【実施例】
【0033】
以下に説明する実験例A1〜A6はエピタキシャル配向アルミナ基板の作製例、実験例B1〜B6は素子用基板S1及びそれを用いた発光素子の作製例、実験例C1〜C6は素子用基板S2及びそれを用いた発光素子の作製例である。
【0034】
[実験例A1]
(1)配向アルミナ基板の作製
(1a)積層体の作製
微細アルミナ粉末(大明化学工業株式会社製、グレードTM−DAR)100質量部に対し、酸化マグネシウム(500A、宇部マテリアルズ製)0.0125質量部(125質量ppm)と、バインダーとしてポリビニルブチラール(品番BM−2、積水化学工業製)7.8質量部と、可塑剤としてジ(2−エチルヘキシル)フタレート(黒金化成製)3.9質量部と、分散剤としてトリオレイン酸ソルビタン(レオドールSP−O30、花王製)2質量部と、分散媒として2−エチルヘキサノールとを加えて混合した。分散媒の量は、スラリー粘度が20000cPとなるように調整した。このようにして調製されたスラリーを、ドクターブレード法によってPETフィルムの上に乾燥後の厚みが40μmとなるようにシート状に成形し、微細アルミナ粉末層とした。
【0035】
市販の板状アルミナ粉末(キンセイマテック製、グレードYFA10030)を気流分級機(日清エンジニアリング製TC−15N)にてカット点を3μmに設定して分級し、次にポット解砕機にてφ0.3mmの玉石で20時間解砕し、最後に水簸にて微粒粉末を除去した。得られた板状アルミナ粉末100質量部に対し、分散媒としてイソプロピルアルコール500質量部を加えた。得られた分散液(板状アルミナスラリー)を超音波分散機で5分間分散させた後、スプレーガン(タミヤ製スプレーワークーHG エアーブラシワイド)にて、噴霧圧0.2MPa、噴射距離20cm、にて前記微細アルミナ粉末層の片面に、噴霧し、片面加工体を得た。このとき、微細アルミナ粉末層の表面を板状アルミナ粉末が被覆する被覆率は1%であった。なお、片面加工体の被覆率は、以下のようにして算出した。すなわち、微細アルミナ粉末層表面を光学顕微鏡で観察し、この観察写真を画像処理にて、板状アルミナ粉末の部分とそれ以外に切り分け、観察写真における微細アルミナ粉末層表面の面積に対する板状アルミナ粉末の面積の割合を、被覆率とした。
【0036】
得られた片面加工体を直径50mmの円形に切断した後、PETフィルムから剥がし、噴霧した加工面が重ならないように65層積層し、厚さ10mmのAl板の上に載置した後、パッケージに入れて内部を真空にすることで真空パックとした。この真空パックを85℃の温水中で100kgf/cm
2の圧力にて静水圧プレスを行い、積層体を得た。
【0037】
(1b)積層体の焼成
得られた積層体を脱脂炉中に配置し、600℃で10時間の条件で脱脂を行った。得られた脱脂体を黒鉛製の型を用い、ホットプレスにて窒素中、焼成温度(最高到達温度)1975℃で4時間、面圧200kgf/cm
2の条件で焼成し、アルミナ焼結体を得た。なお、焼成温度から降温する際に1200℃までプレス圧を維持し、1200℃未満の温度域ではプレス圧をゼロに開放した
【0038】
(1c)配向アルミナ基板の作製
このようにして得た焼結体をセラミックスの定盤に固定し、砥石を用いて#2000まで研削して板面を平坦にした。次いで、ダイヤモンド砥粒を用いたラップ加工により、板面を平滑化し、直径50mm、厚さ0.5mmの配向アルミナ焼結体を配向アルミナ基板として得た。砥粒のサイズを3μmから0.5μmまで段階的に小さくしつつ、平坦性を高めた。加工後の平均粗さRaは4nmであった。
【0039】
(2)配向アルミナ基板の特性
(2a)c面配向度
得られた配向アルミナ基板の配向度を確認するため、配向アルミナ基板の上面に対して平行になるように研磨加工した後、その研磨面に対してX線を照射しc面配向度を測定した。XRD装置(リガク製、RINT−TTR III)を用い、2θ=20〜70°の範囲でXRDプロファイルを測定した。具体的には、CuKα線を用いて電圧50kV、電流300mAという条件で測定した。c面配向度は、ロットゲーリング法によって算出した。具体的には、以下の式により算出した。式中、Pは配向アルミナ基板のXRDから得られた値であり、P0は標準α−アルミナ(JCPDSカードNo.46−1212)から算出された値である。実験例1の配向アルミナ基板のc面配向度は100%であった。
【0040】
【数1】
【0041】
(2b)チルト角
チルト角は、結晶軸の傾き分布であり、アルミナの結晶方位がc軸からどの程度の頻度で傾いているかを評価するパラメータである。ここでは、チルト角をX線ロッキングカーブ半値幅(XRC・FWHM)で表す。XRC・FWHMは、配向アルミナ基板の板面(c面配向度測定と同じ面)に対し、
図5のようにX線源と検出器を連動させてスキャンし、得られたカーブの半値幅を測定した。このように2θ(検出器と入射X線とのなす角度)の値をその回折ピーク位置に固定し、ω(試料基板面と入射X線とのなす角度)のみ走査する測定方法をロッキングカーブ測定とよぶ。装置はリガク製、RINT−TTR IIIを用い、CuKα線を用いて電圧50kV、電流300mAという条件でωの走査範囲を3.8°〜38.8°とした。実験例1の配向アルミナ基板のXRC・FWHMは0.9°であった。
【0042】
(2c)配向アルミナ基板の粒径評価
配向アルミナ基板の焼結体粒子について、板面の平均焼結粒径を以下の方法により測定した。得られた配向アルミナ基板を、1550℃で45分間サーマルエッチングを行った後、走査電子顕微鏡にて画像を撮影した。視野範囲は、得られる画像の対角線に直線を引いた場合に、いずれの直線も10個から30個の粒子と交わるような直線が引けるような視野範囲とした。得られた画像の対角線に引いた2本の直線において、直線が交わる全ての粒子に対し、個々の粒子の内側の線分の長さを平均したものに1.5を乗じた値を板面の平均焼結粒径とした。この結果、板面の平均焼結粒径は66μmであった。
【0043】
(2d)配向アルミナ基板の不純物量
アルミナ焼結体を純度99.9質量%のアルミナ乳鉢で粉砕した後、下記方法により定量分析した。そして、アルミナ焼結体中のNa、Mg、Si、P、Ca、Fe、Ti、Znの質量割合(ppm)を求めた。実験例1のアルミナ焼結体のMg以外の不純物元素は、いずれも検出限界以下であり、Mgが62ppm検出された。
不純物定量方法: JISR1649に準拠した加圧硫酸分解法にて板状アルミナ粉末を溶解し、ICP(誘導結合プラズマ)発光分析装置(日立ハイテクサイエンス製 PS3520UV−DD)にて分析した。
【0044】
表1に実験例A1の焼成方法、焼成温度及び配向アルミナ基板の特性をまとめた。
【0045】
【表1】
【0046】
[実験例A2]
実験例A1において、板状アルミナ粉末として、自社製のものを用いた以外は、実験例A1と同様にして配向アルミナ基板を作製し、その特性を測定した。配向アルミナ基板の特性を表1に示す。
【0047】
自社製の板状アルミナ粉末は、以下のようにして作製した。高純度γ−アルミナ(TM−300D、大明化学製)96質量部と、高純度AlF
3(関東化学製、鹿特級)4質量部と、種結晶として高純度α−アルミナ(TM−DAR、大明化学製、D50=1μm)0.17質量部とを、溶媒をIPA(イソプロピルアルコール)としてφ2mmのアルミナボールを用いて5時間ポットミルで混合した。得られた混合粉末中のF,H,C,S以外の不純物元素の質量割合の合計は1000ppm以下であった。得られた混合原料粉末300gを純度99.5質量%の高純度アルミナ製のさや(容積750cm
3)に入れ、純度99.5質量%の高純度アルミナ製の蓋をして電気炉内でエアフロー中、900℃、3時間熱処理した。エアの流量は25000cc/minとした。熱処理後の粉末を大気中、1150℃で40時間アニール処理した後、φ2mmのアルミナボールを用いて4時間粉砕して平均粒径2μm、平均厚み0.2μm、アスペクト比10の板状アルミナ粉末を得た。粒子の平均粒径、平均厚みは、走査型電子顕微鏡(SEM)で板状アルミナ粉末中の任意の粒子100個を観察して決定した。平均粒径は、粒子の長軸長の平均値、平均厚みは、粒子の短軸長の平均値、アスペクト比は平均粒径/平均厚みである。得られた板状アルミナ粉末は、α−アルミナであった。
【0048】
[実験例A3]
実験例A3において、焼成温度を1900℃とした以外は、実験例A1と同様にして配向アルミナ基板を作製し、その特性を測定した。配向アルミナ基板の特性を表1に示す。
【0049】
[実験例A4]
微細アルミナ粉末(大明化学工業株式会社製、グレードTM−DAR)100質量部に対し、酸化マグネシウム(500A、宇部マテリアルズ製)0.0125質量部(125質量ppm)と、バインダーとしてポリビニルブチラール(品番BM−2、積水化学工業製)7.8質量部と、可塑剤としてジ(2−エチルヘキシル)フタレート(黒金化成製)3.9質量部と、分散剤としてトリオレイン酸ソルビタン(レオドールSP−O30、花王製)2質量部と、分散媒として2−エチルヘキサノールとを加えて混合した。分散媒の量は、スラリー粘度が20000cPとなるように調整した。このようにして調製されたスラリーを、ドクターブレード法によってPETフィルムの上に乾燥後の厚みが40μmとなるようにシート状に成形し、微細アルミナ粉末層とした。
【0050】
市販の板状アルミナ粉末(キンセイマテック製、グレードYFA10030
)100質量部に対し、バインダーとしてポリビニルブチラール(品番BM−2、積水化学工業製)50質量部と、可塑剤としてジ(2−エチルヘキシル)フタレート(黒金化成製)25質量部と、分散剤としてトリオレイン酸ソルビタン(レオドールSP−O30、花王製)2質量部と、分散媒としてキシレンと1−ブタノールの混合溶液(混合比率1:1)とを加えて混合した。分散媒の量は、スラリー粘度が5000cPとなるように調整した。このようにして調製されたスラリーを、リバースドクターブレード法によってPETフィルムの上に乾燥後の厚さが3μmとなるようにシート状に成形し、板状アルミナ粉末層とした。
【0051】
微細アルミナ粉末層と板状アルミナ粉末層を各々直径50mmの円形に切断した後、PETフィルムから剥がし、微細アルミナ粉末層と板状アルミナ粉末層とを各50層、交互に積層し、厚さ10mmのAl板の上に載置した後、パッケージに入れて内部を真空にすることで真空パックとした。この真空パックを85℃の温水中で100kgf/cm
2の圧力にて静水圧プレスを行い、積層体を得た。このとき、板状アルミナ粉末層が微細アルミナ粉末層の表面を被覆する被覆率は60%であった。
【0052】
得られた積層体を実験例A1と同様の方法で脱脂、焼成、加工を行って配向アルミナ基板を作製し、その特性を測定した。配向アルミナ基板の特性を表1に示す。
【0053】
[実験例A5]
微細アルミナ粉末(大明化学工業株式会社製、グレードTM−DAR)99.8質量部、イットリア粉末(信越化学工業株式会社製、グレードUU)0.2質量部を混合し、混合粉末100gに対して溶媒として水50ccの割合で添加し、ボールミルにて40時間混合粉砕し、スラリー化した。得られたスラリーを内径50mmの石膏型に注ぎ、12Tの磁場中で3時間戴置し、鋳込み成形を行った。成形体は石膏から脱型し、室温での乾燥後、黒鉛製の型を用い、ホットプレスにて窒素中1400℃で4時間、面圧200kgf/cm
2の条件で焼成した。得られた焼結体を実験例A1と同様にして加工して配向アルミナ基板を作製し、その特性を測定した。配向アルミナ基板の特性を表1に示す。
【0054】
[実験例A6]
市販の板状アルミナ粉末(キンセイマテック製、グレードYFA10030)を気流分級機(日清エンジニアリング製TC−15N)にてカット点を3μmに設定して分級し、次にポット解砕機にてφ0.3mmの玉石で20時間解砕し、最後に水簸にて微粒粉末を除去した。得られた板状アルミナ粉末0.5質量部と微細アルミナ粉末(大明化学工業株式会社製、グレードTM−DAR)99.5質量部を混合した。更に混合粉末100質量部に対し、酸化マグネシウム(500A、宇部マテリアルズ製)0.0125質量部(125質量ppm)を混合し、調合粉末を得た。調合粉末100gに対して溶媒として水50ccの割合で添加し、ボールミルにて40時間混合粉砕し、スラリー化した。得られたスラリーを内径50mmの石膏型に注ぎ、12Tの磁場中で3時間戴置し、鋳込み成形を行った。成形体は石膏から脱型し、室温での乾燥後、黒鉛製の型を用い、ホットプレスにて窒素中1975℃で4時間、面圧200kgf/cm
2の条件で焼成した。得られた焼結体を実験例A1と同様にして加工して配向アルミナ基板を作製し、その特性を測定した。配向アルミナ基板の特性を表1に示す。
【0055】
[実験例A7]
微細アルミナ粉末(住友化学製、グレードAKP−3000)100質量部に対し、酸化マグネシウム(500A、宇部マテリアルズ製)0.0125質量部(125質量ppm)を混合し、混合粉末100gに対して溶媒として水50ccの割合で添加し、ボールミルにて40時間混合粉砕し、スラリー化した。得られたスラリーを内径50mmの石膏型に注ぎ、10Tの磁場中で3時間戴置し、鋳込み成形を行った。成形体は石膏から脱型し、室温での乾燥後、黒鉛製の型を用い、ホットプレスにて窒素中1975℃で4時間、面圧200kgf/cm
2の条件で焼成した。得られた焼結体を実験例A1と同様にして加工して配向アルミナ基板を作製し、その特性を測定した。配向アルミナ基板の特性を表1に示す。
【0056】
[実験例A8]
スラリーを内径50mmの石膏型に注ぎ、12Tの磁場中で8時間載置し、鋳込み成形を行った以外は、実験例A7と同様にしてアルミナ焼結体を作製した。得られた焼結体を実験例A1と同様にして加工して配向アルミナ基板を作製し、その特性を測定した。配向アルミナ基板の特性を表1に示す。
【0057】
[実験例A9]
実験例A1において、片面加工体の作製方法を以下のように変更した以外は、実験例A4と同様にしてアルミナ焼結体を作製した。
【0058】
実験例A9では、片面加工体を以下のようにして作製した。市販の板状アルミナ粉末(キンセイマテック製、グレードYFA10030)を気流分級機(日清エンジニアリング製TC−15N)にてカット点を3μmに設定して分級し、次にポット解砕機にてφ0.3mmの玉石で20時間解砕し、最後に水簸にて微粒粉末を除去した。得られた板状アルミナ粉末100質量部に対し、バインダーとしてポリビニルブチラール(品番BLS、積水化学工業製)100質量部と、分散剤としてテルピネオール3500質量部を加えて混合し、印刷ペーストを得た。この印刷ペーストを、乳剤付の製版(ST640メッシュ、乳剤厚:5μm)にて、微細アルミナ粉末層の片面に印刷して片面加工体を得た。このときの板状アルミナ粉末層の厚みは0.5μm であった。得られた焼結体を実験例A1と同様にして加工して配向アルミナ基板を作製し、その特性を測定した。配向アルミナ基板の特性を表1に示す。
【0059】
[実験例B1]
(1)発光素子用基板(素子用基板S1)の作製
(1a)種結晶層の成膜
実験例A1で作製した配向アルミナ基板の上に、MOCVD法を用いて、種結晶層を形成した。具体的には、530℃にて低温GaN層を40nm堆積させた後に、1050℃にて厚さ3μmのGaN膜を積層させて種結晶基板を得た。
【0060】
(1b)Naフラックス法によるGaNバッファ層の成膜
上記工程で作製した種結晶基板を、内径80mm、高さ45mmの円筒平底のアルミナ坩堝の底部分に設置し、次いで融液組成物をグローブボックス内で坩堝内に充填した。融液組成物の組成は以下のとおりである。
・金属Ga:60g
・金属Na:60g
【0061】
このアルミナ坩堝を耐熱金属製の容器に入れて密閉した後、結晶育成炉の回転が可能な台上に設置した。窒素雰囲気中で870℃、4.0MPaまで昇温加圧後、10時間保持しつつ
アルミナ坩堝を回転することで、撹拌しながら窒化ガリウム結晶をバッファ層として成長させた。結晶成長終了後、3時間かけて室温まで徐冷し、結晶育成炉から育成容器を取り出した。エタノールを用いて、坩堝内に残った融液組成物を除去し、窒化ガリウム結晶が成長した試料を回収した。得られた試料は、50mmの種結晶基板の全面上に窒化ガリウム結晶が成長しており、結晶の厚さは約0.1mmであった。クラックは確認されなかった。
【0062】
こうして得られた配向アルミナ基板上の窒化ガリウム結晶を、基板ごとセラミックスの定盤に固定し、窒化ガリウム結晶の板面を#600及び#2000の砥石によって研削して板面を平坦にした。次いで、ダイヤモンド砥粒を用いたラップ加工により、窒化ガリウム結晶の板面を平滑化した。このとき、砥粒のサイズを3μmから0.1μmまで段階的に小さくしつつ、平坦性を高めた。窒化ガリウム結晶板面の加工後の平均粗さRaは0.2nmであった。こうして、配向アルミナ基板上に厚み約50μmの窒化ガリウム結晶層を形成した基板を得た。なお、本例では、後述する発光機能層の結晶性を高めるため、このような窒化ガリウムバッファ層を形成したが、目標特性や用途によってはバッファ層自体を省略してもよい。また、窒化ガリウムバッファ層中にゲルマニウム、シリコン、酸素等をドーピングして導電性を持たせた構造としてもよい。
【0063】
(1c)MOCVD法による発光機能層の成膜
MOCVD法を用いて、基板上にn型層として1050℃でSi原子濃度が5×10
18/cm
3になるようにドーピングしたn−GaN層を3μm堆積した。次に活性層として750℃で多重量子井戸層を堆積した。具体的にはInGaNによる2.5nmの井戸層を5層、GaNによる10nmの障壁層を6層にて交互に積層した。次にp型層として950℃でMg原子濃度が1×10
19/cm
3になるようにドーピングしたp−GaNを200nm堆積した。その後、MOCVD装置から取り出し、p型層のMgイオンの活性化処理として、窒素雰囲気中で800℃の熱処理を10分間行い、発光素子用基板を得た。
【0064】
(2)横型発光素子の作製
作製した発光素子用基板の発光機能層側においてフォトリソグラフィープロセスとRIE法とを用い、n型層の一部を露出した。続いて、フォトリソグラフィープロセスと真空蒸着法とを用いて、n型層の露出部分に、カソード電極としてのTi/Al/Ni/Au膜をそれぞれ15nm、70nm、12nm、60nmの厚みでパターニングした。その後、オーム性接触特性を良好なものとするために、窒素雰囲気中での700℃の熱処理を30秒間行った。さらに、フォトリソグラフィープロセスと真空蒸着法とを用いて、p型層に透光性アノード電極としてNi/Au膜をそれぞれ6nm、12nmの厚みにパターニングした。その後、オーム性接触特性を良好なものとするために窒素雰囲気中で500℃の熱処理を30秒間行った。さらに、フォトリソグラフィープロセスと真空蒸着法とを用いて、透光性アノード電極としてのNi/Au膜の上面の一部領域に、アノード電極パッドとなるNi/Au膜をそれぞれ5nm、60nmの厚みにパターニングした。こうして得られたウェハーを切断してチップ化し、さらにリードフレームに実装して、横型構造の発光素子を得た。
【0065】
[実験例B2〜B9]
実験例A2〜A9の配向アルミナ基板を用いて、実験例B1と同様の方法で発光素子用基板を作製した。また、実験例B1と同様の方法で横型構造の発光素子を作製した。
【0066】
[発光素子の評価]
実験例B1〜B9で作製した横型発光素子に対し、カソード電極とアノード電極間に通電し、I−V測定を行ったところ、いずれの試料も整流性が確認された。また、順方向の電流を流したところ、いずれも波長450nmの発光が確認された。発光輝度は実験例B1、B2、B9の素子が著しく高輝度であった。実験例B3、B7の基板を用いた素子も高輝度であるが、実験例B1、B2、B9より輝度がわずかに低下した。実験例B8の基板を用いた素子も高輝度であったが、実験例B3、B7よりわずかに低下した。実験例B4の素子は実験例B8よりも大幅に輝度が低下した。実験例B5、B6の素子は実験例B4より更に輝度が低下した。
【0067】
[実験例C1]
(1)発光素子用基板(素子用基板S2)の作製
(1a)種結晶層の成膜
実験例A1で作製した配向アルミナ基板の上に、MOCVD法を用いて種結晶層を形成した。具体的には、バッファ層としてサセプタ温度530℃、水素雰囲気中にて低温GaN層を30nm堆積させた後に、窒素・水素雰囲気にてサセプタ温度1050℃まで昇温し厚さ3μmのGaN膜を積層させて種結晶基板を得た。
【0068】
(1b)Naフラックス法によるGeドープGaN層の成膜
上記工程で作製した種結晶基板を、内径80mm、高さ45mmの円筒平底のアルミナ坩堝の底部分に設置し、次いで融液組成物をグローブボックス内で坩堝内に充填した。融液組成物の組成は以下のとおりである。
・金属Ga:60g
・金属Na:60g
・四塩化ゲルマニウム:1.85g
【0069】
このアルミナ坩堝を耐熱金属製の容器に入れて密閉した後、結晶育成炉の回転が可能な台上に設置した。窒素雰囲気中で870℃、3.5MPaまで昇温加圧後、100時間保持しつつ溶液を回転することで、撹拌しながら窒化ガリウム結晶を成長させた。結晶成長終了後、3時間かけて室温まで徐冷し、結晶育成炉から育成容器を取り出した。エタノールを用いて、坩堝内に残った融液組成物を除去し、窒化ガリウム結晶が成長した試料を回収した。得られた試料は、50mmの種結晶基板の全面上にGeドープ窒化ガリウム結晶が成長しており、結晶の厚さは約1.4mmであった。クラックは確認されなかった。こうして得られた試料の配向アルミナ基板部を砥石による研削加工により除去して、Geドープ窒化ガリウムの単体を得た。このGeドープ窒化ガリウム結晶の板面を研磨して板面を平坦にした。更に、ラップ加工とCMPを用いて板面を平滑化し、厚さ約500μmのGeドープ多結晶窒化ガリウム自立基板を発光素子用基板として得た。多結晶窒化ガリウム自立基板表面の加工後の平均粗さRaは0.2nmであった。
【0070】
なお、本例では、ゲルマニウムドーピングしてn型半導体としたものを作製したが、用途や構造によっては異なる元素をドーピングしてもよく、ノンドープとしてもよい。
【0071】
(2)発光素子の作製
MOCVD法を用いて、実験例C1で作製した各Geドープ多結晶窒化ガリウム自立基板上にn型層として1050℃でSi原子濃度が5×10
18/cm
3になるようにドーピングしたn−GaN層を1μm堆積した。次に発光層として750℃で多重量子井戸層を堆積した。具体的にはInGaNによる2.5nmの井戸層を5層、GaNによる10nmの障壁層を6層にて交互に積層した。次にp型層として950℃でMg原子濃度が1×10
19/cm
3になるようにドーピングしたp−GaNを200nm堆積した。その後、MOCVD装置から取り出し、p型層のMgイオンの活性化処理として、窒素雰囲気中で800℃の熱処理を10分間行った。
【0072】
次にフォトリソグラフィーと真空蒸着法とを用いて、多結晶窒化ガリウム自立基板のn−GaN層及びp−GaN層とは反対側の面にカソード電極としてのTi/Al/Ni/Au膜をそれぞれ15nm、70nm、12nm、60nmの厚みでパターニングした。その後、オーム性接触特性を良好なものとするために、窒素雰囲気中での700℃の熱処理を30秒間行った。さらに、フォトリソグラフィーと真空蒸着法とを用いて、p型層に透光性アノード電極としてNi/Au膜をそれぞれ6nm、12nmの厚みにパターニングした。その後、オーム性接触特性を良好なものとするために窒素雰囲気中で500℃の熱処理を30秒間行った。さらに、フォトリソグラフィーと真空蒸着法とを用いて、透光性アノード電極としてのNi/Au膜の上面の一部領域に、アノード電極パッドとなるNi/Au膜をそれぞれ5nm、60nmの厚みにパターニングした。こうして得られたウェハーを切断してチップ化し、さらにリードフレームに実装して、縦型構造の発光素子を得た。
【0073】
[実験例C2〜C9]
実験例C2〜C9では、実験例A2〜A9の配向アルミナ基板を用いて、実験例C1と同様の方法で発光素子用基板を作製し、更に実験例C1と同様の方法で縦型構造の発光素子を作製した。
【0074】
[発光素子の評価]
実験例C1〜C9で作製した縦型発光素子に対し、カソード電極とアノード電極間に通電し、I−V測定を行ったところ、いずれの試料も整流性が確認された。また、順方向の電流を流したところ、いずれも波長450nmの発光が確認された。発光輝度は実験例C1、C2、C9の素子が著しく高輝度であった。実験例C3、C7の基板を用いた素子も高輝度であるが、実験例C1、C2、C9より輝度がわずかに低下した。実験例C8の基板を用いた素子も高輝度であったが、実験例C3、C7よりわずかに低下した。実験例C4の素子は実験例C8よりも大幅に輝度が低下した。実験例C5、
C6の素子は実験例C4より更に輝度が低下した。
【0075】
以上説明した実験例のうち、実験例A1〜A3、A7〜A9が本発明の実施例に相当し、実験例A4〜A6が比較例に相当する。なお、本発明は上述した実施例に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0076】
本出願は、2016年7月14日に出願された日本国特許出願第2016−139508号、2016年3月29日に出願された日本国特許出願第2016−66431号、2016年2月25日に出願された日本国特許出願第2016−34005号、2016年1月25日に出願された日本国特許出願第2016−11190号、2015年11月16日に出願された日本国特許出願第2015−224164号、2015年9月30日に出願された日本国特許出願第2015−193943号及び2015年9月30日に出願された日本国特許出願第2015−193944号を優先権主張の基礎としており、引用によりそれらの内容の全てが本明細書に含まれる。