(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6684895
(24)【登録日】2020年4月1日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】研磨工具及びこの種の研磨工具の製造方法
(51)【国際特許分類】
B24D 13/04 20060101AFI20200413BHJP
B24D 3/00 20060101ALI20200413BHJP
【FI】
B24D13/04
B24D3/00 340
【請求項の数】12
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-508653(P2018-508653)
(86)(22)【出願日】2015年8月21日
(65)【公表番号】特表2018-528866(P2018-528866A)
(43)【公表日】2018年10月4日
(86)【国際出願番号】EP2015069267
(87)【国際公開番号】WO2017032396
(87)【国際公開日】20170302
【審査請求日】2018年8月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】510270063
【氏名又は名称】アウグスト リュッゲベルク ゲーエムベーハー ウント コンパニー カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100154612
【弁理士】
【氏名又は名称】今井 秀樹
(74)【代理人】
【識別番号】100091867
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 アキラ
(72)【発明者】
【氏名】ベルント シュトゥッケンホルツ
(72)【発明者】
【氏名】ペーター ウォルダー
【審査官】
山村 和人
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−287167(JP,A)
【文献】
特表2014−508046(JP,A)
【文献】
特開平10−217130(JP,A)
【文献】
特開平10−180637(JP,A)
【文献】
特開昭62−188675(JP,A)
【文献】
特開昭64−016376(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2003/0134584(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24D 13/04
B24D 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体(2)と、
複数の研磨フラップ(8)とを備え、前記研磨フラップは前記支持体(2)上に配置され、それぞれ基材(16)及び研磨材料(22)を有し、前記研磨材料(22)はバインダー(23)によって前記基材(16)に取り付けられる研磨工具において、
前記研磨フラップ(8)の少なくとも1つは補強及び周期的な撓曲を減らすために硬化した充填樹脂(25)を有し、
それぞれの前記基材(16)は、前記充填樹脂(25)で含浸される少なくとも1本の糸(19、20)を備えることを特徴とする研磨工具。
【請求項2】
前記硬化した充填樹脂(25)は1つの研磨フラップ(8)の全重量の1重量%〜30重量%を構成することを特徴とする請求項1記載の研磨工具。
【請求項3】
前記硬化した充填樹脂(25)は1つの研磨フラップ(8)の全重量の5重量%〜25重量%を構成することを特徴とする請求項1記載の研磨工具。
【請求項4】
前記硬化した充填樹脂(25)は1つの研磨フラップ(8)の全重量の8重量%〜20重量%を構成することを特徴とする請求項1記載の研磨工具。
【請求項5】
少なくとも1つの強度強化充填剤(29)が前記硬化した充填樹脂(25)に取り入れられることを特徴とする請求項1乃至請求項4何れか1項記載の研磨工具。
【請求項6】
研磨作用を有する少なくとも1つの充填剤(30)が前記硬化した充填樹脂(25)に取り入れられることを特徴とする請求項1乃至請求項5何れか1項記載の研磨工具。
【請求項7】
前記支持体(2)は皿状のデザインであり、前記研磨フラップ(8)は互いに重なり合うように前記支持体(2)上に横方向に結合されることを特徴とする請求項1乃至請求項6何れか1項記載の研磨工具。
【請求項8】
それぞれ基材(16)及び研磨材料(22)を有する複数の研磨フラップ(8)を設けて前記研磨材料(22)をバインダー(23)によって前記基材(16)に取付ける工程と、
前記研磨フラップ(8)を支持体(2)上に配置し固定する工程と、
複数の前記基材(16)を充填樹脂(25)に浸し、前記研磨フラップ(8)が前記支持体(2)上に配置される後に、複数の前記基材(16)が前記充填樹脂(25)で含浸される工程と、
前記充填樹脂(25)を硬化させ、複数の前記研磨フラップ(8)を補強し、複数の前記研磨フラップ(8)の周期的な撓曲を低減する工程とから成ることを特徴とする研磨工具の製造方法。
【請求項9】
前記研磨フラップ(8)は充填樹脂(25)を含む浴槽内に浸漬されることを特徴とする請求項8記載の製造方法。
【請求項10】
前記研磨フラップ(8)が充填樹脂(25)を含む浴槽内に浸漬されている間、前記支持体(2)が回転することを特徴とする請求項9記載の製造方法。
【請求項11】
前記研磨フラップ(8)は、それぞれの前記研磨フラップ(8)が前記充填樹脂(25)に一時的にのみ浸漬するように、前記充填樹脂(25)を含む前記浴槽内に浸漬されることを特徴とする請求項10記載の製造方法。
【請求項12】
強度強化充填剤(29)及び/又は研磨作用を有する充填剤(30)の少なくとも1つは前記充填樹脂(25)に混合されることを特徴とする請求項8乃至請求項11何れか1項記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1のプリアンブルにしたがう研磨工具に関する。さらに、本発明は研磨工具の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(EP 2 153 939 A1)は研磨フラップディスクの形態の研磨工具を開示している。使用される研磨フラップは基材上に研磨材料を設けることで製造される。基材は研磨プロセスの間に摩耗し、したがって基材に付着する使用された研磨材料が取り除かれ、新しい研磨材料が繰り返し研磨係合状態にするように取り替えられる。ワークピースの機械加工において研磨工具の完全な摩耗時点まで耐用期間が長くなればなるほど、また全体的な材料削減がより大きくなればなるほど研磨工具の使用は全面的により経済的である。
【0003】
研磨フラップディスクは特許文献2(DE 90 02 385 U1)により知られており、基材プレートとそれに固定される研磨フラップを備えている。研磨フラップは基材プレートの縁部上に延在している。目の粗いメッシュが基材プレートと研磨フラップの間の接着接合部に挿入され、これは基材プレートの縁部上に延在している。研磨フラップ及びメッシュの一部は基材プレート上に延在して環状領域を形成する。環状領域において、研磨材料を含む硬化したポリマーの環状層は基材プレート上の研磨フラップを支持し、それらを基材プレートに固定する。
【0004】
研磨フラップディスクは特許文献3(US 2003/0 134 584 A1)により知られており、研磨フラップは工具担持体上に配置されている。工具担持体はバインダー中に結合されて、安定化される繊維を含んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】EP 2 153 939 A1
【特許文献2】DE 90 02 385 U1
【特許文献3】US 2003/0 134 584 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の基本的目的は、より長い耐用期間及びより大きな全体的な材料削減をもたらす研磨工具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的は、請求項1の特徴を有する研磨工具によって達成される。従来技術の研磨工具上に設けられる研磨フラップは著しい周期的な撓曲を受けることが認識されている。研磨フラップの周期的な撓曲はワークピースの機械加工中の研磨工具の回転及び一定数の隣接する研磨フラップの研磨係合に起因する。研磨フラップの周期的な撓曲、ひいては負荷の大きさ(程度)は、機械加工されるワークピースの表面に対する研磨工具の傾斜した位置決め、機械加工されるワークピースの幅、研磨工具の回転速度及び外径、研磨フラップが研磨プロセスにおいてワークピース表面に対して直交して押圧される接触力に依存する。研磨フラップの著しい周期的な撓曲のために、研磨粒子又は砥粒の形態である研磨材料は、研磨材料が磨耗し、かつ母材削減可能性を達成する前に基材から引き裂かれる。さらに、研摩材料層は引き裂かれた研摩材、即ち引き裂かれた研磨粒子又は砥粒によって弱体化される。隣接する研摩粒子がもはや互いに支持することができないからである。これは、特に研磨フラップの両端に配置された最終研磨粒子の場合には早すぎる破損につながり、これらの粒子は片側のみに支持される。したがって、全体として、研磨フラップの著しい周期的な撓曲は、研磨工具の耐用期間及び全体的な材料削減を著しく低下させる。
【0008】
研磨フラップを補強することは、従来技術と比較して、周期的な撓曲を大幅に減少させる。したがって、それぞれの研磨工具のより長い耐用期間及び全体的な材料削減が達成される。より長い耐用期間及びより大きい全体的な材料削減が基材の摩耗量を増加させることなく達成される。基材上の研磨材料の場合、基材を研磨プロセス中に使用された研磨材料とともに削減することはけば立てることによって起こる。けば立てることは基材を塵埃粒子又は小さな繊維又は繊維束に細分化させることを意味する。全体的な研磨工具の質量に対する細分化した基材の質量は基材上の摩耗量として規定される。基材上での大きな摩耗量は不利である。呼吸可能な塵埃粒子がそれにより生成されるからである。本発明にしたがう研磨工具の場合には増加した摩耗量が回避される。摩耗量は同じ種類の従来技術の研磨工具に対して少なくとも一定である。研磨フラップを補強することにより、基材上の摩耗量の全体的な材料削減に対する比率を減少する。研磨工具の全体的な材料削減及び耐用期間は可変的に増加する。
【0009】
研磨フラップは、研磨フラップに充填樹脂を充填し、次いで充填樹脂を硬化させることによって補強される。充填樹脂は、例えば熱硬化性樹脂、エラストマー、合成樹脂及び/又は熱可塑性樹脂及びそれらの組み合わせから成るグループから選択される。充填樹脂は好ましくは熱硬化性樹脂、例えばフェノール樹脂である。例えば、フェノール樹脂はレゾール又はノボラックである。研磨フラップの永続的な強化を確実にするために、充填樹脂は限界温度以下での軟化挙動を示すものであってはならない。これは、例えば、充填樹脂が限界温度に達するとき、充填樹脂は最大許容強度損失を超えない室温に対して強度損失を受けることを意味する。限界温度及び最大許容強度損失は研磨フラップの所望の補強程度に依存する。
【0010】
本発明にしたがう研磨工具の場合、研磨フラップの少なくとも1つは硬化した充填樹脂を有する。好ましくは、複数の研磨フラップは、支持体上に固定された研磨フラップの特に少なくとも30%、特に少なくとも50%、特に少なくとも60%硬化した充填樹脂を有する。例えば、支持体上に配置された全ての研磨フラップは硬化した充填樹脂を有する。
【0011】
本発明にしたがう研磨工具は、例えば研磨フラップディスク、研磨フラップホイール又はシャフトを備えた研磨フラップホイールとしてデザインされている。研削工具は中心軸線を有し、工具駆動装置によって中心軸線の周りに回転駆動されワークピースを機械加工する。研磨フラップの補強は研磨フラップの周期的な撓曲を減少させ、それにより耐用期間及び全体的な材料削減を増加させる。
【0012】
研磨工具は、簡便な方法でより長い耐用期間及びより大きな全体的な材料削減を保証する。それぞれの研磨フラップの基材には充填樹脂が充填又は詰められて、その後充填樹脂は硬化し、研磨フラップは簡便かつ効果的に強化することができる。好ましくは、基材中には硬化充填樹脂が少なくとも70重量%、特に少なくとも80重量%、特に少なくとも90重量%、特に100重量%存在する。
【0013】
それぞれの基材は、少なくとも1本の糸から成る支持布材を有する。支持布材は、例えば縦糸及び横糸から形成される織布の形態の支持布材としてデザインされる。支持布材は、充填樹脂によって充填又は詰められる少なくとも1本の糸を有する。充填樹脂の硬化後、その少なくとも1本の糸が補強される。例えば、織布の場合、縦糸及び横糸が強化される。したがって、支持布材は高い剛性又は曲げ剛性を有し、その結果、それぞれの研磨フラップの撓曲が研磨プロセスにおいて大きく減少する。
【0014】
請求項2〜4に記載の研磨工具は、効果的な補強、したがってより長い耐用期間及びより大きな全体的な材料削減を保証する。
【0015】
請求項5に記載の研磨工具は、増加された剛性、したがってより長い耐用期間及びより大きな材料削減を確実にする。少なくとも1つの強度増強充填剤は、例えばファイバー、小片及び/又は球体の形態である。繊維状充填剤の例は、ガラスファイバー、カーボンファイバー、合成ファイバー、セルロース、ウォラストナイト及びウィスカーである。ウィスカーという用語は針状単結晶を指す。例えば、アンチモン、カドミウム、インジウム、亜鉛及びスズの材料は、ウィスカーを形成する傾向がある(例えば、R.J.Klein Wassink: Weichloetenin der Elektronik (Soldering in Electronics), Eugen G. Leuze Verlag, 1991, 305〜306頁参照)。
【0016】
小片の形態の充填剤の例はマイカ、タルク及びグラファイトである。球形の充填剤の例は石英、シリカ、カオリン、ガラス球、炭酸カルシウム、金属酸化物及びカーボンブラックである。適切な強度増強充填剤の例はチョーク及びアルミナ(Al
2O
3)である。
【0017】
請求項6に記載の研磨工具は、より長い耐用期間及びより大きな全体的な材料削減を保証する。研磨作用を有する少なくとも1つの充填剤によって、研磨フラップの研磨特性は、特定の用途のために選択的に改善及び/又は調整される。研磨作用を有する充填剤の例は、氷晶石及び四フッ化ホウ酸カリウム(KBF
4)である。研磨作用を有する少なくとも1つの充填剤は、例えばナノスケール範囲の粒子サイズを有する。
【0018】
請求項7に記載の研磨工具によって、より長い耐用期間及びより大きな全体的な材料削減を有する研磨フラップディスクが提供される。
【0019】
更に、本発明の基本的な目的は、より長い耐用期間及びより大きな全体的な材料削減を有する研磨工具の製造方法を提供することである。
【0020】
この目的は、
請求項8の特徴を有する方法によって達成される。本発明にしたがう方法の利点は、本発明にしたがう研磨工具の既述の利点に対応する。特に、本発明にしたがう方法は、
請求項1〜7の何れか1項に記載の特徴によっても形成することができる。研磨フラップには硬化する充填樹脂が充填されているので、研磨フラップは効果的な態様で補強される。研磨フラップの補強はワークピースの機械加工中のその周期的な撓曲を著しく減少させ、それにより耐用期間及び全体的な材料削減を増加させる。研磨フラップは、例えば接着剤結合、ラミネーション又は浸漬によって充填樹脂が充填される。研磨フラップは、研磨フラップが支持体上に配置又は固定される後に、充填樹脂が充填される。この方法は、研磨フラップの補強を保証する簡単な手段である。研磨フラップが最初に支持体上に配置され、次いで充填樹脂が充填されることにより、多数の研磨フラップを充填樹脂で充填し、所望の態様で強化することができる。例えば、支持体上に配置された研磨フラップは充填樹脂を含む浴槽中に所望の位置決めで浸漬される。特に、研磨フラップは、基本的に研磨材料を吸収するそれぞれの基材であり、及び/又は研磨材料及び研磨材料層が充填樹脂によって通常完全に覆われないように充填樹脂が充填されている。それぞれの基材は、好ましくは充填樹脂が詰められ、上記樹脂を吸収する支持布材を含んでいる。合成樹脂を硬化させた後、支持布材は強化され、即ち増加した曲げ剛性を有する。充填樹脂は、好ましくは例えば炉から熱を供給することによって硬化される。
【0021】
請求項9に記載の方法は、より長い耐用期間及びより大きな全体的な材料削減をもたせて研磨工具の製造を保証する簡便な手段である。研磨フラップを充填樹脂を含む槽浴に浸漬することによって、研磨フラップ、特にそれぞれの基材は簡便な態様で充填樹脂が詰められる。研磨フラップは、好ましくは充填樹脂は重力による基材からよりも研磨材料から滴り落ちる態様で充填樹脂の槽浴に浸漬される。例えば、研磨フラップは、研磨材料が重力方向に配向され、基材が重力に対して逆向きに配向されるように充填樹脂の槽浴に浸漬される。これは基本的に基材は充填樹脂が詰められることを保証する。
【0022】
請求項10、11に記載の方法は、研磨フラップは充填樹脂が充填されることを保証する簡便な手段である。支持体が回転して研磨フラップが充填樹脂の槽浴に浸漬されていることにより、研磨フラップは充填樹脂が均一に充填され又は詰められる。研磨フラップは、好ましくはそれぞれの研磨フラップが一時的にのみ浸漬される態様で充填樹脂の槽浴に浸漬される。これにより、それぞれの研磨フラップが充填樹脂で充填され又は詰められ、浸漬されながら、充填樹脂はその充填樹脂の槽浴の外側に研磨材料又は研磨材料層を垂れ落とすことになる。それぞれの研磨フラップは、好ましくは支持体の回転中に数回充填樹脂槽浴に浸漬される。これにより、それぞれの研磨フラップ又はそれぞれの研磨フラップの基材は、それが充填樹脂で飽和されるまで実質的に詰められる。
【0023】
請求項12に記載の方法は、研磨フラップの剛性及び/又は研磨特性を設定する簡便な手段である。
【0024】
本発明の他の特徴、利点及び詳細は、幾つかの実施例について以下の説明から図面を参照して明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、支持体及びこれに配置される研磨フラップを有する研磨フラップディスクとしてデザインされる研磨工具の斜視図を示し、複数の研磨フラップが図示省略されて研磨フラップディスクの構造を図示している。
【
図2】
図2は、第1の実施例にしたがう
図1における研磨フラップディスクの研磨フラップを通る断面図を示す。
【
図3】
図3は、研磨フラップに充填樹脂を供給するための浸漬(ディッピング)プロセスの概略図を示す。
【
図4】
図4は、顕微鏡で50倍に拡大された充填樹脂を供給する前の研磨フラップを通る断面図を示す。
【
図5】
図5は、顕微鏡で50倍に拡大された充填樹脂が供給された後の研磨フラップを通る断面図を示す。
【
図6】
図6は、ワークピースの機械加工中の研磨フラップディスクの概略図及び研磨フラップディスクの回転角度に応じた研磨フラップの撓曲を示す。
【
図7】
図7は、第2の実施例にしたがう研磨フラップを通る断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明にしたがう研磨工具及びこの種の研磨工具の製造方法における実施の形態について図面を参照して詳述する。
【0027】
本発明の第1の実施例は
図1〜6を参照して以下に説明される。研磨フラップディスクとしてデザインされた研磨工具1は皿形状デザインの支持体2を有する。支持体2は、外側環状リム領域3及びハブ4を備え、環状ウェブ5によって連結されている。ハブ4は同心の円形開口部6を有し、支持体2をクランプし、工具駆動装置(明示せず)によって中心軸線7の周りに回転させるために使用される。
【0028】
リム領域3は研磨フラップ8を収容するために使用される。研磨フラップ8は、リム領域3上に、即ち横方向(外側方向)に支持体2上に互いに重なり合うように接着剤層9によって固定(結合、接着)される。研磨フラップ8は支持体2上に等角度間隔で配置されている。研磨フラップ8は、何れの場合にも中心軸線7の周りの回転方向10で見て被後引縁11及び先導縁12を有する。研磨フラップ8の各々は研磨作用を有する領域13を形成し、この領域13は被後引縁11から回転方向10の前方に配置される研磨フラップ8の被後引縁11’まで延在している。それぞれの先導縁12は回転方向10の前方に配置される研磨フラップ8によって覆われる。研磨フラップ8は矩形状のデザインであり、それぞれ中心軸線7に向面する内縁14及び中心軸線7から離れる方向に向面する外縁15を有する。研磨工具1の外径Dは研磨フラップ8の外縁15によって規定される。
【0029】
それぞれの研磨フラップ8は基材16を有し、基材16に研磨材料層17が着層されている。基材16は縦糸19及び横糸20から形成される織布の形態の支持布材18から成る。研磨材料層17から離れる方向に向面する側に、基材16は被覆層21を有し、これはバックコートと称される。支持布材18は被覆層21に接合され、これは例えばポリマー分散液から成り、乾燥によって硬化される。支持布材18は例えばポリエステル又は綿で構成され、一方、ポリマー分散液は一般に樹脂及び/又はプラスチック分散液からなる。
【0030】
研磨材料層17は研磨材料22から成り、これはバインダー23によって基材16上に固定されている。研磨材料22は研磨粒子又は研磨砥粒の形態であり、これはバインダー23内に支持砥粒24とともに取り入れられている。バインダー23は例えばバインダー樹脂としてデザインされている。バインダー樹脂23及び充填樹脂25は同一でも異なっていてもよい。
【0031】
補強のために、研磨フラップ8は硬化した充填樹脂25を有する。充填樹脂25はそれぞれの基材16内に及び/又は基材16上に配置される。支持布材18の縦糸19及び横糸20は好ましくは充填樹脂25が充填されて、充填樹脂25の硬化により補強される。基材16は例えば充填或いは含浸され、即ち全体含浸が行われ、特にローラー対によって発生される圧搾力によって100%までの浸透がもたらされ、その後乾燥される。
【0032】
硬化した充填樹脂25は、研磨フラップ8の全重量の1重量%〜30重量%、特に5重量%〜25重量%、特に8重量%〜20重量%を構成する。
【0033】
本発明にしたがう研磨工具1は以下のようにして製造される。
【0034】
充填樹脂25を硬化させる前に、以下、未完成の研磨工具を符号1’で示す。充填樹脂25を含む浴槽は容器26内に準備される。研磨工具1’は、中心軸線7が充填樹脂25の表面27に対して角度αを取り囲んで研磨フラップ8の浸漬がされるように傾斜される。角度αについては、好ましくは次式が適用される。
【0035】
α<90°、特にα≦85°、特にα≦80°
研磨ツール1’は、充填樹脂25を含む浴槽に対して、充填樹脂25に最も近い研磨フラップ8が樹脂に浸漬するように配置され、研磨フラップ8に接続された支持体2が樹脂に浸漬するのではない。研磨ツール1’は中心軸線7の周りに、好ましくは回転方向10に回転され、その結果、研磨フラップ8は連続して複数回浴槽内に浸漬し、浴槽から抜け出る。これを
図3に示す。
【0036】
充填樹脂25内への研磨フラップ8の多重浸漬により、これらのフラップには充填樹脂25が充填される。充填樹脂25は本質的にそれぞれの基材16内に浸透する。対照的に、充填樹脂25は本質的に再び研磨材料層17から滴垂し、その結果、砥粒22は充填樹脂25によって覆われることはない。
【0037】
研磨フラップ8に充填樹脂25が充填された後、樹脂は硬化される。硬化は、好ましくは例えば炉により熱を供給することによって達成される。本発明にしたがう研磨工具1は硬化プロセスによって製造又は仕上げられる。硬化した充填樹脂25によって、研磨フラップ8は剛性を増大する。
【0038】
図4は顕微鏡で50倍に拡大された未完成の研磨工具1’の研磨フラップ8を通る断面を示し、一方、
図5は顕微鏡で50倍に拡大された本発明にしたがう研磨工具1の強化研磨フラップ8を通る断面を示す。
図4と
図5とを比較すると、基材16に充填樹脂25が特に被覆層21及び隣接する支持布材18の領域に充填されていることを示している。
【0039】
充填樹脂25は、例えば熱硬化性樹脂、エラストマー、合成樹脂及び/又は熱可塑性樹脂及びそれらの組み合わせから成るグループから選択することができる。例えば、充填樹脂25は合成樹脂好ましくはフェノール樹脂である。硬化した充填樹脂25は、例えば70℃の限界温度以下の軟化挙動を呈しないものとすべきである。例えば、その強度は、例えば20℃の室温での強度に比べて10%以下の制限温度以下に低減すべきである。プラスチックの性質、例えば温度の関数として弾性係数の挙動は基本的に知られている(Peter Eyerer, Thomas Hirth, Peter Elsner:Polymer Engineering, Springer-Verlag, 2008, 頁4及び頁5参照)。
【0040】
本発明にしたがう研磨工具1の使用態様が
図6に示されている。ワークピース28は幅bを有し、研磨工具1によって機械加工される。ワークピース28の機械加工の間、係合領域E内にある研磨フラップ8はワークピース28と研磨係合状態にある。係合領域Eは係合角δによって規定される。係合角度δはワークピース28の幅bに依存する。ゼロ位置A
0から出発して、研磨フラップ8の被後引縁11は研磨係合に因り負の方向及び正の方向に周期的に撓曲される。ゼロ位置A
0はワークピース28と接触していないときの研磨工具1の回転状態における研磨フラップ8の被後引縁11の位置を示す。したがって、ゼロ位置A
0は中心軸線7の周りでの回転研磨工具1の回転速度及び外径Dに依存する。
【0041】
図6に示される撓曲Aは、回転角度φの関数として、加工されるワークピース表面に直交するそれぞれの研磨フラップ8の被後引縁11の撓曲を表す。研磨フラップ8は、それらがワークピース28を横切ってブラッシングするとき、その角度位置に応じて負の方向、即ち支持体2の方向に曲げられる。撓曲は角度位置Aにおけるワークピース28の縁の前でも開始する。何故なら、先導研磨フラップ8の撓曲が被後引研磨フラップ8への接触によって伝達されるからである。係合領域Eにおいて、負の方向の撓曲は最大である。これはA
maxによって示される。それぞれの研磨フラップ8とワークピース28との間の接触が終了した後、それはゼロ位置A
0に再び達する前に元に揺動し、オーバシュートにより正の方向に撓曲する。オーバーシュート中の正方向の最大撓曲をA
Fで示す。角度位置Bはオーバーシュート後にゼロ位置A
0に達する点を示す。
【0042】
オーバーシュート中の最大撓曲A
max及び撓曲A
Fは、ワークピース28の機械加工に因って研磨フラップ8の剛性及びその負荷に依存する。研磨フラップ8の負荷は、研磨工具1が機械加工すべきワークピース表面に対して位置決めされる角度、ワークピース28の幅b、研磨係合状態に同時に配置される研磨フラップ8の数、研磨工具1の接触力、即ち研摩材フラップ8が研削加工プロセスにおいてワークピース表面上に直交して押し付けられる力、回転速度及び研磨工具1の外径Dに依存する。負荷が大きいほど、傾斜位置決め、接触力、回転速度及び外径が大きくなり、ワークピース28の幅bが小さくなる。
【0043】
図6において、従来技術にしたがう研磨工具の場合の同じ荷重条件の撓曲が比較目的のために破線のように示されている。最大の負撓曲はA’
maxで示され、オーバーシュート中の最大撓曲はA’
Fによって示される。本発明にしたがう研磨工具1の場合の最大の撓曲A
max及びA
Fは著しく少なく、したがって本発明にしたがう研磨工具1は完全に摩耗してしまうまでより長い耐用期間及びより大きい全体的な材料削減をもたらすことが分かる。特に、より長い耐用期間及びより大きい全体的な材料削減は基材16及び/又は支持布材18の摩耗量を増加させることによって達成されない。これにより、塵埃粒子を呼吸で吸い込む割合の増加することが回避される。
【0044】
以下、本発明の第2の実施例について
図7を参照して説明する。第1の実施例とは対照的に、充填樹脂25は強度強化充填剤29及び/又は研磨作用を有する充填剤30を有する。強度強化充填剤29は基材16内及び/又は基材16上に配置される。強度強化充填剤29は例えばチョーク又はアルミナである。強度強化充填剤29は、前述の実施例にしたがって
図3を参照して説明されたように、充填樹脂25を含む浴槽内に混合され、その結果、基材16には充填樹脂25及び加えて強度強化充填剤29が充填される。代替的又は追加的に、研磨作用を有する充填剤30が充填樹脂25に混合される。研磨作用を有する充填剤30は例えば氷晶石及び四フッ化ホウ酸カリウムである。充填樹脂25は好ましくは強度強化充填剤29及び研磨作用を有する充填剤30を含んでいる。他の事項における研磨工具1の構成及び製造に関しては前述の実施例に留意すべきである。