特許第6684399号(P6684399)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6684399
(24)【登録日】2020年4月1日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】コヒーレントサンプリング
(51)【国際特許分類】
   H04B 10/079 20130101AFI20200413BHJP
   G01R 13/34 20060101ALI20200413BHJP
   H04L 27/00 20060101ALI20200413BHJP
   H04B 10/61 20130101ALI20200413BHJP
【FI】
   H04B10/079
   G01R13/34 E
   H04L27/00 A
   H04B10/61
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-109633(P2016-109633)
(22)【出願日】2016年5月31日
(65)【公開番号】特開2017-216604(P2017-216604A)
(43)【公開日】2017年12月7日
【審査請求日】2019年4月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】301022471
【氏名又は名称】国立研究開発法人情報通信研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100116850
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 隆行
(74)【代理人】
【識別番号】100165847
【弁理士】
【氏名又は名称】関 大祐
(72)【発明者】
【氏名】坂本 高秀
【審査官】 鴨川 学
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−28652(JP,A)
【文献】 国際公開第2002/082038(WO,A1)
【文献】 特開2007−24657(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 10/079
G01R 13/34
H04B 10/61
H04L 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象となる被測定信号の帯域周波数の半分以下の繰り返し周期でメインサンプリングポイントを得る工程と,
前記メインサンプリングポイントとは別にサンプリングを行い,
サブサンプリングポイントを得る工程と,
各サンプリングポイントにおける,前記被測定信号と参照信号の振幅差又は比,位相差又は比,及び周波数差又は比を得る工程と,
前記メインサンプリングポイントと前記サブサンプリングポイントの時間差(Δt)を得る工程と,
前記メインサンプリングポイントと前記サブサンプリングポイントの振幅差(ΔA),位相差(Δφ),及び周波数差(Δf)を求める工程であって,前記振幅差(ΔA),位相差(Δφ),及び周波数差(Δf)は,それぞれ,前記メインサンプリングポイントと前記サブサンプリングポイントにおける被測定信号と参照信号の振幅差又は比の差,被測定信号と参照信号の位相差又は比の差,及び被測定信号と参照信号の周波数差又は比の差であるものと,
前記メインサンプリングポイントと前記サブサンプリングポイントの時間差(Δt),振幅差(ΔA),位相差(Δφ)及び周波数差(Δf)を用いて,前記被測定信号の振幅変動,位相変動,及び周波数変動を求める工程と,
を含むサンプリング方法。
【請求項2】
請求項1に記載のサンプリング方法であって,
前記各メインサンプリングポイントに対するサブサンプリングポイントは,2つ存在する,サンプリング方法。
【請求項3】
請求項1に記載のサンプリング方法であって,
前記メインサンプリングポイント及びサブサンプリングポイント間における,前記参照信号の振幅変動,位相変動,及び周波数変動を求める工程と
求めた前記参照信号の振幅変動,位相変動,及び周波数変動を用いて,メインサンプリングポイント及びサブサンプリングポイントにおけるサンプリング補正値を求める工程をさらに,含み,
前記メインサンプリングポイントと前記サブサンプリングポイントの振幅差(ΔA),位相差(Δφ),及び周波数差(Δf)を求める工程は,前記サンプリング補正値と,各サンプリングポイントにおける被測定信号と参照信号の振幅差,位相差,及び周波数差とを用いて,メインサンプリングポイントと前記サブサンプリングポイントの振幅差(ΔA),位相差(Δφ),及び周波数差(Δf)を求める工程である,
サンプリング方法。
【請求項4】
被測定信号(11)が伝搬する伝搬路(13)と接続され,前記伝搬路(13)を伝搬した被測定信号(11)と,参照信号(15)とを混合する混合部(17)と,
前記混合部(17)で混合された被測定信号及び前記参照信号から,前記被測定信号の帯域周波数の半分以下の繰り返し周期でメインサンプリングポイントを得るとともに,前記メインサンプリングポイントとは別にサンプリングを行い,サブサンプリングポイントを得るための時間遅延制御部(19)と
各サンプリングポイントにおける,前記被測定信号と参照信号の振幅差又は比,位相差又は比,及び周波数差又は比を得るサンプリグ部(21)と,
信号処理部(23)と,を有し,
前記信号処理部(23)は,
前記メインサンプリングポイントと,前記サブサンプリングポイントの時間差(Δt)を得て,
前記メインサンプリングポイントと前記サブサンプリングポイントにおける前記被測定信号と参照信号の振幅差又は比の差である振幅差(ΔA),前記メインサンプリングポイントと前記サブサンプリングポイントにおける前記被測定信号と参照信号の位相差又は比の差である位相差(Δφ),及び前記メインサンプリングポイントと前記サブサンプリングポイントにおける前記被測定信号と参照信号の周波数差又は比の差である周波数差(Δf)を求め,
前記メインサンプリングポイントと前記サブサンプリングポイントの時間差(Δt),振幅差(ΔA),位相差(Δφ)及び周波数差(Δf)を用いて,
前記被測定信号の振幅変動,位相変動,及び周波数変動を求める,
サンプリングシステム(25)。
【請求項5】
請求項4に記載のサンプリングシステム(25)であって,
前記メインサンプリングポイント及びサブサンプリングポイント間における,前記参照信号の振幅変動,位相変動,及び周波数変動を求める参照信号変動取得部(27)と,
前記参照信号の振幅変動,位相変動,及び周波数変動を用いて,
サンプリグ部(21)又は信号処理部(23)においてサンプリングされるサンプリング信号を補償する補償部(29)をさらに有する,
サンプリングシステム。
【請求項6】
被測定信号(31)が伝搬する伝搬路(33)と接続され,前記被測定信号の帯域周波数の半分以下の繰り返し周期でメインサンプリングポイントを得るとともに,前記メインサンプリングポイントと所定の時間差でサンプリングを行い,サブサンプリングポイントを得るための時間遅延制御部(35)と,
前記時間遅延制御部(35)から出力された被測定信号と参照信号(37)とを混合するための混合部(39)と,
各サンプリングポイントにおける,前記被測定信号と参照信号の振幅差又は比,位相差又は比,及び周波数差又は比を得るサンプリグ部(41)と,
信号処理部(43)と,を有し,
前記信号処理部(43)は,
前記メインサンプリングポイントと,前記サブサンプリングポイントの時間差(Δt)を得て,
前記メインサンプリングポイントと前記サブサンプリングポイントにおける前記被測定信号と参照信号の振幅差又は比の差である振幅差(ΔA),前記メインサンプリングポイントと前記サブサンプリングポイントにおける前記被測定信号と参照信号の位相差又は比の差である位相差(Δφ),及び前記メインサンプリングポイントと前記サブサンプリングポイントにおける前記被測定信号と参照信号の周波数差又は比の差である周波数差(Δf)を求め,
前記メインサンプリングポイントと前記サブサンプリングポイントの時間差(Δt),振幅差(ΔA),位相差(Δφ)及び周波数差(Δf)を用いて,
前記被測定信号の振幅変動,位相変動,及び周波数変動を求める,
サンプリングシステム(45)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,信号のサンプリング方法やサンプリングのためのシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
信号の多重化が急速に進められている。たとえば,時間領域では数10〜100の光信号チャネルが多重化され,光伝送速度は,100ギガb/s〜数テラb/sに迫っている。さらに複雑な光多重方式も注目を集めている。そのような光多重方式の例は,光位相シフトキーイング(光PSK),及び光直行振幅変調(光QAM)などのコヒーレント光伝送方式や,光直交周波数分割多重(光OFDM),及び光符号分割多重(光OCDM)である。このような光信号を計測するために,リアルタイム(フルレート)サンプリングオシロスコープに基づくコヒーレント光測定器が使用されている。これは,測定対象となる光信号を時間軸上でシンボルレート又はそれ以上の頻度で高速サンプリングを行い,サンプリング点を基に被測定信号の評価を行うものである。
【0003】
特に,コヒーレント光信号のサンプリングを行う場合,被測定信号のキャリア信号に対する光位相同期が必要であり,これらの信号処理は,デジタル信号処理によって行われる。この場合,サンプリング点を取得する頻度(レート)は高速であり,実時間での信号処理は困難である。そのため,信号処理回路が並列化される。また,取得されたサンプリング点におけるデータは,大規模のメモリに一度記憶された後に処理されるため,実際の処理はオフライン処理される。このため,従来の装置では,被測定信号のシンボルレート以上の高速サンプリングシステムまたはアナログデジタル変換器が必要となる。
【0004】
コヒーレント信号に対して低速サンプリングを行うと,位相情報が喪失するので,位相変動を計測し,評価できなくなる。たとえば,光ファイバ通信を想定した場合,光位相変動の例は,光キャリアや局所光として用いられるレーザー信号の位相揺らぎが大きな要因である。さらに,光ファイバ中の波長分散や非線形効果によっても光位相が変動する。そして,これらの変動は,きわめて高速に生じ,各シンボルの波形歪みの原因となる。上記のとおり,低速サンプリングを行う場合は,上記の光位相変動をとらえることができなくなる。
【0005】
一方,非コヒーレント光信号を計測するために,サンプリングオシロスコープが用いられる。この方法は,低速サンプリングにより,光信号を間引いて光信号の時間波形を取得し,評価するものである。この方法は,アイパターン測定や,固定パターンの時間波形測定を行うことができるため,高速光信号の測定方法として標準的に用いられる。しかしながら,この方法は,被測定信号光が強度変調光に限定され,強度変化を測定できるものの,光位相を測定することはできない。
【0006】
特許5598958号公報には,復調器が記載されている。この復調器は,超高速な光多値信号を低速にダウンコンバージョンしてサンプリングし,この低速サンプルに基づいて複素信号を電気的に復調して,その復調した複素信号に基づいて局発光をフィードバックして位相同期動作を行うことで,超高速な光多値信号と位相同期信号とが干渉し,これにより低速な複素復調回路により複素情報を復調できるというものである。
【0007】
特許5522572号公報には,光MSK変調/任意偏移量CPFSKの光サンプリング復調方法が記載されている。この技術は,光位相連続周波数変調(CPFSK)信号のI成分及びQ成分ごとにバランスド検波を行い,サンプリング信号を用いて搬送波の位相を推測して,位相同期検波を行うことで,CPFSK信号を復調できるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許5598958号公報
【特許文献2】特許5522572号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】D.Derickson,Prentive Hall PTR,1998
【非特許文献2】H.Takara et al, Electron. lett., 1152−1153(1994).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は,低速サンプリングを行っても,光位相変動及び高周波信号をとらえ,低コストかつ簡易に被測定信号に対するサンプリング(信号測定)及び解析を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は,基本的には,測定対象となる被測定信号の帯域周波数の半分以下の繰り返し周期という極めて低い周期でサンプリングを行っても,所定のサブサンプリングと組み合わせることにより,被測定信号の振幅変動,位相変動,及び周波数変動を,統計学的に正確に求めることができるという知見に基づくものである。
【0012】
本出願のサンプリング方法に関する発明を説明する。このサンプリング方法は,被測定信号の振幅変動,位相変動,及び周波数変動を求めるものであり,以下の工程を含む。
【0013】
測定対象となる被測定信号の帯域周波数の半分以下の繰り返し周期でメインサンプリングポイントを得る工程(S110)。
メインサンプリングポイントとは別にサンプリングを行い,サブサンプリングポイントを得る工程(S120)。
各サンプリングポイントにおける,被測定信号と参照信号の振幅差又は比,位相差又は比,及び周波数差又は比を得る工程(S130)。
メインサンプリングポイントとサブサンプリングポイントの時間差(Δt)を得る工程(S140)。
メインサンプリングポイントとサブサンプリングポイントの振幅差(ΔA),位相差(Δφ),及び周波数差(Δf)を求める工程(S150)。
メインサンプリングポイントとサブサンプリングポイントの時間差(Δt),振幅差(ΔA),位相差(Δφ)及び周波数差(Δf)を用いて,被測定信号の振幅変動,位相変動,及び周波数変動を求める工程(S160)。
【0014】
各メインサンプリングポイントに対するサブサンプリングポイントは,1つ又は2つ以上であってもよいが,本発明のサンプリング方法の好ましいものは,各メインサンプリングポイントに対するサブサンプリングポイントが1つのものであるが,2つ存在するものも好ましく,2つ以上存在するものでもよい。
【0015】
本発明のサンプリング方法の好ましいものは,以下の工程をさらに含む。
メインサンプリングポイント及びサブサンプリングポイント間における参照信号の振幅変動,位相変動,及び周波数変動を求める工程(S131)。
求めた参照信号の振幅変動,位相変動,及び周波数変動を用いて,メインサンプリングポイント及びサブサンプリングポイントにおけるサンプリング補正値を求める工程(S133)。
そして,メインサンプリングポイントとサブサンプリングポイントの振幅差(ΔA),位相差(Δφ),及び周波数差(Δf)を求める工程(S140)は,サンプリング補正値と,各サンプリングポイントにおける被測定信号と参照信号の振幅差(又は振幅比),位相差(又は位相比),及び周波数差(又は周波数の比)とを用いて,メインサンプリングポイントとサブサンプリングポイントの振幅差(ΔA),位相差(Δφ),及び周波数差(Δf)を求める工程である。
【0016】
次に,本出願のサンプリングシステムに関する発明を説明する。このサンプリングシステムは,混合部17,時間遅延制御部19,サンプリグ部21及び信号処理部23を有する。
混合部17は,被測定信号11が伝搬する伝搬路13と接続され,伝搬路13を伝搬した被測定信号11と,参照信号15とを混合する要素である。
時間遅延制御部19は,混合部で混合された被測定信号及び参照信号から,被測定信号の帯域周波数の半分以下の繰り返し周期でメインサンプリングポイントを得るとともに,メインサンプリングポイントと所定の時間差でサンプリングを行い,サブサンプリングポイントを得るための要素である。
サンプリグ部21は,各サンプリングポイント(各メインサンプリングポイントと各サブサンプリングポイント)にて,被測定信号と参照信号の振幅差又は比,位相差又は比,及び周波数差又は比を得るための要素である。
信号処理部23は,
メインサンプリングポイントと,サブサンプリングポイントの時間差(Δt)を求め,
メインサンプリングポイントとサブサンプリングポイントにおける前記被測定信号と参照信号の振幅差又は比の差である振幅差(ΔA),前記メインサンプリングポイントと前記サブサンプリングポイントにおける前記被測定信号と参照信号の位相差又は比の差である位相差(Δφ),及び前記メインサンプリングポイントと前記サブサンプリングポイントにおける前記被測定信号と参照信号の周波数差又は比の差である周波数差(Δf)を求め,
メインサンプリングポイントとサブサンプリングポイントの時間差(Δt),振幅差(ΔA),位相差(Δφ)及び周波数差(Δf)を用いて,
被測定信号の振幅変動,位相変動,及び周波数変動を求める。
【0017】
このサンプリングシステム25は,メインサンプリングポイント及びサブサンプリングポイント間における,参照信号の振幅変動,位相変動,及び周波数変動を求める参照信号変動取得部27と,
参照信号の振幅変動,位相変動,及び周波数変動を用いて,
サンプリグ部21又は信号処理部23においてサンプリングされるサンプリング信号を補償する補償部29をさらに有するものが好ましい。
【0018】
本発明のサンプリングシステム25の上記とは別の構成は,以下のものである。
すなわち,このサンプリングシステム25は,時間遅延制御部35と,混合部39と,サンプリグ部41と,信号処理部43とを有する。
時間遅延制御部35は,被測定信号31が伝搬する伝搬路33と接続されており,被測定信号の帯域周波数の半分以下の繰り返し周期でメインサンプリングポイントを得るとともに,メインサンプリングポイントと所定の時間差でサンプリングを行い,サブサンプリングポイントを得るための要素である。
混合部39は,時間遅延制御部35から出力された被測定信号と参照信号37とを混合するための要素である。
サンプリグ部41は,各サンプリングポイントにおける,被測定信号と参照信号の振幅差又は比,位相差又は比,及び周波数差又は比を得るための要素である。
信号処理部43は,
メインサンプリングポイントと,サブサンプリングポイントの時間差(Δt)を求め,
メインサンプリングポイントとサブサンプリングポイントにおける前記被測定信号と参照信号の振幅差又は比の差である振幅差(ΔA),前記メインサンプリングポイントと前記サブサンプリングポイントにおける前記被測定信号と参照信号の位相差又は比の差である位相差(Δφ),及び前記メインサンプリングポイントと前記サブサンプリングポイントにおける前記被測定信号と参照信号の周波数差又は比の差である周波数差(Δf)を求め,
メインサンプリングポイントとサブサンプリングポイントの時間差(Δt),振幅差(ΔA),位相差(Δφ)及び周波数差(Δf)を用いて,
被測定信号の振幅変動,位相変動,及び周波数変動を求めるための要素である。
【発明の効果】
【0019】
低速サンプリングを行っても,光位相変動をとらえ,低コストかつ簡易に被測定信号に対するサンプリング(信号測定)及び解析を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は,本発明のサンプリング方法を説明するためのフローである。
図2図2は,本発明のサンプリングシステムを説明するためのブロック図である。
図3図3は,本発明のサンプリングシステムを説明するためのブロック図である。
図4図4は,このサンプリングシステムの好ましい例である参照信号変動取得部を有するものの部分図である。
図5図5は,本発明のサンプリングシステムを説明するためのブロック図である。
図6図6は,時間遅延を与えるための要素のブロック図である。
図7図7は,時間遅延を与えるための要素のブロック図である。
図8図8は,本発明のデュアルサンプリング技術を用いたQPSK信号のモニターシステムを示すブロック図である。
図9図9は,コヒーレントサンプリングを説明するための図である。
図10図10は,コヒーレントサンプリングを説明するための図である。
図11図11は,測定されたコンスタレーションの例を示す。
図12図12は,測定されたコンスタレーションの例を示す。
図13図13は,位相ノイズが上記エミュレータに加えられた際のレーザー位相ノイズに対する観測されたエラーベクトル振幅(EVM)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下,図面を用いて本発明を実施するための形態について説明する。本発明は,以下に説明する形態に限定されるものではなく,以下の形態から当業者が自明な範囲で適宜修正したものも含む。
【0022】
図1は,本発明のサンプリング方法を説明するためのフローである。図中Sは,ステップ(工程)を示すものの,工程は,本発明のサンプリング方法を説明するための概念であって,必ずしもこの順番に行われることを意図したものではない。このサンプリング方法は,被測定信号の振幅変動,位相変動,及び周波数変動を求めるものであり,図1に記載された各工程を含む。
【0023】
メインサンプリング工程(S110)
メインサンプリング工程は,測定対象となる被測定信号の帯域周波数の半分以下の繰り返し周期でサンプリングポイント(サンプリング点)を得る工程である。サンプリングポイント(サンプリング点)を得るとは,測定(サンプリング)を行って,その時点での各種データを得ることを意味する。被測定信号及び参照信号は,光信号でも無線信号でも電気信号でもよい。被測定信号の好ましい例は,コヒーレント信号であり,特に,コヒーレント光信号か高速コヒーレント信号が好ましい。具体的なコヒーレント信号の例は,100ギガビット/秒以上のコヒーレント信号であり,1000ギガビット/秒以上のコヒーレント信号でもよい。信号の例は,光PSK信号,光QAM信号,光ASK信号,光FSK信号,光CPFSK信号,光APSK信号及び光MSK信号である(特許5099506号公報参照)。参照光の例は,連続(CW)光,パルス光,及び光コム信号(特許5665038号公報及び特許5299859号公報参照)である。
【0024】
メインサンプリング工程では,例えば,被測定信号と参照信号とが混合された信号に対し,被測定信号と参照信号の振幅,位相,及び周波数を測定する。この際,メインサンプリングが行われた時間を記憶してもよい。なお,振幅,位相,及び周波数のすべてが測定されてもよいし,これらのうちのいずれかが測定されてもよいし,さらに他の要素が測定されてもよい。
【0025】
被測定信号の帯域周波数は,伝播に利用する信号の周波数のうち一番低い周波数と一番高い周波数の間の周波数の範囲を意味する。帯域周波数は,被測定信号の種類によって決まっている値であってもよい。
【0026】
被測定信号の帯域周波数の例は,106MHzや48MHzである。被測定信号の帯域周波数1Hz以上10THz以下であればよく,1MHz以上1THz以下でもよいし,1MHz以上1GHz以下でもよく,1MHz以上100MHz以下でもよい。また,被測定信号の帯域周波数は,DC周波数(0Hz)以上でもよい。
【0027】
メインサンプリング工程は,測定対象となる被測定信号の帯域周波数の半分以下の繰り返し周期で行われる。この周期は,被測定信号の帯域周波数の1/3以下でも1/10以下でも1/20以下でもよい。低い頻度でサンプリングを行うようにすれば,処理回数が減るため,回路からの発熱を軽減でき,その結果,発熱由来の変動や歪みを軽減できる。
【0028】
サンプリングは,公知のサンプリング装置を用いて行えばよい。
【0029】
サブサンプリング工程(S120)
サブサンプリング工程(S120)は,メインサンプリングポイントとは別のサンプリングに行い,サブサンプリングポイントを得る工程である。
サブサンプリングは,メインサンプリングと同じ周期で行ってもよいし,同じ周期でなくても構わない。また,サブサンプリングポイントは,時間的にメインサンプリングの後であっても前であっても構わない。図では模式的にサブサンプリング工程(S120)がメインサンプリング工程(S110)の後のように示されているが,通常これらの工程は並行して(同時に)行われる。
【0030】
サブサンプリング工程では,例えば,被測定信号と参照信号とが混合された信号に対し,被測定信号と参照信号の振幅,位相,及び周波数を測定する。この際,サブサンプリングが行われた時間を記憶してもよい。なお,振幅,位相,及び周波数のすべてが測定されてもよいし,これらのうちのいずれかが測定されてもよいし,さらに他の要素が測定されてもよい。
【0031】
あるメインサンプリングポイントに対するサブサンプリングポイントの時間差(Δt)が短いものが好ましい。具体的には,メインサンプリングポイントとサブサンプリングポイントにおける参照信号の位相変動が1/10以下となる範囲とするものが好ましい。メインサンプリングポイントとサブサンプリングポイントにおける参照信号の位相変動が1/10以下とは,メインサンプリングポイントとサブサンプリングポイントにおける参照信号の位相のうち大きい方から小さい方を引いて得られた値を大きい方の値で割った値が1/10以下であることを意味する。この位相変動は,1/15以下,1/20以下,1/50以下又は1/100以下となるように調整されてもよい。上記は,位相変動を例に時間差(Δt)を調整したものであり,位相変動の代わりに振幅変動又は周波数変動を用いて時間差を調整してもよい。位相変動は,振幅変動,及び周波数変動に比べて変動量が大きいので,位相変動が所定の値以下であれば,振幅変動,及び周波数変動はその値以下であることが統計学的に推測される。このため,いずれか1つの変動値を用いて時間差(Δt)を制御する場合は,位相変動の値を用いて,時間差(Δt)を制御することが好ましい。もっとも,時間差(Δt)は,参照信号の位相変動,振幅変動,及び周波数変動の2つ以上が1/10以下(1/15以下,1/20以下,1/50以下又は1/100以下)となるように調整されてもよい。
【0032】
時間差(Δt)は,測定される変動量に基づく仮説を立てた場合における,各種統計学的検定(たとえばt検定)において,棄却域に入り,仮説が棄却される量となるように設定することもできる。
【0033】
上記の時間差を定性的に表現すれば,メインサンプリングポイントとサブサンプリングポイントの時間差が,被測定信号のコヒーレンス時間(被測定信号と参照信号のビート成分のコヒーレンス時間)より短いこととなる。被測定信号と参照信号とを連続光とした場合,位相変動量がプラスマイナスπ以下であるときは,メインサンプリングポイントとサブサンプリングポイントにて測定された光位相差は,光位相の変移量(変動量)としてとらえることができる。
【0034】
1つのメインサンプリングポイントに対するサブサンプリングポイントは,1つでもよいし,2つ以上でもよい。1つのメインサンプリングポイントに対するサブサンプリングポイントが2つの場合は,時間軸に対して非対称信号の測定を行うことができるという技術的メリットがある。また,この場合,3点測定による重みづけができるし,3点測定があれば,異常値を不採用点とすることができ,測定精度を向上させることができる。
【0035】
あるメインサンプリングポイントに対するサブサンプリングポイントの時間差(Δt)が短いものであっても,短くなくても,以下の工程を採用することで,サンプリングを適切に行うことができる。
【0036】
サブサンプリングは,公知のサンプリング装置を用いて行えばよい。サブサンプリングは,メインサンプリングと同じサンプリング装置を用いて行われてもよいし,別のサンプリング装置(サブサンプリング装置)を用いて行われてもよい。いずれの場合も,サンプリング結果が,1つの信号処理装置(たとえば,コンピュータ)に送られることが好ましい。
【0037】
被測定信号と参照信号の差又は比を求める工程(S130)
被測定信号と参照信号の差又は比を求める工程(S130)は,各サンプリングポイント(メインサンプリングポイント及びサブサンプリングポイント)における,被測定信号と参照信号の振幅差又は比,位相差又は比,及び周波数差又は比を得る工程である。
具体的には,それぞれのメインサンプリングポイントには,対応する1又は複数のサブサンプリングポイントが存在するので,メインサンプリングポイントとサブサンプリングポイントにおけるサンプリングデータ(被測定信号と参照信号の振幅,位相,及び周波数値)を用いて,被測定信号と参照信号の振幅差,位相差,及び周波数差,又は振幅比,位相比,及び周波数比を得る工程である。振幅差,位相差,及び周波数差は,被測定信号と参照信号の振幅,位相,及び周波数の差である。振幅比,位相比,及び周波数比は,被測定信号と参照信号の振幅,位相,及び周波数の比である。たとえば,被測定信号と参照信号の振幅差は,メインサンプリングポイント又はサブサンプリングポイントにおける被測定信号の振幅と参照信号の振幅との差を求めることで求めることができる。また,被測定信号と参照信号の振幅比は,メインサンプリングポイント又はサブサンプリングポイントにおける被測定信号の振幅を参照信号の振幅で割ることにより求めることができる。
【0038】
本発明のサンプリング方法の好ましいものは,以下の工程をさらに含む。
メインサンプリングポイント及びサブサンプリングポイント間における,参照信号の振幅変動,位相変動,及び周波数変動を求める工程(S131)。
求めた参照信号の振幅変動,位相変動,及び周波数変動を用いて,メインサンプリングポイント及びサブサンプリングポイントにおけるサンプリング補正値を求める工程(S133)。
【0039】
参照信号の変動を求める工程(S131)
参照信号の変動を求める工程は,メインサンプリングポイント及びサブサンプリングポイント間における,参照信号の振幅変動,位相変動,及び周波数変動を求める工程である。この工程は,例えば,メインサンプリングポイント及びサブサンプリングポイント間における,参照信号の位相変動を実測し,実測した値から振幅変動や周波数変動を求めてもよい。これは統計学的に実測値から他の変動を推測してもよいし,あらかじめ位相変動と対応する振幅変動や周波数変動を記憶しておき,実測した位相変動を用いて,振幅変動や周波数変動を求めてもよい。同様にして,振幅変動又は周波数変動を実測して,残りの変動を求めてもよい。
【0040】
サンプリング補正値を求める工程(S133)
サンプリング補正値を求める工程(S133)は,上記の参照信号の変動を求める工程(S131)で求めた参照信号の振幅変動,位相変動,及び周波数変動を用いて,メインサンプリングポイント及びサブサンプリングポイントにおけるサンプリング補正値を求める工程である。
【0041】
時間差(Δt)を得る工程(S140)
時間差(Δt)を得る工程(S140)は,メインサンプリングポイントとサブサンプリングポイントの時間差(Δt)を得る工程である。
この工程は,メインサンプリングポイントとサブサンプリングポイントがあらかじめ設定された時間差でサンプリングされている場合は,その設定された時間差を用いてメインサンプリングポイントとサブサンプリングポイントの時間差(Δt)としてもよい。また,メインサンプリングポイントとサブサンプリングポイントのサンプリング時間を測定し,差を用いることで時間差(Δt)としてもよい。
【0042】
メインサンプリングポイントとサブサンプリングポイントの差を求める工程(S150)
メインサンプリングポイントとサブサンプリングポイントの差を求める工程(S150)は,メインサンプリングポイントとサブサンプリングポイントの振幅差(ΔA),位相差(Δφ),及び周波数差(Δf)を求める工程である。換言すると,この工程は,メインサンプリングポイントとサブサンプリングポイントにおける非測定信号及び参照信号の振幅差又は比の差(ΔA),位相差又は比の差(Δφ),及び周波数差又は比の差(Δf)を求める工程である。
つまり,被測定信号と参照信号の差を求める工程(S130)で,メインサンプリングポイントにおける被測定信号と参照信号の振幅差又は比,位相差又は比,及び周波数差又は比や,サブサンプリングポイントにおける被測定信号と参照信号の振幅差又は比,位相差又は比,及び周波数差又は比が求められているので,メインサンプリングポイントと対応するサブサンプリングポイントの振幅差又は比,位相差又は比,及び周波数差又は比を比較し,これらの差である振幅差(ΔA),位相差(Δφ),及び周波数差(Δf)を求めるものである。
サンプリング補正値と,各サンプリングポイントにおける被測定信号と参照信号の振幅差又は比,位相差又は比,及び周波数差又は比とを用いて,メインサンプリングポイントとサブサンプリングポイントの振幅差(ΔA),位相差(Δφ),及び周波数差(Δf)を求めてもよい。
【0043】
被測定信号の振幅変動,位相変動,及び周波数変動を求める工程(S160)
被測定信号の振幅変動,位相変動,及び周波数変動を求める工程(S160)は,メインサンプリングポイントとサブサンプリングポイントの時間差(Δt),振幅差(ΔA),位相差(Δφ)及び周波数差(Δf)を用いて,被測定信号の振幅変動,位相変動,及び周波数変動を求める工程である。
【0044】
本発明のサンプリング方法の好ましいものは,各メインサンプリングポイントに対するサブサンプリングポイントが,2つ存在するものである。サブサンプリングポイントが2つ存在すれば,メインサンプリングポイントの値からして異常値となるサブサンプリングポイントを測定から外すことができる。また,サブサンプリングポイントが2つ存在すれば,メインサンプリングポイントと合わせて3点の測定値が得られるため,より正確な変動値を求めることができる。
【0045】
次に,求めた被測定信号の振幅変動,位相変動,及び周波数変動のいずれか1つ又は2つ以上の変動量を用いて,被測定信号の信号歪み量(補償値)を求める。振幅変動,位相変動,及び周波数変動に基づいて被測定信号の信号歪み量(補償値)を求める工程は公知である。つまり,変動値は信号の歪みとなるので,その歪み量分だけ補償すれば,歪み成分を取り除いた本来の信号を復元(復調)できることとなる。
すなわち,本発明は,上記のようにして求めた被測定信号の振幅変動,位相変動,及び周波数変動を用いて,被測定信号の信号歪み量(補償値)を求めるために用いられる。そして,求めた被測定信号の信号歪み量(補償値)を用いて,被測定信号の歪みを補償し,又は被測定信号を測定する際に,歪みを補正して,測定用の信号を得てもよい。
【0046】
本発明は,さらに,上記のようにして求めた歪み量(補償値)を用いて,伝送媒体の伝達関数を求める工程を含むものであってもよい。伝送媒体の伝達関数を求めれば,今後異なる被測定信号を復調等する場合に,同じ伝送媒体を用いた場合の歪み量(補償値)を予測できることとなる。
【0047】
次に,本出願のサンプリングシステムに関する発明を説明する。
図2は,本発明のサンプリングシステムを説明するためのブロック図である。
図2に示されるように,このサンプリングシステムは,混合部17,時間遅延制御部19,サンプリグ部21及び信号処理部23を有する。図2では,光信号が混合部で混合されている。しかし,光信号を光電変換し,電気信号として処理するようにしてもよい。
混合部17は,被測定信号11が伝搬する伝搬路13と接続され,伝搬路13を伝搬した被測定信号11と,参照信号15とを混合する要素である。光信号を扱う場合,混合部はカプラや,光複素ミキサであればよい。混合部17は,ホモダインミキサのほかヘテロダインミキサや全光ミキサを用いることができる。 時間遅延制御部19は,混合部で混合された被測定信号及び参照信号から,被測定信号の帯域周波数の半分以下の繰り返し周期でメインサンプリングポイントを得るとともに,メインサンプリングポイントとは別にサンプリングを行い,サブサンプリングポイントを得るための要素である。図2に示される例では,光信号が分岐し,分岐したそれぞれの信号に対して,時間遅延が与えられている。時間遅延は,光路長を変化させることで調整してもよいし,導波路に電圧を印可するといった電気的方法,導波路の温度を変化させるなど,公知の方法を用いて,所定の時間遅延を信号に対して与えることができる。
サンプリグ部21は,各サンプリングポイント(各メインサンプリングポイントと各サブサンプリングポイント)にて,被測定信号と参照信号の振幅差又は比,位相差又は比,及び周波数差又は比を得るための要素である。サンプリング部にはサンプラなどの検出系が存在し,所望の情報を測定できるようにされていればよい。サンプリグ部21の例は,公知のサンプラである。サンプラは被測定信号の周波数帯域以上の帯域(被測定信号の周波数帯域をカバーする帯域)を有するものが好ましい。サンプラの帯域が,被測定信号の周波数帯域より狭い場合,被測定信号のゆがみを許容するか,歪みを補償する機構をさらに有することが好ましい。
信号処理部23は,メインサンプリングポイントと,サブサンプリングポイントの時間差(Δt)を求め,メインサンプリングポイントとサブサンプリングポイントの振幅差(ΔA),位相差(Δφ),及び周波数差(Δf)を求め,メインサンプリングポイントとサブサンプリングポイントの時間差(Δt),振幅差(ΔA),位相差(Δφ)及び周波数差(Δf)を用いて,被測定信号の振幅変動,位相変動,及び周波数変動を求めるための要素である。信号処理部23の例は,コンピュータである。コンピュータは,入出力部の他に,記憶部や,演算部及び制御部を有しており,制御プログラムの指令に基づいて,必要な情報を読み出して,各種演算を行い,適宜記憶部に記憶し,入出力部から演算結果を出力できる。
【0048】
図3は,本発明のサンプリングシステムを説明するためのブロック図である。この例では,複素ミキサに電気信号と参照信号が入力され,複素ミキサにおいて混合される。この後の処理は,図2におけるシステムと同様である。
【0049】
図4は,このサンプリングシステムの好ましい例である参照信号変動取得部を有するものの部分図である。このサンプリングシステム25は,メインサンプリングポイント及びサブサンプリングポイント間における,参照信号の振幅変動,位相変動,及び周波数変動を求める参照信号変動取得部27と,参照信号の振幅変動,位相変動,及び周波数変動を用いて,サンプリグ部21又は信号処理部23においてサンプリングされるサンプリング信号を補償する補償部29をさらに有する。補償部29を有するので,このシステムは,参照信号の変動を補償できることとなる。補償部を有するサンプリングシステムは,たとえば,特許5598958号公報及び特許5522572号公報に記載されたとおり公知である。図4におけるフィードバック信号は,たとえば,図2又は図3の信号処理部23又は補償部27から出力される。図4におけるフィードバック信号は,参照信号の振幅及び振幅変動,参照信号の位相及び位相変動,参照信号の周波数及び周波数変動を用いて,補償値が演算され,フィードバック信号とされてもよい。これらの値は,別に設けられたセンサからの測定値を信号処理部が演算処理し,フィードバック信号とされてもよい。フィードバック信号は,参照信号の値や変動に関する情報が含まれているため,その値を用いて適切な補償を行えばよい。この補償は,サンプラに信号が入力される前に入力信号自体を補償してもよいし,サンプラから出力された信号に対して,適切な補償を与えてもよい。
【0050】
図5は,本発明のサンプリングシステムを説明するためのブロック図である。図5に示されるように,このサンプリングシステム25は,時間遅延制御部35と,混合部39と,サンプリグ部41と,信号処理部43とを有する。時間遅延制御部35は,被測定信号31が伝搬する伝搬路33と接続されており,被測定信号の帯域周波数の半分以下の繰り返し周期でメインサンプリングポイントを得るとともに,メインサンプリングポイントと所定の時間差でサンプリングを行い,サブサンプリングポイントを得るための要素である。
混合部39は,時間遅延制御部35から出力された被測定信号と参照信号37とを混合するための要素である。サンプリグ部41は,各サンプリングポイントにおける,被測定信号と参照信号の振幅差又は比,位相差又は比,及び周波数差又は比を得るための要素である。信号処理部43は,メインサンプリングポイントと,サブサンプリングポイントの時間差(Δt)を求め,メインサンプリングポイントとサブサンプリングポイントの振幅差(ΔA),位相差(Δφ),及び周波数差(Δf)を求め,メインサンプリングポイントとサブサンプリングポイントの時間差(Δt),振幅差(ΔA),位相差(Δφ)及び周波数差(Δf)を用いて,被測定信号の振幅変動,位相変動,及び周波数変動を求めるための要素である。
【0051】
図6は,時間遅延を与えるための要素のブロック図である。この例は,先に説明したものとは異なる方法で信号に遅延を与えるものである。この例は,複素ミキサなどの混合部からの信号を分岐し,分岐されたそれぞれの信号にそれぞれ遅延を与えた後,サンプラへ信号が入力される。サンプラへは,クロック信号が入力され,同期が取られている。
【0052】
図7は,時間遅延を与えるための要素のブロック図である。この例は,先に説明したものとは異なる方法で信号に遅延を与えるものである。この例は,複素ミキサなどの混合部からの信号を分岐し,分岐されたそれぞれの信号がサンプラへ信号が入力される。一方,クロック信号もそれぞれのサンプラに対応するように分岐され,分岐されたそれぞれのクロック信号に遅延信号が混合され,それぞれのサンプラへ入力される。
【0053】
本発明のサンプリングシステムは,求めた被測定信号の振幅変動,位相変動,及び周波数変動のいずれか1つ又は2つ以上の変動量を用いて,被測定信号の信号歪み量(補償値)を求めるための要素を有していてもよい。このような要素は,信号処理部の一部であってもよいし,信号処理部とは別に設けられてもよい。
【0054】
本発明のサンプリングシステムは,求めた被測定信号の信号歪み量(補償値)を用いて,被測定信号の歪みを補償し,又は被測定信号を測定する際に,歪みを補正して,測定用の信号を得るための復調部を有してもよい。
【0055】
本発明のサンプリングシステムは,さらに,上記のようにして求めた歪み量(補償値)を用いて,伝送媒体の伝達関数を求める媒体情報取得部を有してもよい。
【実施例1】
【0056】
図8は,本発明のデュアルサンプリング技術を用いたQPSK信号のモニターシステムを示すブロック図である。
【0057】
ここで,高速リアルタイムオシロスコープとオフライン信号処理を用いて,本発明のデュアルサンプリング技術を評価した。この装置では,送信器がわのI/Q変調器によって生成された10−GbaudQPSK信号が,位相ダイバーシティ系(バランス検波後の90°ハイブリッドカプラ)を用いて,連続光である局所光と混合された。検出信号のI及びQ成分は,50GSa/s実時間オシロスコープで観測し,オフラインのDSP部へ送られた。オフラインのDSP部では,以下の機能がエミュレートされた。(a)位相ノイズの生成(任意),(b)デュアルコヒーレントサンプリング及び(c)キャリアの位相を推測するための低速DSP。最初の部分では,受信信号は,数値制御された局所連続光と混合された。この部分では,レーザーの位相ノイズの影響を単に評価するため,連続光と所定の量の位相ノイズとを混合しホモダインミキシングをエミュレートした。この部分では,数値制御された局所光の波長を調整することで,受信信号と局所光のレーザー周波数オフセットをキャンセルした。
【0058】
90度光ハイブリッドカプラは,入力された信号をQ成分とI成分とに分離する。サンプラは,90度光ハイブリッドが分離したQ成分及びI成分をそれぞれ検出する。光多値信号は,QPSK(4値位相シフトキーイング)の他,16QAMやさまざまな光多値信号を採用できる。具体的な光多値信号の例は,8PSK,32QAM,64QAM,128QAM,及び256QAMである。
【0059】
光位相検出器系では,受信信号のうち光学的オシレータへの射影成分であるI成分及びQ成分が,90度ハイブリットカプラとその後のバランスト検波により観測される。
【0060】
観測されたI成分及びQ成分は,キャリア位相をリカバリーするために,デジタルシグナルプロセッサ(DSP)系へ入力される。この系では,1組の電気的サンプラを用いてB/nHz(n=1,2,・・・)で低速サンプリングを行う。DSP系では,受信信号のキャリア位相は,デジタルコヒーレント検波と類似したデジタルシグナルプロセッシングアルゴリズムにより(S. Tsukamoto, et al, OFC2005, PDP29;C. Zhang et al, OFC’09, OTuG3, 2009;H. Sun et al, Opt. Express 16, pp. 873-879 (2008).),サンプリングされたI成分及びQ成分を用いてリカバーされる。
【0061】
本件では,検出−駆動フィードバック技術がDSPにより実装される。そのようなキャリア位相リカバリーのためのシグナルプロセッシングは,低コストでサンプリング速度が数メガヘルツである低速の電気的DSPを用いてもリアルタイムに実行可能である。DSPは,フィードバック用のエラーシグナルを得るためにループフィルタを有する。
【0062】
次のセクションは,受信された10−GbaudのI/Q信号をダウンコンバートするために,500MSa/sでのデュアルコヒーレントサンプリングが数値的にエミュレートされた。この実施例では,メインとサブサンプリングの時間差τを9ナノ秒とした。500MHzのDSPクロックにて処理することで,ダウンサンプリングしたI/Qシグナルから,コンスタレーションが復元された。メインとサブのDSPは,メインとサブのサンプリング信号から見積もられたキャリアの位相の平均値を取り合うように協働した。実システムでオフライン処理にてエミュレートされたすべての機能を実際の装置で実装する場合は,例えば,光学系と電子的なハードウェアとを用いて実現できる。
【0063】
各サンプラは,光多値信号の周波数をfHzとすると,光多値信号をf/nHz(nは,2以上の整数であり,具体的なnの例は,10以上10以下の整数,及び5×10以上10以下の整数である)でサンプリングする。このサンプラにより,複素成分が,ダウンコンバージョンされて,低速サンプリングされる。すなわち,低速サンプラが,広帯域レート変換器として機能する。
【0064】
デジタルシグナルプロセッサ(DSP)は,サンプラサンプリングした光多値信号からそれぞれの複素成分を電気的に復元する。
【0065】
図9及び図10は,コヒーレントサンプリングを説明するための図である。図9(a)は,従来技術であるデジタルホモダイン(イントラダイン)検出において典型的に用いられるフルレートサンプリング(オーバーサンプリング)を示す。受信信号のキャリア位相は,連続的に取得された複数のサンプリングポイントに基づいて推測され,コンスタレーションを得るための機能に加えて,レーザー位相ノイズによるキャリアの位相ドリフトも分析される。図9(b)は,従来技術である単一コヒーレントサンプリングシステムによる等価サンプリングを示す。コンスタレーションを得るためのサンプリングが,例えば,約10〜100MSa/sと相当程度低速で行われる。しかし,この方法では,サンプリングポイントにおける位相変動を把握することができない。したがって,キャリアの位相変動が分析できない。図10は,本発明のデュアルサンプリングのコンセプトを示すものである。この方法では,メインサンプリングポイントに加えて,メインサンプリングポイントと所定の時間内にある「サブ」サンプリングポイントが存在する。サブサンプリングが,受信信号のコヒーレンスが維持されている時間内に行われるので,サンプリング信号間での相対的な位相差の情報を失うことがない。それゆえ,従来のデジタルホモダイン検出におけるフルレートサンプリングに比べ,相当低速なクロックレートでDSPを動作させても,その相対的な位相差の情報を用いることで,キャリアの位相ドリフトを統計的に求めることができる。
【0066】
図10の例では,メインサンプリングポイントにおける位相と,サブサンプリングポイントにおける位相との中間の値をキャリア位相として推測している。
【0067】
図11及び図12は,σが20ピコ秒ごとの位相標準偏差として定義されるσ=0.012に設定した位相ノイズが加えられた場合の測定されたコンスタレーションの例を示す。図11(a)は,従来のイントラダイン検出を用いて測定されたコンスタレーションを示す。これは,キャリア位相推測のためのサンプリングポイント数n=64としたものである。図11(b)は,500MSa/sでのシングルセットのコヒーレントサンプリングシステムにより測定されたコンスタレーションを示す。この方法では,位相ドリフトを追跡できておらず,その結果明らかに,位相ドリフトが把握されていないことがわかる。N=64の例で,デジタルコヒーレント受信装置の例で,キャリア位相推測アルゴリズムを適用した場合であっても,サンプリングレートがレーザードリフトの速度に比べて遅すぎるため,図11(c)に示されるように,コンスタレーションが回復しない。
【0068】
図12は,本発明のデュアルコヒーレントサンプリングシステムを用いて得られたコンスタレーションである。デュアルコヒーレントサンプリングと従来のデジタルホモダイン受信器とを用いて,レーザードリフトにより損なわれたQPSKコンスタレーションが明確に復元されている。
【0069】
図13は,位相ノイズが上記エミュレータに加えられた際のレーザー位相ノイズに対する観測されたエラーベクトル振幅(EVM)を示す。2種のプロットは,それぞれ,デジタルサンプリング法によるものと,デュアルコヒーレントサンプリング法による測定値を示す。2つのEVMの相違は,低位相ノイズ領域において特に見られた。これは,デュアルサンプリング工程において,ASEノイズの四重極項又は他のガウシアンノイズが実際の値の半分と見積もられている一方,ランダムウォークノイズ過程によるレーザー位相ドリフトが正確に評価されていることによる。この相違は,ASEノイズによる寄与を求めることができるプロセッサにより修正できると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は,光通信や無線・及び電気通信の分野で利用されうる。
【符号の説明】
【0071】
11 被測定信号; 13 伝搬路; 15 参照信号;
17 混合部; 19 時間遅延制御部; 21 サンプリグ部;
23 信号処理部; 25 サンプリングシステム;
27 補償部;
31 被測定信号; 33 伝搬路; 35 時間遅延制御部;
37 参照信号; 39 混合部;
41 サンプリグ部; 43 信号処理部;
45 サンプリングシステム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13