【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、高ビスマス含有量のエナメル層の表面にある小さい欠陥(クレータ、
図1)が、特定の金属酸化物の非常に薄い層を用いることで、酸エッチングに起因する劣化に対して効果的に保護されうることを発見したことに基づくものであり、但しこの層は原子層堆積(ALD)により形成されるものとする。
【0015】
この保護薄膜層は、一方でエナメル散乱層(IEL)と、他方でアノードの金属グリッドとの間に位置しなければならない。それはTCOから構成されるアノード及び金属グリッドの下に形成され、好ましくはエナメル層の直ぐ上に形成される。
【0016】
それゆえ、本発明の1つの主題は、OLED用の被支持透明電極であって、
(i)無機ガラス製の透明基材、
(ii)少なくとも30重量%のBi
2O
3を含む高屈折率エナメルから形成された散乱層、
(iii)ALDにより被着された、Al
2O
3、TiO
2、ZrO
2及びHfO
2からなる群より選ばれた少なくとも1種の誘電性金属酸化物のバリア層、及び、
(iv)透明導電性酸化物(TCO)の層、
を連続して含む、OLED用の被支持透明電極である。
【0017】
本発明の他の主題は、ALDによりバリア層を被着させることを含む、このような透明電極の製造方法、及びこのような透明電極を含むOLED(有機発光ダイオード)である。
【0018】
上記のような透明電極はさらに、金属グリッドを必ずしも含まないことが注目される。具体的に言うと、出願人は、上記のような被支持電極を上市することを考えており、そのTCOアノードは、後にOLED製造業者によりエッチングで構造化され、そして金属グリッドが設けられる。TCOの酸エッチングの工程において、またやはり酸エッチング工程を伴う金属グリッドの形成の間に、ALDにより被着された保護層は酸による浸食からビスマスに富んだエナメルを効果的に保護し、そして最終OLEDにピンホールが形成するのを防止する。
【0019】
本発明は、もちろん、上記の層(i)〜(iv)に加えて、電極の導電性を増加させることを意図した金属グリッドを含む、完全な被支持透明電極にも関する。この金属グリッドはTCO層の上又は下に位置してよく、そしてそれと直接電気的に接触しなければならない。
【0020】
それゆえ、第1の実施形態において、本発明の透明電極は、
・無機ガラス製の透明基材、
・少なくとも30重量%のBi
2O
3を含む高屈折率エナメルから形成された散乱層、
・ALDにより被着された、Al
2O
3、TiO
2、ZrO
2及びHfO
2からなる群より選ばれた少なくとも1種の誘電性金属酸化物のバリア層、
・透明導電性酸化物(TCO)の層、及び、
・TCO層と直接接触している金属グリッド、
を順に含む。
【0021】
第二の実施形態では、最後の2つの層の順序が第一の実施形態と比較して逆であり、そして本発明の透明電極は、
・無機ガラス製の透明基材、
・少なくとも30重量%のBi
2O
3を含む高屈折率エナメルから形成された散乱層、
・ALDにより被着された、Al
2O
3、TiO
2及びZrO
2からなる群より選ばれた少なくとも1種の誘電性金属酸化物のバリア層、
・TCO層と直接接触している金属グリッド、及び、
・透明導電性酸化物(TCO)の層、
を連続して含む。
【0022】
無機ガラス製の基材は、想定する用途に適合する任意の厚さでよい。慣用的には、0.3mmと5mmの間、特に0.7mmと3mmの間にある厚さを有するガラスシートが使用される。とは言え、典型的には50nmと300nmの間である、より小さい厚さを有する超薄型ガラスシートの使用も考えられるが、但しこのような小さい厚さのガラスシート上にエナメル層、この場合には高屈折率のエナメル層を形成することに伴う機械的な問題が解決されることが条件である。
【0023】
基材の上には、少なくとも30重量%のBi
2O
3を含む高屈折率エナメルから形成された散乱層がある。「高屈折率」という表現は、ここでは、屈折率(λ=550nmでの)が少なくとも1.7に等しく、好ましくは1.8と2.2の間に含まれるエナメルを意味するものと理解される。
【0024】
散乱層(ii)は、内部光取り出し層(IEL)の役割を担う。
【0025】
長い間、OLEDの分野では、発光層により生じる光の少量部分のみが外側に向けて、透明アノード及びガラス基材を通して放出されることが知られている。具体的には、ガラス基材の光屈折率(n
glass=1.5)が有機層の光屈折率(n=1.7〜1.8)及び透明アノードのそれ(n=1.9〜2.1)よりも低いので、光のほとんど(約50%)は導波路の場合と同様にこれらの高屈折率層中に捕捉され、そして特定数の反射後に吸収される。類似の効果が、基材のガラス(n
glass=1.5)と周囲空気(n
air=1.0)との界面で起こり、発光層により発光される光の約20%を捕捉する。
【0026】
ガラス基材と透明アノードとの間に、例えば散乱性粒子を含む高屈折率エナメルにより形成される、又は散乱性とするのに十分に粗い界面であって高屈折率エナメル層により平坦化された界面により形成される、光取り出し手段を挿入することにより、OLEDの高屈折率層におけるこの光の捕捉(全内部反射)を低減することが知られている。
【0027】
それゆえ、「散乱層」という表現は、本発明では、
・散乱性要素が分散されている高屈折率のエナメル層、及び、
・異なる屈折率の2つの媒体の間の粗い界面、典型的には、高屈折率エナメル層で覆われた特定の粗さの表面構造を有するガラスの表面、
を包含する。
【0028】
それゆえ、1つの実施形態において、散乱層を形成する高屈折率エナメルは、層の厚さを通して分散された、光を散乱する要素を含む。これらの散乱性要素は、エナメルの屈折率よりも高いか又は低い屈折率を有する。光を散乱するために、これらの要素は取り出される光の波長に対して無視できない大きさでなければならず、例えば0.1μmと5μmの間、好ましくは0.4μmと3μmの間の大きさである。これらの散乱性要素は、例えば、溶融される前のガラスフリットに添加される固体粒子、フリットが溶融されるときに形成される結晶、又はさらには、フリットを溶融させる工程の間に形成されて固体化したエナメル中に捕捉される気泡であることができる。
【0029】
別の実施形態において、散乱効果は、高屈折率エナメル(n≧1.7)と低屈折率の下層の媒体(ガラス基材又はガラスの表面に形成された低屈折率層)との界面の粗さにより得られる。高屈折率エナメルと低屈折率の下層媒体(基材)との界面は、好ましくは算術平均偏差R
aが少なくとも0.1μmであり、好ましくは0.2μmと5μmの間、特に0.3μmと3μmの間である粗さプロファイルを有する。
【0030】
ガラス基材とエナメルとの間に低屈折率(n<1.6)の中間層が、例えば基材に由来するアルカリ金属イオンの拡散から高屈折率エナメルを保護するバリア層が、設けられている場合には、この粗さプロファイルを有する表面構造を有するのはこの低屈折率層と高屈折率エナメルとの界面である。
【0031】
もちろん、例えば、気泡などの散乱性要素を粗いガラス表面上に被着された高屈折率エナメル中に導入することにより、散乱層のこれらの2つの実施形態を組み合わせることが可能であり、本質的な点はIELの上面が高屈折率エナメルの上面と一致していなければならないことである。
【0032】
高屈折率エナメルを得るのを可能にする多くのガラス組成物が存在する。本発明は、高ビスマス含有量のエナメルに特に焦点を当てており、それは導入部で説明したとおり、漏洩電流とピンホールを生じさせることになる酸に対して非常に低い耐薬品性を有する。
【0033】
本発明の高屈折率エナメルは、少なくとも30重量%、好ましくは少なくとも50重量%、そして特に少なくとも65重量%のBi
2O
3を含む。これらのエナメルは知られており、例えば、本出願人名義の国際出願第2013/187736号、及び本願の出願時に未公開の国際出願PCT/FR2014/050370号及び仏国特許出願第1360522号明細書に記載されている。
【0034】
高屈折率エナメルは、例えば、55〜84重量%のBi
2O
3、約20重量%ほどのBaO、5〜20重量%のZnO、1〜7重量%のAl
2O
3、5〜15重量%のSiO
2、5〜20重量%のB
2O
3、及び0.3重量%ほどのCeO
2を含む。
【0035】
本発明において、誘電性金属酸化物層(層(iii))は、ALD(原子層堆積)により上記の高屈折率エナメル上に被着される。この被着は、好ましくは、高屈折率エナメルの表面に対して直接行われる。原子層堆積は、極めて薄く、均一で、不浸透性の層を形成するのを可能にする周知の方法である。
【0036】
表面と接触させる気体前駆体は、化学吸着又は物理吸着により単分子層の形態でその上に吸着する。前駆体ガスをパージ後に、吸着された前駆体と反応することができる第二のガス成分をチャンバー内に入れる。反応後に、チャンバーを再びパージし、そしてこの「吸着−パージ−反応−パージ」のサイクルを再開することができる。
【0037】
下記の表は、本発明の層(iii)の誘電性金属酸化物の形成を可能にする前駆体及び反応体の幾つかの例を示している。
【0038】
【表1】
【0039】
読者はまた、Markku Leskelaらの“Atomic layer deposition (ALD): from precursors to thin film structures”, Thin Solid Films, 409(2002) 138−146の論文、及びSteven M. Georgeの“Atomic Layer Deposition: An Overview”, Chem. Rev. 2010, 110, 111−131の論文などを参照して検討することができ、それらは前駆体/反応体系の多くの例を示している。
【0040】
バリア層は、単一の金属酸化物からなる単純な層でよく、あるいは実際のところ、種々の金属酸化物の一連の複数の副層から形成される複合層でもよいが、すべてはALDにより被着される。
【0041】
本発明の1つの好ましい実施形態では、ALDバリア層は複数のAl
2O
3層(n≒1.7)を、TiO
2、ZrO
2及びHfO
2から選択されるのが好ましい高屈折率(n>2)の酸化物の層と交互に含む。特に、酸化アルミニウムは、金属をエッチングするために使用される王水などの強酸に対して非常に耐性であるという利点を有する。しかしながら、OLEDの有機層の屈折率に対して相対的に低いその屈折率、及びそれにより生じる光学的損失は、厚いAl
2O
3単分子層の使用を妨げる。Al
2O
3層をTiO
2、ZrO
2又はHfO
2の層と交互に配置することにより、光学的損失を増加させることなく、ALD層の全体の厚さを増加させることができる。
【0042】
単純な層であろうが複合層であろうが、ALD層の全体の厚さは、好ましくは5nmと200nmの間であり、特に10nmと100nmの間である。それがAl
2O
3の副層とTiO
2、ZrO
2及びHfO
2の副層などの高屈折率の副層とを交互に含む複合層である場合には、各副層の厚さは好ましくは1nmと50nmの間、特に2nmと10nmの間である。副層の数は2〜200でよく、好ましくは3〜100、特に5〜10でよい。Al
2O
3の副層の数は、好ましくは2〜5であり、特に2又は3である。
【0043】
1つの好ましい実施形態において、副層の積重体の2つの外側層は、隣接材料との良好な接触を確保するAl
2O
3層である。
【0044】
電子顕微鏡下で、ALDにより被着した誘電性金属酸化物の層は陰極スパッタリングにより被着した層と容易に区別することができる。それは、既知のとおり、極めて均一な厚さ、小さい厚さでも完全な連続性、及び非常に顕著な表面構造を有する表面上でも下層の基材の表面構造に対する高い追従性を特徴とする。
【0045】
実際の透明電極は、ALDにより形成された層の上に位置する。この電極は、一般に陰極スパッタリングにより被着されるTCO層と、金属グリッドとから構成され、これらの2つの構造体は互いに接触している。先に説明したとおり、金属グリッドはTCO層とALD層との間でTCO層の下にあってもよく、又はTCO層の上にあってもよい。
【0046】
本発明は、特定のグリッド構造又はグリッド寸法に特に限定されるものではない。グリッドを形成している金属の種類も重要ではない。しかしながら、金属層を、一般的にはマスクを通し、酸エッチングする工程を含む方法を用いて、グリッドを形成することが必須である。具体的には、導入部で説明したとおり、出願人は最終の製品において観測される欠陥(漏洩電流、ピンホール)の根源的原因と思われるのは、この酸エッチング工程であることに気づいた。フォトリソグラフィーと酸エッチングによりこのようなグリッドを形成する方法は知られている。
【0047】
出願人は、OLEDが金属グリッドを含まないときでも漏洩電流を生じさせるピンホールを稀に観測した。これらのピンホールの様子を電子顕微鏡下で調べると、それらがくり抜かれたクレータに明らかに対応していることが示された(
図4参照)。出願人は、これらの表面欠陥の化学エッチングは、フォトレジストの薄い層(1〜2μm)により適切に保護するためには表面構造が目立ちすぎる領域でのTCO層の酸エッチングの間に起こるものと推測する。IEL層のエナメルとTCOとの間にALDにより被着されたバリア層を使用することは、このタイプのピンホールを効果的に防止する。
【0048】
TCO層は、誘電性金属酸化物層により保護された高屈折率エナメルの上に、マグネトロン陰極スパッタリング、ゾルゲル法又は熱分解(CVD)などの慣用の被着法により被着される。
【0049】
原則として、OLEDの有機の多層 (HTL/LE/ITL)の平均屈折率に近い十分に高い屈折率を有する任意の透明又は半透明導電性酸化物を、この電極層として使用することができる。このような材料の例として、例えばアルミニウムをドープした酸化亜鉛(AZO)、インジウムをドープした酸化スズ(ITO)、酸化スズ亜鉛(SnZnO)又は二酸化スズ(SnO
2)の、透明導電性酸化物を挙げることができる。これらの材料は、有利には、HTL/LE/ITLの多層を形成している有機材料の吸収係数よりもはるかに低い吸収係数を有し、好ましくは0.005より低い、特に0.0005より低い、吸収係数を有する。ITOを使用するのが好ましい。透明導電性酸化物層の厚さは、典型的には50nmと200nmの間である。
【0050】
本発明のOLED用の被支持透明電極の製造方法は、少なくとも以下の3つの一連の工程、すなわち、
(a)少なくとも30重量%のBi
2O
3を含む高屈折率エナメルから形成された散乱層を一方の面上で支持する透明基材を提供する工程、
(b)原子層堆積(ALD)により、前記高屈折率エナメル上にそれと直接接触させて、Al
2O
3、TiO
2、ZrO
2及びHfO
2からなる群より選ばれる少なくとも1種の誘電性金属酸化物の層(バリア層)を形成する工程、及び、
(c)前記誘電性金属酸化物層(b)の上にTCO層を形成する工程、
を含む。
【0051】
本発明による方法がこれらの3つの工程を含むだけの場合には、金属グリッドをその後に受け取ることが意図される中間製品(基材/高屈折率エナメル/ALD層/TCO層)が得られる。
【0052】
本発明による完全な被支持透明電極を製造するための方法は、もちろん、透明導電性酸化物層と直接接触する金属グリッドを形成する追加の工程(工程(d))をさらに含み、この工程(d)は少なくとも1つの酸エッチングの工程を含む。
【0053】
この酸エッチングの工程は、スクリーン印刷又はフォトリソグラフィーなどにより作られたマスクにより覆われている連続金属層に対して行われ、酸がマスクにより覆われていない特定の領域の金属を除去するように働いて、それによりグリッドの開口部を形成する。
【0054】
金属層の厚さ、ひいては得られるグリッドの高さは、および数百ナノメートルであり、典型的には0.5〜1μm、好ましくは0.6〜0.8μmである。グリッドのストランドの幅は、一般に10μmと約100μmの間である。
【0055】
本発明による方法の第一の実施形態では、金属グリッドがTCOと接触するが金属酸化物バリア層とは接触しないように、工程(d)は工程(c)の後に行われる。
【0056】
第二の実施形態では、金属グリッドが誘電性金属酸化物バリア層及びTCO層の両方と接触するように、工程(d)は工程(b)の後そして工程(c)の前に行われる。
【0057】
金属グリッドは、常に表面構造を形成する。と言うのは、第二の実施形態のようにTCO層を金属グリッド上に被着させる場合であっても、これらの2つの構造体のそれぞれの厚さ(TCO層は0.05〜0.2μm、グリッドは0.5〜1μm)のために、TCO層はこの表面構造を覆いそして平坦化することはないからである。
【0058】
したがって、いかなる場合にも、金属グリッドはパッシベーティング層により覆われなければならず、この層はもちろん、最終のOLEDの照明領域を形成する、酸によりエッチングされた、遮るもののない開口部を残す。パッシベーティング層による電極グリッドのパッシベーションもやはり、OLED製造の技術分野の当業者の一般的な知識の一部を形成している。
【0059】
発光層を適用する前に、OLED基材の表面構造の平坦化を可能にするPEDOT/PSS(ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリ(スチレンスルホネート))などの有機の正孔注入材料により、OLED基材を既知の方法で被覆するのが有利である。