【実施例】
【0037】
(実施例1)
炭素骨材としての人造黒鉛と、バインダーとしての粉末状のフェノール樹脂と、添加物としてのB
4C(平均粒子径:15μm)とを混合した後、オープンロールにて混練した。この混練時に、上記粉末状のフェノール樹脂が軟化するので、上記人造黒鉛間に、フェノール樹脂が存在することになる。次に、成形可能な粒度まで粉砕した後、粉砕物を成形し、更に、還元雰囲気中で焼成して、上記バインダーを炭素化させた。
【0038】
上記バインダーを炭素化させた物が補助炭素を構成することになる。このような構成であれば、黒鉛粉末の間の空隙に補助炭素が入り込み、成形体の空隙が少なくなるので、炭素間の接触面積が大きくなって、電気抵抗率が減少する。
【0039】
最後に、上記焼成物を2000℃で最終熱処理することにより、B元素を含有した炭素蒸発源を作製した。尚、上記混合時に、B元素を含有した炭素蒸発源(以下、B元素等のヘテロ元素を含有した炭素蒸発源を、単に、炭素蒸発源と称することがある)の総量に対するB元素の濃度が、0.3原子%となるようにB
4Cを添加した。
このようにして作製した炭素蒸発源を、以下、蒸発源A1と称する。
【0040】
(実施例2)
最終熱処理時の温度を1600℃とすると共に、炭素蒸発源の総量に対するB元素の濃度を2原子%となるようにB
4Cを添加した以外は、上記実施例1と同様にして炭素蒸発源を作製した。
このようにして作製した炭素蒸発源を、以下、蒸発源A2と称する。
【0041】
(実施例3)
最終熱処理時の温度を2000℃とした以外は、上記実施例2と同様にして炭素蒸発源を作製した。
このようにして作製した炭素蒸発源を、以下、蒸発源A3と称する。
【0042】
(実施例4)
炭素蒸発源の総量に対するB元素の濃度を5原子%となるようにB
4Cを添加した以外は、上記実施例2と同様にして炭素蒸発源を作製した。
このようにして作製した炭素蒸発源を、以下、蒸発源A4と称する。
【0043】
(実施例5)
炭素蒸発源の総量に対するB元素の濃度を5原子%となるようにB
4Cを添加した以外は、上記実施例3と同様にして炭素蒸発源を作製した。
このようにして作製した炭素蒸発源を、以下、蒸発源A5と称する。
【0044】
(実施例6)
炭素蒸発源の総量に対するB元素の濃度を10原子%となるようにB
4Cを添加した以外は、上記実施例2と同様にして炭素蒸発源を作製した。
このようにして作製した炭素蒸発源を、以下、蒸発源A6と称する。
【0045】
(実施例7)
炭素蒸発源の総量に対するB元素の濃度を10原子%となるようにB
4Cを添加した以外は、上記実施例3と同様にして炭素蒸発源を作製した。
このようにして作製した炭素蒸発源を、以下、蒸発源A7と称する。
【0046】
(実施例8)
炭素蒸発源の総量に対するB元素の濃度を20原子%となるようにB
4Cを添加した以外は、上記実施例3と同様にして炭素蒸発源を作製した。
このようにして作製した炭素蒸発源を、以下、蒸発源A8と称する。
【0047】
(実施例9)
バインダー成分としてピッチを混合した炭素骨材をマトリックスとして、炭素蒸発源の総量に対するB元素の濃度が1原子%となるようにB
4Cを添加すると共に、ヘテロ元素としてB元素と共にSi元素を用い、炭素蒸発源の総量に対するSi元素の濃度が2原子%となるようにSiC(平均粒子径:5μm)を添加し、Wコーン型混合器で均一に混合した後、成形し、更に還元雰囲気中で焼成して炭素化させた。最後に、上記焼成物を2000℃で最終熱処理することにより炭素蒸発源を作製した。
このようにして作製した炭素蒸発源を、以下、蒸発源A9と称する。
【0048】
(実施例10)
ヘテロ元素としてB元素と共にTi元素を用い、炭素蒸発源の総量に対するTi元素の濃度が2原子%となるようにTiC(平均粒子径:5μm)を添加した以外は、上記実施例9と同様にして炭素蒸発源を作製した。
このようにして作製した炭素蒸発源を、以下、蒸発源A10と称する。
【0049】
(実施例11)
ヘテロ元素としてB元素と共にW元素を用い、炭素蒸発源の総量に対するW元素の濃度が2原子%となるようにWC(平均粒子径:5μm)を添加した以外は、上記実施例9と同様にして炭素蒸発源を作製した。
このようにして作製した炭素蒸発源を、以下、蒸発源A11と称する。
【0050】
(実施例12)
ヘテロ元素としてB元素と共にMo元素を用い、炭素蒸発源の総量に対するMo元素の濃度が2原子%となるようにMo(平均粒子径:5μm)を添加した以外は、上記実施例9と同様にして炭素蒸発源を作製した。
このようにして作製した炭素蒸発源を、以下、蒸発源A12と称する。
【0051】
(実施例13)
ヘテロ元素としてB元素と共にGd元素を用い、炭素蒸発源の総量に対するGd元素の濃度が2原子%となるようにGd
2O
3(平均粒子径:5μm)を添加した以外は、上記実施例9と同様にして炭素蒸発源を作製した。
このようにして作製した炭素蒸発源を、以下、蒸発源A13と称する。
【0052】
(比較例1)
ヘテロ元素としてB元素に代えてSi元素を用い、炭素蒸発源の総量に対するSi元素の濃度が5原子%となるようにSiC(平均粒子径:5μm)を添加した以外は、上記実施例2と同様にして炭素蒸発源を作製した。
このようにして作製した炭素蒸発源を、以下、蒸発源Z1と称する。
【0053】
(比較例2)
粉砕物の成形時に高圧で成形することにより、成形時の比重を高くし、これにより、蒸発源Z1よりもかさ密度が高くなるような炭素蒸発源を作製した以外は、上記比較例1と同様にして炭素蒸発源を作製した。
このようにして作製した炭素蒸発源を、以下、蒸発源Z2と称する。
【0054】
(比較例3)
粉砕物の成形時により高圧で成形することにより、成形時の比重をより高くし、これにより、蒸発源Z1、Z2よりもかさ密度が高くなるような炭素蒸発源を作製した以外は、上記比較例1と同様にして炭素蒸発源を作製した。
このようにして作製した炭素蒸発源を、以下、蒸発源Z3と称する。
【0055】
(比較例4)
ヘテロ元素を積極的には添加せずに、炭素骨材として人造黒鉛と、バインダーとしてのフェノール樹脂とを混合すると共に、炭素化のみを行い、最終の熱処理を行わなかった以外は、上記実施例1と同様にして炭素蒸発源を作製した。
このようにして作製した炭素蒸発源を、以下、蒸発源Z4と称する。
【0056】
(比較例5)
微粉砕したコークス粉末と黒鉛粉末をピッチバインダーで結合して成形して炭素化し、最終の熱処理で黒鉛化することで炭素蒸発源を作製した。
このようにして作製した炭素蒸発源を、以下、蒸発源Z5と称する。
【0057】
(比較例6)
微粉砕したコークスをピッチバインダーで結合して成形して炭素化し、最終の熱処理で黒鉛化することで炭素蒸発源を作製した。尚、上記成形時に、比較例5より高圧で成形することにより、成形時の比重をより高くし、これによって、蒸発源Z5よりもかさ密度が高くなるように構成した。
このようにして作製した炭素蒸発源を、以下、蒸発源Z6と称する。
【0058】
(比較例7)
最終熱処理温度を1600℃とした以外は、実施例8と同様にして炭素蒸発源を作製した。
このようにして作製した炭素蒸発源を、以下、蒸発源Z7と称する。
【0059】
(実験1)
上記蒸発源A1〜A12、Z1〜Z7からテストピースを採取して物理特性を調査した。具体的には、以下の通りである。
テストピースの重量を体積で除した値からかさ密度を算出し、また、硬さの測定は室温にてショア硬度試験機D形を用いて測定した。電気抵抗率はJIS R7222−1997に基いて測定した。機械強度については、室温にてインストロン型材料試験機を用いて3点曲げによる曲げ強さを測定するとともに、室温にてテンシロン万能試験機を用いて圧縮強さを測定した。
【0060】
【表1】
【0061】
上記表1から明らかなように、ヘテロ元素としてホウ素を含んだ蒸発源A1〜A8は、ヘテロ元素としてケイ素を含んだ蒸発源Z1〜Z3に比べて電気抵抗率が低く、ヘテロ元素を含んでいない蒸発源Z4〜Z6と略同等となっていることが認められる。また、ヘテロ元素としてホウ素と共にケイ素も含んだ蒸発源A9でも、ヘテロ元素としてケイ素のみを含んだ蒸発源Z1〜Z3に比べて電気抵抗率が低くなっていることが認められる。更に、ヘテロ元素としてホウ素と共にチタン、タングステン、又はモリブデンも含んだ蒸発源A10〜A13でも、ヘテロ元素としてケイ素のみを含んだ蒸発源Z1〜Z3に比べて電気抵抗率が低くなっていることが認められる。
【0062】
また、蒸発源A1〜A13は蒸発源Z1〜Z6と比べて、かさ密度は同等程度のものが多くなっているにも関わらず、一般的に、蒸発源A1〜A13の方が硬さや機械強度が大きくなっていることが認められる。特に、蒸発源A9〜A12では硬さや機械強度が極めて大きくなっていることが認められる。
尚、蒸発源Z7はヘテロ元素としてホウ素を含んでいるにも関わらず、電気抵抗率が高くなっていることが認められる。したがって、ヘテロ元素としてホウ素を含んでいても、必ずしも電気抵抗率が低くなるものではないことがわかる。
【0063】
(実験2)
上記蒸発源A2、A4、A5、Z1〜Z3、Z5、Z6から、直径100mm×厚さ12mmの円板形状のターゲット材を作製して非晶質炭素膜の成膜試験を、下記の方法で実施した。尚、成膜方法としては真空アーク放電法を用い、成膜装置としては株式会社神戸製鋼所のUBMS202を用いた。
【0064】
真空アーク放電を実施するに際し、アーク電流値をDC20A、プロセス圧力としてアルゴン0.13Pa、基板バイアス電圧を−100V、基板加熱なしの条件で90分間成膜した。成膜する基材にはSKD11を硬さHRC60に調質し成膜面をラッピングすると共に、事前にスパッタリングでCr中間層を形成した上に、非晶質炭素膜(DLC膜)を成膜した。そして、成膜中のアーク電圧、基板に到来するイオン種に起因するバイアス電流値をモニタリングし、その時間平均値をそれぞれ平均アーク電圧、バイアス電流値とした。蒸発速度は、蒸発前後でのターゲット材の重量を成膜時間で除した値から算出した。ワーク温度は基板の背面に熱電対を挿入することで成膜中の温度上昇をモニタリングし、終了時の温度を確認した。それらの結果を表2に示す。また、炭素蒸発源の電気抵抗率と平均アーク電圧との関係について
図1に示し、炭素蒸発源の電気抵抗率と蒸発速度との関係について
図2に示す。
【0065】
【表2】
【0066】
上記表2から明らかなように、蒸発源A2、A4、A5は蒸発源Z1〜Z3に比べて、平均アーク電圧と平均バイアス電流とが高くなっており、これに伴って、蒸発速度が格段に高くなっていることが認められる。また、蒸発源A2、A4、A5は蒸発源Z5、Z6に比べて、平均アーク電圧と平均バイアス電流とが若干低くなっているが、蒸発速度は略同等であることが認められる。尚、ワーク温度(終了時)については、蒸発源A2、A4、A5は蒸発源Z5、Z6よりも低く、蒸発源Z1〜Z3よりも若干高くなっているが、全く問題のないレベルである。
また、
図1より、炭素蒸発源の電気抵抗率が高くなるほど、平均アーク電圧が低下することがわかり、
図2より、炭素蒸発源の電気抵抗率が高くなるほど、蒸発速度が低下することがわかる。
【0067】
(実験3)
上記蒸発源A1を偏光顕微鏡を用いて調べたので、その結果を
図3に示す。
図3から明らかなように、蒸発源A1には、炭素骨材1(白色或いは白っぽい部位であって、異方性が強い部分)と、この炭素骨材1間に存在する補助炭素2(灰色の部位であって、バインダーを出発原料とする等方性が強い部分)とが存在していることが認められる。尚、
図3中の符号3(黒色の部位)は空隙であって、補助炭素2の存在により空隙3の体積が小さくなっている。
【0068】
ここで、2種類以上の炭素質を含むか否かは、偏光顕微鏡の測定において、異なると思われる2箇所のラマンスペクトルのGバンド、Dバンドのピーク比およびGバンドの半値幅を比較することで推測できる。例えば、各種炭素質の微細構造のキャラクタリゼーションについては、各種文献(例えば、炭素NO.175(1996)304−313参照)において、それらを縦軸と横軸にとったマップを作成することにより、さまざまな炭素質の微細構造のキャラクタリゼーションを実施しうることが明示されている。