【実施例】
【0088】
6.実施例1: in vitroにおいて、BAP1の喪失は、EZH2の発現および活性の増大を結果としてもたらす
【0089】
本実施例では、BAP1活性の喪失が、疾患状態を結果としてもたらす機構について、in vitroにおいて調査した。
【0090】
6.1.結果
SET2細胞に、BAP1をターゲティングするshRNAを形質導入して、in vitroにおけるBAP1の発現を低減した。ウェスタンブロットにより検証されるBAP1の発現の低減は、K27におけるヒストン3のトリメチル化(H3K27me3)の増大を結果としてもたらした(
図1)。また、
図9Aも参照されたい。BaF3細胞におけるBAP1タンパク質の発現を枯渇させ、BAP1の喪失は、ウェスタンブロットにより確認し、ヒストンについての質量分析を実施した。BaF3細胞におけるBAP1のノックダウンは、H3K27me3の増大を明らかにした(
図1)。
【0091】
BAP1は、悪性中皮腫内およびブドウ膜黒色腫内など、充実性腫瘍において高度に変異することが示されている(Carboneら、2012年)。BAP1における変異、例えば、H28ホモ接合性欠失、H2452ホモ接合性ミスセンス、およびH226欠失変異を有する中皮腫細胞では、EZH2の発現の、野生型BAP1活性を有する細胞と比較した上方調節が観察された(
図2)。さらに、in vitroにおいて、293T細胞におけるBAP1の過剰発現が、EZH2およびSUZ12の発現の低減を結果としてもたらしたのに対し、BAP1の発現の喪失は、SUZ12の発現の上方調節を結果としてもたらした(
図3)。
【0092】
6.2.考察
上記で記載した通り、BAP1タンパク質の発現の喪失は、EZH2により付与される抑制性クロマチンマークであるH3K27me3の増大を引き起こし、in vitroのがん細胞系のシステムにおけるEZH2およびSUZ12の発現を増大させた。EZH2阻害剤は現在、EZH2活性化変異を有するリンパ腫患者において、臨床試験にかけられている。したがって、BAP1変異状態は、EZH2阻害剤による処置に応答しうる患者を同定する一助となる可能性があり、これは、BAP1変異体患者における生存を延長するのに有効でありうる。
【0093】
7.実施例2: in vivoにおいて、BAP1の喪失は、EZH2の発現および活性の増大を結果としてもたらす
【0094】
7.1 方法および材料
プライマー:
【表1-1】
【表1-2】
【0095】
動物:全ての動物は、Memorial Sloan Kettering Cancer Centerにおいて飼育した。全ての動物手順は、The Guidelines for the Care and Use of Laboratory Animalsに従い遂行され、Memorial Sloan Kettering Cancer CenterにおけるThe Institutional Animal Care and Use Committeesにより承認された。
【0096】
Bap1欠損マウスおよびBap1/Ezh2欠損マウスの作製:Bap1のエクソン6〜12をターゲティングする胚性幹細胞は、The European Conditional Mouse Consortiumから得た。lacZおよびネオマイシンカセットを含有する、Frtで挟まれた未成熟停止カセットを上流に挿入した。ES細胞クローンを拡大し、初代胚盤胞へと注入した。作製されたマウスを、生殖細胞系列Flpディリーター(deleter)(The Jackson Laboratory)と交配させて、Frtで挟まれたカセットを切り出した。その後、これらのマウスを、IFN−α誘導Mx1−creトランスジェニックマウス(The Jackson Laboratory)と交配させて、造血系におけるBap1の誘導的喪失の効果を評価した。Bap1 fl/fl、Bap1 fl/+、およびBap1+/+の同腹マウスを、プライマーである、BAP1−up(actgcagcaatgtggatctg(配列番号1))、BAP1−down(gaaaaggtctgacccagatca(配列番号2))を用いるPCRであって、以下のパラメータ:95℃で10分間に続き、94℃で10秒間、65℃で40秒間、および72℃で1分間にわたる40サイクルに次いで、72℃で5分間を使用するPCRにより遺伝子型決定した。WT対立遺伝子が、300bpで検出されたのに対し、flox化された対立遺伝子は、500bpのPCRで検出された。IFN−α誘導後の切出しは、flox化され、切り出されるバンドを検出するプライマー:BAP1−F(actgcagcaatgtggatctg(配列番号1))、BAP1−F2(gcgcaacgcaattaatgata(配列番号3))、およびBAP1−R(cagtgtccagaatggctcaa(配列番号4))を有するPCRであって、上記で列挙した同じPCRパラメータを使用するPCRにより確認した。Mx1−Cre−Bap1 f/fマウスを、Ezh2 f/fマウスと交配させた。Mx−cre Bap1f/f条件付きマウスおよびBap1f/f対照マウスに、1mg/mLのpolyI:polyC溶液、200μLの、4回にわたる腹腔内注射を施した。切出しの2週間後において、ヘパリン処理されたマイクロヘマトクリット(icrohematocrit)毛細管(Thermo Fisher Scientific)を使用する眼窩後方採血を介して、末梢血を回収した。切出しを確認し、標準的な製造元の指示に従い、HemaVetを使用して、末梢血カウントを得た。ホルマリンで固定したパラフィン包埋組織切片を、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)で染色した。Bap1の欠失は、ゲノム切出しPCRおよびウェスタンブロット解析により確認した。尾部は、flox化され、切り出された、Ezh2対立遺伝子についての、qPCRベースの遺伝子型決定のために、Transnetyx遺伝子型決定サービス(Cordova、TN)に出した。切出しは、ウェスタンブロットにより確認した。
【0097】
異種移植片およびin vivoにおけるEPZ011989の投与:10週齢のNOD−SCIDマウスの群の脇腹に、マトリゲルと培地との1:1混合物における中皮腫細胞系(MSTO−211H、Meso10、H226、およびH2452)6〜10×10
6個を皮下注射した。腫瘍が、およそ60〜80mm
3のサイズに達したところで、媒体(水中に0.5%のNaCMC+0.1%のTween−80)またはEPZ011989による処置を開始した。EPZ011989または媒体は、1日2回、500mg/kgの濃度で、実験期間にわたり、経口で施した。腫瘍体積は、キャリパーを使用して、3つの寸法で評価した。処置に続き、腫瘍または肺組織を抽出し、ウェスタンブロット法を利用して標的の阻害を評価した。植込みの後で腫瘍が形成されなかった場合(同じ群からの植込みを受けた動物の平均値より75%小さい場合)、異種移植片実験においてマウスを除外するように、あらかじめ確立された基準を作成した。薬物試験からは、動物を除外しなかった。全ての異種移植片薬物研究では、腫瘍サイズを10日間にわたり追跡し、この時点で、マウスを、腫瘍サイズについて無作為化した。Bap1遺伝子KO EPZ011989試験は、polyI:polyCの3週間後におけるCBC解析を活用する無作為化により行い、WBCカウントの平均が、媒体群および処置群の両方において同等であることを確認した。1群当たり動物5匹ずつを、媒体(上記で記載した)または500mg/kgのEPZ011989で、1日2回16日間にわたり経口処置した。これらの実験では、試験実施者を盲検としなかった。
【0098】
組織学的解析:マウスを屠殺し、剖検し、次いで、切除された組織試料を、4%のパラホルムアルデヒドで24時間にわたり固定し、脱水し、パラフィンに包埋した。パラフィンブロックを、4μmに切片化し、H&E、Ki67、Eカドヘリン、またはTUNELで染色した。Axio Observer A1顕微鏡(Carl Zeiss)を使用して、画像を収集した。
【0099】
細胞培養物:293T細胞を、10%のウシ胎仔血清(FBS)および非必須アミノ酸を補充した、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中で培養した。ヒト白血病細胞系(SET2)およびヒト中皮腫細胞系(JMN、Met5a、MSTO−211H、H2373、H226、H2452)を、10%のFBSを補充した、RPMI−1640培地中で培養した。MSTO−211Hは、ATCCから得たが、残りの中皮腫系は、Prasad Adusumilli氏から恵与された。
【0100】
RNAの単離、SMARTer増幅、Proton Transcriptomeシークエンシング、および解析:FACS Ariaを使用して、骨髄細胞を、GMP(Lin
−c−Kit
+Sca1
−CD34
+Fcγ
+)について、FACS分取した。細胞200,000〜500,000個からの総RNAは、TRIzol RNA単離試薬(型番15596−026、Life Technologies)を使用して抽出した。RNAの品質は、増幅の前に、RNA 6000 picoキットおよびbioAnalyzer(Agilent)を使用して、各試料20〜50pgずつを解析することにより確認した。その後、製造元により提供される指示に従い、SMARTER(登録商標)Universal Low Input RNA Kit for Sequencing(Clonetech Laboratory、型番634940)を使用して、10ngの高品質(RIN>8)総RNAを増幅した。増幅された材料を、16サイクルのPCRを用いるIon Total RNA−Seq Kit v2プロトコール(Life Technologies)に従い、全トランスクリプトームライブラリーの調製にかけた。試料をバーコード処理し、イオンワンタッチシステムIIおよびION PI(商標)Template OT2 200kit v2 Kit(Life Technologies)を使用して、template−positive ION PI(商標)ION SPHERE(商標)Particle(ISP)を調製した。200bpのバージョン2化学反応を使用して富化された粒子を、Protonシークエンシングシステム上で配列決定した。試料1例当たりの平均7000万〜8000万リードを生成し、リードのうちの76〜82%を、mRNAの塩基へとマッピングした。PICARD Sam2Fastqを使用して、BAMによるRAW出力を変換して、FASTQへと戻した。次いで、rnaStarを使用して、リードをまず、マウスゲノムへとマッピングした。使用されるゲノムは、ENSEMBL(Mus_musculus.NCBIM37.67)由来のジャンクションおよび、49のリード突出(read overhang)を有する、MM9であった。次いで、BWA MEM(バージョン0.7.5a)を使用して、任意のマッピングされなかったリードを、MM9へとマッピングした。次いで、2つのマッピングされたBAMをマージし、ソートし、htseq−count(−sオプションをyとし、−mオプションをintersection−strictとする)および同じ遺伝子モデル(Mus_musculus.NCBIM37.67)を使用して、遺伝子レベルカウントを計算した。生データを、以下の受託番号:GSE61360で、GEOデータベースへとアップロードした。
【0101】
ヒストンの抽出、ヒストンについてのELISA、ヒストンについてのウェスタンブロット、およびヒストンについてのLC/MS:ヒストンを、標準的な抽出技法により、または、Active Motif Histone Extraction Minikit(40026)を使用して、一晩にわたり抽出した。ヒストンについてのELISAは、H3K27me3標準曲線および総H3タンパク質に対して正規化された、トリメチルK27 Elisa Kit(Active Motif、53106)を使用して行った。ヒストンについてのウェスタンブロットは、3〜5μgのヒストンを用いて行った。ヒストンについてのLC/MSでは、既に記載されている通り26、対照細胞およびBap1 KO細胞1200万個を溶解させ、核を単離し、0.4NのH2SO4を使用して、ヒストンを抽出し、無水プロピオン酸を使用して、化学的に誘導体化した。次いで、ヒストンを、トリプシンで消化し、TSQ Quantum Ultra質量分析計へとカップリングさせた、ナノ液体クロマトグラフィー(内径75μm、長さ15cm、MagicC18aq mediaを充填、dp3μ)で分離した。データは、Skyline27で解析し、相対的定量は、ピーク面積により実施した。
【0102】
クロマチンの調製および免疫沈降、ChIP Libraryの調製およびシークエンシング、ならびにChIP−Seqデータの解析:EasySep Mouse Hematopoietic cell Enrichment Kit(Stem Cell Technologies、19756)を使用して、骨髄細胞を、c−Kit+細胞について富化した。細胞5×10
6個を、1%のメタノール非含有ホルムアルデヒド溶液で固定し、次いで、SDS溶解緩衝液中に再懸濁させた。溶解物を、E220 focused−ultrasonicator(Covaris)で超音波処理して、100〜500塩基対の所望の断片サイズ分布とした。既に記載されている(Krivtsovら、2008年)通り、細胞およそ400,000個に対して、抗トリメチルH3K27(Cell Signaling、9733)、抗モノメチルH4K20(Abcam、9051)、およびIgG(Santa Cruz、2027)の各々を使用して、IP反応を実施した。ChIPアッセイは、別の場所で記載されている(O'Geenら、2011年)通り、Direct ChIPプロトコールを使用して、SX−8G IP−STAR Compact Automated System(Diagenode)上で処理した。次いで、溶出させたクロマチン断片を脱架橋し、Agencourt AMPure XPビーズ(Beckman Coulter)を使用して、DNA断片を精製した。
【0103】
製造元の指示に従い、NEBNext ChIP−Seq Library Prep Master Mix Set for Illumina(New England Biolabs)およびTruSeq Adaptors(Illumina)を、SX−8G IP−STAR Compact Automated System(Diagenode)上で使用して、バーコード処理されたライブラリーを、ChIPにより富化されインプットされたDNAから調製した。Phusion High−Fidelity DNA Polymerase(New England Biolabs)およびTruSeq PCR Primers(Illumina)を使用して、ライブラリーを増幅し、次いで、AMPure XPビーズを使用して精製し、アダプター二量体を除去して、HiSeq2000(Illumina)上でマルチプレックス化した。
【0104】
デフォルトパラメータを使用するbowtie2により、マウスアセンブリーmm9にアラインする前に、「trim_galore」を使用して、リードを、品質トリミングおよびアダプタートリミングした。その後の解析の前に、アラインされたリードであって、開始位置および配向性が同じリードを、単一のリードへとまとめた。各リードを、平均ライブラリー断片サイズまで伸長させ、次いで、BEDToolsスートを使用して密度を計算することにより、密度プロファイルを作製した。富化された領域は、デフォルトパラメータによるMACS1.4を使用して発見し、マッチさせたインプットライブラリーに対してスコア付けした。全てのゲノムブラウザートラックおよび読み取り密度表は、配列決定深度に対して正規化した。対照条件におけるChIP−seq試料とKO条件におけるChIP−seq試料とを比較するため、マン−ホイットニーのU検定またはt検定を使用して、条件当たり3回反復のシグナルについて調べた。クラスター解析は、正規化されたカウントデータについて、kmeansクラスタリングパッケージを伴うMatlabにより実施した。モチーフ解析は、Homerにより、findMotifsGenomeプログラムにデフォルトパラメータを使用して実施した。
【0105】
ウェスタンブロットおよび免疫沈降:ウェスタンブロットおよび免疫沈降実験のために、細胞を、以下の緩衝液:150mMのNaCl、20mMのトリス(pH7.4)、5mMのEDTA、1%のTriton、プロテアーゼアレスト(EMD)、およびホスファターゼ阻害剤(Calbiochem)中に溶解させた。ベンゾナーゼの存在下で免疫沈降を実施するため、細胞を、BC−300緩衝液:20mMのトリス(pH7.4)、10%のグリセロール、300mMのKCl、0.1%のNP−40に溶解させた。清明化させた溶解物を、MgCl2で処理して、2.5mMとし、ベンゾナーゼを、1250U/mLで添加した。溶解物を、回転させながら、1時間にわたりインキュベートし、5mMのEDTAを添加することにより、反応を停止させた。免疫沈降実験を始める前に、臭化エチジウムゲルにおいて溶解物を泳動させることにより、DNAの消化を確認した。使用される抗体は、BAP1(C−4;Santa Cruz sc−28383)、EZH2(Active Motif、39933、Active Motif、39901、またはMillipore、07−689)、SUZ12(Abcam、Ab12073)、ASXL1(N−13;Santa Cruz sc−85283)、L3MBTL2(Active Motif、39569)、Myc−Tag(Cell Signaling、2276)、チューブリン(Sigma、T9026)、H3K27me3(Abcam、6002またはMillipore、07−449)、H3(Abcam、Ab1791)、およびH4K20me1(Abcam、Ab9051)を含んだ。
【0106】
フローサイトメトリー解析および抗体:生きた骨髄および脾臓細胞の表面マーカー染色は、まず、塩化アンモニウム−重炭酸カリウム溶解緩衝液で細胞を溶解させ、リン酸緩衝生理食塩液(PBS)で細胞を洗浄することにより行った。細胞は、PBSにおける抗体により、氷上で20分間にわたり染色した。造血幹細胞および前駆細胞の染色では、細胞を、CD4(RM4−5)、CD3(17A2)、B220(RA3−6B2)、NK1.1(PK136)、Gr−1(RB6−8C5)、Cd11b(M1/70)、およびTer119を含む、系列カクテルで染色し、成熟系列の、解析からの除外を可能とした。細胞はまた、c−Kit(2B8)、Sca−1(D7)、FcγRII/III(2.4G2)、およびCD34(RAM34)に対する抗体でも染色した。成熟単核細胞の組成を評価するため、Mac1、Gr−1、B220、およびCD4/CD3を使用した。細胞周期解析は、細胞を、上記で記載した造血幹細胞と前駆細胞とのミックスと共に染色することにより行った。FIX and PERMキット(Invitrogen:型番GAS−003)を使用して、細胞を固定した。固定の後、細胞を、Ki67で染色し、次いで、LSR Fortessaにおける解析の前に、DAPIで染色した。
【0107】
プラスミド:ヒトFLAG−L3MBTL2のcDNA全長クローンは、Addgene(Plasmid28232)から得た。Myc−Hisタグ付けされたユビキチン構築物は、Xuejun Jiang氏から恵与された。HA−FLAG BAP1のcDNAヒト全長クローンは、Addgene(Plasmid22539)から得た。3×FLAGタグ付けされたBAP1構築物は、Marc Ladanyi氏から恵与された。デユビキチナーゼ変異体構築物(C91A、C91S)は、Agilent部位特異的変異誘発キットを使用して作製し、全長DNAシークエンシングにより確認した。短鎖ヘアピンRNAは、RNAi Consortium(TRC)から、pLKO.1ピューロマイシンベクターの状態で得た。短鎖ヘアピンの配列は、以下の通り:ヒトBAP1(TRCオリゴID:TRCN0000078702およびTRCN0000078698)、マウスBAP1(TRCN0000030719およびTRCN0000030720)、ヒトL3MBTL2(TRCN0000021724およびTRCN0000021726)、およびルシフェラーゼ(shLUC)についてのshRNAをコードする、対照pLKO.1−ピューロマイシンベクターであった。
【0108】
ユビキチンアッセイ:HEK293T細胞を、10cmのディッシュ内に播種し、24時間後、4μgのMyc−His−Ubi発現構築物と、対照である、1μgのL3MBTL2過剰発現構築物および/または1〜10μgのBAP1-GFP過剰発現構築物とで形質導入した。トランスフェクションの48時間後において、細胞を、グアニジンHClベースの溶解緩衝液:6Mのグアニジン、0.1MのNaH2PO4、10mMのトリス、pH8.0、および10mMのBMEに溶解させた。His−Ubiタンパク質は、20μLのNi−NTAアガロース(Qiagen)による、室温で4時間にわたるインキュベーションにより精製した。ビーズは、4つの洗浄緩衝液:緩衝液A:6Mのグアニジン、0.1MのNaH2PO4、10mMのトリス、pH8.0、10mMのBME、および0.2%のTriton−X、緩衝液B:8Mの尿素、0.1MのNaH2PO4、10mMのトリス、pH8.0、10mMのBME、および0.2%のTriton−X、緩衝液C:0.1MのNaH2PO4、10mMのトリス、pH6.3、10mMのBME、および0.2%のTriton−X、ならびに緩衝液D:0.1MのNaH2PO4、10mMのトリス、pH6.3、10mMのBME、および0.1%のTriton−X 1mLずつにより、順次洗浄した。全ての緩衝液には、15mMのイミダゾールを補充した。Hisタグ付けされたタンパク質は、イミダゾールを補充した、2倍濃度のSDS Laemmli緩衝液と共に煮沸することにより、ビーズから精製した。次いで、タンパク質を、ウェスタンブロットにより解析した。
【0109】
in vitroコロニー形成アッセイ:細胞を、FACSAriaを使用して、Lin
−c−Kit
+Sca1
+細胞について分取した。細胞100個を、メチルセルロース(MethoCult GF M3434、Stem Cell Technologies)中に、2つ組で蒔いた。蒔いてから14日後においてコロニーをカウントし、PBSで洗浄することにより、コロニーを回収した。次いで、RNA抽出およびヒストン抽出のために、細胞を溶解させた。
【0110】
一過性トランスフェクション:X−treme遺伝子トランスフェクション試薬(Roche)により、293T細胞を、表示の構築物でトランスフェクトした。トランスフェクションの48〜72時間後において、タンパク質および/またはヒストンを抽出した。
【0111】
浸潤アッセイ:中皮腫細胞(MSTO−211H、H2373、H226、およびH2452)を、T75フラスコ内に播種した(細胞100,000個)。12時間後、蒔いた細胞を、GSK126(0〜2μM)(Chemitek)で処理し、次いで、7日間にわたり放置して、増殖させた。次いで、処理された細胞250,000個を、無血清培地中の、Matrigel浸潤チャンバー(BD Biosciences、型番354480)の上部に入れる一方、下層チャンバーは、血清を有する培地を含有した。22時間後、膜の底部の細胞を、クリスタルバイオレットで染色し、ImageJで定量した。
【0112】
ルシフェラーゼアッセイ:293T細胞を、EV、BAP1、およびL3MBTL2構築物に加えて、pGL3 EZH2プロモーターレポーター構築物(Naomi Goldfinger氏から恵与された)およびSwitchgear Renilla対照構築物で一過性にトランスフェクトした。DualLuciferase Reporter Assay System(Promega)を使用して、細胞を、ルシフェラーゼ活性について評価した。細胞を、24ウェルプレートに播種し、200ngのpGL3−EZH2−ルシフェラーゼ、200ngのRenillaルシフェラーゼ対照構築物、および500ngの実験構築物で共トランスフェクトした。トランスフェクションの48時間後において、細胞をインキュベートし、室温で15分間にわたり溶解させ、ルミノメーターにより、ルシフェラーゼ活性を評価した。ホタルルシフェラーゼについてのリーディングは、Renillaによるトランスフェクション対照に対して正規化した。
【0113】
統計学的解析:本文中に記載されない限りにおいて、ウェルチの補正を用いる、スチューデントのt検定を使用して、統計学的有意性を解析した。統計学的計算のためには、Prizm GraphPadソフトウェアを使用した。誤差は、SEMを使用して計算し、
*p<0.05、
**p<0.005とした。
【0114】
7.2 結果
ゲノム研究により、異なる悪性腫瘍における、腫瘍抑制因子であるASXL1およびBAP1の体細胞変異が同定された。Drosophila ASXL1の相同体であるAsxと、BAP1の相同体であるCalypsoとは、H2AK119Ubを除去する複合体を形成する(Scheuermannら、2010年)。しかし、BAP1−ASXL1複合体は、BAP1変異体の形質転換において役割を有することが示されていない。骨髄系悪性腫瘍では、ASXL1の不活化変異が最も一般的である(Abdel-Wahabら、2011年;Bejarら、2011年;Gelsi-Boyerら、2009年)のに対し、中皮腫(Bottら、2011年)、腎細胞癌(Pena-Llopisら、2012年)、および転移性ブドウ膜黒色腫(Harbourら、2010年)では、再発性のBAP1変異が一般に観察されていることから、BAP1とASXL1とは、腫瘍の抑制において、顕著に異なる役割を有することが示唆される。これらの変異的プロファイルは、BAP1とASXL1との、差次的な組織特異的発現によっては説明することができない(
図5A〜C)。本実施例では、BAP1の喪失が、ASXL1に依存しない形質転換をもたらす機構を同定し、BAP1変異体のがん細胞における治療的脆弱性を同定する。
【0115】
近年の研究は、Bap1の体細胞性喪失が、造血系形質転換を促進しうることを示している(Deyら、2012年)。条件付きBap1欠失の、造血細胞における遺伝子発現およびクロマチン状態に対する影響について調査した(
図5A、B)。Bap1の条件付き欠失は、
図5Dに示されるスキームを使用して作製した。成体動物における誘導後に、造血組織におけるBap1の欠失を駆動するリコンビナーゼである、MX−Creを使用した。Bap1の喪失は、脾腫(
図6A)、白血球増加症(
図5E、F)、貧血(
図5G、H)、および顆粒球マクロファージ前駆細胞(GMP)の拡大(
図5I〜K)を伴う、完全に浸潤性の骨髄増殖性疾患をもたらした。例えば、Bap1ノックアウト(KO)マウスでは、脾臓のサイズ、例えば、重量および長さが、BAP1野生型マウスより大きいことが観察された(
図6A、10C、および11C)。また、Bap1欠損骨髄系前駆細胞の増殖および細胞周期進行の増大も観察された(
図5L)。RNAシークエンシング解析は、Bap1欠損GMPで差次的に発現する遺伝子の大部分で、発現が低減されることを明らかにした(p−adj<0.001)(
図7A)。Bap1 KO前駆細胞およびAsxl1 KO前駆細胞において差次的に発現する遺伝子のセットの間では、著明な重複が観察されたが、多くの場合、遺伝子発現に対する、対向する逆の効果も観察された(
図6B)。遺伝子セット富化解析(GSEA)は、Bap1 KO前駆細胞およびAsxl1 KO前駆細胞で富化される遺伝子セットであって、反対の影響を受ける遺伝子セットを同定した(Abdel-Wahabら、2013年)(
図7B)。ASXL1のサイレンシングは、PRC2活性の低減と符合する、HoxAクラスター遺伝子の発現の増大をもたらした(Abdel-Wahabら、2012年)。これに対し、Bap1欠損細胞では、HoxA遺伝子メンバーの発現の低減(
図6C)と、HoxA遺伝子シグネチャーの発現の減少(
図7C)とが観察された。これらのデータは、Asxl1の喪失とBap1の喪失とは、遺伝子調節に対して反対の効果を有することを裏付ける。
【0116】
ASXL1は、PRC2複合体と直接的に相互作用し、ASXL1の枯渇は、全体的かつ部位特異的にH3K27me3を低減する(Abdel-Wahabら、2012年)。Asxl1の喪失とBap1の喪失との、遺伝子発現に対する分岐効果を踏まえ、Bap1の欠失の、H3K27me3に対する影響について調査した。ヒストンについての質量分析(
図6D)、ウェスタンブロット(
図6E)、およびELISA(
図8A)により、Bap1 KO細胞におけるH3K27me3レベルは増大した。H3K27me3についてのクロマチン免疫沈降シークエンシング(ChIP−Seq)は、H3K27me3ブロードドメインの数の増大(Beguelinら、2013年)(
図6G)、および増大したH3K27me3ブロードドメインの、近傍の遺伝子座への「拡大」(
図6H)を伴う、Bap1 KOマウスにおける全体的増大(
図6F)を明らかにした。このH3K27me3の増大および拡大は、Bap1 KO細胞におけるHoxA遺伝子座内で十分に例示されている(
図6I)。Bap1 KO細胞において、H3K27me3によりマークされる部位は主に、遺伝子プロモーター領域に生じ(
図8B)、H3K27me3により占有されるプロモーターを伴う遺伝子が、抑制の増強について富化された(FDR<0.001)(
図6J)。精製GMPにおいても、同様な知見が観察された(
図6K)。Bap1 KOに関連するH3K27me3による遺伝子の調節異常と、遺伝子の抑制とは、EZH2依存性の調節、系列コミットメント/分化、および増殖に関与していた(
図6L、
図8C)。BAP1のサイレンシングは、H3K27me3を増大させ(
図9A)、Bap1欠損細胞におけるBAP1の再発現は、H3K27me3レベルを低減した(
図9B)。これに対し、デユビキチナーゼ欠損BAP1対立遺伝子は、H3K27me3を低減しなかった(
図9C)ことから、H3K27me3の変更が、BAP1触媒性活性に起因することが裏付けられた。
【0117】
次に、Ezh2の喪失の、in vivoにおける形質転換に対する影響(Suら、2003年)を調査することにより、PRC2に媒介されるH3K27me3の、BAP1依存性形質転換に対する役割を評価した。Ezh2の欠失は、Bap1/Ezh2欠損マウスにおけるH3K27me3レベルを、Bap1ノックアウトマウスと比較して低減した(
図11A)。Ezh2の欠失は、Bap1の喪失により誘導される骨髄系悪性腫瘍を無効化し(
図10A)、脾腫(
図11B、C)、白血球増加症(
図11D)、および貧血(
図11E)を低減した。随伴するBap1/Ezh2の喪失は、骨髄系前駆細胞の拡大を低減し(
図11F)、Mac1
+Gr1
+骨髄系細胞の比率を低減し(
図11G)、赤血球系の分化(CD71
+Ter119
+)を回復させた(
図10B)。Bap1/Ezh2欠損前駆細胞の増殖の減少が観察された(
図11H)。Ezh2のハプロ不全が、Bap1欠損骨髄増殖を低減するが、これを無効化しなかった(
図10C、10D)ことは、Ezh2に対する用量依存的な要請と符合する。Bap1 KOマウスの低分子阻害剤EPZ011989(Campbellら、2015年)による処置が、H3K27me3、脾腫、および白血球カウントを減少させた(
図11I〜K)ことは、遺伝子データと符合する。これらのデータは、Bap1欠損骨髄系の形質転換には、PRC2の活性、および、具体的には、Ezh2の活性が要請されることを裏付ける。
【0118】
次に、Bap1の欠失が、H3K27me3レベルを上昇させる機構について調査した。ASXL1とBAP1との間で報告されている相互作用、およびASXL1とPRC2との間で報告されている相互作用とは対照的に、BAP1とEZH2との間の相互作用は、共IPによっては同定されなかった(
図13A)。Ezh2およびSuz12のmRNAおよびタンパク質の発現の増大が観察された(
図13B、C)ことは、PRC2の発現の調節におけるBap1の役割と符合する。加えて、Bap1 KOマウスの全骨髄から分取されたLin
−Sca
+Kit
+細胞(造血幹細胞を含有する集団)についての解析は、Suz12およびEzh2 RNAの発現の、野生型BAP1マウスと比較した有意な増大を示した(
図17)。さらに、全骨髄ウェスタンブロットは、Bap1 KO細胞における、EZH2およびSUZ12のタンパク質発現の、対照細胞と比較した増大も明らかにした(
図17)。Bap1 KO骨髄細胞におけるBAP1の再発現は、Ezh2 mRNAの発現を、正常レベルへと低減した(
図12A)。Bap1の喪失は、他のヒストンマークも直接変更することが可能であり、次いで、これにより、EZH2を含む、鍵となる標的遺伝子座におけるクロマチン状態が変更されることが仮定された。ヒストンについての質量分析は、Bap1 KO細胞における、他の測定されたヒストンマーク(
図12B)と比較した、H4K20me1の顕著な減少(
図13D)を明らかにした。BAP1の発現は、EZH2遺伝子座におけるH4K20me1を増大させたが、ASXL1またはBMI1は、これを増大させなかった(
図12C)。したがって、H4K20me1マークの喪失は、BAP1依存性の遺伝子発現において、重要な役割を有しうることが仮定された。SETD8は、公知のメチルトランスフェラーゼで、H4K20me1を付与する唯一のものである(Nishiokaら、2002年)。BAP1変異体の中皮腫細胞(H226、H2452)におけるSETD8の発現が、アポトーシスを増大させ、増殖を低減したのに対し、野生型(MSTO−211H、およびMeso10)細胞は、影響を受けなかった(
図13E、F)。中皮腫細胞におけるSETD8の過剰発現は、EZH2のmRNAおよびタンパク質の発現を減少させた(
図13G、H)。BAP1野生型細胞系は、SETD8阻害剤(Blumら、2014年)(BVT594)に対して、BAP1変異体細胞系より感受性であった(
図13I)。
【0119】
BAP1は、H4K20me1を調節するクロマチンモジュレーターを脱ユビキチン化することが仮定された。ChIP−Seqデータの解析(Abdel-Wahabら、2013年;Deyら、2012年)は、Bap1の占有を伴うが、Asxl1の結合は伴わない遺伝子のクラスター(クラスター1)を同定し、これをE−boxモチーフについて富化した(
図14A、B)。先行研究は、非定型ポリコームタンパク質である、L3MBTL1およびL3MBTL2は、E−boxモチーフに結合し、H4K20me1に結合することが可能であり、これを維持することを示している(Guoら、2009年;Qinら、2012年;Trojerら、2011年;Trojerら、2007年)。L3mbtl1欠損マウスが、明白な表現型を持たない(Qinら、2010年)のに対し、L3mbtl2欠損マウスは、Bap1の喪失と同様のタイミングで胎性致死である(Deyら、2012年;Qinら、2012年)。したがって、Bap1の喪失が、L3mbtl2の発現の変更をもたらすのかどうかについて調査した。L3mbtl2のタンパク質の発現は、Bap1 KO造血細胞(
図15A、B)内、およびBAP1変異体の中皮腫細胞において、BAP1野生型の中皮腫細胞(
図13J)と比較して低減されたが、RNAの発現は、低減されなかった。L3MBTL2のユビキチン化は、BAP1を発現させる細胞では低減され(
図13K)、プロテアソーム阻害剤による処理は、BAP1変異体細胞における、L3MBTL2の安定性を増大させた(
図15C)。L3MBTL2の発現は、BAP1の共発現を伴う場合も、これを伴わない場合も、EZH2タンパク質レベルを低下させ(
図15D)、BAP1の発現またはL3MBTL2の過剰発現は、EZH2のプロモーター活性を低減した(
図15E)。逆に、L3MBTL2のサイレンシングは、EZH2の発現を増大させた(
図15F)。L3MBTL2およびBAP1を発現させる細胞では、EZH2遺伝子座における、L3MBTL2およびBAP1についての富化が観察された(
図15G、H)。特定の理論に束縛されることなく述べると、これらのデータは、BAP1とL3MBTL2とは、相互作用し(
図15I)、EZH2遺伝子座を共占有することを示唆する。BAP1の喪失は、L3MBTL2の安定性の低減と、EZH2転写出力の増大とをもたらす(
図13L)。
【0120】
TCGAデータの解析は、中皮腫において、EZH2 mRNAの発現が増大することを明らかにした(
図16A)。次に、EZH2の阻害が、BAP1変異体の中皮腫細胞系の生存を阻害する場合があるかどうかについて評価した。EZH2のサイレンシングが、BAP1変異体細胞系におけるアポトーシスを誘導したのに対し、野生型細胞系は、増殖し続けた(
図16B、C)。EZH2のサイレンシングは、in vivoにおけるBAP1変異体の腫瘍形成を無効化したが、野生型細胞系の腫瘍形成は無効化しなかった(
図16D)。BAP1野生型細胞系におけるEZH2の過剰発現は、増殖(
図20A)、およびEZH2の阻害に対する感受性(
図20B)を増大させた。BAP1変異体細胞系は、in vitroで、2D培養物(
図16E)および3D培養物(
図16F)のいずれにおいても、EZH2の阻害(EPZ011989)に対してより感受性であった。次に、in vivoにおけるEZH2の阻害の影響を評価した。H3K27me3に対する同様の効果にもかかわらず、EZH2の阻害が、BAP1変異体の腫瘍サイズを、媒体で処置されたマウスと比較して有意に低減した(
図16G)のに対し、野生型の腫瘍は、EZH2の阻害に対する応答性が小さかった/見られなかった(
図16H)。EZH2の阻害が、転移の潜在性を有するBAP1変異体の中皮腫細胞系における肺転移を無効化した(
図16G)ことは、転移におけるBAP1/EZH2の役割(Harbourら、2010年)と符合する。EZH2の阻害は、浸潤を低減し、in vitroにおけるEカドヘリン発現を増大させた(
図20C〜D)。次に、BAP1阻害剤である、GSK126を使用するEZH2の阻害の影響について評価した。BAP1変異体の中皮腫細胞を、NOD−SCIDマウスの脇腹へと注射し、次いで、腫瘍形成の後で、媒体または150mg/kgのGSK126による処置を開始した。EZH2の阻害は、腫瘍サイズを、媒体で処置されたマウスと比較して有意に低減した(
図21Aおよび
図4)。GSK126による処置は、in vivoにおいて、BAP1変異体細胞におけるH3K27me3を有意に減弱させた(
図21B)。病理学的解析は、EZH2の阻害が、Ki67染色の低減およびTUNEL染色の増大と関連することを明らかにした(
図21C)。これらのデータは、EZH2が、BAP1変異体のがん細胞における潜在的治療的標的を表すことを示す。
【0121】
EZH2の発がん性変異の同定(Morinら、2010年;Morinら、2011年;Pasqualucciら、2011年)は、変異体特異的エピジェネティック療法の開発をもたらした。しかし、エピジェネティック調節因子における大半の変異は、機能喪失を結果としてもたらすために、扱いやすい直接的治療標的を表さない。EZH2阻害剤は近年、臨床試験にかけられ(McCabeら、2012年)ており、開示されたデータは、BAP1の喪失が、前臨床研究および臨床研究においてさらに探索すべきであるPRC2における変異特異的依存性を結果としてもたらすことを示唆する。これらのデータは、SWI/SNF変異体ラブドイド腫瘍におけるPRC2の阻害の役割を示唆する近年の研究(Alimovaら、2013年;Knutsonら、2013年)、およびBAP1変異が、SWI/SNF変異と互いに排他的であることを示す解析(Wilsonら、2010年)と共鳴する(resonate)。これらのデータは、エピジェネティック調節因子における変異についての詳細な研究を、異なる悪性コンテキストにおけるエピジェネティック状態に対する、変異体特異的効果を転換する(reverse)療法の開発についての情報を得るのに使用しうることを示唆する。
【0122】
7.3 考察
BAP1とASXL1とは、相互作用して、ヒストンのH2Aリシン119(H2AK119Ub)から、モノユビキチンを除去しうる、ポリコームデユビキチナーゼ複合体を形成する。しかし、BAP1とASXL1とが、顕著に異なるがん型において変異することは、エピジェネティック状態の調節および悪性形質転換における独立の役割と符合する。本実施例では、Bap1の喪失が、トリメチル化ヒストンH3リシン27(H3K27me3)の増大を結果としてもたらし、Ezh2の発現を上昇させ、ポリコーム抑制性複合体2(PRC2)標的の抑制を増強したことが裏付けられる。これらの知見は、Asxl1の喪失について見られる、H3K27me3の低減と対照的である。in vivoにおける、Bap1およびEzh2の条件付き欠失は、Bap1の喪失単独により誘導される骨髄系前駆細胞の拡大を無効化する。Bap1の喪失は、H4K20モノメチル化(H4K20me1)の顕著な減少を結果としてもたらす。H4K20me1メチルトランスフェラーゼであるSETD8の発現が、EZH2の発現を低減し、BAP1変異体細胞の増殖を無効化することは、EZH2の転写の調節におけるH4K20me1の役割と符合する。さらに、BAP1を欠く中皮腫細胞が、EZH2の薬理学的阻害に対して感受性であることから、BAP1変異体の悪性腫瘍に対する新規の治療手法が示唆される。
【0123】
8.参考文献
Abdel-Wahab, O., Adli, M., LaFave, L.M., Gao, J., Hricik, T., Shih, A.H., Pandey, S., Patel, J.P., Chung, Y.R., Koche, R., et al. (2012). ASXL1 mutations promote myeloid transformation through loss of PRC2-mediated gene repression. Cancer Cell 22, 180-193.
Abdel-Wahab, O., Gao, J., Adli, M., Dey, A., Trimarchi, T., Chung, Y.R., Kuscu, C., Hricik, T., Ndiaye-Lobry, D., Lafave, L.M., et al. (2013). Deletion of Asxl1 results in myelodysplasia and severe developmental defects in vivo. J Exp Med 210, 2641-2659.
Abdel-Wahab, O., Pardanani, A., Patel, J., Wadleigh, M., Lasho, T., Heguy, A., Beran, M., Gilliland, D.G., Levine, R.L., and Tefferi, A. (2011). Concomitant analysis of EZH2 and ASXL1 mutations in myelofibrosis, chronic myelomonocytic leukemia and blast-phase myeloproliferative neoplasms. Leukemia 25, 1200-1202.
Alimova, I., Birks, D.K., Harris, P.S., Knipstein, J.A., Venkataraman, S., Marquez, V.E., Foreman, N.K., and Vibhakar, R. (2013). Inhibition of EZH2 suppresses self-renewal and induces radiation sensitivity in atypical rhabdoid teratoid tumor cells. Neuro Oncol 15, 149-160.
Beguelin, W., Popovic, R., Teater, M., Jiang, Y., Bunting, K.L., Rosen, M., Shen, H., Yang, S.N., Wang, L., Ezponda, T., et al. (2013). EZH2 is required for germinal center formation and somatic EZH2 mutations promote lymphoid transformation. Cancer Cell 23, 677-692.
Bejar, R., Stevenson, K., Abdel-Wahab, O., Galili, N., Nilsson, B., Garcia-Manero, G., Kantarjian, H., Raza, A., Levine, R.L., Neuberg, D., et al. (2011). Clinical effect of point mutations in myelodysplastic syndromes. The New England journal of medicine 364, 2496-2506.
Blum, G., Ibanez, G., Rao, X., Shum, D., Radu, C., Djaballah, H., Rice, J.C., and Luo, M. (2014). Small-molecule inhibitors of SETD8 with cellular activity. ACS Chem Biol 9, 2471-2478.
Bott, M., Brevet, M., Taylor, B.S., Shimizu, S., Ito, T., Wang, L., Creaney, J., Lake, R.A., Zakowski, M.F., Reva, B., et al. (2011). The nuclear deubiquitinase BAP1 is commonly inactivated by somatic mutations and 3p21.1 losses in malignant pleural mesothelioma. Nature genetics 43, 668-672.
Campbell, J.E., Kuntz, K.W., Knutson, S.K., Warholic, N.M., Keilhack, H., Wigle, T.J., Raimondi, A., Klaus, C.R., Rioux, N., Yokoi, A., et al. (2015). EPZ011989, A Potent, Orally-Available EZH2 Inhibitor with Robust in Vivo Activity. ACS Med Chem Lett 6, 491-495.
Dey, A., Seshasayee, D., Noubade, R., French, D.M., Liu, J., Chaurushiya, M.S., Kirkpatrick, D.S., Pham, V.C., Lill, J.R., Bakalarski, C.E., et al. (2012). Loss of the tumor suppressor BAP1 causes myeloid transformation. Science 337, 1541-1546.
Garcia, B.A., Mollah, S., Ueberheide, B.M., Busby, S.A., Muratore, T.L., Shabanowitz, J., and Hunt, D.F. (2007). Chemical derivatization of histones for facilitated analysis by mass spectrometry. Nat Protoc 2, 933-938.
Gelsi-Boyer, V., Trouplin, V., Adelaide, J., Bonansea, J., Cervera, N., Carbuccia, N., Lagarde, A., Prebet, T., Nezri, M., Sainty, D., et al. (2009). Mutations of polycomb-associated gene ASXL1 in myelodysplastic syndromes and chronic myelomonocytic leukaemia. British journal of haematology 145, 788-800.
Guo, Y., Nady, N., Qi, C., Allali-Hassani, A., Zhu, H., Pan, P., Adams-Cioaba, M.A., Amaya, M.F., Dong, A., Vedadi, M., et al. (2009). Methylation-state-specific recognition of histones by the MBT repeat protein L3MBTL2. Nucleic Acids Res 37, 2204-2210.
Harbour, J.W., Onken, M.D., Roberson, E.D., Duan, S., Cao, L., Worley, L.A., Council, M.L., Matatall, K.A., Helms, C., and Bowcock, A.M. (2010). Frequent mutation of BAP1 in metastasizing uveal melanomas. Science 330, 1410-1413.
Knutson, S.K., Warholic, N.M., Wigle, T.J., Klaus, C.R., Allain, C.J., Raimondi, A., Porter Scott, M., Chesworth, R., Moyer, M.P., Copeland, R.A., et al. (2013). Durable tumor regression in genetically altered malignant rhabdoid tumors by inhibition of methyltransferase EZH2. Proc Natl Acad Sci USA 110, 7922-7927.
Krivtsov, A.V., Feng, Z., Lemieux, M.E., Faber, J., Vempati, S., Sinha, A.U., Xia, X., Jesneck, J., Bracken, A.P., Silverman, L.B., et al. (2008). H3K79 methylation profiles define murine and human MLL-AF4 leukemias. Cancer Cell 14, 355-368.
Lara-Astiaso, D., et al. Immunogenetics. Chromatin state dynamics during blood formation. Science 345, 943-949 (2014).
Love, M.I., Huber, W., and Anders, S. (2014). Moderated estimation of fold change and dispersion for RNA-seq data with DESeq2. Genome biology 15, 550.
MacLean, B., Tomazela, D.M., Shulman, N., Chambers, M., Finney, G.L., Frewen, B., Kern, R., Tabb, D.L., Liebler, D.C., and MacCoss, M.J. (2010). Skyline: an open source document editor for creating and analyzing targeted proteomics experiments. Bioinformatics 26, 966-968.
McCabe, M.T., Ott, H.M., Ganji, G., Korenchuk, S., Thompson, C., Van Aller, G.S., Liu, Y., Graves, A.P., Della Pietra, A., 3rd, Diaz, E., et al. (2012). EZH2 inhibition as a therapeutic strategy for lymphoma with EZH2-activating mutations. Nature 492, 108-112.
Morin, R.D., Johnson, N.A., Severson, T.M., Mungall, A.J., An, J., Goya, R., Paul, J.E., Boyle, M., Woolcock, B.W., Kuchenbauer, F., et al. (2010). Somatic mutations altering EZH2 (Tyr641) in follicular and diffuse large B-cell lymphomas of germinal-center origin. Nature genetics 42, 181-185.
Morin, R.D., Mendez-Lago, M., Mungall, A.J., Goya, R., Mungall, K.L., Corbett, R.D., Johnson, N.A., Severson, T.M., Chiu, R., Field, M., et al. (2011). Frequent mutation of histone-modifying genes in non-Hodgkin lymphoma. Nature 476, 298-303.
Nishioka, K., Rice, J.C., Sarma, K., Erdjument-Bromage, H., Werner, J., Wang, Y., Chuikov, S., Valenzuela, P., Tempst, P., Steward, R., et al. (2002). PR-Set7 is a nucleosome-specific methyltransferase that modifies lysine 20 of histone H4 and is associated with silent chromatin. Mol Cell 9, 1201-1213.
O'Geen, H., Echipare, L., and Farnham, P.J. (2011). Using ChIP-seq technology to generate high-resolution profiles of histone modifications. Methods Mol Biol 791, 265-286.
Pasqualucci, L., Trifonov, V., Fabbri, G., Ma, J., Rossi, D., Chiarenza, A., Wells, V.A., Grunn, A., Messina, M., Elliot, O., et al. (2011). Analysis of the coding genome of diffuse large B-cell lymphoma. Nat Genet 43, 830-837.
Pena-Llopis, S., Vega-Rubin-de-Celis, S., Liao, A., Leng, N., Pavia-Jimenez, A., Wang, S., Yamasaki, T., Zhrebker, L., Sivanand, S., Spence, P., et al. (2012). BAP1 loss defines a new class of renal cell carcinoma. Nat Genet 44, 751-759.
Phung, Y.T., Barbone, D., Broaddus, V.C., and Ho, M. (2011). Rapid generation of in vitro multicellular spheroids for the study of monoclonal antibody therapy. Journal of Cancer 2, 507-514.
Qin, J., Van Buren, D., Huang, H.S., Zhong, L., Mostoslavsky, R., Akbarian, S., and Hock, H. (2010). Chromatin protein L3MBTL1 is dispensable for development and tumor suppression in mice. J Biol Chem 285, 27767-27775.
Qin, J., Whyte, W.A., Anderssen, E., Apostolou, E., Chen, H.H., Akbarian, S., Bronson, R.T., Hochedlinger, K., Ramaswamy, S., Young, R.A., et al. (2012). The polycomb group protein L3mbtl2 assembles an atypical PRC1-family complex that is essential in pluripotent stem cells and early development. Cell Stem Cell 11, 319-332.
Scheuermann, J.C., de Ayala Alonso, A.G., Oktaba, K., Ly-Hartig, N., McGinty, R.K., Fraterman, S., Wilm, M., Muir, T.W., and Muller, J. (2010). Histone H2A deubiquitinase activity of the Polycomb repressive complex PR-DUB. Nature 465, 243-247.
Skarnes, W.C., Rosen, B., West, A.P., Koutsourakis, M., Bushell, W., Iyer, V., Mujica, A.O., Thomas, M., Harrow, J., Cox, T., et al. (2011). A conditional knockout resource for the genome-wide study of mouse gene function. Nature 474, 337-342.
Su, I.H., Basavaraj, A., Krutchinsky, A.N., Hobert, O., Ullrich, A., Chait, B.T., and Tarakhovsky, A. (2003). Ezh2 controls B cell development through histone H3 methylation and Igh rearrangement. Nat Immunol 4, 124-131.
Suraokar, M.B., Nunez, M.I., Diao, L., Chow, C.W., Kim, D., Behrens, C., Lin, H., Lee, S., Raso, G., Moran, C., et al. (2014). Expression profiling stratifies mesothelioma tumors and signifies deregulation of spindle checkpoint pathway and microtubule network with therapeutic implications. Annals of oncology : official journal of the European Society for Medical Oncology / ESMO 25, 1184-1192.
Trojer, P., Cao, A.R., Gao, Z., Li, Y., Zhang, J., Xu, X., Li, G., Losson, R., Erdjument-Bromage, H., Tempst, P., et al. (2011). L3MBTL2 protein acts in concert with PcG protein-mediated monoubiquitination of H2A to establish a repressive chromatin structure. Mol Cell 42, 438-450.
Trojer, P., Li, G., Sims, R.J., 3rd, Vaquero, A., Kalakonda, N., Boccuni, P., Lee, D., Erdjument-Bromage, H., Tempst, P., Nimer, S.D., et al. (2007). L3MBTL1, a histone-methylation-dependent chromatin lock. Cell 129, 915-928.
Wilson, B.G., Wang, X., Shen, X., McKenna, E.S., Lemieux, M.E., Cho, Y.J., Koellhoffer, E.C., Pomeroy, S.L., Orkin, S.H., and Roberts, C.W. (2010). Epigenetic antagonism between polycomb and SWI/SNF complexes during oncogenic transformation. Cancer Cell 18, 316-328.
【0124】
本明細書では、それらの内容が、参照によりそれらの全体において本明細書に組み込まれる、多様な参考文献が引用されている。本明細書では、多様な核酸およびアミノ酸配列受託番号が引用されており、これらの受託番号により言及される完全な配列が、参照によりそれらの全体において本明細書に組み込まれる。