(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
<溶接機1>
図1は、本発明の実施の形態による溶接機1の一構成例を示した概略構成図である。溶接機1は、溶接材からなる溶接電極2aと加工対象物である溶接母材4との間にアークを発生させるアーク溶接機であり、トーチ2、クランプ3、電源装置10及び操作装置20を備える。この溶接機1では、操作装置20を用いて、溶接負荷に供給される溶接電流を溶接作業中に調整することができる。
【0017】
トーチ2は、溶接材やシールドガスを溶接母材4に供給するための装置であり、棒状の溶接材の先端がトーチ2から露出し、溶接電極2aを形成している。トーチ2は、出力ケーブル12を介して電源装置10の一方の出力端子(負極性の出力端子)に接続され、溶接電流は、出力ケーブル12を介して、溶接電極2aに供給される。
【0018】
クランプ3は、溶接母材4を挟持するとともに、出力ケーブル13を介して電源装置10の他方の出力端子(正極性の出力端子)に接続されている。溶接電流は、出力ケーブル13を介して溶接母材4から電源装置10に流れる。
【0019】
電源装置10は、商用電源を利用して、溶接電極2a及び溶接母材4からなる溶接負荷に溶接電流を供給する溶接機本体ユニットである。電源装置10の筐体前面には、操作パネル11と、出力ケーブル12及び13を接続するための出力端子と、操作装置20を接続するための接続端子24とが設けられている。
【0020】
操作装置20は、溶接電流を調整するための装置であり、溶接作業者が手又は足で押下操作する操作子22を備え、操作子22の押下量に応じた指令値を出力する。操作装置20は、配線ケーブル23を介して着脱可能に電源装置10に接続され、指令値は、配線ケーブル23を介して、電源装置10に出力される。
【0021】
図示した操作装置20は、安定した場所に載置される操作基部21と、操作基部21に対し回動する操作子22とにより構成される操作ペダルである。すなわち、操作子22は、一端が操作基部21により回動可能に支持され、押圧力が付加されることによって下方に回動し、押圧力の解放によって元の位置に復帰する。
【0022】
<操作パネル11>
図2は、
図1の操作パネル11の詳細構成の一例を示した図であり、操作パネル11の一部分が示されている。この操作パネル11には、パラメータ切替ボタン111及び112、セットボタン113、表示器114、調整つまみ115、ダウンボタン116、並びに、アップボタン117が設けられている。
【0023】
パラメータ切替ボタン111及び112は、各種パラメータを切り替えるための操作キーである。パラメータ切替ボタン111及び112を操作することにより、複数のパラメータが順次に切り替わり、いずれか一つのパラメータが設定対象として選択される。セットボタン113は、選択されたパラメータの値を確定する操作キーである。セットボタン113を操作することにより、選択中のパラメータが、表示器114に表示された値に変更される。
【0024】
表示器114は、設定対象として選択されたパラメータの値を表示する表示手段である。例えば、表示器114は、3つの7セグメント表示ユニットにより構成され、3桁の数字を表示する。
【0025】
調整つまみ115は、表示器114の表示値を変更する回転式の操作子であり、一方向に回転させると、その回転角に応じて表示値が増加し、逆方向に回転すれば、表示値が減少する。ダウンボタン116及びアップボタン117は、押下操作ごとに、表示器114の表示値を1ずつ減少又は増加させる操作キーである。例えば、調整つまみ115を用いて、おおまかな変更を行うとともに、ダウンボタン116及びアップボタン117を用いて細かな変更を行うことができる。
【0026】
本実施の形態では、パラメータ切替ボタン111及び112を用いて、後述する電流設定値Isに関する調整上限値I
UP及び調整下限値I
LOWをパラメータとして選択することができ、調整つまみ115、表示器114、ダウンボタン116及びアップボタン117を用いて、これらのパラメータの値を指定することができる。
【0027】
<操作装置20>
図3は、
図1の操作装置20の内部構成の一例を示した図である。この操作装置20は、起動信号を出力する起動スイッチ25、指令値Cを出力するボリューム26とを備えている。
【0028】
起動スイッチ25は、操作子22が僅かに押下されると起動信号を出力する。また、押圧力が解放され、操作子22が非押下状態に復帰すれば、起動スイッチ25は、起動信号の出力を停止する。
【0029】
起動スイッチ25は、操作子22に連動して、オフ状態とオン状態とが切り替わる接点式スイッチであり、電源装置10へ起動信号を出力する。非押下状態の操作子22が押下され、その押下量が予め定められた起動押下量に達すると、起動スイッチ25は、オフ状態からオン状態に移行し、起動信号が出力される。その後、押圧力の解放により操作子22が復帰すれば、起動スイッチ25は再びオフ状態に移行し、起動信号の出力は停止する。
【0030】
ボリューム26は、操作子22の押下量に応じた指令値Cを出力する。本実施の形態では指令値Cが押下量に対し略線形であるものとし、押下量が増大すれば指令値Cも増大するものとする。また、最小の指令値Cに対応する押下量を最小押下量とし、最大の指令値Cに対応する押下量を最大押下量とする。最小押下量は、非押下状態における押下量であってもよいし、起動押下量又はこれを超える所定の押下量であってもよい。
【0031】
図示したボリューム26は、抵抗素子Rと、操作子22に連動して抵抗素子R上を摺動する接点Tとにより構成される可変抵抗器である。抵抗素子Rの一端には、電源装置10から直流電圧V
1が供給され、抵抗素子Rの他端は接地され、抵抗素子Rによって分圧された接点Tの直流電圧V
2が指令値Cとして電源装置10に出力される。例えば、電源装置10から直流電圧V
1=10Vが入力されている場合、直流電圧V
2=0〜10Vが指令値Cとして出力される。また、最大押下量は、最大の指令値10Vに対応づけられ、最小押下量は、最小の指令値0Vに対応づけられる。
【0032】
<電源装置10>
図4は、
図1の電源装置10の機能構成の一例を示したブロック図である。この電源装置10は、上限値指定部101、上限値記憶部102、下限値指定部103、下限値記憶部104、表示部105、指令値変換部106及び溶接電流制御部107により構成される。
【0033】
電源装置10は、操作装置20から指令値Cが入力されると、当該指令値Cを電流設定値Isに変換し、当該電流設定値Isに基づいて、溶接負荷に供給する溶接電流を制御する。電流設定値Isは、溶接作業中に操作装置20を用いてユーザが設定できる溶接電流の制御目標値である。また、電源装置10において、ユーザは、電流設定値I
Sの調整上限値I
UP及び調整下限値I
LOWを指定することができ、指令値Cから電流設定値Isへの変換は、これらの調整上限値I
UP及び調整下限値I
LOWに基づいて行われる。
【0034】
上限値指定部101は、ユーザ操作に基づいて、電流設定値Isに関する調整上限値I
UPを指定する。調整上限値I
UPを指定するユーザ操作は、操作パネル11上で行われ、指定された調整上限値I
UPは、上限値記憶部102に格納される。調整上限値I
UPは、電流設定値Isの調整範囲の上限を規定する値であり、操作子22の最大押下量に対応づけられる。
【0035】
調整上限値I
UPは、溶接電流の絶対値によって指定される。例えば、溶接負荷を考慮し、溶接作業中に必要となり得る溶接電流の最大値がユーザによって指定される。また、調整上限値I
UPは、電源装置10の最大出力電流I
MAX以下の値であるから、最大出力電流I
MAXを超える値を指定できないように、上限値指定部101によって制限されている。
【0036】
下限値指定部103は、ユーザ操作に基づいて、電流設定値Isに関する調整下限値I
LOWを指定する。調整下限値I
LOWを指定するユーザ操作は、操作パネル11上で行われ、指定された調整下限値I
LOWは、下限値記憶部104に格納される。調整下限値I
LOWは、電流設定値Isの調整範囲の下限を規定する値であり、操作子22の最小押下量に対応づけられる。
【0037】
調整下限値I
LOWは、溶接電流の絶対値として指定することもできるし、調整上限値I
UPに対する相対値として指定することもできる。例えば、調整下限値I
LOWは、調整上限値I
UPを基準とする百分率によって指定されるものであってもよい。調整下限値I
LOWが相対値で指定される場合、当該相対値が下限値記憶部104によって保持され、調整上限値I
UPが変更された場合に、指令値Cから電流設定値Isへの変換に使用される調整下限値I
LOWの絶対値は、調整上限値I
UPとともに変化するように構成されていることが望ましい。
【0038】
また、調整下限値I
LOWは、電源装置10の最小出力電流I
MIN以上の値であることが望ましく、調整下限値I
LOWは、下限値指定部103によって最小出力電流I
MIN以上に制限される。さらに、大小関係を逆転させないために、調整下限値I
LOWは、調整上限値I
UP以下でなければならない。このため、調整下限値I
LOWは、下限値指定部103によって調整上限値I
UP以下に制限され、調整上限値I
UPを超える値に変更することはできない。
【0039】
本実施の形態では、調整下限値I
LOWは、最小出力電流I
MINから調整上限値I
UPまでの調整範囲に対する相対値、つまり、最小出力電流I
MINを0%、調整上限値I
UPを100%とする百分率によって指定され、その値は0%以上、100%以下に制限されているものとする。
【0040】
なお、調整下限値I
LOWが調整上限値I
UPと一致すれば、操作装置20による電流設定値Isの調整を行うことができないため、調整下限値I
LOWは、調整上限値I
UP未満に制限されていることがより望ましい。さらに、所定の調整範囲が常に確保されるように、100%よりも小さい所定値以下となるように調整下限値I
LOWを制限することもできる。例えば、百分率で指定される調整下限値I
LOWを0%〜90%の範囲内に制限すれば、少なくとも10%に相当する調整範囲を常時確保することができる。
【0041】
表示部105は、調整上限値I
UP及び調整下限値I
LOWを表示器114に表示する。設定対象のパラメータとして調整上限値I
UPが選択されると、調整上限値I
UPが溶接電流の絶対値として表示器114に表示される。例えば、電流の単位「アンペア」を用いて、調整上限値I
UPが数値表示される。ユーザは、この数値表示を見ながら、調整上限値I
UPの確認及び変更を行うことができる。
【0042】
一方、設定対象のパラメータとして調整下限値I
LOWが選択されると、調整下限値I
LOWが調整上限値I
UPに対する相対値として表示器114に表示される。例えば、調整上限値I
UPを100%、最小出力電流I
MINを0%とする百分率を用いて、調整下限値I
LOWが数値表示される。ユーザは、この数値表示を見ながら、調整下限値I
LOWの確認及び変更を行うことができる。
【0043】
指令値変換部106は、操作装置20から入力された指令値Cを電流設定値Isに変換する。この変換処理は、調整上限値I
UP及び調整下限値I
LOWとに基づいて行われる。つまり、指令値Cは、調整上限値I
UP及び調整下限値I
LOWによって規定される調整範囲内の電流設定値Isに変換される。
【0044】
指令値変換部106は、調整下限値I
LOWが相対値で指定された場合、次の関係式を用いて絶対値を求める。調整下限値I
LOWの相対値をx(%)とし、対応する絶対値をy(A)とすれば、調整上限値I
UP及び最小出力電流I
MINを用いて
y={I
MIN+(I
UP−I
MIN)×x/100}
と表される。
【0045】
例えば、I
MIN=5A、I
UP=200Aの場合、調整下限値I
LOWの相対値がx=50%であれば、調整下限値I
LOWの絶対値は102.5Aになる。また、下限値の相対値がx=25%であれば、下限値の絶対値は53.75Aになる。
【0046】
図5は、
図1の溶接機1の動作の一例を示した図であり、操作装置20を用いた溶接電流の調整が容易化される様子が示されている。図中の(a)には、操作子22の押下量と操作装置20から出力される指令値Cとの関係が示され、(b)には、指令値Cと電流設定値Isとの関係が示されている。この図は、最小出力電流I
MINが5Aであり、調整上限値I
UPが200Aである場合が示されている。
【0047】
操作装置20から出力される指令値Cは、操作子22の押下量に応じて変化する。図中の(a)に示した通り、指令値Cと押下量との対応関係は、傾きが一定の直線により表される。最小押下量は、指令値=0Vに対応づけられ、最大押下量は、指令値=10Vに対応づけられている。図中には、任意の押下量sに対し、0V以上10V以下の指令値cが出力される様子が示されている。
【0048】
電流設定値Isは、指令値Cに応じて変化する。図中の(b)に示した通り、電流設定値Isと指令値Cとの対応関係も、傾きが一定の直線R1〜R3により表される。直線R1〜R3は、いずれも調整上限値I
UPとして200Aが指定されている。
【0049】
直線R1は、調整下限値I
LOW1として相対値0%が指定された場合の対応関係を示している。相対値0%は最小出力電流I
MIN=5Aに相当するから、調整下限値I
LOW1=5Aが指定されたことになる。このとき、任意の指令値cは、電流設定値I
S1(5≦I
S1≦200)に対応づけられる。
【0050】
直線R2は、調整下限値I
LOW2として相対値25%が指定された場合の対応関係を示している。相対値25%は53.75Aに相当するから、調整下限値I
LOW2=53.75Aが指定されたことになる。このとき、任意の指令値cは、電流設定値I
S2(I
LOW2≦I
S2≦200)に対応づけられる。
【0051】
直線R3は、調整下限値I
LOW3として相対値50%が指定された場合の対応関係を示している。相対値50%は102.5Aに相当するから、調整下限値I
LOW=102.5Aが指定されたことになる。このとき、任意の指令値cは、電流設定値I
S3(I
LOW3≦I
S3≦200)に対応づけられる。
【0052】
直線R1〜R3を比較すれば、電流設定値Isの調整範囲(I
LOW1〜I
UP、I
LOW2〜I
UP、I
LOW3〜I
UP)は、R1>R2>R3の関係にあり、直線の傾きもR1>R2>R3の関係にある。従って、溶接作業中に操作子22の押下量を僅かに変化させた場合、直線R1のときに最も粗い調整が行われ、直線R3の場合に最も細かい調整が行われることがわかる。なお、直線R3は、直線R1に比べて調整範囲が狭いが、実際の溶接作業において、電流設定値Isを最小出力電流I
MIN近傍の値に設定することはほとんどなく、溶接電流を微調整可能であることのメリットの方が大きい。
【0053】
本実施の形態による溶接機1は、操作子22の押下量に応じて、操作装置20から指令値Cが出力され、指令値Cが電流設定値Isに変換され、電流設定値Isに基づいて溶接電流の制御が行われる。この様な溶接機1において、電流設定値Isの調整範囲を規定する調整上限値I
UP及び調整下限値I
LOWについて、調整上限値I
UPだけでなく、調整下限値I
LOWについてもユーザによる指定が可能である。このため、溶接電流の調整下限値I
LOWを適切に設定することにより、調整上限値I
UPを変更することなく、操作装置20による電流設定値Isの調整範囲の幅を狭めることができる。その結果、操作子22の押下量の変化に対する電流設定値Isの変化を小さくすることができ、溶接作業中に操作装置20を用いて溶接電流のより細かな溶接電流の調整を行うことが可能になる。
【0054】
例えば、調整上限値I
UPが200Aである場合、調整下限値I
LOWを0Aに設定すれば、操作子22の押下操作に対し、0A〜200Aの範囲で溶接電流を調整することになる。これに対し、調整下限値I
LOWを100Aに設定すれば、同じ操作子22の押下操作に対し、100A〜200Aの範囲で溶接電流を調整することになる。このため、調整上限値I
UPを変更することなく、溶接電流の微調整を容易化することができる。つまり、調整下限値I
LOWとして最小出力電流I
MINを上回る値を指定することにより、見かけ上の分解能が上がり、操作装置20を用いた溶接電流の微調整が容易になる。
【0055】
また、本実施の形態による溶接機1は、調整下限値I
LOWが調整上限値I
UP以下、より望ましくは、調整上限値I
UP未満に制限される。このため、調整下限値I
LOWとして、調整上限値I
UPを上回る値が誤って指定され、両者の大小関係が逆転するのを防止することができる。
【0056】
また、本実施の形態による溶接機1は、調整上限値I
UPを基準とする相対値として、調整下限値I
LOWを指定することができる。このため、調整下限値I
LOWを直感的に指定することができ、操作性を向上させることができる。また、その後、調整上限値I
UPを変更すれば、自動的に調整下限値I
LOWの絶対値も変更される。このため、調整上限値I
UPを変更するたびに、調整下限値I
LOWを調整する必要がなく、操作性を向上させることができる。さらに、調整下限値I
LOW及び調整上限値I
UPをともに大幅に増大させ変更を行う場合であって、変更後の調整下限値I
LOWが変更前の調整上限値I
UPよりも大きい場合に、大小関係が逆転するために、先に調整下限値I
LOWを変更できないという操作性の難点も生ずることがなく、操作性を向上させることができる。
【0057】
なお、上記実施の形態では、溶接機1がアーク溶接機である場合の例について説明したが、本発明は、溶接機1の構成をこれに限定するものではない。本発明は、抵抗溶接機、その他の電気溶接機全般に適用することができる。
【0058】
また、上記実施の形態では、指令値Cが押下量に対して線形であり、電流設定値Isが指令値Cに対して線形であり、これらの対応関係が直線の関数で表される場合の例について説明したが、本発明は、これらの対応関係が、線形である場合に限定するものではない。
【0059】
また、上記実施の形態では、調整上限値I
UPをユーザが指定可能である溶接機1の例について説明したが、本発明は、調整上限値I
UPが予め定められ、ユーザが調整上限値I
UPを指定することができない溶接機にも適用することができる。