特許第6684412号(P6684412)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人物質・材料研究機構の特許一覧

<>
  • 特許6684412-蛍光体、その製造方法および発光装置 図000006
  • 特許6684412-蛍光体、その製造方法および発光装置 図000007
  • 特許6684412-蛍光体、その製造方法および発光装置 図000008
  • 特許6684412-蛍光体、その製造方法および発光装置 図000009
  • 特許6684412-蛍光体、その製造方法および発光装置 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6684412
(24)【登録日】2020年4月1日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】蛍光体、その製造方法および発光装置
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/59 20060101AFI20200413BHJP
   C09K 11/64 20060101ALI20200413BHJP
   C09K 11/63 20060101ALI20200413BHJP
   C09K 11/62 20060101ALI20200413BHJP
   C09K 11/61 20060101ALI20200413BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20200413BHJP
   H01L 33/50 20100101ALI20200413BHJP
【FI】
   C09K11/59
   C09K11/64
   C09K11/63
   C09K11/62
   C09K11/61
   C09K11/08 B
   H01L33/50
【請求項の数】16
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2019-119233(P2019-119233)
(22)【出願日】2019年6月27日
【審査請求日】2020年1月15日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】広崎 尚登
(72)【発明者】
【氏名】武田 隆史
(72)【発明者】
【氏名】舟橋 司朗
【審査官】 安孫子 由美
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2019/240150(WO,A1)
【文献】 特開2017−190434(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/063965(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/016486(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/061597(WO,A1)
【文献】 特開2009−024038(JP,A)
【文献】 特開2004−300261(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K11
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともA元素と、D元素と、X元素(ただし、Aは、Mg、Ca、SrおよびBaからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素、Dは、Si元素、Xは、O、NおよびFからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素)とを含み、必要に応じてE元素(ただし、Eは、B、Al、GaおよびInからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素)を含むA26(D,E)5186で示される結晶に、さらに、M元素(ただし、Mは、Mn、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、DyおよびYbからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素)を含む無機物質を含有する、蛍光体。
【請求項2】
前記A26(D,E)5186で示される結晶が、A265184である、請求項1に記載の蛍光体。
【請求項3】
前記A26(D,E)5186で示される結晶が、立方晶系の結晶構造を有し、格子定数a(nm)が
1.6 < a < 1.7
である、請求項1または2に記載の蛍光体。
【請求項4】
前記A26(D,E)5186で示される結晶が、P−43n空間群(−4は4のオーバーバー表示、International Tables for Crystallographyの218番の空間群)に属する結晶である、請求項1〜3のいずれかに記載の蛍光体。
【請求項5】
前記無機物質が、A(ただし、a+d+e+x+m=1)で表される組成を有し、パラメータa、d、e、x、mが、
0.09 ≦ a ≦ 0.18
0.26≦ d ≦ 0.33
0 ≦ e ≦ 0.1
0.5 ≦ x ≦ 0.57
0.0001 ≦ m ≦ 0.07
を満たす、請求項1〜4のいずれかに記載の蛍光体。
【請求項6】
前記パラメータa、d、e、x、mが、
0.15 ≦ a ≦ 0.17
0.3≦ d ≦ 0.33
0 ≦ e ≦ 0.1
0.52 ≦ x ≦ 0.55
0.0001 ≦ m ≦ 0.05
を満たす、請求項5に記載の蛍光体。
【請求項7】
前記A26(D,E)5186で示される結晶が、Ba26Si5184である、請求項1〜6のいずれかに記載の蛍光体。
【請求項8】
前記MがEuであり、前記無機物質が、A(ただし、a+d+e+x+m=1)で表される組成を有し、前記Mのパラメータmが、
0.0001 ≦ m ≦ 0.05
である、請求項1〜7のいずれかに記載の蛍光体。
【請求項9】
300nm以上600nm以下の何れかの波長の光を照射することにより、630nm以上850nm以下の範囲の波長に発光ピークの最大値をもつ光を発する、請求項1〜8のいずれかに記載の蛍光体。
【請求項10】
金属化合物の混合物であって焼成することにより、請求項1に記載の蛍光体を構成しうる原料混合物を、窒素を含有する不活性雰囲気中において1400℃以上2200℃以下の温度範囲で焼成することを包含する、請求項1に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項11】
前記金属化合物の混合物は、Aを含有する窒化物、酸窒化物、酸化物、炭酸塩およびフッ化物からなる群から選ばれる1種以上のAを含有する化合物(Aは、Mg、Ca、SrおよびBaからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素)と、Dを含有する窒化物、酸窒化物、酸化物、炭酸塩およびフッ化物からなる群から選ばれる1種以上のDを含有する化合物(Dは、Si元素)と、必要に応じてEを含有する窒化物、酸窒化物、酸化物、炭酸塩およびフッ化物からなる群から選ばれる1種以上のEを含有する化合物(Eは、B、Al、GaおよびInからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素)と、Mを含有する窒化物、酸窒化物、酸化物、炭酸塩およびフッ化物からなる群から選ばれる1種以上のMを含有する化合物(Mは、Mn、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、DyおよびYbからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素)とを含有する、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
300nm以上600nm以下の範囲のいずれかの波長を有する光を発する励起源と、少なくとも請求項1に記載の蛍光体とを含む、発光装置。
【請求項13】
前記励起源が、発光ダイオード(LED)またはレーザーダイオード(LD)である、請求項12に記載の発光装置。
【請求項14】
前記励起源からの光を照射することにより400nm以上760nm以下の範囲の波長に発光ピークの最大値をもつ光を発する1種以上の蛍光体をさらに含む、請求項12または13に記載の発光装置。
【請求項15】
前記1種以上の蛍光体は、AlN:(Eu,Si)、BaMgAl1017:Eu、SrSiAl19ON31:Eu、LaSiAl1932:Eu、α−サイアロン:Ce、JEM:Ce、β−サイアロン:Eu、(Ba,Sr,Ca,Mg)SiO:Eu、(Ca,Sr,Ba)Si:Eu、YAG:Ce、α−サイアロン:Eu、CaAlSiN:Ce、LaSi11:Ce、CaAlSiN:Eu、(Ca,Sr)AlSiN:Eu、CaSi:Eu、および、SrSi:Euからなる群から選択される1種以上である、請求項14に記載の発光装置。
【請求項16】
前記発光装置は、照明器具、液晶パネル用バックライト光源、プロジェクター用ランプ、赤外発光照明、または、赤外計測用光源のいずれかである、請求項12〜15のいずれかに記載の発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ba26Si5184(以下、本結晶という)およびそれと同一の結晶構造を有する結晶(以下、本同一結晶という)を母体結晶とする蛍光体、その製造方法、およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光体は、蛍光表示管(VFD(Vacuum−Fluorescent Display))、フィールドエミッションディスプレイ(FED(Field Emission Display)またはSED(Surface−Conduction Electron−Emitter Display))、プラズマディスプレイパネル(PDP(Plasma Display Panel))、陰極線管(CRT(Cathode−Ray Tube))、液晶ディスプレイバックライト(Liquid−Crystal Display Backlight)、白色発光ダイオード(LED(Light−Emitting Diode))などに用いられている。これらのいずれの用途においても、蛍光体を発光させるためには、蛍光体を励起するためのエネルギーを蛍光体に供給する必要があり、蛍光体は真空紫外線、紫外線、電子線、青色光などの高いエネルギーを有した励起源により励起されて、青色光、緑色光、黄色光、橙色光、赤色光等の可視光線を発する。しかしながら、蛍光体は前記のような励起源に曝される結果、蛍光体の輝度が低下し易く、輝度低下のない蛍光体が求められている。そのため、従来のケイ酸塩蛍光体、リン酸塩蛍光体、アルミン酸塩蛍光体、硫化物蛍光体などの蛍光体に代わり、高エネルギーの励起においても輝度低下の少ない蛍光体として、サイアロン蛍光体、酸窒化物蛍光体、窒化物蛍光体などの、結晶構造に窒素を含有する無機結晶を母体とする蛍光体が提案されている。
【0003】
このサイアロン蛍光体の一例は、概略以下に述べるような製造プロセスによって製造される。まず、窒化ケイ素(Si)、窒化アルミニウム(AlN)、酸化カルシウム(CaO)、酸化ユーロピウム(Eu)を所定のモル比に混合し、1気圧(0.1MPa)の窒素中において1700℃の温度で1時間保持してホットプレス法により焼成して製造される(例えば、特許文献1参照)。このプロセスで得られるEu2+イオンを付活したαサイアロンは、450から500nmの青色光で励起されて550から600nmの黄色の光を発する蛍光体となることが報告されている。また、αサイアロンの結晶構造を保ったまま、SiとAlの割合や酸素と窒素の割合を変えることにより、発光波長が変化することが知られている(例えば、特許文献2および特許文献3参照)。
【0004】
サイアロン蛍光体の別の例として、β型サイアロンにEu2+を付活した緑色の蛍光体が知られている(特許文献4参照)。この蛍光体では、結晶構造を保ったまま酸素含有量を変化させることにより発光波長が短波長に変化することが知られている(例えば、特許文献5参照)。また、Ce3+を付活すると青色の蛍光体となることが知られている(例えば、特許文献6参照)。
【0005】
酸窒化物蛍光体の一例は、JEM相(JEM;LaAl(Si6−zAl)N10−z、0.1≦z≦3)を母体結晶としてCeを付活させた青色蛍光体(特許文献7参照)が知られている。この蛍光体では、結晶構造を保ったままLaの一部をCaで置換することにより、励起波長が長波長化するとともに発光波長が長波長化することが知られている。
【0006】
酸窒化物蛍光体の別の例として、La−N結晶LaSi11を母体結晶としてCeを付活させた青色蛍光体(特許文献8参照)が知られている。
【0007】
窒化物蛍光体の一例は、CaAlSiNを母体結晶としてEu2+を付活させた赤色蛍光体(特許文献9参照)が知られている。この蛍光体を用いることにより、白色LEDの演色性を向上させる効果がある。光学活性元素としてCeを添加した蛍光体は橙色の蛍光体と報告されている。
【0008】
このように、蛍光体は、母体となる結晶と、それに固溶させる金属イオン(付活イオン)の組み合わせで、発光色が決まる。さらに、母体結晶と付活イオンの組み合わせは、発光スペクトル、励起スペクトルなどの発光特性や、化学的安定性、熱的安定性を決めるため、母体結晶が異なる場合や付活イオンが異なる場合は、異なる蛍光体と見なされる。また、化学組成が同じであっても結晶構造が異なる材料は、母体結晶が異なることにより発光特性や安定性が異なるため、異なる蛍光体と見なされる。
【0009】
さらに、多くの蛍光体においては母体結晶の結晶構造を保ったまま、構成する元素の種類を置換することが可能であり、これにより発光色を変化させることが行われている。例えば、YAGにCeを添加した蛍光体は緑色発光をするが、YAG結晶中のYの一部をGdで、Alの一部をGaで置換した蛍光体は黄色発光を呈する。さらに、CaAlSiNにEuを添加した蛍光体においては、Caの一部をSrで置換することにより結晶構造を保ったまま組成が変化し、発光波長が短波長化することが知られている。このように、結晶構造を保ったまま元素置換を行った蛍光体は、同じグループの材料と見なされる。
【0010】
これらのことから、新規蛍光体の開発においては、新規の結晶構造を持つ母体結晶を見つけることが重要であり、このような母体結晶に発光を担う金属イオンを付活して蛍光特性を発現させることにより、新規の発光特性を持つ蛍光体を製造することができる。さらに、新規の結晶の構成元素を変えることにより結晶構造を保ったまま別の組成の結晶を製造することが可能であり、これによっても新規の発光特性を持つ蛍光体を製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第3668770号明細書
【特許文献2】特許第3837551号明細書
【特許文献3】特許第4524368号明細書
【特許文献4】特許第3921545号明細書
【特許文献5】国際公開第2007/066733号公報
【特許文献6】国際公開第2006/101096号公報
【特許文献7】国際公開第2005/019376号公報
【特許文献8】特開2005−112922号公報
【特許文献9】特許第3837588号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、従来の窒化物蛍光体または酸窒化物蛍光体とは異なる新規発光特性を持つ新規蛍光体、その製造方法およびその発光装置を提供することを課題とする。本発明の目的のひとつは、可視光または紫外線を照射することにより、赤色または近赤外の光を発する蛍光体およびその製造方法を提供すること、詳細には、630nm以上の赤色および近赤外域に発光を有し、かつ、600nm以下のLEDと組み合わせた場合でも発光強度が高い無機蛍光体およびその製造方法を提供することにある。本発明のもうひとつの目的として、係る蛍光体を用いた耐久性に優れた発光装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らにおいては、かかる状況の下で、窒素を含む新しい結晶およびこの結晶構造中の金属元素やNを他の元素で置換した結晶を母体とする蛍光体について詳細な研究を行い、本結晶および本同一結晶を母体とする無機材料が、高輝度の蛍光を発することを見いだした。また、特定の組成では、赤色または近赤外の発光を示すことを見いだした。
【0014】
さらに、この蛍光体を用いることにより、赤色または近赤外域の光の成分を含む白色発光ダイオード(発光装置)やそれを用いた照明器具が得られることを見いだした。
【0015】
本発明者は、上記実情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、以下に記載する構成を講ずることによって特定波長領域で高い輝度の発光現象を示す蛍光体を提供することに成功した。また、以下の方法を用いて優れた発光特性を持つ蛍光体を製造することに成功した。さらに、この蛍光体を使用し、以下に記載する構成を講ずることによって優れた特性を有する発光装置、照明器具を提供することにも成功したもので、その構成は、以下に記載のとおりである。
【0016】
本発明の蛍光体は、少なくともA元素と、D元素と、X元素(ただし、Aは、Mg、Ca、SrおよびBaからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素、Dは、Si元素、Xは、O、NおよびFからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素)とを含み、必要に応じてE元素(ただし、Eは、B、Al、GaおよびInからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素)を含むA26(D,E)5186で示される結晶に、さらに、M元素(ただし、Mは、Mn、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、DyおよびYbからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素)を含む無機物質を含有し、これにより上記課題を解決する。
前記A26(D,E)5186で示される結晶が、A265184であってもよい。
前記A26(D,E)5186で示される結晶が、立方晶系の結晶構造を有し、格子定数a(nm)が
1.6 < a < 1.7
であってもよい。
前記A26(D,E)5186で示される結晶が、P−43n空間群(−4は4のオーバーバー表示、International Tables for Crystallographyの218番の空間群)に属する結晶であってもよい。
前記無機物質が、A(ただし、a+d+e+x+m=1)で表される組成を有し、パラメータa、d、e、x、mが、
0.09 ≦ a ≦ 0.18
0.26≦ d ≦ 0.33
0 ≦ e ≦ 0.1
0.5 ≦ x ≦ 0.57
0.0001 ≦ m ≦ 0.07
を満たしてもよい。
前記パラメータa、d、e、x、mが、
0.15 ≦ a ≦ 0.17
0.3≦ d ≦ 0.33
0 ≦ e ≦ 0.1
0.52 ≦ x ≦ 0.55
0.0001 ≦ m ≦ 0.05
を満たしてもよい。
前記A26(D,E)5186で示される結晶が、Ba26Si5184であってもよい。
前記MがEuであり、前記無機物質が、A(ただし、a+d+e+x+m=1)で表される組成を有し、前記Mのパラメータmが、
0.0001 ≦ m ≦ 0.05
であってもよい。
300nm以上600nm以下の何れかの波長の光を照射することにより、630nm以上850nm以下の範囲の波長に発光ピークの最大値をもつ光を発してもよい。
本発明の上記蛍光体の製造方法は、金属化合物の混合物であって焼成することにより、上記蛍光体を構成しうる原料混合物を、窒素を含有する不活性雰囲気中において1400℃以上2200℃以下の温度範囲で焼成することを包含し、これにより上記課題を解決する。
前記金属化合物の混合物は、Aを含有する窒化物、酸窒化物、酸化物、炭酸塩およびフッ化物からなる群から選ばれる1種以上のAを含有する化合物(Aは、Mg、Ca、SrおよびBaからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素)と、Dを含有する窒化物、酸窒化物、酸化物、炭酸塩およびフッ化物からなる群から選ばれる1種以上のDを含有する化合物(Dは、Si元素)と、必要に応じてEを含有する窒化物、酸窒化物、酸化物、炭酸塩およびフッ化物からなる群から選ばれる1種以上のEを含有する化合物(Eは、B、Al、GaおよびInからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素)と、Mを含有する窒化物、酸窒化物、酸化物、炭酸塩およびフッ化物からなる群から選ばれる1種以上のMを含有する化合物(Mは、Mn、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、DyおよびYbからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素)とを含有してもよい。
本発明の発光装置は、300nm以上600nm以下の範囲のいずれかの波長を有する光を発する励起源と、少なくとも上記蛍光体とを含み、これによろい上記課題を解決する。
前記励起源が、発光ダイオード(LED)またはレーザーダイオード(LD)であってもよい。
前記励起源からの光を照射することにより400nm以上760nm以下の範囲の波長に発光ピークの最大値をもつ光を発する1種以上の蛍光体をさらに含んでもよい。
前記1種以上の蛍光体は、AlN:(Eu,Si)、BaMgAl1017:Eu、SrSiAl19ON31:Eu、LaSiAl1932:Eu、α−サイアロン:Ce、JEM:Ce、β−サイアロン:Eu、(Ba,Sr,Ca,Mg)SiO:Eu、(Ca,Sr,Ba)Si:Eu、YAG:Ce、α−サイアロン:Eu、CaAlSiN:Ce、LaSi11:Ce、CaAlSiN:Eu、(Ca,Sr)AlSiN:Eu、CaSi:Eu、および、SrSi:Euからなる群から選択される1種以上であってもよい。
前記発光装置は、照明器具、液晶パネル用バックライト光源、プロジェクター用ランプ、赤外発光照明、または、赤外計測用光源のいずれかであってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の蛍光体は、本結晶または本同一結晶を主成分として含有することにより、蛍光体として機能し得、特定の組成では、可視光または紫外線を照射することにより、赤色または近赤外の光を発することができる。励起源に曝された場合でも、この蛍光体は、輝度が低下しないため、白色発光ダイオード等の発光装置、照明器具、液晶用バックライト光源、プロジェクター用ランプ、赤外発光照明、赤外計測用赤外光源などに好適に使用される有用な蛍光体を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本結晶の結晶構造を示す図。
図2】本結晶の結晶構造から計算したCuKα線を用いた粉末X線回折を示す図。
図3】実施例1で合成した蛍光体の発光スペクトルを示す図。
図4】本発明による照明器具(砲弾型LED照明器具)を示す概略図。
図5】本発明による照明器具(基板実装型LED照明器具)を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の蛍光体を詳しく説明する。
本発明の蛍光体は、少なくともA元素と、D元素と、X元素と、必要に応じてE元素(ただし、Aは、Mg、Ca、SrおよびBaからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素、Dは、Si元素、Xは、O、NおよびFからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素、Eは、B、Al、GaおよびInからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素)とを含み、Ba26Si5184で示される本結晶、A26(D,E)5186で示される本同一結晶、または、その他の組成の本同一結晶を母体結晶として、さらに発光元素としてM元素(ただしMは、Mn、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、DyおよびYbからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素)を含む無機物質を含有する。
【0020】
Ba26Si5184結晶は、本発明者が新たに合成し、結晶構造解析により新規結晶であると確認した、本発明より以前において報告されていない結晶である。
【0021】
図1は、Ba26Si5184結晶の結晶構造を示す図である。
【0022】
実施例1で本発明者が合成したBa26Si5184について単結晶構造解析を行った結果、本結晶は立方晶系に属し、P−43n空間群(−4は4のオーバーバー表示、International Tables for Crystallographyの218番の空間群)に属し、表1に示す結晶パラメータおよび原子座標位置を占めることがわかった。表1において、格子定数a、b、cは単位格子の軸の長さを示し、α、β、γは単位格子の軸間の角度を示す。原子座標は単位格子中の各原子の位置を、単位格子を単位とした0から1の間の値で示す。この結晶中には、Ba、Si、O、Nの各原子が存在し、Baは5種類の席Ba1からBa5に存在する解析結果を得た。また、Siは席をSi1からSi5の3種類の席に存在する解析結果を得た。さらに、NとOは席を区別することなくX1からX9の9種類の席に存在する解析結果を得た。
【0023】
【表1】
【0024】
表1のデータを使った解析の結果、本結晶は図1に示す構造であり、SiとOまたはNとの結合で構成される4面体が連なった骨格中にBa元素が含有された構造を持つことが分かった。この結晶中にはEu等の付活イオンとなるM元素は主にBa元素の一部を置換する形で結晶中に取り込まれる。
【0025】
本同一結晶のひとつとして、A26(D,E)5186がある。代表的なAは、Mg、Ca、SrおよびBaからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素である。代表的なDはSi元素である。代表的なEは、B、Al、GaおよびInからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素である。代表的なXは、O、NおよびFからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素である。ただし、A、D、EのカチオンとXのアニオンとは結晶中の電気的中性が保たれる条件を満たすことが望ましい。
【0026】
本結晶の結晶構造は、X線回折や中性子線回折により同定することができる。結晶は、その構成成分を他の元素で置換することや、Euなどの付活元素が固溶することによって格子定数は変化するが、結晶構造と原子が占めるサイトとその座標によって与えられる原子位置は骨格原子間の化学結合が切れるほどには大きく変わることはない。本発明では、X線回折や中性子線回折の結果をP−43nの空間群でリートベルト解析して求めた格子定数および原子座標から計算されたAl−NおよびSi−Nの化学結合の長さ(近接原子間距離)が、表1に示す結晶の格子定数と原子座標から計算された化学結合の長さと比べて±5%以内の場合は同一の結晶構造と定義して本結晶かどうかの判定を行う。この判定基準は、実験によれば化学結合の長さが±5%を越えて変化すると化学結合が切れて別の結晶となることが確認されたためである。
【0027】
さらに、固溶量が小さい場合は、本結晶および本同一結晶の簡便な判定方法として次の方法がある。新たな物質について測定したX線回折結果から計算した格子定数と表1の結晶構造データを用いて計算した回折のピーク位置(2θ)が主要ピークについて一致したときに当該結晶構造が同じものと特定することができる。
【0028】
図2は、本結晶の結晶構造から計算したCuKα線を用いた粉末X線回折を示す図である。
【0029】
図2と比較対象となる物質を比べることにより、本結晶あるいは本同一結晶かどうかの簡易的な判定ができる。主要ピークとして回折強度の強い10本程度で判定すると良い。表1は、その意味で本結晶を特定する上において基準となるもので重要である。また、本結晶の結晶構造を立方晶の他の晶系を用いても近似的な構造を定義することができ、その場合異なった空間群と格子定数および面指数を用いた表現となるが、X線回折結果(例えば図2)および結晶構造(例えば図1)に変わりはなく、それを用いた同定方法や同定結果も同一の物となる。このため、本発明では、立方晶としてX線回折の解析を行うものとする。
【0030】
本結晶あるいは本同一結晶に、M元素として、Mn、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、TmおよびYbからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素を付活すると蛍光体が得られる。結晶の組成、付活元素の種類および量により、励起波長、発光波長、発光強度等の発光特性が変化するので、用途に応じて選択するとよい。Mを付活した本結晶蛍光体は、(Ba,M)26Si5184の組成で表される。Mを付活した本同一結晶蛍光体は、(A,M)26(D,E)5186の組成で表される。
【0031】
26(D,E)5186で示される結晶において、A265184である結晶を母体とする蛍光体は特に発光強度が高い。
【0032】
26(D,E)5186で示される結晶が立方晶であり、格子定数a(nm)が
1.6 < a < 1.7
である無機物質に発光イオンを付活した蛍光体は発光強度が高い。ここでEuを付活した蛍光体は、(A,Eu)26(D,E)5186の組成で表される。中でも、aが、a=1.65209(6)nmである結晶は最も発光強度が高い。結晶は立方晶であるので、結晶格子を記述する他のパラメータは、a=b=c、α=β=γ=90°である。
【0033】
26(D,E)5186で示される結晶がP−43n空間群(−4は4のオーバーバー表示、International Tables for Crystallographyの218番の空間群)に属する結晶を母体とする蛍光体は発光強度が高い。
【0034】
(ただし、a+d+e+x+m=1)で表される組成であり、パラメータa、d、e、x、mが、
0.09 ≦ a ≦ 0.18
0.26≦ d ≦ 0.33
0 ≦ e ≦ 0.1
0.5 ≦ x ≦ 0.57
0.0001 ≦ m ≦ 0.07
の数値で表される蛍光体は発光強度が高い。
【0035】
パラメータaは、A元素の組成を表すパラメータであり、この範囲であれば結晶構造が安定になり得る。パラメータdは、D元素の組成を表すパラメータであり、この範囲であえば結晶構造が安定になり得る。パラメータeは、E元素の組成を表すパラメータであり、0であってもよいが、0.1以下であれば結晶構造が安定になり得る。パラメータxは、X元素の組成を表すパラメータであり、この範囲であれば結晶構造が安定になり得る。パラメータmは、不活元素Mの添加量であり、この範囲であれば発光イオンの量が十分であり、かつ、濃度消光による発光強度の低下も生じ得ない。X元素はアニオンであり、A、D、EおよびM元素のカチオンと中性の電荷が保たれるように組成が決まり得る。
【0036】
パラメータa、d、e、x、mが、好ましくは、
0.15 ≦ a ≦ 0.17
0.3≦ d ≦ 0.33
0 ≦ e ≦ 0.1
0.52 ≦ x ≦ 0.55
0.0001 ≦ m ≦ 0.05
の数値で表される蛍光体はさらに発光強度が高い。
【0037】
上述の組成式において、X元素がNおよび必要に応じてOを含み、組成式Ax1x2(ただし、式中a+d+e+x1+x2+m=1およびx1+x2=xである)で示され、
0 ≦ x1 ≦ 0.08
0.45 ≦ x2 ≦ 0.53
0.5 ≦ x ≦ 0.57
の条件を満たす無機物質を含むと、蛍光特性に優れる。
【0038】
さらに好ましくは、
0.01 ≦ x1 ≦ 0.03
0.5 ≦ x2 ≦ 0.52
0.52 ≦ x ≦ 0.55
の条件を満たす無機物質を含むと、蛍光特性に優れる。無機物質中に含まれるNとOの原子数の比が、このようになると、結晶構造が安定であり発光強度が高い。
【0039】
26(D,E)5186で示される結晶が、Ba26Si5184である結晶を母体とする蛍光体は発光強度が高い。この場合、Euを付活した蛍光体は、(Ba,Eu)26Si5184で表される。
【0040】
本発明の実施形態の1つとして、MがEuであり、A(ただし、a+d+e+x+m=1)で表されるEuの含有量mが、0.0001 ≦ m ≦ 0.05の組成をもつ蛍光体がある。これらの蛍光体は、300nm以上600nm以下の何れかの波長の光を照射することにより、630nm以上850nm以下の範囲の波長に発光ピークの最大値をもつため、この用途の蛍光体に適している。組成を調整することにより、本発明の蛍光体は、300nm以上600nm以下の何れかの波長の光を照射することにより、750nm以上810nm以下の範囲の波長に発光ピークを有する発光をし得る。
【0041】
無機物質が、平均粒径0.1μm以上20μm以下の単結晶粒子あるいは単結晶の集合体である蛍光体は発光効率が高く、LEDに実装する場合の操作性がよいため、この範囲の粒径に制御するのがよい。
【0042】
無機物質に含まれる、Fe、Co、Ni不純物元素は発光強度低下の恐れがある。蛍光体中のこれらの元素の合計が500ppm以下とすることにより、発光強度低下の影響が少なくなる。
【0043】
本発明の実施形態の1つとして、本結晶あるいは本同一結晶を母体とする蛍光体と他の結晶相あるいはアモルファス相との混合物から構成され、本結晶あるいは本同一結晶を母体とする蛍光体の含有量が20質量%以上である蛍光体がある。本結晶あるいは本同一結晶を母体とする蛍光体単体では目的の特性が得られない場合や導電性等の機能を付加する場合に本実施形態を用いると良い。本結晶あるいは本同一結晶を母体とする蛍光体の含有量は目的とする特性により調整するとよいが、20質量%以下では発光強度が低くなる恐れがある。
【0044】
導電性を持つ無機物質としては、Zn、Al、Ga、In、Snから選ばれる1種または2種以上の元素を含む酸化物、酸窒化物、または窒化物、あるいはこれらの混合物を挙げることができる。例えば、酸化亜鉛、窒化アルミニウム、窒化インジウム、酸化スズなどを挙げることができる。
【0045】
本結晶あるいは本同一結晶を母体とする蛍光体単体では目的とする発光スペクトルが得られない場合は、他の蛍光体を添加するとよい。他の蛍光体としては、EuまたはCeを付活したBAM(BaMgAl1017)蛍光体、β−サイアロン蛍光体、α−サイアロン蛍光体、(Sr,Ba)Si蛍光体、CaAlSiN蛍光体、(Ca,Sr)AlSiN蛍光体等を挙げることができる。
【0046】
このような本発明の蛍光体の製造方法は特に規定されないが、例えば、金属化合物の混合物であって、焼成することにより、本結晶あるいは本同一結晶を母体とする蛍光体を構成しうる原料混合物を、窒素を含有する不活性雰囲気中において1400℃以上2200℃以下の温度範囲で焼成することにより得ることができる。本発明の蛍光体の結晶は立方晶系で空間群P−43nに属するが、焼成温度等の合成条件により、これと異なる結晶系や空間群を持つ結晶が混入する場合がありうるが、この場合においても、発光特性の変化は僅かであるため高輝度蛍光体として使用することができる。
【0047】
出発原料としては、例えば、金属化合物の混合物が、Mを含有する化合物と、Aを含有する化合物と、Dを含有する化合物と、必要に応じて、Eを含有する化合物と、Xを含有する化合物(ただし、Mは、Mn、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、DyおよびYbからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素、Aは、Mg、Ca、SrおよびBaからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素、Dは、Si元素、Eは、B、Al、GaおよびInからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素、Xは、O、NおよびFからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素)を用いると良い。
【0048】
出発原料として、Mを含有する化合物が、Mを含有する金属、ケイ化物、酸化物、炭酸塩、窒化物、酸窒化物、塩化物、フッ化物または酸フッ化物から選ばれる単体または2種以上の混合物であり、Aを含有する化合物が、Aを含有する金属、ケイ化物、酸化物、炭酸塩、窒化物、酸窒化物、塩化物、フッ化物、または酸フッ化物から選ばれる単体または2種以上の混合物であり、Dを含有する化合物が、Dを含有する金属、ケイ化物、酸化物、炭酸塩、窒化物、酸窒化物、塩化物、フッ化物、または酸フッ化物から選ばれる単体または2種以上の混合物であり、Eを含有する化合物が、Eを含有する金属、ケイ化物、酸化物、炭酸塩、窒化物、酸窒化物、塩化物、フッ化物、または酸フッ化物から選ばれる単体または2種以上の混合物であるものは、原料が入手しやすく安定性に優れるため好ましい。Xを含有する化合物が、酸化物、窒化物、酸窒化物、フッ化物、酸フッ化物から選ばれる単体または2種以上の混合物であるものは、原料が入手しやすく安定性に優れるため好ましい。なお、M、A、D、Eを含有する化合物が、目的とするXを含有する化合物である場合、Xを含有する化合物は、M、A、DまたはEを含有する化合物と共通であってもよい。
【0049】
出発原料としては、例えば、A元素、D元素、M元素、必要に応じてE元素の、窒化物、酸窒化物、酸化物、炭酸塩、フッ化物の何れかの混合を用いると良い。
【0050】
Euを付活したBa26Si5184の蛍光体を製造する場合は、少なくともユーロピウムの窒化物または酸化物と、バリウムの窒化物または酸化物または炭酸塩と、酸化ケイ素または窒化ケイ素とを含有する出発原料を用いるのが、焼成時に反応が進行しやすいため好ましい。
【0051】
焼成に用いる炉は、焼成温度が高温であり、また焼成雰囲気が窒素を含有する不活性雰囲気であることから、金属抵抗加熱方式又は黒鉛抵抗加熱方式で、炉の高温部の材料として炭素を用いた電気炉が好適である。
【0052】
焼成温度は1400℃以上2200℃以下がよい。1400℃より低い温度では反応が十分に進まない恐れがある。2200℃を超える温度では原料粉末や合成物が分解する恐れがある。焼成時間は焼成温度によっても異なるが、通常1時間以上48時間以下である。
【0053】
窒素を含有する不活性雰囲気が0.1MPa以上100MPa以下の圧力範囲では、出発原料や生成物である窒化物や酸窒化物の熱分解が抑えられるため好ましい。焼成雰囲気中の酸素分圧は0.0001%以下が出発原料や生成物である窒化物や酸窒化物の酸化反応を抑制するために好ましい。
【0054】
蛍光体を粉体または凝集体形状で製造するには、原料を嵩密度40%以下の充填率に保持した状態で容器に充填した後に焼成する方法をとるとよい。嵩密度を40%以下の充填率にすることにより、粒子同士の強固な接着をさけることができる。ここで、相対嵩密度とは、容器に充填された粉体の質量を容器の容積で割った値(嵩密度)と粉体の物質の真密度との比である。
【0055】
原料混合物の焼成に当って、原料化合物を保持する容器としては種々の耐熱性材料が使用しうるが、本発明に使用する金属窒化物に対する材質劣化の悪影響が低いことから、学術雑誌Journal of the American Ceramic Society 2002年85巻5号1229ページないし1234ページに記載の、α−サイアロンの合成に使用された窒化ホウ素をコートしたグラファイトるつぼに示されるように窒化ホウ素をコートした容器や、あるいは窒化ホウ素焼結体が適している。このような条件で焼成を行うと、容器から製品にホウ素あるいは窒化ホウ素成分が混入するが、少量であれば発光特性は低下しないので影響は少ない。さらに少量の窒化ホウ素の添加により、製品の耐久性が向上することがあるので、場合によっては好ましい。
【0056】
蛍光体を粉体または凝集体形状で製造するには、原料の粉体粒子または凝集体の平均粒径は500μm以下とすると、反応性と操作性に優れるので好ましい。
【0057】
粒子または凝集体の粒径を500μm以下にする方法として、スプレイドライヤ、ふるい分け、または風力分級を用いると作業効率と操作性にすぐれるので好ましい。
【0058】
焼成の手法は、ホットプレスによることなく、常圧焼結法やガス圧焼結法などの外部から機械的な加圧を施さない焼結手法が、粉体または凝集体の製品を得る手法として好ましい。
【0059】
蛍光体粉末の平均粒径は、体積基準のメディアン径(d50)で50nm以上200μm以下のものが、発光強度が高いので好ましい。体積基準の平均粒径の測定は、例えば、マイクロトラックやレーザ散乱法によって測定できる。粉砕、分級、酸処理から選ばれる1種ないし複数の手法を用いることにより、焼成により合成した蛍光体粉末の平均粒径を50nm以上200μm以下に粒度調整するとよい。
【0060】
焼成後の蛍光体粉末、あるいは粉砕処理後の蛍光体粉末、もしくは粒度調整後の蛍光体粉末を、1000℃以上で焼成温度以下の温度で熱処理することにより、粉末に含まれる欠陥や粉砕による損傷が回復することがある。欠陥や損傷は発光強度の低下の要因となることがあり、この場合熱処理により発光強度が回復する。
【0061】
蛍光体の合成のための焼成時に、焼成温度以下の温度で液相を生成する無機物質を添加して焼成することによりフラックスとして働き、反応や粒成長が促進されて安定な結晶が得られることがあり、これによって発光強度が向上することがある。
【0062】
焼成温度以下の温度で液相を生成する無機物質として、Li、Na、K、Mg、Ca、Sr、Baから選ばれる1種または2種以上の元素のフッ化物、塩化物、ヨウ化物、臭化物、あるいはリン酸塩の1種または2種以上の混合物を挙げることができる。これらの無機物質はそれぞれ融点が異なるため、合成温度によって使い分けると良い。
【0063】
さらに、焼成後に溶剤で洗浄することにより、焼成温度以下の温度で液相を生成する無機物質の含有量を低減させることにより、蛍光体の発光強度が高くなることがある。
【0064】
本発明の蛍光体を発光装置等の用途に使用する場合には、これを液体媒体中に分散させた形態で用いることが好ましい。また、本発明の蛍光体を含有する蛍光体混合物として用いることもできる。本発明の蛍光体を媒体中に分散させたものを、蛍光体含有組成物と呼ぶものとする。
【0065】
本発明の蛍光体含有組成物に使用可能な媒体としては、本発明の蛍光体を好適に分散させると共に、好ましくない反応等を生じないものであれば、任意のものを目的等に応じて選択することが可能である。媒体の例としては、ガラス、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエステル系樹脂等が挙げられる。これらの媒体は一種を単独で使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0066】
媒体の使用量は、用途等に応じて適宜調整すればよいが、一般的には、本発明の蛍光体に対する媒体の重量比で、通常3重量%以上、好ましくは5重量%以上、また、通常30重量%以下、好ましくは15重量%以下の範囲である。
【0067】
本発明の発光装置は、少なくとも励起源(発光光源)と本発明の蛍光体とを用いて構成される。発光光源としては、発光ダイオード(LED)、レーザーダイオード(LD)、有機EL発光素子、蛍光ランプなどがある。LEDでは、本発明の蛍光体を用いて、特開平5−152609、特開平7−99345、特許公報第2927279号などに記載されているような公知の方法により製造することができる。この場合、発光体または発光光源は300nm以上600nm以下の波長の光を発するものが望ましく、300nm以上420nm以下の波長の光を発する紫外(または紫)LED発光素子、420nm以上500nm以下の波長の光を発する青色LED発光素子、500nm以上600nm以下の波長の光を発する緑、黄色、赤色LED発光素子などを用いることができる。これらのLEDとしては、GaN、InGaN、AlGaAsなどの半導体からなるものがあり、組成を調整することにより、所定の波長の光を発する発光光源となり得る。
【0068】
本発明の発光装置の一形態として、本発明の蛍光体に加えて、さらに、300nm以上600nm以下の何れかの波長の光を照射することにより400nm以上760nm以下の範囲の波長に最大値(ピーク)をもつ蛍光を発する蛍光体を単独または複数を含むことができる。これにより、400nmの紫色、青色、緑色、黄色、赤色、赤外色の色成分を含む発光装置を校正することができる。
【0069】
本発明の発光装置の一形態として、本発明の蛍光体に加えて、さらに、発光体または発光光源によりピーク波長400nm以上500nm以下の光を発する青色蛍光体を含むことができる。このような蛍光体としては、AlN:(Eu,Si)、BaMgAl1017:Eu、SrSiAl19ON31:Eu、LaSiAl1932:Eu、α−サイアロン:Ce、JEM:Ceなどがある。本願明細書において、表記「無機物質:不活元素」は、所定の無機物質に不活元素が不活された蛍光体であることを意図し、例えば、表記「AlN:(Eu,Si)」は、AlNの母体結晶にEuおよび/またはSiが付活された蛍光体であることを示す。
【0070】
本発明の発光装置の一形態として、本発明の蛍光体に加えて、さらに、発光体または発光光源によりピーク波長500nm以上550nm以下の光を発する緑色蛍光体を含むことができる。このような、緑色蛍光体としては、例えば、β−サイアロン:Eu、(Ba,Sr,Ca,Mg)SiO:Eu、(Ca,Sr,Ba)Si:Euなどがある。
【0071】
本発明の発光装置の一形態として、本発明の蛍光体に加えて、さらに、発光体または発光光源によりピーク波長550nm以上600nm以下の光を発する黄色蛍光体を含むことができる。このような黄色蛍光体としては、YAG:Ce、α−サイアロン:Eu、CaAlSiN:Ce、LaSi11:Ceなどがある。
【0072】
本発明の発光装置の一形態として、本発明の蛍光体に加えて、さらに、発光体または発光光源によりピーク波長600nm以上700nm以下の光を発する赤色蛍光体を含むことができる。このような赤色蛍光体としては、CaAlSiN:Eu、(Ca,Sr)AlSiN:Eu、CaSi:Eu、SrSi:Euなどがある。
【0073】
本発明の発光装置の一形態として、発光体または発光光源が320nm以上500nm以下の波長の光を発するLEDを用いると発光効率が高いため、高効率の発光装置を構成することができる。
【0074】
本発明の発光装置は、照明器具、液晶パネル用バックライト光源、プロジェクター用ランプ、赤外発光照明、赤外計測用光源であり得る。本発明の蛍光体は、電子線、100nm以上190nm以下の真空紫外線、190nm以上380nm以下の紫外線、380nm以上600nm以下の可視光などの励起で発光することが確認されており、これらの励起源と本発明の蛍光体との組み合わせで、上記のような発光装置を構成することができる。
【0075】
特定の化学組成を有する無機物質結晶相よりなる本発明の蛍光体は、白色の物体色を持つことから顔料又は蛍光顔料として使用することができる。すなわち、本発明の蛍光体に太陽光や蛍光灯などの照明を照射すると白色の物体色が観察されるが、その発色がよいこと、そして長期間に渡り劣化しないことから、本発明の蛍光体は無機顔料に好適である。このため、塗料、インキ、絵の具、釉薬、プラスチック製品に添加する着色剤などに用いると長期間に亘って良好な発色を高く維持することができる。
【0076】
本発明の蛍光体は、紫外線を吸収するため紫外線吸収剤としても好適である。このため、塗料として用いたり、プラスチック製品の表面に塗布したり内部に練り込んだりすると、紫外線の遮断効果が高く、製品を紫外線劣化から効果的に保護することができる。
【0077】
本発明の発光装置としては、本発明の蛍光体を含む、白色発光ダイオード、赤外発光ダイオード、白色と赤外を発光するダイオード、またはこれらの発光ダイオードを複数含む照明器具、液晶パネル用バックライト等がある。
【0078】
本発明を以下に示す実施例によってさらに詳しく説明するが、これはあくまでも本発明を容易に理解するための一助として開示したものであって、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0079】
[Ba26Si5184結晶(本結晶)の構造解析]
Ba26Si5184結晶を合成して、結晶構造を解析した。合成に使用した原料粉末は、比表面積11.2m/gの粒度の、酸素含有量1.29重量%、α型含有量95%の窒化ケイ素粉末(宇部興産(株)製のSN−E10グレード)と、二酸化ケイ素粉末(SiO;高純度化学研究所製)と、純度99.7%の窒化バリウム(Ba;マテリオン製)とであった。
【0080】
窒化バリウム(Ba)、窒化ケイ素(Si)、酸化ケイ素(SiO)をBa26Si5184組成となるように混合組成を設計した。これらの原料粉末を、上記混合組成となるように秤量し、酸素含有量1ppmの窒素雰囲気のグローブボックス中で窒化ケイ素焼結体製乳棒と乳鉢を用いて5分間混合を行なった。次いで、得られた混合粉末を、窒化ホウ素焼結体製のるつぼに投入した。混合粉末(粉体)の嵩密度は約30%であった。
【0081】
混合粉末が入ったるつぼを黒鉛抵抗加熱方式の電気炉にセットした。焼成の操作は、まず、拡散ポンプにより焼成雰囲気を1×10−1Pa以下圧力の真空とし、室温から800℃まで毎時500℃の速度で加熱し、800℃で純度が99.999体積%の窒素を導入して炉内の圧力を1MPaとし、毎時500℃で2000℃でまで昇温し、その温度で2時間保持した。
【0082】
合成物を光学顕微鏡で観察し、合成物中から10μmの大きさの結晶粒子を採取した。この粒子をエネルギー分散型元素分析器(EDS;ブルカー・エイエックスエス社製、QUANTAX)を備えた走査型電子顕微鏡(SEM;日立ハイテクノロジーズ社製、SU1510)を用いて、結晶粒子に含まれる元素の分析を行った。その結果、Ba、Si元素の存在が確認され、設計通りの組成であることが確認された。
【0083】
次にこの結晶をガラスファイバーの先端に有機系接着剤で固定した。これをMoKα線の回転対陰極付きの単結晶X線回折装置(ブルカー・エイエックスエス社製、SMART APEXII Ultra)を用いて、X線源の出力が50kV50mAの条件でX線回折測定を行った。その結果、この結晶粒子が単結晶であることを確認した。
【0084】
次に、X線回折測定結果から単結晶構造解析ソフトウエア(ブルカー・エイエックスエス社製、APEX2)を用いて結晶構造を求めた。得られた結晶構造データを表1に、結晶構造の図を図1に示す。表1には、結晶系、空間群、格子定数、原子の種類と原子位置が記述してあり、このデータを用いて、単位格子の形および大きさとその中の原子の並びを決めることができる。
【0085】
この結晶は、立方晶系に属し、空間群P−43n(−4は4のオーバーバー表示、International Tables for Crystallographyの218番の空間群)に属し、格子定数が、a=b=c= 1.65209nm、角度α=β=γ=90°であった。また原子位置は表1に示す通りであった。なお、OとNは同じ原子位置Xにある割合で存在し、その比は結晶の電気的中性の条件から求められる。単結晶X線構造解析から求めたこの結晶の組成はBa26Si5184であった。
【0086】
結晶構造データからこの結晶は今まで報告されていない新規の物質であることが確認された。結晶構造データから計算した粉末X線回折パターンを図2に示す。今後は、合成物の粉末X回折測定を行い、測定された粉末パターンが図2と同じであれば図1の結晶Ba26Si5184が生成していると判定できる。さらに、組成を変えることなどにより結晶構造を保ったまま格子定数等が変化したものは、粉末X線回折測定により得られた格子定数の値と表1の結晶構造データから計算により粉末X線パターンを計算できるので、計算パターンと比較することにより本同一結晶が生成していると判定できる。
【0087】
[実施例1:蛍光体]
次に、Ba26Si5184を母体結晶とする蛍光体を合成した。使用した原料粉末は、比表面積11.2m/gの粒度の、酸素含有量1.29重量%、α型含有量95%の窒化ケイ素粉末(宇部興産(株)製のSN−E10グレード)と、二酸化ケイ素粉末(SiO;高純度化学研究所製)と、純度99.7%の窒化バリウム(Ba;マテリオン製)と、窒化ユーロピウム(EuN;金属ユーロピウムをアンモニア気流中800℃で10時間加熱することにより、金属を窒化して得たもの)とであった。
【0088】
窒化バリウム(Ba)、窒化ケイ素(Si)、酸化ケイ素(SiO)窒化ユーロピウム(EuN)を、(Ba,Eu)26Si5184組成となるように混および合組成を設計した。BaとEuの比は、Eu/(Ba+Eu)=0.005とした。原料粉末を、Ba:8.627、EuN:0.130、Si:16.667、SiO:1のモル比となるように秤量し、酸素含有量1ppmの窒素雰囲気のグローブボックス中で窒化ケイ素焼結体製乳棒と乳鉢を用いて5分間混合を行なった。次いで、得られた混合粉末を、窒化ホウ素焼結体製のるつぼに投入した。混合粉末(粉体)の嵩密度は約30%であった。
【0089】
混合粉末が入ったるつぼを黒鉛抵抗加熱方式の電気炉にセットした。焼成の操作は、まず、拡散ポンプにより焼成雰囲気を1×10−1Pa以下圧力の真空とし、室温から800℃まで毎時500℃の速度で加熱し、800℃で純度が99.999体積%の窒素を導入して炉内の圧力を1MPaとし、毎時500℃で2000℃でまで昇温し、その温度で2時間保持した。
【0090】
合成物を光学顕微鏡で観察し、合成物中から10μmの大きさの結晶粒子を採取した。この粒子をエネルギー分散型元素分析器(EDS;ブルカー・エイエックスエス社製、QUANTAX)を備えた走査型電子顕微鏡(SEM;日立ハイテクノロジーズ社製、SU1510)を用いて、結晶粒子に含まれる元素の分析を行った。その結果、Ba、Eu、Si元素の存在が確認され、設計通りの組成であることが確認された。
【0091】
次にこの結晶をガラスファイバーの先端に有機系接着剤で固定した。これをMoKα線の回転対陰極付きの単結晶X線回折装置(ブルカー・エイエックスエス社製、SMART APEXII Ultra)を用いて、X線源の出力が50kV50mAの条件でX線回折測定を行った。その結果、この結晶粒子が単結晶であることを確認した。
【0092】
X線回折測定結果から単結晶構造解析ソフトウエア(ブルカー・エイエックスエス社製、APEX2)を用いて結晶構造を求めた。得られた構造は、本結晶の結晶構造と同じであった。なお、EuとBaは同じ原子位置にある割合で入り、酸素と窒素は同じ原子位置にある割合で入り、全体として平均化したときにその結晶の組成割合となる。
【0093】
次に、採取した結晶粒子を光学顕微鏡に設置し、360nmの紫外線を照射しながら顕微分光法により発光スペクトルを測定した。分光器は大塚電子製マルチチャンネル分光器MCPD9800を使用した。測定は、Naoto Hirosakiら、Chemistry of Materials、26巻、4280−4288ページ、2014年に記載の方法に準じて行った。発光スペクトルを図3に示す。
【0094】
図3は、実施例1の生成物の発光スペクトルを示す図である。
【0095】
実施例1の生成物は、360nmの波長を有する紫外線によって励起され、630nm以上の赤色および近赤外域にピークを有する光を発する蛍光体であることが分かった。詳細には、実施例1の蛍光体は、360nmの波長を有する紫外線によって励起され、ピーク波長750nmを有する赤外域の光を発した。
【0096】
[実施例2〜8:蛍光体]
実施例1と同じ原料粉末を用いて表2に示す組成で混合し、実施例1と同じ製造方法で(Ba,Eu)26Si51(O,N)86蛍光体を合成した。合成物から結晶粒子を採取し、単結晶X線回折装置で結晶相を同定した結果、表1に示すBa26Si5184と同一の結晶構造であることを確認した。この粒子に360nmの光を当てながら顕微分光法で発光スペクトルを測定した。発光ピーク波長は表2に示す様に赤から近赤外の発光であった。
【0097】
【表2】
【0098】
[実施例9〜20:蛍光体]
実施例1と同じ原料粉末を用いて表3に示す組成で混合し、実施例1と同じ製造方法で(A,M)26(D,E)5186蛍光体を合成した。表3の組成は(A,M)26(D,E)5186からずれている場合があるが、その場合は本同一結晶とその他の相との混合物になる。生成物から結晶粒子を採取し、単結晶X線回折装置で結晶相を同定した結果、表1に示すBa26Si5184と同一の結晶構造の物質が含まれることを確認した。この粒子に360nmの光を当てながら顕微分光法で発光スペクトルを測定した。発光ピーク波長は表3に示す様に赤から近赤外の発光であった。
【0099】
【表3】
【0100】
[実施例21〜38:蛍光体]
実施例1と同じ原料粉末と、窒化マグネシウム(Mg;マテリオン製)、窒化カルシウム(Ca;マテリオン製)、窒化ストロンチウム(Sr;マテリオン製)、比表面積3.3m/gの粒度の、酸素含有量0.82重量%の窒化アルミニウム粉末((株)トクヤマ製のEグレード)を適宜用いて表4に示す組成で混合し、実施例1と同じ製造方法で(A,M)26(D,E)5186蛍光体を合成した。表4の組成は(A,M)26(D,E)5186からずれている場合があるが、その場合は本同一結晶とその他の相との混合物になる。生成物から結晶粒子を採取し、単結晶X線回折装置で結晶相を同定した結果、表1に示すBa26Si5184と同一の結晶構造の物質が含まれることを確認した。この粒子に360nmの光を当てながら顕微分光法で発光スペクトルを測定したところ、630から850nmの範囲にピーク波長を持つ赤から近赤外の発光であった。
【0101】
【表4】
【0102】
[実施例39:発光装置]
次ぎに、本発明の蛍光体を備えた発光装置について説明する。
図4は、本発明による照明器具(砲弾型LED照明器具)を示す概略図である。
【0103】
図4に示す砲弾型白色発光ダイオードランプ(1)を製作した。2本のリードワイヤ(2、3)があり、そのうち1本(2)には、凹部があり、365nmに発光ピークを持つ紫外発光ダイオード素子(4)が載置されている。紫外発光ダイオード素子(4)の下部電極と凹部の底面とが導電性ペーストによって電気的に接続されており、上部電極ともう1本のリードワイヤ(3)とが金細線(5)によって電気的に接続されている。蛍光体(7)が樹脂に分散され、発光ダイオード素子(4)近傍に実装されている。この蛍光体を分散した第一の樹脂(6)は、透明であり、紫外発光ダイオード素子(4)の全体を被覆している。凹部を含むリードワイヤの先端部、青色発光ダイオード素子、蛍光体を分散した第一の樹脂は、透明な第二の樹脂(8)によって封止されている。透明な第二の樹脂(8)は全体が略円柱形状であり、その先端部がレンズ形状の曲面となっていて、砲弾型と通称されている。
【0104】
本実施例では、実施例1で作製した蛍光体とJEM:Ce青色蛍光体とβサイアロン:Eu緑色蛍光体とCaAlSiN:Eu赤色蛍光体とを質量比で4:4:1:1に混合した蛍光体粉末を35重量%の濃度でエポキシ樹脂に混ぜ、これをディスペンサを用いて適量滴下して、蛍光体(7)を混合したものを分散した第一の樹脂(6)を形成した。得られた発光装置の発色は、青色から赤外までの発光成分を含む白色であった。なお、JEM:Ce青色蛍光体、βサイアロン:Eu緑色蛍光体およびCaAlSiN:Eu赤色蛍光体は、それぞれ、特許文献7、特許文献4および特許文献9を参照して製造した。
【0105】
[実施例40:発光装置]
図5は、本発明による照明器具(基板実装型LED照明器具)を示す概略図である。
【0106】
図5に示す基板実装用チップ型発光ダイオードランプ(11)を製作した。可視光線反射率の高い白色のアルミナセラミックス基板(19)に2本のリードワイヤ(12、13)が固定されており、それらワイヤの片端は基板のほぼ中央部に位置し、他端はそれぞれ外部に出ていて電気基板への実装時ははんだづけされる電極となっている。リードワイヤのうち1本(12)は、その片端に、基板中央部となるように発光ピーク波長450nmの青発光ダイオード素子(14)が載置され固定されている。青色発光ダイオード素子(14)の下部電極と下方のリードワイヤとは導電性ペーストによって電気的に接続されており、上部電極ともう1本のリードワイヤ(13)とが金細線(15)によって電気的に接続されている。
【0107】
第一の樹脂(16)、および、実施例1で作製した蛍光体とCaAlSiN:Eu赤色蛍光体とを質量比で1:1に混合した蛍光体(17)を混合したものが、発光ダイオード素子近傍に実装されている。この蛍光体を分散した第一の樹脂は、透明であり、青色発光ダイオード素子(14)の全体を被覆している。また、セラミック基板上には中央部に穴の開いた形状である壁面部材(20)が固定されている。壁面部材(20)は、その中央部が青色発光ダイオード素子(14)及び蛍光体(17)を分散させた樹脂(16)がおさまるための穴となっていて、中央に面した部分は斜面となっている。この斜面は光を前方に取り出すための反射面であって、その斜面の曲面形は光の反射方向を考慮して決定される。また、少なくとも反射面を構成する面は白色または金属光沢を持った可視光線反射率の高い面となっている。本実施例では、該壁面部材(20)を白色のシリコーン樹脂によって構成した。壁面部材の中央部の穴は、チップ型発光ダイオードランプの最終形状としては凹部を形成するが、ここには青色発光ダイオード素子(14)及び蛍光体(17)を分散させた第一の樹脂(16)のすべてを封止するようにして透明な第二の樹脂(18)を充填している。本実施例では、第一の樹脂(16)と第二の樹脂(18)とには同一のエポキシ樹脂を用いた。赤および赤外発光のLEDが得られた。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明の蛍光体は、従来の蛍光体とは異なる発光特性(発光色や励起特性、発光スペクトル)を有し、かつ、LED励起源と組み合わせた場合でも発光強度が高く、化学的および熱的に安定であり、さらに励起源に曝された場合の蛍光体の輝度の低下が少ないので、白色LED、白色発光ダイオード等の発光装置、照明器具、液晶用バックライト光源、プロジェクター用ランプ、赤外発光照明、赤外計測用赤外光源などに好適に使用される蛍光体である。今後、各種発光装置における材料設計において、大いに活用され、産業の発展に寄与することが期待できる。
【符号の説明】
【0109】
1 砲弾型白色発光ダイオードランプ
2、3 リードワイヤ
4 紫外発光ダイオード素子
5 金細線
6、8 樹脂
7 蛍光体
11 基板実装用チップ型発光ダイオードランプ
12、13 リードワイヤ
14 青色発光ダイオード素子
15 金細線
16、18 樹脂
17 蛍光体
19 アルミナセラミックス基板
20 壁面部材
【要約】
【課題】 従来の窒化物蛍光体または酸窒化物蛍光体とは異なる新規発光特性を持つ新規蛍光体、その製造方法およびその発光装置を提供すること。
【解決手段】 本発明の蛍光体は、少なくともA元素と、D元素と、X元素(ただし、Aは、Mg、Ca、SrおよびBaからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素、Dは、Si元素、Xは、O、NおよびFからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素)とを含み、必要に応じてE元素(ただし、Eは、B、Al、GaおよびInからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素)を含むA26(D,E)5186で示される結晶に、さらに、M元素(ただしMは、Mn、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、DyおよびYbからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素)を含む無機物質を含有し、励起源を照射することにより、630nm〜850nmの範囲の波長に発光ピークの最大値を有する。
【選択図】 図1
図1
図2
図3
図4
図5