(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0010】
本実施形態における加速度測定のシステムは、車両1に携帯端末100を固定し、携帯端末100に内蔵された3軸加速度センサ10を用いて、走行中の振動などによって生じる加速度を測定する。
【0011】
携帯端末100は、3軸加速度センサ10と、ディスプレイ20と、制御部30と、を備える。携帯端末100は、使用者自身で持ち運び可能な小型端末であり、例えば、スマートフォン、タブレット型端末、小型の測定器、ノートパソコン等である。携帯端末100は、例えば、車両1のダッシュボード2に保持具3(
図3参照)を介して固定される。保持具3は、市販されている保持具でよい。
【0012】
ディスプレイ20は、タッチパネル式ディスプレイによって構成される。ディスプレイ20上に表示されたボタン(
図3参照)を操作することにより、各種プログラムを実行できる。
【0013】
携帯端末100は、車両1の走行時の振動を3軸加速度センサ10によって検出し、その検出結果をディスプレイ20に表示する。携帯端末100には、振動を検出及び表示するための専用のプログラム(アプリケーション)がインストールされる。
【0014】
携帯端末100は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、ストレージ及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備える。なお、後述する制御部30における判定部35、決定部36及び補正部31といったユニットは、携帯端末100において実行されるプログラムの機能を仮想的なユニットとしたものである。
【0015】
図2は、携帯端末100のブロック図である。
図2に示すように、携帯端末100の制御部30は、3軸加速度センサ10により検知された加速度のロードノイズ除去処理を行う補正部31と、補正部31によってロードノイズ除去処理された加速度をディスプレイ20及び記憶部33に出力する出力部32と、3軸加速度センサ10のゼロ点合わせを行うゼロ点検知部34と、を備える。
【0016】
補正部31は、3軸加速度センサ10により検知された加速度の単純移動平均を演算する。これにより、車両1の走行時において、路面の凹凸による微小な加速度の変化による影響を排除することができる。
【0017】
出力部32は、補正部31によってロードノイズ除去処理された加速度をディスプレイ20に表示させる。また、出力部32は、ロードノイズ除去処理された加速度を記憶部33に保存する。なお、記憶部33には、測定開始から終了までの時系列データと、トリガが発生したタイミングの前後の所定期間のデータと、を保存するようにしてもよい。この場合、トリガが、あらかじめ定められた条件を満たしたときに自動で発生する、手動で発生する、あるいは、自動及び手動の両方によって発生するように構成される。
【0018】
ゼロ点検知部34は、3軸加速度センサ10により検知された加速度を用いて、3軸加速度センサ10のゼロ点合わせを行う。具体的には、車両1が平坦路で停車しているときにディスプレイ20に表示されたゼロ点設定ボタン22を押すことにより、3軸加速度センサ10により検知された加速度を0にする。3軸加速度センサ10には、下方に重力加速度が作用する。携帯端末100の取り付け方向が常に同じとは限らないため、どの方向に重力加速度が作用するかを予め想定することは難しい。このため、携帯端末100を保持具3に固定した後にゼロ点合わせを行うことにより、どのような方向に重力加速度が作用していても、重力加速度による影響を排除することができる。なお、ゼロ点設定ボタン22は、インストールされた専用のプログラムを起動することにより、後述するキャリブレーション開始ボタン21及び測定開始ボタン23とともにディスプレイ20上に表示される(
図3参照)。
【0019】
携帯端末100を保持具3に固定したとき、3軸加速度センサ10の3軸(X軸、Y軸、Z軸)のいずれかが、車両1の進行方向に一致している可能性は低い。言い換えると、3軸加速度センサ10の3軸が、車両1の進行方向に対してずれている可能性が高い。このため、携帯端末100では、携帯端末100を保持具3に固定した後、携帯端末100に車両1の進行方向を認識させるためのキャリブレーションを行う。このように、携帯端末100に車両1の進行方向を認識させることで、3軸加速度センサ10によって検出された加速度のベクトル(座標)を、車両1の進行方向を基準軸とした座標に変換することが可能になる。以下、キャリブレーションについて具体的に説明する。
【0020】
制御部30は、3軸加速度センサ10により検知された車両1の急ブレーキに起因する加速度を判定する判定部35と、車両1の急ブレーキに起因する加速度に基づき車両1の進行方向を決定する決定部36と、をさらに備える。
【0021】
判定部35は、3軸加速度センサ10により検知された加速度の大きさが所定値以上の場合に、急ブレーキが発生したと判定する。また、決定部36は、判定部35によって車両1の急ブレーキに起因する加速度が発生したと判定された場合に、その加速度が生じた方向を車両1の進行方向と決定する。
【0022】
次に、
図4に示すフローチャートを参照しながら、キャリブレーションの具体的な手順について説明する。
【0023】
まず、準備段階として、携帯端末100を保持具3を介して車両1に固定し、携帯端末100にインストールされた専用のプログラムを起動する。プログラムが起動すると、ディスプレイ20にキャリブレーション開始ボタン21、ゼロ点設定ボタン22、及び測定開始ボタン23などが表示される(
図3参照)。
【0024】
そして、キャリブレーション開始ボタン21を押す(ステップS1)ことによって、キャリブレーションが開始される。具体的には、判定部35は、キャリブレーション開始ボタン21が押されることによってトリガが選択されたと判定し、キャリブレーションを開始する。
【0025】
ステップS2では、急ブレーキが発生したか否かを判定する。具体的には、ドライバが車両1を前進させ、急ブレーキを踏む。このとき、判定部35は、車両1の進行方向と反対方向に発生する加速度の大きさが所定値以上であるか否かを判定する。判定部35によって加速度の大きさが所定値以上である(急ブレーキが発生した)と判定されれば、ステップS3進み、判定部35によって加速度の大きさが所定値未満である(急ブレーキが発生していない)と判定されれば、ステップS2による判定を繰り返す。判定に用いられる所定値は、使用する3軸加速度センサ10の感度に応じて予め実験等で予め求めておくことができる。なお、所定時間内に急ブレーキが発生しなかった場合には、タイムアウトになる。
【0026】
本実施形態では、急ブレーキを発生させるによって車両1の進行方向を決定している。これに対し、アクセルONによる加速度の変化によって決定する方法も考えられる。しかしながら、エンジン出力の小さい車などでは、大きな加速度の変化を作り出すことが難しい。また、加速度の絶対値が小さいと、進行方向における加速度と重力加速度、あるいは重力加速度に基づく誤差等との判別が難しく、進行方向の決定精度が低下する。よって、加速度の絶対値が大きくなる急ブレーキに基づいて判定を行うことにより、進行方向の決定精度を向上させることができる。
【0027】
また、車両旋回時の遠心力から進行方向を決定する方法も考えられる。しかしながら、旋回の度合いや車速などを別のセンサを用いて取得する必要がある。よって、本実施形態のキャリブレーション方法が、3軸加速度センサ10のみで進行方向を決定できる点で好適である。
【0028】
ステップS3では、車両1の進行方向を決定する。具体的には、決定部36は、急ブレーキに起因する加速度(判定部35によって急ブレーキが発生したと判定されたときの加速度)に基づいて、加速度が発生した方向と反対方向を車両1の進行方向と決定する。そして、決定部36は、決定した車両1の進行方向に関する情報を出力部32に送信する。
【0029】
出力部32は、決定した車両1の進行方向に関する情報を記憶するとともに、ディスプレイ20上にキャリブレーションが終了したことを告知する。
【0030】
このようにしてキャリブレーションが終了した後、加速度の測定を開始する。続いて、加速度の測定について、
図5に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0031】
ディスプレイ20に表示された測定開始ボタン23を押すこと(ステップS11)によって、加速度の測定が開始される。
【0032】
3軸加速度センサ10によって検出された加速度は、上述のように、補正部31に入力される。補正部31では、3軸加速度センサ10によって検出された加速度のロードノイズ除去処理を行う(ステップS12)。具体的には、3軸加速度センサ10によって検出された加速度の単純移動平均を演算する。演算された加速度の単純移動平均のデータは、出力部32に入力される。
【0033】
ステップS13では、座標変換を行う。具体的には、出力部32は、補正部31から入力された加速度のベクトルの座標を、3軸加速度センサ10の3軸における座標から、決定部36によって決定された車両1の進行方向を1つの基準軸とした座標に変換する。
【0034】
その後、出力部32は、変換したベクトルの座標データに基づいて、車両1の進行方向における加速度の大きさをディスプレイ20に表示させる(ステップS14)。また、これと同時に、出力部32は、車両1の進行方向における加速度のデータ(時系列データ)を記憶部33に保存する。
【0035】
このように、携帯端末100では、3軸加速度センサ10によって検出された加速度にロードノイズ除去処理を施した後、車両1の進行方向を1つの軸とした3軸に座標変換する。これにより、携帯端末100が車両1の進行方向に対してどのような向きに固定されていても、車両1の進行方向における加速度を表示することができる。
【0036】
図6に示す従来例では、車両1に専用の加速度センサ61を車両1の進行方向に対してまっすぐに取り付け、接着剤を用いて強固に固定していた。また、測定後は、溶剤で接着剤を溶かして加速度センサ61を取り外していた。
【0037】
これに対し、携帯端末100では、保持具3を用いることにより車両1に対して簡単に固定または取り外すことができる。
【0038】
また、
図6に示す従来例では、加速度センサ61にストレージアンプ62及びA/D計測器63と接続し、データ記憶装置64にデータを記憶させるとともに、測定結果をディスプレイ65に表示していた。このため、機材が大掛かりとなり、手軽に測定をすることができなかった。
【0039】
これに対し、携帯端末100は3軸加速度センサ10を内蔵しているので、機材が大掛かりとならず、配線作業も不要にすることができる。また、携帯端末100がディスプレイ20を備えることにより、別途ディスプレイを用意する必要がない。
【0040】
さらに、
図6に示す従来例では、加速度センサ61を車両1の進行方向へ向かうようにまっすぐに取り付ける必要があるため、車両1内で取り付けできる場所が限られるとともに、作業の習熟度が要求される。さらに、測定の際のゼロ点合わせはストレージアンプ62を用いて行うため、作業が煩雑になる。
【0041】
これに対し、携帯端末100では、上述のようなキャリブレーションを行うことにより、携帯端末100が車両1の進行方向に対してどのような向きに取り付けられても、車両1の進行方向における加速度を検出することができる。つまり、携帯端末100を用いることにより、まっすぐに取り付けるといった作業やゼロ点合わせの作業を不要にすることができるので、作業が簡単になる。
【0042】
なお、上記実施形態では、判定部35及び決定部36等に関する処理は、携帯端末100内で実行されていたが、これに限らず、判定部35及び決定部36等に関する処理を外部の装置において実行させるようにしてもよい。また、上記実施形態では、記憶部33を携帯端末100内に設けていたが、記憶部33は、外部の記憶媒体や、SDカードなど携帯端末100に着脱可能な記憶媒体であってもよい。
【0043】
また、本実施形態では、携帯端末100がディスプレイ20を備えているものを例に説明したが、ディスプレイ20は必ずしも備えていなくてもよい。また、別途ディスプレイを設け、測定結果等をこのディスプレイに表示するようにしてもよい。
【0044】
以上のように構成された本発明の実施形態の構成、作用、及び効果をまとめて説明する。
【0045】
携帯端末100は、3軸加速度センサ10と、3軸加速度センサ10により検知された車両1の急ブレーキに起因する加速度を判定する判定部35と、判定部35によって車両1の急ブレーキに起因する加速度が判定された場合に、車両1の急ブレーキに起因する加速度に基づき車両1の進行方向を決定する決定部36と、を有する。
【0046】
この構成によれば、3軸加速度センサ10を車両1の進行方向に対してまっすぐに取り付けていなくても、車両1の進行方向に沿った加速度を検出できる。これにより、加速度センサの取り付け作業を簡素化できる。また、3軸加速度センサ10を備えた携帯端末100を用いることにより、機材が大掛かりとならず、配線作業も不要にすることができる。
【0047】
携帯端末100は、ディスプレイ20を有する。
【0048】
ディスプレイ20を有することにより、測定結果を携帯端末100で参照することができ、別途ディスプレイを用意する必要がなくなる。
【0049】
携帯端末100では、ディスプレイ20はタッチパネル式ディスプレイであり、判定部35は、ディスプレイ20に表示したトリガが選択された(キャリブレーション開始ボタン21が押された)後に、車両1の進行方向の判定を開始する。
【0050】
本システムを利用するドライバは携帯端末100のディスプレイ20が見やすい位置に携帯端末100を配置しようとする。このため、ディスプレイ20がタッチパネル式ディスプレイであることによって、ディスプレイ20上に表示されたボタンも自然とドライバと対向する位置になるので、操作がしやすくなる。
【0051】
携帯端末100は、車両1が平坦路で停車しているときの3軸加速度センサ10により検知された加速度を用いて、3軸加速度センサ10のゼロ点合わせを行うゼロ点検知部34を有する。
【0052】
停車中且つ平坦路(坂道ではないところ)でゼロ点合わせを行うことにより、重力の影響を排除することができる。
【0053】
携帯端末100は、3軸加速度センサ10により検知された加速度の単純移動平均を演算してロードノイズ除去処理を行う補正部31を有する。
【0054】
ロードノイズ除去処理を行うことにより、精度よく加速度を検出できる。
【0055】
また、本実施形態におけるキャリブレーションシステムは、3軸加速度センサ10により検知された車両1の急ブレーキに起因する加速度を判定する判定部35と、判定部35によって車両1の急ブレーキに起因する加速度が発生したと判定された場合に、車両1の急ブレーキに起因する加速度に基づき車両1の進行方向を決定する決定部36と、を有する。
【0056】
この構成では、例えば、判定部35及び決定部36に関する処理を外部の装置において実行させて、携帯端末100の3軸加速度センサ10のキャリブレーションを実行することができる。
【0057】
携帯端末100にインストールされたプログラムは、3軸加速度センサ10により検知された車両1の急ブレーキに起因する加速度を判定する第1処理と、第1処理において車両1の急ブレーキに起因する加速度が発生したと判定された場合に、車両1の急ブレーキに起因する加速度に基づき車両1の進行方向を決定する第2処理と、を携帯端末100の制御部30に実行させる。
【0058】
このプログラムを携帯端末100にインストールして実行することにより、3軸加速度センサ10を車両1の進行方向に対してまっすぐに取り付けていなくても、車両1の進行方向に沿った加速度を検出できる。
【0059】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したものに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0060】
なお、上記実施形態では、車両1を前進させて急ブレーキを発生させていたが、車両1を後進させて急ブレーキを発生させるようにしてもよい。
【0061】
ゼロ点合わせは、キャリブレーションを行う前に実行してもよい。
【0062】
本願は、2017年9月26日に日本国特許庁に出願された特願2017−185190号に基づく優先権を主張し、この出願の全ての内容は参照により本明細書に組み込まれる。