(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は本発明にかかる撮像装置の一実施形態の概略構成を示す図である。この撮像装置1は、ウェルプレートWPの上面に形成されたウェルWと称される窪部に注入された液体中で培養される細胞、細胞コロニー、細菌等(以下、「細胞等」と称する)の生試料を撮像する装置である。
【0013】
ウェルプレートWPは、創薬や生物科学の分野において一般的に使用されているものである。ウェルプレートWPは平板状のプレート形状を有しており、該プレートの上面に開口を有する筒状のウェルWが、ウェルプレートWPに複数配列されている。各ウェルWは、例えば断面が略円形を有し、底面が透明かつ平坦となっている。ウェルWの断面および底面の形状はこれに限定されない。例えば断面が矩形であってもよく、また底面が湾曲したものであってもよい。
【0014】
1つのウェルプレートWPにおけるウェルWの数は任意であるが、例えば96個(12×8のマトリクス配列)のものを用いることができる。各ウェルWの直径および深さは代表的には数mm程度である。なお、この撮像装置1が対象とするウェルプレートのサイズやウェルの数はこれらに限定されるものではなく任意であり、例えば6ないし384穴のものが一般的に使用されている。また、複数ウェルを有するウェルプレートに限らず、例えばディッシュと呼ばれる平型の容器で培養された細胞等の撮像にも、この撮像装置1を使用することが可能である。
【0015】
ウェルプレートWPの各ウェルWには、培地Mとしての液体が所定量注入され、この液体中において所定の培養条件で培養された細胞等が、この撮像装置1の撮像対象物となる。培地Mは適宜の試薬が添加されたものでもよく、また液状でウェルWに投入された後ゲル化するものであってもよい。後述するように、この撮像装置1では、例えばウェルWの内底面で培養された細胞等を撮像対象物とすることができる。常用される一般的な液量は、50ないし200マイクロリットル程度である。
【0016】
撮像装置1は、装置1の上部に配置される照明部10と、照明部10の下方でウェルプレートWPを保持するホルダ12と、ホルダ12の下方に配置される撮像部13と、これら各部の動作を制御するCPU141を有する制御部14とを備えている。ホルダ12は、試料を培地Mとともに各ウェルWに担持するウェルプレートWPの下面周縁部に当接してウェルプレートWPを略水平姿勢に保持する。
【0017】
照明部10は、2つの光源101,111を備えている。光源101,111として、例えば白色LED(Light Emitting Diode)を用いることができる。光源111から出射される光はコレクタレンズ112を介してビームスプリッター104に入射する。一方、光源
101から出射される光は反射ミラー102により光路を折り返され、コレクタレンズ103を介してビームスプリッター104に入射する。ビームスプリッター104から出射される光線は反射ミラー105によって進行方向が(−Z)方向、すなわち鉛直下向き方向に変えられ、コンデンサレンズ106を介して下向きに出射される。出射された光は、ホルダ12に支持されたウェルプレートWPの上方から少なくとも1つのウェルWに入射し、ウェルW内の撮像対象物を照明する。
【0018】
このように、この実施形態の照明部10は、光源101をその光源とし、反射ミラー102、コレクタレンズ103、ビームスプリッター104、反射ミラー105およびコンデンサレンズ106などからなる第1の照明光学系100と、光源111をその光源とし、コレクタレンズ112、ビームスプリッター104、反射ミラー105およびコンデンサレンズ106などからなる第2の照明光学系110との2つの照明光学系が、一部の構成を共有した状態で併存している。
【0019】
光源101,111は制御部14に設けられた光源制御部146により点灯制御され、光源制御部146からの制御信号に応じて選択的に点灯する。したがって、照明部10は、光源101を有する第1の照明光学系100から出射される第1の照明光、および光源111を有する第2の照明光学系110から出射される第2の照明光を、選択的にウェルWに入射させることができる。第1の照明光と第2の照明光とはビームスプリッター104によって合成され、これらは同軸に出射可能となっている。すなわち、コンデンサレンズ106から出射される第1の照明光の中心軸と第2の照明光の中心軸とが一致している。
【0020】
図2は照明光学系の詳細な構成および光線図を示す図である。
図2では、光路を明瞭に示すため、上記のように一部構成を共有する第1の照明光学系100と第2の照明光学系110とを分離して記載している。また、同じ目的から、実機では反射ミラーおよびビームスプリッターで折り曲げられる光軸が直線となるように図示している。このため、光軸を折り曲げる機能を有する反射ミラー102,105およびビームスプリッター104の記載が省略されている。
【0021】
第1の照明光学系100では、光源101から出射される光がコレクタレンズ103によって集光され、コンデンサレンズ106を介して、撮像対象物である細胞等が存在する試料面に向け出射される。通常の使用においては試料面はウェル底面Wbである。コレクタレンズ103は、コレクタレンズ103とコンデンサレンズ106との間に光源101の像を結像させる。すなわち、光源像C1がコレクタレンズ103とコンデンサレンズ106との間に作られる。また、光源像C1がコンデンサレンズ106の前側(光源側)焦点位置に位置し、コンデンサレンズ106から試料面に向かう主光線が鎖線で示される光軸と平行となるように、コレクタレンズ103およびコンデンサレンズ106が配置される。すなわち、第1の照明光学系100はテレセントリック照明をなす。
【0022】
光源101の光出射面には必要に応じて開口絞り107が配置され、コレクタレンズ103によって形成される光源像C1の大きさが規定される。開口絞り107により、照明のNA(開口数)を調整することができる。また、コレクタレンズ103の後側で共役
点よりも前側には、必要に応じて視野絞り108が配置される。これにより、撮像に必要な範囲のみを照明して、撮像光学系でのフレア発生を防止することができる。
【0023】
第2の照明光学系110では、光源111から出射される光がコレクタレンズ112によって集光され、コンデンサレンズ106を介して試料面に向け出射される。コレクタレンズ112には、光源111の光源像C2がコンデンサレンズ106の後側で、試料面よりも前側に位置するような屈折特性が与えられる。
【0024】
光源111の光出射面には必要に応じて開口絞り113が配置され、コレクタレンズ112およびコンデンサレンズ106によって形成される光源像C2の大きさが規定される。開口絞り113により、照明光のNAを調整することができる。また、コレクタレンズ112とコンデンサレンズ106との間には、必要に応じて視野絞り114が配置される。これにより、撮像に必要な範囲のみを照明して、撮像光学系でのフレア発生を防止することができる。
【0025】
2つの照明光学系100,110は、コンデンサレンズ106を共用する。これを可能とするためのビームスプリッター104は、それぞれのコレクタレンズとコンデンサレンズとの間に設けられる。より具体的には、第1の撮像光学系100においてはコレクタレンズ103(視野絞り108が設けられる場合には視野絞り108)よりも後側でコンデンサレンズ106よりも前側、かつ第2の撮像光学系110においてはコレクタレンズ112(視野絞り114が設けられる場合には視野絞り114)よりも後側でコンデンサレンズ106よりも前側となる条件が満たされる位置に、ビームスプリッター104が配置される。
【0026】
図1に戻って撮像装置1の説明を続ける。ホルダ12により保持されたウェルプレートWPの下方に、ウェルW内の細胞等の撮像対象物を撮像する撮像部13が設けられる。撮像部13では、ウェルプレートWPの直下位置に対物レンズ131が配置されている。対物レンズ131の光軸は鉛直方向に向けられ、第1および第2の
照明光学系100,110の光軸と同軸となっている。照明部10から出射されウェルWの上方から液体に入射した光が撮像対象物を照明し、ウェルW底面から下方へ透過した光が対物レンズ131に入射する。対物レンズ131の下方には、低倍率用アフォーカル系132および高倍率用アフォーカル系133が切り替え可能に設けられている。
【0027】
すなわち、低倍率用アフォーカル系132および高倍率用アフォーカル系133は、図示しない駆動機構により水平方向に一体的に移動可能となっており、その一方が対物レンズ131の直下位置に選択的に位置決めされる。図において実線で示すように、高倍率用アフォーカル系133が対物レンズ131の直下位置に位置決めされた状態では、対物レンズ131および高倍率用アフォーカル系133を含む高倍率の撮像光学系が構成される。このとき、撮像対象物の比較的狭い範囲を高倍率で撮像することができる。一方、図において点線で示すように、低倍率用アフォーカル系132が対物レンズ131の直下位置に位置決めされた状態では、対物レンズ131および低倍率用アフォーカル系132を含む低倍率の撮像光学系が構成され。このとき、撮像対象物の比較的広い範囲を低倍率で撮像することができる。
【0028】
低倍率用アフォーカル系132または高倍率用アフォーカル系133から出射される光は、反射ミラー134により折り返され、結像レンズ135を介して撮像素子136に入射する。後述するように、対物レンズ131、低倍率用アフォーカル系132および結像レンズ135等からなる撮像光学系は、物体側ハイパーセントリックな光学特性を有している。一方、対物レンズ131、高倍率用アフォーカル系133および結像レンズ135等からなる撮像光学系は、物体側テレセントリックな光学特性を有している。
【0029】
撮像素子136は二次元の受光面を有するエリアイメージセンサであり、例えばCCDセンサまたはCMOSセンサを用いることができる。結像レンズ135により撮像素子136の受光面に結像する撮像対象物の像が、撮像素子により撮像される。撮像素子136は、受光した光学像を電気信号に変換し画像信号として出力する。このような撮像方法では、撮像対象である細胞等に対し非接触、非破壊かつ非侵襲で撮像を行うことができ、撮像による細胞等へのダメージを抑えることができる。撮像部13の各部の動作は、制御部14に設けられた撮像制御部143により制御される。
【0030】
撮像素子136から出力される画像信号は、制御部14に送られる。すなわち、画像信号は制御部14に設けられたADコンバータ(A/D)144に入力されてデジタル画像データに変換される。CPU141は、受信した画像データに基づき適宜の画像処理を実行する。制御部14はさらに、画像データを記憶保存するための画像メモリ147と、CPU141が実行すべきプログラムやCPU141により生成されるデータを記憶保存するためのメモリ148とを有しているが、これらは一体のものであってもよい。また、大容量ストレージと半導体メモリとの適宜の組み合わせにより、画像メモリ147およびメモリ148が実現されてもよい。CPU141は、メモリ148に記憶された制御プログラムを実行して装置各部を動作させることにより、各種の撮像処理や演算処理を行う。
【0031】
撮像部13は、制御部14に設けられたメカ制御部145により水平方向および鉛直方向に移動可能となっている。具体的には、メカ制御部145がCPU141からの制御指令に基づき駆動機構15を作動させ、撮像部13を水平方向に移動させることにより、撮像部13がウェルWに対し水平方向に移動する。また鉛直方向への移動によりフォーカス調整がなされる。撮像視野内に1つのウェルWの全体が収められた状態で撮像されるときには、メカ制御部145は、対物レンズ131の光軸が当該ウェルWの中心と一致するように、撮像部13を水平方向に位置決めする。
【0032】
また、駆動機構15は、撮像部13を水平方向に移動させる際、図において点線矢印で示すように照明部10を撮像部13と一体的に移動させる。すなわち、照明部10は、出射光の中心が対物レンズ131の光軸と略一致するように配置されており、撮像部13が水平方向に移動するとき、これと連動して移動する。これにより、どのウェルWが撮像される場合でも、照明部10からの光線束の中心が常に対物レンズ131の光軸上に位置することとなり、各ウェルWに対する照明条件を一定にして、撮像条件を良好に維持することができる。
【0033】
その他に、制御部14には、インターフェース(IF)部142が設けられている。インターフェース部142は、ユーザからの操作入力の受け付けや、ユーザへの処理結果等の情報提示を行うユーザインターフェース機能のほか、通信回線を介して接続された外部装置との間でのデータ交換を行う機能を有する。図示を省略しているが、ユーザインターフェース機能を実現するために、インターフェース部142には、ユーザからの操作入力を受け付ける入力受付部と、ユーザへのメッセージや処理結果などを表示出力する表示部とが接続されている。
【0034】
なお、ここに述べた制御部14の構成は、一般的なコンピュータ装置のものと基本的に同じである。したがって、撮像装置1に備えられる制御部14は、上記したハードウェアを備えた専用装置であってもよく、またパーソナルコンピュータやワークステーション等の汎用処理装置に、後述する処理機能を実現するための制御プログラムを組み込んだものであってもよい。すなわち、この撮像装置1の制御部14として、汎用のコンピュータ装置を利用することが可能である。汎用処理装置を用いる場合、撮像装置1には、撮像部13等の各部を動作させるために必要最小限の制御機能が備わっていれば足りる。
【0035】
図3は第1および第2の照明光学系から出射される照明光を示す図である。より具体的には、
図3(a)は第1の照明光学系100から出射される第1の照明光L1を示し、
図3(b)は第2の照明光学系110から出射される第2の照明光L2を示している。
図3(a)に示すように、光源101を光源とする第1の照明光学系100においてコンデンサレンズ106から出射される第1の照明光L1は、撮像対象物が分布する試料面であるウェルWの底面Wbに対し主光線が平行な状態で入射する。すなわち、第1の照明光学系100は、射出瞳位置が無限遠にあるテレセントリック照明をなす。
【0036】
一方、
図3(b)に示すように、光源111を光源とする第2の照明光学系110においてコンデンサレンズ106から出射される第2の照明光L2は、第2の照明光学系110の光軸に向かう方向に進行し、ウェル底面Wbよりも上方、つまり照明光学系から見て手前側で光軸と交差する。すなわち、第2の照明光L2の光路において光源111(より厳密には開口絞り113)の像が結像する射出瞳位置Ppは、第2の照明光学系110から見て、撮像対象物が分布する試料面であるウェル底面Wbよりも近い位置にある。
【0037】
より詳しくは、第2の照明光学系110による照明下では、照明光L2を出射するコンデンサレンズ106の出力端と撮像光学系の対物レンズ131との間に光源111の像が結像する。つまり、この位置に光源111に対する共役点がある。そして、この共役点と対物レンズ131との間に、撮像対象物が分布する試料面であるウェル底面Wbが位置するように、ホルダ12はウェルプレートWPを保持する。このため、ウェル底面Wbに入射する照明光の主光線は、第2の照明光学系110および対物レンズ131の光軸から遠ざかる方向の方向成分を有する。第2の照明光学系110において、射出瞳位置と、光源111の像の位置と、光源111に対する共役点の位置とは一致している。
【0038】
このように、2つの照明光学系100,110では射出瞳位置が互いに異なっており、後述するように、ウェルWの撮像においてはこれらが必要に応じて使い分けられる。なお、撮像においてはストロボ照明が用いられる。つまり、照明光は撮像部13による撮像が行われる時に短時間のみ出射される。したがって、光源制御部146は、2つの光源101,111のいずれを点灯させるかを選択することにより照明光の切り替えを実現することができる。以下、これらの照明光学系100,110の使い分けの具体的態様について説明する。
【0039】
図4はウェル撮像時の様子を示す図である。より具体的には、
図4(a)はウェル撮像時の光の進路を示す図であり、
図4(b)はウェルと撮像視野との関係を示す図である。撮像対象物たる細胞等を担持するウェルWには、液状で注入された培地Mが入っている。したがって、ウェルWの上方から入射する照明光Lは培地Mの液面を介して撮像対象物のあるウェル底面Wb(試料面)に入射する。液面は一般に上に凹のメニスカスを形成しており、これにより照明光Lは屈折しウェルWの中心から外向きに曲げられる。ウェルWの中心付近では屈折は小さく、ウェルWの周縁部に近いほど屈折も大きくなる。
【0040】
対物レンズ131を含む撮像光学系は物体側ハイパーセントリック光学系をなしており、このように外向きに曲げられた光を効率よく集光し撮像素子136に導く機能を有している。すなわち、レンズの光軸から離れた位置において、斜め外向きに入射する光を撮像素子136に結像させることができる。このため、この撮像光学系は、
図4(b)に示すように1つのウェルW全体を撮像視野Vに収めて撮像する場合に好適なものである。この点は特許文献1にも開示されている通りである。
【0041】
図4(b)に示すように1つのウェルW全体を撮像視野Vに含めることができるのは、比較的口径の小さなウェルWを低倍率で撮像する場合である。一方、例えばより口径の大きなウェル(例えば6ウェルプレートにおけるウェル)に担持された撮像対象物を撮像する場合などには、撮像対象とする領域のサイズが撮像視野のサイズに対して相対的に大きくなり、ウェルW全体を撮像視野Vに含めることができない場合もあり得る。
【0042】
図5および
図6は撮像視野のサイズよりもウェルサイズが大きい場合の撮像の様子を示す図である。より具体的には、
図5はウェル周縁部を撮像視野に含まない場合の撮像を示し、
図6はウェル周縁部を撮像視野に含む場合の撮像を示す。ここでは、これまで説明してきたよりも口径の大きなウェルWを低倍率で撮像する場合について説明する。例えばディッシュと呼ばれる大口径の浅型容器に担持された撮像対象物を撮像する場合のように、撮像対象とする領域のサイズが撮像視野Vのサイズよりも大きくなる場合については同様の考え方を適用することができる。
【0043】
撮像すべき領域が撮像視野Vよりも広いとき、当該領域を複数の画像に分割して撮像し、それらの画像を画像処理によって合成することで、撮像すべき領域の全体を表す画像を作成することが考えられる。この場合、作成された画像において所期の画像品質を確保するためには、合成前の個々の画像の品質をより良好なものとしておく必要がある。このために留意すべき事項について、次に説明する。
【0044】
図5に示すように、撮像領域VがウェルWの周縁部Wpから離れた中央部の領域のみを含む場合、培地M表面のメニスカスが光路に及ぼす影響は十分小さい。このため、テレセントリック照明では、対物レンズ131の光軸付近に入射する光は集光されて撮像素子136に入射するのに対し、光軸から離れた位置では入射光と光学系との主光線の傾きの違いに起因するミスマッチが生じる。
【0045】
すなわち、光軸から離れた位置では、対物レンズ131側では液面での屈折を前提として、図に点線で示すように主光線が外向きに傾いた光を受光する構成となっているのに対し、ウェルWを通過した光はメニスカスによる屈折を受けず直進するため、入射光における主光線の傾きと、受光側での主光線の傾きとが一致していない。このことに起因して、特に撮像視野Vの周縁部で画質が劣化する、具体的には画像が暗くなったり対物レンズの集光範囲の一部方向からしか照明光が入らないことによる像の見え方の変化が生じたりすることがある。
【0046】
一方、
図6に示すように、撮像領域VがウェルWの周縁部Wpを含むあるいはこれにごく近い領域に設定されたとき、ウェル周縁部Wpの近傍ではメニスカスにより屈折した光の主光線の傾きと受光側の主光線との傾きがほぼ一致し効率よく集光することができる。これに対して、対物レンズ131の光軸を挟んでウェル周縁部Wpとは反対側のウェル中央部に近い部分では、
図5の場合と同様に、メニスカスによる屈折を想定した主光線の傾きを有する対物レンズ131に対して直進した光が入射するため、やはり画質の劣化が生じる。
【0047】
撮像部13の物理的な撮像視野Vのうち必要な画像品質を確保することのできる領域を実効的な撮像視野と考えると、テレセントリック照明とハイパーセントリック撮像光学系との組み合わせでは、上記のように撮像視野V内の領域がメニスカスの影響を受けていないとき、実効的な撮像視野はより狭くなってしまうことになる。そこで、この実施形態では、テレセントリック照明をなす第1の照明光学系100とは別に、メニスカスの影響がない場合に良好な画像品質を得られる第2の照明光学系110を設けている。
【0048】
図7は第2の照明光学系を用いた撮像を示す図である。前記したように、第2の照明光学系110においてコンデンサレンズ106から出射される照明光L2は、主光線が光軸方向に向かう傾きを有している。このため、メニスカスの影響がないとき、ウェルWの底面Wbに入射する照明光の主光線は互いに平行なものとはならない。この実施形態では第2の照明光学系110の射出瞳位置Ppが第2の照明光学系110から見てウェル底面Wbよりも手前側にあるため、ウェル底面Wbに入射する照明光L2では、その主光線は対物レンズ131の光軸から外へ向かって広がるものとなる。
【0049】
このときの主光線の傾きが対物レンズ131側の主光線の傾きと一致するようにしておけば、
図7に示すように、ウェル底面Wbを透過した光は対物レンズ131により集光されて、最終的に撮像素子136に導かれる。したがって、撮像視野Vの全体において良好な画像品質で撮像を行うことができ、物理的な撮像視野Vの全体を実効的な撮像視野として利用することが可能となる。
【0050】
照明光の入射方向を撮像光学系の特性に合わせるという観点では、例えば対物レンズ131の入射瞳位置に点光源を配置することによっても原理上は同様の効果を得ることは可能である。しかしながら、点光源を試料面の直上位置に配置する必要性から、光源とウェルプレートWPとの干渉や、光源が発する熱により試料を変質させる等の問題が生じるおそれがあり、現実的ではない。
【0051】
上記実施形態のように、光源111から出射される光を複数レンズでリレーする照明光学系により上記照明を構成するようにすれば、レンズ、絞り等を適宜に組み合わせることにより、撮像光学系の特性に応じて最適化された照明光学系を実現することが可能である。例えば、照明光学系110における光源111の共役点と、対物レンズ131の入射瞳位置とが一致するようにすれば、共役点を超えて光軸から離れる方向に進む照明光を対物レンズ131で効率よく撮像素子136に導くことが可能となる。
【0052】
このように、この実施形態の撮像装置1では、ハイパーセントリック特性を有する撮像光学系と組み合わせる照明光学系として、メニスカスの影響を受ける領域を撮像するのに適した第1の照明光学系100と、メニスカスの影響がない領域を撮像するのに適した第2の照明光学系110とが装備されている。撮像部13の撮像視野Vよりも広い領域を撮像する必要がある場合には、メニスカスの影響がある領域とない領域とで照明光学系を使い分けながら複数の画像を撮像することで、これらを合成した画像の品質を良好なものとすることが可能となる。
【0053】
図8は1つのウェルを複数画像に分割する方法を例示する図である。より具体的には、
図8(a)はウェルWを複数画像に分割する際の画像の割り付けの例を示し、
図8(b)はそのような画像を得るための撮像部13の走査経路を示す図である。
図8(a)では、部分的に重なり合うことでウェルWの全体をカバーする複数画像の各々を実線矩形で示し、複数の矩形を識別しやすくするために、各矩形の対角線を点線で示すとともに、その重心位置を黒丸印で示している。矩形の重心位置は、撮像時に対物レンズ131の光軸がウェル底面Wbと交わる位置に相当する。
【0054】
図8(a)に示す割り付け例では、ウェルW全体が11枚の画像に分割される。ウェルWの中央部では、撮像視野内にウェル周縁部Wpを含まないように画像の配置が設定される。このようにウェル周縁部Wpを含まない画像は、第2の照明光学系110を用いて撮像されるべきである。一方、撮像視野内にウェル周縁部Wpを含んで撮像される画像では、少なくとも画像の重心がウェルWの内部に位置するように画像が配置される。そして、撮像は第1の照明光学系10
0を用いて行われるべきである。こうすることで、重心位置よりも外側(ウェル周縁部Wpに近い側)で照明側と受光側との間での主光線の傾きの差を小さくすることができ、画質劣化を抑えることができる。
【0055】
図8(b)は、ウェルWを複数の画像に分割して撮像する際の撮像部13の移動経路の例を示している。この実施形態の撮像装置1では、ホルダ11に載置されたウェルプレートWPに対し、撮像部13と照明部
10とが一体的に水平移動する。ウェルプレートWPの底面に沿って撮像部13をX方向およびY方向に移動させながら、適宜の位置で撮像を行うことにより、
図8(a)に示す複数画像を取得することができる。
図8(b)はこのときの撮像部13の走査移動経路、より正確には撮像部13に設けられた対物レンズ131の光軸とウェル底面Wbとの交点の軌跡を示している。
【0056】
黒丸印で示される点P1〜P11は、それぞれ
図8(a)に示す複数画像の重心位置に対応している。また、各画像の重心位置は当該画像が撮像される際の対物レンズ131の光軸の位置でもあるから、対物レンズ131の光軸がこれらの点P1〜P11を順に通過するように撮像部13(および照明部
10)の走査移動レシピを作成し、対物レンズ131の光軸位置がこれらの点P1〜P11に到達した時に撮像部13による撮像を行うようにすれば、一連の走査移動により必要な画像を取得することができる。この意味から、点P1〜P11に対応する撮像部13の位置を「撮像位置」と称する。画像の割り付けが決まれば、それに応じて撮像位置を設定することができる。また、撮像部13の走査移動における対物レンズ131の光軸位置の始点を符号Ps、終点を符号Peにより表す。
【0057】
図9はこの実施形態における撮像処理を示すフローチャートである。CPU141が予め作成された制御プログラムに基づいて装置各部に所定の動作を行わせ、
図9に示す撮像処理を実行することにより、例えば
図8(a)に示す複数の画像が取得される。最初に、メカ制御部145からの制御指令に応じて作動する駆動機構15により、撮像部13が所定のスタート位置に位置決めされる(ステップS101)。
図8(b)に示す始点Psは、このときの対物レンズ131の光軸位置に対応する。なお、ここでは撮像部13の走査移動についてのみ説明するが、前記した通り、照明光の光中心と対物レンズ
131の光軸とが常に一致するように、撮像部13の移動に伴って照明部10も移動する。
【0058】
続いて、予め設定された走査移動レシピに基づき、ウェルWに対する撮像部13の走査移動が開始される(ステップS102)。撮像部13が終点Psに対応する終了位置に到達すれば、処理は終了する(ステップS103)。終了位置に到達するまでの間は、撮像部13が点P1〜P11に対応する撮像位置のいずれかに到達する度に(ステップS104)、ステップS105〜S107が実行されて撮像が行われる。撮像部13がどの位置にあるかについては、例えば撮像部13に装着されたポジションセンサ(図示せず)からの出力信号に基づき検出することができる。
【0059】
すなわち、現在撮像部13が位置する撮像位置に応じて照明光学系が選択される(ステップS105)。具体的には、現在の撮像部13の位置において撮像視野Vにウェル周縁部Wpが含まれる場合には第1の照明光学系100が、含まれない場合には第2の照明光学系110が選択される。
図8に示す例では、点P5〜P7に対応する撮像位置では第2の照明光学系110が、それ以外の点P1〜P4、P8〜P11に対応する撮像位置では第1の照明光学系100が選択される。
【0060】
続いて、選択された照明光学系の光源が所定時間点灯されることで撮像対象物がストロボ照明され、これと同期して撮像素子136が撮像を行うことで、1枚の画像が取得される(ステップS106)。撮像素子136から出力される画像信号をADコンバータ144によりデジタル化して得られた画像データは画像メモリ147に記憶される(ステップS107)。撮像部13が終了位置に到達するまで上記処理が繰り返されることで、点P1〜P11の各々に対応する撮像位置での撮像が行われ、11枚の画像が取得される。
【0061】
ストロボ照明下で撮像が行われるため、撮像のために撮像部13の走査移動を一時的に停止させる必要はなく、駆動機構15は走査移動レシピにしたがい一定速度で撮像部13を走査移動させればよい。各点P1〜P11を結ぶ経路の長さが最小となるように走査移動レシピを最適化することで、撮像に要する時間を短縮することができる。
【0062】
こうして得られた複数の画像のうち、ウェル周縁部Wpを含むものは第1の照明光学系100による照明下で、またウェル周縁部Wpを含まないものは第2の照明光学系110による照明下で撮像されている。このため、それぞれの画像において、メニスカスの有無と照明光学系とのミスマッチに起因する画像品質の低下が抑えられる。そして、各画像から画像品質の良好な部分を抽出して合成することで、ウェルW全体の画像を良好な品質で作成することができる。複数の画像が重複する領域では、当該領域がウェルWに対して占める位置と使用された照明光学系とに鑑みてより画像品質が優れている方の画像を採用するようにすればよい。
【0063】
以上のように、この実施形態では、撮像部13の撮像視野V内にメニスカスの影響が現れている場合、およびメニスカスの影響がない場合のそれぞれに対応する2つの照明光学系100,110を設け、撮像位置に応じてそれらを切り替えながら撮像を行う。こうすることにより、撮像対象となる領域のうち、メニスカスの影響がある領域、ない領域のいずれにおいても、画像品質の良好な画像を取得することが可能である。
【0064】
以上説明したように、この実施形態の撮像装置1においては、照明部10が本発明の「照明手段」として、ホルダ12が本発明の「保持手段」として、制御部14が本発明の「制御手段」として、駆動機構15が本発明の「移動手段」としてそれぞれ機能している。また、反射ミラー102、コレクタレンズ103、ビームスプリッター104、反射ミラー105およびコンデンサレンズ106が一体として本発明の「照明光学系」の1つとして機能している。また、コレクタレンズ1112、ビームスプリッター104、反射ミラー105およびコンデンサレンズ106が一体として本発明の「照明光学系」の他の1つとして機能している。
【0065】
また、対物レンズ131、低倍率用アフォーカル系132、高倍率用アフォーカル系133、反射ミラー134、結像レンズ135が一体として本発明の「撮像光学系」として機能し、撮像素子136が本発明の「二次元撮像素子」として機能している。また、上記実施形態では、ウェルプレートWPが本発明の「試料容器」に相当している。
【0066】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記実施形態の照明部10は、テレセントリック照明をなし射出瞳位置が無限遠である第1の照明光学系100と、射出瞳位置Ppがウェル底面Wbよりも手前側にある第2の照明光学系110との2組の照明光学系を備えている。しかしながら、照明光学系における射出瞳位置はこれらに限定されず、射出瞳位置の異なる2組以上の照明光学系が設けられればよい。射出瞳位置の差が大きいほど効果は顕著である。また3組以上の照明光学系を備えていてもよい。例えば、高倍率撮像のために、より照射範囲が限定された照明光学系がさらに備えられてもよい。
【0067】
また、上記実施形態では2組の照明光学系100,110に対応して2つの光源101,111が設けられているが、単一の光源と2組の光学系とにより2組の照明光学系が構成されてもよい。また、上記実施形態では2つの照明光学系を構成する部材が一部共通となっているが、完全に独立した2組の照明光学系が設けられてもよい。
【0068】
また、上記した撮像処理における画像の割り付けは単に説明のためのものであり、実際の配置はこれに限定されるものではない。また、上記の割り付け例では1つのウェルのみを撮像する場合を説明しているが、複数のウェルを一連の走査移動で一括して撮像できるように、走査移動レシピが構成されてもよい。
【0069】
以上、具体的な実施形態を例示して説明してきたように、本発明において、照明光学系の1つは、撮像対象物に対し、主光線が撮像光学系の光軸に平行となる光を入射させるテレセントリック照明をなすものであってもよい。このような照明光学系では、液体表面での屈折により外向きに曲げられることにより、主光線の傾きがハイパーセントリック特性を有する撮像光学系の主光線の傾きに近づくことになるため、撮像視野内にメニスカスの影響が現れている場合に良好な画像品質を得ることができる。
【0070】
この場合さらに、複数の照明光学系は、射出瞳位置が当該照明光学系から見て撮像対象物よりも近い側にあるものを含んでもよい。このような照明光学系では、メニスカスの影響を受けない場合に、ハイパーセントリック特性を有する撮像光学系の主光線の傾きと同等の傾きを有する照明光を撮像対象物に入射させることができる。
【0071】
また例えば、複数の照明光学系からの出射光が撮像光学系の光軸と同軸であってもよい。出射光が撮像光学系の光軸と同軸となるようにすれば、光軸上およびその周囲の各位置で、照明光学系と撮像光学系との間で主光線の傾きを合わせやすくすることができる。
【0072】
また例えば、試料容器の底面における撮像視野が、試料容器の底面よりも小さいものであってもよい。撮像視野が試料容器の底面より小さく、試料容器の底面全体を撮像視野に収めることができない場合でも、複数の画像に分割することで試料容器内の全体を撮像することが可能である。この場合、撮像位置によってメニスカスの影響が現れる場合とそうでない場合とがあり得る。本発明では、複数の照明光学系を切り替えて使用することでメニスカスの影響がある場合、ない場合のいずれにおいても画質の良好な画像を取得することができる。このため、このように撮像すべき領域を複数画像に分割して撮像する場合に、特に顕著な効果を奏するものである。
【0073】
また例えば、保持手段は、試料容器を略水平姿勢に保持し、照明手段は保持手段に保持される試料容器の上方に配置されて、撮像対象物を上方から照明し、
二次元撮像素子は、保持手段に保持される試料容器の下方に配置されて、液体の液面を介して照明手段から入射し試料容器の底面から出射される光を撮像光学系に入射させて撮像を行う構成であってもよい。このような構成によれば、略水平な液面に対して鉛直方向の光軸を設定することができ、装置各部の支持や位置合わせが行いやすくなる。