特許第6684419号(P6684419)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6684419
(24)【登録日】2020年4月1日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】コンタクト
(51)【国際特許分類】
   H01R 12/57 20110101AFI20200413BHJP
   H01R 13/24 20060101ALI20200413BHJP
【FI】
   H01R12/57
   H01R13/24
【請求項の数】5
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-40171(P2016-40171)
(22)【出願日】2016年3月2日
(65)【公開番号】特開2017-157437(P2017-157437A)
(43)【公開日】2017年9月7日
【審査請求日】2019年2月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000242231
【氏名又は名称】北川工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】中村 達哉
(72)【発明者】
【氏名】上野 和重
【審査官】 高橋 学
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−250320(JP,A)
【文献】 特開2007−324029(JP,A)
【文献】 特表2001−502837(JP,A)
【文献】 特表2014−511001(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/020176(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0233810(US,A1)
【文献】 国際公開第2015/032098(WO,A1)
【文献】 中国実用新案第2552177(CN,Y)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 12/57
H01R 13/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子回路基板が備える導体パターンに対してはんだ付けされて、前記電子回路基板とは別の導電性部材に接触することにより、前記導体パターンと前記導電性部材とを電気的に接続するコンタクトであって、
前記導体パターンに対してはんだ付けされる接合面を有する基部と、
前記導電性部材に対して接触する接触部と、
前記基部と前記接触部との間に介在する部分であり、前記接触部が前記導電性部材に接触した際に弾性変形することによって前記接触部を前記導電性部材に向かって押圧するばね部と
を備え、
前記基部、前記接触部、及び前記ばね部は、金属の薄板によって一体成形されており、
前記ばね部は、
前記基部から延び出た部分であり、前記薄板の板厚方向が径方向となる円弧をなす形状に湾曲する第一湾曲部と、
前記第一湾曲部における前記基部とは反対側となる箇所から平板状に延び出た平板部と、
前記平板部における前記第一湾曲部とは反対側となる箇所から延び出た部分であり、前記薄板の板厚方向が径方向となる円弧をなす形状に湾曲する第二湾曲部と
を含み、
前記薄板の表裏にある二面のうち、前記接合面を構成する面を第一面、前記第一面の裏側にある面を第二面として、前記第一湾曲部は、前記第一面が外周側となるように湾曲しており、前記第二湾曲部は、前記第二面が外周側となるように湾曲しており、
前記薄板は、板厚tが0.10〜0.15mmとされ、
前記第一湾曲部は、曲率半径R1が0.6〜1.0mmとされ、
前記平板部及び前記第一湾曲部は、前記平板部における前記第一湾曲部と前記第二湾曲部との間の長さLと前記曲率半径R1との比率L/R1が、0<L/R1≦4となるように構成されている
コンタクト。
【請求項2】
電子回路基板が備える導体パターンに対してはんだ付けされて、前記電子回路基板とは別の導電性部材に接触することにより、前記導体パターンと前記導電性部材とを電気的に接続するコンタクトであって、
前記導体パターンに対してはんだ付けされる接合面を有する基部と、
前記導電性部材に対して接触する接触部と、
前記基部と前記接触部との間に介在する部分であり、前記接触部が前記導電性部材に接触した際に弾性変形することによって前記接触部を前記導電性部材に向かって押圧するばね部と
を備え、
前記基部、前記接触部、及び前記ばね部は、金属の薄板によって一体成形されており、
前記ばね部は、
前記基部から延び出た部分であり、前記薄板の板厚方向が径方向となる円弧をなす形状に湾曲する第一湾曲部と、
前記第一湾曲部における前記第一湾曲部とは反対側となる箇所から延び出た部分であり、前記薄板の板厚方向が径方向となる円弧をなす形状に湾曲する第二湾曲部と
を含み、
前記薄板の表裏にある二面のうち、前記接合面を構成する面を第一面、前記第一面の裏側にある面を第二面として、前記第一湾曲部は、前記第一面が外周側となるように湾曲しており、前記第二湾曲部は、前記第二面が外周側となるように湾曲しており、
前記薄板は、板厚tが0.10〜0.15mmとされ、
前記第一湾曲部は、曲率半径R1が0.6〜1.0mmとされている
コンタクト。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のコンタクトであって、
前記第一湾曲部及び前記第二湾曲部は、前記曲率半径R1と前記第二湾曲部の曲率半径R2との比率R2/R1が、0.25≦R2/R1≦4.17となるように構成されている
コンタクト。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のコンタクトであって、
前記基部から延び出た部分であり、前記ばね部を挟んで両側となる位置に立設されて、それぞれの前記第二面が互いに対向しており、それぞれの板厚方向に貫通する貫通孔が設けられた一対の側壁部と、
前記接触部から延び出て前記一対の側壁部の間に入り込んだ部分に設けられ、当該入り込んだ部分の両側から突出して、一方が一方の前記貫通孔を貫通するとともに、他方が他方の前記貫通孔を貫通することにより、それぞれの可動範囲が前記貫通孔の内周によって規制されるように構成された一対の突出片と
を備えるコンタクト。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のコンタクトであって、
前記接触部には、前記導電性部材側に向かって突出する凸部が設けられている
コンタクト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コンタクトに関する。
【背景技術】
【0002】
電子回路基板におけるグランディング対策部品として、電子回路基板が備える導体パターンと、電子回路基板とは別の導電性部材(例えば、電子機器の筐体等。)とを電気的に接続するコンタクトが知られている(例えば、特許文献1参照。)。この種のコンタクトは、上述の導体パターンに対してはんだ付けされ、上述の導電性部材に接触することにより、導体パターンと導電性部材とを電気的に接続する。
【0003】
上記特許文献1に記載のコンタクトは、導体パターンに対してはんだ付けされる接合面を有する基部と、基部から延び出るばね部とを備え、これら基部及びばね部は、金属の薄板によって一体成形されている。ばね部は、基部から延び出て薄板の板厚方向が径方向となる円弧をなす形状に湾曲する第一湾曲部と、第一湾曲部から平板状に延び出る平板部と、平板部から延び出て薄板の板厚方向が径方向となる円弧をなす形状に湾曲する第二湾曲部とを有する。薄板の表裏にある二面のうち、基部の接合面を構成する面を第一面、第一面の裏側にある面を第二面とした場合、第一湾曲部は、第一面が外周側となるように湾曲しており、第二湾曲部は、第二面が外周側となるように湾曲している。そのため、これら第一湾曲部、平板部、及び第二湾曲部は、全体としては略S字状に構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許4482533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、例えば、自動車に搭載される車載機器等においては、据え置き型の電子機器とは異なり、自動車の走行中に振動が伝わる。このような振動する環境に置かれる電子機器において、上述のようなコンタクトを利用すると、コンタクトのばね部には振動に伴う負荷がかかる。そのため、コンタクトが据え置き型の電子機器で使用される場合に比べ、ばね部に疲労が生じやすくなる。そのような疲労が過大になった場合には、ばね部の破断に至る可能性もあり、グランディング対策の効果が低下するおそれがある。したがって、このような問題を防ぐには、ばね部が破断するのを抑制することが重要である。
【0006】
しかし、上記特許文献1に記載されているような、略S字状に構成された部分を有するばね部に関し、ばね部の破断を抑制するにはどのような対策を施せば良いのか、といった事項について、特許文献1には何ら具体的な事項が開示されていない。
【0007】
以上のような事情から、振動する環境で使用されても長期にわたってばね部の破断を抑制可能なコンタクトを提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下に説明するコンタクトは、電子回路基板が備える導体パターンに対してはんだ付けされて、電子回路基板とは別の導電性部材に接触することにより、導体パターンと導電性部材とを電気的に接続するコンタクトであって、導体パターンに対してはんだ付けされる接合面を有する基部と、導電性部材に対して接触する接触部と、基部と接触部との間に介在する部分であり、接触部が導電性部材に接触した際に弾性変形することによって接触部を導電性部材に向かって押圧するばね部とを備え、基部、接触部、及びばね部は、金属の薄板によって一体成形されており、ばね部は、基部から延び出た部分であり、薄板の板厚方向が径方向となる円弧をなす形状に湾曲する第一湾曲部と、第一湾曲部における基部とは反対側となる箇所から平板状に延び出た平板部と、平板部における第一湾曲部とは反対側となる箇所から延び出た部分であり、薄板の板厚方向が径方向となる円弧をなす形状に湾曲する第二湾曲部とを含み、薄板の表裏にある二面のうち、接合面を構成する面を第一面、第一面の裏側にある面を第二面として、第一湾曲部は、第一面が外周側となるように湾曲しており、第二湾曲部は、第二面が外周側となるように湾曲しており、薄板は、板厚tが0.10〜0.15mmとされ、第一湾曲部は、曲率半径R1が0.6〜1.0mmとされ、平板部及び第一湾曲部は、平板部における第一湾曲部と第二湾曲部との間の長さLと曲率半径R1との比率L/R1が、0<L/R1≦4となるように構成されている。
【0009】
また、次に説明するコンタクトは、電子回路基板が備える導体パターンに対してはんだ付けされて、電子回路基板とは別の導電性部材に接触することにより、導体パターンと導電性部材とを電気的に接続するコンタクトであって、導体パターンに対してはんだ付けされる接合面を有する基部と、導電性部材に対して接触する接触部と、基部と接触部との間に介在する部分であり、接触部が導電性部材に接触した際に弾性変形することによって接触部を導電性部材に向かって押圧するばね部とを備え、基部、接触部、及びばね部は、金属の薄板によって一体成形されており、ばね部は、基部から延び出た部分であり、薄板の板厚方向が径方向となる円弧をなす形状に湾曲する第一湾曲部と、第一湾曲部における第一湾曲部とは反対側となる箇所から延び出た部分であり、薄板の板厚方向が径方向となる円弧をなす形状に湾曲する第二湾曲部とを含み、薄板の表裏にある二面のうち、接合面を構成する面を第一面、第一面の裏側にある面を第二面として、第一湾曲部は、第一面が外周側となるように湾曲しており、第二湾曲部は、第二面が外周側となるように湾曲しており、薄板は、板厚tが0.10〜0.15mmとされ、第一湾曲部は、曲率半径R1が0.6〜1.0mmとされている。
【0010】
これら二つのコンタクトは、上述の平板部を有するか否かという点で相違する構造となっているが、その他の点は同様に構成されている。このように構成されたコンタクトにおいて、上述した各部の寸法、及び寸法の比率は、実際にばね部に対して負荷をかけた場合における破断箇所と、疲労解析を実行可能なシミュレーションソフトウェアによって予測した最大応力発生箇所とに基づいて設定されたものである。
【0011】
より詳しくは、発明者らが行った実験によれば、上述のようなばね部の破断箇所は、平板部を有する場合には第一湾曲部と平板部との境界付近となり、平板部を有していない場合には第一湾曲部と第二湾曲部との境界付近となる傾向があった。金属の薄板を加工する際、曲げ加工が施される第一湾曲部では加工硬化が発生しやすく、硬度の上昇や伸びの低下といった特性変化が起こりやすい。一方、平板部では曲げ加工が施されず、又、第二湾曲部では曲げ方向が第一湾曲部とは異なるため、いずれの場合においても第一湾曲部とは異なる特性となる。そのため、上述の境界付近では、強度的な特性が不連続になっており、これが上述の境界付近において破断が発生しやすい要因になっているものと推察される。
【0012】
一方、シミュレーションソフトウェアによって最大応力発生箇所を予測すると、最大応力発生箇所は第一湾曲部にあること、平板部における第一湾曲部と第二湾曲部との間の長さLがある程度以下であれば、最大応力発生箇所は上述の境界付近から離れた位置にあるものの、長さLがある程度以上になると、長さLが大きくなるほど最大応力発生箇所は上述の境界付近に近づくこと、などが判明した。最大応力発生箇所が上述の境界付近に近づけば、境界付近における破断は発生しやすくなるものと推察される。一方、最大応力発生箇所が上述の境界付近から離れていれば、境界付近にかかる負荷は軽減され、境界付近における破断は抑制されるものと推察される。
【0013】
そこで、このような知見に基づき、最大応力発生箇所が上述の境界付近に近づかないような数値範囲を検討したところ、薄板の板厚tが0.10〜0.15mm、第一湾曲部の曲率半径R1が0.6〜1.0mmとされている場合には、平板部における第一湾曲部と第二湾曲部との間の長さLと第一湾曲部の曲率半径R1との比率L/R1を、0≦L/R1≦4となるように設定するとよいことが判明した。なお、比率L/R1=0となる場合は、長さLが0の場合であり、これは平板部が存在しない場合(すなわち、第一湾曲部と第二湾曲部とが直接繋がっている場合。)に相当する。これらの事項に基づき、上述の平板部を有するコンタクト、及び平板部を有していないコンタクトを完成させるに至った。
【0014】
したがって、以上のように構成されたコンタクトによれば、最大応力発生箇所が上述の境界付近に存在し得るコンタクトに比べ、振動する環境で使用されても長期にわたってばね部の破断を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1Aはコンタクトを左前上方から見た斜視図である。図1Bはコンタクトを右後上方から見た斜視図である。
図2図2Aはコンタクトの平面図である。図2Bはコンタクトの左側面図である。図2Cはコンタクトの正面図である。図2Dはコンタクトの右側面図である。図2Eはコンタクトの背面図である。図2Fはコンタクトの底面図である。
図3図3図2A中にIII−III線で示した切断面における断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、上述のコンタクトについて、例示的な実施形態を挙げて説明する。なお、以下の説明においては、図中に併記した前後左右上下の各方向を利用して説明を行う。これらの各方向は、コンタクトの六面図(図2A図2F参照。)において、正面図に表れる箇所が向けられる方向を前、背面図に表れる箇所が向けられる方向を後、左側面図に表れる箇所が向けられる方向を左、右側面図に表れる箇所が向けられる方向を右、平面図に表れる箇所が向けられる方向を上、底面図に表れる箇所が向けられる方向を下、と規定した相対的な方向である。ただし、これらの各方向は、コンタクトを構成する各部の相対的な位置関係を簡潔に説明するために規定した方向に過ぎない。したがって、例えばコンタクトの使用時等に、コンタクトをどのような方向に向けて配置するかは任意である。
【0017】
[コンタクトの構成]
図1A図1B図2A図2B図2C図2D図2E,及び図2Fに示すように、コンタクト1は、電子回路基板が備える導体パターンに対してはんだ付けされて、電子回路基板とは別の導電性部材に接触することにより、導体パターンと導電性部材とを電気的に接続する部品である。コンタクト1は、基部3、接触部5、ばね部7、一対の側壁部9,9、及び一対の突出片11,11を備える。これら基部3、接触部5、ばね部7、一対の側壁部9,9、及び一対の突出片11,11は、金属の薄板(本実施形態の場合は、リフロー処理が施されたすずめっき付きのばね用ベリリウム銅の薄板。)によって一体成形されている。
【0018】
基部3は、導体パターンに対してはんだ付けされる接合面13を有する。本実施形態の場合、基部3から一対の側壁部9,9にわたる範囲には、開口箇所15が設けられている。そのため、基部3は、開口箇所15を挟む両側(図中でいう左右方向両側。)に分断されている。接触部5は、導電性部材に対して接触する部分である。本実施形態の場合、接触部5には、図中でいう上向きに突出する凸部17が設けられ、この凸部17で導電性部材に接触するように構成されている。
【0019】
ばね部7は、基部3と接触部5との間に介在する部分であり、接触部5が導電性部材に接触した際に弾性変形することによって接触部5を導電性部材に向かって押圧する。ばね部7は、第一湾曲部21、平板部23、及び第二湾曲部25を含む。第一湾曲部21は、基部3から延び出た部分であり、薄板の板厚方向が径方向となる円弧をなす形状に湾曲している。平板部23は、第一湾曲部21における基部3とは反対側となる箇所から平板状に延び出ている。第二湾曲部25は、平板部23における第一湾曲部21とは反対側となる箇所から延び出た部分であり、薄板の板厚方向が径方向となる円弧をなす形状に湾曲している。コンタクト1を構成する薄板の表裏にある二面のうち、上述の接合面13を構成する面を第一面、第一面の裏側にある面を第二面として、第一湾曲部21は、第一面が外周側となるように湾曲している。また、第二湾曲部25は、第二面が外周側となるように湾曲している。
【0020】
一対の側壁部9,9は、基部3から延び出た部分であり、ばね部7を挟んで両側となる位置に立設されて、それぞれの第二面が互いに対向している。一対の側壁部9,9には、それぞれの板厚方向(図中でいう前後方向。)に貫通する貫通孔27,27が設けられている。一対の突出片11,11は、接触部5から延び出て一対の側壁部9,9の間に入り込んだ部分29に設けられ、当該入り込んだ部分29の両側から突出している。一方の突出片11は一方の貫通孔27を貫通し、他方の突出片11は他方の貫通孔27を貫通するように構成されている。これにより、一対の突出片11,11それぞれの可動範囲は、貫通孔27,27の内周によって規制される。なお、各突出片11,11の突出方向先端部は、図中でいう上方へと折り曲げられている。
【0021】
コンタクト1の各部を構成する薄板は、板厚tが0.10〜0.15mmとされている(ただし、t=0.12mmの例を図示。)。第一湾曲部21は、曲率半径R1(図3参照。)が0.6〜1.0mmとされている(ただし、R1=0.8mmの例を図示。)。平板部23及び第一湾曲部21は、平板部23における第一湾曲部21と第二湾曲部25との間の長さLと曲率半径R1との比率L/R1が、0<L/R1≦4となるように構成されている(ただし、L≒0.65mm、R1=0.8mm、L/R1≒0.81の例を図示。)。
【0022】
さらに、本実施形態の場合、第一湾曲部21及び第二湾曲部25は、第一湾曲部21の曲率半径R1と第二湾曲部25の曲率半径R2との比率R2/R1が、0.25≦R2/R1≦4.17となるように構成されている(ただし、R1=0.8mm、R2=1.88mm、R2/R1=2.35の例を図示。)。
【0023】
これら各部の寸法、及び寸法の比率は、実際にばね部7に対して負荷をかけた場合における破断箇所と、疲労解析を実行可能なシミュレーションソフトウェアによって予測した最大応力発生箇所とに基づいて設定されたものである。なお、本実施形態の場合、シミュレーションソフトウェアとしては、SOLIDWORKS Simulation Premium(ダッソー・システムズ・ソリッドワークス社製)を利用した。発明者らが行った実験によれば、上述のようなばね部7の破断箇所は、平板部23を有する場合には第一湾曲部21と平板部23との境界付近となり、平板部23を有していない場合には第一湾曲部21と第二湾曲部25との境界付近となる傾向があった。金属の薄板を加工する際、上述の境界付近では加工硬化が発生しやすく、硬度の上昇や伸びの低下といった特性変化が起こりやすい。そのため、より低硬度で伸びやすい状態にある他箇所よりも、上述の境界付近において破断が発生しやすくなるものと推察される。
【0024】
一方、シミュレーションソフトウェアによって最大応力発生箇所を予測すると、最大応力発生箇所は第一湾曲部21にあること、平板部23における第一湾曲部21と第二湾曲部25との間の長さLがある程度以上まで大きくなると最大応力発生箇所が上述の境界付近に近づくこと、などが判明した。最大応力発生箇所が上述の境界付近に近づけば、境界付近における破断は発生しやすくなるものと推察される。一方、最大応力発生箇所が上述の境界付近から離れていれば、境界付近にかかる負荷は軽減され、境界付近における破断は抑制されるものと推察される。
【0025】
そこで、本実施形態においては、最大応力発生箇所が上述の境界付近に近づかないようにすることを検討した。下記表1は、第一湾曲部21の曲率半径R1を0.6mm、0.8mm、及び1.0mmとした場合それぞれにおいて、上記長さLを0〜7mmの範囲内で変更して、それぞれの場合に、最大応力発生箇所がどのような位置になるのかを解析した結果である。なお、上記長さL=0となる場合は平板部23が存在しない場合(すなわち、第一湾曲部21と第二湾曲部25とが直接繋がっている場合。)に相当する。
【0026】
【表1】
【0027】
解析結果によれば、最大応力発生箇所は、長さLがある程度以下の数値範囲内にある場合には、第一湾曲部21と平板部23との境界の位置(L>0の場合。)、又は第一湾曲部21と第二湾曲部25との境界の位置(L=0の場合。)から離れた位置にあり、その位置は長さLを変更しても大きくは変化しなかった。一方、長さLがある程度以上の数値範囲内になると、最大応力発生箇所は、長さLが大きくなるほど上述のような境界位置に近づいてゆく傾向があった。そこで、上記表1においては、長さLを表1中に示すように少しずつ増大させた場合に、その増大前と増大後とで最大応力発生箇所の位置に大きな変化がない場合を評価A、増大後に最大応力発生箇所の位置が境界位置に近づく場合を評価Bとした。
【0028】
例えば、曲率半径R1が0.6mmの場合、上記長さLを2.5mmから3.0mmに増大させると最大応力発生箇所の位置が境界位置に近づき始める。そのため、表1においては、上記長さLが3mm以上となる数値範囲において評価Bとの判定をしている。同様に、曲率半径R1が0.8mmの場合は、上記長さLを4.0mmから4.5mmに増大させると最大応力発生箇所の位置が境界位置に近づき始める。そのため、表1においては、上記長さLが4.5mm以上となる数値範囲において評価Bとの判定をしている。さらに、曲率半径R1が1.0mmの場合は、上記長さLを6.0mmから6.5mmに増大させると最大応力発生箇所の位置が境界位置に近づき始める。そのため、表1においては、上記長さLが6.5mm以上となる数値範囲において評価Bとの判定をしている。
【0029】
これらの各場合について、長さLと曲率半径R1との比率L/R1を求めると、表1中に示すような結果となる。したがって、確実に評価Aとなる範囲内における比率L/R1の最大値は4.17であり、曲率半径R1が0.6〜1.0mmの範囲内にある場合は、比率L/R1を4.17以下に設定すると、ばね部7が上述のような境界付近で破断するのを抑制できるものと推察された。
【0030】
次に、下記表2は、第一湾曲部21の曲率半径R1を0.6mmに固定し、コンタクト1を構成する薄板の板厚tを、0.10mm、0.12mm、及び0.15mmとした場合それぞれにおいて、上記長さLを0〜4.5mmの範囲内で変更して、それぞれの場合に、最大応力発生箇所がどのような位置になるのかを解析した結果である。なお、表2中、t=0.12mm、L=4.0mm、4.5mmの場合については、評価を実施していない。
【0031】
【表2】
【0032】
解析結果によれば、例えば、板厚tが0.10mmの場合、上記長さLを2.4mmから2.5mmに増大させると最大応力発生箇所の位置が境界位置に近づき始める。そのため、表2においては、上記長さLが2.5mm以上となる数値範囲において評価Bとの判定をしている。同様に、板厚tが0.12mmの場合、上記長さLを2.5mmから3.0mmに増大させると最大応力発生箇所の位置が境界位置に近づき始める。そのため、表2においては、上記長さLが3.0mm以上となる数値範囲において評価Bとの判定をしている。さらに、板厚tが0.15mmの場合、上記長さLを3.0mmから3.5mmに増大させると最大応力発生箇所の位置が境界位置に近づき始める。そのため、表2においては、上記長さLが3.5mm以上となる数値範囲において評価Bとの判定をしている。
【0033】
これらの各場合について、長さLと曲率半径R1との比率L/R1を求めると、表2中に示すような結果となる。したがって、確実に評価Aとなる範囲内における比率L/R1の最大値は4.00であり、板厚tが0.10〜0.15mmの範囲内にある場合は、比率L/R1を4.00以下に設定すると、ばね部7が上述のような境界付近で破断するのを抑制できるものと推察された。よって、上記表1及び表2に示す解析結果を総合的に勘案すると、比率L/R1を4.00以下に設定すると、ばね部7の破断リスクを低減できるものと考えられる。したがって、最大応力発生箇所が上述の境界付近に存在し得るコンタクト1に比べ、振動する環境で使用されても長期にわたってばね部7の破断を抑制することができる。
【0034】
次に、第一湾曲部21の曲率半径R1と第二湾曲部25の曲率半径R2との関係についても検討を行った。下記表3は、第一湾曲部21の曲率半径R1を0.6mmに固定し、上述の長さLを、4.50mm、4.95mm(4.50mmの10%増。)、及び4.05mm(4.50mmの10%減。)とした場合それぞれにおいて、上記曲率半径R2を0.15〜4.00mmの範囲内で変更して、それぞれの場合に、最大応力値がどの程度の大きさになるのかを解析した結果である。
【0035】
【表3】
【0036】
解析結果によれば、例えば、長さLが4.50mmの場合、曲率半径R2を3.00mmから3.50mmに増大させると最大応力値が大きく増大する。そのため、表3においては、曲率半径R2が3.50mm以上となる数値範囲において評価Bとの判定をしている。同様に、長さLが4.95mmの場合、曲率半径R2を3.00mmから3.50mmに増大させると最大応力値が大きく増大する。そのため、表3においては、曲率半径R2が3.50mm以上となる数値範囲において評価Bとの判定をしている。さらに、長さLが4.05mmの場合、曲率半径R2を2.50mmから3.00mmに増大させると最大応力値が大きく増大する。そのため、表3においては、曲率半径R2が3.00mm以上となる数値範囲において評価Bとの判定をしている。
【0037】
これらの各場合について、曲率半径R2と曲率半径R1との比率R2/R1を求めると、表3中に示すような結果となる。したがって、確実に評価Aとなる範囲内における比率R2/R1は0.25≦R2/R1≦4.17であり、このような数値範囲内となるように比率R2/R1を設定すると、第一湾曲部21において発生する最大応力値が過大になるのを抑制することができ、これにより、ばね部7での破断を抑制することができるものと考えられる。
【0038】
[効果]
以上説明した通り、上記コンタクト1によれば、薄板の板厚tを0.10〜0.15mm、第一湾曲部21の曲率半径R1を0.6〜1.0mmとし、さらに、平板部23における第一湾曲部21と第二湾曲部25との間の長さLと曲率半径R1との比率L/R1を0<L/R1≦4とするか、平板部23を設けない構造(すなわち、L=0。)としてある。したがって、最大応力発生箇所が上述のような境界付近に存在し得るコンタクト1に比べ、振動する環境で使用されても長期にわたってばね部7の破断を抑制することができる。
【0039】
また、本実施形態の場合、第一湾曲部21の曲率半径R1と第二湾曲部25の曲率半径R2との比率R2/R1を、0.25≦R2/R1≦4.17となるように構成してある。したがって、第一湾曲部21において発生する最大応力値が過大になるのを抑制することができ、これにより、ばね部7での破断が発生するのを抑制することができる。
【0040】
また、本実施形態の場合、貫通孔27,27によって突出片11の可動範囲を規制しているので、突出片11とともに移動する接触部5についても、その可動範囲を規制することができる。したがって、ばね部7の弾性変形に伴って接触部5が予期しない位置へ変位してしまうことがなく、導電性部材に対して適正に接触部5が接触する状態を維持することができる。
【0041】
また、本実施形態の場合、接触部5に凸部17が設けられているので、接触部5を凸部17のある箇所において確実に導電性部材に対して接触させることができる。また、導電性部材に対して凸部17で接触すると、凸部17よりも広い面で導電性部材に接触する場合に比べ、より狭い範囲に接触圧を集中させることができる。したがって、そのような狭い範囲に接触圧が集中すれば、そのような範囲に生じる酸化被膜が削られやすくなり、導電性が良好な状態を容易に維持することができる。
【0042】
また、本実施形態の場合、接触部5を構成する薄板の板厚方向に直交する一方の面のうち、当該一方の面における最周縁部よりも内側となる箇所に凸部17の頂点がある。そのため、接触部5を構成する薄板の板厚方向に直交する一方の面のうち、当該一方の面における最周縁部に凸部の頂点がある場合とは異なり、凸部17の頂点は、接触部5を構成する薄板の端面から離れた位置にあり、そのような薄板の端面から離れた箇所で導電性部材に接触する。したがって、めっき被膜が施されていない薄板の端面(プレス加工時の切断面。)と導電性部材との接触を避けることができ、これにより、異種金属の接触に起因する腐食(ガルバニック腐食等。)が発生するのを抑制することができる。
【0043】
[他の実施形態]
以上、コンタクトについて、例示的な実施形態を挙げて説明したが、上述の実施形態は本開示の一態様として例示されるものに過ぎない。すなわち、本開示は、上述の例示的な実施形態に限定されるものではなく、本開示の技術的思想を逸脱しない範囲内において、様々な形態で実施することができる。
【0044】
例えば、上記実施形態では、接触部5の形状を具体的に例示したが、接触部5は導電性部材に接触して、導電性部材に対して電気的に接続される構造になっていればよく、その具体的な形状は限定されない。また、一対の側壁部9,9の形状も限定されず、一対の側壁部9,9を備えるか否かも任意である。
【0045】
また、上記実施形態では、接触部5が一つの凸部17を備える例を示したが、凸部17の数は二つ以上であってもよい。凸部17を増やして接触点数を増やせば、その分だけ導電経路が増えるので、これにより、低インピーダンス化を図ることができる。
【0046】
また、上記実施形態において、一つの構成要素で実現していた所定の機能を、複数の構成要素が協働して実現するように構成してあってもよい。あるいは、上記実施形態では、複数の構成要素それぞれが有していた複数の機能や、複数の構成要素が協働して実現していた所定の機能を、一つの構成要素が実現するように構成してあってもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加又は置換してもよい。なお、特許請求の範囲に記載した文言のみによって特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が、本開示の実施形態に該当する。
【0047】
[補足]
なお、以上説明した例示的な実施形態から明らかなように、本開示のコンタクトは、更に以下に挙げるような構成を備えていてもよい。
【0048】
まず、本開示のコンタクトにおいて、第一湾曲部及び第二湾曲部は、曲率半径R1と第二湾曲部の曲率半径R2との比率R2/R1が、0.25≦R2/R1≦4.17となるように構成されていてもよい。
【0049】
このように構成されたコンタクトにおいて、第一湾曲部の曲率半径R1と第二湾曲部の曲率半径R2との比率R2/R1を0.25≦R2/R1≦4.17とするのは、第一湾曲部において発生する最大応力値が過大になるのを抑制するためである。第一湾曲部において発生する最大応力値が過大になることも、シミュレーションソフトウェアによって予測した事項である。第一湾曲部において発生する最大応力値が過大になれば、ばね部での破断も発生しやすくなるものと推察される。したがって、比率R2/R1を上述のような数値範囲内に収めることにより、第一湾曲部において発生する最大応力値が過大になるのを抑制することにより、ばね部での破断を抑制することができる。
【0050】
また、本開示のコンタクトにおいて、基部から延び出た部分であり、ばね部を挟んで両側となる位置に立設されて、それぞれの第二面が互いに対向しており、それぞれの板厚方向に貫通する貫通孔が設けられた一対の側壁部と、接触部から延び出て一対の側壁部の間に入り込んだ部分に設けられ、当該入り込んだ部分の両側から突出して、一方が一方の貫通孔を貫通するとともに、他方が他方の貫通孔を貫通することにより、それぞれの可動範囲が貫通孔の内周によって規制されるように構成された一対の突出片とを備えてもよい。
【0051】
このように構成されたコンタクトによれば、貫通孔によって突出片の可動範囲を規制しているので、突出片とともに移動する接触部についても、その可動範囲を規制することができる。したがって、ばね部の弾性変形に伴って接触部が予期しない位置へ変位してしまうことがなく、導電性部材に対して適正に接触部が接触する状態を維持することができる。
【0052】
また、本開示のコンタクトにおいて、接触部には、導電性部材側に向かって突出する凸部が設けられていてもよい。
このように構成されたコンタクトによれば、接触部に凸部が設けられているので、接触部を凸部のある箇所において確実に導電性部材に対して接触させることができる。また、導電性部材に対して凸部で接触すると、凸部よりも広い面で導電性部材に接触する場合に比べ、より狭い範囲に接触圧を集中させることができる。したがって、そのような狭い範囲に接触圧が集中すれば、そのような範囲に生じる酸化被膜が削られやすくなり、導電性が良好な状態を容易に維持することができる。
【符号の説明】
【0053】
1…コンタクト、3…基部、5…接触部、7…ばね部、9…側壁部、11…突出片、13…接合面、15…開口箇所、17…凸部、21…第一湾曲部、23…平板部、25…第二湾曲部、27…貫通孔。
図1
図2
図3