(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
<第一実施形態>
本発明の木質構造部材の一例としての木質柱及びこの木質柱を使用した建物について説明する。なお、鉛直方向をZ方向とし、鉛直方向と直交する水平方向の互いに直交する二方向をX方向及びY方向とする。また、後述する木質柱100の軸方向は、鉛直方向(Z方向)である。
【0014】
(木質柱及び建物の構造)
図1に示すように、建物10は、フラットスラブ構造とされ、下面12Lから梁が突出していないスラブ12が複数の円柱状の木質柱100で支持されている。また、本実施形態のスラブ12は、鉄筋コンクリート製とされている。なお、木質柱100の柱頭部に、スラブ12を受けるコンクリート製のキャピタルが設けられていてもよい。
【0015】
図2及び
図3に示すように、木質柱100は、円柱状の木質の荷重支持部110(
図5も参照)と、荷重支持部110の外側に間隔をあけて配置された円筒状の木質の燃代層130(
図5も参照)と、荷重支持部110と燃代層130との間に石膏Sが充填されて硬化することで形成された円筒状の燃止層120と、の三層構造とされている。
【0016】
円柱状の木質の荷重支持部110は、木質柱100が負担するスラブ12の荷重を支持可能な剛性及び強度を有している。また、本実施形態の荷重支持部110は、複数の板状の木製単材112(
図6参照)を積層し、圧締して一体化された集成材で構成されている。
【0017】
本実施形態の円筒状の燃代層130は、円筒LVL(Laminated Veneer Lumber)である。なお、燃代層130は、円筒LVLでなく、例えば単板積層材(LVL)や直交集成板(CLT(Cross Laminated Timber))を円筒状に加工したものでもよい。
【0018】
燃止層120は、不燃材料である石膏Sで構成されているので不燃であり、また木質の荷重支持部110及び燃代層130よりも熱容量が大きい。なお、燃止層120の中に円筒状の金網が埋設されていてもよい。
【0019】
木質柱100の燃止層120の上面120Uは、燃代層130の上端面130U及び荷重支持部110の上端面110Uよりも若干下側に位置している。よって、木質柱100の上端部100Uには、燃止層120に相当する部位に凹部102が形成されている。
【0020】
そして、木質柱100の上端部100Uの凹部102には、スラブ12を打設する際にコンクリートが充填される。別の観点から説明するとスラブ12の下面12Lから突出する凸部14が木質柱100の上端部100Uの凹部102に係合している。
【0021】
(木質柱の製造(施工)方法)
次に、木質柱100の製造(施工)方法の一例について説明する。
【0022】
先ず、複数の板状の木製単材112(
図6参照)を積層して圧締、すなわち接着剤を塗布した木製単材112に圧力を加えて密着させ、接着剤が充分硬化するのを待って接着を完了することによって、四角柱の集成材を作製する。つぎに、この四角柱の集成材を円柱状に削ることで、
図2及び
図3に示す木質柱100の荷重支持部110を作製する。
【0023】
燃代層130は、板状の直交集成板を棒状の冶具に巻き重ねて円筒状にする。なお、板状の直交集成板を巻き重ねるときに、一層毎に互いに繊維方向が円筒の軸方向に対して左右に傾けて逆巻きにする。
【0024】
図4及び
図5に示すように、円柱状の荷重支持部110を円筒状の燃代層130の中に隙間Tをあけて配置して固定する。なお、荷重支持部110と燃代層130とを隙間Tをあけて固定する方法はどのような方法であってもよい。
【0025】
一例としては、
図4に示す固定冶具50を用いて荷重支持部110と燃代層130とを隙間Tをあけて固定する。固定冶具50は、筒状のリング部52と楔形のスペーサー54とで構成されている。スペーサー54は、円周方向に間隔をあけて複数配置されている。このリング部52の内部に円筒状の燃代層130を配置して固定し、スペーサー54で荷重支持部110と燃代層130との隙間Tを一定にする。
【0026】
そして、
図5に示すように、荷重支持部110と燃代層130との隙間Tに流動状の石膏Sを上から流し込んで充填し、充填後に石膏Sが硬化することで燃止層120が形成される。なお、
図4は、荷重支持部110と燃代層130との隙間Tに流動状の石膏Sが流し込まれて充填されている途中の状態の図である。
【0027】
燃止層120に金網を埋設させる場合は、荷重支持部110と燃代層130との隙間Tに円筒状に加工した金網を設けてから石膏Sを上から流し込んで充填する。
【0028】
(作用及び効果)
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0029】
図4及び
図5に示すように、燃代層130と荷重支持部110との隙間Tに石膏Sを上から流し込んで充填し、石膏Sが硬化することで燃止層120を形成できるので、例えばモルタルバーを接合して燃止層を作製する方法と比較し、施工性が向上する。
【0030】
また、例えば、モルタルバーを接合して燃止層を作製する方法と比較し、軸方向と直交する断面の外形が、円形或いは曲面や複雑な形状の燃止層120を容易に作製することができる。つまり、外形が円形或いは曲面や複雑な形状の木質柱100を容易に作製することができる。
【0031】
また、
図2、
図3及び
図6示されるように、木質柱100は、荷重を支持する荷重支持部110は、燃止層120及び燃代層130によって被覆されている。
【0032】
したがって、火災時には、先ず、最外層の燃代層130が徐々に燃焼して燃止層120の周囲に炭化層(断熱層)132(
図6を参照)を形成する。これにより、燃止層120及び荷重支持部110へ浸入する火災熱が低減される。また、このとき、荷重支持部110及び燃代層130よりも熱容量が大きい燃止層120によって火災熱が吸収(吸熱)され、荷重支持部110に浸入する火災熱がさらに低減される。したがって、荷重支持部110の燃焼が抑制されるため、木質柱100の耐火性能が向上する。
【0033】
更に、不燃材料である石膏Sで構成された燃止層120によって、燃代層130の燃焼を停止(自然鎮火)させることができる。したがって、火災終了後(鎮火後)も荷重支持部110に荷重を支持させることができる。
【0034】
また、石膏Sは硬化する前は、流動状であるので燃代層130と荷重支持部110とに密着する。更に、荷重支持部110及び燃代層130の表面の木目(凹凸)に石膏Sが入り込む。したがって、燃代層130と硬化後の燃止層120との密着性が良いので、燃代層130の燃焼熱が燃止層120に効果的に吸収される。つまり、燃代層130と燃止層120とが密着しておらず微小な隙間が形成されている場合と比較し、燃代層130の燃焼熱を燃止層120に吸収させる熱吸収性能が向上する。
【0035】
また、燃止層120を構成する石膏Sは、多量の結晶水を含んでおり、炎や熱に晒されると、この水が蒸気として空気中に放出されることに伴って熱を吸収する。よって、燃代層130の燃焼熱を燃止層120に吸収させる熱吸収性能が更に向上する。
【0036】
また、燃代層130は筒状とされると共に、軸方向と直交する断面の外形は円形とされている(木質柱100の軸方向と直交する断面の外形が円形とされている)。よって、二方向加熱となる角部がある外形の木質柱(角柱)と比較し、耐火性能が向上する。
【0037】
また、燃止層120に金網を埋設させている場合は、燃焼中の燃止層120の脱落が防止されるので、更に耐火性能が向上する。
【0038】
また、
図3に示すように、スラブ12の下面12Lは、コンクリートを打設する際に木質柱100における石膏Sで構成された燃止層120と密着し、燃止層120と一体化する。また、スラブ12の上面12Uは、石膏Sを流し込んで燃止層120を形成する際に燃止層120と密着し、燃止層120と一体化する。このように、木質柱100の燃止層120とスラブ12とが密着し、連続しているので、燃止層120がスラブ12と非連続である構造と比較し、耐火性能が向上する。
【0039】
また、木質柱100は、前述したように、燃止層120と、燃代層130及び荷重支持部110との密着性が良いので、軸方向と直交する方向の圧縮力や軸方向と直交する方向のせん断力などの応力伝達性能が向上する。
【0040】
(耐火試験)
次に、本実施形態の木質柱100の耐火試験の結果について説明する。なお、耐火試験は、指定性能評価機関(例えば、一般財団法人建材試験センター)の防耐火性能試験・評価業務方法書に準じて行った。
【0041】
図6は、耐火試験後の木質柱100を模式的に図示したものである。この
図6に示すように、木質柱100の燃代層130が燃えて炭化層(断熱層)132を形成する。しかし、燃代層130における燃止層120に密着している内周部分134は燃え残っている。よって、燃代層130は燃止層120に密着することで、燃焼熱が燃止層120に効果的に吸収されることが判る。
【0042】
また、燃止層120は燃焼後も脱落することなく荷重支持部110に密着しているので、燃焼後も荷重支持部110と共に荷重を支持することが可能であることが判る。
【0043】
[木質柱の変形例]
次に、木質柱の変形例について説明する。
【0044】
(第一変形例)
図7に示す第一変形例の木質柱101の燃止層121は、石膏Sが充填され硬化することで形成された燃止部123と、木質の連結部材125とで構成されている。
【0045】
また、荷重支持部110と燃代層130との隙間Tに、連結部材125を配置して接合した状態で、石膏Sを流し込んで充填し、硬化することで燃止部123が形成される。
【0046】
(第二変形例)
図8に示す第二変形例の木質柱200は、略四角柱状の木質の荷重支持部210と、荷重支持部210の外側に間隔をあけて配置された四角筒状の木質の燃代層230と、荷重支持部210と燃代層230との間に石膏Sが充填されて硬化することで形成された略四角筒状の燃止層220と、の三層構造とされている。
【0047】
なお、荷重支持部210の角部212は円弧状とされている。つまり、荷重支持部210の角部212には、所謂角Rが形成されている。
【0048】
また、燃代層230は、四枚の板材(直交集成板)232を接合することで、四角筒状に形成されている。
【0049】
このように第二変形例の木質柱200の燃代層230の軸方向と直交する断面の外形は四角形とされている(木質柱200の軸方向と直交する断面の外形は、四角形とされている)。よって、木質柱200の角部202は二方向加熱となる。
【0050】
しかし、荷重支持部210の角部212には、角Rが形成されているので、その分、燃止層220の角部222の厚みがあつくなる。つまり、角Rが形成されていない場合の厚みL2よりも角Rが形成されている場合の厚みL1の方が厚くなる。よって、二方向加熱となる木質柱200の角部202の耐火性能が向上する。
【0051】
なお、第二変形例の木質柱200でも、第一変形例の木質柱101のように、燃止層220に木質の連結部材125(
図7を参照)を設けてもよい。
【0052】
<第二実施形態>
本発明の木質構造部材の一例としての木質梁について説明する。なお、第一実施形態と同一の部材には同一の符号を付し、重複する内容は簡略化又は省略する。また、木質梁300の軸方向は、Y方向である。
【0053】
(木質梁の構造)
図9に示すように、木質梁300は、四角柱状の木質の荷重支持部310と、荷重支持部310の外側に間隔をあけて配置された略U字状の木質の燃代層330と、荷重支持部310と燃代層330との間に石膏Sが充填されて硬化することで形成された略U字状の燃止層320と、の三層構造とされている。なお、燃止層320の中に略U字状の金網が埋設されていてもよい。
【0054】
木質梁300は、図示されていないコンクリート製のスラブを支持しており、木質梁300の上面300Uはスラブで覆われている。よって、木質梁300の上面300Uの耐火性は、スラブによって確保されるので、荷重支持部310の上面310Uは燃止層320によって覆われていない。
【0055】
(木質梁の製造(施工)方法)
次に、木質梁300の製造(施工)方法の一例について説明する。
【0056】
複数の板状の木製単材112(
図6参照)を積層して圧締、すなわち接着剤を塗布した木製単材112に圧力を加えて密着させ、接着剤が充分硬化するのをまって接着を完了することによって、木質梁300の荷重支持部310を作製する。
【0057】
また、3枚の板材(直交集成板)332を略U字状に接合し、燃代層330を作製する。
【0058】
そして、四角柱状の荷重支持部310をU字形状の燃代層330の中に隙間Tをあけて配置して固定する。なお、荷重支持部310と燃代層330とを隙間Tをあけて固定する方法はどのような方法であってもよい。
【0059】
一例として、
図9に示すように、端面を木質又は鋼製で板状の固定部材350で固定し且つ上面を木質又は鋼製で板状の固定部材352で固定すると共に、楔形のスペーサー354を隙間Tに打ち込むことで、荷重支持部310と燃代層330とを隙間Tをあけて固定する。
【0060】
そして、荷重支持部310と燃代層330との隙間Tに流動状の石膏Sを上から流し込んで充填し、充填後に石膏Sが硬化することで燃止層320が作製される。
【0061】
なお、燃止層320に金網を埋設させる場合は、荷重支持部310と燃代層330との隙間Tに金網を設けてから石膏Sを上から流し込んで充填する。
【0062】
(作用及び効果)
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0063】
燃代層330と荷重支持部310との隙間Tに石膏Sを上から流し込んで充填し、石膏Sが硬化することで燃止層320を製作できるので、例えばモルタルバーを接合して燃止層を作製する方法と比較し、施工性が向上する。
【0064】
木質梁300は、荷重を支持する荷重支持部310が燃止層320及び燃代層330によって被覆されており、燃代層330が燃焼して燃止層320の周囲に炭化層(断熱層)132(
図6を参照)を形成することで、燃止層320及び荷重支持部310へ浸入する火災熱が低減される。また、燃止層120によって火災熱が吸収(吸熱)される。したがって、荷重支持部310の燃焼が抑制されるため、木質梁300の耐火性能が向上する。
【0065】
更に、不燃材料である石膏Sで構成された燃止層320によって、燃代層330の燃焼を停止(自然鎮火)させることができるので、火災終了後(鎮火後)も荷重支持部310に荷重を支持させることができる。
【0066】
また、燃代層330と硬化後の燃止層320との密着性が良いので、燃代層330の燃焼熱が燃止層320に効果的に吸収される。
【0067】
また、燃止層320を構成する石膏Sは、多量の結晶水を含んでおり、炎や熱に晒されると、この水が蒸気として空気中に放出されることに伴って熱を吸収する。よって、燃代層330の燃焼熱を燃止層320に吸収させる熱吸収性能が更に向上する。
【0068】
このような構造により木質梁300の耐火性能が向上する。なお、前述したように、木質梁300の上面300Uの耐火性は、図示していないスラブによって確保される。
【0069】
なお、第一実施形態の第一変形例の木質柱101(
図7を参照)のように、燃止層320に木質の連結部材125(
図7を参照)を設けてもよい。また、第一実施形態の第二変形例の木質柱200(
図8を参照)のように、荷重支持部310の下側の角部に角Rを形成してもよい。
【0070】
<その他>
尚、本発明は上記実施形態に限定されない。
【0071】
上記実施形態では、荷重支持部110、210、310と燃代層130、230、330との間に充填されて硬化する充填材は石膏Sであったが、これに限定されない。例えば、グラウト材、コンクリート、モルタル及び繊維補強コンクリートであってもよい。
【0072】
なお、グラウト材は流動性に優れているので、荷重支持部と燃代層との間への充填効率が向上する。また、グラウト材は硬化による収縮が小さく、木質構造部材の燃代層と燃止層との密着性が良いので、燃代層の燃焼熱が燃止層に効果的に吸収される。
【0073】
或いは、不燃ではないが、荷重支持部110、210、310よりも着火温度が高い充填材、例えば樹脂製のコーキング材であってもよい。要は、不燃材料又は荷重支持部よりも着火温度が高い材料で構成された充填材であればよい。
【0074】
また、木質の荷重支持部及び木質の燃代層は、木材によって構成されていればよい。例えば、米松、唐松、檜、杉及びあすなろ等の一般の木造建築に用いられる木材を用いることができる。
【0075】
更に、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得ることは言うまでもない