(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6684330
(24)【登録日】2020年3月31日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】インテークダクト設計方法、インテークダクト設計プログラム及びインテークダクト設計装置
(51)【国際特許分類】
G06F 30/10 20200101AFI20200413BHJP
G06F 30/20 20200101ALI20200413BHJP
B64D 33/02 20060101ALI20200413BHJP
B64F 5/00 20170101ALI20200413BHJP
【FI】
G06F17/50 680Z
G06F17/50 604H
G06F17/50 604A
G06F17/50 612G
G06F17/50 620A
B64D33/02
B64F5/00
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2018-176884(P2018-176884)
(22)【出願日】2018年9月21日
(65)【公開番号】特開2020-47161(P2020-47161A)
(43)【公開日】2020年3月26日
【審査請求日】2019年3月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】沖田 知之
(72)【発明者】
【氏名】大須賀 健
【審査官】
堀井 啓明
(56)【参考文献】
【文献】
特開2016−071646(JP,A)
【文献】
特開2018−180830(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F30/00−30/398
B64D33/02
B64F5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機のインテークダクトの形状を設計するインテークダクト設計方法であって、
インテークダクト設計装置が、
空気の振動現象を抑制するためのバイパス機構を有するインテークダクトを設計対象として、
ユーザ操作に基づいて前記設計対象に関する設計パラメータの値を設定する設計パラメータ設定工程と、
前記設計パラメータの値を用いて前記設計対象の形状を設定する形状設定工程と、
前記形状設定工程で設定された前記設計対象の形状を用いてCFD解析用の解析モデルを作成し、前記設計対象の空力特性と、空気の振動現象を抑制するために前記バイパス機構から放出させる必要バイパス流量とを計算するCFD解析工程と、
前記CFD解析工程での解析結果が、予め設定された設計条件を満たすか否かを判定する判定工程と、
前記判定工程において前記CFD解析工程での解析結果が前記設計条件を満たしていないと判定された場合に、前記設計パラメータの値を更新する設計パラメータ更新工程と、
を実行し、
前記判定工程において前記CFD解析工程での解析結果が前記設計条件を満たしていると判定されるまで、前記形状設定工程、前記CFD解析工程、前記判定工程及び前記設計パラメータ更新工程を繰り返すことを特徴とするインテークダクト設計方法。
【請求項2】
前記設計パラメータ更新工程では、前記設計条件を満たす解が得られるように前記設計パラメータが最適化されつつ更新されることを特徴とする請求項1に記載のインテークダクト設計方法。
【請求項3】
前記CFD解析工程では、機体速度が超音速域のデザイン点と、当該デザイン点よりも機体速度が低速のオフデザイン点との各々における計算が実行されることを特徴とする請求項1または2に記載のインテークダクト設計方法。
【請求項4】
航空機のインテークダクトの形状を設計するインテークダクト設計プログラムであって、
コンピュータを、
空気の振動現象を抑制するためのバイパス機構を有するインテークダクトを設計対象として、
ユーザ操作に基づいて前記設計対象に関する設計パラメータの値を設定する設計パラメータ設定手段、
前記設計パラメータの値を用いて前記設計対象の形状を設定する形状設定手段、
前記形状設定手段により設定された前記設計対象の形状を用いてCFD解析用の各解析モデルを作成し、前記設計対象の空力特性と、空気の振動現象を抑制するために前記バイパス機構から放出させる必要バイパス流量とを計算するCFD解析手段、
前記CFD解析手段による解析結果が、予め設定された設計条件を満たすか否かを判定する判定手段、
前記判定手段により前記CFD解析手段での解析結果が前記設計条件を満たしていないと判定された場合に、前記設計パラメータの値を更新する設計パラメータ更新手段、
として機能させ、
前記判定手段により前記CFD解析手段での解析結果が前記設計条件を満たしていると判定されるまで、前記形状設定手段、前記CFD解析手段、前記判定手段及び前記設計パラメータ更新手段での処理を繰り返すことを特徴とするインテークダクト設計プログラム。
【請求項5】
航空機のインテークダクトの形状を設計するインテークダクト設計装置であって、
空気の振動現象を抑制するためのバイパス機構を有するインテークダクトを設計対象として、
ユーザ操作に基づいて前記設計対象に関する設計パラメータの値を設定する設計パラメータ設定手段と、
前記設計パラメータの値を用いて前記設計対象の形状を設定する形状設定手段と、
前記形状設定手段により設定された前記設計対象の形状を用いてCFD解析用の各解析モデルを作成し、前記設計対象の空力特性と、空気の振動現象を抑制するために前記バイパス機構から放出させる必要バイパス流量とを計算するCFD解析手段と、
前記CFD解析手段による解析結果が、予め設定された設計条件を満たすか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段により前記CFD解析手段での解析結果が前記設計条件を満たしていないと判定された場合に、前記設計パラメータの値を更新する設計パラメータ更新手段と、
を備え、
前記判定手段により前記CFD解析手段での解析結果が前記設計条件を満たしていると判定されるまで、前記形状設定手段、前記CFD解析手段、前記判定手段及び前記設計パラメータ更新手段での処理を繰り返すことを特徴とするインテークダクト設計装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイパス機構を有するインテークダクトを設計する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機のインテークダクトは、航空機の運用状態の全てにおいて、エンジンから要求される流量の空気を捕獲し、エンジンが正常に作動できる状態でこの空気をエンジンに供給できる必要がある。したがって、インテークダクトの形状には、空気力学的な要件として、通過する気流の総圧損失及び流れの不均一(ディストーション)を生じさせないことが求められる。
【0003】
さらに超音速で飛行する航空機の場合、インテークダクト内部に空気の振動現象(バズ)が生じる可能性がある(例えば、特許文献1参照)。バズは、エンジンの不作動や損傷を招くおそれがあるため、超音速で飛行する航空機のインテークダクトには、バズを抑制できる機構を設ける必要があり、その1つにバイパス機構がある(
図2参照)。バズは空気の流量がある下限を下回ると発生するため、バズを抑制できる流量を取り込みつつ、そのうちエンジンに不要な分の空気をバイパス機構からダクト外へ放出することによって、好適にバズを抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−30497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の設計手法では、バズを抑制できるバイパス流量を知るために風洞試験を行っていた。そのため、コストや時間の問題から設計サイクル回数を十分に確保できず、インテークダクトの最適形状を得ることが難しかった。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、バイパス機構を有するインテークダクトの形状を好適に設計することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、航空機のインテークダクトの形状を設計するインテークダクト設計方法であって、
インテークダクト設計装置が、
空気の振動現象を抑制するためのバイパス機構を有するインテークダクトを設計対象として、
ユーザ操作に基づいて前記設計対象に関する設計パラメータの値を設定する設計パラメータ設定工程と、
前記設計パラメータの値を用いて前記設計対象の形状を設定する形状設定工程と、
前記形状設定工程で設定された前記設計対象の形状を用いてCFD(Computational Fluid Dynamics)解析用の解析モデルを作成し、前記設計対象の空力特性と、空気の振動現象を抑制するために前記バイパス機構から放出させる必要バイパス流量とを計算するCFD解析工程と、
前記CFD解析工程での解析結果が、予め設定された設計条件を満たすか否かを判定する判定工程と、
前記判定工程において前記CFD解析工程での解析結果が前記設計条件を満たしていないと判定された場合に、前記設計パラメータの値を更新する設計パラメータ更新工程と、
を実行し、
前記判定工程において前記CFD解析工程での解析結果が前記設計条件を満たしていると判定されるまで、前記形状設定工程、前記CFD解析工程、前記判定工程及び前記設計パラメータ更新工程を繰り返すことを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のインテークダクト設計方法において、
前記設計パラメータ更新工程では、前記設計条件を満たす解が得られるように前記設計パラメータが最適化されつつ更新されることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載のインテークダクト設計方法において、
前記CFD解析工程では、機体速度が超音速域のデザイン点と、当該デザイン点よりも機体速度が低速のオフデザイン点との各々における計算が実行されることを特徴とする。
【0010】
請求項4及び請求項5に記載の発明は、請求項1に記載のインテークダクト設計方法と同様の特徴を具備するインテークダクト設計プログラム及びインテークダクト設計装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、バイパス機構を有するインテークダクトを設計対象とし、設計対象の空力特性と、空気の振動現象を抑制するためにバイパス機構から放出させる必要バイパス流量とがCFD解析により計算される。そして、その解析結果が所定の設計条件を満足するまで、設計対象に関する設計パラメータが随時更新されながらCFD解析が繰り返される。
これにより、必要バイパス流量(バズ発生条件)が風洞試験によらずにCFD解析で求まるため、設計1サイクルに要するコストと時間を削減するとともに、設計パラメータ設定(更新)から性能評価までを自動化することができる。したがって、設計サイクル回数を確保することができ、インテークダクトの最適形状を得ることができる。
よって、バイパス機構を有するインテークダクトの形状を好適に設計することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態におけるインテークダクト設計装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図2】実施形態におけるインテークダクト設計処理での設計対象を説明するための図である。
【
図3】実施形態におけるインテークダクト設計処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0014】
[インテークダクト設計装置の構成]
まず、本実施形態におけるインテークダクト設計装置1の構成について説明する。
図1は、インテークダクト設計装置1の機能構成を示すブロック図である。
本実施形態におけるインテークダクト設計装置1は、航空機におけるインテークダクトの形状を設定する情報処理装置であり、特に、超音速飛行における空気の振動現象(バズ)を抑制するためのバイパス機構を有するインテークダクト(
図2参照)を設計するためのものである。
具体的には、
図1に示すように、インテークダクト設計装置1は、入力部11、表示部12、記憶部13、CPU(Central Processing Unit)14を備えている。
【0015】
入力部11は、図示しない各種入力キーを備えており、押下されたキーの位置に対応する入力信号をCPU14に出力する。
表示部12は、図示しないディスプレイを備えており、CPU14から入力される表示信号に基づいて各種情報をディスプレイに表示する。
【0016】
記憶部13は、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)等により構成されるメモリであり、各種のプログラム及びデータを記憶するとともに、CPU14の作業領域としても機能する。本実施形態では、記憶部13は、インテークダクト設計プログラム130と、CFD解析プログラム131と、三次元CADプログラム132とを記憶している。
【0017】
インテークダクト設計プログラム130は、後述のインテークダクト設計処理(
図3参照)をCPU14に実行させるためのプログラムである。
CFD解析プログラム131は、設計対象の空力特性等を計算するためのCFD(Computational Fluid Dynamics)解析ソフトである。
三次元CADプログラム132は、CFD解析プログラム131用の解析モデルを作成するためのソフトウェアである。
【0018】
また、記憶部13は、設計パラメータ記憶領域134を有している。
設計パラメータ記憶領域134は、後述のインテークダクト設計処理における設計パラメータを格納するメモリ領域である。
【0019】
CPU14は、入力される指示に応じて所定のプログラムに基づいた処理を実行し、各機能部への指示やデータの転送等を行い、インテークダクト設計装置1を統括的に制御する。具体的には、CPU14は、入力部11から入力される操作信号等に応じて記憶部13から各種プログラムを読み出し、当該プログラムに従って処理を実行する。そして、CPU14は、処理結果を記憶部13に一時保存するとともに、当該処理結果を表示部12に適宜出力させる。
【0020】
[インテークダクト設計装置の動作]
続いて、インテークダクト設計処理を実行する際のインテークダクト設計装置1の動作について説明する。
図2は、インテークダクト設計処理における設計対象であるインテークダクトを模式的に示した図であり、
図3は、インテークダクト設計処理の流れを示すフローチャートである。
【0021】
図2に示すように、インテークダクト設計処理は、航空機のインテークダクト20の形状を、主に空力特性を考慮して設計する処理である。より詳細には、インテークダクト設計処理では、ダクト入口のインテーク21と、そこからエンジン入口までのダクト部22とを含むインテークダクト20全体の形状が設計対象(設計範囲)とされる。ダクト部22には、超音速飛行における空気の振動現象(バズ)を抑制するためのバイパス機構23が設けられている。バズは空気の流量が所定値を下回ると発生するため、バズを抑制できるだけの流量を取り込みつつ、そのうちエンジンに不要な分量をバイパス機構23からダクト外へ放出する(バイパスする)ことによって、好適にバズが抑制される。
このインテークダクト設計処理は、ユーザにより当該インテークダクト設計処理の実行指示が入力されたときに、CPU14が記憶部13からインテークダクト設計プログラム130を読み出して展開することで実行される。
なお、インテークダクト設計処理における各部の形状設定では、三次元CADプログラム132により三次元形状が設定され、その際、各部の接続面等の曲線・曲面形状は、例えばNURBS(Non-Uniform Rational Basis Spline)関数等により作成される。
【0022】
図3に示すように、インテークダクト設計処理が実行されると、まずCPU14は、ユーザ操作に基づいて、設計対象に関する各種の設計要求や、装備品のレイアウト等による制約条件を設定する(ステップS1)。
【0023】
次に、CPU14は、ユーザ操作に基づいて、設計パラメータの初期値を設定する(ステップS2)。
具体的に、このステップでは、ステップS1で設定された設計要求や制約条件を考慮し、インテークダクト20の形状パラメータ等について、初期値が適宜設定される。
そして、CPU14は、ユーザにより入力された設計パラメータの初期値を受け付けて、設計パラメータ記憶領域134に記憶させる。
【0024】
次に、CPU14は、三次元CADプログラム132により、インテークダクト20の3D形状データを作成する(ステップS3)。
ここでは、ステップS2で設定された設計パラメータ等に基づいて、インテーク21、ダクト部22及びバイパス機構23の形状を設計する。
【0025】
次に、CPU14は、ステップS3で作成した3D形状データを用いてCFD解析を実行する(ステップS4)。
具体的に、CPU14は、CFD解析プログラム131により、3D形状データに解析格子を生成してCFD解析モデルを作成した後に、CFD解析を実行する。このCFD解析では、例えば、超音速域のデザイン点(設計点)における解析とともに、亜音速域のオフデザイン点における解析が実行される。
本実施形態では、CFD解析により、バズ発生条件(必要バイパス流量)と、総圧損失やディストーション等の総合的な空力特性とが算出される。
【0026】
次に、CPU14は、ステップS4のCFD解析から得られた解析結果が、所定の設計条件を満たしているか否かを判定する(ステップS5)。
ここで、設計条件は、CFD解析の解析結果に対し、デザイン点及びオフデザイン点の各々について予め設定されている。
【0027】
このステップS5において、CFD解析から得られた解析結果が設計条件を満たしていないと判定した場合には(ステップS5;No)、CPU14は、設計パラメータ記憶領域134に記憶された設計パラメータを最適化しつつ更新し(ステップS6)、上述のステップS3へ処理を移行する。
このとき、CPU14は、CFD解析の解析結果が設計条件を満たす方向に向かうように、設計パラメータを最適化する。例えば勾配法、遺伝的アルゴリズム又は応答曲面法などの最適化手法を用いることにより、設計条件を満たす解が得られるように、設計パラメータを最適化しつつ更新する。
【0028】
これにより、CFD解析の結果が設計条件を満たすまで、設計対象の形状データの作成と、CFD解析と、設計条件を満たすか否かの判定と、設計パラメータの最適化(更新)とが繰り返される。
【0029】
そして、ステップS5において、CFD解析から得られた解析結果が設計条件を満たしていると判定した場合には(ステップS5;Yes)、CPU14は、処理結果を表示部12に出力などした後に、インテークダクト設計処理を終了する。
【0030】
[効果]
以上のように、本実施形態によれば、バイパス機構23を有するインテークダクト20を設計対象とし、この設計対象の空力特性と、空気の振動現象を抑制するためにバイパス機構23から放出させる必要バイパス流量とがCFD解析により計算される。そして、その解析結果が所定の設計条件を満足するまで、設計対象に関する設計パラメータが随時更新されながらCFD解析が繰り返される。
これにより、必要バイパス流量(バズ発生条件)が風洞試験によらずにCFD解析で求まるため、設計1サイクルに要するコストと時間を削減するとともに、設計パラメータ設定(更新)から性能評価までを自動化することができる。したがって、設計サイクル回数を確保することができ、インテークダクト20の最適形状を得ることができる。
よって、バイパス機構23を有するインテークダクト20の形状を好適に設計することができる。
【0031】
また、設計パラメータの更新では、設計条件を満たす解が得られるように設計パラメータが最適化されつつ更新されるので、より好適にインテークダクト20の最適形状を得ることができる。
【0032】
なお、本発明を適用可能な実施形態は、上述した実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0033】
1 インテークダクト設計装置
13 記憶部
14 CPU
20 インテークダクト
21 インテーク
22 ダクト部
23 バイパス機構
130 インテークダクト設計プログラム
131 CFD解析プログラム
134 設計パラメータ記憶領域