特許第6684517号(P6684517)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6684517
(24)【登録日】2020年4月1日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】寿命診断装置および寿命診断方法
(51)【国際特許分類】
   B66B 1/34 20060101AFI20200413BHJP
   B66B 3/00 20060101ALI20200413BHJP
   B66B 5/00 20060101ALI20200413BHJP
【FI】
   B66B1/34 A
   B66B3/00 R
   B66B5/00 G
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2019-827(P2019-827)
(22)【出願日】2019年1月7日
【審査請求日】2019年1月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】390025265
【氏名又は名称】東芝エレベータ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100150717
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 和也
(74)【代理人】
【識別番号】100120385
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 健之
(72)【発明者】
【氏名】藤井 康弘
【審査官】 加藤 三慶
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/078377(WO,A1)
【文献】 国際公開第2004/082114(WO,A1)
【文献】 特開2012−010490(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 5/00− 5/28
H02M 7/42− 7/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源電力を駆動電力に変換する変換素子を有し、前記駆動電力によってエレベータのかごを昇降させる電動機を駆動し、前記電動機に流れる電流の電流値を検出するインバータ装置と、前記かごの速度を制御するための速度指令データを生成し、前記速度指令データおよび前記電流値に基づいて、前記かごの速度を制御する制御信号を前記変換素子に出力する制御装置と、を備えたエレベータ制御システムに搭載され、前記変換素子の寿命を診断する寿命診断装置であって、
前記速度指令データおよび前記電流値に基づいて前記変換素子のケース部分の温度上昇値を算出し、または、前記速度指令データに基づいて前記ケース部分の温度下降値を算出する温度変化量算出部と、
前記ケース部分の温度変化量と、当該温度変化量での前記ケース部分の1回の連続する温度上昇および温度下降であるパワーサイクルの許容最大回数との対応関係を示すパワーサイクル特性に基づいて、前記温度上昇値及び前記温度下降値を、既定温度変化量での前記ケース部分の1回の連続する温度上昇および温度下降が行われたときのサイクル数を1とした場合のサイクル数に変換し、当該サイクル数を累積させた累積サイクル数を記憶するサイクル数累積部と、
前記累積サイクル数に基づき前記変換素子の寿命を診断する寿命診断部と、
前記温度下降値に基づいて、前記既定温度変化量よりも小さい一定範囲の前記ケース部分の温度下降を検出する温度下降検出部と、
前記一定範囲のケース部分の温度下降が検出された変換素子で駆動される前記かごの、呼びに対する応答時間が一定時間以下である場合に、前記かごを他のかごに優先して前記呼びに応答させる応答処理部と、を備える寿命診断装置。
【請求項2】
前記温度変化量算出部は、前記温度上昇値および前記温度下降値に基づいて前記ケース部分の温度変化量を記録し、前記速度指令データに前記かごの停止を指示する停止信号が含まれるようになった場合に、予め設定された係数に基づいて、前記停止信号が含まれるようになったときから前記温度変化量がゼロになるまでの時間を算出し、前記温度変化量がゼロになるまでの時間と、前記停止信号が含まれるようになったときからの経過時間とに基づいて、前記温度下降値を算出する、請求項1に記載の寿命診断装置。
【請求項3】
前記寿命診断部は、前記既定温度変化量に対応する前記許容最大回数と、前記累積サイクル数とに基づいて、前記パワーサイクルの残り可能サイクル数を算出し、前記インバータ装置の稼働日数と、前記累積サイクル数とに基づいて、前記パワーサイクルの1日当たりの平均サイクル数を算出し、前記残り可能サイクル数と、前記平均サイクル数とに基づいて、前記変換素子の寿命を推定する、請求項1または2に記載の寿命診断装置。
【請求項4】
前記電流値と前記制御信号とに基づいて前記変換素子のジャンクション温度の上昇値を算出し、当該上昇値に基づいて前記変換素子の寿命を診断するジャンクション寿命診断部と、
前記累積サイクル数に基づく寿命および前記ジャンクション温度の上昇値に基づく寿命のうちの短い方の寿命を前記変換素子の寿命であると判別する判別部と、を更に備える、請求項1〜3のいずれか1項に記載の寿命診断装置。
【請求項5】
電源電力を駆動電力に変換する変換素子を有し、前記駆動電力によってエレベータのかごを昇降させる電動機を駆動し、前記電動機に流れる電流の電流値を検出するインバータ装置と、前記かごの速度を制御するための速度指令データを生成し、前記速度指令データおよび前記電流値に基づいて、前記かごの速度を制御する制御信号を前記変換素子に出力する制御装置と、を備えたエレベータ制御システムにおいて前記変換素子の寿命を診断する寿命診断方法であって、
前記速度指令データおよび前記電流値に基づいて前記変換素子のケース部分の温度上昇値を算出し、または、前記速度指令データに基づいて前記ケース部分の温度下降値を算出する工程と、
前記ケース部分の温度変化量と、当該温度変化量での前記ケース部分の1回の連続する温度上昇および温度下降であるパワーサイクルの許容最大回数との対応関係を示すパワーサイクル特性に基づいて、前記温度上昇値及び前記温度下降値を、既定温度変化量での前記ケース部分の1回の連続する温度上昇および温度下降が行われたときのサイクル数を1とした場合のサイクル数に変換し、当該サイクル数を累積させた累積サイクル数を記憶する工程と、
前記累積サイクル数に基づき前記変換素子の寿命を診断する工程と、
前記温度下降値に基づいて、前記既定温度変化量よりも小さい一定範囲の前記ケース部分の温度下降を検出する工程と、
前記一定範囲のケース部分の温度下降が検出された変換素子で駆動される前記かごの、呼びに対する応答時間が一定時間以下である場合に、前記かごを他のかごに優先して前記呼びに応答させる工程と、を備える寿命診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明による実施形態は、寿命診断装置および寿命診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、エレベータに用いられるインバータ装置に備えられた主変換素子のケース側パワーサイクルの寿命を診断する技術が存在する。例えば、特許文献1では、かご走行パターン毎のパワーモジュールの発熱温度変化幅の推定値をかご走行パターンに対応付けて予め登録しておき、主制御部からの走行指令に基づいてかご走行パターンに対応する発熱温度変化幅での発熱回数を積算し、その積算した発熱回数に基づいてパワーモジュールが寿命に到達したかどうかを判定する技術が提案されている。
【0003】
しかしながら、特許文献1に示される技術では、寿命を診断する際に、素子の発熱によるケース温度の上昇値のみを考慮しており、ケース温度の下降値は考慮していない。このため、ケース温度が下降し難い連続稼働運転の場合と、ケース温度が下降し易い間欠運転の場合とで、寿命の診断結果に差異が生じてしまう。したがって、従来は、変換素子の寿命の診断精度を向上させることが困難であるといった問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開WO2008/078377
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本実施の形態は、このような点を考慮してなされたものであり、変換素子の寿命の診断精度を向上させることができる寿命診断装置および寿命診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施形態による寿命診断装置は、電源電力を駆動電力に変換する変換素子を有し、駆動電力によってエレベータのかごを昇降させる電動機を駆動し、電動機に流れる電流の電流値を検出するインバータ装置と、かごの速度を制御するための速度指令データを生成し、速度指令データおよび電流値に基づいて、かごの速度を制御する制御信号を変換素子に出力する制御装置と、を備えたエレベータ制御システムに搭載され、変換素子の寿命を診断する寿命診断装置である。寿命診断装置は、温度変化量算出部と、サイクル数累積部と、寿命診断部と、を備える。温度変化量算出部は、速度指令データおよび電流値に基づいて変換素子のケース部分の温度上昇値を算出し、または、速度指令データに基づいてケース部分の温度下降値を算出する。サイクル数累積部は、ケース部分の温度変化量と、当該温度変化量でのケース部分の1回の連続する温度上昇および温度下降であるパワーサイクルの許容最大回数との対応関係を示すパワーサイクル特性に基づいて、温度上昇値または温度下降値を、既定温度変化量でのケース部分の1回の連続する温度上昇および温度下降が行われたときのサイクル数を1とした場合のサイクル数に変換し、当該サイクル数を所定値で除して温度上昇分または温度下降分のサイクル数に変換し、温度上昇分または温度下降分のサイクル数を累積させた累積サイクル数を記憶する。寿命診断部は、累積サイクル数に基づき変換素子の寿命を診断する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】第1の実施形態による寿命診断装置を備えた制御盤を示すブロック図である。
図2】第1の実施形態による寿命診断装置の動作例を示すフローチャートである。
図3図2に続く第1の実施形態による寿命診断装置の動作例を示すフローチャートである。
図4】第1の実施形態による寿命診断装置の動作例において、パワーサイクル特性を示すグラフである。
図5】第1の実施形態による寿命診断装置の動作例において、パワーサイクルの1サイクルおよび1サイクルを定義する既定温度変化量を示すグラフである。
図6】第1の実施形態による寿命診断装置の動作例において、累積サイクル数を示すグラフである。
図7】第2の実施形態による寿命診断装置を備えた制御盤を示すブロック図である。
図8】第2の実施形態による寿命診断装置の動作例を示すフローチャートである。
図9】第3の実施形態による寿命診断装置を備えた制御盤を示すブロック図である。
図10】第4の実施形態による寿命診断装置を備えた制御盤を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明に係る実施形態を説明する。本実施形態は、本発明を限定するものではない。また、実施形態で参照する図面において、同一部分または同様な機能を有する部分には同一の符号または類似の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0009】
(第1の実施形態)
以下、第1の実施形態による寿命診断装置および寿命診断方法について説明する。図1は、第1の実施形態による寿命診断装置6を備えたエレベータ制御システムの一例である制御盤1を示すブロック図である。
【0010】
図1に示すように、制御盤1は、インバータ装置4と、制御装置5と、寿命診断装置6とを備える。以下、これらの制御盤1の構成について詳しく説明する。
【0011】
インバータ装置4は、電源電力を駆動電力に変換する変換素子42を有し、駆動電力によってエレベータのかごを昇降させる巻上機の電動機2を駆動する装置である。変換素子42は、例えば、銅等の金属で構成されたベース(すなわち、ケース部分)と、ベース上に配置された半導体チップと、半導体チップを封止するパッケージとを有する。変換素子42は、例えば、パワー半導体等で構成されたスイッチング素子である。なお、図示はしないが、インバータ装置4は、商用の交流電源から供給された交流電力を直流電力に変換するコンバータおよび平滑化コンデンサを備え、変換素子42は、コンバータおよび平滑化コンデンサによって変換された直流電力を、交流電力に変換して電動機2に供給する。また、インバータ装置4は、変換素子42と電動機2との間の電力ライン上に配置されたカレントセンサ41を備える。カレントセンサ41は、変換素子42から電動機2に流れる電流の電流値を検出する。カレントセンサ41は、検出された電流値を制御装置5に出力する。
【0012】
制御装置5は、かごの速度を制御するための速度指令データを生成し、速度指令データおよびカレントセンサ41で検出された電流値に基づいて、かごの速度を制御する制御信号を変換素子42に出力する。速度指令データの生成は、例えば、利用者の呼び登録操作等に基づいて決定されたかごの運転モード(例えば、各階に停止するモードや行先階まで直通するモードなど)に基づいて行ってもよい。制御信号は、例えば、変換素子42を駆動するパルス状の信号であり、電源から電動機2に供給される電流の電流値を制御する。
【0013】
また、制御装置5は、変換素子42の寿命を診断するために、電流値および速度指令データを温度変化量算出部61に出力する。
【0014】
寿命診断装置6は、制御盤1に備えられ、変換素子42の寿命を診断する装置である。寿命診断装置6は、温度変化量算出部61と、サイクル数累積部62と、寿命診断部63とを備える。
【0015】
温度変化量算出部61は、変換素子42のケース部分(すなわち、半導体チップを搭載したベース)の温度変化量を算出する寿命診断装置6の構成部である。温度変化量を算出するための具体的な構成として、温度変化量算出部61は、温度上昇算出部611と、温度下降算出部613と、温度変化量記録部612とを備える。
【0016】
温度上昇算出部611は、制御装置5から取得した速度指令データおよび電流値に基づいて、変換素子42のケース部分の温度上昇値を算出する。例えば、速度指令データにかごの加速を指令する加速信号が含まれる場合、温度上昇算出部611は、電流値に応じた温度上昇値を算出する。温度上昇算出部611は、算出された温度上昇値を温度変化量記録部612およびサイクル数累積部62に出力する。
【0017】
温度下降算出部613は、制御装置5から取得した速度指令データに基づいて、変換素子42のケース部分の温度下降値を算出する。例えば、速度指令データにかごの停止を指令する停止信号が含まれる場合、温度下降算出部613は、停止信号が含まれるようになったときからの経過時間に応じた温度下降値を算出する。温度下降算出部613は、算出された温度下降値を温度変化量記録部612およびサイクル数累積部62に出力する。
【0018】
温度変化量記録部612は、温度上昇算出部611で算出された温度上昇値と温度下降算出部613で算出された温度下降値とに基づいて変換素子42のケース部分の基準温度(例えば、変換素子42の駆動開始前の温度)に対する温度変化量を算出し、算出された温度変化量を記録する。
【0019】
温度変化量記録部612で記録された温度変化量は、温度下降算出部613による温度降下値の算出に用いられる。すなわち、温度下降算出部613は、速度指令データに停止信号が含まれるようになった場合に、予め設定された係数に基づいて、停止信号が含まれるようになったときから温度変化量記録部612に記録された温度変化量がゼロになるまでの時間を算出する。そして、温度下降算出部613は、算出された温度変化量がゼロになるまでの時間と、停止信号が含まれるようになったときからの経過時間とに基づいて、温度下降値を算出する。温度降下値の算出の更なる詳細については後述する。
【0020】
サイクル数累積部62は、既定温度変化量でのパワーサイクルのサイクル数を基準とした温度上昇値または温度下降値のサイクル数を累積する寿命診断装置6の構成部である。サイクル数累積部62は、サイクル数算出部621と、パワーサイクル特性記憶部622と、サイクル数記憶部623とを備える。
【0021】
パワーサイクル特性記憶部622は、変換素子42のケース部分の温度変化量と、当該温度変化量でのケース部分の1回の連続する温度上昇および温度下降であるパワーサイクルの許容最大回数との対応関係を示すパワーサイクル特性を記憶している。パワーサイクル特性は、例えば、ケース部分の温度変化量とパワーサイクルの許容最大回数との対応関係を示す一次関数であってもよい。
【0022】
サイクル数算出部621は、パワーサイクル特性記憶部622に記憶されたパワーサイクル特性に基づいて、温度上昇算出部611から取得した温度上昇値または温度下降算出部613から取得した温度下降値を、既定温度変化量での変換素子42のケース部分の1回の連続する温度上昇および温度下降が行われたときのサイクル数を1とした場合のサイクル数(以下、相対サイクル数とも呼ぶ)に変換する。そして、サイクル数算出部621は、変換された相対サイクル数を所定値で除することで、相対サイクル数を温度上昇分または温度下降分のサイクル数に変換する。
【0023】
例えば、サイクル数算出部621は、温度上昇算出部611から温度上昇値が取得された場合には、パワーサイクル特性に基づいて温度上昇値を変換した相対サイクル数を2で除算することで、温度上昇分のサイクル数を算出する。この場合、温度上昇分のサイクル数は、相対サイクル数の1/2となる。また、サイクル数算出部621は、温度下降算出部613から温度下降値が取得された場合には、パワーサイクル特性に基づいて温度下降値を変換した相対サイクル数を2で除算することで、温度下降分のサイクル数を算出する。この場合、温度下降分のサイクル数は、相対サイクル数の1/2となる。サイクル数算出部621は、算出された温度上昇分または温度下降分のサイクル数をサイクル数記憶部623に出力する。
【0024】
サイクル数記憶部623は、サイクル数算出部621から取得した温度上昇分または温度下降分のサイクル数を累積させた累積サイクル数を記憶する。サイクル数記憶部623は、記憶された累積サイクル数を所定の診断周期で寿命診断部63に出力する。
【0025】
寿命診断部63は、サイクル数記憶部623から取得した累積サイクル数に基づいて、変換素子42の寿命を診断する。例えば、寿命診断部63は、累積サイクル数が一定サイクル数に達した場合に、変換素子42が寿命に達したと判断する。寿命診断部63は、変換素子42が寿命に達したと判断した場合に、変換素子42の交換を要求する交換要求信号を遠隔監視センタ3に送信する。
【0026】
次に、図2図6を参照して、以上のように構成された寿命診断装置6の動作例について説明する。図2は、第1の実施形態による寿命診断装置6の動作例を示すフローチャートである。図3は、図2に続く第1の実施形態による寿命診断装置6の動作例を示すフローチャートである。図4は、第1の実施形態による寿命診断装置6の動作例において、パワーサイクル特性を示すグラフである。図5は、第1の実施形態による寿命診断装置6の動作例において、パワーサイクルの1サイクルおよび1サイクルを定義する既定温度変化量を示すグラフである。図6は、第1の実施形態による寿命診断装置6の動作例において、累積サイクル数を示すグラフである。
【0027】
図2は、寿命診断装置6の動作例として、寿命診断装置6における温度下降算出部613の動作例を示している。図2に示すように、先ず、温度下降算出部613は、制御装置5から速度指令データを取得する(ステップS101)。
【0028】
速度指令データを取得した後、温度下降算出部613は、速度指令データに停止信号が含まれているか否かを判定する(ステップS102)。この判定は、変換素子42のケース部分の温度上昇が停止したか否かの判定、すなわちケース部分の温度下降が開始するか否かの判定に相当する。速度指令データに停止信号が含まれている場合(ステップS102:Yes)、温度下降算出部613は、温度変化量記録部612から温度変化量を抽出する(ステップS103)。一方、速度指令データに停止信号が含まれていない場合(ステップS102:No)、温度下降算出部613は、速度指令データに停止信号が含まれているか否かの判定を繰り返す(ステップS102)。
【0029】
温度変化量記録部612から温度変化量を抽出した後、温度下降算出部613は、予め設定した係数に基づいて、速度指令データに停止信号が含まれるようになったとき(すなわち、温度上昇が停止したとき)から温度変化量が0になるまでの時間を算出する。予め設定した係数は、例えば、変換素子42のケース部分の放熱係数や放熱時定数であってもよい。
【0030】
温度変化量が0になるまでの時間を算出した後、温度下降算出部613は、速度指令データに停止信号が含まれるようになったときからの経過時間のカウントを開始する(ステップS105)。
【0031】
経過時間のカウントを開始した後、温度下降算出部613は、ステップS104で算出された温度変化量が0になるまでの時間が経過時間以上であるか否か、すなわち、温度変化量が0になるまでの時間を経過時間が超えたか否かを判定する(ステップS106)。
【0032】
温度変化量が0になるまでの時間を経過時間が超えた場合(ステップS106:No)、温度下降算出部613は、ステップS103で抽出された温度変化量を温度下降値に決定し、決定された温度下降値をサイクル数累積部62および温度変化量記録部612に送信する(ステップS107)。
【0033】
一方、温度変化量が0になるまでの時間を経過時間が超えていない場合(ステップS106:Yes)、温度下降算出部613は、速度指令データに加速信号が含まれているか否かを判定する(ステップS108)。この判定は、変換素子42のケース部分の温度が基準温度まで下がりきっていないうちに、かごの再起動によるケース部分の新たな温度上昇が開始したか否かの判定に相当する。
【0034】
速度指令データに加速信号が含まれている場合(ステップS108:Yes)、速度指令データに停止信号が含まれるようになったときから速度指令データに加速信号が含まれるようになったとき(すなわち、温度上昇が再開したとき)までの経過時間と、予め設定した係数とに基づいて、温度下降値を算出する(ステップS109)。そして、温度下降算出部613は、算出された温度下降値をサイクル数累積部62および温度変化量記録部612に送信する(ステップS110)。
【0035】
このようにして、かごの稼働状況に応じて変換素子42のケース部分の温度下降値を適切に算出することができる。
【0036】
図3は、図2に続く寿命診断装置6の動作例として、サイクル数算出部621の動作例を示している。図3に示すように、先ず、サイクル数算出部621は、パワーサイクル特性記憶部622に記憶されたパワーサイクル特性を取得する(ステップS201)。図4の例において、パワーサイクル特性201Eは、変換素子42のケース部分の温度変化量(横軸)と、当該温度変化量でのパワーサイクルの許容最大回数(縦軸)との対応関係を示す一次関数である。図4の例において、201Aは、変換素子42のケース部分の既定温度変化量であり、201Bは、既定温度変化量201Aでのパワーサイクルの許容最大回数である。既定温度変化量とは、パワーサイクルの1サイクルを定義するための温度変化量である。具体的には、図5に示すように、サイクル数算出部621においては、既定温度変化量201Aでの変換素子42のケース部分の1回の連続する温度上昇および温度下降が行われたときのサイクル数が1サイクルと定義されている。なお、図5において、202Bは、温度変化量が0となるケース部分の基準温度である。
【0037】
パワーサイクル特性を取得した後、図3に示すように、サイクル数算出部621は、温度上昇算出部611から温度上昇値を取得し、または、温度下降算出部613から温度下降値を取得する(ステップS202)。
【0038】
温度上昇値または温度下降値を取得した後、サイクル数算出部621は、S201で取得したパワーサイクル特性に基づいて、温度上昇値または温度下降値を既定温度変化量でのサイクル数を1としたときの相対サイクル数に変換する(ステップS203)。例えば、図4に示すように、温度下降算出部613から温度下降値201Cが取得された場合、サイクル数算出部621は、既定温度変化量201Aに対応する許容最大回数201Bを温度下降値201Cに対応する許容最大回数201Dで除することで、温度下降値201Cを相対サイクル数201B/201Dに変換する。
【0039】
温度上昇値または温度下降値を相対サイクル数に変換した後、サイクル数算出部621は、変換された相対サイクル数を所定値で除して温度上昇分または温度下降分のサイクル数に変換する(ステップS204)。例えば、図4に示すように温度下降値201Cが取得された場合、サイクル数算出部621は、温度下降値201Cを変換した相対サイクル数201B/201Dを2で除算することで、相対サイクル数201B/201Dを温度下降分のサイクル数201B/(2×201D)に変換する。この場合、例えば、相対サイクル数が0.5の場合には、温度下降分のサイクル数は0.25となる。
【0040】
相対サイクル数を温度上昇分または温度下降分のサイクル数に変換した後、サイクル数算出部621は、変換された温度上昇分または温度下降分のサイクル数をサイクル数記憶部623に送信する(ステップS205)。サイクル数記憶部623は、サイクル数算出部621から送信されたサイクル数を既に記憶されているサイクル数に累積させた累積サイクル数を記憶する。寿命診断部63は、サイクル数記憶部623に記憶された累積サイクル数に基づいて、変換素子42の寿命を診断する。
【0041】
もし、温度下降値を考慮しないで変換素子42の寿命を診断する場合、図6(a)に示すように、かごが起動して変換素子42のケース部分の温度が上昇した後に、かごが停止して温度が下降し始めた後、温度が下がりきらない状態でかごが再び起動して温度が再び上昇した場合に、温度が下がりきらない時点で1サイクルか完了したと判断されてしまうおそれがある。すなわち、図6(a)のような連続稼働運転が行われる場合、変換素子42の実際の寿命よりも早く変換素子42が寿命に達したと診断されてしまう。
【0042】
これに対して、本実施形態では、温度下降値を考慮するため、図6(b)に示すように、温度が下がりきらない状態で温度が再び上昇した場合には、そのときまでのサイクル数を1サイクルよりも短いサイクル数(図示されている例では、0.7サイクル)としてカウントすることができる。これにより、連続稼働運転が行われる場合でも、変換素子42の寿命を適切に診断することができる。
【0043】
したがって、第1の実施形態によれば、変換素子42の寿命の診断精度を向上させることができる。また、変換素子42の寿命の診断精度を向上させることで、変換素子42の適切な交換タイミングを把握して、変換素子42の故障にともなうエレベータの停止を未然に回避することができる。
【0044】
(第2の実施形態)
次に、残り可能サイクル数および平均サイクル数に基づいて変換素子42の寿命を推定する第2の実施形態について説明する。図7は、第2の実施形態による寿命診断装置6を備えた制御盤1を示すブロック図である。
【0045】
図7に示すように、第2の実施形態による寿命診断装置6は、第1の実施形態の構成に加えて、更に、寿命診断部63が、稼働日数記憶部631と、既定サイクル数記憶部632と、残り可能サイクル数算出部633とを備える。稼働日数記憶部631は、インバータ装置4の稼働日数を記憶する。インバータ装置4の稼働日数は、例えば、現在使用されている変換素子42が設置されたときからの稼働日数であってもよい。既定サイクル数記憶部632には、既述した既定温度変化量に対応するパワーサイクルの許容最大回数(以下、既定サイクル数とも呼ぶ)が記憶されている。
【0046】
残り可能サイクル数算出部633は、既定サイクル数記憶部632に記憶されている既定サイクル数と、サイクル数記憶部623から取得した累積サイクル数とに基づいて、パワーサイクルの残り可能サイクル数を算出する。例えば、残り可能サイクル数算出部633は、既定サイクル数から累積サイクル数を減算することで、残り可能サイクル数を算出してもよい。
【0047】
また、残り可能サイクル数算出部633は、稼働日数記憶部631に記憶されたインバータ装置4の稼働日数と、累積サイクル数とに基づいて、パワーサイクルの1日当たりの平均サイクル数を算出する。例えば、残り可能サイクル数算出部633は、累積サイクル数をインバータ装置4の稼働日数で除算することで、平均サイクル数を算出してもよい。
【0048】
そして、残り可能サイクル数算出部633は、算出された残り可能サイクル数と平均サイクル数とに基づいて、変換素子42の寿命を推定する。例えば、残り可能サイクル数算出部633は、残り可能サイクル数を平均サイクル数で除算することで、変換素子42の残り寿命(日数)を推定してもよい。
【0049】
次に、図8を参照して、以上のように構成された第2の実施形態による寿命診断装置6の動作例について説明する。図8は、第2の実施形態による寿命診断装置6の動作例を示すフローチャートである。より詳しくは、図8は、寿命診断装置6における残り可能サイクル数算出部633の動作例を示している。
【0050】
図8に示すように、先ず、残り可能サイクル数算出部633は、サイクル数記憶部623から累積サイクル数を取得する(ステップS301)。
【0051】
累積サイクル数を取得した後、残り可能サイクル数算出部633は、稼働日数記憶部631からインバータ装置4の稼働日数を取得する(ステップS302)。
【0052】
インバータ装置4の稼働日数を取得した後、残り可能サイクル数算出部633は、累積サイクル数および稼働日数に基づいて1日当たりの平均サイクル数を算出する(ステップS303)。
【0053】
平均サイクル数を算出した後、残り可能サイクル数算出部633は、既定サイクル数記憶部632から既定サイクル数を取得する(ステップS304)。
【0054】
既定サイクル数を取得した後、残り可能サイクル数算出部633は、既定サイクル数および累積サイクル数に基づいて残り可能サイクル数を算出する(ステップS305)。
【0055】
残り可能サイクル数を算出した後、残り可能サイクル数算出部633は、残り可能サイクル数および平均サイクル数に基づいて変換素子42の残り寿命を算出する(ステップS306)。
【0056】
残り寿命を算出した後、残り可能サイクル数算出部633は、残り寿命が閾値以下であるか否かを判定する(ステップS307)。
【0057】
残り寿命が閾値以下である場合(ステップS307:Yes)、残り可能サイクル数算出部633は、遠隔監視センタ3に残り寿命を送信する(ステップS308)。一方、残り寿命が閾値以下でない場合(ステップS307:No)、残り可能サイクル数算出部633は、処理を終了する。
【0058】
第2の実施形態によれば、残り可能サイクル数および平均サイクル数に基づいて変換素子42の寿命を推定することで、変換素子42の寿命の診断精度を第1の実施形態よりも更に向上させることができる。
【0059】
(第3の実施形態)
次に、変換素子42のケース部分の温度下降に応じて呼びへの応答を制御する第3の実施形態について説明する。
【0060】
図9は、第3の実施形態による寿命診断装置6を備えた制御盤1を示すブロック図である。第3の実施形態における寿命診断装置6は、第2の実施形態の構成に加えて、更に、温度下降検出部64と、応答処理部65とを備える。
【0061】
温度下降検出部64は、温度下降算出部613で算出された温度下降値に基づいて、既定温度変化量よりも小さい一定範囲の変換素子42のケース部分の温度下降を検出する。
【0062】
応答処理部65は、温度下降検出部64によって既定温度変化量よりも小さい一定範囲のケース部分の温度下降が検出された場合であって、この温度降下が検出された変換素子42で駆動されるかご(以下、自号機のかごと呼ぶ)の、呼びに対する応答時間が一定時間以下であるか否かを判定する。一定時間は、例えば、図5に示した1サイクルの時間である。
【0063】
自号機のかごの応答時間が一定時間以下であるか否かを判定するにあたって、応答処理部65は、他号機の制御盤1aから他号機の運転状態情報を取得し、取得した運転状態情報を加味して自号機のかごの応答時間を算出する。そして、応答処理部65は、算出された応答時間を一定時間と比較して判定を行う。
【0064】
自号機のかごの呼びに対する応答時間が一定時間以下である場合に、応答処理部65は、自号機のかごを他号機のかごに優先して呼びに応答させる。
【0065】
第3の実施形態によれば、呼びに対する応答時間が短い場合に、図6(b)に示したように連続稼働運転を意図的に行うことで、変換素子42のケース部分の温度低下を抑えることができる。これにより、変換素子42のケース部分のパワーサイクルの寿命を延ばすことができる。
【0066】
(第4の実施形態)
次に、累積サイクル数およびジャンクション温度の上昇値に基づいて変換素子42の寿命を診断する第4の実施形態について説明する。図10は、第4の実施形態による寿命診断装置6を備えた制御盤1を示すブロック図である。
【0067】
図10に示すように、第4の実施形態による寿命診断装置6は、第3の実施形態の構成に加えて、更に、ジャンクション寿命診断部66と、判別部の一例である破損要因判別部67とを備える。
【0068】
ジャンクション寿命診断部66は、制御装置5から取得された電流値および制御信号に基づいて、変換素子42のジャンクション温度の上昇値を算出する。ジャンクション温度は、半導体チップの接合部の温度である。そして、ジャンクション寿命診断部66は、算出されたジャンクション温度の上昇値に基づいて変換素子42の寿命を診断する。例えば、ジャンクション寿命診断部66は、ジャンクション温度の上昇値が大きいほど変換素子42の寿命が短い寿命であると診断する。
【0069】
破損要因判別部67は、残り可能サイクル数算出部633で推定された累積サイクル数に基づく寿命およびジャンクション寿命診断部66で診断されたジャンクション温度の上昇値に基づく寿命のうちの短い方の寿命を、変換素子42の寿命であると判別する。そして、破損要因判別部67は、判別された寿命が閾値以下である場合に、遠隔監視センタ3に変換素子42の交換要求信号を送信する。
【0070】
第4の実施形態によれば、ケース部分の寿命およびジャンクション寿命のうち短い方を変換素子42の寿命であると診断することで、変換素子42の寿命の診断精度を第1〜第3の実施形態よりも更に向上させることができる。
【0071】
本実施形態による寿命診断装置6の少なくとも一部は、ハードウェアで構成してもよいし、ソフトウェアで構成してもよい。ソフトウェアで構成する場合には、寿命診断装置6の少なくとも一部の機能を実現するプログラムをフレキシブルディスクやCD−ROM等の記録媒体に収納し、コンピュータに読み込ませて実行させてもよい。記録媒体は、磁気ディスクや光ディスク等の着脱可能なものに限定されず、ハードディスク装置やメモリなどの固定型の記録媒体でもよい。また、寿命診断装置6の少なくとも一部の機能を実現するプログラムを、インターネット等の通信回線(無線通信も含む)を介して頒布してもよい。さらに、同プログラムを暗号化したり、変調をかけたり、圧縮した状態で、インターネット等の有線回線や無線回線を介して、あるいは記録媒体に収納して頒布してもよい。
【0072】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0073】
1 制御盤、4 インバータ装置、42 変換素子、6 寿命診断装置、61 温度変化量算出部、62 サイクル数累積部、63 寿命診断部
【要約】      (修正有)
【課題】変換素子の寿命の診断精度を向上させることができる寿命診断装置および寿命診断方法を提供すること。
【解決手段】寿命診断装置6は、速度指令データ、電流値に基づき変換素子のケース部分の温度上昇値を算出し、速度指令データに基づきケース部分の温度下降値を算出する温度変化量算出部61と、ケース部分の温度変化量とパワーサイクルの許容最大回数との対応関係を示すパワーサイクル特性に基づき、温度上昇値/下降値を、既定温度変化量でのケース部分の1回の連続する温度上昇および温度下降が行われたときのサイクル数を1とした場合のサイクル数に変換し、サイクル数を所定値で除して温度上昇分/下降分のサイクル数に変換し、変換したサイクル数を累積させた累積サイクル数を記憶するサイクル数累積部62と、累積サイクル数に基づき変換素子の寿命を診断する寿命診断部63とを備える。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10