特許第6684590号(P6684590)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6684590-積層ウェットシート 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6684590
(24)【登録日】2020年4月1日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】積層ウェットシート
(51)【国際特許分類】
   A47K 7/00 20060101AFI20200413BHJP
【FI】
   A47K7/00 E
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-254420(P2015-254420)
(22)【出願日】2015年12月25日
(65)【公開番号】特開2017-113428(P2017-113428A)
(43)【公開日】2017年6月29日
【審査請求日】2018年10月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183462
【氏名又は名称】日本製紙クレシア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113022
【弁理士】
【氏名又は名称】赤尾 謙一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100110249
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 昭
(74)【代理人】
【識別番号】100116090
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 和彦
(72)【発明者】
【氏名】林 伸匡
(72)【発明者】
【氏名】間篠 智恵子
【審査官】 七字 ひろみ
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−070044(JP,A)
【文献】 特開2015−045113(JP,A)
【文献】 特開2004−016730(JP,A)
【文献】 特開平08−176961(JP,A)
【文献】 特表2002−537503(JP,A)
【文献】 特開平09−234167(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47K 7/00
A47K 10/16
D04H 1/00−18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にカルボキシル基又はカルボキシレート基を有する酸化セルロース繊維に対し、Ag、Au、Pt、Pd、Ni、Mn、Fe、Ti、Al、Zn及びCuの群から選ばれる1種以上の金属元素のイオンを含有してなる金属イオン含有セルロース繊維と、パルプ繊維と、を含む抄紙シートと、
前記抄紙シート表面側及び裏面側にそれぞれ積層され、親水性繊維50〜85質量%、熱接着性繊維15〜50質量%からなる繊維ウエブと、を有する積層ウェットシートであって、
前記酸化セルロース繊維に対する前記金属元素のイオンの含有量が10〜60mg/g、
水を99質量%以上含む薬液を、前記積層ウェットシートに対して250〜400質量%含む積層ウェットシート。
【請求項2】
前記抄紙シートは、前記金属イオン含有セルロース繊維を2〜30質量%含む請求項1記載の積層ウェットシート。
【請求項3】
前記積層ウェットシートの目付が30〜100gsmであり、前記抄紙シートの目付が前記積層ウェットシート全体の30〜50質量%である請求項1又は2記載の積層ウェットシート。
【請求項4】
前記薬液は、水を99.9質量%以上含む請求項1〜3のいずれか一項に記載の積層ウェットシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体や、ペット等の動物の清掃に好適に使用できる、薬液を含んだウェットシートに関する。
【背景技術】
【0002】
人体や、ペット等の動物の汚れ等を拭き取るため、薬液を含んだウェットシートが用いられている(特許文献1,2)。特に乳幼児のおしり拭きに使用するためには、柔らかさ、拭き取り性、消臭性能が高いだけでなく、安全で刺激性の低いウェットシートが望まれる。このため、薬液としては、刺激性の化学薬品(防腐剤等)の添加量が少ないものが要望される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−20597号公報
【特許文献2】特開2003−79530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のウェットシートの場合、薬液中の化学薬品の添加量を少なくすると、化学薬品による抗菌/消臭効果や、薬液の長期の保存安定性が低下するという問題がある。
又、抗菌/消臭効果を向上させるために薬液中の化学薬品の割合を多くすると、安全性以外の問題として、ウェットシートの触感を悪化させることがある。
従って本発明は、刺激性が少なく、かつ抗菌/消臭効果を確保しつつ、拭き取り性及び触感を向上させた積層ウェットシートの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明の積層ウェットシートは、表面にカルボキシル基又はカルボキシレート基を有する酸化セルロース繊維に対し、Ag、Au、Pt、Pd、Ni、Mn、Fe、Ti、Al、Zn及びCuの群から選ばれる1種以上の金属元素のイオンを含有してなる金属イオン含有セルロース繊維と、パルプ繊維と、を含む抄紙シートと、前記抄紙シート表面側及び裏面側にそれぞれ積層され、親水性繊維50〜85質量%、熱接着性繊維15〜50質量%からなる繊維ウエブと、を有する積層ウェットシートであって、前記酸化セルロース繊維に対する前記金属元素のイオンの含有量が10〜60mg/g、水を99質量%以上含む薬液を、前記積層ウェットシートに対して250〜400質量%含む。
【0006】
この積層ウェットシートによれば、抄紙シート中の金属イオン含有セルロース繊維自体が抗菌/消臭性能を有するため、薬液中の防腐剤や消臭剤の量を低減することができる。これにより、被清拭表面(人体や動物の皮膚/粘膜)に残留する薬剤が少なくなり、刺激性を低減することができる。又、薬液中の防腐剤や消臭剤の量を低減することで水の含有割合を99質量%以上に高めることができ、軟便等を綺麗に拭き取ることができる。薬液中に水を99.9質量%以上含むと、軟便等をより拭き取りやすい。
【0007】
前記抄紙シートは、前記金属イオン含有セルロース繊維を2〜30質量%含むことが好ましい
前記積層ウェットシートの目付が30〜100gsmであり、前記抄紙シートの目付が前記積層ウェットシート全体の30〜50質量%であることが好ましい。
前記薬液は、水を99.9質量%以上含むことが好ましい。


【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、刺激性が少なく、かつ抗菌/消臭効果を確保しつつ、拭き取り性及び触感を向上させた積層ウェットシートが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例に用いた金属イオン含有セルロース繊維の透過型電子顕微鏡像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態に係る積層ウェットシートは、後述する抄紙シートと、抄紙シートの表裏にそれぞれ積層される繊維ウエブと、を有する積層構造をなし、薬液を含む。
【0011】
<抄紙シート>
抄紙シートは、表面にカルボキシル基又はカルボキシレート基を有する酸化セルロース繊維に対し、Ag、Au、Pt、Pd、Ni、Mn、Fe、Ti、Al、Zn及びCuの群から選ばれる1種以上の金属元素のイオンを含有してなる金属イオン含有セルロース繊維と、パルプ繊維と、を含む。なお、「抄紙シート」とは、パルプ繊維を抄紙法によりシート化したものをいい、顕微鏡によりパルプ繊維が絡み合った状態であれば、抄紙シートである。
【0012】
この金属イオン含有セルロース繊維は、セルロース繊維表面にカルボキシル基又はカルボキシレート基を導入した酸化セルロース繊維に対し、金属化合物水溶液を接触させることによって得ることができる。また、本発明の実施形態に係るウェットシートの製造方法としては、酸化セルロース繊維を含む原料を抄造したシートに上記金属化合物水溶液を接触させる方法の他、予め酸化セルロース繊維に金属イオンを含有させ、この金属イオン含有セルロース繊維を含む原料を抄造する方法を例示することできる。
【0013】
上記酸化セルロース繊維は、N−オキシル化合物を触媒に用いて木材パルプなどのセルロース繊維を酸化することにより製造できる。この酸化反応により、セルロース表面のグルコピラノース環のC6位の一級水酸基が選択的に酸化され、表面にカルボキシル基またはカルボキシレート基を有する酸化セルロース繊維が得られる。原料のセルロースは天然セルロースが好ましい。上記酸化反応は、水中で行うことが好ましい。反応におけるセルロース繊維の濃度は特に限定されないが、5質量%以下が好ましい。N−オキシル化合物の量は、反応系に対し0.1〜4mmol/L程度であればよい。反応には公知の共酸化剤を用いてもよい。共酸化剤の例には、ジ亜ハロゲン酸またはその塩が含まれる。共酸化剤の量は、N−オキシル化合物1molに対して1〜40molが好ましい。
反応温度は4〜40℃が好ましく、室温がより好ましい。反応系のpHは8〜11が好ましい。酸化の度合いは、反応時間、N−オキシル化合物の量等により適宜調整できる。
このようにして得た酸化セルロース繊維は、表面に酸基が存在し、内部にはほとんど酸基は存在しない。これはセルロース繊維が結晶性であるため、酸化剤が繊維の内部にまで拡散しにくいためと考えられる。
【0014】
カルボキシル基とは−COOHで表される基をいい、カルボキシレート基とは−COO−で表される基をいう。酸化セルロース繊維を製造する際のカルボキシレート基のカウンターイオンは特に限定されない。そして、後述する金属のイオンが上記カウンターイオンと置き換わってカルボキシレート基とイオン結合する。また、カルボキシル基は金属イオンとして銅イオンと配位すると思われる。カルボキシル基またはカルボキシレート基を合わせて「酸基」ともいう。
酸基の含有量は、特開2008−001728号公報の段落0021に開示されている方法によって測定できる。すなわち、精秤した乾燥セルロース試料を用いて0.5〜1質量%のスラリー60mLを調製し、0.1mol/Lの塩酸水溶液によってpHを約2.5とする。その後、0.05mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して電気伝導度測定を行う。測定はpHが約11になるまで続ける。電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階を示すまでに消費された水酸化ナトリウム量(V)から、下式を用いて酸基量X1を求める。
X1(mmol/g)=V(mL)×0.05/セルロースの質量(g)
【0015】
上記セルロース繊維の酸基の量は、0.2〜2.2mmol/gが好ましい。酸基の量が0.2mmol/g未満であると、セルロース繊維表面に存在する金属イオンの量が十分でなく、消臭機能に劣る場合がある。酸基の量が2.2mmol/gを超えると、ウェットシートの抄紙の際のろ水性が悪化し、脱水負荷が大きくなる場合がある。
【0016】
次に、上記酸化セルロース繊維に対し、上記金属の化合物を含む水溶液を接触させ、金属化合物に由来する金属イオンが、カルボキシレート基とイオン結合を形成する。なお、カルボキシル基は電離してカルボキシレート基を経て金属イオンとイオン結合するか、上述のように金属イオンと配位すると思われる。
金属化合物水溶液とは、金属塩の水溶液である。金属塩の例には、錯体(錯イオン)、ハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩、および酢酸塩が含まれる。金属塩は水溶性であることが好ましい。
金属化合物の接触方法に関しては、予め調製したセルロース繊維の分散液と金属化合物水溶液を混合してもよく、セルロース繊維を含む分散液を基材の上に塗布して膜とし、当該膜に金属化合物水溶液を添加して含浸させてもよい。このとき、膜は基板上に固定されたままであってもよいし、基板から剥離された状態であってもよい。
金属化合物水溶液の濃度は特に限定されないが、セルロース繊維100質量部に対して10〜80質量部が好ましく、30〜60質量部がより好ましい。
金属化合物を接触させる時間は適宜調整してよい。接触させる際の温度は特に限定されないが20〜40℃が好ましい。また、接触させる際の液のpHは特に限定されないが、pHが低いと、カルボキシル基に金属イオンが結合しにくくなるため、7〜13が好ましく、pH8〜12が特に好ましい。
【0017】
酸化セルロース繊維が金属イオンを含有(配位)していることは、走査型電子顕微鏡像、及び強酸による抽出液のICP発光分析で確認できる。つまり、金属イオンは走査型電子顕微鏡像では存在を確認できず、一方でICP発光分析では金属を含有していることを確認できる。これに対し、例えば上記金属がイオンから還元されて金属粒子として存在している場合は、走査型電子顕微鏡像または透過型電子顕微鏡像でも金属粒子を確認することができるので、金属粒子の有無を判定できる。また、走査型電子顕微鏡像と元素マッピングによっても金属イオンの有無を判定できる。つまり、走査型電子顕微鏡像では金属イオンを確認できないが、元素マッピングをすることで金属イオンが存在することを確認できる。
金属イオンとして、Ag及びCuの群から選ばれる1種以上のイオンを用いることにより、抗菌機能が付与される。一方、セルロース繊維の酸基のすべてに金属粒子が結合しなくても良く、残存した酸基も臭い成分であるアンモニア等を中和することができ、消臭機能が発揮される。
【0018】
パルプ繊維としては、例えば針葉樹パルプ(NBKP)又は広葉樹パルプ(LBKP)などのバージンパルプや、古紙から再生した古紙パルプを用いることができる。これらパルプは要求品質に合わせて、適宜所定の種類及び配合割合で適宜配合される。
抄紙原料は、要求品質及び操業の安定のために様々な薬品を添加(内添)してもよく、これら薬品としては、柔軟剤、嵩高剤、染料、分散剤、湿潤紙力増強剤、乾燥紙力剤、濾水向上剤、ピッチコントロール剤、歩留向上剤などが挙げられる。
【0019】
抄紙シートは、金属イオン含有セルロース繊維を2〜30質量%含むことが好ましい。
金属イオン含有セルロース繊維の配合割合が2質量%未満であると、抄紙シート中の金属イオン含有セルロース繊維による抗菌/消臭性能が低下し、薬液中の防腐剤や消臭剤の量を低減することが困難になることがある。
金属イオン含有セルロース繊維の配合割合が30質量%を超えると、抄紙シート中のパルプ繊維の割合が低下し、薬液を抄紙シート中にしっかりと保持し難くなって軟便等を綺麗に拭き取る機能が低下することがある。
【0020】
金属イオン含有セルロース繊維において、酸化セルロース繊維に対する金属イオンの含有量が10〜60mg/gであることが好ましい。
金属イオンの含有量が10mg/g未満であると、抄紙シート中の金属イオン含有セルロース繊維による抗菌/消臭性能が低下し、薬液中の防腐剤や消臭剤の量を低減することが困難になることがある。
金属イオンの含有量が60mg/gを超えるものを製造することは、金属イオン含有セルロース繊維の収率の低下につながり、コストアップとなる。
【0021】
<繊維ウエブ>
繊維ウエブは、親水性繊維50〜85質量%、熱接着性繊維15〜50質量%からなる。繊維ウエブは乾式カード法により得られ、15〜100mm程度の長さの短繊維が絡み合っており、顕微鏡で見たときに上述の抄紙シートと全く繊維長が全く異なるので、両者を区別できる。
親水性繊維としては、綿などの天然繊維、ビスコースレーヨン、リヨセル繊維が挙げられる。
熱接着性繊維としては、PEファイバ、PE/PP複合繊維、PE/PET複合繊維、低融点PET/PET複合繊維が挙げられる。
さらに、その他の繊維を配合し、風合い等を調整してもよい。その他の繊維としては、例えばポリエステル繊維が例示され、繊維ウエブのシートが嵩高で柔らかくなる。
【0022】
<積層ウェットシート>
積層ウェットシートは、2層の不織布の間に抄紙シートを介装した積層構造をなし、表面の不織布が柔らかな肌触りを付与する。又、内部の抄紙シートがパルプ繊維を含むために含水率が高く、後述する水を99質量%以上含む薬液をしっかりと保持して軟便等を綺麗に拭き取る機能を有する。
積層ウェットシートは、2層の不織布の間に抄紙シートを積層し、全体を例えばスパンレースにより、各層の繊維を高圧水流により交絡させて一体化することができる。
【0023】
<薬液>
薬液は、薬液中に水を99質量%以上含む。抄紙シート中の金属イオン含有セルロース繊維自体が抗菌/消臭性能を有するため、薬液中の防腐剤や消臭剤の量を低減することができる。これにより、被清拭表面(人体や動物の皮膚/粘膜)に残留する薬剤が少なくなり、刺激性を低減することができる。又、薬液中の防腐剤や消臭剤の量を低減することで水の含有割合を99質量%以上に高めることができ、上述のように軟便等を綺麗に拭き取ることができる。薬液中に水を99.9質量%以上含むと、軟便等をより拭き取りやすい。
薬液は、防腐剤や消臭剤を含むことができる。防腐剤は、主に薬液の長期の保存安定性を付与し、消臭剤は抗菌/消臭効果を付与する。
なお、抄紙シート中の金属イオン含有セルロース繊維自体が抗菌/消臭性能を有することから、薬液は消臭剤を含まず、防腐剤を薬液中に0.1質量%以下含有することが好ましい。
防腐剤としては、ベンザルコニウム塩化物;パラオキシ安息香酸エステル及びそのナトリウム塩;安息香酸及びその塩類;ソルビン酸及びその塩類;デヒドロ酢酸及びその塩類;フェノキシエタノール、フェノール、レゾルシン、安息香酸パントテニルエチルエーテル、イソプロピルメチフェノール、塩化セチルピリジニウム、塩酸クロルヘキシジン、オルトフェニルフェノール、グルコン酸クロルヘキシジン、クロルキシレノール、クロルヘキシジン、臭化アルキルイソキロリニウム、チモール、トリクロロカルバニリド、ハロカルバン、ヒノキチオール、ポリアミノプロピルビグアナイド等が挙げられる。
【0024】
<薬液の量>
薬液を、積層ウェットシートに対して250〜400質量%含む。薬液の量(質量%)は、積層ウェットシートの(湿潤質量-乾燥質量)/乾燥質量×100で算出する。
薬液の含有量が、積層ウェットシートに対して250質量%未満であると、薬液中の水の量が少なくなって、軟便等を綺麗に拭き取る機能が劣る。薬液の含有量が、積層ウェットシートに対して400質量%を超えると、シートが水を含み過ぎて取り扱いにくくなる。
薬液を、積層ウェットシートに対して280〜400質量%含むことが好ましい。
【0025】
積層ウェットシートの目付が30〜100gsmであり、抄紙シートの目付が積層ウェットシート全体の30〜50質量%であることが好ましい。
積層ウェットシートの目付が30gsm未満であると強度が低下し、シート1枚当たり水分保持量が少なくなって汚れを落としにくくなる場合がある。積層ウェットシートの目付が100gsmを超えると厚みが大きくなってしまい、細かなシワの間の汚れが拭き取りにくくなったり、コストアップに繋がることがある。
抄紙シートの目付が積層ウェットシート全体の30質量%未満であると、薬液の保持が十分でなく、軟便等を綺麗に拭き取ることが困難な場合があり、50質量%を超えると、不織布による柔らかな肌触りが得られなくなることがある。
なお、目付は、積層ウェットシートを水洗後、乾燥して測定する。
【0026】
本発明は上記した実施形態に限定されず、本発明の思想と範囲に含まれる様々な変形及び均等物に及ぶことはいうまでもない。
【実施例】
【0027】
以下、実施例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明は勿論これらの例に限定されるものではない。
【0028】
<金属イオン含有セルロース繊維の製造>
乾燥重量で5.00gの未乾燥の針葉樹漂白クラフトパルプ、39mgの2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(TEMPO)及び514mgの臭化ナトリウムを水500mlに分散させた後、15質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、1gのパルプ(絶乾)に対して次亜塩素酸ナトリウムの量が5.5mmolとなるように加えて反応を開始した。反応中は3MのNaOH水溶液を滴下してpHを10.0に保った。pHに変化が見られなくなった時点で反応終了と見なし、反応物をガラスフィルターにてろ過した後、十分な量の水による水洗、ろ過を2回繰り返し、固形分量15質量%の水を含浸させたTEMPO酸化セルロース繊維を得た。
このTEMPO酸化セルロース繊維はその表面にカルボキシル基またはカルボキシレート基を有する。金属イオンを含有する前のTEMPO酸化セルロース繊維の酸基量(酸化セルロース繊維1g当たり)を表1に示す。
【0029】
次に、得られたTEMPO酸化セルロース繊維(この時点では金属イオンを含有していない)を解繊(叩解)し、得られた叩解後のTEMPO酸化セルロース繊維に対し、表1に示すpHと濃度(TEMPO酸化セルロース繊維1g当たり)の金属塩水溶液を加えて撹拌した。これにより、TEMPO酸化セルロース繊維に金属イオンを担持させた。
なお、図1に、実施例に用いた金属イオン含有セルロース繊維の透過型電子顕微鏡像を示す。
【0030】
<積層ウェットシート>
上記金属イオン含有セルロース繊維と、パルプ(NBKP及びLBKP)とを、表2に示す配合比で配合してパルプスラリーを調製し、抄紙シートを抄造した。
次に、表2に示す繊維を配合して乾式カード法により繊維ウエブを形成し、この繊維ウエブを上記抄紙シートの表裏面に積層し、全体をスパンレースにより一体化して積層ウェットシートを製造した。なお、親水性繊維にはレーヨン繊維を用い、熱接着繊維には、PE/PP複合繊維を用いた。又、その他の繊維にはポリエステル繊維を用いた。
<薬液の含浸>
次に、表2に示す成分の薬液を、乾燥状態の積層ウェットシートに対して表2の割合で含浸させた。なお、消臭剤としては、緑茶抽出物(エピガロカテキンガレート)を用い、防腐剤としてはベンザルコニウム塩化物50%液を用いた。
【0031】
なお、各実施例の積層ウェットシートのうち、抄紙シートを走査型電子顕微鏡で観察したところ、紙の繊維のみが確認された。また、各実施例の抄紙シートにつき、強酸で溶解した後の抽出液のICP((高周波誘導結合プラズマ)発光分析を行い、いずれも金属が含有されていることが確認された。以上のことより、各実施例の積層ウェットシートの抄紙シートは酸化セルロース繊維に金属イオンを含有していることがわかる。
【0032】
得られた積層ウェットシートにつき、以下の評価を行った。
<消臭性>
5cm×5cmの積層ウェットシート試験片を4枚入れたコック付きガスバッグに、アンモニア水溶液(アンモニア水2mL:水2mL)の飽和ガスを1.2mL注射器で挿入し、さらにエアーポンプにて空気を1.5L充填した。上記飽和ガスは、アンモニア水溶液が入っている密閉容器の気相から採取した。飽和ガス及び空気を充填後のガスバッグ中のアンモニアガス濃度は80〜90ppmであった。次に、検知管に吸引器とゴムチューブを繋ぎ、ゴムチューブをガスバッグに繋いだ。そして、空気を充填してから50分経過後のガスバッグ内のアンモニアガス濃度を測定し、以下の基準で評価した。
◎:残存濃度が初期の1/5以下
○:残存濃度が初期の1/5を超え1/4以下
△:残存濃度が初期の1/4を超え1/3以下
×:残存濃度が初期の1/3超え
また、積層ウェットシート試験片1gに対して5gの割合で精製水を滴下して湿潤状態とした後、同様に消臭性を評価した。
各評価がいずれも◎か○であれば、実用上問題はない。
【0033】
<保存安定性>
積層ウェットシートを所定の包装袋に包装し、未開封で40℃6ヵ月保管した後に開封し、積層ウェットシート上の菌の繁殖の有無を目視で以下の基準で評価した。
○:菌の繁殖による変色、異臭等が無い
×:菌の繁殖による変色、異臭等が見られた
<刺激性>
24時間ヒトクローズドパッチテストに従い、20名の被験者に対し、積層ウェットシートで皮膚をふき取り、皮膚刺激の有無を以下の基準で評価した。
〇:陰性及び純陰性
×:準陽性及び陽性
<拭き取り性>
疑似便をふき取り、以下の基準で評価した。評価が○、△であればよい。
〇:ふき取りが極めて簡単
△:ふき取りが簡単
×:ふき取りしにくい
<触感>
官能評価(n=20名)により評価した。評価が○、△であればよい。
〇:触感が極めて良い
△:触感が良い
×:触感が悪い
【0034】
得られた結果を表1、表2に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
【表2】
【0037】
表2から明らかなように、各実施例の場合、刺激性が少なく、かつ抗菌/消臭効果、触感を確保したものとなった。
一方、抄紙シート中に金属イオン含有セルロース繊維を含まない比較例1の場合、抗菌効果を高めて保存安定性を付与するために防腐剤を0.1質量%を超えて薬液に配合した。その結果、刺激性、触感が劣ると共に、消臭剤を含まないために消臭性も劣った。
酸化セルロース繊維に対する金属イオンの含有量が10mg/g未満で、かつ防腐剤を0.1質量%しか薬液に配合しなかった比較例2の場合、金属イオン含有セルロース繊維による消臭効果が低下し、かつ消臭剤の量が少ないために保存安定性も劣った。
防腐剤を薬液に配合しなかった比較例3の場合、保存安定性が劣った。
なお、薬液が水を99.9質量%以上含む各実施例の場合、比較例に比べて拭き取り性がさらに向上した。
図1