【実施例】
【0015】
図1は、本発明による橋脚撤去工法を示す現場の平面図である。現場は河川敷で、
図1に示すように、電車の線路70が走っており、これに隣接して撤去すべき複数の橋脚1がある。橋脚1と橋脚の間隔は約60mである。なお、橋脚1に載置される橋本体は撤去されているとする。橋脚1は、長手方向が、前後方向を向いているので、左右方向に転倒させるものとする。重機は、橋脚1の地上部分の高さが約8.75mなので、橋脚1の上部を把持できるようにブーム長が31mのSK2200を用意した。SK2200は、バケット容量(重機の大きさを示す指標)が10m
3の重機である。橋脚1の側面に切り欠きを形成する重機は、ZX1000K(3.5m
3)で、アタッチメントには超大型のブレーカが装着される。解体のガラを重ダンプ60に積み込む重機は、SK210(0.7m
3)である。掘削用の重機は、SK500(1.9m
3)である。散水機も用意される。橋脚1の線路側には、クレーン61で、重量が2.6トンのハンガーネット62がカーテンのように吊り下げられる。クレーン61は、吊性能が6.5トンである。橋脚1の周囲にはバリケードが張り巡らされる。
【0016】
図2は、切り込み具合いを示す橋脚1の正面図である。橋脚1を前方から見た場合、正面が橋脚1の短手方向となる。橋脚1は、橋脚上部1aと、地中の橋脚下部1bからなる。地上部分の橋脚上部1aは、高さが約8.75mである。切り欠き2は、正面から見て左側に形成され、地盤面から2.9mの高さの位置に中心がある。橋脚1の幅(左右方向)は、長さが2.8mであり、切り欠き2は、斜線で示すように、2.1mの奥行きがある。開口角度θは、切り欠きの内側の角度で、本実施例では約90度に開口させた。開口角度θが90度以上であれば、橋脚上部1aが転倒した時、斜めではなく完全に横倒しできる。右側が切り残し部で、約70cmの幅を残している。橋脚1は鉄筋コンクリート製で、内部には点線で示すように、縦方向に延びる多数の鉄筋65が設けられている。鉄筋65の直径は22mmである。切り欠き2の形成時、鉄筋65は切断しないで残す。切り欠き2を形成した後、Pで示す位置に重機で力を加え、橋脚1を左方向に転倒させる。鉄筋65を残すことで、転倒時の衝撃も緩和できる。
【0017】
図2に示すように、転倒させる橋脚1の上部の重心は、切り残し部3の支点より左側にあるので、半時計回りの回転モーメントMaが働く。重心にかかる重量は約300トン(1トンは1000kg)と算定され、よって回転モーメントMaは、約15トン・mと算出される。許容曲げモーメントMrは、Mr=at×ft×jから算出できる。atは鉄筋の断面積、ftは鉄筋の許容引張応力、jは応力中心間距離である。詳細な算出は省略するが、許容曲げモーメントMrは、約36トン・mと算定される。Maは、Mrより小さいので、切り欠き2を形成しても転倒することがない。
【0018】
図3は、
図2のb−b断面図である。切り欠き2の横幅は2.1mで、切り残し部の横幅は70cmである。橋脚上部1aの縦幅は10mで、前後方向に長い。P×4.477(m)=(36トン−15トン)×9.054×0.35から、Pが約15トンと算出できる。Pは、重機で加える。
【0019】
図4は、
図1のa−a矢視図で、段階(S1)を示す説明図である。段階S1では、橋脚1の一側(後方側)にクレーン61吊り下ろしのハンガーネット62を設置する。ハンガーネット62は、縦横が6m×6mの寸法である。ハンガーネット62は、高さ10mから吊り下げられ、高さ4mの位置までを覆い、解体物の線路70側への飛散防止を行なう。ハンガーネット62は、下側の両側にワイヤで錘が取付けられ、錘は地上面に据え置かれる。
【0020】
図5は、
図1のa−a矢視図で、段階(S2)を示す説明図である。段階S2では、重機ZX1000K(3.5m
3)に超大型のブレーカ63を取付け、橋脚1に切り欠き2を形成する。散水機で散水しながら行なう。橋脚上部1aの転倒に備えて、解体のガラで、衝撃吸収マウンド64を形成する。
【0021】
図6は、
図4のb−b矢視図で、橋脚の切り欠き2を示す図である。切り欠き2は、地盤面から2.9mの位置に中心があり、縦横の寸法は、縦が5.6m、横が10mである。切り欠き2内には、多数の鉄筋65があるが、切断はせず、そのまま残している。ブレーカ63でコンクリートを破砕する際は、鉄筋65を前後方向に曲げ、ブレーカ63を内部に入りやすくしている。橋脚上部1aの高さは、約8.75mである。
【0022】
図7は、
図1のa−a矢視図で、段階(S3)を示す説明図である。段階S3では、ブーム長が31mの重機SK2200(10m
3)のニブラで橋脚1の頂部を掴み、衝撃吸収マウンド64の上に引き倒す。
【0023】
図8は、
図1のa−a矢視図で、段階(S4)を示す説明図である。段階S4では、重機SK500(1.9m
3)で、橋脚1の周囲を掘り下げ、地中の基礎部分を露出させる。掘り下げ深さは約5mとした。
【0024】
図9は、
図8の掘り下げ穴4を示す平面図である。線路70の位置は、
図9の後方(右側)にある。
【0025】
図10は、
図1のa−a矢視図で、段階(S5)を示す説明図である。段階S5では、重機ZX1000K(3.5m
3)に超大型のブレーカ63を取付け、露出した基礎部分を破砕し撤去する。
【0026】
図11は、
図1のa−a矢視図で、段階(S6)を示す説明図である。段階S6では、掘り下げ穴4に埋め戻し土を投入する。高架鉄道の線路70の位置は、
図11の後方(右側)にある。
【0027】
図12は、
図1のa−a矢視図で、段階(S7)を示す説明図である。段階S7では、埋め戻し土を重機で踏み固める。深さ5mより下の橋脚下部1bは、地中に残る。
【0028】
図13は、複数の橋脚を撤去する場合の工程図である。一般には、複数の橋脚の撤去を行なうので、解体グループをA班とB班に分け、2チームで撤去を進めると、工期が半分にできる。
図13では、第1橋脚から第3橋脚をA班が撤去し、第4橋脚から第6橋脚をB班が撤去することを示す。この場合、超大型のブレーカ63を装着した重機ZX1000K(3.5m
3)は、段階S5が終了すると、段階S6と段階S7では使用しない。そこで、次の橋脚の撤去の段階S1を、段階S6と段階S7の終了を待たずに開始する。1つ前の橋脚の段階S6、S7と、次の橋脚の段階S1を並行して行なうことで、工程が3日程度短縮できる。
【0029】
図14は、本発明による橋脚撤去工法を示すフローチャートである。S1は、橋脚1の一側(後方側)にクレーン61吊り下ろしのハンガーネット62を設置する段階である。S2は、重機に超大型のブレーカを取付け、橋脚1に切り欠き2を形成する段階である。S3は、ブーム長が31mの重機で橋脚1の頂部を掴み、衝撃吸収マウンド64の上に引き倒す段階である。S4は、重機で橋脚1の周囲を掘り下げ、地中の基礎部分を露出させる段階である。S5は、重機のブレーカで、露出した基礎部分を破砕し撤去する段階である。S6は、掘り下げ穴4に埋め戻し土を投入する段階である。S7は、埋め戻し土を重機で踏み固める段階である。