特許第6684410号(P6684410)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6684410電気二重層キャパシタのキャパシタ性能評価方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6684410
(24)【登録日】2020年4月1日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】電気二重層キャパシタのキャパシタ性能評価方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 13/00 20130101AFI20200413BHJP
   H01G 11/84 20130101ALI20200413BHJP
   H01G 11/42 20130101ALI20200413BHJP
【FI】
   H01G13/00 361C
   H01G11/84
   H01G11/42
   H01G13/00 361F
   H01G13/00 361Z
【請求項の数】4
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-133594(P2016-133594)
(22)【出願日】2016年7月5日
(65)【公開番号】特開2018-6625(P2018-6625A)
(43)【公開日】2018年1月11日
【審査請求日】2019年6月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宇都宮 隆
(72)【発明者】
【氏名】尹 聖昊
(72)【発明者】
【氏名】宮脇 仁
(72)【発明者】
【氏名】中林 康治
(72)【発明者】
【氏名】出田 圭子
【審査官】 山口 祐一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−223143(JP,A)
【文献】 特開2003−77767(JP,A)
【文献】 特開2006−24779(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 13/00
H01G 11/42
H01G 11/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性電極材料からなる電極を備えた電気二重層キャパシタのキャパシタ性能を評価する評価方法であって、
前記電気二重層キャパシタの充放電試験を行うステップと、
前記充放電試験の結果から、前記電気二重層キャパシタの静電容量を求めるステップと、
前記静電容量から、前記電極に保持されている電荷量を算出するステップと、
前記充放電試験後の前記多孔性電極材料についての核磁気共鳴(NMR)分析を行うステップと、
前記NMR分析の結果から、前記多孔性電極材料の細孔内に吸着されているイオン量を算出するステップと、
前記電荷量と前記イオン量とに基づいて、前記電気二重層キャパシタの単位イオン当たりの静電容量発現率を算出するステップと、
前記静電容量と、前記静電容量発現率とに基づいて、前記電気二重層キャパシタのキャパシタ性能を評価するステップとを備えた
ことを特徴とする電気二重層キャパシタのキャパシタ性能評価方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記単位イオン当たりの静電容量発現率は、前記イオン量に対する前記電荷量の比率である
ことを特徴とする電気二重層キャパシタのキャパシタ性能評価方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
前記多孔性電極材料は、比表面積が、2500m/g以上であり、ミクロ孔の細孔径が、1.1nm以上1.5nm以下である活性炭である
ことを特徴とする電気二重層キャパシタのキャパシタ性能評価方法。
【請求項4】
請求項3において、
前記活性炭は、平均粒径が1μm以上20μm以下の略球状粒子であり、前記比表面積が2800m/g以上3000m/g未満である
ことを特徴とする電気二重層キャパシタのキャパシタ性能評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気二重層キャパシタのキャパシタ性能評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電気二重層キャパシタは、大電流充放電が可能で、長寿命かつ高温安定性に優れるため、例えばハイブリッド自動車等の蓄電デバイスとして注目されている。電気二重層キャパシタは、活性炭などの多孔質炭素電極内の細孔と電解液の界面に形成される電気二重層に電荷を蓄えるコンデンサである。
【0003】
電気二重層キャパシタに蓄電されるエネルギー(E)は、充電電圧(V)の二乗と電気二重層容量(C)の積に比例する(E=CV/2)。従って、エネルギー密度の向上には充電電圧(V)の向上及び電気二重層容量(C)の増加が有効と考えられる。しかしながら、3V以上の電圧で充電すると電極や電解液の電気分解が始まることで容量が低下し、電気二重層キャパシタの劣化が促進されるため、高電圧化は困難であった。
【0004】
そこで、連通した均一なマクロ孔が形成された板状の多孔質フェノール樹脂を有機溶媒に浸漬、次いで加圧して得られたブロックを炭化・賦活することにより、3V以上の高電圧充電に対する耐久性に優れた電気二重層キャパシタの電極用活性炭が提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−201170号公報
【特許文献2】特開2015−61053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、このような3V以上の高電圧下においても有用な電気二重層キャパシタであるかどうかを簡易且つ効果的に評価する方法の開発が望まれている。
【0007】
そこで、本発明は、電気二重層キャパシタのキャパシタ性能の効果的な評価方法を提供すること、特に、3.0V以上の高電圧充放電に対しても優れたキャパシタ性能をもたらし得る電気二重層キャパシタ(以下、「高電位キャパシタ」という。)のキャパシタ性能の効果的な評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明では、多孔性電極材料を備えた電気二重層キャパシタの静電容量と、その電極に充電時保持されたイオン量を定量し、そのイオン量により発現され得る静電容量を表現することで、電気二重層キャパシタのキャパシタ性能を評価するようにした。
【0009】
すなわち、ここに開示する電気二重層キャパシタのキャパシタ性能評価方法は、多孔性電極材料からなる電極を備えた電気二重層キャパシタのキャパシタ性能を評価する評価方法であって、前記電気二重層キャパシタの充放電試験を行うステップと、前記充放電試験の結果から、前記電気二重層キャパシタの静電容量を求めるステップと、前記静電容量から、前記電極に保持されている電荷量を算出するステップと、前記充放電試験後の前記多孔性電極材料についての核磁気共鳴(NMR)分析を行うステップと、前記NMR分析の結果から、前記多孔性電極材料の細孔内に吸着されているイオン量を算出するステップと、前記電荷量と前記イオン量とに基づいて、前記電気二重層キャパシタの単位イオン当たりの静電容量発現率を算出するステップと、前記静電容量と、前記静電容量発現率とに基づいて、前記電気二重層キャパシタのキャパシタ性能を評価するステップとを備えたことを特徴とする。
【0010】
一般に、多孔性電極材料を電極とする電気二重層キャパシタでは、充放電の結果電極に保持された電解質イオンのイオン量を効率的に定量することは困難である。本発明によれば、電解質イオンのイオン量の定量にNMR分析を用いるため、充放電の結果、電極に保持された、即ち多孔性電極材料の細孔に吸着保持された電解質のイオン量を効率的に定量することができる。そして、電気二重層キャパシタの静電容量と、NMR分析により求めたイオン量とから、電気二重層キャパシタの単位イオン当たりの静電容量発現率、即ち充電されたイオンの放電可能な静電容量としての効率(α値)を算出することができ、この静電容量発現率に基づいて、電気二重層キャパシタのキャパシタ性能を簡易且つ効果的に評価することができる。なお、この手法における最も重要な技術的ポイントは、多孔性電極材料における充放電の際に吸着保持される電解質イオンの量を、NMR分析を用いて効率的に定量することである。
【0011】
なお、前記単位イオン当たりの静電容量発現率は、電気二重層キャパシタのキャパシタ性能を簡易且つ効果的に評価する観点から、前記イオン量に対する前記電荷量の比率(%)とすることができる。
【0012】
上記多孔性電極材料は、比表面積が、500m/g以上であり、ミクロ孔の細孔径が、0.7nm以上50.0nm以下である活性炭やメソ孔炭素であることが望ましい。より好ましい態様において、上記多孔性電極材料は、比表面積が、2500m/g以上であり、ミクロ孔の細孔径が、1.1nm以上1.5nm以下である活性炭である。
【0013】
このような活性炭は、比表面積が2500m/gより大きいことにより、電気二重層キャパシタの電極材料として使用したときに、電解液中のイオンの吸着量が増大し、電気二重層キャパシタの容量増加に寄与することができる。
【0014】
活性炭の細孔は、一般に、直径50nm以上のマクロ孔、直径2nm以上50nm未満のメソ孔、直径2nm未満のミクロ孔に分類される。電気二重層キャパシタでは、活性炭のミクロ孔に吸着保持されるイオン量が容量に大きく寄与する。
【0015】
高電圧下では、一般に電解液の分解がキャパシタの容量低下・劣化の一因であるところ、上記ミクロ孔の細孔径は、電解液のイオン及び溶媒分子の直径の合計値近傍から少し大きいサイズであるから、このような細孔を有することにより、電解液中のイオンのうち活性炭の細孔に吸着保持されるイオンの量を最大限増加させることができる。また、上記細孔径のサイズよりも小さな細孔径を有する細孔やそのエッジ部分は、電解液の分解反応の活性点となり得るところ、そのような小さな細孔の量を低減させることにより、分解反応の抑制に寄与することができる。さらに、電解液の分解反応により生じる分解生成物は、細孔に溜まって細孔を塞ぎ、イオンの吸着を阻害するところ、細孔のサイズを上記細孔径のサイズとすることにより、イオン及び溶媒の移動経路を確保することができ、容量の低下を抑制することができる。
【0016】
また、好ましい態様では、上記活性炭は、平均粒径が、1μm以上20μm以下の略球状粒子であり、前記比表面積が、2800m/g以上3000m/g未満である。これにより、効果的に細孔径を制御することができる。なお、本明細書において「平均粒径」とは、レーザー散乱回析式粒度分布測定を用いて測定したメディアン径(D50)をいう。また、本明細書において「略球状」とは、真球状及び球状に近い形状を含んでおり、粒子の長径と短径の比(アスペクト比)が1.3以下のものをいう。
【発明の効果】
【0017】
以上述べたように、本発明によると、電解質イオンのイオン量の定量にNMR分析を用いるため、充放電の結果、電極に保持された、即ち多孔性電極材料の細孔に吸着保持された電解質のイオン量を効率的に定量することができる。そして、電気二重層キャパシタの静電容量と、NMR分析により求めたイオン量とから、電気二重層キャパシタの単位イオン当たりの静電容量発現率を算出することができ、この静電容量発現率と静電容量とに基づいて、電気二重層キャパシタのキャパシタ性能を簡易且つ効果的に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る活性炭の製造方法を説明するための図である。
図2図2は、図1の製造方法における炭化工程に使用する装置を示す模式図である。
図3図3は、図1の製造方法における賦活工程に使用する装置を示す模式図である。
図4図4は、図1の実施形態における電気二重層キャパシタの製造方法を説明するためのフローチャートである。
図5図5は、実施例及び比較例の活性炭を備えたキャパシタ(電解液M)について、活性炭の細孔径に対する静電容量を示すグラフ図である。
図6図6は、実施例及び比較例の活性炭を備えたキャパシタ(電解液T)について、活性炭の細孔径に対する静電容量を示すグラフ図である。
図7図7は、実施例及び比較例の活性炭を備えたキャパシタ(電解液M)について、活性炭の細孔径に対する容量維持率を示すグラフ図である。
図8図8は、実施例及び比較例の活性炭を備えたキャパシタ(電解液T)について、活性炭の細孔径に対する容量維持率を示すグラフ図である。
図9図9は、本実施形態に係る電気二重層キャパシタのキャパシタ性能評価方法を説明するためのフローチャートである。
図10図10は、実施例及び比較例の活性炭を備えたキャパシタについて、活性炭の細孔径に対するα値を示すグラフ図である。
図11図11は、実施例及び比較例の活性炭を備えたキャパシタについて、活性炭の細孔径に対するα’値を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0020】
−活性炭の製造方法−
図1に、本発明の一実施形態に係る評価方法により評価する電気二重層キャパシタの電極用活性炭(多孔性電極材料)の製造方法を示す。
【0021】
<原料>
原料4は、活性炭の原料として一般的に用いられる、例えばピッチ等の炭素材料や、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂などの樹脂材料等を用いることができる。
【0022】
原料4の形状は、略球状、特に真球状の粒子であることが好ましい。これにより、粒子同士の接触面積が小さくなり且つ電極内に均一に分散可能であるから、より多くの細孔に電解液のイオンを吸着保持することができる。このとき、粒子の平均粒径は、活性炭の比表面積の増加、分散性向上の観点から、好ましくは1μm以上50μm以下、より好ましくは5μm以上30μm以下、特に好ましくは10μm以上20μm以下である。
【0023】
<炭化工程>
上記原料4を、例えば、図2に示す装置1内のステンレス管2中に配置されたNi管3に入れ、電気炉5により、不活性ガス雰囲気下、加熱する(図1、S1)。
【0024】
不活性ガスは、具体的には例えば、窒素、二酸化炭素、ヘリウム、アルゴン、又はこれらのガスを主成分として他のガスとの混合したガスである。
【0025】
室温から炭化温度までの昇温速度は、炭化速度を制御しつつ、作業効率の観点から、好ましくは1℃/分以上20℃/分以下、より好ましくは3℃/分以上15℃/分以下、特に好ましくは5℃/分以上10℃/分以下である。
【0026】
炭化温度は、賦活工程において活性炭のミクロ孔の形成を促進させつつ、過度に大きな孔とならないようこれらの径を制御する観点から、好ましくは500℃以上1000℃以下、より好ましくは600℃以上900℃以下、特に好ましくは600℃以上800℃以下である。なお、500℃未満の炭化温度では、形成される細孔の分布の不均一性が増す傾向がある。また、1000℃を超える炭化温度では、炭化が進み、細孔の形成が難しくなる傾向がある。
【0027】
炭化時間は、賦活工程において活性炭のミクロ孔の形成を促進させつつ、過度に大きな孔とならないようこれらの径を制御する観点から、好ましくは0.5時間以上2時間以下、より好ましくは0.7時間以上1.5時間以下、特に好ましくは0.8時間以上1.2時間以下である。なお、0.5時間未満の炭化時間では、所定温度での熱処理効果が得られにくく、また2時間を超える炭化時間では、製造時間が長くなりすぎるため不利である。
【0028】
<賦活工程>
上記炭化工程S1において得られた炭化物に対して、アルカリ剤を添加・混合し、得られた混合物4’を、図3に示すように、カーボンフェルト6を設置した装置1’により、不活性ガス雰囲気下において、加熱する(図1、S2)。
【0029】
アルカリ剤は、アルカリ金属化合物を用いることができ、具体的には例えば、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム等の水酸化物、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム等の炭酸塩などを用いることができる。特に、活性炭の細孔径を制御する観点から、水酸化カリウム(KOH)を用いることが好ましい。
【0030】
室温から賦活温度までの昇温速度は、活性炭の細孔径の制御及び作業効率の観点から、好ましくは1℃/分以上20℃/分以下、より好ましくは3℃/分以上15℃/分以下、特に好ましくは5℃/分以上10℃/分以下である。
【0031】
賦活温度は、活性炭の細孔径1.0nm未満のミクロ孔の形成を抑制しつつ、細孔径1.1nm〜1.5nmのミクロ孔の形成を促進させる観点から、好ましくは500℃以上1000℃以下、より好ましくは550℃以上950℃以下、特に好ましくは600℃以上900℃以下である。なお、賦活温度が500℃未満の場合、賦活反応の進行が遅く賦活時間が長くなるため不利である。また、賦活温度が1000℃を超えると賦活反応が速くなりすぎるため、比較的均一な細孔の形成が困難となる。
【0032】
賦活時間は、活性炭の細孔径1.0nm未満のミクロ孔の形成を抑制させつつ、細孔径1.1nm〜1.5nmのミクロ孔の形成を促進させる観点から、好ましくは0.5時間以上2時間以下、より好ましくは0.7時間以上1.5時間以下、特に好ましくは0.8時間以上1.2時間以下である。なお、賦活温度が0.5時間未満では、十分に賦活反応が進行しない傾向がある。また、賦活温度が2時間を超えると、二次的な賦活反応により比較的均一な細孔の形成が困難となる傾向がある。
【0033】
<洗浄・濾過・乾燥工程>
賦活工程後の賦活物を、活性炭の製造方法として一般的な方法で、洗浄・濾過・乾燥させる(図1、S3)。具体的には例えば、水で洗浄後、例えば塩酸や硝酸などの酸で洗浄、濾過し、得られた固形物を乾燥する。これにより賦活工程で使用した余剰のアルカリ剤を取り除くことができる。
【0034】
<官能基除去処理工程>
上記乾燥物に対し、活性炭の製造方法として一般的な方法で、官能基除去処理を施す(図1、S4)。具体的には例えば、水素ガスなどの非酸化性雰囲気下、加熱処理する。これにより、上記洗浄・濾過・乾燥工程で得られた乾燥物表面に存在し、電解液の分解反応の活性点となり得る、例えば(水酸基などの)官能基を効果的に除去することができる。
【0035】
−活性炭の物性−
<比表面積>
上記活性炭は、細孔径1.0nm未満の細孔の形成を抑制しているにも拘わらず、高い比表面積を有しており、αs比表面積は、好ましくは2500m/g以上、より好ましくは2700m/g以上、特に好ましくは2800m/g以上3000m/g未満である。これにより、電気二重層キャパシタの電極材料として使用したときに、電解液中のイオンの吸着量が増大し、電気二重層キャパシタの容量増加に寄与することができる。また、3.0V以上、特に好ましくは3.0Vを超える高電圧下においても高い静電容量を発現することができる。
【0036】
<細孔容量>
また、上記活性炭は、高い細孔容量を有しており、後述するαs法により得られるミクロ孔の細孔容量は、好ましくは1.4cm/g以上2.5cm/g以下、より好ましくは1.5cm/g以上2.0cm/g以下、特に好ましくは1.6cm/g以上1.9cm/g以下である。これにより、電気二重層キャパシタの電極材料と使用したときに、電解液中のイオンの吸着量が増大し、電気二重層キャパシタの容量増加に寄与することができる。また、3.0V以上、特に好ましくは3.0Vを超える高電圧下においても高い静電容量を発現することができる。
【0037】
<細孔径>
以下、上記活性炭の細孔径について検討する。
【0038】
ここに、電気二重層キャパシタに用いられる電解液としては、メチルエチルピロリジニウムテトラフルオロホウ酸(MEPY/BF)やテトラエチルアンモニウムテトラフルオロホウ酸(TEA/BF)などの電解質が、プロピレンカーボネート(PC)などの溶媒に溶解したもの等が用いられる。これらのイオン及び溶媒分子の大きさは、分子軌道計算によれば、MEPY:0.50nm、TEA:0.55nm、BF:0.23nm、PC:0.55nmであることが知られている。
【0039】
例えば、MEPYが活性炭の細孔に取り込まれるには、MEPYは溶媒とともに細孔内に取り込まれるため、少なくともMEPYとPCとを合計した大きさである1.05nm以上の細孔であることが必要である。同様にTEAとPCでは1.10nm、BFとPCでは0.78nm以上の細孔であることが必要である。このことから、例えば1.0nm未満の大きさの細孔は少なくともMEPY又はTEAイオンを取り込むことができないため、電気二重層キャパシタの電極用活性炭では不要と考えられる。さらに、このような小さすぎる細孔は、電極の容量として寄与しないばかりか、電解液の分解反応の活性点となり得るため、高電圧下での分解反応を抑制する観点からも、できる限りこのような細孔の数が低減されることが望ましい。
【0040】
また、高電圧下での分解反応により生じた分解生成物が細孔近傍に堆積し、細孔径が縮小されることによりイオンを取り込めなくなることも、キャパシタ性能の劣化の一因である。従って、分解生成物が堆積しても、イオン及び溶媒が出入り可能な細孔径として約1.1nm以上の細孔径を有することが効果的である。
【0041】
さらに、細孔径が大きすぎる場合には、細孔に取り込まれたイオンが細孔に保持されることなく細孔外へ放出される可能性が高まるおそれがある。
【0042】
以上のことから、上記活性炭の細孔径は、好ましくは1.0nmより大きく2.0nm未満、より好ましくは1.1nm以上1.5nm以下、特に好ましくは、1.1nm以上1.4nm以下である。
【0043】
これにより、電解液中のイオンのうち活性炭の細孔に吸着保持されるイオンの量を最大限増加させることができる。また、上記細孔径のサイズよりも小さな細孔径を有する細孔の量を低減させることにより、3.0V以上、特に好ましくは3.0Vを超える高電圧下においても、分解反応の抑制に寄与することができ、キャパシタの劣化を抑制することができる。さらに、細孔のサイズを上記細孔径のサイズとすることにより、3.0V以上、特に好ましくは3.0Vを超える高電圧下においてもイオン及び溶媒の移動経路を確保することができ、容量の低下を抑制することができる。
【0044】
<まとめ>
以上述べたように、上記高電位キャパシタの電極用活性炭の製造方法によれば、活性炭の比表面積を低下させることなく、活性炭の細孔のうち、静電容量の発現に寄与しない小さすぎる細孔や大きすぎる細孔の生成を抑えつつ、細孔径を効果的に制御することができる。そうして、3.0V以上、特に好ましくは3.0Vを超える高電圧下においても、高い静電容量を発現する高電位キャパシタをもたらし得る。
【0045】
−キャパシタの製造方法−
電気二重層キャパシタの構造に制限はなく、金属製ケースに収容したコイン型、アルミラミネートフィルムに収容したラミネート型、集電体両面に電極層を形成した一対の帯状電極体の間にセパレータを介して捲回し有底円筒型容器に収容させた円筒型、集電体両面に活性炭シートを貼り付けた活性炭シート電極をセパレータを介して複数交互に積層し有底角型容器に収容させた積層型など公知の構造とすることができる。本実施形態においては、コイン型のセルの作製手順を説明する。
【0046】
<混練工程>
上述のごとく調製した活性炭と、導電補助剤と、バインダ材とを混練機により混練する(図4、S11)。
【0047】
導電補助剤は、活物質としての活性炭の導電性を良好にするものであれば特に限定されず、公知の導電補助剤を使用できる。例えば、黒鉛、カーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック(KB)、その他のファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルランプブラックなど)等の炭素材料が挙げられる。混練物中における導電補助剤の混合割合は、電極の導電性向上の観点から、好ましくは5〜15質量%、より好ましくは6〜14質量%、特に好ましくは7〜13質量%である。
【0048】
バインダ材は、活性炭や導電補助剤同士、またこれらの電極材料と後述する集電体とを結合させるものである。バインダ材は、上述の結合が可能なものであればよく、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、芳香族ポリアミド、カルボキシメチルセルロース(CMC)などのセルロース誘導体、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、ポリアセチレン等が挙げられる。混練物中におけるバインダ材の混合割合は、活性炭、導電補助剤及び集電体間の接着性向上の観点から、好ましくは5〜40質量%、より好ましくは7〜35質量%、特に好ましくは10〜32質量%である。
【0049】
混練機は、例えば、加圧式ニーダー、押し出し機、プラネタリーミキサーなど公知の混練機やミキサーを用いることができる。
【0050】
<圧延及び乾燥工程>
上記混練工程で得られた混練物をカレンダロールなどの公知の圧延機で圧延することによって、シート状に成形する(図4、S12)。
【0051】
圧延により成形された活性炭シートは水を含むので、乾燥により水分を除去する(図4、S13)。活性炭シートからの水の除去は、圧延して成形した後で乾燥してもよいし、圧延と同時に乾燥して水の一部又は全部を除去してもよい。具体的には例えば、真空中好ましくは100℃〜150℃の温度に6時間〜24時間加熱し、乾燥させる。これにより、充放電に伴う残留水分のガス化に起因するキャパシタの破損を防止することができる。
【0052】
<打ち抜き工程>
そして、得られたシート状の圧延物を、例えば円形の打抜き型を用いてディスク状に打抜く(図4、S14)。
【0053】
得られたディスク体の質量及び厚さを測定した後、そのディスク体を、例えば黒鉛系の導電性接着剤などを用いて集電体に貼り付け、電極を得る。
【0054】
なお、集電体としては、導電性に優れ且つ電気化学的に耐久性のある材料であればよく、例えばアルミニウム、チタン、タンタルなどの金属やステンレス鋼などが通常用いられる。
【0055】
<コインセル組立工程>
上述のごとく得られた電極を、不活性ガス雰囲気下、電解液を用いて、コインセルを組み立てる(図4、S15)。
【0056】
電解液は、電気二重層キャパシタの内部に含有させるものであり、電解質と溶媒とを含む。
電解液に含有される電解質としては、カチオンとアニオンとを含む塩であって、例えば、カチオンは、テトラエチルアンモニウム(TEA)、トリエチルメチルアンモニウム、メチルエチルピロリジニウム(MEPY)、スピロ−(1、1’)−ビピロリジニウム、ジエチルメチル−2−メトキシエチルアンモニウム(DEME)、1、3−ジアルキルイミダゾリウム、1,2,3−トリアルキルイミダゾリウム、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム(EMI)、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウム(DMPI)等であり、アニオンは、BF4−、PF6−、ClO4−、AlCl4−又はCFSO3−であるものを採用することができる。
【0057】
電解液の溶媒としては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、アセトニトリル(AN)、プロピオニトリル、γ−ブチロラクトン(BL)、ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン(THF)、ジメトキシエタン(DME)、ジメトキシメタン(DMM)、スルホラン(SL)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、エチレングリコール、プロピレングリコール、メチルセルソルブなどの有機溶媒などが挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を任意の割合で混合して使用してもよい。
【0058】
電解液の電解質の濃度は、電気二重層キャパシタの十分な容量発現の観点から、好ましくは0.3〜2.0mol/L、より好ましくは0.5〜1.7mol/L、好ましくは0.7〜1.5mol/Lである。
【0059】
−コインセルのキャパシタ性能評価方法−
図9に示すように、本実施形態に係る電気二重層キャパシタのキャパシタ性能評価方法は、コインセルの充放電試験を行うステップS21と、充放電試験の結果からコインセルの静電容量を求めるステップS22と、当該静電容量からコインセルの電極に保持されている電荷量を算出するステップS23と、充放電試験後の電極用活性炭についての核磁気共鳴(NMR)分析を行うステップS24と、NMR分析の結果から、電極用活性炭の細孔内に吸着されているイオン量を算出するステップS25と、前記電荷量と前記イオン量とに基づいて、コインセルの単位イオン当たりの静電容量発現率(α値)を算出するステップS26と、前記静電容量と、前記静電容量発現率とに基づいて、前記電気二重層キャパシタのキャパシタ性能を評価するステップSAとを備えている。なお、充放電試験により、静電容量の容量維持率を算出することができ、当該容量維持率についてもキャパシタ性能の評価に用いることができる。
【0060】
<充放電試験>
コインセルの充放電試験については、実施例の項目において詳述する手順により行うことができる。
【0061】
<静電容量>
上記コインセルは、高電圧下においても高い静電容量を示し、充放電試験により得られるミクロ孔の単位体積当たりの静電容量が、好ましくは3F/cm以上20F/cm以下、より好ましくは5F/cm以上15F/cm以下、特に好ましくは9F/cm以上14.5F/cm以下である。これにより、3.0V以上、特に好ましくは3.0Vを超える高電圧下においても、高いキャパシタ性能をもたらすことができる。
【0062】
<容量維持率>
上記コインセルは、高電圧下においても高い容量維持率を示し、後述する耐久試験により得られる容量維持率が、好ましくは55%以上95%以下、より好ましくは65%以上90%以下、特に好ましくは75%以上85%以下である。これにより、3.0V以上、特に好ましくは3.0Vを超える高電圧下においても、高いキャパシタ性能をもたらすことができる。
【0063】
上記電気二重層キャパシタは、高電圧下においても高い静電容量及び容量維持率を示し、ハイブリッド自動車などの蓄電デバイスとして有用である。
【0064】
<NMR分析>
上記充放電試験後の電気二重層キャパシタについて、核磁気共鳴(NMR)分析により、電極の細孔内に吸着・保持されている電解液のイオン量を求めることができる。
【0065】
すなわち、静電容量測定後の電気二重層キャパシタの電極の一部を、測定したいイオンの絶対量を計測可能なNMR分析に供する。
【0066】
具体的には、例えば、TEA等のアンモニウム系、MEPY等のピロリジニウム系のイオン量を算出する場合は、固体13C−NMR分析、固体15N-NMR分析を用いることができる。また、BFのイオン量を算出する場合は固体11B−NMR分析、固体19F−NMR分析を用いることができる。さらに、PF6−のイオン量を算出する場合は、固体31P−NMR分析、固体19F−NMR分析を用いることができる。また、必要に応じて溶液NMR分析や、イオン種に応じてあらゆる核種のNMR分析を用いることができる。
【0067】
<α値について>
図9に示すように、まず、上記充放電試験により求めた静電容量の値から、電気二重層キャパシタの電極に貯まった電荷のミクロ孔単位体積当たりの電荷量Xを算出することができる。
【0068】
また、上記充放電試験後の電極のNMR分析の結果から、電極の細孔内に吸着されているイオンの量Yを算出する。
【0069】
そして、当該イオンの価数をnとすると、下記式(1)により、上記Xとn・Yとの比率α(%)を、電気二重層キャパシタの電極における単位イオン当たりの静電容量発現率として求めることができる。
α=X/(n・Y)×100 ・・・(1)
なお、一般的に、電気二重層キャパシタの電解液に使用される電解質は1価のカチオンと1価のアニオンとを含むため、nは1であり、この場合式(1)は式(2)のように記述できる。
α=X/Y×100 ・・・(2)
α値を用いることにより、電気二重層キャパシタの電極の細孔内に吸着・保持されたイオン1個当たり発現され得る静電容量を評価することができる。すなわち、1個の1価イオンが1個の電荷を保持する場合にはα値は100%となる。細孔内へのイオンの吸着の度合い等により、α値は変化する。例えば、細孔径が大きいために、その細孔に取り込まれるイオン量が多くても、流出するイオン量も多い場合には、そのイオンによる静電容量発現率は低下すると考えられる。
【0070】
<α’値について>
そして、上記充放電試験により求めた静電容量(F/cm)の値と、上記静電容量発現率としてのα値に基づき、電気二重層キャパシタのキャパシタ性能を評価することができる。
【0071】
静電容量は、電気二重層キャパシタの充放電試験により直接得られるキャパシタ性能を示している。そして、α値は、上述のごとく、電極の細孔内に吸着・保持されたイオン1個当たり発現され得る静電容量を反映している。従って、静電容量及びα値の両者ともに高い場合に、キャパシタ性能は高くなると考えられる。
【0072】
ここに、例えば、静電容量の値とα値とから、次の式(3)に従って、α’値(F/cm)を算出することができる。
α’=[静電容量]×α/100 ・・・(3)
静電容量の値とα値とから算出したα’値は、電気二重層キャパシタの静電容量に対し、単位イオン当たりの、いわば静電容量の発現率を重み付けした値であり、α’値が高い程電気二重層キャパシタのキャパシタ性能は高くなる。なお、α’値は、よりキャパシタ性能の高い電気二重層キャパシタを得る観点から、好ましくは3.44超20.0以下、より好ましくは3.50以上15.0以下、特に好ましくは3.80以上14.2以下である。
【0073】
なお、キャパシタ性能の評価は、上記α’値を用いた評価に限られるものではなく、静電容量及びα値のいずれか一方又は両者を適宜利用して行うことができる。
【0074】
以上述べたように、本発明に係る評価方法によれば、電気二重層キャパシタの静電容量と、NMR分析により求めた電極に吸着・保持されたイオン量とから、電気二重層キャパシタの単位イオン当たりの静電容量発現率を算出することができ、この静電容量発現率と静電容量とから電気二重層キャパシタのキャパシタ性能を簡易且つ効果的に評価することができる。
【実施例】
【0075】
次に、具体的に実施した実施例について説明する。
【0076】
表1に、実施例1,2及び比較例1,2の活性炭の調製条件及び各物性値について示す。
【0077】
【表1】
【0078】
−活性炭の調製−
[実施例1]
<炭化工程>
原料4として市販の粒状フェノール樹脂(平均粒径17μm)を、図2に示す装置1のステンレス管2中に設置されたNi管3中に入れ、窒素ガス気流下(200mL/分)、5℃/分で室温から600℃まで昇温した。その後、600℃の温度で1時間保持し、炭化物を得た。
【0079】
<賦活工程>
次に、炭化物を室温まで冷却後、炭化物が入ったNi管3内に、炭化物に対して質量比が4となるようにKOHを添加した。そして、図3に示すようにカーボンフェルトを設置して、5℃/分で室温から800℃まで昇温した。その後800℃の温度で1時間保持し、賦活物を得た。
【0080】
<洗浄・濾過・乾燥工程>
賦活物を室温まで冷却後、イオン交換水、次いで塩酸で洗浄後、濾過して得られた固形物を乾燥した。
【0081】
<官能基除去工程>
上記固形物を、Hガス50mL/分、及びArガス200mL/分の気流下、600℃の温度で24時間加熱することにより、活性炭表面の官能基除去処理を行い、実施例1の活性炭E1を得た。
【0082】
[実施例2]
表1に示すように、賦活温度を900℃とした以外は、実施例1と同様の条件により活性炭E2を調製した。
【0083】
[比較例1]
表1に示すように、賦活温度を700℃とした以外は、実施例1と同様の条件により活性炭C1を調製した。
【0084】
[比較例2]
表1に示すように、賦活温度を900℃とするとともに、KOH量を炭化物に対して質量比が6となるようにした以外は、実施例1と同様の条件により活性炭C2を調製した。
【0085】
−活性炭の物性−
実施例1,2及び比較例1,2の活性炭について、比表面積、ミクロ孔の細孔容量、及びミクロ孔の細孔径について、窒素ガスを用いて測定した吸着等温線よりαs法(K. Kaneko,C. Ishii,M. Ruike,H. Kuwabara,“Origin of Superhigh Surface Area and Microcrystalline Graphitic Structures of Activated Carbons”,Carbon,30,(1992) 1075-1088)にて算出した。結果を表1に示す。
【0086】
表1に示すように、実施例1,2に係る活性炭E1,E2では、細孔径が1.10nm以上1.50nm以下となり、電解液のイオンの吸着・保持に有効であると考えられる。また、このように、静電容量の発現に寄与しない細孔径1.00nm未満の細孔の形成を抑制しているにも拘わらず、2800m/g以上の比表面積を有し、十分な細孔容量を有しており、電気二重層キャパシタの電極用活性炭として有用であると考えられる。
【0087】
−コインセルの作製−
実施例1,2及び比較例1,2の活性炭及び表2に示す電解液を用いて、コインセルを作製した。表3にコインセルの構成を示す。
【0088】
【表2】
【0089】
【表3】
【0090】
[実施例3]
<混練工程>
表3に示すように、実施例1の活性炭E1と、ケッチェンブラック(KB)と、カルボキシメチルセルロース(CMC)とスチレン・ブタジエンゴム(SBR)とポリテトラフルオロエチレン(PTFE)とを、質量比で8:1:1:2の割合となるように、混練機に入れ、混練を行った。
【0091】
<圧延・乾燥工程>
その後上記混練物を圧延し、真空下120℃の温度で12時間加熱し、乾燥させた。
【0092】
<打抜き工程>
そして、円形の打抜き型を用いて直径12mmのディスク状に打抜き、ディスク体を得た。得られたディスク体の質量及び厚さを測定した後、アルミニウムシート製集電体に貼り付け、電極を得た。
【0093】
<コインセル作製>
得られた電極を用いて、Ar雰囲気下、表2に示す電解液Mを使用して、CR2032型コインセルを組み立てた。
【0094】
[実施例4]
表3に示すように、実施例2の活性炭E2を用いた以外は実施例3と同様の条件によりコインセルを作製した。
【0095】
[比較例3]
表3に示すように、比較例1の活性炭C1を用いた以外は実施例3と同様の条件によりコインセルを作製した。
【0096】
[比較例4]
表3に示すように、比較例2の活性炭C2を用いた以外は実施例3と同様の条件によりコインセルを作製した。
【0097】
[実施例5]
表3に示すように、電解液Tを用いた以外は実施例3と同様の条件によりコインセルを作製した。
【0098】
[実施例6]
表3に示すように、電解液Tを用いた以外は実施例4と同様の条件によりコインセルを作製した。
【0099】
[比較例5]
表3に示すように、電解液Tを用いた以外は比較例3と同様の条件によりコインセルを作製した。
【0100】
[比較例6]
表3に示すように、電解液Tを用いた以外は比較例4と同様の条件によりコインセルを作製した。
【0101】
−充放電試験−
<静電容量>
実施例3〜6及び比較例3〜6のコインセルについて、静電容量を測定するため、充放電試験を行った。まず、電圧値を2.7Vとし、充放電レート0.5mA/cmで100サイクルの充放電試験後、さらに5mA/cmで100サイクルの充放電試験を行い、静電容量(終止容量)を算出した。そして、電圧値を3.0V、及び3.3Vとして、同様の充放電試験を行い、静電容量(終止容量)を算出した。表3、図5及び図6に、ミクロ孔単位体積当たりの静電容量(F/cm)を示す。
【0102】
表3及び図5に示すとおり、電解液Mを用いた場合、2.7〜3.3Vのいずれの電圧値においても、細孔径1.16nm又は1.30nmの活性炭E1又はE2で、静電容量は最大となることが判った(実施例3,4)。一方、細孔径1.00nmの活性炭C1では、活性炭E1,E2に比べ、静電容量が大きく低下することが判った(比較例3)。また、細孔径1.62nmの活性炭C2においても、活性炭E1,E2に比べて、静電容量が減少することが判った(比較例4)。
【0103】
表3及び図6に示すとおり、電解液Tを用いた場合、2.7V印加時には細孔径1.16nmの活性炭E1で静電容量は最大となり(実施例5)、一方で3.0V、3.3V印加時には、細孔径1.30nmの活性炭E2で静電容量は最大となった(実施例6)。また、いずれの電圧値においても、細孔径1.00nm又は1.62nmの活性炭C1又はC2を用いた場合には、静電容量の低下が見られた(比較例5,6)。特に活性炭C2では3.3V印加時に静電容量の大きな低下が見られた(比較例6)。
【0104】
<容量維持率>
コインセルの静電容量の容量維持率として、上述の充放電試験で得られた上記終止容量と、上記充放電レート5mA/cmで100サイクル充放電試験を行った中で得られた最大静電容量との比を容量維持率(%)とした。表3、図7及び図8に結果を示す。
【0105】
表3及び図7に示すとおり、電解液Mを用いた場合、2.7〜3.3Vのいずれの電圧値においても、細孔径1.16nm、1.30nm又は1.62nmの活性炭E1,E2,C2で、75%以上の高い容量維持率を示すことがわかった(実施例3,4、比較例4)。一方、細孔径1.00nmの活性炭C1では、他の活性炭に比べ、容量維持率は大きく低下することが判った(比較例3)。
【0106】
表3及び図8に示すとおり、電解液Tを用いた場合、2.7V、3.0V印加時には細孔径1.62nmの活性炭C2で容量維持率は最大となったが(比較例6)、一方で3.3V印加時には、細孔径1.30nmの活性炭E2で容量維持率は最大となり(実施例6)、細孔径1.62nmの活性炭C2では容量維持率は低下した(比較例6)。また、いずれの電圧値においても、細孔径1.00nmの活性炭C1では、容量維持率の大きな低下が見られた(比較例5)。
【0107】
<考察>
電解液M,Tを用いた場合、上述のごとく、カチオンであるMEPY,TEAと溶媒分子PCの大きさの合計値は各々1.05nm,1.10nmとなる。例えばカソード電極では、上記カチオンが活性炭の細孔内に吸着・保持されて静電容量が発現する。カチオンの移動には溶媒分子PCの移動が伴うところ、少なくとも上記1.05nm,1.10nm未満の細孔径を有する細孔には、各々のカチオンは吸着・保持されにくく、容量が発現し難いと考えられる。実際、図5図8に示すように、細孔径1.00nmの活性炭C1では、他の活性炭に比べて、静電容量及び容量維持率ともに大きな数値の低下が確認された。このことは、活性炭C1では細孔径が小さすぎるために、カチオンが細孔内に吸着・保持され難く、容量が発現し難い上に、細孔のエッジ部分が電解液の分解反応の活性点となり得るため、容量維持率の低下につながったものと考えられる。
また、いずれの電解液を用いた場合も、細孔径1.62nmの活性炭C2では、静電容量が低下する傾向が見られた。これは、細孔径が大きくなるにつれて、カチオンの吸着量だけでなく流出量も増加するため、細孔内に保持されるカチオン量が減少したことが一因と考えられる。
【0108】
電解液Mを用いた場合において、静電容量及び容量維持率のいずれにおいても印加電圧の変化、すなわち高電圧化に対しても同一の活性炭については大きな数値の変化は確認されなかった。このことは、カチオンのMEPYが高電圧印加時においても分解されにくいことが一因であると考えられる。
【0109】
電解液Tを用いた場合において、3.0V以上の高電圧下において、細孔径1.30nmの活性炭E2で、静電容量が最大となった。一方、電解液Mの場合には、活性炭E1,E2で大きな差が確認されなかった。このことは、TEAイオンがMEPYイオンよりも少し大きいことに起因していると考えられる。
【0110】
−NMR分析−
上記静電容量測定後のコインセルについて、グローブボックス内(Ar雰囲気下)で分解して電極を取り出し、その電極の一部を核磁気共鳴(NMR)分析(固体19F−NMR分析)に供した。測定条件等を表4に示す。
【0111】
【表4】
【0112】
表4に示すように、−147.1〜−147.8ppm近傍のピークのピーク面積から、活性炭の細孔内に取り込まれたBFイオンのイオン量を算出した。
【0113】
−α値及びα’値−
上記充放電試験で得られた静電容量の値から、各コインセルの電極に貯まった電荷のミクロ孔単位体積当たりの電荷量Xを算出した。
【0114】
次にNMR分析の結果から、電極の細孔内に吸着されているBFのミクロ孔単位体積当たりのイオン量Yを算出した。
【0115】
そして、下記式(2)により、上記XとYとの比率α(%)を求めた。そして、BFによる電荷の保持しやすさを評価した。
α=X/Y×100 ・・・(2)
表5及び図10に、表3に示す電解液Mを使用した実施例3,4及び比較例3,4のコインセルのα値を示す。
【0116】
【表5】
【0117】
電圧値が2.7V及び3.3Vでは、細孔径が大きくなるにつれて、α値は小さくなった。このことは、活性炭の細孔径が大きくなるにつれて、細孔内に吸着・保持されたイオンが流出しやすくなり、電荷の保持性能が低下していることを示していると考えられる。
【0118】
なお、上述の電荷量X、及びイオン量Yの値は電極の単位質量当たりの数値として算出してもよい。
【0119】
次に、下記式(3)により、α’値(F/cm)を求めた。
α’=[静電容量]×α/100 ・・・(3)
算出したα’値の値を表5及び図11に示す。表5及び図11に示すように、実施例3,4では、いずれの電圧値においても3.80以上の値が得られているのに対し、比較例3,4では、いずれの電圧値においても3.50以下の値となっている。
【0120】
なお、比較例3では、細孔径が1.00nmと小さいため、電極の細孔に吸着保持されるイオンの量が絶対的に少なく、静電容量は表3に示すように小さい値となっている。一方、α値については、表5に示すように、実施例3と同程度の高い値を示していることから、一旦細孔内に吸着保持されたイオンは、細孔径が小さいために流出が抑制され、電荷の保持性能が高いと考えられる。α’値としては、静電容量の値が小さいために、いずれの電圧値においても比較例4よりも低い値になっていると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明によれば、電気二重層キャパシタの静電容量と、NMR分析により求めた電極に吸着・保持されたイオン量とから、電気二重層キャパシタの単位イオン当たりの静電容量発現率を算出することができ、この静電容量発現率から電気二重層キャパシタのキャパシタ性能を簡易且つ効果的に評価することができるので、極めて有用である。
【符号の説明】
【0122】
1 装置
2 ステンレス管
3 Ni管
4 原料
4’ 混合物
5 電気炉
6 カーボンフェルト
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11