特許第6684815号(P6684815)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6684815
(24)【登録日】2020年4月1日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】エピタキシャル成長用配向アルミナ基板
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/111 20060101AFI20200413BHJP
   C30B 29/20 20060101ALI20200413BHJP
【FI】
   C04B35/111
   C30B29/20
【請求項の数】4
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-543254(P2017-543254)
(86)(22)【出願日】2016年9月26日
(86)【国際出願番号】JP2016078265
(87)【国際公開番号】WO2017057271
(87)【国際公開日】20170406
【審査請求日】2019年4月17日
(31)【優先権主張番号】特願2015-193943(P2015-193943)
(32)【優先日】2015年9月30日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2015-193944(P2015-193944)
(32)【優先日】2015年9月30日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2015-224164(P2015-224164)
(32)【優先日】2015年11月16日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2016-11190(P2016-11190)
(32)【優先日】2016年1月25日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2016-34005(P2016-34005)
(32)【優先日】2016年2月25日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2016-66431(P2016-66431)
(32)【優先日】2016年3月29日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2016-139508(P2016-139508)
(32)【優先日】2016年7月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 守道
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 圭
(72)【発明者】
【氏名】松島 潔
(72)【発明者】
【氏名】七瀧 努
【審査官】 西垣 歩美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−359495(JP,A)
【文献】 特開平05−270894(JP,A)
【文献】 特許第5770905(JP,B2)
【文献】 国際公開第2015/093335(WO,A1)
【文献】 特開2002−050585(JP,A)
【文献】 特開2002−293609(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00−35/22
C23C 16/00−16/56
C30B 1/00−35/00
H01L 33/16
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面を構成する結晶粒子のチルト角が0.1°以上1.0°未満であり、
平均焼結粒径が10μm以上である、
エピタキシャル成長用配向アルミナ基板。
【請求項2】
表面を構成する結晶粒子の平均焼結粒径が20μm以上である、
請求項1記載のエピタキシャル成長用配向アルミナ基板。
【請求項3】
Na、Mg、Si、P、Ca、Fe、Ti、Znの各含有量が1500ppm以下であることを特徴とする、
請求項1又は2に記載のエピタキシャル成長用配向アルミナ基板。
【請求項4】
Mg含有量が15ppm以上であることを特徴とする、
請求項1〜3のいずれか1項に記載のエピタキシャル成長用配向アルミナ基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エピタキシャル成長用配向アルミナ基板に関する。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオード(LED)等の発光素子や半導体デバイス用のエピタキシャル成長用基板として、サファイア(α−アルミナ単結晶)基板が用いられたり、サファイア基板上にGaNなどの半導体層を結晶成長させた複合基板が用いられたりしている。こうしたエピタキシャル成長用基板上に、n型GaN層、InGaN層からなる量子井戸層とGaN層からなる障壁層とが交互積層された多重量子井戸層(MQW)、及びp型GaN層が順に積層形成された構造を有する発光素子用基板が量産化されている。
【0003】
しかしながら、サファイア基板は一般的に面積が小さく高価なものである。そのため、本発明者らは、サファイア基板の代わりに配向アルミナ基板を用いることを提案している(特許文献1,2参照)。特許文献1では、配向アルミナ基板上にMOCVD法を用いてGaN種結晶層を形成し、その種結晶層上にフラックス法によりGaNバッファ層を形成し、その上に発光機能層(n型GaN層、多重量子井戸層及びp型GaN層をこの順に積層した層)を形成して発光素子用基板を作製している。このように配向アルミナ基板を構成要素に含むタイプの発光素子用基板を本明細書では素子用基板S1と称する。また、特許文献2では、配向アルミナ基板上にMOCVD法を用いてGaN種結晶層を形成し、その種結晶層上にフラックス法によりGeドープGaN層を形成し、その後配向アルミナ基板部を砥石による研削加工により除去してGeドープGaN自立基板を得ている。そして、この自立基板上に発光機能層を形成することにより発光素子用基板を作製している。このように配向アルミナ基板の代わりに半導体自立基板を含むタイプの発光素子用基板を本明細書では素子用基板S2と称する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2015/093335号のパンフレット
【特許文献2】特許第5770905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これらの素子用基板S1、S2を用いて作製した発光素子などの半導体デバイスは良好な特性を有するが、更に半導体デバイスの特性を向上させることが期待されている。
【0006】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、従来に比べて更に半導体デバイスの特性を向上させることを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、発光素子などの半導体デバイスの特性を向上させるべく鋭意検討したところ、半導体デバイスを製造する際に利用するエピタキシャル成長用基板の表面を構成する結晶粒子のチルト角を0.1°以上1.0°未満且つ平均焼結粒径を10μm以上とすることで、半導体デバイスの特性が著しく向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明のエピタキシャル成長用配向アルミナ基板は、表面を構成する結晶粒子のチルト角が0.1°以上1.0°未満であり、平均焼結粒径が10μm以上のものである。ここで、チルト角とは、X線ロッキングカーブ半値幅(XRC・FWHM)を指す。図1にアルミナ結晶のチルト角の模式的な説明図を示す。平均焼結粒径とは、配向アルミナ基板の板面にサーマルエッチングを行った後、走査電子顕微鏡にて撮影した画像を用いて測定した値である。
【0009】
本発明のエピタキシャル成長用配向アルミナ基板を利用して上述した素子用基板S1,S2を作製し、更にそれらの素子用基板S1,S2を利用して半導体デバイスを作製すると、従来に比べて特性が向上した半導体デバイスが得られる。その理由は定かではないが、発光機能層を構成する半導体粒子が若干傾斜していることで光の取り出し効率などが向上するためと推測している。なお、半導体デバイスとしては、発光素子のほか太陽電池やパワーデバイスなどが挙げられる。素子用基板S1、S2においてバッファ層や半導体層の形成方法は特に限定はなく、MBE(分子線エピタキシー法)、HVPE(ハライド気相成長法)、スパッタリング等の気相法、Naフラックス法、アモノサーマル法、水熱法、ゾルゲル法等の液相法、粉末の固相成長を利用した粉末法、及びこれらの組み合わせが好ましく例示される。
【0010】
本発明は、以下のように、エピタキシャル成長方法として捉えることもできる。すなわち、「表面を構成する結晶粒子のチルト角が0.1°以上1.0°未満であり、平均焼結粒径が10μm以上である配向アルミナ基板の表面に、半導体結晶をエピタキシャル成長させることにより薄膜を形成する、エピタキシャル成長方法」として捉えることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】アルミナ結晶のチルト角の模式的な説明図。
図2】積層体1を焼成して配向アルミナ基板7を作製する工程の模式図。
図3】発光素子用基板10から発光素子30を作製する工程の断面図。
図4】発光素子用基板20から発光素子40を作製する工程の断面図。
図5】ロッキングカーブ測定の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[エピタキシャル成長用配向アルミナ基板]
本発明の一実施形態のエピタキシャル成長用配向アルミナ基板は、多結晶アルミナ基板であって、表面を構成する結晶粒子のチルト角が0.1°以上1.0°未満であることが好ましく、平均焼結粒径が10μm以上であることが好ましい。
【0013】
表面を構成する結晶粒子のチルト角が0.1°未満の場合や1.0°以上の場合は、最終的に得られる半導体デバイスの特性が向上しないため好ましくない。その理由は不明だが、チルト角が0.1°未満だと、エピタキシャル成長時に配向アルミナ基板とエピタキシャル成長膜との格子不整合に起因して発生する格子欠陥がエピタキシャル成長膜中に残留しやすいためとも考えられる。また、このチルト角が1.0°以上だと、エピタキシャル成長膜からの光の取り出し効率などが低下するためとも考えられる。また、素子用基板S1を発光素子に用いた場合は配向アルミナ基板の光の透過性なども低下すると考えられる。チルト角の上限値は1.0°未満が好ましく、0.9°以下がより好ましい。チルト角の下限値は0.1°以上が好ましく、0.4°以上がより好ましく、0.6°以上が更に好ましく、0.8°以上が特に好ましい。
【0014】
平均焼結粒径は10μm以上であれば特に問題はないが、発光素子などの素子性能の観点では20μm以上がより好ましい。平均焼結粒径が10μm未満の場合、素子性能が低下するため好ましくない。一方、平均焼結粒径が大きくなりすぎると強度が低下するため、ハンドリングの観点では平均焼結粒径300μm以下が好ましく、150μm以下がより好ましく、100μm以下が更に好ましい。平均焼結粒径の数値範囲の上限と下限はこれらの数値の中から適宜組み合わせてもよいが、素子性能とハンドリングを両立させる観点では10〜300μmが好ましく、20〜150μmがより好ましく、20〜100μmが更に好ましい。
【0015】
本実施形態のエピタキシャル成長用配向アルミナ基板は、ロットゲーリング法により求めたc面配向度が50%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、90%以上であることが更に好ましく、95%以上であることが特に好ましく、100%であることが最も好ましい。
【0016】
本実施形態のエピタキシャル成長用配向アルミナ基板の厚みは、自立する厚みであることが好ましいが、厚すぎると製造コストの観点では好ましくない。そのため、厚みは20μm以上が好ましく、100μm以上がより好ましく、100〜1000μmが更に好ましい。一方、この配向アルミナ基板に半導体結晶を成長させる際に配向アルミナ基板と半導体結晶との熱膨張差に起因した応力によって基板全体に反りが生じ、その後のプロセスに支障を来す場合がある。こうした反りを抑制する方法の一つとして、厚い配向アルミナ基板を用いてもよい。
【0017】
本実施形態のエピタキシャル成長用配向アルミナ基板は、不純物を含有しているとバッファ層、半導体層の作製時に基板が侵食され、割れやすくなる場合がある。特にNa、Mg、Si、P、Ca、Fe、Ti、Znの含有量が多い場合に侵食が顕著であり、耐食性の観点ではNa、Mg、Si、P、Ca、Fe、Ti、Znの各含有量は1500ppm以下が好ましく、1000ppm以下がより好ましく、500ppm以下がより好ましく、150ppm以下がより好ましく、100ppm以下がより好ましく、50ppm以下がより好ましく、10ppm以下がより好ましく、特に下限はない。一方、配向アルミナ基板の配向度やチルト角、焼結粒径を制御するため、焼結助剤としてMgO、SiO2、CaOなどの酸化物やフッ化物を加える場合がある。MgOは焼結粒径の制御に加え、異常粒成長を抑制する効果が高い。特に高温で焼成する場合、MgOを加えることで異常粒を含まない配向アルミナ焼結体を歩留まりよく作製することができる。このため、異常粒成長抑制の観点ではMgは15ppm以上含むほうが好ましい(好ましくは30ppm以上、より好ましくは50ppm以上、更に好ましくは100ppm以上)。従って、耐食性と製造時の歩留まりを両立するMgの含有量としては15〜1500ppmが好ましく、15〜1000ppmがより好ましく、15〜500ppmが更に好ましく、30〜150ppmが特に好ましい。
【0018】
[エピタキシャル成長用配向アルミナ基板の製法]
本実施形態のエピタキシャル成長用配向アルミナ基板の製法は特に限定がないが、好ましい製法としては、(a)微細アルミナ粉末層と、板状アルミナ粒子の板面が微細アルミナ粉末層の表面に沿うように配列された板状アルミナ粉末層とが、交互に積層された積層体を作製する工程と、(b)積層体を焼成する工程と、を含む製法が挙げられる。
【0019】
工程(a)で用いる微細アルミナ粉末層は、微細アルミナ粒子の集合体の層である。微細アルミナ粉末は、平均粒径が板状アルミナ粉末よりも小さい粉末である。微細アルミナ粉末層は、微細アルミナ粉末そのものを成形した層であってもよいし微細アルミナ粉末に添加剤を加えたものを成形した層であってもよい。添加剤としては、例えば焼結助剤やグラファイト、バインダー、可塑剤、分散剤、分散媒などが挙げられる。成形方法は特に限定するものではないが、例えば、テープ成形、押出成形、鋳込み成形、射出成形、一軸プレス成形等が挙げられる。微細アルミナ粉末層の厚みは、5〜100μmであることが好ましく、10〜100μmであることがより好ましく、20〜60μmであることが更に好ましい。
【0020】
工程(a)で用いる板状アルミナ粉末層は、板状アルミナ粒子の集合体の層である。板状アルミナ粉末は、高配向化、低チルト化の観点ではアスペクト比は大きい方が好ましく、3以上が好ましく、10以上がより好ましく、30以上が更に好ましい。アスペクト比は、平均粒径/平均厚さである。ここで、平均粒径は、粒子板面の長軸長の平均値、平均厚さは、粒子の短軸長の平均値である。これらの値は、走査型電子顕微鏡(SEM)で板状アルミナ粉末中の任意の粒子100個を観察して決定する。板状アルミナ粉末の平均粒径は、配向焼結体の高配向化、低チルト化の観点からは大きい方が好ましく、1.5μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましく、10μm以上が更に好ましく、15μm以上が特に好ましい。但し、緻密化の観点からは小さい方が好ましく、30μm以下が好ましい。こうしたことから、高配向と緻密化を両立するには平均粒径が1.5〜30μmであることが好ましい。また、高配向化、低チルト化の観点では板状アルミナ粉末の平均厚さは微細アルミナ粉末より厚いほうが好ましい。板状アルミナ粉末層は、板状アルミナ粉末そのものの層であってもよいし板状アルミナ粉末に添加剤を加えたものの層であってもよい。添加剤としては、例えば焼結助剤やグラファイト、バインダー、可塑剤、分散剤、分散媒などが挙げられる。板状アルミナ粉末層は、板状アルミナ粉末を構成する板状アルミナ粒子の板面が微細アルミナ粉末層の表面に沿うように配列されている。板状アルミナ粉末は、単一粒子になっていることが好ましい。単一粒子になっていない場合には、配向度やチルト角を悪化させることがあり、低チルト化の観点では非常に重要である。粒子を単一にするには、分級処理、解砕処理及び水簸処理の少なくとも1つの処理を採用すればよいが、すべての処理を採用するのが好ましい。分級処理や解砕処理は、凝集等がある際に採用するのが好ましい。分級処理としては、気流分級等が挙げられる。解砕処理としては、ポット解砕、湿式微粒化方式等が挙げられる。水簸処理は、微粒粉が混入している際に採用するのが好ましい。
【0021】
工程(a)で作製される積層体は、微細アルミナ粉末層と板状アルミナ粉末層とが交互に積層されたものである。低チルト化の観点では、積層体を作製する際、微細アルミナ粉末の成形体の片面を板状アルミナ粉末層で全面的に又は部分的に被覆した片面加工体を作製し、該片面加工体を利用して積層体を作製するのが好ましい。あるいは、微細アルミナ粉末の成形体の両面を板状アルミナ粉末層で全面的に又は部分的に被覆した両面加工体を作製し、該両面加工体と未加工の成形体とを利用して積層体を作製するのが好ましい。
【0022】
片面加工体又は両面加工体は、微細アルミナ粉末の成形体の片面又は両面に該成形体よりも厚みの薄い板状アルミナ粉末の成形体を積層することにより作製してもよい。この場合、板状アルミナ粉末の成形体は、板状アルミナ粒子の板面がその成形体の表面に沿うようにテープ成形や印刷などによってせん断力を与えて成形したものを用いてもよい。あるいは、片面加工体又は両面加工体は、微細アルミナ粉末の成形体の片面又は両面に板状アルミナ粉末の分散液を印刷、スプレーコート、スピンコート又はディップコートすることにより作製してもよい。スプレーコート、スピンコート、ディップコートでは、強制的にせん断力を与えずとも、板状アルミナ粒子の板面がその成形体の表面に沿うように配列する。成形体の表面に配列した板状アルミナ粒子は、数個の板状アルミナ粒子が重なっていてもよいが、他の板状アルミナ粒子と重なっていないことが好ましい。
【0023】
片面加工体を利用する場合、微細アルミナ粉末層と板状アルミナ粉末層とが交互に積層されるように片面加工体を積み重ねていけばよい。両面加工体を利用する場合、両面加工体と未加工の微細アルミナ粉末の成形体とを交互に積層すればよい。なお、片面加工体と両面加工体の両方を利用して積層体を作製してもよいし、片面加工体と両面加工体と未加工の成形体とを利用して積層体を作製してもよい。
【0024】
工程(b)では、積層体を焼成する。この場合、焼成方法は特に限定がないが、積層体を加圧焼成するのが好ましい。加圧焼成としては、例えばホットプレス焼成やHIP焼成などが挙げられる。なお、加圧焼成前に常圧予備焼成を行ってもよい。HIP焼成を行うときにはカプセル法を用いることもできる。ホットプレス焼成の場合の圧力は、50kgf/cm2以上が好ましく、200kgf/cm2以上がより好ましい。HIP焼成の場合の圧力は、1000kgf/cm2以上が好ましく、2000kgf/cm2以上がより好ましい。焼成雰囲気は特に限定はないが、大気、窒素、Ar等の不活性ガス、真空雰囲気下のいずれかが好ましく、窒素、Ar雰囲気下が特に好ましく、窒素雰囲気が最も好ましい。焼成温度(最高到達温度)は、異常粒成長や溶融を生じない範囲において高いほうが好ましく、1700〜2050℃が好ましく、1800〜2000℃がより好ましく、1900〜2000℃が更に好ましい。図2は、積層体1を焼成して配向アルミナ基板7を作製する工程の模式図である。図2に示すように、積層体1は、微細アルミナ粒子3aの集合体の層である微細アルミナ粉末層3と、板状アルミナ粒子5aの板面が微細アルミナ粉末層3の表面に沿って配列された板状アルミナ粉末層5とが、交互に積層されたものである。積層体1を焼成すると、板状アルミナ粒子5aが種結晶(テンプレート)となり、微細アルミナ粒子3aがマトリックスとなって、テンプレートがマトリックスを取り込みながらホモエピタキシャル成長する。そのため、得られる焼結体は配向度が高く、かつ、チルト角が小さい配向アルミナ基板7となる。配向度とチルト角は、板状アルミナ粉末の粒径、アスペクト比、板状アルミナ粉末の厚みと微細アルミナ粉末との粒径差、板状アルミナ粒子の凝集状態、板状アルミナ粉末層における板状アルミナ粒子の重なりの状態、焼成条件の他、板状アルミナ粉末が微細アルミナ粉末層の表面を覆う被覆率に依存する。これらの因子を適切に制御することで配向度が高く、チルト角が0.1以上1°未満の配向アルミナ基板を得ることができる。この被覆率が1〜60%(好ましくは1〜20%、より好ましくは3〜20%)のときに配向度が高く、チルト角が小さくなる。また、配向度とチルト角は、微細アルミナ粉末層の厚みが5〜100μm(好ましくは10〜100μm、より好ましくは20〜60μm)のときに配向度が高く、チルト角は小さくなる。ここで、配向度は、X線回折プロファイルを用いてロットゲーリング法により求めたc面配向度を指す。
【0025】
[素子用基板S1及びそれを用いた発光素子30]
素子用基板S1は、配向アルミナ基板を構成要素に含むタイプの発光素子用基板である。図3の上段は、素子用基板S1の一例である発光素子用基板10の断面図である。発光素子用基板10は、配向アルミナ基板12上に形成されたバッファ層16上に発光機能層14が形成されている。発光機能層14は、バッファ層16側からn型層14c、活性層14b及びp型層14aが積層された複合層である。発光機能層14を構成する各層は、半導体材料を主成分とする材料で構成されている。半導体材料としては、GaN系材料、ZnO系材料及びAlN系材料などが挙げられるが、このうちGaN系材料が好ましい。n型層14cは半導体材料にn型ドーパントがドープされ、p型層14aは半導体材料にp型ドーパントがドープされている。活性層14bは、量子井戸層と障壁層とが交互に積層された多重量子井戸層であり、半導体材料としてGaN材料を用いる場合、量子井戸層をInGaN層、障壁層をGaN層とすることができる。バッファ層16は、配向アルミナ基板12と発光機能層14の格子ミスマッチによる格子欠陥を低減し、結晶性を改善するための層である。バッファ層16は、発光機能層14の結晶構造と同じ又は類似した高い結晶性を有するものであることが好ましく、格子定数が同じ又は近いものを用いてもよい。バッファ層16は、配向アルミナ基板12の結晶方位に倣って成長した構造を有する。バッファ層16は、上述した半導体材料を主成分とする材料で構成されるのが好ましく、p型ないしn型に制御するためのドーパントを適宜含むものであってもよい。
【0026】
発光素子用基板10は、例えば次のようにして製造することができる。すなわち、配向アルミナ基板12上にGaNなどの半導体の結晶をエピタキシャル成長させることにより半導体層(バッファ層16)を形成する。この場合、配向アルミナ基板12上に半導体の結晶をエピタキシャル成長させて半導体薄膜(種結晶層)を形成し、その半導体薄膜上に更に同じ半導体の結晶をエピタキシャル成長させて半導体薄膜よりも厚い膜を形成し、両方の膜を半導体層としてもよい。なお、エピタキシャル成長は、気相、液相、固相のいずれで行ってもよい。次に、バッファ層16上にn型層14c、活性層14b及びp型層14aを順次積層していくことにより発光機能層14を形成する。これにより、発光素子用基板10が得られる。
【0027】
発光素子用基板10を利用した発光素子30は、次のようにして製造することができる。図3は発光素子30を作製する工程の断面図である。まず、発光素子用基板10の発光機能層14側においてn型層14cの一部を露出させる。続いて、n型層14cの露出した部分にカソード電極17を形成する。一方、p型層14aの上面に透光性アノード電極18を形成し、更にその上にアノード電極パッド19を形成する。最後に、電極形成後の発光素子用基板10を切断してチップ化し、リードフレームに実装して横型構造の発光素子30を得る。
【0028】
なお、発光素子用基板10を利用して縦型構造の発光素子を作製することもできる。例えば、発光素子用基板10のp型層14aの上面にアノード電極を形成し、実装基板にアノード電極を接合し、配向アルミナ基板12をレーザリフトオフ法で除去し、露出したn型層14cの表面にカソード電極を形成することにより作製することができる。レーザリフトオフ法で配向アルミナ基板12を除去する際、バッファ層16も併せて除去してもよい。
【0029】
[素子用基板S2及びそれを用いた発光素子40]
素子用基板S2は、素子用基板S1の配向アルミナ基板の代わりに半導体自立基板を構成要素に含むタイプの発光素子用基板である。図4の上段は、素子用基板S2の一例である発光素子用基板20の断面図である。発光素子用基板20は、半導体自立基板22上に発光機能層24が形成されている。発光機能層24は、n型層24c、活性層24b及びp型層24aが積層された複合層であるが、基本的には上述した発光機能層14と同じであるため、説明を省略する。図4の半導体自立基板22は、n型ドーパントがドープされた半導体材料であるが、ノンドープの半導体材料でもよい。n型ドーパントの導入により導電性を持たせた窒化ガリウムを基板とすることで、縦型構造の発光素子を実現することができる。
【0030】
発光素子用基板20は、例えば次のようにして製造することができる。すなわち、配向アルミナ基板上にGaNなどの半導体の結晶をエピタキシャル成長させることにより半導体層を形成する。この場合、配向アルミナ基板上に半導体の結晶をエピタキシャル成長させて半導体薄膜(種結晶層)を形成し、その半導体薄膜上に更に同じ半導体の結晶をエピタキシャル成長させて半導体薄膜よりも厚い膜を形成し、両方の膜を半導体層としてもよい。なお、エピタキシャル成長は、気相、液相、固相のいずれで行ってもよい。次に、配向アルミナ基板を研削加工等の方法で除去して、半導体層の単体つまり半導体自立基板22を得る。この半導体自立基板22上にn型層24c、活性層24b及びp型層24aを順次積層していくことにより発光機能層24を形成する。これにより、発光素子用基板20が得られる。
【0031】
発光素子用基板20を利用した発光素子40は、次のようにして製造することができる。図4は発光素子40を作製する工程の断面図である。まず、発光素子用基板20の半導体自立基板22側にカソード電極27を形成する。一方、p型層24aの上面に透光性アノード電極28を形成し、更にその上にアノード電極パッド29を形成する。最後に、電極形成後の発光素子用基板20を切断してチップ化し、リードフレームに実装して縦型構造の発光素子40を得る。
【0032】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例】
【0033】
以下に説明する実験例A1〜A6はエピタキシャル配向アルミナ基板の作製例、実験例B1〜B6は素子用基板S1及びそれを用いた発光素子の作製例、実験例C1〜C6は素子用基板S2及びそれを用いた発光素子の作製例である。
【0034】
[実験例A1]
(1)配向アルミナ基板の作製
(1a)積層体の作製
微細アルミナ粉末(大明化学工業株式会社製、グレードTM−DAR)100質量部に対し、酸化マグネシウム(500A、宇部マテリアルズ製)0.0125質量部(125質量ppm)と、バインダーとしてポリビニルブチラール(品番BM−2、積水化学工業製)7.8質量部と、可塑剤としてジ(2−エチルヘキシル)フタレート(黒金化成製)3.9質量部と、分散剤としてトリオレイン酸ソルビタン(レオドールSP−O30、花王製)2質量部と、分散媒として2−エチルヘキサノールとを加えて混合した。分散媒の量は、スラリー粘度が20000cPとなるように調整した。このようにして調製されたスラリーを、ドクターブレード法によってPETフィルムの上に乾燥後の厚みが40μmとなるようにシート状に成形し、微細アルミナ粉末層とした。
【0035】
市販の板状アルミナ粉末(キンセイマテック製、グレードYFA10030)を気流分級機(日清エンジニアリング製TC−15N)にてカット点を3μmに設定して分級し、次にポット解砕機にてφ0.3mmの玉石で20時間解砕し、最後に水簸にて微粒粉末を除去した。得られた板状アルミナ粉末100質量部に対し、分散媒としてイソプロピルアルコール500質量部を加えた。得られた分散液(板状アルミナスラリー)を超音波分散機で5分間分散させた後、スプレーガン(タミヤ製スプレーワークーHG エアーブラシワイド)にて、噴霧圧0.2MPa、噴射距離20cm、にて前記微細アルミナ粉末層の片面に、噴霧し、片面加工体を得た。このとき、微細アルミナ粉末層の表面を板状アルミナ粉末が被覆する被覆率は1%であった。なお、片面加工体の被覆率は、以下のようにして算出した。すなわち、微細アルミナ粉末層表面を光学顕微鏡で観察し、この観察写真を画像処理にて、板状アルミナ粉末の部分とそれ以外に切り分け、観察写真における微細アルミナ粉末層表面の面積に対する板状アルミナ粉末の面積の割合を、被覆率とした。
【0036】
得られた片面加工体を直径50mmの円形に切断した後、PETフィルムから剥がし、噴霧した加工面が重ならないように65層積層し、厚さ10mmのAl板の上に載置した後、パッケージに入れて内部を真空にすることで真空パックとした。この真空パックを85℃の温水中で100kgf/cm2の圧力にて静水圧プレスを行い、積層体を得た。
【0037】
(1b)積層体の焼成
得られた積層体を脱脂炉中に配置し、600℃で10時間の条件で脱脂を行った。得られた脱脂体を黒鉛製の型を用い、ホットプレスにて窒素中、焼成温度(最高到達温度)1975℃で4時間、面圧200kgf/cm2の条件で焼成し、アルミナ焼結体を得た。なお、焼成温度から降温する際に1200℃までプレス圧を維持し、1200℃未満の温度域ではプレス圧をゼロに開放した
【0038】
(1c)配向アルミナ基板の作製
このようにして得た焼結体をセラミックスの定盤に固定し、砥石を用いて#2000まで研削して板面を平坦にした。次いで、ダイヤモンド砥粒を用いたラップ加工により、板面を平滑化し、直径50mm、厚さ0.5mmの配向アルミナ焼結体を配向アルミナ基板として得た。砥粒のサイズを3μmから0.5μmまで段階的に小さくしつつ、平坦性を高めた。加工後の平均粗さRaは4nmであった。
【0039】
(2)配向アルミナ基板の特性
(2a)c面配向度
得られた配向アルミナ基板の配向度を確認するため、配向アルミナ基板の上面に対して平行になるように研磨加工した後、その研磨面に対してX線を照射しc面配向度を測定した。XRD装置(リガク製、RINT−TTR III)を用い、2θ=20〜70°の範囲でXRDプロファイルを測定した。具体的には、CuKα線を用いて電圧50kV、電流300mAという条件で測定した。c面配向度は、ロットゲーリング法によって算出した。具体的には、以下の式により算出した。式中、Pは配向アルミナ基板のXRDから得られた値であり、P0は標準α−アルミナ(JCPDSカードNo.46−1212)から算出された値である。実験例1の配向アルミナ基板のc面配向度は100%であった。
【0040】
【数1】
【0041】
(2b)チルト角
チルト角は、結晶軸の傾き分布であり、アルミナの結晶方位がc軸からどの程度の頻度で傾いているかを評価するパラメータである。ここでは、チルト角をX線ロッキングカーブ半値幅(XRC・FWHM)で表す。XRC・FWHMは、配向アルミナ基板の板面(c面配向度測定と同じ面)に対し、図5のようにX線源と検出器を連動させてスキャンし、得られたカーブの半値幅を測定した。このように2θ(検出器と入射X線とのなす角度)の値をその回折ピーク位置に固定し、ω(試料基板面と入射X線とのなす角度)のみ走査する測定方法をロッキングカーブ測定とよぶ。装置はリガク製、RINT−TTR IIIを用い、CuKα線を用いて電圧50kV、電流300mAという条件でωの走査範囲を3.8°〜38.8°とした。実験例1の配向アルミナ基板のXRC・FWHMは0.9°であった。
【0042】
(2c)配向アルミナ基板の粒径評価
配向アルミナ基板の焼結体粒子について、板面の平均焼結粒径を以下の方法により測定した。得られた配向アルミナ基板を、1550℃で45分間サーマルエッチングを行った後、走査電子顕微鏡にて画像を撮影した。視野範囲は、得られる画像の対角線に直線を引いた場合に、いずれの直線も10個から30個の粒子と交わるような直線が引けるような視野範囲とした。得られた画像の対角線に引いた2本の直線において、直線が交わる全ての粒子に対し、個々の粒子の内側の線分の長さを平均したものに1.5を乗じた値を板面の平均焼結粒径とした。この結果、板面の平均焼結粒径は66μmであった。
【0043】
(2d)配向アルミナ基板の不純物量
アルミナ焼結体を純度99.9質量%のアルミナ乳鉢で粉砕した後、下記方法により定量分析した。そして、アルミナ焼結体中のNa、Mg、Si、P、Ca、Fe、Ti、Znの質量割合(ppm)を求めた。実験例1のアルミナ焼結体のMg以外の不純物元素は、いずれも検出限界以下であり、Mgが62ppm検出された。
不純物定量方法: JISR1649に準拠した加圧硫酸分解法にて板状アルミナ粉末を溶解し、ICP(誘導結合プラズマ)発光分析装置(日立ハイテクサイエンス製 PS3520UV−DD)にて分析した。
【0044】
表1に実験例A1の焼成方法、焼成温度及び配向アルミナ基板の特性をまとめた。
【0045】
【表1】
【0046】
[実験例A2]
実験例A1において、板状アルミナ粉末として、自社製のものを用いた以外は、実験例A1と同様にして配向アルミナ基板を作製し、その特性を測定した。配向アルミナ基板の特性を表1に示す。
【0047】
自社製の板状アルミナ粉末は、以下のようにして作製した。高純度γ−アルミナ(TM−300D、大明化学製)96質量部と、高純度AlF3(関東化学製、鹿特級)4質量部と、種結晶として高純度α−アルミナ(TM−DAR、大明化学製、D50=1μm)0.17質量部とを、溶媒をIPA(イソプロピルアルコール)としてφ2mmのアルミナボールを用いて5時間ポットミルで混合した。得られた混合粉末中のF,H,C,S以外の不純物元素の質量割合の合計は1000ppm以下であった。得られた混合原料粉末300gを純度99.5質量%の高純度アルミナ製のさや(容積750cm3)に入れ、純度99.5質量%の高純度アルミナ製の蓋をして電気炉内でエアフロー中、900℃、3時間熱処理した。エアの流量は25000cc/minとした。熱処理後の粉末を大気中、1150℃で40時間アニール処理した後、φ2mmのアルミナボールを用いて4時間粉砕して平均粒径2μm、平均厚み0.2μm、アスペクト比10の板状アルミナ粉末を得た。粒子の平均粒径、平均厚みは、走査型電子顕微鏡(SEM)で板状アルミナ粉末中の任意の粒子100個を観察して決定した。平均粒径は、粒子の長軸長の平均値、平均厚みは、粒子の短軸長の平均値、アスペクト比は平均粒径/平均厚みである。得られた板状アルミナ粉末は、α−アルミナであった。
【0048】
[実験例A3]
実験例A3において、焼成温度を1900℃とした以外は、実験例A1と同様にして配向アルミナ基板を作製し、その特性を測定した。配向アルミナ基板の特性を表1に示す。
【0049】
[実験例A4]
微細アルミナ粉末(大明化学工業株式会社製、グレードTM−DAR)100質量部に対し、酸化マグネシウム(500A、宇部マテリアルズ製)0.0125質量部(125質量ppm)と、バインダーとしてポリビニルブチラール(品番BM−2、積水化学工業製)7.8質量部と、可塑剤としてジ(2−エチルヘキシル)フタレート(黒金化成製)3.9質量部と、分散剤としてトリオレイン酸ソルビタン(レオドールSP−O30、花王製)2質量部と、分散媒として2−エチルヘキサノールとを加えて混合した。分散媒の量は、スラリー粘度が20000cPとなるように調整した。このようにして調製されたスラリーを、ドクターブレード法によってPETフィルムの上に乾燥後の厚みが40μmとなるようにシート状に成形し、微細アルミナ粉末層とした。
【0050】
市販の板状アルミナ粉末(キンセイマテック製、グレードYFA10030)100質量部に対し、バインダーとしてポリビニルブチラール(品番BM−2、積水化学工業製)50質量部と、可塑剤としてジ(2−エチルヘキシル)フタレート(黒金化成製)25質量部と、分散剤としてトリオレイン酸ソルビタン(レオドールSP−O30、花王製)2質量部と、分散媒としてキシレンと1−ブタノールの混合溶液(混合比率1:1)とを加えて混合した。分散媒の量は、スラリー粘度が5000cPとなるように調整した。このようにして調製されたスラリーを、リバースドクターブレード法によってPETフィルムの上に乾燥後の厚さが3μmとなるようにシート状に成形し、板状アルミナ粉末層とした。
【0051】
微細アルミナ粉末層と板状アルミナ粉末層を各々直径50mmの円形に切断した後、PETフィルムから剥がし、微細アルミナ粉末層と板状アルミナ粉末層とを各50層、交互に積層し、厚さ10mmのAl板の上に載置した後、パッケージに入れて内部を真空にすることで真空パックとした。この真空パックを85℃の温水中で100kgf/cm2の圧力にて静水圧プレスを行い、積層体を得た。このとき、板状アルミナ粉末層が微細アルミナ粉末層の表面を被覆する被覆率は60%であった。
【0052】
得られた積層体を実験例A1と同様の方法で脱脂、焼成、加工を行って配向アルミナ基板を作製し、その特性を測定した。配向アルミナ基板の特性を表1に示す。
【0053】
[実験例A5]
微細アルミナ粉末(大明化学工業株式会社製、グレードTM−DAR)99.8質量部、イットリア粉末(信越化学工業株式会社製、グレードUU)0.2質量部を混合し、混合粉末100gに対して溶媒として水50ccの割合で添加し、ボールミルにて40時間混合粉砕し、スラリー化した。得られたスラリーを内径50mmの石膏型に注ぎ、12Tの磁場中で3時間戴置し、鋳込み成形を行った。成形体は石膏から脱型し、室温での乾燥後、黒鉛製の型を用い、ホットプレスにて窒素中1400℃で4時間、面圧200kgf/cm2の条件で焼成した。得られた焼結体を実験例A1と同様にして加工して配向アルミナ基板を作製し、その特性を測定した。配向アルミナ基板の特性を表1に示す。
【0054】
[実験例A6]
市販の板状アルミナ粉末(キンセイマテック製、グレードYFA10030)を気流分級機(日清エンジニアリング製TC−15N)にてカット点を3μmに設定して分級し、次にポット解砕機にてφ0.3mmの玉石で20時間解砕し、最後に水簸にて微粒粉末を除去した。得られた板状アルミナ粉末0.5質量部と微細アルミナ粉末(大明化学工業株式会社製、グレードTM−DAR)99.5質量部を混合した。更に混合粉末100質量部に対し、酸化マグネシウム(500A、宇部マテリアルズ製)0.0125質量部(125質量ppm)を混合し、調合粉末を得た。調合粉末100gに対して溶媒として水50ccの割合で添加し、ボールミルにて40時間混合粉砕し、スラリー化した。得られたスラリーを内径50mmの石膏型に注ぎ、12Tの磁場中で3時間戴置し、鋳込み成形を行った。成形体は石膏から脱型し、室温での乾燥後、黒鉛製の型を用い、ホットプレスにて窒素中1975℃で4時間、面圧200kgf/cm2の条件で焼成した。得られた焼結体を実験例A1と同様にして加工して配向アルミナ基板を作製し、その特性を測定した。配向アルミナ基板の特性を表1に示す。
【0055】
[実験例A7]
微細アルミナ粉末(住友化学製、グレードAKP−3000)100質量部に対し、酸化マグネシウム(500A、宇部マテリアルズ製)0.0125質量部(125質量ppm)を混合し、混合粉末100gに対して溶媒として水50ccの割合で添加し、ボールミルにて40時間混合粉砕し、スラリー化した。得られたスラリーを内径50mmの石膏型に注ぎ、10Tの磁場中で3時間戴置し、鋳込み成形を行った。成形体は石膏から脱型し、室温での乾燥後、黒鉛製の型を用い、ホットプレスにて窒素中1975℃で4時間、面圧200kgf/cm2の条件で焼成した。得られた焼結体を実験例A1と同様にして加工して配向アルミナ基板を作製し、その特性を測定した。配向アルミナ基板の特性を表1に示す。
【0056】
[実験例A8]
スラリーを内径50mmの石膏型に注ぎ、12Tの磁場中で8時間載置し、鋳込み成形を行った以外は、実験例A7と同様にしてアルミナ焼結体を作製した。得られた焼結体を実験例A1と同様にして加工して配向アルミナ基板を作製し、その特性を測定した。配向アルミナ基板の特性を表1に示す。
【0057】
[実験例A9]
実験例A1において、片面加工体の作製方法を以下のように変更した以外は、実験例A4と同様にしてアルミナ焼結体を作製した。
【0058】
実験例A9では、片面加工体を以下のようにして作製した。市販の板状アルミナ粉末(キンセイマテック製、グレードYFA10030)を気流分級機(日清エンジニアリング製TC−15N)にてカット点を3μmに設定して分級し、次にポット解砕機にてφ0.3mmの玉石で20時間解砕し、最後に水簸にて微粒粉末を除去した。得られた板状アルミナ粉末100質量部に対し、バインダーとしてポリビニルブチラール(品番BLS、積水化学工業製)100質量部と、分散剤としてテルピネオール3500質量部を加えて混合し、印刷ペーストを得た。この印刷ペーストを、乳剤付の製版(ST640メッシュ、乳剤厚:5μm)にて、微細アルミナ粉末層の片面に印刷して片面加工体を得た。このときの板状アルミナ粉末層の厚みは0.5μm であった。得られた焼結体を実験例A1と同様にして加工して配向アルミナ基板を作製し、その特性を測定した。配向アルミナ基板の特性を表1に示す。
【0059】
[実験例B1]
(1)発光素子用基板(素子用基板S1)の作製
(1a)種結晶層の成膜
実験例A1で作製した配向アルミナ基板の上に、MOCVD法を用いて、種結晶層を形成した。具体的には、530℃にて低温GaN層を40nm堆積させた後に、1050℃にて厚さ3μmのGaN膜を積層させて種結晶基板を得た。
【0060】
(1b)Naフラックス法によるGaNバッファ層の成膜
上記工程で作製した種結晶基板を、内径80mm、高さ45mmの円筒平底のアルミナ坩堝の底部分に設置し、次いで融液組成物をグローブボックス内で坩堝内に充填した。融液組成物の組成は以下のとおりである。
・金属Ga:60g
・金属Na:60g
【0061】
このアルミナ坩堝を耐熱金属製の容器に入れて密閉した後、結晶育成炉の回転が可能な台上に設置した。窒素雰囲気中で870℃、4.0MPaまで昇温加圧後、10時間保持しつつアルミナ坩堝を回転することで、撹拌しながら窒化ガリウム結晶をバッファ層として成長させた。結晶成長終了後、3時間かけて室温まで徐冷し、結晶育成炉から育成容器を取り出した。エタノールを用いて、坩堝内に残った融液組成物を除去し、窒化ガリウム結晶が成長した試料を回収した。得られた試料は、50mmの種結晶基板の全面上に窒化ガリウム結晶が成長しており、結晶の厚さは約0.1mmであった。クラックは確認されなかった。
【0062】
こうして得られた配向アルミナ基板上の窒化ガリウム結晶を、基板ごとセラミックスの定盤に固定し、窒化ガリウム結晶の板面を#600及び#2000の砥石によって研削して板面を平坦にした。次いで、ダイヤモンド砥粒を用いたラップ加工により、窒化ガリウム結晶の板面を平滑化した。このとき、砥粒のサイズを3μmから0.1μmまで段階的に小さくしつつ、平坦性を高めた。窒化ガリウム結晶板面の加工後の平均粗さRaは0.2nmであった。こうして、配向アルミナ基板上に厚み約50μmの窒化ガリウム結晶層を形成した基板を得た。なお、本例では、後述する発光機能層の結晶性を高めるため、このような窒化ガリウムバッファ層を形成したが、目標特性や用途によってはバッファ層自体を省略してもよい。また、窒化ガリウムバッファ層中にゲルマニウム、シリコン、酸素等をドーピングして導電性を持たせた構造としてもよい。
【0063】
(1c)MOCVD法による発光機能層の成膜
MOCVD法を用いて、基板上にn型層として1050℃でSi原子濃度が5×1018/cm3になるようにドーピングしたn−GaN層を3μm堆積した。次に活性層として750℃で多重量子井戸層を堆積した。具体的にはInGaNによる2.5nmの井戸層を5層、GaNによる10nmの障壁層を6層にて交互に積層した。次にp型層として950℃でMg原子濃度が1×1019/cm3になるようにドーピングしたp−GaNを200nm堆積した。その後、MOCVD装置から取り出し、p型層のMgイオンの活性化処理として、窒素雰囲気中で800℃の熱処理を10分間行い、発光素子用基板を得た。
【0064】
(2)横型発光素子の作製
作製した発光素子用基板の発光機能層側においてフォトリソグラフィープロセスとRIE法とを用い、n型層の一部を露出した。続いて、フォトリソグラフィープロセスと真空蒸着法とを用いて、n型層の露出部分に、カソード電極としてのTi/Al/Ni/Au膜をそれぞれ15nm、70nm、12nm、60nmの厚みでパターニングした。その後、オーム性接触特性を良好なものとするために、窒素雰囲気中での700℃の熱処理を30秒間行った。さらに、フォトリソグラフィープロセスと真空蒸着法とを用いて、p型層に透光性アノード電極としてNi/Au膜をそれぞれ6nm、12nmの厚みにパターニングした。その後、オーム性接触特性を良好なものとするために窒素雰囲気中で500℃の熱処理を30秒間行った。さらに、フォトリソグラフィープロセスと真空蒸着法とを用いて、透光性アノード電極としてのNi/Au膜の上面の一部領域に、アノード電極パッドとなるNi/Au膜をそれぞれ5nm、60nmの厚みにパターニングした。こうして得られたウェハーを切断してチップ化し、さらにリードフレームに実装して、横型構造の発光素子を得た。
【0065】
[実験例B2〜B9]
実験例A2〜A9の配向アルミナ基板を用いて、実験例B1と同様の方法で発光素子用基板を作製した。また、実験例B1と同様の方法で横型構造の発光素子を作製した。
【0066】
[発光素子の評価]
実験例B1〜B9で作製した横型発光素子に対し、カソード電極とアノード電極間に通電し、I−V測定を行ったところ、いずれの試料も整流性が確認された。また、順方向の電流を流したところ、いずれも波長450nmの発光が確認された。発光輝度は実験例B1、B2、B9の素子が著しく高輝度であった。実験例B3、B7の基板を用いた素子も高輝度であるが、実験例B1、B2、B9より輝度がわずかに低下した。実験例B8の基板を用いた素子も高輝度であったが、実験例B3、B7よりわずかに低下した。実験例B4の素子は実験例B8よりも大幅に輝度が低下した。実験例B5、B6の素子は実験例B4より更に輝度が低下した。
【0067】
[実験例C1]
(1)発光素子用基板(素子用基板S2)の作製
(1a)種結晶層の成膜
実験例A1で作製した配向アルミナ基板の上に、MOCVD法を用いて種結晶層を形成した。具体的には、バッファ層としてサセプタ温度530℃、水素雰囲気中にて低温GaN層を30nm堆積させた後に、窒素・水素雰囲気にてサセプタ温度1050℃まで昇温し厚さ3μmのGaN膜を積層させて種結晶基板を得た。
【0068】
(1b)Naフラックス法によるGeドープGaN層の成膜
上記工程で作製した種結晶基板を、内径80mm、高さ45mmの円筒平底のアルミナ坩堝の底部分に設置し、次いで融液組成物をグローブボックス内で坩堝内に充填した。融液組成物の組成は以下のとおりである。
・金属Ga:60g
・金属Na:60g
・四塩化ゲルマニウム:1.85g
【0069】
このアルミナ坩堝を耐熱金属製の容器に入れて密閉した後、結晶育成炉の回転が可能な台上に設置した。窒素雰囲気中で870℃、3.5MPaまで昇温加圧後、100時間保持しつつ溶液を回転することで、撹拌しながら窒化ガリウム結晶を成長させた。結晶成長終了後、3時間かけて室温まで徐冷し、結晶育成炉から育成容器を取り出した。エタノールを用いて、坩堝内に残った融液組成物を除去し、窒化ガリウム結晶が成長した試料を回収した。得られた試料は、50mmの種結晶基板の全面上にGeドープ窒化ガリウム結晶が成長しており、結晶の厚さは約1.4mmであった。クラックは確認されなかった。こうして得られた試料の配向アルミナ基板部を砥石による研削加工により除去して、Geドープ窒化ガリウムの単体を得た。このGeドープ窒化ガリウム結晶の板面を研磨して板面を平坦にした。更に、ラップ加工とCMPを用いて板面を平滑化し、厚さ約500μmのGeドープ多結晶窒化ガリウム自立基板を発光素子用基板として得た。多結晶窒化ガリウム自立基板表面の加工後の平均粗さRaは0.2nmであった。
【0070】
なお、本例では、ゲルマニウムドーピングしてn型半導体としたものを作製したが、用途や構造によっては異なる元素をドーピングしてもよく、ノンドープとしてもよい。
【0071】
(2)発光素子の作製
MOCVD法を用いて、実験例C1で作製した各Geドープ多結晶窒化ガリウム自立基板上にn型層として1050℃でSi原子濃度が5×1018/cm3になるようにドーピングしたn−GaN層を1μm堆積した。次に発光層として750℃で多重量子井戸層を堆積した。具体的にはInGaNによる2.5nmの井戸層を5層、GaNによる10nmの障壁層を6層にて交互に積層した。次にp型層として950℃でMg原子濃度が1×1019/cm3になるようにドーピングしたp−GaNを200nm堆積した。その後、MOCVD装置から取り出し、p型層のMgイオンの活性化処理として、窒素雰囲気中で800℃の熱処理を10分間行った。
【0072】
次にフォトリソグラフィーと真空蒸着法とを用いて、多結晶窒化ガリウム自立基板のn−GaN層及びp−GaN層とは反対側の面にカソード電極としてのTi/Al/Ni/Au膜をそれぞれ15nm、70nm、12nm、60nmの厚みでパターニングした。その後、オーム性接触特性を良好なものとするために、窒素雰囲気中での700℃の熱処理を30秒間行った。さらに、フォトリソグラフィーと真空蒸着法とを用いて、p型層に透光性アノード電極としてNi/Au膜をそれぞれ6nm、12nmの厚みにパターニングした。その後、オーム性接触特性を良好なものとするために窒素雰囲気中で500℃の熱処理を30秒間行った。さらに、フォトリソグラフィーと真空蒸着法とを用いて、透光性アノード電極としてのNi/Au膜の上面の一部領域に、アノード電極パッドとなるNi/Au膜をそれぞれ5nm、60nmの厚みにパターニングした。こうして得られたウェハーを切断してチップ化し、さらにリードフレームに実装して、縦型構造の発光素子を得た。
【0073】
[実験例C2〜C9]
実験例C2〜C9では、実験例A2〜A9の配向アルミナ基板を用いて、実験例C1と同様の方法で発光素子用基板を作製し、更に実験例C1と同様の方法で縦型構造の発光素子を作製した。
【0074】
[発光素子の評価]
実験例C1〜C9で作製した縦型発光素子に対し、カソード電極とアノード電極間に通電し、I−V測定を行ったところ、いずれの試料も整流性が確認された。また、順方向の電流を流したところ、いずれも波長450nmの発光が確認された。発光輝度は実験例C1、C2、C9の素子が著しく高輝度であった。実験例C3、C7の基板を用いた素子も高輝度であるが、実験例C1、C2、C9より輝度がわずかに低下した。実験例C8の基板を用いた素子も高輝度であったが、実験例C3、C7よりわずかに低下した。実験例C4の素子は実験例C8よりも大幅に輝度が低下した。実験例C5、6の素子は実験例C4より更に輝度が低下した。
【0075】
以上説明した実験例のうち、実験例A1〜A3、A7〜A9が本発明の実施例に相当し、実験例A4〜A6が比較例に相当する。なお、本発明は上述した実施例に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0076】
本出願は、2016年7月14日に出願された日本国特許出願第2016−139508号、2016年3月29日に出願された日本国特許出願第2016−66431号、2016年2月25日に出願された日本国特許出願第2016−34005号、2016年1月25日に出願された日本国特許出願第2016−11190号、2015年11月16日に出願された日本国特許出願第2015−224164号、2015年9月30日に出願された日本国特許出願第2015−193943号及び2015年9月30日に出願された日本国特許出願第2015−193944号を優先権主張の基礎としており、引用によりそれらの内容の全てが本明細書に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明のエピタキシャル成長用基板は、例えば半導体デバイスを製造する際に利用される。
【符号の説明】
【0078】
1 積層体、3 微細アルミナ粉末層、3a 微細アルミナ粒子、5 板状アルミナ粉末層、5a 板状アルミナ粒子、7 配向アルミナ基板、10 発光素子用基板、12 配向アルミナ基板、14 発光機能層、14a p型層、14b 活性層、14c n型層、16 バッファ層、17 カソード電極、18 透光性アノード電極、19 アノード電極パッド、20 発光素子用基板、22 半導体自立基板、24 発光機能層、24a p型層、24b 活性層、24c n型層、27 カソード電極、28 透光性アノード電極、29 アノード電極パッド、30 発光素子、40 発光素子、S1 素子用基板、S2 素子用基板。
図1
図2
図3
図4
図5