特許第6684524号(P6684524)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6684524神経変性疾患の処置または予防のためのハイポエストキシド、その誘導体、関連化合物、およびアゴニスト
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6684524
(24)【登録日】2020年4月1日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】神経変性疾患の処置または予防のためのハイポエストキシド、その誘導体、関連化合物、およびアゴニスト
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/336 20060101AFI20200413BHJP
   A61K 31/357 20060101ALI20200413BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20200413BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20200413BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20200413BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20200413BHJP
   A61K 9/02 20060101ALI20200413BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20200413BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20200413BHJP
   A61K 9/00 20060101ALI20200413BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20200413BHJP
   A61K 9/12 20060101ALI20200413BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20200413BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20200413BHJP
【FI】
   A61K31/336
   A61K31/357
   A61P25/16
   A61K9/20
   A61K9/14
   A61K9/48
   A61K9/02
   A61K9/06
   A61K9/70 405
   A61K9/00
   A61K9/107
   A61K9/12
   A61K9/08
   A61K9/70 401
   A61K9/10
【請求項の数】9
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2017-546738(P2017-546738)
(86)(22)【出願日】2016年2月3日
(65)【公表番号】特表2018-507876(P2018-507876A)
(43)【公表日】2018年3月22日
(86)【国際出願番号】US2016016294
(87)【国際公開番号】WO2016144441
(87)【国際公開日】20160915
【審査請求日】2019年1月28日
(31)【優先権主張番号】62/177,187
(32)【優先日】2015年3月9日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517305425
【氏名又は名称】イミューン モジュレーション,インク.
(74)【代理人】
【識別番号】100082072
【弁理士】
【氏名又は名称】清原 義博
(72)【発明者】
【氏名】コタム,ハワード
(72)【発明者】
【氏名】オジョ−アメイズ,エマニュエル
(72)【発明者】
【氏名】ンチュクベ,エメカ
(72)【発明者】
【氏名】オイメイド,オルソラ
【審査官】 飯濱 翔太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−508232(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0143945(US,A1)
【文献】 Neuroscience Letters,2006年12月21日,Vol.415,P.11-16,特にP.11の右欄第3行−P.12の左欄第14行、P.12の左欄第9−10行、Fig.1
【文献】 SAGE-Hindawi Access Reserch Parkinson's Disease,2011年 2月21日,Vol.2011,Article ID 216298, 8 pages,特にAbstract, Introduction, Conclusion
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−33/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
Japio−GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経変性疾患の処置および予防に使用するための組成物であって、該組成物は、
【化1】
それらの混合物から成る群から選択され、ここで、前記神経変性疾患はパーキンソン病である、組成物。
【請求項2】
前記組成物は、
【化2】

である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物は、
【化3】
である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物は、
【化4】
である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物は、
【化5】
である、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物は、
【化6】
である、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物が、錠剤、微粒剤、カプセル剤、カシェ剤、トローチ、ロゼンジ、分散剤、
坐剤、軟膏剤、パップ剤、ペースト剤、粉末剤、ドレッシング、クリーム剤、硬膏剤、
溶液、貼付剤、エアロゾル剤、ゲル剤、エリキシル剤、シロップ剤、懸濁液、ウェーハ、
および注射剤から成る群から選択される剤形で存在する、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の組成物
【請求項8】
前記組成物が、α−シヌクレインの神経細胞内の蓄積を減少させることに活性である、
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物が、約0.1mg/kg/日から約200mg/kg/日までの用量で投与
される、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
<関連出願への相互参照>
本出願は、2015年3月9日に出願された米国仮特許出願第61/177,187の利益を主張し、これはその全体が引用によって本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、一般に、ハイポエストキシド、その誘導体、およびそれに関連する化合物に関する。より具体的には、本発明は、神経変性疾患の動物またはヒト被験体の脳におけるα−シヌクレイン凝集を阻害するためのハイポエストキシド、その誘導体、関連化合物、またはそれらの組み合わせを使用する組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0003】
α−シヌクレインは、とりわけ、パーキンソン病(PD)、アルツハイマー病(AD)、レビー小体病、ハンチントン病、多発性硬化症(MS)、および多系統萎縮症などの、多くの神経変性疾患の主な病理である。この点で、ヒトα−シヌクレインのトランスジェニック動物モデルは、限定されないが、運動の能力および協調性中の障害、自発活性の減少、優れた運動技能の変化、および知覚運動障害を含む、PD様の病理学的及び/又は神経学的な変化を提示することが示されている。
【0004】
PDなどの多くの神経変性疾患の処置における重要な課題は、治療薬を、薬物に対するその乏しい透過性にもかかわらず血液脳関門に通して脳に送達する必要があることである。局所浸潤性の送達、強力集束超音波への局所暴露、および透過性の増強を含む、治療薬を脳に送達するための多くの試みがなされている。しかしながら、これらの既存の薬理学的介入は、薬物の失敗、耐性、毒性、および望ましくない副作用に悩まされてきた。
【0005】
幾つかの事例では、視床切開術、化学的淡蒼球切除術、および神経刺激を含む、より浸潤性の及び外科的な処置がPDの処置に利用される。これらのアプローチは、典型的に、より長い回復時間および集中的なフォローアップ処置を必要とする。幾つかの場合では、より浸潤性の処置は、将来の合併症につながり得る。これらの以前のアプローチの限定の結果として、神経変性疾患の処置および予防は限定されてきた。
【0006】
α−シヌクレイン沈着に加えて、神経炎症はPDの別の病理学的特徴である。Wake H. et al., Trends Neurosci, 36: 209−17, 2013を参照。神経炎症は、脳に常在する免疫細胞である、ミクログリアによって引き起こされる。ミクログリアは、全身性炎症、脳外傷、および虚血を含む神経炎症を結果としてもたらす様々なタイプの刺激によって活性化され得る。最近の研究はまた、細胞外α−シヌクレインがミクログリアの活性化を誘発することができることも示した。組み換えα−シヌクレインの様々な形態への暴露によって、ミクログリアの活性化を誘発することができる。さらに、α−シヌクレインのニューロン放出のオリゴマーの形態は、ミクログリアの表面上のTLR2とβ1−インテグリンとの相互作用によってミクログリア活性化を誘発する。
【0007】
この点で、反応性のミクログリアの蓄積は、PD患者の脳で見つかっており、TNFαおよびIL6などの炎症性サイトカインのレベルの上昇が、PD患者のCSFおよび血漿中で検出された。Hunot S. et al., Ann Neurol 53 Suppl. 3: S49−58, S58−60, 2003を参照。しかし、炎症は、PDおよびADなどの神経変性疾患に役割を果たすという証拠があるが、データはしばしば矛盾している。
【0008】
炎症は、分子および細胞のレベルで多くの構成要素および機構が伴う非常に複雑なプロセスである。Wyss−Coray & Mucke, Neuron, 35(3): 419−32, 2002を参照。多くの炎症反応は有害であるが、幾つかの特異反応が、神経変性に対して有益且つ保護的であり得る。炎症の阻害が神経変性疾患をどの程度まで低減することができるかは不確かなままであり、単純に、炎症の阻害は必ずしも治療効果をもたらさない。例えば、コルチコステロイド、ジクロフェナク/ミソプロストール、COX−2阻害剤および水酸化クロロキンを含む、炎症を強く抑制する様々な化合物による治療試験におけるADの進行において、有意な効果は観察されなかった。上記文献を参照。
【0009】
PDの場合では、アスピリンなどの非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)の使用は、神経変性のプロセスを阻害することができるが、幾つかのNSAIDによる処置は、このプロセスを悪化させかねない。NSAIDは、血液脳関門を通過する際に異なる効力を有する異質的な化学基であり、これは、研究間および時に矛盾する結果間の差を説明するかもしれない。疾患の発症の予防に関して、NSAIDの使用は、男性のPDの発病の20%の減少に関連していたが、女性のPDの発病の20%の増加にも関連していた。Esposito et al., Experimental Neurology, 205: 295−312, 2007を参照。それ故、この総説の結論のセクションで示されるように、全体像がまだ分かりにくいため、大脳基底核疾患の病態生理における炎症の役割を一層明確にする必要がある。炎症が、「諸刃の剣」であり、恐らく、有益な防御機構として開始し、ある時点で破壊的であり制御できない慢性反応へと発展するという事実が、この状況を複雑にしている。したがって、理想的なアプローチは、神経保護につながる炎症経路の保護を行いながら、神経炎症に関連する有害な効果を阻害することである。上記文献を参照。
【発明の概要】
【0010】
本明細書の幾つかの態様の基本的な理解を提供するために、以下は本明細書の簡易要約を開示している。本概要は本明細書の広範囲な概略ではない。本明細書の鍵や重大な要素を特定せず、明細書の範囲を描写しないことが意図されている。その唯一の目的は、後に開示されるより詳細な記載の前置として簡略様式で本明細書の幾つかの概念を開示することにある。
【0011】
本発明は、外科的介入の必要性を回避する薬剤を提案することによって、様々な神経変性疾患の処置に使用される既存の治療薬および薬剤の欠点を克服することを目標とする。
本発明は、血液脳関門を通過する新規の化合物の説明と、純粋形態であろうと、天然植物源に含有されていようと、ハイポエストキシド(HE)、その誘導体、および関連化合物によって、PDまたは他の神経変性疾患を患うヒトなどの宿主を処置する方法とを提供し、それによって、そのような病理学的症状が改善される。ハイポエストキシドが、PDまたは他の神経変性疾患の処置に使用される他の利用可能な薬物と比較して、非常に低い毒性を有することが特に留意される。基準化合物である、ハイポエストキシド以下の式(I)を含む:
【0012】
【化1】
【0013】
さらに、ハイポエストキシド関連の天然植物生産物は、以下の式を含む:
【0014】
【化2】
【0015】
有効な量の式 IからVの1つまたはそれらの混合物が、神経変性疾患の少なくとも1つの症状を処置及び/又は改善するために罹患した宿主に投与され得る。本発明の化合物はまた、PDおよび他の神経変性疾患の処置および予防のための他の治療薬と組み合わせて使用されてもよい。本発明はさらに、経時的にPDまたは他の神経変性疾患を進行させる可能性を示す正のバイオマーカーを有している個体においてPDの進行を予防するための予防法および治療の方法を提供する。このように、本発明はまた、リスクのある大きな集団のための非常に重要な予防療法として機能することを目標とする。
【0016】
本発明の更なる目的および利点は、部分的に続く記載において明記されるか、または本発明の実施または使用から学習され得る。目的および利点は、添付の請求項で特に列挙される手段および組み合わせによって実現且つ達成され得る。先の概説および以下の詳述が、請求されるように、典型的且つ説明的なものにすぎず、本発明を制限するものとして考察されないことが理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
本発明の特定の態様が、以下の図面に関連して理解され得る。
図1A図1Aは、α−syn−tgマウスの新皮質における脳免疫細胞の数の分析を示す。
図1B図1Bは、α−syn−tgマウスの新皮質における脳免疫細胞の数の分析を示す。
図1C図1Cは、α−syn−tgマウスの新皮質における脳免疫細胞の数の分析を示す。
図1D図1Dは、α−syn−tgマウスの新皮質における脳免疫細胞の数の分析を示す。
図1E図1Eは、α−syn−tgマウスの新皮質における脳免疫細胞の数の分析を示す。
図1F図1Fは、α−syn−tgマウスの新皮質における脳免疫細胞の数の分析を示す。
図2A図2Aは、ビヒクルまたはHEのいずれかで処置されたnon−tgおよびα−syn−tgのマウスを使用した、神経変性分析および行動試験の結果を示す。
図2B図2Bは、ビヒクルまたはHEのいずれかで処置されたnon−tgおよびα−syn−tgのマウスを使用した、神経変性分析および行動試験の結果を示す。
図2C図2Cは、ビヒクルまたはHEのいずれかで処置されたnon−tgおよびα−syn−tgのマウスを使用した、神経変性分析および行動試験の結果を示す。
図2D図2Dは、ビヒクルまたはHEのいずれかで処置されたnon−tgおよびα−syn−tgのマウスを使用した、神経変性分析および行動試験の結果を示す。
図2E図2Eは、ビヒクルまたはHEのいずれかで処置されたnon−tgおよびα−syn−tgのマウスを使用した、神経変性分析および行動試験の結果を示す。
図3A図3Aは、HEの投与後のα−syn−tgマウスにおけるニューロンおよびニューロピル中のα−シヌクレインのレベルの低下を示す。
図3B図3Bは、HEの投与後のα−syn−tgマウスにおけるニューロンおよびニューロピル中のα−シヌクレインのレベルの低下を示す。
図3C図3Cは、HEの投与後のα−syn−tgマウスにおけるニューロンおよびニューロピル中のα−シヌクレインのレベルの低下を示す。
図3D図3Dは、HEの投与後のα−syn−tgマウスにおけるニューロンおよびニューロピル中のα−シヌクレインのレベルの低下を示す。
図3E図3Eは、HEの投与後のα−syn−tgマウスにおけるニューロンおよびニューロピル中のα−シヌクレインのレベルの低下を示す。
図3F図3Fは、ハイポエストキシドの投与がPDのマウスモデルにおけるα−シヌクレインの蓄積を減少させることを確証する生化学的分析の結果を示す。
図3G図3Gは、ハイポエストキシドの投与がPDのマウスモデルにおけるα−シヌクレインの蓄積を減少させることを確証する生化学的分析の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、ハイポエストキシド、その誘導体、および関連化合物、並びにPDなどの神経変性疾患を処置及び/又は予防する方法に関する。当業者に明白な様々な変更が、本発明の精神および範囲内にあると考えられる。
【0019】
<定義>
用語「典型的」は、実施例、事例、または例証として働くことを意味するために本明細書で使用される。「典型的」として本明細書に記載される態様または設計は、必ずしも他の態様よりも好ましい又は利点があるものとして解釈されない。むしろ、該用語「典型的」の使用は、具体的な方法で概念を開示ように意図されている。本出願で使用されるように、用語「または」は、排他的な「または」ではなく、むしろ包含的な「または」を意味するように意図されている。さらに、本出願および添付の請求項で使用されるような冠詞「a」および「an」は、他の方法で指定されていない又は単数形に向けられる文脈から明確でない限り、「1つ以上」または「少なくとも1つ」を意味し、それ故、個々の構成要素の他に混合物/組み合わせも包含するように一般に解釈されるべきである。
【0020】
本明細書で使用されるような用語「管理する(manage)」、「管理する(managing)」、および「管理(management」は、疾患または障害を既に患っている患者において指定された疾患または障害の再発を予防すること、及び/又は疾患または障害を患っている患者が寛解中のままである時間を延長することを包含する。該用語は、疾患または障害の閾値、進行、及び/又は持続時間を調節すること、または患者が疾患または障害に反応する方法を変更することを包含する。
【0021】
用語「予防する(prevent)」、「予防する(preventing)」、および「予防(prevention)」は、疾患または障害の重症度を阻害する又は低下させる、患者が指定された疾患または障害を患い始める前に生じる行為を熟考する。言いかえれば、該用語は本明細書で使用されるような予防法を包含する。
【0022】
本明細書で使用されるような用語、化合物「治療上有効な量」は、疾患または疾病の処置または管理において治療上の利点を提供する、または疾患または疾病に関連する1つ以上の症状を遅らせるか又は最小限にするのに十分な量である。化合物の治療上有効な量は、疾患または疾病の処置または管理において治療上の利点を提供する、単独での又は他の治療薬と組み合わせた治療薬の量を意味する。該用語「治療上有効な量」は、全体的な治療を向上させる、疾患または疾病の症状または原因を減少させる又は避ける、あるいは別の治療薬の治療上の効果を増強する量を包含することができる。
【0023】
本明細書で使用されるような用語「処置する(treat)」、「処置する(treating)」、および「処置(treatment)」は、疾患または障害の重症度を低下させるか、あるいは疾患または障害の進行を遅延させる又は遅らせる、指定された疾患または障害を患者が患う間に生じる行為を熟考する。
【0024】
最後に、本明細書で使用されるような用語「含む(include(s))」は、「限定されないが、...を含む(includes, but is not limited to)」と同じ意味を有する。同様に、用語「など(such as)」は、用語「限定されないが、...など(such as, but not limited to)」と同じ意味を有している。
【0025】
<化合物>
好ましい実施形態では、本発明は新規の医薬組成物を提供し、該医薬組成物はハイポエストキシドを含み、該ハイポエストキシドは天然源または合成源に由来するハイポエストキシドの混合物または誘導体を含む。ハイポエストキシドは以下の式Iを含む:
【0026】
【化3】
【0027】
ハイポエストキシドは、低木のHypoestes rosea(キツネノマゴ科)から分離された天然のジテルペンである。ハイポエストキシドがIκBキナーゼ阻害によってNF−κBの活性を調節し得ることを、研究は実証した。そのため、ハイポエストキシドは、潜在的な抗炎症剤および抗癌剤として前から示唆されてきた。ハイポエストキシドの極性の表面積は、68.4平方オングストロームであり、これは、治療薬を送達するための血液脳関門の通過に非常に優れていると考えられる。それ故、PDのための抗神経炎症薬としてのハイポエストキシドの効力は、マウスモデルを使用して検査されてきた。この点で、ハイポエストキシドの投与は、NF−κB活性の調節によってPDマウスモデル中の神経炎症、神経変性、および行動異常を改善する。
【0028】
本発明の他の実施形態は、以下の式 II−Vの化合物を含む:
【0029】
【化4】
【0030】
式IIから式Vが記載され、紫外分光光度法、質量分析法、核磁気共鳴法などの当該技術分野で既知の標準の化学的手法によって特徴付けられた。式IIからIVは、低木のHypoestes roseaの抽出物から分離され、一方で式Vは、パラジウム触媒を使用して触媒水素化によって純粋なハイポエストキシドから調製される。この反応は、以下の式において例証される:
【0031】
【化5】
【0032】
<使用の方法>
本発明の実施形態は、宿主(例えば、動物またはヒト)の神経変性疾患を処置及び/又は予防するための組成物(つまり、式 IからV)を提供する。本発明の別の実施形態は、宿主における神経変性疾患の予防及び/又は処置の方法を提供する。該方法は、式IからVから成る群から選択される式を有する有効な量の薬剤、およびその混合物の投与を含み、それによって、神経変性疾患に関連する又は関係する少なくとも1つの疾病または症状が処置されるか又は少なくとも部分的に緩和される。好ましくは、症状が疑われるか又は観察される限り、処置は継続するべきである。一実施形態では、該方法はPDを予防及び/又は処置する。ハイポエストキシド、その誘導体の1つ以上、関連する天然の植物生産物、またはそれらの組み合わせも、限定されないが、とりわけ、AD、レビー小体病、ハンチントン病、MS、および多系統萎縮症などの他の神経変性疾患を処置または予防するために使用されてもよいことも熟考される。
【0033】
別の実施形態は、患者の新皮質におけるミクログリア細胞の数およびアストログリオーシスのレベルを減少させる方法を含み、該方法は、本発明の有効な量の化合物を患者に投与する工程を含む。
【0034】
別の実施形態は、患者において炎症促進性サイトカインの産生を減少させる方法を含み、該方法は、本発明の有効な量の化合物を患者に投与する工程を含む。
【0035】
別の実施形態は、患者においてTH陽性の線条体線維(striatal fibers)の損失を減少させる方法を含み、該方法は、本発明の有効な量の化合物を患者に投与する工程を含む。
【0036】
別の実施形態は、患者におけるニューロンおよびニューロピル中のα−シヌクレインのレベルを低下させる方法を含み、該方法は、本発明の有効な量の化合物を患者に投与する工程を含む。
【0037】
別の実施形態は、患者においてSDS不溶性のα−シヌクレインのレベルを低下させる方法を含み、該方法は、本発明の有効な量の化合物を患者に投与する工程を含む。
【0038】
別の実施形態は、患者においてリン酸化されたNF−κBのレベルを低下させる方法を含み、該方法は、本発明の有効な量の化合物を患者に投与する工程を含む。
【0039】
化合物の量、投与経路、および服薬スケジュールは、処置、予防、または管理される具体的な指標、疾患のタイプ、疾患の進行、使用される他の治療、および患者の年齢、性別、および状態などの、様々な因子に依存する。そのような因子によって果たされる役割は、当該技術分野で周知であり、日常の実験に適応され得る。特定の実施形態では、本発明の化合物は、約0.1mgから200mg/kg/日の範囲で、ハイポエストキシド、ハイポエストキシド誘導体、関連化合物、またはそれらの組み合わせの約0.1、0.5、1.0、3.0、5.0、10.0、15.0から、約200mg/kg/日の量でヒト患者に投与される。
【0040】
<医薬製剤>
PDを処置及び/又は予防するための本発明の1つ以上の化合物を含む医薬組成物は、患者への経口、粘膜(例えば、鼻、舌下、膣、頬側、または直腸)、非経口(例えば、皮下、静脈内、ボーラス注入、筋肉内、または動脈内)、または経皮の投与に適したあらゆるすべての剤形で提供され得る。したがって、本発明の薬学的組成物または薬理学的組成物は、液体溶液または懸濁液のいずれかとしての、注射剤として、あるいは注射前の液体中の溶液または懸濁液に適した固体形態で調製され得る。
【0041】
剤形の他の例は、限定されないが、錠剤、微粒剤、ウェーハ、カプセル剤(持続放出力プセルを含む)、カシェ剤、トローチ、ロゼンジ、分散剤、坐剤、軟膏剤、パップ剤、ペースト剤、粉末剤、ドレッシング材(dressings)、クリーム剤、硬膏剤、溶液、貼付剤、エアロゾル剤、ゲル剤、エリキシル剤、シロップ剤、および他のものを含む。好ましい剤形は、咀嚼錠を含む錠剤である。単位剤形は、一般に、約0.1mgから200mg/kg/日の範囲で、ハイポエストキシド、ハイポエストキシド誘導体、関連化合物、またはそれらの組み合わせの約0.1、0.5、1.0、3.0、5.0、10.0、15.0から、約200mg/kg/日の間の量を含む。
【0042】
この点で、製剤は投与の様式に合わせるべきである。例えば、経口投与は、本発明の化合物の胃腸管内での分解を保護するために、腸溶コーティングを必要とする。同様に、製剤は、作用部位への有効成分の送達を促進する成分を含有し得る。例えば、化合物を分解酵素から保護し、循環系中の輸送を促進し、および細胞膜にわたって細胞内の部位へと送達するために、化合物はリポソーム製剤中で投与され得る。
【0043】
さらに、PDを処置及び/又は予防するための本発明の医薬組成物は、賦形剤、結合剤、崩壊薬、潤滑剤、及び/又は他の製剤用添加剤を使用して製造され得る。組成物は徐放性剤形で提供され得る。剤形は、錠剤、果粒剤、微粒剤、及び/又はカプセル剤を油性物質でコーティングすることによって製造され得る。油性物質の限定しない例は、トリグリセリド、ポリングリセリン脂肪酸エステルおよびヒドロキシプロピルセルロースを含む。
【0044】
予防的または治療的な量の正確な振幅は、他の因子の中でとりわけ、疾患のタイプ、疾患の進行、使用される他の治療、および投与経路に応じて変化する。例えば、疾患が、既に後期段階へと進行しており、侵攻性である場合、大量の化合物が必要とされ得る。さらに、剤形は、食事とともに又は食事とは別に、毎日1回または2回投与され得る。剤形がそれほど頻繁に投与されない場合、より多い投与量が投与され得る。
【0045】
好ましくは、投与量は、治療の初めに少なくあるべきであり、患者の反応に依存して徐々に増加されるべきである。さらに、幼児、小児、および高齢の患者に加えて、腎臓または肝臓の機能の障害または他の障害を有する患者は、より少ない投与量を最初に受けるべきであり、全体的な反応および血中濃度に基づいて滴定される。幾つかの場合では、これらの範囲以外の投薬を使用する必要があり得る。さらに、臨床医または処置する医師が、個々の患者の反応に関連する治療を、どのように及びいつ遮断する、調整する、終了するかを知ることが留意される。例えば、疾病または症状が改善されるときに、治療量は減少され得る。
【実施例】
【0046】
本発明の態様は、以下の実施例から理解され得、これらはその範囲を限定しない。
<動物処置および行動解析>
5か月齢のnon−tgおよびα−syn−tgの雌マウスに、4週間毎日、ビヒクル(40%のCaptisol)または5mg/kgのハイポエストキシドのいずれかを腹腔内(IP)注射した。右半脳を、神経病理学的分析のために4℃でリン酸塩緩衝化した4%のPFA中に後固定し、一方で左半脳を、スナップ凍結し、続くタンパク質およびmRNAの分析のために−70℃で保存した。
【0047】
処置に続いて、マウスを、オープンフィールド試験および円形ビーム試験を使用して、歩行および協調運動について評価した。総活性を10分での合計のビームの破断として計算した。歩行の障害およびバランスを、円形ビーム分析によって評価した。3回連続の1分の試験の各々を、1日で実行した。足の滑り(foot slippages)の数および移動した距離を記録した。ビームに対する全誤差を、足の滑り/移動した距離で計算した。
【0048】
<免疫組織化学的検査および免疫蛍光法および神経病理学的分析>
ブラインドコードされた矢状脳切片を、一晩4℃で一次抗体でインキュベートした。
翌日、切片を、ビオチン化された又はFITC結合された二次抗体でインキュベートし、それぞれ、アビジン(avid in)D−HRP HRP(ABC elite, Vector Laboratories, Burlingame, CA)およびTyramide Signal Amplification Directのシステム(PerkinElmer, Waltham, MA)を用いて検出した。
【0049】
神経炎症、神経変性、α−シヌクレインの蓄積、およびNF−κB活性化を判定するために、脳切片を、それぞれ、Iba−1、GFAP、TNFα、IL−1β、IL6、ヒトα−シヌクレイン、NF−κB、およびリン酸化されたNF−κBの抗体で染色した。
切片を、Olympus BX41の顕微鏡によって画像化した。すべての免疫反応レベルを、Iba−1の免疫反応性を除いて、Image Quant 1.43のプログラム(NIH)を使用して光学密度分析によって判定した。Iba−1陽性の細胞の細胞数を、Image Quant 1.43のプログラム(NIH)を使用して、細胞体認識に基づいて各動物の1フィールド毎(230μm×184μm)に判定した。
【0050】
<組織抽出物の調製およびウエスタンブロット解析>
脳ホモジネートを、溶解緩衝液中で調製して、SDS可溶性およびSDS不溶性の分画を分離した。化学発光の検出および分析を、Versadoc XLの画像化装置およびQuantity One(Bio−rad, Hercules, CA)を使用して実行した。
【0051】
<定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)>
総mRNAを、それぞれ、RNeasy Lipidのミニキット(Qiagen, Germantown, MD)を使用してマウスの前頭皮質から抽出し、SuperScript VILO cDNAの合成キット(Life Technologies)を使用して逆転写した。定量的リアルタイムPCRを、TNFα(Mm00443258_m1)、IL6(Mm00446190_m1)、IL−1β(Mm00434228_m1)、およびβ−アクチン(Mm00607939_s1)などの、Life Technologiesから得られた遺伝子特異的プライマーを用いて、製造業者の指示に従ってTaqMan(登録商標)Fast Advanced Master Mix(Life Technologies)を使用して実行した。DNA産物の増幅を、StepOnePlusのリアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems, Carlsbad, CA)によって測定した。相対的なmRNAレベルを、2−exp(ΔΔCt)方法に従って計算した。すべてのΔCT値をβ−アクチンに正規化した。
【0052】
<PDのマウスモデルにおける神経炎症に対する効果の測定>
図1A−1Fは、脳免疫細胞の数の分析を示す。Iba−1陽性のミクログリアおよびGFAP陽性のアストロサイトは、α−syn−tgマウスの新皮質中で著しく増加した。図1A−1Bおよび1D−1Eはまた、HEの投与が、α−syn−tgマウスにおける新皮質中のアストログリオーシスのレベルをミクログリア細胞の数およびnon−tgマウスにおけるレベルに類似したレベルまで著しく減少させたことを示す。
【0053】
α−syn−tgマウスにおける免疫細胞の総数の減少に加えて、図1A、1C、1Dおよび1Fは、1グリア細胞当たりの分枝の数が減少したことを示す。Iba−1光学密度(Finteraction(1,16)=80.48、p<0.0001)、ミクログリア分枝の数(Finteraction(1,16)=83.25、p<0.0001)、GFAP光学密度(Finteraction(1,16)=15.88、p=0.0011)、およびアストログリア分枝の数(Finteraction(1,16)=4.04、p=0.0616)に対するHE処置の陽性相互作用の効果を、二元配置ANOVAによって確証した。
【0054】
炎症促進性サイトカインのレベルを、免疫組織学的解析および遺伝子発現解析を使用して分析した。TNFα、IL−1βおよびIL6のレベルは、non−tgマウスと比較して、α−syn−tgマウスにおいて増加した。対照的に、HEの処置は、α−syn−tgマウスの新皮質中のこれらの炎症促進性サイトカインのレベルを著しく低下させた。TNFα(Finteraction(1,16)=12.34、p=0.0029)、IL−1β (Finteraction(1,16)=11.58、p=0.0036)、およびIL6(Finteraction(1,16)=31.06、p<0.0001)のレベルに対するHE処置の陽性相互作用の効果を、二元配置ANOVAによって確証した。さらに、量的遺伝子発現分析は、TNFα、IL−1βおよびIL6のmRNAレベルが、α−syn−tgマウスの新皮質中のHE投与によって明白に低下したことを示した。TNFα(Finteraction(1,16)=15.78、p=0.0019)、IL−1β (Finteraction(1,16)=11.65、p=0.0051)、およびIL6(Finteraction(1,16)=6.40、p=0.0264)のmRNAのレベルに対するHE処置の陽性相互作用の効果を、二元配置ANOVAによって確証した。ともに、これらの結果は、HEの投与が、ミクログリアおよびアストロサイトの活性化を阻害し、それによって、PDのマウスモデルにおいて炎症促進性サイトカインの生成を減少させることを示唆している。
【0055】
<PDのマウスモデルにおけるHE投与による神経変性および行動異常の改善>
神経変性分析および行動試験を、ビヒクルまたはHEのいずれかで処置したnon−tgおよびα−syn−tgのマウスを使用して実行した。図2A−2Cは、ヒトα−シヌクレインの神経細胞内の過剰発現が、結果としてα−syn−tgマウスにおけるTH陽性の線条体線維の損失につながり、一方で異質(nigral)TH陽性細胞の数が、α−シヌクレイン発現によって変更されなかったことを示す。しかしながら、図2A−2Bは、HEの投与が、α−syn−tgマウスにおいてTH陽性の線条体線維の損失を著しく減少させたことを示す。TH陽性の線条体線維のレベルに対するHE処置の陽性相互作用の効果(Finteraction(1,16)=5.12、p=0.038)を、二元配置ANOVAによって確証した。
【0056】
ここで図2D−2Eを参照すると、α−syn−tgマウスにおける不安様行動および運動行動の欠損に対するHEの効果を調査するために実行されたオープンフィールド試験および円形ビーム試験の結果が示される。α−syn−tgマウスは、non−tg対照マウスと比較して、ビームの破断数および合計の円形ビーム誤差の著しい増加を示した。HEによるα−syn−tgマウスの処置は、これらの誤差をnon−tgマウスにおいて観察されたレベルまで低下させた。ビームの破断数(Finteraction(1,16)=15.61、p=0.0011)および合計の円形ビーム誤差(Finteraction(1,16)=8.58、p=0.0098)に対するHE処置の陽性相互作用の効果を、二元配置ANOVAによって確証した。まとめて、これらの結果は、HEの投与が、PDのマウスモデルにおいて神経変性を予防し、行動異常を改善することを示唆している。
【0057】
<PDのマウスモデルにおける神経細胞内のα−シヌクレイン蓄積に対する効果の測定>
α−syn−tgマウスにおいて観察された行動の改善が、α−シヌクレインの病因の変化と関連していたかどうかを判定するために、ビヒクルまたはHEのいずれかで処置したnon−tgおよびα−syn−tgのマウスからの脳切片を用いてα−シヌクレインに対して免疫組織学的解析を行った。図3A−3Eで描写されるように、免疫組織学的解析は、α−syn−tgマウスのニューロンおよびニューロピル中のα−シヌクレインの過剰発現を示した。HEの投与は、α−syn−tgマウスにおけるニューロンおよびニューロピル中のα−シヌクレインのレベルを著しく低下させた。α−シヌクレインの光学密度に対するHE処置の陽性相互作用の効果(前頭皮質、Finteraction(1,16)=30.74、p<0.0001;海馬、Finteraction(1,16)=13.66、p=0.0020;線条体、Finteraction(1,16)=7.19、p=0.0164)を、二元配置ANOVAによって確証した。
【0058】
免疫蛍光分析をヒトα−シヌクレイン特異抗体を用いて実行し、この分析を確証した。
この点で、マウス脳切片を、ヒトα−シヌクレイン(Syn211抗体)またはヒトα−シヌクレイン(Syn105抗体)のC末端に対して免疫染色した。
【0059】
ビヒクルまたはハイポエストキシドのいずれかで処置したnon−tgおよびα−syn−tgのマウスの前頭皮質においてヒトα−シヌクレインの免疫蛍光分析を実行した。
(n=1群当たり5;独立t検定;p<0.05)。エラーバーは±SEMを表わす。さらに、ヒトα−シヌクレインに対する蛍光強度を、脳の前頭皮質において分析した。ヒトα−シヌクレインに対する免疫反応性は、non−tgマウスの前頭皮質において検出されなかったが、α−syn−tgマウスの前頭皮質において高度に検出された。免疫組織学的解析からの結果に類似して、ヒトα−シヌクレインの免疫反応性のレベルは、α−syn−tgマウスの前頭皮質におけるHE投与によって著しく低下した。
【0060】
最近の証拠は、α−シヌクレインのC末端フラグメントが特に神経毒性があることを示唆している。HEの投与がこれらのC末端フラグメントの蓄積に影響を与えたかどうかを判定するために、ヒトα−シヌクレインのC末端を特異的に認識する抗体を使用した。この点で、non−tgおよびα−syn−tgのマウスの前頭皮質におけるヒトα−シヌクレインのC末端の免疫組織学的解析を実行した。さらに、前頭皮質におけるα−シヌクレインのC末端のための光学密度分析を行った。(n=1群当たり5;独立t検定;**p<0.01)。エラーバーは±SEMを表わす。スケールバー=250μm(低倍率)および25μm(高倍率)。C末端ヒトα−シヌクレインに対する免疫反応性も、α−syn−tgマウスの前頭皮質におけるHE投与によって著しく低下した。
【0061】
図4F−4Gは、生化学的分析の結果を示す。脳ホモジネートを、SDS可溶性およびSDS不溶性の分画へと分離し、イムノブロット解析によって分析した。α−syn−tgマウスからのSDS可溶性分画中のα−シヌクレインのレベルは、HE投与による影響を受けなかった。しかしながら、SDS不溶性のα−シヌクレインのレベルは、HEを投与したα−syn−tgマウスからの脳ホモジネートにおいて著しく低下した。SDS不溶性のα−シヌクレインのレベルに対するHE処置の陽性相互作用の効果(Finteraction(1,16)=8.68、p=0.0095)を、二元配置ANOVAによって確証した。まとめて、これらの結果は、HEの投与が、PDのマウスモデルにおいてα−シヌクレインの蓄積を減少させることを示唆している。
【0062】
<PDのマウスモデルにおけるNF−κB活性の阻害>
以前の研究は、HEが、免疫細胞中のIκBキナーゼの阻害によって、重要な免疫反応シグナル伝達メディエーターであるNF−κBの活性を調節したことを示唆している。したがって、ビヒクルまたはHEのいずれかを受けたnon−tgおよびα−syn−tgのマウスの新皮質におけるNF−κB活性の変化を調査した。免疫蛍光分析は、NF−κBの合計レベルが、non−tgまたはα−syn−tgのマウスの新皮質におけるHE投与によって変化しなかったことを示した。しかしながら、NF−κBの活性化された形態である、リン酸化されたNF−κBに対する免疫反応性のレベルは、α−syn−tgマウスの新皮質において高く上昇した(4倍)。さらに、リン酸化されたNF−κBの上昇したレベルは、α−syn−tgマウスの新皮質におけるHEの投与によって、non−tgマウスにおいて観察されたレベルまで著しく低下した。リン酸化されたNF−κBの免疫反応性に対するHE処置の陽性相互作用の効果(Finteraction(1,16)=27.70、p<0.0001)を、二元配置ANOVAによって確証した。
【0063】
non−tgおよびα−syn−tgのマウスの皮質からの脳ホモジネートを使用する生化学的分析を実行した。脳ホモジネートを、遠心分離によって細胞質分画および核分画へと分離し、各分画をウエスタンブロット解析によって分析した。NF−κBの合計レベルは、non−tgおよびα−syn−tgのマウスにおけるHE投与によって変化しなかった。しかしながら、リン酸化されたNF−κBのレベルは、α−syn−tgマウスの脳ホモジネートからの核分画中でのみ著しく増大した。免疫蛍光法によって観察された結果に類似して、リン酸化されたNF−κBのレベルは、α−syn−tgマウスにおけるHE投与によって著しく低下した。リン酸化されたNF−κBのレベルに対するHE処置の陽性相互作用の効果(Finteraction(1,16)=11.55、p=0.0037)を、二元配置ANOVAによって確証した。まとめて、これらの結果は、HEの投与が、PDのマウスモデルにおけるNF−κB活性の調節によって神経炎症を低減することを示唆している。
【0064】
HEの投与は、PDのマウスモデルにおいて神経変性を予防した。TH陽性のニューロンの損失は、α−syn−tgマウスにおけるHEの投与によって著しく減少した。α−syn−tgマウスにおけるHE投与によって、行動異常も改善された。さらに、HEは、NF−κBの活性を阻害し、これは、結果としてα−syn−tgマウスにおける神経炎症の低減をもたらす。
【0065】
α−シヌクレイン凝集体の神経細胞内蓄積は、PDの典型的な病理学的特徴である。これらの沈着が、病因であるだけでなく、PDの発症および進行において重大な役割を果たすことを、研究は実証してきた。最近の研究は、α−シヌクレインの神経細胞内の蓄積が、遺伝子欠損、タンパク質の品質管理システムの機能不全、二次的構造変化、および環境毒物への暴露を含む、複数の神経細胞内および神経外の因子による影響を受け得ることを示した。さらに、神経炎症は、ニューロン中のα−シヌクレイン凝集体に対する促進可能な因子として示唆されてきた。HEの投与は、PDのモデルにおいてα−シヌクレインの神経細胞内の蓄積を減少させた。α−シヌクレイン mRNAのレベルがHEの投与による影響を受けないため、神経細胞内のオートファジープロセスの活性化が、神経炎症によって調節され得る。
【0066】
ミクログリア媒介性の神経炎症がα−シヌクレイン凝集体の神経細胞内の蓄積に影響する機構は、まだ不明確である。しかしながら、最近の研究は、幾つかの炎症促進性サイトカインが、α−シヌクレイン除去の効率的な細胞内プロセスであるオートファジーを阻害することを示した。例えば、IL−10は、ネズミのマクロファージにおいて飢餓誘発性、ラパマイシン誘発性、リポ多糖誘発性のオートファジーを阻害する。さらに、IL−4およびIL−13は、ヒトおよびネズミのマクロファージにおいて飢餓誘発性およびIFN−γ誘発性両方のオートファゴソーム形成を阻害する。これらの観察は、活性化されたミクログリアからのサイトカインが、脳における隣接するニューロンのオートファジープロセスを阻害し得、それによって、神経細胞内のα−シヌクレイン蓄積が結果としてもたらされることを示唆している。本発明とともに前の結果を考察すると、HEの投与は、PDのモデルにおいて神経炎症の低減によりα−シヌクレインの神経細胞内の蓄積を減少させ、これがα−シヌクレインの増加したオートファジーの分解の増加につながる。
【0067】
それ故、本発明が、最も実用的であり、好ましい実施形態であると考えられるものに示され、記載されていると考えられる。しかしながら、本発明の範囲内で逸脱が行われてもよく、明白な修正が当業者に想到されることが認識される。上記の記載に関して、サイズ、材料、形状、形態、操作の機能および方法、アセンブリおよび使用の変更を含む、本発明の部分に対する最適な次元的関連性が、当業者に容易に明白且つ明らかであると考えられ、図面で例証される及び本明細書に記載されるこれらに対するすべての同等な関連性が、本発明によって包含されることが意図されることが理解されるべきである。
【0068】
それ故、前述されたことは、本発明の原理の例証としてのみ考慮される。さらに、多数の修正および変更が当業者に容易に想到されるため、本発明を、示される及び記載される正確な構成および操作に限定することは望ましくなく、したがって、すべての適切な修正および同等物が、本発明の範囲内で用いられ得る。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図3G