特許第6684575号(P6684575)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6684575合成コンクリート構造物の検査方法、健全性評価方法、及び検査結果表示システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6684575
(24)【登録日】2020年4月1日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】合成コンクリート構造物の検査方法、健全性評価方法、及び検査結果表示システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/04 20060101AFI20200413BHJP
   G01N 29/12 20060101ALI20200413BHJP
   G01N 29/07 20060101ALI20200413BHJP
   G01N 29/11 20060101ALI20200413BHJP
【FI】
   G01N29/04
   G01N29/12
   G01N29/07
   G01N29/11
【請求項の数】9
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-229847(P2015-229847)
(22)【出願日】2015年11月25日
(65)【公開番号】特開2017-96803(P2017-96803A)
(43)【公開日】2017年6月1日
【審査請求日】2018年11月19日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 集会による公開/集会名:the 6th International Conference on Emerging Technologies in Non‐Destructive Testing(第6回非破壊検査の先端技術に関する国際会議)、開催日:平成27年 5月28日 集会による公開/集会名:コンクリート構造物の最先端診断技術に関するシンポジウム、開催日:平成27年 7月30日 刊行物による公開/発行者名:公益社団法人 日本コンクリート工学会 刊行物名:コンクリート構造物の最先端診断技術に関するシンポジウム論文集 発行年月日:平成27年 7月30日 刊行物による公開/発行者名:公益社団法人 土木学会 刊行物名:平成27年度土木学会全国大会第70回年次学術講演会予稿集 発行年月日:平成27年8月 1日 刊行物による公開/発行者名:公益社団法人 土木学会 刊行物名:平成27年度土木学会全国大会第70回年次学術講演会予稿集 発行年月日:平成27年8月 1日 集会による公開/集会名:平成27年度土木学会全国大会第70回年次学術講演会、開催日:平成27年 9月17日 集会による公開/集会名:平成27年度土木学会全国大会第70回年次学術講演会、開催日:平成27年 9月17日 刊行物による公開/発行者名:公益社団法人日本道路協会 刊行物名:第31回日本道路会議論文集 発行年月日:平成27年10月13日 集会による公開/集会名:第31回日本道路会、開催日:平成27年10月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】505413255
【氏名又は名称】阪神高速道路株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(73)【特許権者】
【識別番号】515326321
【氏名又は名称】株式会社CORE技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】505398963
【氏名又は名称】西日本高速道路株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121603
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 元昭
(74)【代理人】
【識別番号】100141656
【弁理士】
【氏名又は名称】大田 英司
(74)【代理人】
【識別番号】100182888
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100196357
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 吉章
(74)【代理人】
【識別番号】100067747
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 良昭
(72)【発明者】
【氏名】八ツ元 仁
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 智基
(72)【発明者】
【氏名】小椋 紀彦
【審査官】 佐藤 仁美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−203810(JP,A)
【文献】 特公昭59−023584(JP,B2)
【文献】 特開2014−202682(JP,A)
【文献】 特開2015−038462(JP,A)
【文献】 特開2014−224756(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0011265(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G01N 29/00−29/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート部材に対して配置された鋼板と、
該鋼板を貫通するとともに前記コンクリート部材に挿入された複数のアンカーボルトとを有し、
前記鋼板と前記コンクリート部材とを接着固定した合成コンクリート構造物の検査方法であって、
複数の前記アンカーボルトのうち少なくとも1本を加振アンカーボルトとするとともに、該加振アンカーボルトと異なる少なくとも1本のアンカーボルトを受信アンカーボルトとし、
該受信アンカーボルトの露出側の先端に受信センサと、
前記加振アンカーボルトの近傍の前記鋼板に加振側受信センサとを備え、
前記加振アンカーボルトの露出側の先端を打撃して弾性波を入力するとともに前記受信センサ及び前記加振側受信センサで受信情報を受信し、
前記加振側受信センサで受信した前記受信情報に基づいて、前記弾性波の入力タイミングを検出するとともに、
前記受信センサで受信した受信情報を所定の要素について演算した演算結果に基づいて前記コンクリート部材の損傷を検査する
合成コンクリート構造物の検査方法。
【請求項2】
前記加振アンカーボルト及び前記受信アンカーボルトが、
同素材及び同形状で構成された
請求項1に記載の合成コンクリート構造物の検査方法。
【請求項3】
前記所定の要素が、
前記弾性波のスペクトル重心、前記弾性波における所定周波数の伝播速度、前記弾性波の位相速度、前記弾性波の最大振幅値、及び前記弾性波の継続時間のうちいずれかである
請求項1または2に記載の合成コンクリート構造物の検査方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の検査方法で得られた前記受信情報を異なる二種以上の前記要素について演算した演算結果に基づいて、前記合成コンクリート構造物の健全性を評価する
合成コンクリート構造物の健全性評価方法。
【請求項5】
前記各演算結果がともに良好である場合、前記合成コンクリート構造物が健全であると評価し、
前記各演算結果がともに良好でない場合、前記合成コンクリート構造物が健全でないと評価する
請求項に記載の合成コンクリート構造物の健全性評価方法。
【請求項6】
前記所定の要素が、
前記弾性波のスペクトル重心、前記弾性波における所定周波数の伝播速度、前記弾性波の位相速度、前記弾性波の最大振幅値、及び前記弾性波の継続時間のうちいずれかである
請求項またはに記載の合成コンクリート構造物の健全性評価方法。
【請求項7】
コンクリート部材に対して配置された鋼板と、該鋼板を貫通するとともに前記コンクリート部材に挿入された複数のアンカーボルトとを有し、前記鋼板と前記コンクリート部材とを接着固定した合成コンクリート構造物の損傷を検査し、その健全性を評価するために検査結果を表示する合成コンクリート構造物の検査結果表示システムであって、
複数の前記アンカーボルトのうち少なくとも1本を加振アンカーボルトとするとともに、該加振アンカーボルトと異なる少なくとも1本のアンカーボルトを受信アンカーボルトとし、
該受信アンカーボルトの露出側の先端に設置され、前記加振アンカーボルトの露出側の先端を打撃して入力された弾性波を受信情報として受信する受信センサと、
前記加振アンカーボルトの近傍の前記鋼板に設定され、前記受信情報を受信する加振側受信センサと、
接続された前記受信センサ及び前記加振側受信センサを制御するとともに、前記受信情報を異なる二種以上の所定の要素に基づいてそれぞれ演算結果を演算する制御演算部と、
前記要素が異なる二種以上の演算結果を表示する表示部とで構成され、
前記制御演算部が、前記加振側受信センサで受信した前記受信情報に基づいて、前記弾性波の入力タイミングを検出する
合成コンクリート構造物の検査結果表示システム。
【請求項8】
前記表示部は、
前記要素が異なる二種以上の演算結果をひとつのグラフに表示するとともに、
前記グラフに健全性に関する閾値が表示される
請求項に記載の合成コンクリート構造物の検査結果表示システム。
【請求項9】
前記所定の要素が、
前記弾性波のスペクトル重心、前記弾性波における所定周波数の伝播速度、前記弾性波の位相速度、前記弾性波の最大振幅値、及び前記弾性波の継続時間のうちいずれかである
請求項またはに記載の合成コンクリート構造物の検査結果表示システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、コンクリート部材に対して配置された鋼板と、鋼板を貫通するとともに前記コンクリートあ部材に挿入された複数のアンカーボルトとを有し、前記鋼板と前記コンクリート部材とを接着固定した合成コンクリート構造物の検査方法、健全性評価方法、及び検査結果表示システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、コンクリート道路橋などに用いられるRC床版や、コンクリート製の橋脚や梁などのコンクリート部材では、走行する車両の繰り返し荷重などによる疲労損傷が従来より問題となっている。特に、設計年次が古いコンクリート部材の部材厚は、現在の設計によるコンクリート部材に比べると薄く、耐荷力・耐久性が低い傾向にあり、疲労損傷が顕著に現れる。
【0003】
そこで、例えば、特許文献1で提案されたコンクリート構造物の検査方法では、架設された桟橋の上部コンクリートの上に所定高さから重錘を落下させた際に測定した振動データから算出した測定フーリエスペクトルと、健全なコンクリートに重錘を落下させた際の基準フーリエスペクトルとを比較して上部コンクリートの劣化具合を判断できるとされている。
【0004】
しかしながら、例えば、コンクリート部材が補強用の鋼板で覆われていたり、コンクリート製の橋脚や梁に対して鋼板を巻立てた鋼板巻立て構造物のような合成コンクリート構造物の場合、コンクリート部材の損傷状態を目視で確認することはできず、また補強用の鋼板で覆われているコンクリート部材に重錘を直接落下させることはできないため、コンクリートの振動データを得ることはできず、コンクリート部材の損傷を検査することはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−275520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、この発明は、コンクリート部材の少なくとも一面が鋼板で覆われ、コンクリート部材の損傷を目視で確認できない合成コンクリート構造物の損傷を検査することができる検査方法、健全性評価方法、及び検査結果表示システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、コンクリート部材に対して配置された鋼板と、該鋼板を貫通するとともに前記コンクリート部材に挿入された複数のアンカーボルトとを有し、前記鋼板と前記コンクリート部材とを接着固定した合成コンクリート構造物の検査方法であって、複数の前記アンカーボルトのうち少なくとも1本を加振アンカーボルトとするとともに、該加振アンカーボルトと異なる少なくとも1本のアンカーボルトを受信アンカーボルトとし、該受信アンカーボルトの露出側の先端に受信センサと、前記加振アンカーボルトの近傍の前記鋼板に加振側受信センサとを備え、前記加振アンカーボルトの露出側の先端を打撃して弾性波を入力するとともに前記受信センサ及び前記加振側受信センサで受信情報を受信し、前記加振側受信センサで受信した前記受信情報に基づいて、前記弾性波の入力タイミングを検出するとともに、前記受信センサで受信した受信情報を所定の要素について演算した演算結果に基づいて前記コンクリート部材の損傷を検査することを特徴とする。
【0008】
上述の合成コンクリート構造物は、コンクリート床版とその片面に配置された鋼板とで構成するとともに接着固定した合成コンクリート床版、既成のコンクリート床版に対して補強鋼板を接着固定して構成する鋼板補強コンクリート床版、コンクリート製の橋脚や梁などに対して鋼板を巻立てた鋼板巻立て構造物などを含み、複数のアンカーボルトは予めコンクリート床版などのコンクリート部材に挿入されたアンカーボルトや、コンクリート構造物に事後的に打ち込み等によって挿入されたアンカーボルトを含むものとする。
【0009】
また、上述のコンクリート部材の損傷は、疲労や経年劣化等により、コンクリート部材の劣化や内部に生じるクラックなどを含むものとする。
上述の所定の要素は、弾性波の波形としてコンクリート部材の損傷が現れやすい波形パラメータ、つまりコンクリート部材の損傷との相関関係がある弾性波の要素であればよく、例えば弾性波のスペクトル重心、弾性波における所定周波数の伝播速度、弾性波の位相速度、弾性波の最大振幅値、弾性波の継続時間、弾性波のカウント数(弾性波の周波数)、弾性波のRA値(波の立ち上がり時間/最大振幅値)、あるいは平均周波数(カウント数/継続時間)などとすることができる。
【0010】
この発明により、合成コンクリート構造物の損傷を検査することができる。
詳述すると、合成コンクリート構造物における複数の前記アンカーボルトのうち少なくとも1本を加振アンカーボルトとするとともに、該加振アンカーボルトと異なる少なくとも1本のアンカーボルトを受信アンカーボルトとし、該受信アンカーボルトの露出側の先端に受信センサを備え、前記加振アンカーボルトの露出側の先端を打撃して弾性波を入力し、コンクリート部材内部を伝播した弾性波を前記受信センサで受信した受信情報を所定の要素について演算した演算結果に基づいて前記コンクリート部材の損傷を検査するため、鋼板で覆われて損傷状態を目視で確認できないコンクリート部材における内部のクラックなどの損傷を検出することができる。
【0011】
また、前記加振アンカーボルトの近傍の前記鋼板に加振側受信センサを備え、前記受信センサ及び前記加振側受信センサで前記受信情報を受信することにより、前記受信センサ及び前記加振側受信センサで受信した受信情報を用いることでコンクリート部材内部の損傷をより詳細に検査することができるとともに、加振側受信センサで受信した受信情報に基づいて加振アンカーボルトの近傍の前記鋼板の浮きなどの損傷を検出することができる。
【0012】
詳述すると、入力された弾性波を受信情報として即座に受信する加振側受信センサと、コンクリート部材内部を伝播した弾性波を受信情報として受信する受信センサとを用いることにより、加振側受信センサで受信した受信情報に基づいて弾性波が入力された入力タイミングを正確に把握することができる。したがって、受信センサで受信した受信情報と、弾性波の入力タイミングとに基づいて正確にコンクリート部材内部を伝播した弾性波の伝播時間を正確に検査することができる。
【0013】
さらには、仮に、受信センサと加振側受信センサを同じセンサを用いることにより、それぞれで受信した弾性波の受信情報、つまり受信した弾性波の波形は同じ波形(相似形の波形)となるため、受信した弾性波の波形が異なる場合、受信センサ及び加振側受信センサのいずれかの設置不良や故障などを検出することができ、より正確な検査を行うことができる。
【0014】
この発明の態様として、前記加振アンカーボルト及び前記受信アンカーボルトを、同素材及び同形状で構成することができる。
この発明により、前記加振アンカーボルトに入力された弾性波がコンクリート部材を伝播し、受信アンカーボルトを介して受信センサで受信情報として受信される際に、アンカーボルトの形状や素材による影響を軽減させて、コンクリート部材内部の損傷を正確に検査することができる。
【0015】
またこの発明の態様として、前記所定の要素が、前記弾性波のスペクトル重心、前記弾性波における所定周波数の伝播速度、前記弾性波の位相速度、前記弾性波の最大振幅値、及び前記弾性波の継続時間のうちいずれかとすることができる。
【0016】
この発明により、様々なタイプの損傷を精度よく検出することができる。
詳述すると、所定の要素として用いる前記弾性波のスペクトル重心、前記弾性波における所定周波数の伝播速度、前記弾性波の位相速度、前記弾性波の最大振幅値、及び前記弾性波の継続時間では顕著に出現するコンクリート部材内部のクラックや品質劣化などの損傷の種類が異なるため、上述の要素のいずれかを用いることで様々なタイプの損傷を精度よく検出することができる。
【0017】
特に、所定周波数の範囲における周波数成分に重み付けをした平均値をスペクトル重心として算出し、つまり、所定の要素として受信した弾性波のスペクトル重心が、比較的低い結果として現われた場合、加振側アンカーボルトから受信側アンカーボルトの間に空隙や亀裂などの損傷を検出することができる。
【0018】
また、受信アンカーボルトを介して受信センサで受信した受信情報として、コンクリート部材の内部を伝播した弾性波の波形をウェーブレット解析するとともに、使用する受信センサに応じ、健全なコンクリート部材における卓越周波数に基づく周波数帯の時刻歴波形において最も卓越するまでの時間(以下において卓越伝播時間という)及び、伝播した距離(アンカーボルト間の距離)に基づき速度(以下において卓越伝播速度という)を算出し、卓越伝播速度が比較的低いなどの低い結果である場合、加振側アンカーボルトから受信側アンカーボルトの間のコンクリートが劣化しているなどの損傷を検出することができる。
このように、要素の性状によって精度よく検出できる損傷のタイプが異なる場合であっても精度よくコンクリート部材内部の損傷を検出することができる。
【0019】
またこの発明は、上述の検査方法で得られた前記受信情報を異なる二種以上の前記要素について演算した演算結果に基づいて、前記合成コンクリート構造物の健全性を評価する合成コンクリート構造物の健全性評価方法であることを特徴とする。
【0020】
この発明により、鋼板に覆われてコンクリート部材の損傷状態が目視で確認できない合成コンクリート構造物の健全性を評価することができる。
詳述すると、異なる二種以上の前記要素について前記受信情報を演算した演算結果に基づいて合成コンクリート構造物の健全性を評価するため、損傷パターンによる検出精度の低下を防止し、よりよい精度での損傷状態が目視で確認できない合成コンクリート構造物の健全性を評価することができる。
【0021】
なお、上記健全性の評価は、コンクリート部材が健全であることの評価、逆に健全でないこと、つまりコンクリート部材が劣化・損傷していることの評価、あるいはそれらの程度を評価することを含むものとする。
【0022】
またこの発明の態様として、前記各演算結果がともに良好である場合、前記合成コンクリート構造物が健全であると評価し、前記各演算結果がともに良好でない場合、前記合成コンクリート構造物が健全でないと評価することができる。
【0023】
上述の「良好である場合」あるいは「良好でない場合」の目安として、閾値を用いて良好か否かを判定してもよいし、あるいは明確な閾値を設けることなく、例えばグラフ表示した場合において大まかな領域に対する属否によって良好か否かを判定してもよい。
【0024】
なお、良好か否かを判定するための閾値としては、値、数式、あるいはグラフ表示した場合における領域などで設定することができ、実証実験の結果に基づいて設定される閾値、シミュレーション結果に基づく閾値、あるいは実績値に基づく値など適宜の閾値で設定されるとともに、例えば実績値の蓄積や、用途や使用などによって適切に変化する閾値とすることができる。
【0025】
さらに、上述の各演算結果がともに良好である場合は各演算結果がともに評価基準の閾値を満足する場合と換言でき、前記各演算結果がともに良好でない場合は前記各演算結果がともに評価基準の閾値を満足しない場合に換言してもよい。
【0026】
この発明により、合成コンクリート構造物の損傷状態をさらに精度よく適切に評価することができる。
詳述すると、一種の要素の演算結果に基づいて評価する場合、損傷のタイプなどの諸条件によってはコンクリート部材の健全性を十分に評価できないおそれがあるが、受信情報について異なる要素に基づいて評価するため、鋼板に覆われてコンクリート部材の損傷状態が目視で確認できない合成コンクリート構造物の健全性をより適切かつ高精度に評価することができる。したがって、コンクリート部材の損傷状態によって要する補修を、必要最小限にとどめることができる。
【0027】
またこの発明は、コンクリート部材に対して配置された鋼板と、該鋼板を貫通するとともに前記コンクリート部材に挿入された複数のアンカーボルトとを有し、前記鋼板と前記コンクリート部材とを接着固定した合成コンクリート構造物の損傷を検査し、その健全性を評価するために検査結果を表示する合成コンクリート構造物の検査結果表示システムであって、複数の前記アンカーボルトのうち少なくとも1本を加振アンカーボルトとするとともに、該加振アンカーボルトと異なる少なくとも1本のアンカーボルトを受信アンカーボルトとし、該受信アンカーボルトの露出側の先端に設置され、前記加振アンカーボルトの露出側の先端を打撃して入力された弾性波を受信情報として受信する受信センサと、前記加振アンカーボルトの近傍の前記鋼板に設定され、前記受信情報を受信する加振側受信センサと、接続された前記受信センサ及び前記加振側受信センサを制御するとともに、前記受信情報を異なる二種以上の所定の要素に基づいてそれぞれ演算結果を演算する制御演算部と、前記要素が異なる二種以上の演算結果を表示する表示部とで構成され、前記制御演算部が、前記加振側受信センサで受信した前記受信情報に基づいて、前記弾性波の入力タイミングを検出することを特徴とする。
【0028】
この発明により、鋼板に覆われてコンクリート部材の損傷状態が目視で確認できない合成コンクリート構造物の健全性を的確に評価するための演算結果を表示部に表示することができる。
【0029】
またこの発明の態様として、前記表示部は、前記要素が異なる二種以上の演算結果をひとつのグラフに表示するとともに、前記グラフに健全性に関する閾値を表示することができる。
【0030】
この発明により、鋼板に覆われてコンクリート部材の損傷状態が目視で確認できない合成コンクリート構造物の健全性を評価するにあたって、演算結果の評価基準となる閾値を表示でき、より簡便且つ正確に合成コンクリート構造物の健全性を的確に評価することができる。
【発明の効果】
【0031】
この発明により、コンクリート部材の少なくとも一面が鋼板で覆われ、コンクリート部材の損傷を目視で確認できない合成コンクリート構造物の損傷を検査することができる検査方法、健全性評価方法、及び検査結果表示システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】損傷検査状況の概略図。
図2】構造物評価システムの構成図。
図3】合成床版橋の底面側からの斜視図。
図4】スペクトル重心の概要グラフ。
図5】弾性波形の周波数分布の説明グラフ。
図6】ウェーブレット解析結果の説明図。
図7】合成床版橋の損傷評価グラフ。
図8】補強コンクリート橋脚の斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
この発明の一実施形態を以下図面に基づいて詳述する。
図1は損傷検査状況の概略図を示し、図2は構造物評価システム1の構成図を示し、図3は合成床版橋100の底面側からの斜視図を示し、図4はスペクトル重心の概要グラフを示し、図5は弾性波形の周波数分布の説明グラフを示し、図6はウェーブレット解析結果の説明図を示し、図7は合成床版橋100におけるコンクリート床版102について表示部14に表示する演算結果表示グラフ15を図示している。
【0034】
コンクリート部材(コンクリート床版102)に対して配置された鋼板(補強鋼板103)と、鋼板(補強鋼板103)を貫通するとともにコンクリート部材(コンクリート床版102)に挿入された複数のアンカーボルト(110)とを有し、鋼板(補強鋼板103)とコンクリート部材(コンクリート床版102)とを接着固定した合成コンクリート構造物(合成床版橋100)におけるコンクリート部材(コンクリート床版102)の損傷を検査し、健全性を評価する構造物評価システム1は、図2に示すように、損傷検査装置10と、弾性波を受信情報として受信するセンサ20とで構成している。
【0035】
損傷検査装置10は、CPUで構成する制御・演算装置11、ROMやRAMで構成する記憶部12、筐体に備えられた操作スイッチ等で構成する操作部13及び、筐体に配置される液晶等の表示部14とで構成している。なお、記憶部12、操作部13及び表示部14は制御・演算装置11に接続され、制御・演算装置11により制御されている。
【0036】
制御・演算装置11は、記憶部12に記憶した各種制御プログラムや演算プログラムと協働して、制御・演算装置11に接続された各機器を制御したり、後述するセンサ20で受信した受信情報を演算し、演算結果を評価できるように閾値データとともに演算結果表示グラフ15(図7参照)を表示することができる。
表示部14は、制御・演算装置11によって演算された演算結果や閾値データなどをグラフ表示したりする液晶モニターである。
【0037】
記憶部12には、上述の各種プログラム、計測した計測データ、あるいは演算結果を評価するための閾値等を記憶する。
記憶部12に記憶する閾値データとしては、要素ごとに損傷状態を評価する閾値データであってもよく、損傷の可能性が低い健全閾値データと損傷の可能性が高い損傷閾値データとを設けてもよい。この場合、健全閾値データと損傷閾値データとの間の範囲を損傷の可能性があるとして判断すればよい。なお、本実施形態においては、要素ごとに閾値データ16(16a,16b)を設けている。
【0038】
また、記憶部12に記憶する演算プログラムとしては、例えば、受信情報に基づいてスペクトル重心を算出するスペクトル重心算出プログラム、受信情報に基づく波形をウェーブレット解析するウェーブレット解析プログラム、設定した周波数帯の時刻歴波形を抽出する時刻歴波形抽出プログラム、時刻歴波形における卓越伝播時間を抽出するとともに、抽出された卓越伝播時間に基づいて卓越伝播速度を算出する卓越伝播速度算出プログラム及び、算出された演算結果を閾値データとともに演算結果表示グラフ15として表示部14に表示する演算結果表示プログラムなどがある。
【0039】
センサ20は、損傷検査装置10に接続されることにより、制御・演算装置11の制御によって弾性波振動を受信情報として受信し、制御・演算装置11に送信することができる。なお、センサ20は、後述する加振側アンカーボルト111の近傍に配置される加振側センサ21と、受信側アンカーボルト112にセットされる受信側センサ22とがあり、加振側センサ21及び受信側センサ22は適宜の数設けることができる。
【0040】
このような構造物評価システム1を用いて、内部損傷を検出するとともに健全性を評価する評価対象の一例である合成床版橋100について、図3とともに説明する。
合成床版橋100は、舗装101、コンクリート床版102、補強鋼板103及び補強桁104とで構成し、上からこの順で構成している。
【0041】
舗装101は、コンクリート床版102の上面側を覆うように適宜の厚みで構成されている。
コンクリート床版102は、適宜の厚み及び強度を有する鉄筋コンクリート製の床版であり、橋軸直角方向Wに所定間隔を隔てて、橋軸方向Lの梁部102aが形成されている。
【0042】
補強鋼板103は、適宜の厚みの鋼板であり、コンクリート床版102の底面側を覆うように接着固定されている。なお、図1では、コンクリート床版102と補強鋼板103とを接着固定する接着層105の理解を容易にするため厚みを持って図示しているが、接着固定できれば接着層105は厚みがなくてもよい。
補強桁104は、コンクリート床版102に形成された梁部102aに設けられ、橋軸方向LのI型鋼で構成されている。
【0043】
なお、コンクリート床版102の底面に接着層105によって接着固定された補強鋼板103は、橋軸方向L及び橋軸直角方向Wに所定間隔を隔てて、複数のアンカーボルト110が設けられている。
アンカーボルト110は、軸部110aと、軸部110aと螺合するナット110bと、螺合状態におけるナット110bと補強鋼板103との間に介在するワッシャ110cとで構成されている。
【0044】
軸部110aは補強鋼板103を貫通するとともに、コンクリート床版102の内部まで所定長さ挿入されており、ボルト軸部の周辺に注入されたグラウトGにより、軸部110aはコンクリート床版102に固定されている。
【0045】
このようにコンクリート床版102に挿入され、グラウトGで固定された軸部110aが補強鋼板103を貫通し、ナット110bを螺合することで、補強鋼板103をコンクリート床版102に仮固定することができる。そして、アンカーボルト110による仮固定状態においてコンクリート床版102と補強鋼板103とは接着固定され、構造的に一体化となっている。
【0046】
なお、合成床版橋100として、既設のコンクリート床版102に対して補強鋼板103及び補強桁104を補強のために取り付けて構成した合成床版橋100であっても、コンクリート床版102に対して補強鋼板103及び補強桁104が設けられた新設の合成床版橋100であってもよく、さらには補強桁104がなくてもよいし、接着層105によって接着固定されたコンクリート床版102と補強鋼板103とに対して、後述する損傷検査及び健全性の評価のためにアンカーボルト110を設けてもよい。
【0047】
このような合成床版橋100は、舗装101上を橋軸方向Lに走行する車両による振動が作用して疲労損傷し、接着層105によって接着固定された補強鋼板103がコンクリート床版102からはがれて浮きが生じたり、コンクリート床版102の内部にクラックなどが生じることがある。
【0048】
しかし、上面に舗装101が敷設されるとともに底面側が補強鋼板103で覆われてコンクリート床版102が目視できない合成床版橋100では、その損傷状態を確認することができず、これまでは補強鋼板103を底面側からハンマーで叩き、その際の打音で補強鋼板103の浮きを検査する、いわゆる打音検査を行っていた。しかしながら、打音検査では、上述したように、コンクリート床版102に対する補強鋼板103の浮きしか検査できず、コンクリート床版102の内部クラックなどを検査することはできなかった。
【0049】
そこで、上述の構造物評価システム1を用いて合成床版橋100におけるコンクリート床版102の損傷を検査するとともに、その健全性を評価する評価方法について、以下で詳細に説明する。
合成床版橋100におけるコンクリート床版102の損傷を検査するためには、まず、合成床版橋100に複数の検査エリアを設定する。そして、検査対象となる検査エリアにおいて複数あるアンカーボルト110のうち、中心側のアンカーボルト110を加振側アンカーボルト111に設定するとともに、加振側アンカーボルト111から適宜の距離を隔てたアンカーボルト110を受信側アンカーボルト112に設定する。
【0050】
なお、アンカーボルト110の中から選択されて設定される加振側アンカーボルト111と受信側アンカーボルト112とはいうまでもなく、同素材且つ同形状で構成されている。
また、加振側アンカーボルト111と受信側アンカーボルト112とは、およそ適宜の距離を隔てたアンカーボルト110を設定するとよい。本実施形態においてその距離を1m以下としている。そのため、検査エリアはおよそ半径1mの円状あるいは2m×2mの正方形状となる。
【0051】
このようにして設定された加振側アンカーボルト111の近傍の補強鋼板103に加振側センサ21をセットするとともに、受信側アンカーボルト112のボルト頭部に受信側センサ22をセットする。
【0052】
この状態で、加振側アンカーボルト111の先端部を鋼球Hで打撃し、弾性波の入力を行い、加振側アンカーボルト111の近傍の補強鋼板103にセットした加振側センサ21及び受信側アンカーボルト112にセットした受信側センサ22で、伝播した弾性波の振動を受信情報として受信する。
【0053】
詳述すると、加振側センサ21及び受信側センサ22は同じセンサで構成しているが、加振側アンカーボルト111の近傍の補強鋼板103にセットした加振側センサ21は補強鋼板103を介して入力された弾性波を受信するが、受信側アンカーボルト112にセットした受信側センサ22はコンクリート床版102の内部を伝播してくる弾性波の振動を受信することとなる。
【0054】
センサ20(21,22)で受信した受信情報は損傷検査装置10に送信され、損傷検査装置10において次に説明する演算処理を行う。
損傷検査装置10では、加振側センサ21及び受信側センサ22で受信した受信情報に対して、所定の要素(波形パラメータ)について演算し、その演算結果に基づいて合成床版橋100の損傷を検出する。なお、本実施形態においては、所定の要素(波形パラメータ)としてスペクトル重心及び伝播速度を演算し、合成床版橋100の損傷を検出する場合について説明する。
【0055】
具体的には、制御・演算装置11は、スペクトル重心算出プログラムを実行し、図4に示すような、加振側センサ21及び受信側センサ22で受信した受信情報である弾性波について、下記数式1により、1kHzから100kHzの間の周波数成分に重み付けをした平均値をスペクトル重心として算出する。
【0056】
【数1】
コンクリート床版102に空隙や亀裂などの損傷がある場合、図5に示すように、周波数分布は高周波側から低周波側に大きく移行するため、スペクトル重心も低下する傾向を示す。なお、図5(a)は健全なコンクリート床版における周波数分布を示し、図5(b)は劣化・損傷があるコンクリート床版102の場合の周波数分布を示している。
【0057】
したがって、上述の数式1で算出したスペクトル重心が、比較的低い演算結果である場合、つまり後述するスペクトル閾値データ16aより低い結果である場合、コンクリート床版102は劣化・損傷の可能性あり、つまりコンクリート床版102内部の損傷を検出することができる。
【0058】
換言すると、検査エリアにおいて、受信側センサ22で受信した受信情報に基づく検出結果からはコンクリート床版102における加振側アンカーボルト111と受信側アンカーボルト112の間において損傷している可能性があると判定し、加振側センサ21で受信した受信情報に基づく検出結果からはコンクリート床版102に対する補強鋼板103の浮きが生じている可能性がある、つまり補強鋼板103の浮きを検出することができる。
【0059】
次に、伝播速度による損傷検出について説明する。
まず、健全なコンクリート床版における弾性波を受信した際における卓越周波数を、使用するセンサ20に応じて設定卓越周波数として設定する。
【0060】
そして、上述したように、加振側アンカーボルト111を鋼球Hで打撃して弾性波を入力し、補強鋼板103を介した弾性波を加振側センサ21で受信した受信情報の波形、及び伝播した弾性波を受信側センサ22で受信した受信情報の波形について、制御・演算装置11はウェーブレット解析プログラムを実行してウェーブレット解析を行う。
そのうえで、制御・演算装置11は時刻歴波形抽出プログラムを実行し、設定した設定卓越周波数帯の時刻歴波形を抽出する。
【0061】
さらに、制御・演算装置11は卓越伝播速度算出プログラムを実行し、抽出した時刻歴波形における卓越伝播時間を抽出するとともに、抽出された卓越伝播時間と、加振側アンカーボルト111と受信側アンカーボルト112との距離(ボルト間距離)に基づいて卓越伝播速度を算出する(数式2参照)。
【0062】
このとき、制御・演算装置11は、加振側アンカーボルト111の近傍の補強鋼板103に配置した加振側センサ21で受信した受信情報の波形に基づいて、鋼球Hを打撃して入力された弾性波の入力タイミングを正確に検出する。
【0063】
【数2】
コンクリート床版102において加振側アンカーボルト111から受信側アンカーボルト112の間に空隙や亀裂などの損傷がある場合、図6に示すように、卓越伝播速度が低下する傾向を示す。なお、図6(a)はボルト間距離が1200mmとした健全なコンクリート床版におけるウェーブレット解析結果を示し、図6(b)は劣化・損傷があるコンクリート床版102の場合のウェーブレット解析結果を示している。
【0064】
したがって、上述の数式2で算出した卓越伝播速度が、比較的低い演算結果である場合、換言すると後述する速度閾値データ16bより低い結果である場合、コンクリート床版102は劣化・損傷の可能性あり、つまりコンクリート床版102内部の損傷を検出することができる。
【0065】
続いて、このような検査方法による合成床版橋100の健全性評価方法について説明する。
制御・演算装置11は演算結果表示プログラムを実行し、スペクトル重心算出プログラムと卓越伝播速度算出プログラムで算出された演算結果を閾値データ16(16a,16b)とともに演算結果表示グラフ15(図7参照)として、表示部14に表示する。
【0066】
演算結果表示グラフ15は、横軸が速度(Velocity)、縦軸が周波数(Frequency)であり、横軸に対して速度閾値データ16bを設定するとともに、縦軸に対してスペクトル閾値データ16aを設定している。
【0067】
なお、閾値データ16(16a,16b)は、本実施形態において、健全なコンクリート床版における演算結果や損傷したコンクリート床版における演算結果の実績に基づいて設定しているが、シミュレーションの結果に基づいて設定してもよい。
【0068】
このように、スペクトル閾値データ16a及び速度閾値データ16bが設定された演算結果表示グラフ15において、スペクトル閾値データ16a及び速度閾値データ16bより低い左下の領域は損傷・劣化が進行していると評価される損傷劣化領域15aとなり、スペクトル閾値データ16a及び速度閾値データ16bより高い右上の領域は健全であると評価される健全領域15bとなる。
【0069】
したがって、上述の演算結果を演算結果表示グラフ15にプロットすることによって、検査エリアにおける加振側アンカーボルト111と受信側アンカーボルト112との間のコンクリート床版102の健全性を評価することができる。
【0070】
具体的には、制御・演算装置11は、スペクトル重心算出プログラムによって算出されたスペクトル重心の演算結果がスペクトル閾値データ16aより高く、かつ卓越伝播速度算出プログラムによって算出された卓越伝播速度が速度閾値データ16bより速い場合、演算結果は演算結果表示グラフ15における健全領域15bにプロットされるため、コンクリート床版102に損傷はない、つまりコンクリート床版102は健全であると評価する。
【0071】
逆に、スペクトル重心算出プログラムによって算出されたスペクトル重心がスペクトル閾値データ16aより低く、かつ卓越伝播速度算出プログラムによって算出された卓越伝播速度が速度閾値データ16bより遅い場合、演算結果は演算結果表示グラフ15における損傷劣化領域15aにプロットされるため、コンクリート床版102における加振側アンカーボルト111と受信側アンカーボルト112との間の劣化・損傷の可能性は大である、つまり劣化・損傷が進行していると評価する。
【0072】
なお、スペクトル重心算出プログラムによって算出されたスペクトル重心がスペクトル閾値データ16aより低く、卓越伝播速度算出プログラムによって算出された卓越伝播速度が速度閾値データ16bより早い場合、あるいは、スペクトル重心算出プログラムによって算出されたスペクトル重心がスペクトル閾値データ16aより高く、卓越伝播速度算出プログラムによって算出された卓越伝播速度が速度閾値データ16bより遅い場合は、演算結果表示グラフ15における左上もしくは右下の領域にプロットされ、コンクリート床版102における加振側アンカーボルト111と受信側アンカーボルト112との間の劣化・損傷の可能性は少なくともある、つまり劣化・損傷している可能性があると評価する。
このようにして、同じ検査エリアにおける他の受信側センサ22の受信情報の演算結果や他の検査エリアの演算結果も演算結果表示グラフ15にプロットし、その結果を記憶部12に記憶する。
【0073】
そして、この損傷劣化領域15aにおいて、左下にプロットされるものほどコンクリート床版102の損傷が著しいと判断できるため、検査対象となる検査エリアにおけるコンクリート床版102の劣化・損傷状態を把握し、当該検査エリアにおける補修・補強対策の要否を検討することができる。
【0074】
したがって、合成床版橋100に対する補修・補強対策を実施するにあたっての優先順位の指標に成り得る。また、計測環境に応じた閾値の正確性を向上させることにより、適切な損傷評価を行うことが可能となり、必要最小限の床版補修にとどめることができる。
【0075】
このように、コンクリート床版102に対して配置された補強鋼板103と、補強鋼板103を貫通するとともにコンクリート床版102に挿入された複数のアンカーボルト110とを有し、補強鋼板103とコンクリート床版102とを接着固定した合成床版橋100におけるコンクリート床版102の内部損傷を検査する検査方法として、複数のアンカーボルト110のうち少なくとも1本を加振側アンカーボルト111とするとともに、加振側アンカーボルト111と異なる少なくとも1本のアンカーボルト110を受信側アンカーボルト112とし、受信側アンカーボルト112のボルト頭部に受信側センサ22を備え、加振側アンカーボルト111のボルト頭部を鋼球Hで打撃して弾性波を入力し、加振側センサ21及び受信側センサ22で受信した受信情報の要素に基づいてコンクリート床版102の損傷を検査することにより、コンクリート床版102に対する補強鋼板103の浮きだけでなく、補強鋼板103で覆われて損傷状態を目視で確認できないコンクリート床版102における内部のクラックなどの損傷を検出することができる。
【0076】
加振側アンカーボルト111及び受信側アンカーボルト112を、同素材及び同形状で構成することにより、加振側アンカーボルト111に入力された弾性波がコンクリート床版102の内部を伝播し、受信側アンカーボルト112を介して受信側センサ22で受信情報として受信する際に、アンカーボルト110の形状や素材による影響を軽減させて、コンクリート部材内部の損傷を正確に検出することができる。
【0077】
また、受信情報に基づき弾性波のスペクトル重心、及び弾性波における所定周波数の卓越伝播速度を算出して損傷の検出に用いることにより、算出されたスペクトル重心、及び卓越伝播速度に基づいてコンクリート床版102の損傷を検出することができる。
【0078】
詳述すると、受信側センサ22で受信した受信情報について所定周波数の範囲における周波数成分に重み付けをした平均値をスペクトル重心として算出し、健全なコンクリート床版のスペクトル閾値データ16aよりスペクトル重心が低い場合、加振側アンカーボルト111から受信側アンカーボルト112の間において空隙や亀裂などの損傷を検出することができる。
【0079】
また、加振側センサ21で受信した受信情報に基づいて算出したスペクトル重心がスペクトル閾値データ16aより低い場合、コンクリート床版102に対する補強鋼板103の浮きを検出することができる。
【0080】
また、受信側アンカーボルト112を介して受信側センサ22で受信した伝播してくる弾性波(受信情報)の波形をウェーブレット解析するとともに、使用する受信側センサ22に応じて設定された設定卓越周波数帯の時刻歴波形において、卓越伝播時間及びボルト間距離に基づき卓越伝播速度を算出し、健全なコンクリート床版の速度閾値データ16bより卓越伝播速度が低下する場合、加振側アンカーボルト111から受信側アンカーボルト112の間において空隙や亀裂などの損傷を検出することができる。
【0081】
また、上述の検査方法で得た検査結果に基づいて、合成床版橋100の健全性を評価する評価方法では、算出したスペクトル重心がスペクトル閾値データ16aより高く、算出した卓越伝播速度が速度閾値データ16bより速い場合に合成床版橋100が健全であると評価できるため、合成床版橋100におけるコンクリート床版102の損傷状態を適切に評価することができる。
【0082】
詳述すると、諸条件によっては、演算結果として算出されたスペクトル重心及び卓越伝播速度のいずれかのみでは十分にコンクリート床版102の健全性を十分に評価できないおそれがあるが、受信側アンカーボルト112を介して受信側センサ22で受信した受信情報として伝播してくる弾性波について、スペクトル重心及び伝播速度という種類の異なる要素(波形パラメータ)に基づいて評価するため、補強鋼板103に覆われてコンクリート床版102の損傷状態が目視で確認できない合成床版橋100の健全性を適切に評価することができる。したがって、コンクリート床版102の損傷状態によって要する補修を、必要最小限にとどめることができる。
【0083】
この発明の構成と、実施形態との対応において、この発明のコンクリート部材はコンクリート床版102に対応し、
以下同様に、
鋼板は補強鋼板103に対応し、
受信センサは受信側センサ22に対応し、
合成コンクリート構造物は合成床版橋100に対応し、
加振側受信センサは加振側センサ21に対応し、
制御演算部は制御・演算装置11に対応し、
閾値は閾値データ16に対応し、
グラフは演算結果表示グラフ15に対応し、
検査結果表示システムは構造物評価システム1に対応するも、
この発明は、上述の実施形態の構成のみに限定されるものではなく、請求項に示される技術思想に基づいて応用することができ、多くの実施の形態を得ることができる。
【0084】
例えば、上述の説明では、構造物評価システム1を用いた損傷検査及び健全性の評価の対象を合成床版橋100として説明したが、図8に示すように、コンクリート製の橋脚210に対して補強鋼板220を巻き立て、補強鋼板220を貫通するとともに橋脚210に挿入されたアンカーボルト110を有する補強コンクリート橋脚200を対象とし、構造物評価システム1を用いて損傷検査及び健全性の評価を行ってもよい。なお、図8において補強コンクリート橋脚200の手前側の一部を透過状態で図示している。
【0085】
この場合の検査方法及び構造物評価システム1を用いた評価方法は、合成床版橋100を対象とした上述の説明と同じであるため、その説明は省略する。なお、コンクリート製の橋脚210のみならず梁を補強鋼板で補強した補強コンクリート梁を対象とし、構造物評価システム1を用いて損傷検査及び健全性の評価を行ってもよい。
【0086】
また、この場合、加振側アンカーボルト111と受信側アンカーボルト112とを異なる側面に設けることによって、加振側アンカーボルト111と受信側アンカーボルト112とで受信情報として受信する弾性波を、反射波や横波など異なる複数の波として受信することができ、より高精度に橋脚210の劣化・損傷を検出でき、的確な評価をすることができる。
【0087】
また、上述の合成床版橋100や補強コンクリート橋脚200などにおいては、予め設置されているアンカーボルト110を用いたが、コンクリート床版などに鋼板が接着層105によって接着固定された構造物に対して、損傷検査及び健全性の評価のためにアンカーボルト110を設けて損傷検査及び健全性の評価を行ってもよい。
【0088】
また、加振側アンカーボルト111とは異なる素材や異なる形状で、弾性波が受信しやすい受信側アンカーボルト112を構成してもよい。
さらに、加振側センサ21とは異なり、コンクリート部材内部を伝播する弾性波が受信しやすいセンサで受信側センサ22を構成してもよい。
【0089】
さらにまた、上述の説明では、受信情報として受信した弾性波について異なる要素としてスペクトル重心及び卓越伝播速度の二種類を演算結果として算出したが、スペクトル重心及び卓越伝播速度に加え、弾性波の位相速度、弾性波の最大振幅値、弾性波の継続時間、弾性波のカウント数(弾性波の周波数)、弾性波のRA値(波の立ち上がり時間/最大振幅値)、あるいは平均周波数(カウント数/継続時間)の中から二種類を組み合わせて演算結果を算出して、劣化・損傷の検出及び健全性の評価を行ってもよい。
【0090】
なお、受信情報を演算するための要素としては、上述のスペクトル重心及び卓越伝播速度あるいは弾性波の位相速度や弾性波の最大振幅値など以外であっても、弾性波の波形としてコンクリート部材の損傷が現れやすい波形パラメータ、つまりコンクリート部材の損傷との相関関係がある弾性波の要素であればよい。
【0091】
さらには、二種類の要素の組み合わせだけでなく、上述の複数の要素の中から三種類の要素を組み合わせて演算結果を算出してもよい。この場合、表示部14に表示する演算結果表示グラフ15は、縦軸及び横軸で構成する二次元グラフではなく、高さ方向の軸を加えた三次元グラフとして表示することとなり、より高精度に劣化・損傷の検出及び健全性の評価を行うことができる。
【0092】
また、上述の演算結果表示グラフ15では、横軸に平行なスペクトル閾値データ16aと縦軸に平行な速度閾値データ16bとを設定し、スペクトル閾値データ16aと速度閾値データ16bで区切られた右上の四角状の領域を健全領域15b、スペクトル閾値データ16aと速度閾値データ16bで区切られた左下の四角状の領域を損傷劣化領域15aとしたが、右下がり(左上がり)の斜めの閾値データを2本表示し、1本の斜めの閾値データで区切られた右上の三角状の領域を健全領域15b、もう1本の斜めの閾値データで区切られた左下の三角状の領域を損傷劣化領域15aとして評価してもよい。
【0093】
さらには、閾値データ16は、上述のように数式で設定するだけでなく、値そのものを閾値としてもよく、さらには、明確な閾値を設けることなく、演算結果表示グラフ15における大まかな領域などで設定してもよい。また、その数値根拠としては、実証実験の結果に基づいて設定される閾値、シミュレーション結果に基づく閾値、あるいは実績値に基づく値など適宜の閾値で設定されるとともに、例えば実績値の蓄積や、用途や使用などによって適切に変化する閾値としてもよい。
【符号の説明】
【0094】
1…構造物評価システム
11…制御・演算装置
14…表示部
15…演算結果表示グラフ
16…閾値データ
21…加振側センサ
22…受信側センサ
100…合成床版橋
102…コンクリート床版
103…補強鋼板
110…アンカーボルト
111…加振側アンカーボルト
112…受信側アンカーボルト
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8