特許第6685110号(P6685110)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6685110放射線遮蔽用コンクリートとその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6685110
(24)【登録日】2020年4月2日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】放射線遮蔽用コンクリートとその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G21F 1/04 20060101AFI20200413BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20200413BHJP
   C04B 14/34 20060101ALI20200413BHJP
   B28C 7/06 20060101ALI20200413BHJP
   B28B 13/02 20060101ALI20200413BHJP
【FI】
   G21F1/04
   C04B28/02
   C04B14/34
   B28C7/06
   B28B13/02
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-222913(P2015-222913)
(22)【出願日】2015年11月13日
(65)【公開番号】特開2017-90329(P2017-90329A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2018年8月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】390029012
【氏名又は名称】株式会社エスイー
(74)【代理人】
【識別番号】110001014
【氏名又は名称】特許業務法人東京アルパ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】滝沢 力
(72)【発明者】
【氏名】坂本 雄一
【審査官】 藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−029813(JP,A)
【文献】 特開平07−068516(JP,A)
【文献】 特開2009−276194(JP,A)
【文献】 特開平02−172846(JP,A)
【文献】 特開昭63−233195(JP,A)
【文献】 実開平06−076899(JP,U)
【文献】 特開昭61−021266(JP,A)
【文献】 米国特許第5786611(US,A)
【文献】 鈴木裕介他,鉄粒粉骨材を用いた高密度モルタルの基礎物性とγ線遮蔽性能評価,コンクリート工学年次論文集,日本,2014年,Vol.36,No.1,p.1762-1767
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 1/04
C04B 28/02
C04B 14/34
C04B 14/48
B28B 13/02
B28C 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートの組成が、少なくともセメントと水と骨材の金属材と減水剤とでなり、その重量比が、
セメント :1、
水 :0.15〜0.25、
骨材の金属材:5〜10、
減水剤 :0.001〜0.01、
であること、
を特徴とする放射線遮蔽用コンクリート。
【請求項2】
骨材は、直径が1mm以上の金属球、円柱のカットワイヤー、円柱の金属材、角柱の金属材の内のいずれか一つ、若しくは、いずれか二つ以上の組み合わせであること、
を特徴とする請求項1に記載の放射線遮蔽用コンクリート。
【請求項3】
型枠を形成し、
前記型枠内にセメントと水と減水剤とを少なくとも投入して攪拌し、
その後、前記型枠内のセメントペーストに対して均一に分布して埋設されるように骨材の金属材を投入し、
養生して所要の強度を発現させて形成
前記セメントと水と骨材の金属材と減水剤との重量比が、
セメント :1、
水 :0.15〜0.25、
骨材の金属材:5〜10、
減水剤 :0.001〜0.01、
であること、
を特徴とする放射線遮蔽用コンクリートの製造方法。
【請求項4】
骨材として、直径が1mm以上の金属球、円柱のカットワイヤー、円柱の金属材、角柱の金属材の内のいずれか一つ、若しくは、いずれか二つ以上の組み合わせを、所要数量/時間(秒)で、且つ、均一に分布して埋設されるように、所要高さから落下させながら水平移動して型枠内のセメントペーストに投入すること、
を特徴とする請求項3に記載の放射線遮蔽用コンクリートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に放射線(γ線やX線など)を遮蔽するために用いられる重量コンクリートである、放射線遮蔽用コンクリートと、その製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、原発事故などで飛散した放射性物質により汚染された土砂の処理のために、汚染土砂を格納するコンクリート製の放射線遮蔽容器が開発され、その放射線遮蔽用のコンクリートとして、遮蔽体の密度が高いほど、放射線に対して高い遮蔽性能を有することが知られているので、重量骨材を用いた重量コンクリート(密度が3.5g/cm=比重が3.5以上とする)が数多く提案され、知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−273654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の放射線遮蔽用コンクリートにおける重量コンクリートは、例えば、比重の大きな骨材を使用するので、混練時において材料の分離、偏った沈降状態が生じて、骨材が不均一に分布して強度不足となるとともに放射線遮蔽も不均一になる。また、水を減らして水セメント比(W/C)を低減させ強度の向上を図ると、混練時の練り性が悪くなって多くのエネルギーが必要であり、練り装置の負担が大となって短命となり、更に、スランプ量が少なくワーカビリティに乏しいので、コンクリートポンプ車による圧送・打設が困難となる。また、骨材とセメント、水を同時に混練できるだけの大型専用混練装置が必要である。
【0005】
原発事故などにおける放射線核種としては、131I、134Cs、137Csなどがあるが、131Iの半減期は約8日と短いが、134Csの半減期は約2年、137Csの半減期は約30年と長い。このため放射性セシウム(134Cs、137Cs)に対する放射線を長期間遮蔽するには、可能な限り高密度のコンクリート遮蔽体を作る必要がある。例えば、γ線のセシウム137(137Cs)に対して透過率15%(遮蔽率85%)にするには、図3−A,図3−Bに示すように、普通コンクリート(比重が2〜2.5程度)では、23cmもの厚さが必要となる。これでは、放射線遮蔽容器を製造するにしても、容器全体の体積・重量も過大になってしまう。
【0006】
そこで、放射線遮蔽効果を高めるために、本願では、水セメント比を少なくしながらもコンクリート圧送に関して、フレッシュコンクリートの流動性を問題とすることなく、且つ、比重の重い骨材を均一に埋設させることで、高密度の重量コンクリートを形成して、コンクリート成形体の厚さを極力薄くしつつも放射線遮蔽能力を高めることとした。本発明に係る放射線遮蔽用コンクリートとその製造方法は、このような課題を解決するために提案されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る放射線遮蔽用コンクリートの上記課題を解決して目的を達成するための要旨は、コンクリートの組成が、少なくともセメントと水と骨材の金属材とでなり、その重量比が、
セメント :1、
水 :0.15〜0.25、
骨材の金属材:5〜10、
であることである。
【0008】
前記骨材は、直径が1mm以上の金属球、円柱のカットワイヤー、円柱の金属材、角柱の金属材の内のいずれか一つ、若しくは、いずれか二つ以上の組み合わせであることである。
【0009】
本発明に係る放射線遮蔽用コンクリートの製造方法の、上記課題を解決して目的を達成するための要旨は、型枠を形成し、前記型枠内にセメントと水とを少なくとも投入して攪拌し、その後、前記型枠内のセメントペーストに対して均一に分布して埋設されるように骨材を投入し、養生して所要の強度を発現させて形成することである。
【0010】
前記骨材として、直径が1mm以上の金属球、円柱のカットワイヤー、円柱の金属材、角柱の金属材の内のいずれか一つ、若しくは、いずれか二つ以上の組み合わせを、所要数量/時間(秒)で、且つ、均一に分布して埋設されるように、所要高さから落下させながら水平移動して型枠内のセメントペーストに投入することである。
【0011】
前記コンクリートの組成が、少なくともセメントと水と骨材の金属材とでなり、
その重量比が、
セメント :1、
水 :0.15〜0.25、
骨材の金属材:5〜10、
であることを含むものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る放射線遮蔽用コンクリートとその製造方法によれば、フレッシュコンクリートの流動性がないものの、骨材が高密度にかつ均一に分布して埋設された状態で形成される。
【0013】
また、骨材の金属材が高密度に均一に埋設されるので、重量コンクリートの比重が5.0〜5.2となり、且つ、強度も高くなって、コンクリート成形体として薄い板で、放射線(主にγ線)を有効に遮蔽することができる、という優れた効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係る放射線遮蔽用コンクリートの製造方法によって、放射線遮蔽用コンクリートを形成し、コンクリート容器を形成する様子を説明する縦断面図(A),(B)と、放射線遮蔽用コンクリート1の一部断面図(C)である。
図2】本発明に係る放射線遮蔽用コンクリート1と、普通コンクリートとにおいて、同じ放射線遮蔽能力を発揮するのに必要なコンクリート厚さを比較した表である。
図3-A】普通コンクリートにおけるガンマ線の透過率、コンクリート厚さの関係図である。
図3-B】放射線を測定する器具の概要を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る放射線遮蔽用コンクリート1は、セメントペーストに金属製の骨材を均一に埋設させて重量コンクリートとにしたものである。また、放射線遮蔽用コンクリートの製造方法では、型枠の中にセメントペーストを先に投入し、その後に、金属製の骨材を投入するものである。
【実施例1】
【0016】
本発明に係る放射線遮蔽用コンクリート1は、重量コンクリートにするために、コンクリートの組成が、少なくともセメントと水と骨材の金属材とでなり、その重量比が、セメント:1、水:0.15〜0.25、骨材の金属材:5〜10、であって、そのほか、セメントペーストの流動性を高めて攪拌し易くするために、高性能減水剤を0.001〜0.01加えたものである。
【0017】
前記セメントは、例えば、シリカヒュームセメント、フライアッシュセメント、そのほか、粒子径が約10μmのセメントに、粒径が1μm以下のシリカヒューム、フライアッシュや炭酸カルシウム超微粉末を5〜20%程度と、高性能減水剤とを加えたもの等である。このように、高流度のセメントを使用する。
【0018】
放射線遮蔽容器の厚さ45mmを作成した。前記骨材は、直径が1mm以上の金属球を使用した。金属球が3mm以上になると球の配列がまばらとなり、出来上がるコンクリートの比重が小さくなる傾向が見られ、直径が1〜2mm程度が好ましかった。放射線遮蔽容器の厚さが100mm程度になると、金属球の直径が1〜6mm程度が好ましい。その一方、前記直径が1mm未満になると、金属球が沈降しないばかりか、空気を抱え込むため好ましくない。
【0019】
前記金属球以外にも、金属線材(線径が0.3mm以上、長さが1mm以上)を裁断した円柱のカットワイヤー、円柱の金属材、角柱の金属材などが使用できる。これらは、例えば、ショットブラスト加工用の鋼球、パチンコ球、ボールベアリング球、ネジ、ワッシャー、ナット等、鉄くずをスラッシャーで粉砕したもの(長さが1mm以上)、等である。また、その材質は、鉄、鋼、タングステン、鉛、などである。
【0020】
なお、前記減水剤の他に、セメントペーストに適宜量(セメントに対して1%以下)の増粘材を加えるのも、好ましいものである。これは、セメントミルクに骨材の金属材(鋼球など)を落下させたときに、この骨材の落下と共に、セメントの粒径の大きい粒子が沈み込むので、前記増粘材で、且つ材を沈下させ、且つ、粒径の大きいセメント粒子を沈下させないようにするものである。
【0021】
この様にして構成される放射線遮蔽用コンクリート1は、γ線の遮蔽率(85%)を得るのに必要なコンクリート厚さを、普通コンクリート(ポルトランドセメント)と比較すると、図2に示すように、普通コンクリートでは230mmの厚さが必要であるが、本発明に係る放射線遮蔽用コンクリート1では80mmとなる。
【0022】
これにより、放射線遮蔽用コンクリート1を使用して放射線遮蔽容器を製造すれば、大幅な省スペースが可能となり、容器重量の低減となるのである。水セメント比が0.25より多い場合は、金属球やセメントが沈降するため上部は水が多くなり、セメントの凝結が十分に進まず、強度の低い低品質な硬化体荷になる。水セメント比が0.15より少ない場合はセメントペーストの粘度が高くなりすぎるため、金属球の沈降速度が遅くなり、十分に沈降する前にセメントが固まるため、均一で比重の高いコンクリートは得られない。
【0023】
減水剤が0.002以下の場合は、水にシリカヒュームセメントを攪拌した流動性のないセメントペーストになり、金属球(粒径2mm)は空気と共に沈降するため、比重の高いコンクリートは得られなかった。減水剤を0.005以上入れるとセメントペーストの流動性は保っているものの粘度が高く、金属球(粒径2mm)が十分に沈降する前にセメントが凝固を始めるために、比重が低く不均一な骨材(金属球)分布のものしか得られなかった。
【実施例2】
【0024】
本発明に係る放射線遮蔽用コンクリート1の製造方法は、図1(A)に示すように、例えば、放射線遮蔽用容器の型枠2,3を形成し、前記型枠2,3の間の空隙4に内に、セメントと水と減水剤とを投入して攪拌する。一例として、セメント(シリカヒュームセメント、10kg、宇部三菱セメント)、水を2kg、減水剤(マスターグレニウムSP8HU、BASF社製)を0.1kgの配合にして、攪拌してセメントペースト1bとする。
【0025】
その後、前記型枠2,3との空隙4内に、セメントペースト1bに対して均一に分布して埋設されるように骨材1aを投入する。この骨材1aは、直径が1mm以上の金属球、円柱のカットワイヤー、円柱の金属材、角柱の金属材の内のいずれか一つ、若しくは、いずれか二つ以上の組み合わせである。最も好ましい骨材として、ブラスト鋼球(ストロングショットNB240、ニッチュウ)を使用して、70kg投入する。
【0026】
前記骨材1aを、重量比でセメント「1」に対して「5〜10」も投入するには、所要数量/時間(秒)で、且つ、均一に分布して埋設されるように、所要高さから落下させながら水平移動して、セメントペースト1bに投入する。前記骨材1aは、重量比で「7」程度で投入するのが好ましいが、重量比で「5〜10」にしたのは、金属球の形状や比重により、金属球の重量が変化するからである。具体的には、鋼球の骨材1aを収納したホッパーを、そのホッパーの投入口から鋼球を所望の幅で1列にして、毎秒1列から3列程度で投入するように、型枠2,3の空隙4に沿って移動する。この移動速度は、例えば、0.1〜1m/秒程度にする。打設開始時の移動速度は速くても良いが、打設終了時は上部に残るセメントペースト量が少なくなるため、ゆっくりと投入する。
【0027】
前記鋼球である骨材1aが、セメントペースト1bに落下して沈み込み、だんだんとセメントペースト1b内に下から上へと堆積して、全体に均一にして緻密に埋設されるものである。このように、本発明に係る放射線遮蔽用コンクリート1の製造法は、型枠に予めセメントペーストを投入しておいて、そこに、骨材を投入する製造方法である。これは、既に知られているプレパックド工法(骨材を先に型枠に投入して、後で、セメントペーストを投入する)とは逆の作業手順であり、この出願において逆プレパックド工法と称するものである。前記骨材投入時に加振機による振動を加えることは、金属球の体積速度を速めるとともに、緻密に堆積するのに良い効果をもたらす。
【0028】
こうして、図1(B),(C)に示すように、コンクリートの組成が、少なくともセメントと水と骨材の金属材とでなり、その重量比が、セメント:1、水:0.15〜0.25、骨材の金属材:5〜10、である。これを所要期間養生して、所要の強度を発現させる。例えば、コンクリート強度が100MPa(/mm)、曲げ強度が7MPa(/mm)、比重が5.5となるのである。このようにして得られた重量コンクリートに限界以上の荷重を加えると、爆裂的に破壊する。これを防止するためには、セメントペーストに繊維を入れると良い。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明に係る放射線遮蔽用コンクリートとその製造方法は、その比重の大なることから、放射線の遮蔽に適しているがこれに限らず、医療用機器に用いるX線遮蔽や他の力学的構造体、音響対策構造体としてなど、広くコンクリート構造体として適用できるものである。
【符号の説明】
【0030】
1 放射線遮蔽用コンクリート、 1a 骨材、
1b セメントペースト、
2 型枠(外側)、
3 型枠(内側、
4 空隙、
5 汚染土砂収納空間。
図1
図2
図3-A】
図3-B】