(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
生体に対して超音波を照射して、血管中の血流の監視を行ったり、血管内に発生した血栓や血管外の血腫の溶解を促進させる装置は既に提案されている。このような装置としては、例えば、下記の特許文献1,2に記載されたような装置がある。特許文献1には、頭部の外側から超音波を照射して血管中の血流の監視を行うとともに、脳動脈の血栓溶解を促進する治療用の超音波を照射することのできる超音波装置が記載されている。
【0003】
特許文献1の超音波装置は、治療用の超音波として、血流監視用の超音波と同じ周波数帯域の超音波を使用するものである。この超音波装置は、骨の厚みを計測したり、骨に対する超音波の透過率を測定して、骨に対する透過率が極大値となるような最適な超音波周波数を決定し、その周波数の超音波を照射するものである。
【0004】
また、特許文献2にも、頭部の外側から血流の監視用の超音波と治療用の超音波を照射することのできる超音波装置が記載されている。特許文献2の超音波装置は、治療用の超音波と血流監視用の超音波としてそれぞれ異なる周波数帯域の超音波を使用するものである。治療用の超音波照射には同じ強度でも発熱の低い低周波数で共振しQ値の高い振動子を使用し、また診断用の超音波照射には分解能の優れる高周波数で共振する広帯域の振動子を使用する。これら2種類の超音波振動子を積層配置して用い、音響窓の限定される頭蓋の同一開口を介して2種類の超音波を照射するものである。
【0005】
上記のような超音波装置では血管中の血液に超音波が照射される。血液には血球および血小板のような超音波の散乱体が含まれており、また、血液に混入している異物粒子も超音波の散乱体となる。血管中を移動する血液にはこのような超音波の散乱体が含まれるので、それらの散乱体によって超音波が反射される。そして、その反射信号にはドプラ効果による周波数偏移が生じるので、その周波数偏移を検出して散乱体の速度を求めることができる。
【0006】
このような超音波装置によって血管中の血流の監視を行い、血流中の栓子(塞栓症を引き起こす血栓と組成が同様の粒子)等の異物粒子の存在を検出することも行われていた。異物粒子としては、上記の栓子の他に気泡、石灰化物粒子、その他の固形物粒子などがある。また、栓子の中でも粒径が微小のものは微小栓子と呼ばれ、脳梗塞等の血栓塞栓症の発症リスクと血管中を流れる微小栓子の検出頻度との間には強い相関関係があることが知られている。すなわち、血管中を血液とともに流れる微小栓子を検出することは、血栓塞栓症の予防医療としても重要な意味がある。
【0007】
また、人工心肺装置の使用などの血液・血管に関連する医療行為などにより、血液中に気泡が混入することがある。血液中の気泡に関しては、直径の比較的大きなものは塞栓症を引き起こすことがあり、直径が微小の気泡でも大量に血液中に混入していると種々の障害の原因となるという報告がある。このように、血液中の気泡に関しても、気泡の大きさや検出頻度などの情報は有用である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述のように、超音波装置により血流中の異物粒子の存在を検出することは、従来から行われていた。超音波反射信号のドプラ効果による周波数偏移から散乱体の速度を求めることができるので、血球等の速度から血液の流速を求めることができる。また、異物粒子に対する反射信号は、通常、HITS(High Intensity Transient Signal:高強度過渡信号)と呼ばれる種類の信号によって検出される。このHITSは、血流による通常の反射信号に比べて強度が大きく、持続時間が短い(30〜300ミリ秒程度)ことによって特徴付けられている。このHITSは血液とともに流れる微小栓子や気泡によって発生することが多い。
【0010】
このように、超音波反射信号からHITSを検出することにより、血液中の異物粒子を検出することができる。ただし、その異物粒子が微小栓子である場合と、異物粒子が気泡である場合では、その患者に対する医療処置や対応が異なるものとなる。しかしながら、HITSの存在・検出頻度だけでは、異物粒子が気泡であるのか、それとも微小栓子等のような固形物粒子であるのか、もしくはその両方が混在しているのかは判別することができなかった。
【0011】
そこで、本発明は、生体に対して超音波を照射して、血管中の血流の監視や血液とともに流れて移動する微小栓子や気泡などの異物粒子を検出するための異物粒子検出装置において、異物粒子の種類を判別する機能を備えた異物粒子検出装置を提供することを目的とする。また、本発明は、異物粒子検出装置において、異物粒子の種類を判別するための異物粒子判別方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の異物粒子検出装置は、血管に超音波を照射する超音波照射部と、前記血管中を流れる血液中の散乱体によって反射された超音波を検出する超音波受信部と、前記超音波受信部によって検出された信号を処理して、反射波の周波数偏移と強度を求めて出力するドプラ信号処理部と、前記ドプラ信号処理部の出力信号から血液中の異物粒子を検出する異物粒子検出部とを有する。前記異物粒子検出部は、前記ドプラ信号処理部の出力信号から血液の速度を求める手順と、前記ドプラ信号処理部の出力信号から血液中の異物粒子の存在を示す異物信号を検出する手順と、前記異物信号から異物粒子の速度を求める手順と、前記血液の速度に対する前記異物粒子の速度の割合としての正規化速度から前記異物粒子の種類を判別する手順とを実行するものである。
【0013】
また、上記の異物粒子検出装置において、前記異物粒子検出部の前記異物粒子の種類を判別する手順は、前記正規化速度が所定の第1基準値以上の異物粒子を気泡であると判別し、前記正規化速度が所定の第2基準値未満の異物粒子を固形物粒子であると判別するものであることが好ましい。
【0014】
また、本発明の異物粒子検出装置における異物粒子判別方法は、血管に超音波を照射する超音波照射部と、前記血管中を流れる血液によって反射された超音波を検出する超音波検出部と、前記超音波検出部によって検出された信号を処理して、反射波の周波数偏移と強度を求めて出力するドプラ信号処理部とを有する異物粒子検出装置における異物粒子判別方法であって、前記ドプラ信号処理部の出力信号から血液の速度を求める手順と、前記ドプラ信号処理部の出力信号から血液中の異物粒子の存在を示す異物信号を検出する手順と、前記異物信号から異物粒子の速度を求める手順と、前記血液の速度に対する前記異物粒子の速度の割合としての正規化速度から前記異物粒子の種類を判別する手順と有するものである。
【0015】
また、上記の異物粒子検出装置における異物粒子判別方法において、前記異物粒子の種類を判別する手順は、前記正規化速度が所定の第1基準値以上の異物粒子を気泡であると判別し、前記正規化速度が所定の第2基準値以下の異物粒子を固形物粒子であると判別するものであることが好ましい。
【0016】
また、本発明の異物粒子検出装置は、血管に超音波を照射する超音波照射部と、前記血管中を流れる血液によって反射された超音波を検出する超音波検出部と、前記超音波検出部によって検出された信号を処理して、反射波の周波数偏移と強度を求めて出力するドプラ信号処理部と、前記ドプラ信号処理部の出力信号から血液中の異物粒子を検出する異物粒子検出部とを有し、前記異物粒子検出部は、前記ドプラ信号処理部の出力信号から血液の速度を求める手順と、前記ドプラ信号処理部の出力信号から血液中の異物粒子の存在を示す異物信号を検出する手順と、前記異物信号から異物粒子の速度を求める手順と、前記異物信号の強度を求める手順と、前記血液の速度に対する前記異物粒子の速度の割合としての正規化速度と、前記異物信号の強度とから前記異物粒子の種類を判別する手順とを実行するものである。
【0017】
また、上記の異物粒子検出装置において、前記異物粒子検出部の前記異物粒子の種類を判別する手順は、前記正規化速度が所定の第3基準値以上であるか否か、および、前記異物信号の強度が所定の第4基準値以上であるか否かにより、前記異物粒子を4種類の領域の粒子に分類するものであることが好ましい。
【0018】
また、本発明の異物粒子検出装置における異物粒子判別方法は、血管に超音波を照射する超音波照射部と、前記血管中を流れる血液によって反射された超音波を検出する超音波検出部と、前記超音波検出部によって検出された信号を処理して、反射波の周波数偏移と強度を求めて出力するドプラ信号処理部とを有する異物粒子検出装置における異物粒子判別方法であって、前記ドプラ信号処理部の出力信号から血液の速度を求める手順と、前記ドプラ信号処理部の出力信号から血液中の異物粒子の存在を示す異物信号を検出する手順と、前記異物信号から異物粒子の速度を求める手順と、前記異物信号の強度を求める手順と、前記血液の速度に対する前記異物粒子の速度の割合としての正規化速度と、前記異物信号の強度とから前記異物粒子の種類を判別する手順と有するものである。
【0019】
また、上記の異物粒子検出装置における異物粒子判別方法において、前記異物粒子の種類を判別する手順は、前記正規化速度が所定の第3基準値以上であるか否か、および、前記異物信号の強度が所定の第4基準値以上であるか否かにより、前記異物粒子を4種類の領域の粒子に分類するものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、以上のように構成されているので、以下のような効果を奏する。
【0021】
本発明の異物粒子検出装置および異物粒子判別方法によれば、異物信号から異物粒子の正規化速度を求め、その正規化速度によって異物粒子の種類を判別することによって、異物粒子が気泡と固形物粒子(微小栓子)のいずれであるかを区別して記録し、集計することが可能となる。このため、血液中の異物粒子の種類に応じた適切な医療処置を行うことが可能となり、より高度で適切な医療を実現することができる。
【0022】
異物粒子の正規化速度に加えて、異物信号の強度を異物粒子の種類判別に使用した場合には、異物粒子の種類をよりきめ細かく分類して高精度のリスク判定等を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明の異物粒子検出装置1の全体構成を示すブロック図である。また、
図2は、異物粒子検出装置1の使用状態を示す図である。ここでは検査対象12は患者の頸部であるとする。超音波プローブ2は、検査対象12の内部に向けて超音波を照射し、そして、検査対象12内部の血管内を流れる血液によって反射された超音波を検出する。これにより、検査対象12内部の血流状態や血液中に存在する異物粒子の監視を行うものである。
【0025】
血液には血球および血小板のような超音波の散乱体が含まれており、また、血液に混入している異物粒子も超音波の散乱体となる。血管中を移動する血液にはこのような超音波の散乱体が含まれるので、それらの散乱体によって超音波が反射される。そして、その反射信号にはドプラ効果による周波数偏移が生じるので、その周波数偏移を検出して散乱体の速度を求めることができる。
【0026】
血液中に混入する異物粒子としては、栓子(塞栓症を引き起こす血栓と組成が同様の粒子、石灰化物粒子、その他の固形物粒子)、気泡等がある。また、栓子の中でも粒径が微小のものは微小栓子と呼ばれ、脳梗塞等の血栓塞栓症の発症リスクと血管中を流れる微小栓子の検出頻度との間には強い相関関係があることが知られている。すなわち、血管中を血液とともに流れる微小栓子を検出することは、血栓塞栓症の予防医療としても重要な意味がある。
【0027】
また、人工心肺装置の使用などの血液・血管に関連する医療行為などにより、血液中に気泡が混入することがある。血液中の気泡に関しては、直径の比較的大きなものは塞栓症を引き起こすことがある。また、直径が微小の気泡でも大量に血液中に混入していると種々の障害の原因となるという報告がある。このように、血液中の気泡に関しても、気泡の大きさや検出頻度などの情報は有用である。
【0028】
異物粒子検出装置1によって検査対象12内部の血流状態を監視し、血液中に存在する異物粒子を検出することができる。超音波プローブ2は、全体が平板状であり、
図2に示すように、検査対象12の表面に貼り付けられて使用される。超音波プローブ2の詳しい構造については後に説明する。
【0029】
超音波プローブ2は、異物粒子検出装置1の本体にケーブルを介して接続される。そして、超音波プローブ2は、検査対象12の表面に接着剤や粘着剤により貼り付けられて使用される。送信信号作成部9は、超音波プローブ2から照射する超音波に相当する電気的な送信信号を作成して送受信回路3に出力する。
【0030】
送信信号の周波数は1MHz〜20MHzの領域内であることが好ましく、例えば、2MHz程度とすることができる。送信信号は連続波でもよいし、不連続波(バースト波)としてもよい。送受信回路3は、送信信号作成部9からの送信信号により超音波プローブ2内の超音波振動子22(
図4参照)を駆動して、超音波を検査対象12に照射する。したがって、超音波プローブ2から照射される超音波も、送信信号の形態に応じて連続波または不連続波となる。
【0031】
また、超音波振動子22は圧電素子を使用するものであり、圧電センサーとしても使用することができる。したがって、検査対象12の内部構造や血流によって反射された超音波を超音波振動子22によって検出することができる。超音波振動子22は超音波と電圧の変換効率の高い周波数領域(高感度領域)を使用することが好ましい。すなわち、照射する超音波の周波数がこの高感度領域に含まれていることが望ましい。
【0032】
なお、ここでは超音波プローブ2内の超音波振動子22が、超音波を照射する超音波照射部の機能と反射超音波を検出する超音波受信部の機能の両機能を有するものとしたが、このような構成に限定されることはなく、超音波照射部と超音波受信部とを別の素子によって実装するようにしても良い。この場合、超音波プローブのコストは上昇するが、照射超音波の受信部への漏洩を減少させ、受信部の不感時間を減少させて血流測定が可能な領域範囲を拡大することができる。
【0033】
送受信回路3は、超音波振動子22によって検出した超音波の反射波信号を増幅してドプラ信号処理部4に出力する。すなわち、送受信回路3は超音波振動子22を駆動して超音波を照射する送信回路としても、また、反射超音波の信号を受信して増幅する受信回路としても動作する。
【0034】
なお、送受信回路3による超音波振動子22の駆動は、前述のように、連続的な超音波としてもよいし、不連続な超音波(バースト波)としてもよい。照射する超音波がバースト波の場合は、送信信号の休止時間中に反射波を受信することができ、送信信号と受信信号の分離を効率的に行うことができる。この場合、送受信回路3の送信動作と受信動作の切り換え等は装置制御部8からの制御信号によって行われる。
【0035】
ドプラ信号処理部4は、送受信回路3からの反射波信号から反射波の周波数偏移(ドプラシフト)と強度を求め、これらの情報をドプラ信号として異物粒子検出部5および出力制御部6に出力する。反射波の周波数偏移を示すドプラ信号は、照射波の駆動信号を参照信号として反射波信号の検波を行うことによって得られる。この反射波信号の検波としては、参照信号として位相が互いに90度異なる2種類の参照信号を用いる直交検波の処理が好ましい。
【0036】
異物粒子検出部5は、ドプラ信号から血流の速度を求めるとともに、血液中の異物粒子の存在を示す異物信号を検出する。さらに、異物粒子検出部5は異物信号を解析し異物粒子の種類を判別する。そして、異物粒子検出部5は異物粒子の通過情報を種類の判別情報とともに出力制御部6に出力する。異物粒子検出部5が異物粒子の種類を判別する手順は後に詳しく説明する。
【0037】
出力制御部6は、ドプラ信号処理部4からのドプラ信号をドプラシフトの時間軸上の変化として表示部10に表示することができ、ドプラ信号の強度を表示色に変換して表示することができる。また、出力制御部6は、ドプラ信号を可聴域の音声信号に変換し、音声出力部11から音声信号として出力することができる。さらに、出力制御部6は、異物粒子検出部5からの異物粒子に関する情報により、異物粒子を種類毎に分類してそれぞれのグループ毎の検出頻度を集計して、その異物粒子の集計情報を表示部10に表示することができる。
【0038】
出力制御部6は、ドプラ信号および異物粒子に関する情報を記録部7に時刻情報とともに記録する。出力制御部6は、現時点でのドプラ信号や異物粒子の集計情報だけでなく、記録部7に記録された過去のドプラ信号や異物粒子の集計情報を表示部10などに出力することもできる。どの時点の情報を出力対象とするかは異物粒子検出装置1の操作者が適宜選択することができる。
【0039】
装置制御部8は異物粒子検出装置1の全体の制御を行っている。まず、装置制御部8は、送信信号作成部9や送受信回路3に制御信号を送り、超音波の送信周波数、送信出力、送信波形、送信タイミング、受信タイミング等を制御している。
【0040】
超音波プローブ2は、全体が柔軟な平板状であり、
図2に示すように検査対象12の表面に貼り付けられて使用される。
図3は、超音波プローブ2を検査対象12に貼り付けた状態を示す図である。超音波プローブ2は、粘着性を有する粘着材料24によって検査対象12の表面に貼り付けられている。
【0041】
この
図3では、検査対象12として患者の頸部の内部組織の断面構造を模式的に示している。総頸動脈13、椎骨動脈14、頸静脈15は、頸部の左右にそれぞれ存在している。また、椎骨動脈14は椎骨19の近傍に位置している。椎骨19によっても超音波は反射されるが、椎骨19は静止しているため、血管中を移動する血液や異物粒子とは容易に区別できる。
【0042】
超音波プローブ2は深さ方向に対しても特定の深さ位置に焦点を合わせることなく、深さ5〜50mmの広範囲の領域の検査を行うものである。超音波は、
図3における点線で示す領域に照射される。この図は2つの超音波プローブ2により、左右両側の総頸動脈13、椎骨動脈14の主要血管4本全てについて同時に検出を行う場合を示している。
【0043】
図4は、超音波プローブ2の構成を示す断面図である。超音波プローブ2は、全体形状が平板状であり、全体が湾曲可能なように柔軟性を持たせてある。この超音波プローブ2は生体等の不規則な曲面に対しても密着して貼り付け可能となっている。超音波プローブ2は、使用時には粘着性を有する粘着材料24によって検査対象12の表面に貼り付けられる。
【0044】
超音波プローブ2の内部にはケース21内に収納された超音波振動子22が角度設定部材25の傾斜面に支持されている。検査対象12内部の血管13が検査対象12の表面とほぼ平行に通っている場合、超音波振動子22を検査対象12の表面と平行にして貼り付けると、ドップラ信号の周波数偏移が検出しにくくなってしまう。角度設定部材25は、超音波の照射方向が血液の移動方向と直交しないようにして、ドップラ信号の周波数偏移を検出しやすくするものである。超音波振動子22は傾斜角度Aの傾斜面に支持されており、検査対象12の表面とほぼ平行に通っている血管であっても周波数偏移が容易に検出可能である。
【0045】
さらに、角度設定部材25は、超音波振動子22の冷却手段としての機能と、超音波振動子22の発熱を検査対象12に対して遮断する機能を持たせることができる。すなわち、角度設定部材25の検査対象12への貼り付け面近傍の素材を断熱性の材料として、検査対象12への熱伝導を遮断することができる。また、超音波振動子22を貼り付ける傾斜面の近傍は熱伝導の良好な材料として、超音波振動子22を冷却することができる。
【0046】
さらに、超音波振動子22を収納するケース21の内部には冷却媒体23が封入されている。この冷却媒体23によって、超音波振動子22において発生した熱を効率よく外部に排出し、超音波振動子22を冷却するようになっている。冷却媒体23は超音波振動および熱を伝え、かつ熱容量をもつ物体で構成される。これらの構成により、超音波振動子22の発熱による生体への影響は大幅に軽減される。
【0047】
次に、異物粒子検出装置1の異物粒子検出部5が異物粒子の種類を判別する方法について説明する。異物粒子検出部5にはドプラ信号処理部4からのドプラ信号が常時入力されている。このドプラ信号には血流中の散乱体からの反射波の周波数偏移と強度の情報が含まれている。異物粒子検出部5は、このドプラ信号に対して所定の短時間周期で周波数解析を繰り返す。この周波数解析は高速フーリエ変換(FFT)等の処理によって行われ、ドプラ信号の周波数スペクトルが求められる。
【0048】
異物粒子を含まない通常の血流によるドプラ信号の周波数スペクトルによって、血液の速度が求められる。なお、ここでの血液の速度とは、正確には、血液中の血球等の超音波散乱体の速度のことである。なお、実際には超音波の反射波のほとんどが赤血球からのものであると考えられている。また、血液の速度は心臓の拍動によりほぼ周期的に変化するが、異物粒子検出部5は短時間周期で周波数解析を連続的に繰り返しているので、その時点での血液の速度の瞬時値をほぼ連続的に求めることができる。
【0049】
なお、血管内の血流速度は血管内の位置に応じて多少異なっている。血管の中心位置の近傍では速度が最も大きく、血管の管壁近傍では速度が小さくなっている。ここでは、血流の周波数偏移の最大値に対応する速度を血流速度として求める。この速度は血管中央部の血流に対応する速度であると考えられる。
【0050】
異物粒子を検出するために、異物粒子検出部5は、ドプラ信号からHITS(High Intensity Transient Signal:高強度過渡信号)と呼ばれる種類の信号を検出する。このHITSは、血流による通常の反射信号に比べて強度が大きく、持続時間が短い(30〜300ミリ秒程度)ことによって特徴付けられている。このHITSは血液とともに流れる異物粒子によって発生することが多いが、全てのHITSが異物粒子によるものとは限らない。
【0051】
HITSは異物粒子の検出信号(以下、異物信号という)の候補となるものであるが、全てのHITSが異物信号であるとは限らない。異物信号を得るために、HITSから以下のものが取り除かれる。まず、HITSにおける周波数スペクトルが血流の周波数スペクトルの範囲外となっているものがノイズとして取り除かれる。次に、HITSの持続時間が所定の上限値を超えたものがノイズとして取り除かれる。そして、続けて検出される複数のHITSの周波数スペクトルが互いに所定値以上異なっている場合はそれらのHITSは信号処理エラー(アーチファクト)として取り除かれる。
【0052】
検出された全HITSから上記のような異物粒子以外の発生原因によるものを取り除き、その後に残った信号が異物粒子の存在を示す異物信号となる。次に、異物粒子検出部5は、この異物信号に基づいて異物粒子の種類を判別する。
【0053】
血液中に混入する異物粒子は、微小栓子のような固形物粒子と気泡に大別される。気泡は、表面での超音波の反射率が大きく、直径1μm程度の微小気泡でも検出可能である。なお、異物粒子表面による超音波の反射率は血液の液体部分と異物粒子の音響インピーダンスの比によって決定される。固形物粒子としては、脱水症の際に起きる赤血球の凝集体や、血小板とコレステロールおよび白血球等が結合した血栓のかけら等があるが、何れも超音波の反射率が小さく、直径20μm程度以上の粒子が検出可能である。
【0054】
なお、異物粒子の混入していない正常な血液からの超音波反射波のほとんどが赤血球からのものであると考えられている。赤血球は直径7〜8μm、厚さ2μmほどの円盤状である。赤血球表面による超音波の反射率は上記の固形物粒子と同程度である。固形物の異物粒子で直径20μmより小さいものは、赤血球による反射波と区別が付きにくくなり、検出が困難である。
【0055】
直径20μm程度のサイズの固形物粒子は末梢血管の血液の流れを阻害する恐れがあるが、数の少ないうちは側副血行路等からの循環により神経細胞の致命的ダメージは避けられていると考えられている。また、それらの物質に対する血液の溶解包容力の大きい状態も来る可能性があり、そのような瞬間に運動等により血圧を上げてやると末梢での詰まった物質が溶け流れ去るので循環が回復する場合も多いと考えられる。
【0056】
しかし、微小栓子が中枢血管系から大量に流れ出ると側副血行循環まで妨げられる可能性が高くなり、そのような場合に微小梗塞(ラクナ梗塞)が各所で発症することが考えられ、その部分はほぼ快復不可能と考えられている。このような場合、微小栓子の検出数が重要な情報となる。
【0057】
また、脳梗塞等の血栓塞栓症の発症リスクと血管中を流れる微小栓子の検出頻度との間には強い相関関係があることが知られている。この場合も、微小栓子の検出頻度が血栓塞栓症を予防する上での重要な情報となる。
【0058】
一方、微小気泡の方はそれ自体が血管に詰まることは考えられていないが、例えば手術で血管に大気が注入される可能性がある状況で、経頭蓋超音波ドプラ装置により中大脳動脈で30分間検査して8千個以上検出されると、術後に障害を残すリスクが上昇すると言われており、固形物粒子とは桁違いに大きな数であるが、大量に検出された場合に重要なリスク情報となると考えられる。
【0059】
固形物粒子も気泡も共に検出情報が重要な情報になる考えられるが、どちらが検出されたのかにより処置内容も異なるので、それらの区別もまた重要である。それらの異物粒子の相違点は、その比重が大きく異なる点である。主幹動脈においては心臓の拍動に従った血流速の変化があり、その中を流れる異物粒子もその流れに従って変化する力を受けて速度の変動が生じる。その際、気泡のように比重の小さな粒子は、血流から受ける力に従い流体とほぼ同じ速度変化を生じる。一方、固形物粒子は流体から受ける力に対し、慣性質量が大きいため速度変化が血流よりも緩慢となる。
【0060】
また、心臓の収縮期に相当する時間帯では血流の速度は増加して異物粒子に加わる力も大きくなるが、心臓の拡張期に相当する時間帯では血流の速度は減少して異物粒子に加わる力も小さくなる。以上の結果として、比重の大きな固形物粒子の移動速度は血流の速度に比べて小さくなり、比重の小さな気泡の移動速度は血流の速度とほぼ同程度となる。
【0061】
以上の相違点を利用して異物粒子の種類を判別するために、異物粒子の速度を血流速度で規格化した正規化速度を求める。前述のように、血流速度(血液の速度)は常時求められているので、その血流速度をVbとする。また、異物信号の周波数スペクトルから異物粒子の速度Vpを求めることができる。それらから異物粒子の正規化速度Nvを次式によって求める。
Nv=Vp/Vb
【0062】
なお、血流速度は心臓の拍動によって変化しているが、上式における血流速度Vbは異物信号が検出された時点でのものとする。この正規化速度Nvによって異物粒子の種類を判別することができる。例えば、正規化速度Nvが第1基準値以上の異物粒子を気泡と判別し、正規化速度Nvが第2基準値未満の異物粒子を固形物粒子(微小栓子)と判別する。
【0063】
ここで、第1基準値は例えば0.4とし、第2基準値は例えば0.6とする。この場合、第1基準値と第2基準値の間に種類の判別が重複する領域が存在するが、これは種類の判別には多少の曖昧さが残されているためである。例えば、異物信号が正規化速度0.4〜0.8の領域で1群の測定値を形成している場合、これらは全体が気泡であると判別することが自然である。逆に、異物信号が正規化速度0.2〜0.6の領域で1群の測定値を形成している場合には、これらは全体が固形物粒子(微小栓子)であると判別することが自然である。
【0064】
なお、異物信号の全体の検出個数を異物粒子のそれぞれの種類に振り分けるような場合は、第1基準値と第2基準値を等しくすることができる。例えば、第1基準値と第2基準値をともに0.5として、正規化速度が0.5以上の異物粒子を気泡とし、正規化速度が0.5未満の異物粒子を微小栓子とする。この場合は、気泡と微小栓子の個数の合計値は異物粒子全体の数と一致する。
【0065】
図5は、異物粒子検出装置1の異物粒子検出部5における検出信号のリストを示す図である。異物粒子検出部5は、ドプラ信号からHITSを検出し、そのHITSが異物信号であるか否かを判定する。異物信号である場合は、異物粒子の種類を上述のようにして判別する。その判別結果を
図5に示すように、検出信号の発生時刻とともに出力制御部6に出力する。出力制御部6は、その判別結果を記録部7に順次記録する。
【0066】
なお、検出信号リストのコメント欄には粒子の移動方向の情報が異物粒子検出部5によって付加されている。「接近方向」は異物粒子が超音波プローブ2に接近する方向に移動していることを示し、「離反方向」は異物粒子が超音波プローブ2から離反する方向に移動していることを示す。この移動方向の情報はドプラ信号の周波数偏移がプラス側、マイナス側のいずれであるかを示している。
【0067】
ここで、実際の異物信号の検出結果に対して、異物信号の周波数偏移に対する検出回数の分布とした場合と、異物信号の正規化速度に対する検出回数の分布とした場合とを比較してみる。
図6は、異物信号の周波数偏移に対して検出回数がどのように分布しているかを示すグラフである。
図6のグラフの横軸は異物信号の周波数偏移[Hz]を示しており、縦軸は異物信号の検出回数を示している。
【0068】
図7は、異物信号の正規化速度を前述のようにして求め、その正規化速度に対して検出回数がどのように分布しているかを示すグラフである。
図7のグラフの横軸は異物信号から求めた正規化速度を百分率で示しており、縦軸は異物信号の検出回数を示している。
図6および
図7の分布は、同一の異物信号の集合に対して求められたものである。
【0069】
図6のグラフでは、異物信号の分布が広い範囲に分散してしまっており、特にまとまりのあるグループなどは認識できない。
図7のグラフでは、正規化速度が0.6〜0.9(60〜90%)の範囲に異物信号が高頻度のグループが認められる。このグループは正規化速度の値から気泡に対応する信号であると判断できる。このように正規化速度の観点を導入することで異物粒子の判別が可能となる。
【0070】
以上のように、異物信号から異物粒子の正規化速度を求め、その正規化速度によって異物粒子の種類を判別することによって、異物粒子が気泡と固形物粒子(微小栓子)のいずれであるかを区別して記録し、集計することが可能となる。このため、血液中の異物粒子の種類に応じた適切な医療処置を行うことが可能となり、より高度で適切な医療を実現することができる。
【0071】
次に、異物粒子の種類の判別手順および判別方法の第2の実施形態について説明する。この第2の実施形態は、異物粒子検出部5による異物粒子の種類判別のための情報として、超音波反射波の強度を付け加えたものである。異物粒子による超音波反射波の強度は、異物粒子の大きさと異物粒子表面による超音波の反射率に依存する。そして、異物粒子表面の超音波反射率は血液の液体部分と異物粒子の音響インピーダンスの比によって決定される。そこで、超音波反射波の強度を考慮することによって、異物粒子表面の反射率および異物粒子の大きさに関連する情報が得られる。
【0072】
超音波反射波の強度の情報は、ドプラ信号処理部4の出力であるドプラ信号にも保存されている。すなわち、ドプラ信号の強度を求めることで超音波反射波の強度の情報が得られることになる。異物粒子検出部5が、前述のようにして、ドプラ信号から異物信号を求め、異物信号から正規化速度を求めることは最初の実施形態と同様である。この第2の実施形態では、それに加えて、異物粒子検出部5が異物信号の強度を求める。異物信号の強度が異物粒子による超音波反射波の強度を示している。
【0073】
正規化速度に関しては、異物粒子の種類を判別するための第3基準値Svを設定し、異物信号の強度に関しては、異物粒子の種類を判別するための第4基準値Siを設定する。
図8は正規化速度と強度に基づいた異物信号の領域分割を示す図である。
図8に示すように、正規化速度と強度をパラメータとして異物信号の位置を表示した場合、異物信号の領域は第3基準値および第4基準値に基づいて、4つの領域に分けられる。
【0074】
A領域は、異物信号の正規化速度が第3基準値Sv以上であり、強度が第4基準値Si以上である領域を示している。B領域は、異物信号の正規化速度が第3基準値Sv以上であり、強度が第4基準値Si未満である領域を示している。C領域は、異物信号の正規化速度が第3基準値Sv未満であり、強度が第4基準値Si以上である領域を示している。D領域は、異物信号の正規化速度が第3基準値Sv未満であり、強度が第4基準値Si未満である領域を示している。
【0075】
この場合、異物粒子をA〜D領域のそれぞれに分類し、異物粒子を4種類に分けて判別し管理することができる。A領域の異物粒子は、正規化速度も信号強度もともに大きいため気泡である可能性が大きい。B領域の異物粒子は、正規化速度は大きいが信号強度は小さく、直径の非常に小さな気泡であるか、または石灰化物の粒子である可能性が大きい。C領域の異物粒子は、正規化速度が小さく信号強度は大きいので、らせん状に流れている等の原因により速度が遅く検出されている気泡であるか、または直径の大きな固形物粒子である可能性が大きい。D領域の異物粒子は、正規化速度も信号強度もともに小さいため微小栓子等の固形物粒子である可能性が大きい。
【0076】
この第2の実施形態では、異物粒子を上記のような4種類に判別して管理することができるため、異物粒子の種類をよりきめ細かく分類して高精度のリスク判定等を行うことができる。
【0077】
以上に説明したような、本発明の異物粒子検出装置および異物粒子判別方法によれば、異物信号から異物粒子の正規化速度を求め、その正規化速度によって異物粒子の種類を判別することによって、異物粒子が気泡と固形物粒子(微小栓子)のいずれであるかを区別して記録し、集計することが可能となる。このため、血液中の異物粒子の種類に応じた適切な医療処置を行うことが可能となり、より高度で適切な医療を実現することができる。また、異物粒子の正規化速度に加えて、異物信号の強度を異物粒子の種類判別に使用した場合には、異物粒子の種類をよりきめ細かく分類して高精度のリスク判定等を行うことができる。