(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
エイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)などの高度不飽和脂肪酸は、近年その薬理効果が明らかとなり、医薬品や健康食品の原料として利用されている。これらの高度不飽和脂肪酸は、二重結合を複数有するため、化学合成によって得ることは容易ではない。したがって、工業利用される高度不飽和脂肪酸のほとんどは、高度不飽和脂肪酸を豊富に含む海洋生物由来原料、例えば魚油などから抽出または精製することによって製造されている。しかしながら、生物由来原料は、炭素数、二重結合の数や位置、さらには立体異性体の構成比などが異なる多種の脂肪酸の混合物であるため、高度不飽和脂肪酸の含有量は必ずしも高くない。そのため従来、生物由来原料から目的の高度不飽和脂肪酸を選択的に精製することが求められていた。
【0003】
特許文献1には、高度不飽和脂肪酸またはそのアルキルエステルを含む原料を、薄膜蒸留法、超臨界ガス抽出法および尿素付加法により処理する際に、薄膜蒸留法より後に超臨界ガス抽出法を行うことによる高度不飽和脂肪酸またはそのアルキルエステルの精製方法が記載されている。
【0004】
特許文献2には、EPA等の高度不飽和脂肪酸を含む原料を真空精密蒸留処理し、得られたEPAやその低級アルコールエステルを含む留分を、硝酸銀水溶液と混合することにより、高純度エイコサペンタエン酸又はその低級アルコールエステルを精製する方法が記載されている。当該真空精密蒸留の条件は、圧力5mmHg(665Pa)以下、好ましくは1mmHg(133Pa)以下で、215℃以下、好ましくは210℃以下であることが記載されている。
【0005】
さらに特許文献3には、高度不飽和脂肪酸またはそのアルキルエステルを含む原料を、3段以上の蒸留塔を用いて段階的に蒸留することによる、濃度80%以上のエイコサペンタエン酸またはそのエステルを製造する方法が記載されている。当該蒸留の条件は、10Torr(1330Pa)以下、好ましくは0.1Torr(13.3Pa)以下で、210℃以下、好ましくは195℃以下であることが記載されている。
【0006】
しかしながら、医薬品や健康食品の原料として、上記従来の方法で得られるものよりもさらに高い濃度及び純度を有する高度不飽和脂肪酸が求められている。
【0007】
高度不飽和脂肪酸には、シスおよびトランス型の異性体が存在する。生体内の高度不飽和脂肪酸はほとんどがシスであるが、生物由来原料からの精製の段階で、加熱などにより、シス体からトランス体に変換されることがある(非特許文献1)。したがって従来、生物由来原料から工業的に精製された高度不飽和脂肪酸は、ある程度の量のトランス異性体を含有する。しかしながら、トランス脂肪酸は、健康へのリスク、特にLDLコレステロール値を上昇させ、心血管疾患のリスクを高めることが報告されている。米国やカナダでは、食品に対しトランス脂肪酸の含有量の表示が義務付けられている。
【0008】
したがって、医薬品や健康食品の原料として、目的の高度不飽和脂肪酸を高濃度に含むだけでなく、トランス脂肪酸の含有量が可能な限り低く抑えられた高度不飽和脂肪酸含有組成物が求められている。しかしながら、従来、立体異性体比率に着目して高度不飽和脂肪酸を精製することは行われていなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らは、従来の高度不飽和脂肪酸の精製方法では、精製工程を繰り返して精製物中の目的の高度不飽和脂肪酸の濃度を高くすればするほど、好ましくないトランス異性体の含有比率もより高くなってしまうという問題があることを見出した。そこで本発明者らは、高度不飽和脂肪酸を高濃度で含有し、且つ高度不飽和脂肪酸のトランス異性体の含有量が低い組成物を提供することを課題とし、鋭意研究を行った。
【課題を解決するための手段】
【0012】
その結果、本発明者らは、高度不飽和脂肪酸のアルキルエステル体を、銀塩を含む水性溶液で処理した後に、真空蒸留することによって、高度不飽和脂肪酸の精製工程におけるトランス異性体の生成を最小限に抑えることが可能となり、その結果、高度不飽和脂肪酸アルキルエステルを高濃度で含むがトランス異性体の含有量が極めて低い組成物を得ることができることを見出した。
【0013】
すなわち、本発明は、高度不飽和脂肪酸アルキルエステル含有組成物の製造方法であって:
(1)高度不飽和脂肪酸アルキルエステルを含有する原料を銀塩を含む水性溶液と接触させた後、水相を回収すること;
(2)該水相に有機溶媒を添加した後、有機溶媒相を回収すること;および
(3)該有機溶媒相を、温度170〜190℃、塔頂真空度1Pa以下で真空蒸留して、該有機溶媒相から高度不飽和脂肪酸アルキルエステルを回収すること、
を含む方法を提供する。
【0014】
また、本発明は、高度不飽和脂肪酸アルキルエステルを95質量%以上含有し、且つ該高度不飽和脂肪酸アルキルエステル中のトランス異性体の比率が1質量%未満である組成物を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、EPA、DHA等の高度不飽和脂肪酸アルキルエステルを高濃度で含む組成物を得ることができる。当該組成物は、トランス脂肪酸をほとんど含まず、医薬品や健康食品の製造用の高度不飽和脂肪酸原料として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の高度不飽和脂肪酸アルキルエステル含有組成物の製造方法において、当該組成物に含有されるべき目的の高度不飽和脂肪酸としては、エイコサペンタエン酸(EPA)、アラキドン酸(AA)、エイコサテトラエン酸(ETA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)、ドコサペンタエン酸(DPA)などを挙げることができ、DHA、EPAが好ましく、EPAがより好ましい。該高度不飽和脂肪酸のアルキルエステルを構成するアルキル基としては、炭素数1〜6の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基が挙げられ、好ましくはメチル基又はエチル基であり、より好ましくはエチル基である。
【0018】
本発明の製造方法において、高度不飽和脂肪酸アルキルエステル含有組成物の原料は、目的の高度不飽和脂肪酸を含有する油脂である。当該原料としては、魚類等の海産動物やプランクトン由来の油脂、藻類等の微生物由来の油脂などが挙げられ、中でもイワシ、ハマチ等の魚類由来の油脂、および藻類由来の油脂が好ましい。
【0019】
上記原料は、含有する全脂肪酸中に、目的の高度不飽和脂肪酸を40質量%以上含有する油脂であることが好ましい。当該含有量は遊離脂肪酸換算での値である。当該目的の高度不飽和脂肪酸は、原料中に遊離脂肪酸の形態で存在していてもよく、またはモノ、ジもしくはトリグリセリドの脂肪酸鎖の形態で存在していてもよい。本発明の製造方法においては、全含有脂肪酸中における目的の高度不飽和脂肪酸の含量が40質量%以上の原料を用いることにより、最終的に、目的の高度不飽和脂肪酸の濃度が95質量%以上、好ましくは96質量%以上、より好ましくは98質量%以上の組成物を効率よく得ることができる。
【0020】
また上記原料中、目的の高度不飽和脂肪酸におけるトランス異性体の比率(目的の高度不飽和脂肪酸の全量に対するそのトランス異性体量の比)は、3質量%未満であることが好ましく、2質量%未満であることがより好ましい。本発明の製造方法においては、目的の高度不飽和脂肪酸中のトランス異性体の比率が3%未満の原料を用いることにより、最終的に、該目的の高度不飽和脂肪酸中のトランス異性体の比率が質量1%未満、好ましくは0.5質量%の組成物を効率よく得ることができる。
【0021】
本発明の製造方法において、上記原料中の目的の高度不飽和脂肪酸は、アルキルエステル化されている。アルキルエステル化することにより、本発明の組成物の製造過程において、高度不飽和脂肪酸のトランス異性体化を抑制することができる。高度不飽和脂肪酸アルキルエステルは、高度不飽和脂肪酸を含有する油脂と所望のアルキル基を有する酸とを公知の方法によりエステル化反応させることにより製造することができる。例えば、高度不飽和脂肪酸のトリグリセリドを含有する油脂をけん化処理することによって、簡便に高度不飽和脂肪酸のアルキルエステル化物を得ることができる。アルキルエステル化の程度は高いほど好適であり、原料中に含まれる目的の高度不飽和脂肪酸(遊離体を含む)の全量のうち、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上がアルキルエステル化されているとよい。
上記高度不飽和脂肪酸やそのアルキルエステルを含有する油脂としては、市販されている油脂類を用いてもよい。前述した本発明で目的とする高度不飽和脂肪酸や、そのアルキルエステルを高含量で得るという観点からは、含有する高度不飽和脂肪酸の種類や量が規格化された市販の魚油由来の油脂類などを用いるのが好ましい。
【0022】
本発明の高度不飽和脂肪酸アルキルエステル含有組成物の製造方法の各工程において、上記原料は、液体の形態で適用されることが好ましい。当該原料は、各工程での反応温度において液体の形態である場合は、そのまま本発明の各工程に適用され得る。各工程での反応温度において固体の形態である場合は、当該原料は、適宜有機溶媒や他の油に溶解または希釈して適用され得る。当該有機溶媒としては、下記工程(1)を遂行するために、水と分離可能な有機溶媒が使用され、例えば、酢酸エチル、クロロホルム、四塩化炭素、ジエチルエーテル、ヘキサン等が挙げられる。
【0023】
本発明の高度不飽和脂肪酸アルキルエステル含有組成物の製造方法は、以下を行うことを特徴とする:
(1)高度不飽和脂肪酸アルキルエステルを含有する原料を銀塩を含む水性溶液と接触させた後、水相を回収すること;
(2)該水相に有機溶媒を添加した後、有機溶媒相を回収すること;および
(3)該有機溶媒相を真空蒸留して、該有機溶媒相から高度不飽和脂肪酸アルキルエステルを回収すること。
【0024】
本発明の製造工程(1)及び(2)は、高度不飽和脂肪酸の二重結合部に銀塩が錯体を形成することにより、抽出溶媒への溶解性が変わることを利用した精製技術であり、高度不飽和脂肪酸アルキルエステルを分離精製する工程である。より詳細には、炭素数が20以上である高度不飽和脂肪酸、例えばエイコサペンタエン酸(EPA)、アラキドン酸(AA)、エイコサテトラエン酸(ETA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)、またはドコサペンタエン酸(DPA)のアルキルエステルを効率よく分離精製することができる。
【0025】
本発明の製造方法の工程(1)は、高度不飽和脂肪酸アルキルエステルを含む原料を銀塩を含む水性溶液と接触させた後、水相を回収する工程である。該工程は、特許第2786748号公報、特許第2895258号公報、特許第2935555号公報、特許第3001954号公報等に記載されている方法に従って行うことができる。
【0026】
より詳細には、上述した目的の高度不飽和脂肪酸アルキルエステルを含む原料に、銀塩を含む水性溶液を添加し、5分〜4時間、好ましくは10分〜2時間程度攪拌する。このときの反応温度は、当該工程(1)の生成物が完全に液体となる温度を上限とし、例えば約80℃以下であり、一方、下限として5℃以上とすることが好ましい。より好ましくは反応温度は室温(20〜30℃)付近である。当該反応により、銀−高度不飽和脂肪酸の錯体が生成される。当該錯体は、水性溶液の相に溶解するので、溶液から水相を回収することによって、目的の高度不飽和脂肪酸を選択的に回収することができる。
【0027】
銀塩としては、高度不飽和脂肪酸の不飽和結合と錯体を形成し得るものであれば特に制限されないが、硝酸銀、過塩素酸銀、四フッ化ホウ素酸銀、酢酸銀等を用いることができる。このうち、硝酸銀が好ましい。水性溶液の溶媒としては、水、または水とグリセリンやエチレングリコール等の水酸基を有する化合物との混合媒体が挙げられるが、好ましくは水が用いられる。水性溶液中の銀塩濃度は、0.1mol/L以上であればよいが、好ましくは1〜20mol/L程度とする。高度不飽和脂肪酸と銀塩とのモル比は、1:100〜100:1、好ましくは1:5〜1:1程度である。
【0028】
本発明の製造方法の工程(2)は、上記工程(1)で回収した水相に有機溶媒を添加して、該水相中の高度不飽和脂肪酸アルキルエステルを有機溶媒相に抽出させた後、該高度不飽和脂肪酸アルキルエステルを含む有機溶媒相を回収する工程である。該工程は、特許第2786748公報、特許第2895258公報、特許第2935555公報、特許第3001954公報等に記載されている方法に従って行うことができる。
【0029】
水相に添加する有機溶媒としては、ヘキサン、エーテル、酢酸エチル、酢酸ブチル、クロロホルム、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の、高度不飽和脂肪酸への溶解性が高く、且つ水と分離可能な溶媒が挙げられる。好ましくは、有機溶媒を添加した溶液(反応液)を、上記工程(1)での反応温度、すなわち上記銀−高度不飽和脂肪酸錯体の生成温度よりも高い温度になるよう加温する。より好ましくは工程(1)での反応温度、すなわち該錯体の生成温度よりも20℃以上高い温度にする。例えば、上記工程(1)にて錯体を室温で生成させた場合、工程(2)での反応液の温度は、好ましくは40℃以上、より好ましくは50〜80℃程度にするとよい。高度不飽和脂肪酸アルキルエステルの有機溶媒相への抽出反応の時間は、10分〜6時間、好ましくは30分〜2時間とするとよく、また反応中には溶液を攪拌するとよい。次いで、水相を除去し、高度不飽和脂肪酸アルキルエステルを含有する有機溶媒相を回収する。または回収した有機溶媒相をさらにシリカゲル、活性炭、二酸化ケイ素などの吸着剤に通液することにより、残留する銀イオンをさらに除去してもよい。
【0030】
本発明の製造方法の工程(3)は、工程(2)で得られた有機溶媒相を真空蒸留し、目的の高度不飽和脂肪酸アルキルエステルを回収する工程である。より詳細には、工程(2)で得られた高度不飽和脂肪酸アルキルエステルを含有する有機溶媒相から、沸点の差により、目的とする高度不飽和脂肪酸エステルを選択的に回収する。
【0031】
工程(3)の真空蒸留のためには、充填式、スプリング式、棚段式等の公知の方式による真空蒸留装置を用いることができ、また連続蒸留方式を採用してもよい。一方、真空蒸留の条件は、従来の真空蒸留法と比べて、より低い圧力および温度に設定される。すなわち、本発明の方法において、工程(3)の真空蒸留の条件は、蒸留機の塔頂真空度が1Pa以下、好ましくは0.5Pa以下であり、蒸留温度が170〜190℃、好ましくは180〜185℃である。塔頂真空度が1Paを超えると、高度不飽和脂肪酸のトランス異性体が生成し易くなる。また、蒸留温度が170℃未満であると目的の高度不飽和脂肪酸の収率が低下し、他方、190℃を超えると高度不飽和脂肪酸のトランス異性体が生成し易くなる。本工程における蒸留温度とは、高度不飽和脂肪酸アルキルエステルを含有する有機溶媒相の温度として表される。
【0032】
上記真空蒸留工程で得られた高度不飽和脂肪酸アルキルエステルを含む留分は、還流されて、再度上記の条件での真空蒸留に供されてもよい。
【0033】
本発明の高度不飽和脂肪酸アルキルエステル含有組成物の製造方法においては、上記各工程を(1)→(2)→(3)の順序で行う。この順序を変更すると、目的の高度不飽和脂肪酸を高含有し、且つ該目的の高度不飽和脂肪酸中のトランス異性体の比率が十分に低い組成物を得ることはできない。特に、工程(3)を工程(1)または(2)よりも先に行うと、目的の高度不飽和脂肪酸を高含有する組成物を得ることが難しくなるか、または、目的の高度不飽和脂肪酸の含量は高いがトランス異性体の比率も高い組成物となる。
【0034】
本発明の製造方法により製造された高度不飽和脂肪酸アルキルエステル含有組成物は、含有する全脂肪酸中に、遊離脂肪酸換算で、目的の高度不飽和脂肪酸アルキルエステルを95質量%以上、好ましくは96質量%以上、より好ましくは98質量%以上含有する。該組成物中に含まれる目的の高度不飽和脂肪酸アルキルエステルは、好ましくはDHAのアルキルエステルであるかまたはEPAのアルキルエステルであり、より好ましくはEPAのアルキルエステルである。また、該組成物中に含まれる目的の高度不飽和脂肪酸アルキルエステル中、トランス異性体の比率は1質量%未満、好ましくは0.5質量%未満である。
【実施例】
【0035】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0036】
以下の実施例において、高度不飽和脂肪酸の組成分析方法及び立体異性体の定量方法は次のとおりである。
測定試料9μLをn−ヘキサン1.5mLに希釈し、ガスクロマトグラフィー分析装置(Type 6890 GC;Agilent Technologies製)を用いて、以下の条件にて各脂肪酸の含有比および異性体の含有比を分析した。結果は、クロマトグラムの面積から換算した質量%として表した。
<カラム条件>
カラム:J&W社製DB−WAX 0.25mm×30m、カラム温度:210℃
He流量:1.0 ml/min、He圧力:134 kPa
<検出条件>
H
2流量:30 ml/min、 Air流量:400ml/min
He流量:10 ml/min、DET温度:260℃
目的の高度不飽和脂肪酸中の異性体比は次の式にて求めた。
【0037】
【数1】
【0038】
(実施例1)
原料:イワシ油1kgに、水酸化ナトリウム50gを溶解させた無水エタノール溶液1000mLを加え、70〜80℃にて1時間混合攪拌後、さらに水500mLを加えてよく混合し、1時間静置した。分離した水相を除去し、油相を数回水洗して洗液を中性にし、エチルエステル化イワシ油820gを得た。
上記イワシ油の組成は、表1に示すとおり、全脂肪酸中、エイコサペンタエン酸(EPA)44.09%(質量%、以下同じ)、エイコサテトラエン酸(ETA)1.52%、アラキドン酸(AA)1.77%、ドコサヘキサエン酸(DHA)6.92%を含有していた。また、EPA中のトランス異性体比は1.23%であった。
工程(1):上記で調製したエチルエステル化イワシ油300gにn−ヘキサン160mLを加えてよく攪拌混合し、溶解させた。ここに硝酸銀50質量%の水溶液500mLを加え、5〜30℃の条件下で攪拌した。静置後に分離したn−ヘキサン相を除去し、水相を回収した。
工程(2):工程(1)で得た水相に新しいn−ヘキサン2000mLを加えて、50〜69℃でよく攪拌し、脂肪酸エチルエステルをn−ヘキサンに抽出した。静置後に分離した水相を除去し、n−ヘキサン相を濃縮した。このn−ヘキサン相に含まれていた脂肪酸エチルエステル粗精製物は、表1に示すとおり、全脂肪酸中、EPA74.54%、ETA0.32%、AA0.17%、DHA14.87%を含有していた。また、EPA中のトランス異性体比は0.19%であった。
工程(3):工程(2)で得た脂肪酸エチルエステルを含むn−ヘキサン相を、充填塔式精密蒸留機を用いて塔頂真空度1Pa以下、蒸留温度170〜190℃の条件を維持しながら真空蒸留を行い、高度精製EPAエチルエステル含有組成物を約60%の収率で得た。このEPAエチルエステル含有組成物は、表1に示すとおり、全脂肪酸中、EPA98.25%、ETA0.43%、AA0.21%、DHA0.05%を含有していた。また、EPA中のトランス異性体比は0.45%であった。
工程を(1)、(2)、(3)の順に行った本実施例でのEPAの収率は、約53%であった。
【0039】
(実施例2)
工程(3)を蒸留温度180〜185℃の条件を維持しながら行った以外は、実施例1と同様にして工程(1)、(2)、(3)の順に行い、EPAエチルエステル含有組成物を約58%の収率で得た。このEPAエチルエステル含有組成物は、表1に示すとおり、全脂肪酸中、EPA98.29%、ETA0.40%、AA0.32%、DHA0.05%を含有していた。また、EPA中のトランス異性体比は0.28%であり、トランス異性体が極めて少なかった。
(比較例1)
工程(3)において、塔頂真空度13.3Pa(0.1Torr)とした以外は、実施例1と同様にして、EPAエチルエステル含有組成物を得た。この組成物は、表1に示すとおり、全脂肪酸中のEPA含有比は97.44%と高かったが、EPA中のトランス異性体比が高値(1.37%)であった。
【0040】
(比較例2)
最初にエチルエステル化イワシ油の真空蒸留(工程(3))を行い、次いで工程(1)および(2)を行って、EPAエチルエステル含有組成物を得た。各工程の条件は、実施例1と同様にした。この組成物は、表1に示すとおり、全脂肪酸中、EPA95.05%、ETA0.72%、AA0.50%、DHA0.21%を含有し、EPA中のトランス異性体比は1.55%であった。工程を(3)、(1)、(2)の順に行った本比較例でのEPAの収率は、約31%であり、実施例1と比較してEPA収率が大きく低下した。
本比較例での真空蒸留の条件を変更(0.5Pa、185〜195℃)することによって、組成物における全脂肪酸中のEPAの含有量を98.12%まで上げることができたが、収率はさらに低下し、またEPA中のトランス異性体比が2.01%となり、さらに増加した。
【0041】
【表1】
【0042】
(実施例3〜4、比較例3)
工程(3)において、蒸留温度を180℃(実施例3)、190℃(実施例4)、200℃(比較例3)とし、且つ真空蒸留時間を様々に変更した以外は、実施例1と同様にして、高度精製EPAエチルエステル含有組成物を得、該組成物中のEPAのトランス異性体比を求めた。結果を
図1に示す。
図1より、蒸留温度190℃以下の実施例3〜4では、トランス異性体比は1質量%を下回っていたが、蒸留温度200℃の比較例3では、蒸留時間1時間程度でトランス異性体比が1質量%を超えた。