特許第6684973号(P6684973)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6684973プラズマ処理装置およびプラズマ処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6684973
(24)【登録日】2020年4月1日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】プラズマ処理装置およびプラズマ処理方法
(51)【国際特許分類】
   H05H 1/46 20060101AFI20200413BHJP
【FI】
   H05H1/46 A
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-551858(P2019-551858)
(86)(22)【出願日】2017年11月13日
(86)【国際出願番号】JP2017040725
(87)【国際公開番号】WO2019092879
(87)【国際公開日】20190516
【審査請求日】2020年1月16日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000227294
【氏名又は名称】キヤノンアネルバ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076428
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康徳
(74)【代理人】
【識別番号】100115071
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100112508
【弁理士】
【氏名又は名称】高柳 司郎
(74)【代理人】
【識別番号】100116894
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 秀二
(74)【代理人】
【識別番号】100134175
【弁理士】
【氏名又は名称】永川 行光
(72)【発明者】
【氏名】薬師神 弘士
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 勇人
(72)【発明者】
【氏名】芝本 雅弘
【審査官】 小林 直暉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−60019(JP,A)
【文献】 特開昭63−202896(JP,A)
【文献】 特開平5−65641(JP,A)
【文献】 特開2003−301257(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D1/02−1/84
C23C14/00−16/56
G11B5/62−5/82
H01J37/00−37/02
37/05
37/09−37/18
37/21
37/24−37/244
37/252−37/36
H05H1/00−1/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を処理する処理室と、
プラズマを発生するプラズマ発生部と、
前記プラズマ発生部で発生したプラズマを前記処理室に輸送する輸送部と、
前記プラズマによって前記基板が走査されるように前記プラズマを偏向させる磁場を発生する走査磁場発生部と、を備え、
前記走査磁場発生部は、前記プラズマの軌跡の中心を調整可能に構成され
前記走査磁場発生部は、第1方向に平行な第1磁場を発生する第1磁場発生部と、前記第1方向に交差する第2方向に平行な第2磁場を発生する第2磁場発生部と、前記第1磁場発生部に第1電流を供給する第1電源と、前記第2磁場発生部に第2電流を供給する第2電源と、を含み、
前記第1電源は、第1正弦波に第1直流成分を重畳させた電流を前記第1電流として前記第1磁場発生部に供給し、前記第2電源は、第2正弦波に第2直流成分を重畳させた電流を前記第2電流として前記第2磁場発生部に供給し、前記第1直流成分および前記第2直流成分が調整可能であり、
前記第1直流成分は、前記第1正弦波と同一の周期を有する第1周期信号であり、前記第2直流成分は、前記第2正弦波と同一の周期を有する第2周期信号であり、
前記第1周期信号の1周期は、第1電流値を有する少なくとも1つの第1期間と、前記第1電流値とは異なる第2電流値を有する少なくとも1つの第2期間とを含み、
前記第2周期信号の1周期は、第3電流値を有する少なくとも1つの第3期間と、前記第3電流値とは異なる第4電流値を有する少なくとも1つの第4期間とを含む、
ことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項2】
前記第1電源および前記第2電源は、それぞれバイポーラ電源を含み、
前記走査磁場発生部は、前記第1電源および前記第2電源のそれぞれの前記バイポーラ電源に信号波形を供給するファンクションジェネレータを更に含む、
ことを特徴とする請求項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記プラズマ発生部は、真空アーク放電によってプラズマを発生する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
プラズマ発生部で発生したプラズマを処理室に輸送し前記処理室において前記プラズマによって基板を処理するプラズマ処理方法であって、
前記処理室に輸送された前記プラズマによって前記基板が走査されるように前記プラズマを偏向させる磁場を発生する工程を含み、
前記工程では、前記プラズマの軌跡の中心が調整され
前記工程では、第1方向に平行な第1磁場を発生する第1磁場発生部に対して、第1正弦波に第1直流成分を重畳させた第1電流を供給し、前記第1方向に交差する第2方向に平行な第2磁場を発生する第2磁場発生部に対して、第2正弦波に第2直流成分を重畳させた第2電流を供給し、
前記第1直流成分は、前記第1正弦波と同一の周期を有する第1周期信号であり、前記第2直流成分は、前記第2正弦波と同一の周期を有する第2周期信号であり、
前記第1周期信号の1周期は、第1電流値を有する少なくとも1つの第1期間と、前記第1電流値とは異なる第2電流値を有する少なくとも1つの第2期間とを含み、
前記第2周期信号の1周期は、第3電流値を有する少なくとも1つの第3期間と、前記第3電流値とは異なる第4電流値を有する少なくとも1つの第4期間とを含む、
ことを特徴とするプラズマ処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ処理装置およびプラズマ処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマ発生部で発生したプラズマを処理室に輸送し処理室においてプラズマによって基板を処理するプラズマ処理装置がある。このようなプラズマ処理装置は、例えば、基板に膜を形成する成膜装置、および、基板にイオンを注入するイオン注入装置として応用されうる。成膜装置の一例として、プラズマ発生部において、陰極ターゲットと陽極との間で真空アーク放電によって発生したプラズマを処理室に輸送して処理室において基板に膜を形成する真空アーク成膜装置を挙げることができる。真空アーク成膜装置は、例えば、ハードディスクドライブの磁気記録媒体の表面保護膜としてta−C(テトラヘドラル・アモルファスカーボン)膜を形成するために有用である。また、真空アーク成膜装置は、機械部品または切削工具等の表面にTi、Cr等の金属元素を含む硬質膜を形成するために有用である。
【0003】
特許文献1には、アーク放電によって陰極と陽極との間にアークプラズマを発生させ、回転磁場によってプラズマ進行方向の周りに回転させたプラズマ流を生成するプラズマ流生成方法が開示されている。このプラズマ流生成方法では、プラズマ進行方向の周りのプラズマ回転角領域を2以上に分割し、それぞれの回転角領域におけるプラズマの回転速度を異ならせている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5606777号号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された方法では、プラズマを回転させるための回転磁場の強度の偏り等の要因でプラズマ流がドリフトし、プラズマ流の回転あるいは軌跡の中心と基板の中心とがずれてしまう可能性がある。この場合、基板を均一に処理すること、例えば、基板に均一な厚さの膜を形成することが難しくなる。
【0006】
本発明は、基板を均一に処理するために有利な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの側面は、プラズマ処理装置に係り、前記プラズマ処理装置は、基板を処理する処理室と、プラズマを発生するプラズマ発生部と、前記プラズマ発生部で発生したプラズマを前記処理室に輸送する輸送部と、前記プラズマによって前記基板が走査されるように前記プラズマを偏向させる磁場を発生する走査磁場発生部と、を備え、前記走査磁場発生部は、前記プラズマの軌跡の中心を調整可能に構成されている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、基板を均一に処理するために有利な技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態の真空処理装置の構成を示す模式図。
図2図1に示された真空処理装置で用いられるキャリアの概略図。
図3】本発明の一実施形態のプラズマ処理装置の構成を示す模式図。
図4A図3に示されたプラズマ処理装置の走査磁場発生部の第1磁場発生部を示す模式図。
図4B図3に示されたプラズマ処理装置の走査磁場発生部の第2磁場発生部を示す模式図。
図5図3に示されたプラズマ処理装置の電源システムの構成を示す図。
図6A】走査磁場発生部の第1磁場発生部に供給される第1電流の波形を例示する図。
図6B】走査磁場発生部の第2磁場発生部に供給される第2電流の波形を例示する図。
図7A】走査磁場発生部が発生する走査磁界の一例を示す図。
図7B】走査磁場発生部が発生する走査磁界の他の例を示す図。
図8A】走査磁場発生部の第1磁場発生部に供給される第1電流の波形を例示する図。
図8B】走査磁場発生部の第2磁場発生部に供給される第2電流の波形を例示する図。
図9】走査磁場発生部が発生する走査磁界の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら本発明をその例示的な実施形態を通して説明する。
【0011】
図1には、本発明の一実施形態の真空処理装置VPの構成が模式的に示されている。真空処理装置VPは、インライン式の成膜装置として構成されうる。真空処理装置VPは、複数の処理室111〜131がゲートバルブを介して矩形の無端状に連結された構成を有する。処理室111〜131は、専用又は兼用の排気系によって排気される真空容器である。処理室111〜131には、基板1を保持したキャリア10を搬送する搬送装置CNV(図3参照)が組み込まれている。
【0012】
搬送装置CNVは、キャリア10をそれによって保持された基板1の主面が水平面に対して垂直に維持された姿勢で搬送する搬送路を有する。処理室111は、キャリア10に基板1を取り付ける処理を行うためのロードロック室である。処理室116は、キャリア10から基板1を取り外す処理を行うためのアンロードロック室である。基板1は、例えば、磁気記録媒体としての使用に適したものであり、例えば、中心部分に開口(内周孔部)を有する金属製、若しくはガラス製の円板状部材でありうる。ただし、基板1の形状および材料は、特定のものに限定されない。
【0013】
真空処理装置VPにおける基板の処理手順について説明する。まず、処理室(ロードロック室)111内で第1基板1が第1キャリア10に取り付けられる。第1キャリア10は、処理室(密着層形成室)117に移動して、第1基板1に密着層が形成される。第1キャリア10が処理室(密着層形成室)117に配置されているときに、第2キャリア10に第2基板1が取り付けられる。その後、第2キャリア10は、処理室(密着層形成室)117に移動し、第2基板1に密着層が形成され、処理室(ロードロック室)111内で第3キャリア10に第3基板1が取り付けられる。各キャリア10は、処理室117〜131を1つずつ移動しながら、処理室117〜131のそれぞれにおいて基板1に対する処理がなされる。
【0014】
処理室117〜131は、基板1に対する処理を行う処理室である。処理室117〜128は、例えば、密着層、軟磁性層、シード層、中間層、磁性層等の膜を形成する成膜装置の処理室でありうる。処理室129は、例えば、ta−C膜からなる表面保護層を形成するプラズマ処理装置の処理室でありうる。処理室130は、例えば、処理室129内で形成されたta−C膜の表面を処理する処理装置のチャンバでありうる。処理室112〜115は、基板1の搬送方向を90度転換する方向転換装置を備えた処理室である。処理室131は、キャリア10に付着した堆積物を除去するアッシング処理室である。真空処理装置VPによって、例えば、基板1の上に、密着層、下部軟磁性層、シード層、中間層、磁気記録層、ta−C膜が順に形成された構造を得ることができる。
【0015】
図2には、キャリア10の構成例が示されている。キャリア10は、例えば、2枚の基板1を同時に保持することができる。キャリア10は、例えば、基板1をそれぞれ保持する2つの金属製のホルダー201と、2つのホルダー201を支持して搬送路上を移動するスライダ202とを含みうる。スライダ202には、搬送装置CNVがスライダ202を駆動するための永久磁石204が設けられている。ホルダー201は、基板1の表裏の成膜領域を覆うことなく、複数の導電性の弾性部材(板ばね)203によって基板1の外周部の数カ所を把持する。
【0016】
図3には、処理室129を有するプラズマ処理装置300の構成および搬送装置CNVの構成が模式的に示されている。搬送装置CNVは、搬送路に沿って並べられた多数の従動ローラ(不図示)と、キャリア10を駆動する磁気ネジ303とを含む。磁気ネジ303が回転駆動されることによって、永久磁石204が設けられたスライダ202(キャリア10)が搬送路に沿って駆動される。キャリア10のホルダー201によって保持された基板1には、導電性の弾性部材203を介して電源302によって電圧が印加される。あるいは、ホルダー201によって保持された基板1は、導電性の弾性部材203を介して接地されうる。ホルダー201には、直流電圧、パルス電圧または高周波電圧が印加されうる。
【0017】
プラズマ処理装置300は、例えば、真空アーク成膜法(Vacuum Arc Deposition)によって基板1にta−C膜を形成するように構成されうるが、これは一例に過ぎない。プラズマ処理装置300は、他の方式でプラズマを発生してもよい。プラズマ処理装置300は、基板を処理する処理室129と、プラズマを発生するプラズマ発生部320と、プラズマ発生部320で発生したプラズマを処理室129に輸送する輸送部310と、プラズマによって基板1が走査されるように該プラズマを回転あるいは偏向させる磁場を発生する走査磁場発生部360と、処理室129を排気するターボ分子ポンプ等の真空ポンプ301とを備えうる。この例では、処理室129は、基板1にta−C膜を形成する成膜室を構成する。
【0018】
輸送部310は、輸送管311と、輸送管311を取り囲むように配置された輸送磁場発生部312とを含みうる。輸送管311は、図3に模式的に示されるように二次元的に湾曲したシングルベンド型の輸送管でありうるが、直線型、ダブルベンド型、または三次元的に湾曲した輸送管であってもよい。輸送磁場発生部312は、輸送管311の内側(真空側)に配置された磁場発生部を含んでもよい。輸送磁場発生部312は、輸送磁場発生コイルを含みうる。輸送磁場発生部312は、プラズマ(電子およびイオン)を輸送する磁場を輸送管311の中に形成する。輸送管311の中には、複数のバッフルが配置されうる。
【0019】
走査磁場発生部360は、輸送部310から処理室129に供給されるプラズマを偏向させることによって該プラズマによって基板1を走査する偏向器として機能する。より具体的には、走査磁場発生部360は、輸送部310から処理室129に供給されるプラズマによって基板1が走査されるように該プラズマを回転あるいは偏向させる磁場を発生する。この走査は、基板1の膜形成領域に均一に炭素イオンが供給されるようになされうる。
【0020】
この例では、プラズマ発生部320は、真空アーク放電によってプラズマを発生するが、他の方式でプラズマを発生してもよい。プラズマ発生部320は、陰極ターゲット340と、アノード330と、可動アノード331と、安定化コイル350とを有しうる。この例では、陰極ターゲット340は、ta−C膜を形成するためのグラファイトターゲットであるが、陰極ターゲット340は、基板1に形成すべき膜に応じた材料(例えば、窒化チタン、酸化チタン、窒化クロム、酸化クロム、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、窒化亜鉛、酸化亜鉛、窒化銅または酸化銅)で構成されうる。アノード330は、例えば、筒形状を有しうるが、アノード330の形状は、輸送部310への電子および炭素イオンの輸送を遮るものでなければ、特に限定されない。アノード330は、グラファイト材料で構成されうるが、アノード330の材料は、アーク放電で発生したプラズマで溶融せず、導電性を有する材料であればよい。
【0021】
可動アノード331は、陰極ターゲット340とアノード330との間にアーク放電を誘起させるための電極である。アノード330の外側に退避している可動アノード331を陰極ターゲット340に向かって駆動して陰極ターゲット340に機械的に接触させ、可動アノード331から陰極ターゲット340にアーク電流を流入させた状態で可動アノード331を陰極ターゲット340から引き離すことで、アーク放電を発生させることができる。そして、アノード330と陰極ターゲット340との間での電子電流もしくはイオン電流を維持することにより、アーク放電を維持することができる。アーク放電により、陰極ターゲット340から炭素イオンおよび電子が放出され、炭素イオンおよび電子を含むプラズマが生成される。
【0022】
安定化コイル350は、陰極ターゲット340の放電面側(輸送部310側)の逆側に配置され、アーク放電を安定させるための磁場を形成する。安定化コイル350が発生する磁場と輸送磁場発生部312が発生する輸送磁場とはカスプ磁場(互いに逆方向)になる。このカスプ磁場により、アークスポットの挙動を制御するとともに、陰極ターゲット340とアノード330との間に低負荷の電流経路を確保し、アーク放電を安定化させることができる。安定化コイル350の代わりに、永久磁石が設けられてもよい。
【0023】
アーク放電によって生成された炭素イオンを含むプラズマは、輸送部310における輸送磁場に沿って処理室129に輸送され、処理室129の中に配置された基板1にta−C膜が形成される。プラズマ発生部320には、アルゴン等の不活性ガスおよび/または窒素ガスの反応性ガスが、プロセスガスとして供給されてもよい。
【0024】
図4A、4Bには、走査磁場発生部360の構成例が示されている。走査磁場発生部360は、第1方向(この例では、X軸方向)に平行な第1磁場Hxを発生する第1磁場発生部360xと、第1方向に交差する第2方向(この例では、Y軸方向)に平行な第2磁場Hyを発生する第2磁場発生部360yとを含む。第1磁場発生部360xは、第1ヨーク361xと、第1ヨーク361xに巻かれた第1コイル362xとを含みうる。同様に、第2磁場発生部360yは、第2ヨーク361yと、第2ヨーク361yに巻かれた第2コイル362yとを含みうる。第1方向と第2方向とは、互いに直交する方向でありうる。第1磁場Hxと第2磁場Hyとによって合成磁場Hが走査磁場として形成される。走査磁場発生部360は、合成磁場Hが回転するように(合成磁場Hを示すベクトルが回転するように)第1磁場Hxおよび第2磁場Hyを発生する。走査磁場発生部360は、第1正弦波に第1直流成分を重畳させた電流を第1電流として第1磁場発生部360x(の第1コイル362x)に対して供給する第1電源450xと、第2正弦波に第2直流成分を重畳させた電流を第2電流として第2磁場発生部360y(の第2コイル362y)に対して供給する第2電源450yとを含みうる。走査磁場発生部360は、プラズマの回転あるいはプラズマの軌跡の中心を調整可能に構成されうる。
【0025】
図5には、プラズマ処理装置300の電源システム390が示されている。電源システム390は、制御部400、アーク電源410、輸送電源420、安定化コイル電源430、ファンクションジェネレータ440、第1電源450xおよび第2電源450yを含みうる。アーク電源410は、陰極ターゲット340に電流を供給する。輸送電源420は、輸送磁場発生部312に電流を供給する。安定化コイル電源430は、安定化コイル350に電流を供給する。ファンクションジェネレータ440は、予めプログラムされた第1信号波形、第2信号波形をそれぞれ第1電源450x、第2電源450yに供給する。第1電源450x、第2電源450yは、ファンクションジェネレータ440から供給される第1信号波形、第2信号波形に従った波形を有する第1電流、第2電流をそれぞれ第1磁場発生部360x、第2磁場発生部360yに供給する。第1電源450x、第2電源450yは、それぞれバイポーラ電源でありうる。
【0026】
第1電源450xは、第1正弦波Axsin(2πft+αx)に第1直流成分Bxを重畳させた電流Axsin(2πft+αx)+Bxを第1電流として第1磁場発生部360xに供給する。第2電源450yは、第2正弦波Aysin(2πft+αy)に第2直流成分Byを重畳させた電流Aysin(2πft+αy)+Byを第2電流として第2磁場発生部360yに供給する。ここで、第1正弦波Axsin(2πft+αx)および第2正弦波Aysin(2πft+αy)は、ファンクションジェネレータ440によって設定可能である。また、第1直流成分Bxおよび第2直流成分Byは、ファンクションジェネレータ440によって設定可能である。Ax、Ayは振幅、fは周波数、αx、αyは位相である。
【0027】
第1磁場発生部360xが発生する第1磁界Hxと第2磁場発生部360yが発生する第2磁界Hyとの合成磁界(走査磁界)Hは、その方向が一定周期で回転する磁界である。基板1上を走査するプラズマも磁界Hによって一定周期で基板1上を回転する。第1直流成分Bxおよび第2直流成分Byを調整することによって、合成磁界Hのベクトルの回転の中心(合成磁界Hのベクトル軌跡(リサージュ図形)の中心)の位置を調整することができる。つまり、第1直流成分Bxおよび第2直流成分Byを調整することによって、基板1上を走査するプラズマの回転あるいは軌跡の中心を調整することができる。
【0028】
合成磁界Hのベクトルの軌跡(リサージュ図形)を円形にする場合には、Ax=Ay、αy=αx+(1/2+n)π(nは自然数)とすればよい。合成磁界Hのベクトルの軌跡(リサージュ図形)を楕円形にする場合には、Ax≠Ayおよび/またはαy≠αx+(1/2+n)πとすればよい。
【0029】
プラズマ発生部320においてアーク放電によって生成されるプラズマは、輸送部310によって処理室129内の基板1まで輸送される。輸送磁場発生部312によって輸送管311内に形成される磁場の強度は、輸送管311の中心部近傍で弱く輸送管311の管壁に向かって強くなる分布を有しうる。このような磁場中をプラズマが輸送されると、プラズマがドリフトしうる。このようなドリフトを1つの要因として、基板1の中心とプラズマの回転あるいは軌跡の中心とがずれてしまいうる。更に、輸送部310によってプラズマ発生部320から基板1に輸送されるプラズマの密度は、偏りを有する。したがって、正弦波電流のみによって形成された偏向磁場によって走査されたプラズマによって形成される膜の厚さ分布は不均一になりうる。一方、上述のように、第1正弦波に第1直流成分を重畳させた第1電流と第2正弦波に第2直流成分を重畳させた第2電流とによって形成される磁場によってプラズマを走査することによって、プラズマの回転あるいは軌跡の中心を調整することができる。例えば、プラズマの回転あるいは軌跡の中心を基板の中心に一致または近づけることができる。そのため、基板に形成される膜の厚さ分布を均一に調整することができる。あるいは、プラズマの回転あるいは軌跡の中心の位置を任意に調整することによって、基板に形成される膜の厚さ分布を任意に調整することができる。
【0030】
上記の例では、第1磁場発生部360xおよび第2磁場発生部360yが電磁石によって構成されているが、走査磁場発生部360は、可動の永久磁石によって構成されてもよい。この場合、第1方向の磁場を発生する第1永久磁石と輸送管311との距離、および、第2方向の磁場を発生する第2永久磁石と輸送管311との距離を制御することによって輸送管311内の合成磁場を制御することができる。
【0031】
[第1実施形態]
図6Aに示されるように、第1電源450xは、第1正弦波Axsin(2πft+αx)に固定の第1直流成分Bxcを重畳させた電流Axsin(2πft+αx)+Bxcを第1電流として第1磁場発生部360xに供給する。また、図6Bに示されるように、第2電源450yは、第2正弦波Aysin(2πft+αy)に固定の第2直流成分Bycを重畳させた電流Aysin(2πft+αy)+Bycを第2電流として第2磁場発生部360yに供給する。Bxc、Bycは、目標とするプラズマの回転あるいは軌跡の中心の位置に応じて設定あるいは調整される。
【0032】
Ax=Ay、αy=αx+(1/2+n)π(nは自然数)とすることによって、図7Aに示されるように、合成磁界Hのベクトルの軌跡(リサージュ図形)を円形にすることができる。また、Ax≠Ayおよび/またはαy≠αx+(1/2+n)πとすることによって、図7Bに示されるように、合成磁界Hのベクトルの軌跡(リサージュ図形)を楕円形にすることができる。
【0033】
[第2実施形態]
図8Aに示されるように、第1電源450xは、第1正弦波Axsin(2πft+αx)に第1直流成分Bx(t)を重畳させた電流Axsin(2πft+αx)+Bx(t)を第1電流として第1磁場発生部360xに供給する。また、図8Bに示されるように、第2電源450yは、第2正弦波Aysin(2πft+αy)に固定の第2直流成分By(t)を重畳させた電流Aysin(2πft+αy)+By(t)を第2電流として第2磁場発生部360yに供給する。Bx(t)は、直流成分であり、かつ、第1正弦波Axsin(2πft+αx)と同一の周期を有する第1周期信号でありうる。By(t)は、直流成分であり、かつ、第2正弦波Aysin(2πft+αy)と同一の周期を有する第2周期信号でありうる。Bx(t)、By(t)は、プラズマの回転あるいは軌跡の中心の目標位置に応じて設定される。第1周期信号の1周期は、第1電流値を有する少なくとも1つの第1期間と、該第1電流値とは異なる第2電流値を有する少なくとも1つの第2期間とを含みうる。第2周期信号の1周期は、第3電流値を有する少なくとも1つの第3期間と、該第3電流値とは異なる第4電流値を有する少なくとも1つの第4期間とを含みうる。図9には、合成磁界Hのベクトルの軌跡(リサージュ図形)の一例である。
【0034】
以上のように、第1直流成分Bx(t)および第2直流成分By(t)の調整によって、合成磁界Hのベクトルの軌跡を任意の形状に制御し、これによりプラズマの軌跡を任意の形状(例えば、四角形等の多角形)に制御することができる。したがって、例えば、基板の形状または目標とする膜厚分布等に応じて合成磁界Hのベクトルの軌跡を決定すればよい。
【0035】
[第3実施形態]
真空処理装置VPは、磁気記録媒体の製造に好適である。本発明の第3実施形態は、磁気記録媒体の製造方法に係り、該製造方法は、基板1の上に、密着層、下部軟磁性層、シード層、中間層、磁気記録層およびta−C膜をそれぞれ形成する工程を含み、ta−C膜を形成する工程は、処理室129を有するプラズマ処理装置300においてなされる。
【符号の説明】
【0036】
VP:真空処理装置、300:プラズマ処理装置、129:処理室、1:基板、10:キャリア、340:陰極ターゲット、330:陽極アノード、331:可動アノード、312:輸送磁場発生部、350:安定化コイル、360:走査磁場発生部、360x:第1磁場発生部、360y:第2磁場発生部、361x:第1ヨーク、361y:第2ヨーク、362x:第1コイル、362y:第2コイル、400:制御部、410:アーク電源、420:輸送電源、440:ファンクションジェネレータ、450x:バイポーラ電源、450y:バイポーラ電源
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9