【実施例】
【0031】
実施例1
本発明のポリアニリンおよび還元型酸化グラフェン複合体の合成(CE−PPG)
0.7〜1.2nm厚の300〜800nmシート形状の単層酸化グラフェンを、チープ・チューブス社(CheapTubes)(ブラトルバラ、バーモント州、米国)から購入し、それを受け取った状態で使用した。アニリン二量体(N−フェニル−1,4−フェニレンジアミン98%)、ポリ(ナトリウム4−スチレンスルホネート)(PSS、PM=70000Da)、塩酸(HCl、37重量%)、ジメチルスルホキシド(DMSO、99.9%)および過硫酸アンモニウム(APS、98%)をシグマ・アルドリッチ社(ミラノ、イタリア)から入手し、それらを受け取った状態で使用した。0.050gのGOを、0.1M HCl中の100mlのPSS(0.500g)の溶液に添加した。この分散液を超音波探触子で1時間(50W)処理して、安定なGO分散液を得た。次に、これを0.1M HCl溶液で300mlに希釈した。
【0032】
次に、0.411gのPSSを添加した。
【0033】
10ml DMSO中のDANI(4mmol、0.921g)の溶液を別に調製した。
【0034】
10mlのこの溶液をオリゴマー分散液に滴加して、DANIのエマルジョンを得た。この溶液を1時間かけて80℃に加熱し、酸化グラフェンの完全還元を得た。加熱中、緑色の沈殿物が形成された。この溶液を25℃に冷却し、100mlのHCl 0.1M中に事前に溶解された過剰のAPSをゆっくりと加え(5mmol、1.141g)、過剰のDANIを酸化した。
【0035】
4時間後、沈殿物を濾過し、変色まで蒸留水で数回洗浄し、次にメタノールで洗浄し、最後に、恒量が得られるまで60℃で乾燥させた。
【0036】
実施例2
公知技術に基づくポリアニリンおよび還元型酸化グラフェン複合体の合成(PPG)
基準物質として、TO2013A000561で説明される通りにポリアニリンおよび還元型酸化グラフェン複合体を調製した。
【0037】
0.100gのGOを、0.1M HCl中の100mlのPSS溶液(1.000g)に添加した。この分散液を超音波探触子で1時間(50W)処理して、安定なGO分散液を得た。
【0038】
10ml DMSO中のDANI(4.34mmol、1.000g)の溶液を別に調製した。
【0039】
10mlのこの溶液をオリゴマー分散液に滴加して、DANIのエマルジョンを得た。この溶液を1時間かけて80℃に加熱し、酸化グラフェンの完全還元を得た。加熱中に緑色の沈殿物が形成され、その後、DANIの酸化によりPANIが形成した。沈殿物を遠心分離によって分離し、蒸留水およびエタノールで数回洗浄した。緑色粉末の最終産物(PPG)を、恒量が得られるまで60℃で乾燥させた。
【0040】
実施例3
本発明に従って得られた複合体(CE−PPG)の物理的化学的特徴づけ、および公知技術の複合体(PPG)との比較
実施例1および実施例2で得られた複合体の構造を特徴付け、GOの還元および随伴性のDANIの酸化を評価した。
【0041】
紫外可視スペクトル
紫外可視吸収スペクトルを、UV−vis−NIR Cary 5000分光計を用いて、DMSO溶液中、周囲温度で、250〜1100nmの波長範囲において、記録した。
【0042】
DMSO溶液中の複合体の紫外可視スペクトルが
図1に示され、図中、頭字語PANI−PSSはドープ剤としてPSSを含有するポリアニリン複合体を表し、PPGは、実施例2の説明の通りに調製した、PSSをドープした、ポリアニリンおよび還元型グラフェン複合体であり、CE−PPGは本発明の複合体である。多くの他の溶媒と同様に、PANI−PSS複合体はDMSO中で小型螺旋高次構造をとる。この場合、観察される主なバンドは以下である:PSSの吸収と部分的に重なったおよそ314nmにおけるπ−π
*遷移;溶液にその緑色を与える、プロトン化伝導性PANI−PSSに関する443nmにおけるポーラロン−π
*バンド;塩基エメラルジン(base emeraldine)
21について観察される、np遷移に関するおよそ600〜650nmにおける吸収バンド。この後者のバンドは、PANIが高分子剤をドープされ、第二ドーピングされない予定の通り、PANI−PSS複合体が完全にプロトン化されていないことを示す。
【0043】
比較的に大量のグラフェンの存在は、PPG複合体の試料における紫外可視スペクトルを改変し、これにより、292nmにおけるπ−π
*遷移はまだ識別可能であるが、前記バンドに重なるグラフェンの吸光度は最大値をより低い波数に向けてシフトさせる。同じ理由で、ポーラロン−π
*バンド(およそ440nm)を特定することは困難であるが、一方、塩基形態のエメラルジンに由来するnp遷移はかろうじて識別可能である。
【0044】
一方、より多量のPANIを含有するCE−PPG複合体の試料は、グラフェンの存在によってピーク最大値がシフトされていても、PANI−PSSにより類似したバンドを示す。π−π
*遷移は284nmに観察され、ポーラロン−π
*バンドは約437nmに観察され、np遷移は約600−650nmに観察される。
【0045】
赤外線スペクトル
フーリエ変換赤外分光法(FT−IR)のスペクトルを、FT−IR Nicolet 5700(サーモフィッシャー社)分光計を用いて収集した。
【0046】
シリコンウエーハー上にDMSO溶液を沈着させることにより、試料を調製した。測定は、4000から400cm
−1までの2cm
−1の分解能で収集された64のスペクトルの平均から取られた。
【0047】
完全なFT−IRスペクトルを
図8に示す。ピークの割当を以下の表1、表2および表3に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
【表3】
【0051】
PSSおよびPANIの主要ピークが存在していることから、PPG複合体のFT−IRスペクトルはPANI−PSS複合体のそれと非常に類似している。
【0052】
PSSはポリスチレンおよびスルホン酸基の特徴的なピークを示している。3100〜3000cm
−1の領域は水素と芳香族炭素との間の結合の振動を示しており、一方、3000〜2800cm
−1の領域は脂肪族鎖の水素と炭素との間の結合の伸長を示している。ベンゼン環の炭素間伸長は1600cm
−1および1503cm
−1に現れる。1120cm
−1および1004cm
−1のピークは、ベンゼン環の平面における骨格の振動に、および、ベンゼン環の平面の外側の振動に、割り当てることができる。SO
3−基の反対称性および対称性の振動吸収ピークはそれぞれ、1222cm
−1および1030cm
−1のピークに割り当てることができる。622cm
−1に中心がある特徴的なバンドは、ベンゼン環のC−S伸長に対応する。PANIの存在は、第二級芳香族アミンの窒素水素結合の伸長による3227cm
−1のピークによって、および、3100〜3000cm
−1における芳香環の炭素水素伸長によって、確認された。
【0053】
芳香環の領域において、PANIは、キノンジイミノユニット(PANIの酸化型)のC=N伸長を原因とする、1566cm
−1におけるバンドを示す。ベンゾノイドジアミンユニット(PANIの還元型)の芳香環のC−C伸長は1489cm
−1に現れ、最後に、746cm
−1におけるバンドはキノン環の平面の外側のCHのバンドによるものである。
【0054】
PPG試料およびCE−PPG試料のFT−IRスペクトルはPANI−PSSのFT−IRスペクトルと非常に類似しているため、PPG試料の場合においてもPANIの形成の確認となる。
【0055】
熱重量分析
熱重量分析(TGA)を、10mg試料に対して、TG 209 F1 Libra(登録商標)(NETZSCH有限責任会社)熱重量分析計を用いて、加熱速度10℃min
−1、25℃〜800℃、窒素流(60cm
3min
−1)下で、行った。報告された熱分解温度は、最大重量減少率(T
max)を参照している。残留重量パーセントは800℃で評価した。実験誤差は概して0.05mg未満(およそ±0.5%)であると見積もられた。
【0056】
図2から分かるように、PANI−PSS複合体は3つの主要な重量減少を示す:開始溶液からの湿気の蒸発および小分子(例えばHCl)の脱気からもたらされる、204℃における第一の重量減少;PANIの熱分解に対応する、それぞれ324℃および394℃における、第二および第三のピーク。
【0057】
PPG複合体(
図3)において、酸素の減少を原因とする、220℃におけるピークの完全な欠如により、DANIとの相互作用による初期GOの減少(およそ50重量%)が確認される。重量減少のTGA曲線はPANI−PSS複合体のそれと非常に類似しており、これは、小分子の脱気による200℃未満の第一重量減少を示している。重量減少の第二相および第三相は、PANI−PSSにおいて観察されたものと同じ温度間隔にあり、これにより、重合が起こったことが確認される。
【0058】
最後に、CE−PPGのTGA(
図4)はPANI−PSSのそれと実質的に同一である。しかし、予定の通り、800℃における最終重量は、PANI−PSS複合体の41.5%に比べて、初期重量に対しておよそ43.6%より少なく、これにより、不揮発性のグラフェンの存在が確認される。
【0059】
DC特性
実施例1および実施例2に記載の合成物質をDMSO中に分散させて、印刷可能なインク調合物を調製した。インクの溶解性を増加させるため、機械的混合および超音波槽を使用した。溶液はゲル化前は1〜2日間安定である。従って、印刷の直前に、インクを再分散させるために溶液を超音波槽で1時間処理し、その後、3mlタンクに入れ、インクジェット印刷システムに充填した。対称性インパルスを用いた、固定のジェットパラメータは以下である:第一立上り時間12μs、保持時間15μs、立下り時間5μs、エコー時間20μs、第二立上り時間2μs、待機電圧0V、維持電圧35V、エコー電圧−13V。
【0060】
複合体PPGおよびCE−PPGのDC特性の解析(
図5)は、PPG試料中よりもPANIがより大量に存在するCE−PPG試料中ではパーコレーション伝導経路が優先され、これにより、PPGの絶縁的挙動(
図5a)からCE−PPGの抵抗損的(ohmic dissipative)挙動(
図5b)へとコンダクタンスが改善されることを示している。
【0061】
同じ印加電位間隔において、CE−PPGを通過する電流はPPGにおいて測定される電流よりも5桁大きい。GOのグラフェンへの還元の確認は、CE−PPGよりも3桁大きい伝導率を有する純粋PANIとの直接比較から得られる。別の重要な特性は、
図5b中のエラーバーによって示されるような、極端に明瞭なシグナルである。
【0062】
さらに、IV測定をサイクルさせることにより、メモリスタ性の活用も可能であり(
図5c)、その特徴的な「蝶型」図は、直線的な抵抗性寄与を差し引いた後によりはっきりと見ることができる(
図5d)。
【0063】
DC刺激およびAC刺激の組合せを適用することにより、特定の挙動を観察することができる。具体的には、
図6において、全周波数範囲における持続的な負の容量(persistent negative capacity)の証拠が、少数の刷り重ねにより印刷されたPPGにおいて示され:その相は10kHz未満の値から1MHzまでの+90°において飽和している(
図6aおよび
図6b)。一方、多数の刷り重ねにより印刷されたPPGは、500Hz未満でのみ統計的に+90°まで伸び、一方でより高い周波数においては抵抗性伝導体のように振る舞う、インピーダンス相を示す。見た目には、インピーダンスは、PPG試料(
図6cおよび
図6d)について示されるように、直流分極に依存していない。最も有望な結果は、インピーダンスの抵抗性部分および反応性部分が、kHz領域において発生し試料の厚さに依存する共鳴拡散を示す(
図6eおよび
図6f)、高い伝導率を有する試料(CE−PPG)において得られた。
【0064】
いくつかのPPG試料において、この共鳴は安定なシグナルを生み出し、これにより、インピーダンスの抵抗性成分および反応性成分の両方において認められる、完全に電圧制御されたインピーダンス変化がもたらされる(
図7a、
図7bおよび
図7c)。この物質は電圧制御移相器要素として即座に利用可能であるため、この特性は非常に興味深い。
【0065】
多くの実験例が、スーパーキャパシタにおける適用のためのPANIと組合せた、グラフェンまたは他の炭素系ナノ材料からなる階層構造に基づいていたが、ナノメータ規模で生じるその現象の明確な定義は今まで与えられていなかった。
【0066】
インピーダンススペクトルは通常、定位相素子、または単に適応性を向上させるために使用されるワールブルグインピーダンス素子等の電子工学において周知の他の拡散回路素子のような、理想的な素子を含むモデルに適応する。
【0067】
PANI/グラフェンナノコンポジットにおける負誘電率値を説明しようとする試みが、表面プラズモン共鳴およびグラフェンフェルミ準位電圧の同調性を誘起する最近の研究で為された。グラフェンはディラックフェルミ粒子の相対論的状態から金属に類似した通常の状態への制御電圧転換を示し得るが、プラズモン周波数は概して、本特許に記載される現象(kHz台の典型的周波数)よりもかなり高い(10〜100THz)。
【0068】
従って、この実施例に従って作られたプリントインクジェットデバイスは、動作周波数に応じて正または負の過剰静電容量を備えた、適用可能なスーパーキャパシタとして電子工学分野において実用化される。インピーダンスの抵抗成分を考慮すると、500Hzから5kHzの間にCE−PPG試料において見られる莫大な寄与(多数の刷り重ねにより印刷された試料において特に明らか、
図6e)は共鳴散乱によって説明でき、またしても、グラフェンの量子相対論的性質は、散乱ポテンシャルが抵抗力に対して無視できない寄与を与えるほどである。
【0069】
従って、グラフェンの量子相対論的特性が表れ、ディラックフェルミ粒子とPANI鎖に隣接した小散乱中心との間の共鳴エネルギーの伝達を誘起するシステムが説明された。これらの事象は、高周波数(MHz)における負の容量、電圧制御位相変化および特徴的な共鳴周波数(kHz)における負/正の分岐性容量等の、1つの単一材料では今まで報告されなかった、非常に興味深い物理的現象の発生を示している。これらの特性は、溶剤およびダイレクトインクジェット印刷における使用の可能性をきっかけに、高度な電子デバイスにおいて利用することができる。
【0070】
参考文献