【実施例】
【0046】
本発明の態様は、以下の実施例から理解され得、これらはその範囲を限定しない。
<動物処置および行動解析>
5か月齢のnon−tgおよびα−syn−tgの雌マウスに、4週間毎日、ビヒクル(40%のCaptisol)または5mg/kgのハイポエストキシドのいずれかを腹腔内(IP)注射した。右半脳を、神経病理学的分析のために4℃でリン酸塩緩衝化した4%のPFA中に後固定し、一方で左半脳を、スナップ凍結し、続くタンパク質およびmRNAの分析のために−70℃で保存した。
【0047】
処置に続いて、マウスを、オープンフィールド試験および円形ビーム試験を使用して、歩行および協調運動について評価した。総活性を10分での合計のビームの破断として計算した。歩行の障害およびバランスを、円形ビーム分析によって評価した。3回連続の1分の試験の各々を、1日で実行した。足の滑り(foot slippages)の数および移動した距離を記録した。ビームに対する全誤差を、足の滑り/移動した距離で計算した。
【0048】
<免疫組織化学的検査および免疫蛍光法および神経病理学的分析>
ブラインドコードされた矢状脳切片を、一晩4℃で一次抗体でインキュベートした。
翌日、切片を、ビオチン化された又はFITC結合された二次抗体でインキュベートし、それぞれ、アビジン(avid in)D−HRP HRP(ABC elite, Vector Laboratories, Burlingame, CA)およびTyramide Signal Amplification Directのシステム(PerkinElmer, Waltham, MA)を用いて検出した。
【0049】
神経炎症、神経変性、α−シヌクレインの蓄積、およびNF−κB活性化を判定するために、脳切片を、それぞれ、Iba−1、GFAP、TNFα、IL−1β、IL6、ヒトα−シヌクレイン、NF−κB、およびリン酸化されたNF−κBの抗体で染色した。
切片を、Olympus BX41の顕微鏡によって画像化した。すべての免疫反応レベルを、Iba−1の免疫反応性を除いて、Image Quant 1.43のプログラム(NIH)を使用して光学密度分析によって判定した。Iba−1陽性の細胞の細胞数を、Image Quant 1.43のプログラム(NIH)を使用して、細胞体認識に基づいて各動物の1フィールド毎(230μm×184μm)に判定した。
【0050】
<組織抽出物の調製およびウエスタンブロット解析>
脳ホモジネートを、溶解緩衝液中で調製して、SDS可溶性およびSDS不溶性の分画を分離した。化学発光の検出および分析を、Versadoc XLの画像化装置およびQuantity One(Bio−rad, Hercules, CA)を使用して実行した。
【0051】
<定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)>
総mRNAを、それぞれ、RNeasy Lipidのミニキット(Qiagen, Germantown, MD)を使用してマウスの前頭皮質から抽出し、SuperScript VILO cDNAの合成キット(Life Technologies)を使用して逆転写した。定量的リアルタイムPCRを、TNFα(Mm00443258_m1)、IL6(Mm00446190_m1)、IL−1β(Mm00434228_m1)、およびβ−アクチン(Mm00607939_s1)などの、Life Technologiesから得られた遺伝子特異的プライマーを用いて、製造業者の指示に従ってTaqMan(登録商標)Fast Advanced Master Mix(Life Technologies)を使用して実行した。DNA産物の増幅を、StepOnePlusのリアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems, Carlsbad, CA)によって測定した。相対的なmRNAレベルを、2−exp(ΔΔCt)方法に従って計算した。すべてのΔCT値をβ−アクチンに正規化した。
【0052】
<PDのマウスモデルにおける神経炎症に対する効果の測定>
図1A−1Fは、脳免疫細胞の数の分析を示す。Iba−1陽性のミクログリアおよびGFAP陽性のアストロサイトは、α−syn−tgマウスの新皮質中で著しく増加した。
図1A−1Bおよび1D−1Eはまた、HEの投与が、α−syn−tgマウスにおける新皮質中のアストログリオーシスのレベルをミクログリア細胞の数およびnon−tgマウスにおけるレベルに類似したレベルまで著しく減少させたことを示す。
【0053】
α−syn−tgマウスにおける免疫細胞の総数の減少に加えて、
図1A、1C、1Dおよび1Fは、1グリア細胞当たりの分枝の数が減少したことを示す。Iba−1光学密度(F
interaction(1,16)=80.48、p<0.0001)、ミクログリア分枝の数(F
interaction(1,16)=83.25、p<0.0001)、GFAP光学密度(F
interaction(1,16)=15.88、p=0.0011)、およびアストログリア分枝の数(F
interaction(1,16)=4.04、p=0.0616)に対するHE処置の陽性相互作用の効果を、二元配置ANOVAによって確証した。
【0054】
炎症促進性サイトカインのレベルを、免疫組織学的解析および遺伝子発現解析を使用して分析した。TNFα、IL−1βおよびIL6のレベルは、non−tgマウスと比較して、α−syn−tgマウスにおいて増加した。対照的に、HEの処置は、α−syn−tgマウスの新皮質中のこれらの炎症促進性サイトカインのレベルを著しく低下させた。TNFα(F
interaction(1,16)=12.34、p=0.0029)、IL−1β (F
interaction(1,16)=11.58、p=0.0036)、およびIL6(F
interaction(1,16)=31.06、p<0.0001)のレベルに対するHE処置の陽性相互作用の効果を、二元配置ANOVAによって確証した。さらに、量的遺伝子発現分析は、TNFα、IL−1βおよびIL6のmRNAレベルが、α−syn−tgマウスの新皮質中のHE投与によって明白に低下したことを示した。TNFα(F
interaction(1,16)=15.78、p=0.0019)、IL−1β (F
interaction(1,16)=11.65、p=0.0051)、およびIL6(F
interaction(1,16)=6.40、p=0.0264)のmRNAのレベルに対するHE処置の陽性相互作用の効果を、二元配置ANOVAによって確証した。ともに、これらの結果は、HEの投与が、ミクログリアおよびアストロサイトの活性化を阻害し、それによって、PDのマウスモデルにおいて炎症促進性サイトカインの生成を減少させることを示唆している。
【0055】
<PDのマウスモデルにおけるHE投与による神経変性および行動異常の改善>
神経変性分析および行動試験を、ビヒクルまたはHEのいずれかで処置したnon−tgおよびα−syn−tgのマウスを使用して実行した。
図2A−2Cは、ヒトα−シヌクレインの神経細胞内の過剰発現が、結果としてα−syn−tgマウスにおけるTH陽性の線条体線維の損失につながり、一方で異質(nigral)TH陽性細胞の数が、α−シヌクレイン発現によって変更されなかったことを示す。しかしながら、
図2A−2Bは、HEの投与が、α−syn−tgマウスにおいてTH陽性の線条体線維の損失を著しく減少させたことを示す。TH陽性の線条体線維のレベルに対するHE処置の陽性相互作用の効果(F
interaction(1,16)=5.12、p=0.038)を、二元配置ANOVAによって確証した。
【0056】
ここで
図2D−2Eを参照すると、α−syn−tgマウスにおける不安様行動および運動行動の欠損に対するHEの効果を調査するために実行されたオープンフィールド試験および円形ビーム試験の結果が示される。α−syn−tgマウスは、non−tg対照マウスと比較して、ビームの破断数および合計の円形ビーム誤差の著しい増加を示した。HEによるα−syn−tgマウスの処置は、これらの誤差をnon−tgマウスにおいて観察されたレベルまで低下させた。ビームの破断数(F
interaction(1,16)=15.61、p=0.0011)および合計の円形ビーム誤差(F
interaction(1,16)=8.58、p=0.0098)に対するHE処置の陽性相互作用の効果を、二元配置ANOVAによって確証した。まとめて、これらの結果は、HEの投与が、PDのマウスモデルにおいて神経変性を予防し、行動異常を改善することを示唆している。
【0057】
<PDのマウスモデルにおける神経細胞内のα−シヌクレイン蓄積に対する効果の測定>
α−syn−tgマウスにおいて観察された行動の改善が、α−シヌクレインの病因の変化と関連していたかどうかを判定するために、ビヒクルまたはHEのいずれかで処置したnon−tgおよびα−syn−tgのマウスからの脳切片を用いてα−シヌクレインに対して免疫組織学的解析を行った。
図3A−3Eで描写されるように、免疫組織学的解析は、α−syn−tgマウスのニューロンおよびニューロピル中のα−シヌクレインの過剰発現を示した。HEの投与は、α−syn−tgマウスにおけるニューロンおよびニューロピル中のα−シヌクレインのレベルを著しく低下させた。α−シヌクレインの光学密度に対するHE処置の陽性相互作用の効果(前頭皮質、F
interaction(1,16)=30.74、p<0.0001;海馬、F
interaction(1,16)=13.66、p=0.0020;線条体、F
interaction(1,16)=7.19、p=0.0164)を、二元配置ANOVAによって確証した。
【0058】
免疫蛍光分析をヒトα−シヌクレイン特異抗体を用いて実行し、この分析を確証した。
この点で、マウス脳切片を、ヒトα−シヌクレイン(Syn211抗体)またはヒトα−シヌクレイン(Syn105抗体)のC末端に対して免疫染色した。
【0059】
ビヒクルまたはハイポエストキシドのいずれかで処置したnon−tgおよびα−syn−tgのマウスの前頭皮質においてヒトα−シヌクレインの免疫蛍光分析を実行した。
(n=1群当たり5;独立t検定;
*p<0.05)。エラーバーは±SEMを表わす。さらに、ヒトα−シヌクレインに対する蛍光強度を、脳の前頭皮質において分析した。ヒトα−シヌクレインに対する免疫反応性は、non−tgマウスの前頭皮質において検出されなかったが、α−syn−tgマウスの前頭皮質において高度に検出された。免疫組織学的解析からの結果に類似して、ヒトα−シヌクレインの免疫反応性のレベルは、α−syn−tgマウスの前頭皮質におけるHE投与によって著しく低下した。
【0060】
最近の証拠は、α−シヌクレインのC末端フラグメントが特に神経毒性があることを示唆している。HEの投与がこれらのC末端フラグメントの蓄積に影響を与えたかどうかを判定するために、ヒトα−シヌクレインのC末端を特異的に認識する抗体を使用した。この点で、non−tgおよびα−syn−tgのマウスの前頭皮質におけるヒトα−シヌクレインのC末端の免疫組織学的解析を実行した。さらに、前頭皮質におけるα−シヌクレインのC末端のための光学密度分析を行った。(n=1群当たり5;独立t検定;
**p<0.01)。エラーバーは±SEMを表わす。スケールバー=250μm(低倍率)および25μm(高倍率)。C末端ヒトα−シヌクレインに対する免疫反応性も、α−syn−tgマウスの前頭皮質におけるHE投与によって著しく低下した。
【0061】
図4F−4Gは、生化学的分析の結果を示す。脳ホモジネートを、SDS可溶性およびSDS不溶性の分画へと分離し、イムノブロット解析によって分析した。α−syn−tgマウスからのSDS可溶性分画中のα−シヌクレインのレベルは、HE投与による影響を受けなかった。しかしながら、SDS不溶性のα−シヌクレインのレベルは、HEを投与したα−syn−tgマウスからの脳ホモジネートにおいて著しく低下した。SDS不溶性のα−シヌクレインのレベルに対するHE処置の陽性相互作用の効果(F
interaction(1,16)=8.68、p=0.0095)を、二元配置ANOVAによって確証した。まとめて、これらの結果は、HEの投与が、PDのマウスモデルにおいてα−シヌクレインの蓄積を減少させることを示唆している。
【0062】
<PDのマウスモデルにおけるNF−κB活性の阻害>
以前の研究は、HEが、免疫細胞中のIκBキナーゼの阻害によって、重要な免疫反応シグナル伝達メディエーターであるNF−κBの活性を調節したことを示唆している。したがって、ビヒクルまたはHEのいずれかを受けたnon−tgおよびα−syn−tgのマウスの新皮質におけるNF−κB活性の変化を調査した。免疫蛍光分析は、NF−κBの合計レベルが、non−tgまたはα−syn−tgのマウスの新皮質におけるHE投与によって変化しなかったことを示した。しかしながら、NF−κBの活性化された形態である、リン酸化されたNF−κBに対する免疫反応性のレベルは、α−syn−tgマウスの新皮質において高く上昇した(4倍)。さらに、リン酸化されたNF−κBの上昇したレベルは、α−syn−tgマウスの新皮質におけるHEの投与によって、non−tgマウスにおいて観察されたレベルまで著しく低下した。リン酸化されたNF−κBの免疫反応性に対するHE処置の陽性相互作用の効果(F
interaction(1,16)=27.70、p<0.0001)を、二元配置ANOVAによって確証した。
【0063】
non−tgおよびα−syn−tgのマウスの皮質からの脳ホモジネートを使用する生化学的分析を実行した。脳ホモジネートを、遠心分離によって細胞質分画および核分画へと分離し、各分画をウエスタンブロット解析によって分析した。NF−κBの合計レベルは、non−tgおよびα−syn−tgのマウスにおけるHE投与によって変化しなかった。しかしながら、リン酸化されたNF−κBのレベルは、α−syn−tgマウスの脳ホモジネートからの核分画中でのみ著しく増大した。免疫蛍光法によって観察された結果に類似して、リン酸化されたNF−κBのレベルは、α−syn−tgマウスにおけるHE投与によって著しく低下した。リン酸化されたNF−κBのレベルに対するHE処置の陽性相互作用の効果(F
interaction(1,16)=11.55、p=0.0037)を、二元配置ANOVAによって確証した。まとめて、これらの結果は、HEの投与が、PDのマウスモデルにおけるNF−κB活性の調節によって神経炎症を低減することを示唆している。
【0064】
HEの投与は、PDのマウスモデルにおいて神経変性を予防した。TH陽性のニューロンの損失は、α−syn−tgマウスにおけるHEの投与によって著しく減少した。α−syn−tgマウスにおけるHE投与によって、行動異常も改善された。さらに、HEは、NF−κBの活性を阻害し、これは、結果としてα−syn−tgマウスにおける神経炎症の低減をもたらす。
【0065】
α−シヌクレイン凝集体の神経細胞内蓄積は、PDの典型的な病理学的特徴である。これらの沈着が、病因であるだけでなく、PDの発症および進行において重大な役割を果たすことを、研究は実証してきた。最近の研究は、α−シヌクレインの神経細胞内の蓄積が、遺伝子欠損、タンパク質の品質管理システムの機能不全、二次的構造変化、および環境毒物への暴露を含む、複数の神経細胞内および神経外の因子による影響を受け得ることを示した。さらに、神経炎症は、ニューロン中のα−シヌクレイン凝集体に対する促進可能な因子として示唆されてきた。HEの投与は、PDのモデルにおいてα−シヌクレインの神経細胞内の蓄積を減少させた。α−シヌクレイン mRNAのレベルがHEの投与による影響を受けないため、神経細胞内のオートファジープロセスの活性化が、神経炎症によって調節され得る。
【0066】
ミクログリア媒介性の神経炎症がα−シヌクレイン凝集体の神経細胞内の蓄積に影響する機構は、まだ不明確である。しかしながら、最近の研究は、幾つかの炎症促進性サイトカインが、α−シヌクレイン除去の効率的な細胞内プロセスであるオートファジーを阻害することを示した。例えば、IL−10は、ネズミのマクロファージにおいて飢餓誘発性、ラパマイシン誘発性、リポ多糖誘発性のオートファジーを阻害する。さらに、IL−4およびIL−13は、ヒトおよびネズミのマクロファージにおいて飢餓誘発性およびIFN−γ誘発性両方のオートファゴソーム形成を阻害する。これらの観察は、活性化されたミクログリアからのサイトカインが、脳における隣接するニューロンのオートファジープロセスを阻害し得、それによって、神経細胞内のα−シヌクレイン蓄積が結果としてもたらされることを示唆している。本発明とともに前の結果を考察すると、HEの投与は、PDのモデルにおいて神経炎症の低減によりα−シヌクレインの神経細胞内の蓄積を減少させ、これがα−シヌクレインの増加したオートファジーの分解の増加につながる。
【0067】
それ故、本発明が、最も実用的であり、好ましい実施形態であると考えられるものに示され、記載されていると考えられる。しかしながら、本発明の範囲内で逸脱が行われてもよく、明白な修正が当業者に想到されることが認識される。上記の記載に関して、サイズ、材料、形状、形態、操作の機能および方法、アセンブリおよび使用の変更を含む、本発明の部分に対する最適な次元的関連性が、当業者に容易に明白且つ明らかであると考えられ、図面で例証される及び本明細書に記載されるこれらに対するすべての同等な関連性が、本発明によって包含されることが意図されることが理解されるべきである。
【0068】
それ故、前述されたことは、本発明の原理の例証としてのみ考慮される。さらに、多数の修正および変更が当業者に容易に想到されるため、本発明を、示される及び記載される正確な構成および操作に限定することは望ましくなく、したがって、すべての適切な修正および同等物が、本発明の範囲内で用いられ得る。