でも2nm、より一層好ましくは最大でも1nm、最も好ましくは最大でも0.9nmの厚さを有し得る。これらの好ましい厚さは、機械的耐久性を保持しながら、堆積のさらなる容易化、及びヘイズ等の光学的特性の改善を可能にする。
【0057】
中央反射防止層のZnの酸化物及び/またはTiの酸化物系の層(複数可)は独立して、好ましくは少なくとも1nm、より好ましくは少なくとも2nm、より一層好ましくは少なくとも3nm、最も好ましくは少なくとも3.5nmはあるが、好ましくは最大でも10nm、より好ましくは最大でも7nm、より一層好ましくは最大でも5nm、最も好ましくは最大でも4nmの厚さを有し得る。これらの好ましい厚さは、機械的耐久性を保持しながら、堆積のさらなる容易化、及びヘイズ等の光学的特性の改善を可能にする。
【0058】
中央反射防止層のZnとSnとの酸化物及び/またはSnの酸化物等の、金属酸化物系の層は、好ましくは少なくとも5nm、より好ましくは少なくとも10nm、より一層好ましくは少なくとも13nm、最も好ましくは少なくとも14nmはあるが、好ましくは最大でも40nm、より好ましくは最大でも30nm、より一層好ましくは最大でも25nm、最も好ましくは最大でも21nmの厚さを有し得る。
【0059】
中央反射防止層のSiの(酸)窒化物、及び/もしくはAlの(酸)窒化物ならびに/またはそれらの合金、ならびに/またはAl、Si、Ti、及び/もしくはZrの酸化物系の層は、好ましくは少なくとも5nm、より好ましくは少なくとも15nm、より一層好ましくは少なくとも25nm、最も好ましくは少なくとも30nmはあるが、好ましくは最大でも60nm、より好ましくは最大でも50nm、より一層好ましくは最大でも45nm、最も好ましくは最大でも40nmの厚さを有し得る。
【0060】
上位反射防止層は、以下の層、
NiCrの酸化物系の層と、
Znの酸化物及び/またはTiの酸化物系の層と、
Siの(酸)窒化物、及び/もしくはAl(酸)窒化物ならびに/またはそれらの合金、ならびに/またはAl、Si、Ti、及び/もしくはZrの酸化物系の層と、
ZnとSnとの酸化物及び/またはSnの酸化物等の、金属酸化物系の層と、
のうちの1つ以上の少なくとも1つの組み合わせを含み得る。
【0061】
いくつかの好ましい実施形態において、上位反射防止層は、少なくとも、ガラス基板から一番遠くに位置する機能層から順に、
Znの酸化物系の障壁層と、
Siの(酸)窒化物、及び/もしくはAl(酸)窒化物ならびに/またはそれらの合金、ならびに/またはAl、Si、Ti、及び/もしくはZrの酸化物系の層と、
ZnとSnとの酸化物及び/またはSnの酸化物等の、金属酸化物系の層と、を含む。
【0062】
いくつかの他の好ましい実施形態において、上位反射防止層は、少なくとも、ガラス基板から一番遠くに位置する機能層から順に、
NiCrの酸化物系の障壁層と、
Znの酸化物系の障壁層と、
Siの(酸)窒化物、及び/もしくはAl(酸)窒化物ならびに/またはそれらの合金、ならびに/またはAl、Si、Ti、及び/もしくはZrの酸化物系の層と、
ZnとSnとの酸化物及び/またはSnの酸化物等の、金属酸化物系の層と、を含む。
【0063】
上位反射防止層のZnの酸化物及び/またはTiの酸化物系の障壁層は、好ましくは少なくとも1nm、より好ましくは少なくとも2nm、より一層好ましくは少なくとも3nm、最も好ましくは少なくとも3.5nmはあるが、好ましくは最大でも10nm、より好ましくは最大でも7nm、より一層好ましくは最大でも5nm、最も好ましくは最大でも4nmの厚さを有し得る。これらの好ましい厚さは、機械的耐久性を保持しながら、堆積のさらなる容易化、及びヘイズ等の光学的特性の改善を可能にする。
【0064】
障壁層が混合金属酸化物ターゲットからスパッタリングされた混合金属酸化物の層を含む場合、堆積工程中の機能層(複数可)の優れた保護及び熱処理中の高い光学的安定性が、達成され得ることを見出した。障壁層がZnの酸化物系であるとき、該酸化物は、ZnO:Al等の混合金属酸化物であり得る。ZnO:Al系の層が、導電性ZnO:Alターゲットからスパッタリングされる場合、良好な結果が特に達成される。ZnO:Alは、完全に酸化されて、または僅かに亜酸化物であるように堆積され得る。好ましくは、ZnO:Al障壁層は、本質的に化学量論的である。金属製または95%未満の化学量論的なZnO:Al障壁層ではなくむしろ本質的に化学量論的なZnO:Al障壁層の使用は、熱処理中の被覆物の高い光学的安定性及び熱処理中の光学的修正を小さく維持する上で効果的な助けになる。加えて、本質的に化学量論的金属酸化物系の障壁層の使用は、機械的堅牢性の点で利点を提供する。
【0065】
障壁層がNiCrの酸化物系であるとき、該層は好ましくは、準化学量論的な酸化物として堆積される。このことは、該層が熱処理中に酸素捕捉体/吸収体として作用することを可能にする。
【0066】
機能層と直接接触している障壁層の少なくとも一部分を、酸化物ターゲットの非反応性スパッタリングを使用して堆積して、機能層への損傷を回避するのが好ましい。
【0067】
好ましくは、障壁層は、非反応性スパッタリングにより堆積される。好ましくは、障壁層は、セラミックターゲットからスパッタリングされる。本発明の文脈で、用語「非反応性スパッタリング」は、本質的に化学量論的な酸化物を提供するための低酸素雰囲気(無酸素または最大でも5体積%の酸素)中での酸化物ターゲットのスパッタリングを含む。
【0068】
障壁層がTiO系である場合、xは1.5〜2.0であり得る。
【0069】
上位反射防止層のSiの(酸)窒化物、及び/もしくはAlの(酸)窒化物ならびに/またはそれらの合金、ならびに/またはAl、Si、Ti、及び/もしくはZrの酸化物系の層は、好ましくは少なくとも2nm、より好ましくは少なくとも5nm、より一層好ましくは少なくとも10nm、最も好ましくは少なくとも15nmはあるが、好ましくは最大でも40nm、より好ましくは最大でも35nm、より一層好ましくは最大でも30nm、最も好ましくは最大でも25nmの厚さを有し得る。そのような厚さは、被覆板の機械的堅牢性の点でさらなる改善を提供する。Siの(酸)窒化物、及び/もしくはAlの(酸)窒化物ならびに/またはそれらの合金、ならびに/またはAl、Si、Ti、及び/もしくはZrの酸化物系の該層は、好ましくは障壁層と直接接している。
【0070】
Siの(酸)窒化物、及び/もしくはAlの(酸)窒化物ならびに/またはそれらの合金、ならびに/またはAl、Si、Ti、及び/もしくはZrの酸化物系の層は、一部の場合には上位反射防止層の大部分を構成し得、安定性(熱処理中のより良好な保護)及び拡散障壁特性を提供する。該層は、好ましくは、N含有雰囲気中でのSi、Alまたは混合SiAlターゲット、例えばSi90Al10ターゲット、の反応性スパッタリングにより、Al窒化物及び/またはSi窒化物層として堆積される。Alの(酸)窒化物及び/またはSiの(酸)窒化物系の層の組成は、本質的に化学量論的Si90Al10である。
【0071】
上位反射防止層のZnとSnとの酸化物等の、金属酸化物及び/またはSnの酸化物系の層は、好ましくは少なくとも1nm、より好ましくは少なくとも5nm、より一層好ましくは少なくとも7nm、最も好ましくは少なくとも9nmはあるが、好ましくは最大でも20nm、より好ましくは最大でも15nm、より一層好ましくは最大でも13nm、最も好ましくは最大でも11nmの厚さを有する。そのような厚さは、被覆板の機械的堅牢性の点でさらなる改善を提供する。該層がZnとSnとの酸化物であるとき、それは、その金属総含有量の重量%のうち、好ましくは約10〜90重量%のZn及び90〜10重量%のSn、より好ましくは約40〜60重量%のZn及び約40〜60重量%のSn、好ましくはそれぞれ約50重量%のZn及びSnを含む。いくつかの好ましい実施形態において、上位反射防止層のZnとSnとの酸化物系の該層は、最大でも18重量%のSn、より好ましくは最大でも15重量%のSn、より一層好ましくは最大でも10重量%のSnを含む。該層は、Oの存在下での混合ZnSnターゲットの反応性スパッタリングにより堆積され得、上位反射防止層の反射防止特性に寄与する。
【0072】
上位反射防止層のSiの(酸)窒化物、及び/もしくはAlの(酸)窒化物ならびに/またはそれらの合金、ならびに/またはAl、Si、Ti、及び/もしくはZrの酸化物系の層は、本明細書に定義付けられるように、さらなる誘電層を何ら介在させることなく、上位反射防止層の金属酸化物系の層と直接接し得る。
【0073】
好ましくは、上位反射防止層の金属酸化物系の層は、ZnとSnとの酸化物及び/またはSnの酸化物系の層を含む。
【0074】
上位反射防止層は、20〜60nm、好ましくは25〜50nm、より好ましくは30〜50nm、より一層好ましくは35〜45nmの総厚を有し得る。
【0075】
保護層を、上位反射防止層の最上層(最外層)として堆積させて、機械的及び/または化学堅牢性、例えば、耐ひっかき性、を高めてもよい。該保護層は、Al、Si、Ti、及び/またはZrの酸化物系の層であり得る。
【0076】
熱処理中の光透過率上昇を低減するために、上位、中央及び下位反射防止層の全ての個々の層を、本質的に化学量論的な組成で堆積するのが好ましい。
【0077】
被覆板の光学的特性をさらに最適化するために、上位及び/または下位反射防止層は、low−e及び/または太陽光制御被覆の誘電層に対して概して既知の、特に、Sn、Ti、Zn、Nb、Ce、Hf、Ta、Zr、Al及び/もしくはSiの酸化物ならびに/またはSi及び/もしくはAlの(酸)窒化物、またはそれらの組み合わせのうちの1つ以上から選択された、好適な材料で構成されるさらなる部分層を含み得る。しかし、そのようなさらなる部分層を追加するときは、そのことにより本明細書で目標とする熱処理性が損なわれないことが確証されるべきである。
【0078】
任意のさらなる部分層は、その特性を修正しかつ/またはその製造を容易にする添加剤、例えば、ドープ剤または反応性スパッタリングガスの反応生成物、を含み得ることが理解される。酸化物系の層の場合、窒素をスパッタリング雰囲気に追加して、酸化物よりはむしろ酸窒化物の形成に至るようにし得る。窒化物系の層の場合、酸素をスパッタリング雰囲気に追加して、窒化物よりはむしろ酸窒化物の形成に至るようにし得る。
【0079】
本発明の板の基本的な層の順に何らかのそのようなさらなる部分層を追加するときには、適当な材料、構造、及び厚さの選択を行うことによって、例えば、高い熱的安定性を主に目標にした特性がそのことにより顕著に損なわれることがないように、注意を払うべきである。
【0080】
本発明の第2の態様によれば、本発明の第1の態様に従う方法によって製造された被覆ガラス板が提供される。
【0081】
本発明の第3の態様によれば、
a)ガラス基板と、
b)ガラス基板の表面上の少なくとも1つの被覆であって、被覆が、酸化チタン系の少なくとも1つの結晶層を含み、ガラス基板から最も遠い少なくとも1つの結晶層の主表面が、最大でも3nmの表面算術平均高さ値(Sa)を有する、被覆と、
c)少なくとも1つの被覆上の少なくとも1つのさらなる被覆であって、少なくとも1つのさらなる被覆が、反射金属系の少なくとも1つの機能層を含む、さらなる被覆と、
を含む、被覆ガラス板が提供される。
【0082】
驚くべきことに、これらの被覆板は、既知の板と比較して、熱処理前後両方で改善された光学的特性を示すことが見出された。さらに、本発明は、下位反射防止層の基層として窒化物系の層を使用する必要性を回避する。また、この被覆板は、多層被覆積層体の基部被覆が、必要とされる陰極の数を減少させるPVDではなく、CVDを介して作製されることを可能にする利点を有する。
【0083】
好ましくは、該少なくとも1つの被覆は、CVDを使用して堆積された(すなわち、該被覆はCVD被覆である)。好ましくは、酸化チタン系の少なくとも1つの層は、前駆物質としてTTIPを使用して堆積された。
【0084】
好ましくは、該少なくとも1つのさらなる被覆は、PVDを使用して堆積された(すなわち、該さらなる被覆はPVD被覆である)。
【0085】
好ましくは、酸化チタン系の少なくとも1つの層は、少なくとも1つのさらなる被覆と直接接触して位置する。
【0086】
好ましくは、ガラス基板から最も遠い該少なくとも1つの結晶層の該主表面は、最大でも2nm、より好ましくは最大でも1nm、より一層好ましくは最大でも0.7nm、最も好ましくは最大でも0.5nmの表面算術平均高さ値(Sa)を有する。好ましくは、少なくとも1つの結晶層の該主表面は、少なくとも0.1nmのSaを有する。
【0087】
好ましくは、被覆板は、ガラス基板と少なくとも1つの機能層との間に位置する下位反射防止層をさらに含む。少なくとも1つのさらなる被覆は、好ましくは、ガラス基板の表面上の少なくとも1つの被覆と少なくとも1つの機能層との間に堆積される誘電材料系の少なくとも1つの層をさらに含み得る。
【0088】
好ましくは、少なくとも1つのさらなる被覆は、機能層の上に位置する上位反射防止層をさらに含む。
【0089】
本発明の第4の態様によれば、本発明に従って被覆ガラス板を組み込む複層ガラス窓が提供される。例えば、複層ガラス窓は、層状ガラスまたは絶縁ガラスであり得る。
【0090】
本発明の第5の態様によれば、該少なくとも1つのCVD被覆上の少なくとも1つのPVD被覆の物理蒸着(PVD)に先立って、ガラス基板の表面上の少なくとも1つのCVD被覆の化学蒸着(CVD)における、前駆物質としてのチタンテトライソプロポキシド(TTIP)の使用が提供される。
【0091】
本発明の一態様に適用可能な任意選択的特徴は、任意の組み合わせ、任意の数で使用され得ることが理解されるであろう。しかも、それらはまた、任意の組み合わせ、任意の数の本発明の他の態様のいずれかと共に使用され得る。このことは、本出願の特許請求の範囲の任意の他の特許請求の範囲に対し従属項として使用されている任意の特許請求の範囲の従属項を含むが、それらに限定されない。
【0092】
読者の留意は、本明細書に関連してそれと同時にまたは先だって提出され、本明細書と共に公開される全ての書類及び文献が対象になり、それらの書類及び文献は参照により本明細書に組み込まれる。
【0093】
本明細書に開示される特徴の全て(添付の任意の特許請求の範囲、要約書、及び図面を含む)、及び/またはそのように開示される任意の方法または工程の全ては、そのような特徴及び/またはステップの少なくとも一部が相互に排除し合うような組み合わせを除いて、任意の組み合わせに組み合わされ得る。
【0094】
本明細書に開示される各特徴(添付の任意の特許請求の範囲、要約書、及び図面を含む)は、他に明記されない限り、同一、均等、または類似の目的に機能する代替的特徴により置き換えられ得る。したがって、他に明記されない限り、開示される各特徴は、一連の包括的な均等または類似の特徴のうちの一例に過ぎない。
【0095】
本発明を、図解を与えるが限定的にはならない、以下の特定の実施形態により、さらに説明する。
【0096】
全ての実施例に対して、被覆を、約88%の光透過率を有する4mm厚標準フロートガラス板(10cm×10cm)上に堆積した。被覆に先立って、ガラスをBenteler(RTM)洗浄機で2回洗浄した。
【0097】
比較例1の層を、全てPVDを使用して堆積した。実施例2に対して、TiO基層を、CVDを使用して堆積し、他の層を、PVDを使用して堆積した。比較例3に対して、SiO及びTiO基層を、CVDを使用して堆積し、他の層を、PVDを使用して堆積した。
【0098】
CVD被覆に対して、ガラスをコンベア炉で加熱して、フロートガラス工程の被覆反応条件を模擬した。炉は、インラインローラを用いて、CVDに先立って、加熱ゾーンを通ってガラス基板を搬送した。ガラス基板が最初にシリカ被覆を提供された比較例3に対して、該被覆を、酸素富化雰囲気中でモノシランの前駆物質を用いて、既知のCVD工程によってフロートガラス上に堆積した。
【0099】
酸化チタン被覆を、おおよそ630℃の基板温度でCVDによって堆積した。酸化チタンを堆積するために、TTIPまたはTiClを含む前駆物質ガス混合物を、酢酸エチル、酸素、及びヘリウムを用いて発生させた。ヘリウムは、反応物の担体として前駆物質混合物に含まれた。前駆物質混合物を、4つのガスを、マニホールドシステムを通して同時に導入することによって調製した。インライン静止混合器を使用して、均質な前駆物質混合物を確保した。
【0100】
TTIPまたはTiCl及び酢酸エチルの付加反応を防止するために、前駆物質混合物の温度を、150℃を超えて維持した。混合物が予備反応するのを防止するために、前駆物質温度をまた、510℃〜610℃を下回る酢酸エチルの熱分解温度範囲で維持した。前駆物質混合物を、移動している基板の直上の反応器に導入した。前駆物質塔の温度は120℃であった。反応器表面の温度は175℃であった。より高い基板温度は、酢酸エチルの熱分解を開始し、次いで、それは酸化チタンの堆積をもたらした。
【0101】
結果として生じた被覆ガラスを空気中で冷却させ、PVD被覆に先立って、被覆を分析した。
【0102】
PVD被覆を、AC及び/またはDCマグネトロンスパッタリング装置を使用して堆積し、中間周波数スパッタリングが適切なときに適用された。
【0103】
ZnとSnとの酸化物(ZnSnO、重量比Zn:Sn≒50:50)の全ての誘電層は、Ar/Oスパッタ雰囲気中で亜鉛−スズターゲットから反応的にスパッタリングを行った。
【0104】
下位反射防止層のZnO:Al成長促進最上層は、Ar/Oスパッタ雰囲気中でAlドープZnターゲット(約2重量%のAl含有量)からスパッタリングを行った。
【0105】
全実施例での本質的に純銀(Ag)で構成される機能層は、なんらの酸素も追加しない10−5mbar未満の残留酸素分圧のArスパッタ雰囲中で銀ターゲットからスパッタリングを行った。
【0106】
Alドープ酸化亜鉛(ZnO:Al、ZAO)の障壁層は、酸素を追加しない純粋Arスパッタ雰囲中で導電性ZnO:Alターゲットからスパッタリングを行った。
【0107】
混合ケイ素アルミニウム窒化物(Si90Al10)の層は、残留酸素のみを含むAr/Nスパッタ雰囲気中で混合Si90Al10ターゲットから反応的にスパッタリングを行った。
【表1】
【0108】
表1:いくつかの比較被覆ガラス板及び本発明に従う被覆ガラス板のヘイズスコア、光透過率、シート抵抗、放射率、及び油摩擦試験スコアAD=堆積したまま、HT=熱処理後、T%=光透過率の割合、A%=吸収割合、Rs=シート抵抗、ε=放射率、及びSa=表面算術平均高さ値。表1のデータを収集するために使用した技法を以下に示す。表1中、各実施例で、層は、示した第1の層から始まる順にガラス板上に、堆積させた。
【0109】
熱処理性試験
実施例1〜3の被覆の堆積後、T、A、Rs、及び放射率を測定し、サンプルを約5分間約650℃で熱処理した。その後、ヘイズ、T、A、Rs、及び放射率を測定した。結果を上の表1に列記する。
【0110】
実施例1〜3の被覆ガラス板の光透過率%(T%)に対して述べられた値を、EN140による測定値から得た。
【0111】
可視ヘイズ採点システムを実施例に適用した。以下に説明する品質評価システムは、ASTM D1003−61に従って測定された標準ヘイズ値によっては完全に反映されない特性である、明るい光条件下での被覆の目視品質を上手く見分けるために必要であることが分かった。
【0112】
鏡面反射ヘイズ(時には、それに関する特定の色かぶりを説明するために赤色ヘイズまたは白色ヘイズと呼ばれる)は、被覆ガラス表面の大部分を覆う乳白色または細かくまだらのスポットパターンと考えられ得る。名前が提示する通り、その性質は、主として、しかし完全ではないが、散乱性ではなく、鏡面反射性であるように思われる。これは、そのパターンが、頻繁に、それらの行動に対して強い角度成分を有し、すなわち、照明及び観察者の視野角が垂直入射である場合、鏡面反射ヘイズは、強く明白であるが、一方で、照明が45°等のかなり異なる角度で移動する場合、明白ではない場合がある。
【0113】
評価システムは、被覆が損傷しまたは不完全な場合に局部的な色のばらつきを生じる被覆の可視欠陥のより巨視的効果を考察する(表1のヘイズスコア)。熱処理後の被覆の可視欠陥の巨視的効果(全ての実施例は熱処理前にはヘイズを呈しない)を、サンプルを明るい光下で見ることにより主観的に評価した。評価は、0(完全、無欠陥)から3(いくつかのはっきり見える欠陥及び/またはスポット)を介して最高の5(濃いヘイズ、裸眼で見えることが多い)のスコアを用いた完全性採点(格付け)システムに基づいており、熱処理後の被覆ガラスサンプルの目視外観を各付ける。3を超える任意のスコアを有する熱処理された被覆ガラス板は、試験で不合格であったと見なされる。0でない鏡面反射ヘイズスコアを得ることが一般的であるが、ヘイズが均等及びランダムに分布される限り、これは低い値では問題ではない。パターンに集中しているか、またはかなり高いヘイズの領域を有する場合、これは、視覚的に邪魔になり容認できなくなる(すなわち、不合格)。ヘイズのこれらの局所的及び/または不均一なパターンは、パッチ、スポット、またはしみの形態をとり得る。
【0114】
目視評価は、2.5ミリオンカンデラのパワービーム(トーチ)を用いて、これを2つの直交面内(即ち、トーチを先ず水平面内で次いで垂直面内で回転させる)の(直角入射に対して)約−90°〜約+90°間の入射角で、ブラックボックスの前に配置した被覆ガラス板上に向けて行った。ブラックボックスは、数個の被覆ガラスを同時に評価できるように、十分に大きいサイズを有する。観察者から被覆ガラス板を通して光ビームを向けることにより、被覆ガラス板を、観察してそれらの目視品質を上述の通り、入射角を変えることにより評価した。被覆ガラス板は、それらの被覆が観察者に向くように、ブラックボックスの前に配置した。
【0115】
機械式頑強性試験
油摩擦試験は、被覆の機械式頑強性でガラス板を切断するのに使用される切削油の影響を模擬する働きをする。油摩擦試験に耐えられない被覆ガラス板は、処理するのが困難であり、ほとんどの実用化には好適でない。被覆サンプルを、1.515〜1.517の屈折率の顕微鏡油に浸漬された1.2*1.2cmの領域を有するフェルトパッドを使用して摩擦する。サンプルは、1分当たり37サイクルの速度で900g荷重で500サイクル受ける。油摩擦サンプルを、0(完全、無傷)から9(被覆積層体の完全な層間剥離)の完全性スケールで内部評価システムを使用して評価する。1以下のスコアは容認できると考えられる。
【0116】
以下に説明される通り、実施例2の被覆ガラス板は、熱処理後の低ヘイズスコアに反映される通り、熱処理可能であることが証明されただけでなく、被覆ガラス板の処理及び扱いを模擬する油摩擦試験において比較例1の被覆板よりも良好な結果を示した。結果を表1に示す。
【0117】
頑強性データ−表面算術平均高さ値(Sa)
Sa値を、原子間力顕微鏡を使用して、ISO25178に従って、得た。
【0118】
結果の概要
表1は、実施例2の板が、熱処理前後に、全てのスパッタリングされた比較例1のものと同様であり、かつTiO基層に前駆物質としてTiClを使用した比較例3のものより高い(熱処理したサンプルの場合はかなり高い)高可視光透過率を示すことを示す。
【0119】
実施例2は、熱処理前後両方で、低吸収を示し、熱処理前の比較例1より低い吸収及び熱処理後では同一の吸収を示す。その上、実施例2によって示された吸収は、熱処理前後両方で比較例3のものよりかなり低い。
【0120】
熱処理後、実施例2の板によって示されたヘイズは容認できるが、一方で、比較例3の板は、容認できない高いレベルのヘイズを示す。
【0121】
その上、上述した通り、実施例2の板は、油摩擦試験において比較例3より、さらには比較例1よりも良好に機能した。
【0122】
表1は、実施例2の板が、熱処理前後両方で、比較例1の板に相当し、比較例3の板よりかなり良好な(低い)シート抵抗及び放射率値を示すことも示す。
【0123】
実施例2の基部TiO層は、比較例1のSiNのスパッタリングされた基層のものに相当し、かつ比較例3の基部TiO層のものよりかなり低いSa値を示す。上の6ページ、3段落で詳細が述べられる通り、より滑らかなCVD被覆は、より滑らかなPVD被覆の堆積を容易にし得、結果として生じる被覆板が低い吸収及び低いシート抵抗(Rs)を示すので有利であると考えられる。さらに、本発明の実施例2の板は、WO第2012052749A1号(7ページ、表3参照)の3つの実施例のうちのいずれかよりも、熱処理前後両方で、良好なシート抵抗(より低い)及び可視光透過率(より高い)、ならびに良好なヘイズを示す。
【0124】
また、本発明の実施例2の板は、WO第00/32530A1号(9ページ、表3参照)の4つの実施例のいずれかよりも、熱処理前後両方で、良好な光透過率を示す。その上、本発明の実施例2の板の放射率値は、WO第00/32530A1号の4つの実施例のものと同様である。
【0125】
本発明は、上述の実施形態の詳細事項に制限されることはない。本発明は、本明細書(任意の添付の特許請求の範囲、要約書、及び図面を含む)に開示された特徴の任意の新規な1つ、または任意の新規な組み合わせ、またはそのように開示された任意の方法または工程のステップの任意の新規な1つ、または任意の新規な組み合わせに及ぶ。