【文献】
医療機器「トレライトNV(医療機器承認番号22200BZX00871000)」の添付文書,東レ株式会社,2011年 5月 1日,第4版,pp.1−4
【文献】
医療機器「アセテートホローファイバーダイアライザー(医療機器承認番号20100BZZ01349000)」の添付文書,ニプロ株式会社,2007年 9月12日,第3版,pp.1−3
【文献】
医療機器「ホローファイバーダイアライザーFDシリーズ(100シリーズ、ウェットタイプ)(医療機器承認番号21300BZZ00426000)」の添付文書,日機装株式会社,2008年 4月15日,第9版,pp.1−4
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1〜7のいずれか1項に記載のプライミング方法を中空糸膜モジュールに施した後に、細胞懸濁液を中空糸膜モジュールの導出入口より導入し、細胞を含まない濾液を濾液排出口より排出しながら、細胞懸濁液を濃縮する工程、を含む細胞濃縮液の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のプライミング方法とは、導入口、導出口及び濾液排出口を有する容器に中空糸膜が充填された中空糸膜モジュールをプライミングする方法である。
【0012】
本発明で用いる中空糸膜モジュールは、導入口、導出口及び濾液排出口を有する容器に中空糸膜が充填されたタイプのものである。前記中空糸膜モジュールでは、前記導入口(または導出口)から中空糸膜の内側にプライミング液が導入される。プライミング液は、中空糸膜の内側の空間を満たしながら、一部は中空糸膜壁に設けられた微細孔を通過して中空糸膜の外側に排出され、前記容器と前記中空糸膜との間の空間に満たされる。そして、中空糸膜の内側のプライミング液は前記導出口(または導入口)を介して、中空糸膜の外側に排出されたプライミング液は濾液排出口を介して、細胞懸濁液に置き換わるかたちでそれぞれ中空糸膜モジュールから排出される。
【0013】
また、前記導入口および導出口は前記中空糸膜の内側を通じで連通している。このような構成とすることで、細胞懸濁液などの液体は前記導入口から前記中空糸膜の内側の中空部分を通り、導出口から中空糸膜モジュールの外に導出され、例えば、中空糸膜の内側を細胞懸濁液が通過した際に、液体成分が中空糸膜壁を通じて外側に移行することで、細胞濃縮が実施できる。
【0014】
なお、プライミング工程において中空糸膜モジュールに導入されるプライミング液の導入口は、次いで行う細胞濃縮工程で導入される細胞懸濁液の導出口になることがあることから、本発明では、濾過するための液体用の出入口の一方の口を「導入口」と示し、他方の口を「導出口」と示す。
ただし、以降の説明では、プライミング液を中空糸膜モジュールに導入するための口を「導入口」、プライミング液を中空糸膜モジュールから導出するための口を「導出口」として説明する。
【0015】
前記中空糸膜モジュールとしては、前記構成を有するものであればよく特に限定はないが、例えば、
図1に示す中空糸膜モジュールAが挙げられる。中空糸膜モジュールAを構成する容器1は、胴部2とその両側の頭部3、頭部9からなり、頭部9付近には濾液排出口4が備えられている。この濾液排出口4の位置は頭部9や胴部2の端部に備えられていてもよいし、胴部2の中央部に備えられていてもよい。濾液排出口4の数も特に限定はなく、プライミング後に分離や濾過の用途で中空糸膜モジュールが使用されることを鑑みると、濾液排出口4は1つ以上備えていることが好ましく、濾過速度を高め短時間で分離や濾過を完遂するために、
図2に示す中空糸膜モジュールBのように2つの濾液排出口4、4’またはそれ以上備えていることがより好ましい。また、中空糸膜モジュールに大気開放弁を設ける必要はなく、閉鎖系を維持したままプライミングすることができる。前記中空糸膜モジュールBでは、濾液排出口4と濾液排出口4’の位置は、中空糸膜モジュールBの導入口8aから略同じ距離に設けられているが、別の位置に設けられていてもよい。また、中空糸膜モジュールBで生じた濾液は、前記濾液排出口4、4’からポンプ11bを駆動させることで廃液容器13に導入される。
なお、前記中空糸膜モジュールBは、濾液排出口4’を設け、かつ導出口8b側にポンプ11aおよび圧力計14aを設けるかわりに、導入口8a側の回路16にポンプ11a’および圧力計14a’を設けた以外は、前記中空糸膜モジュールAと同じ構成を有する。したがって、中空糸膜モジュールBの構成について、中空糸膜モジュールAと共通の構成については、特に必要がない限り説明を省略する。
【0016】
また、
図1では、下側の頭部9に導入口8a、上側の頭部3に導出口8bが設けられている。導入口8aとは、中空糸膜の内側にプライミング液を導入する入口のことであり、導出口8bとは、プライミング液を中空糸膜の内側より導出する出口のことである。胴部2内部には、装填された中空糸膜の束5と、頭部3の内部に設けられた中空糸膜の束5を胴部2内部に固定するとともに中空糸膜の開口端6を形成している樹脂層部7と、更に頭部9の内部に設けられたこれと同等の構造とを有している。この樹脂層部7および開口端6は、頭部3(或いは頭部9)に被冠された構造となっており、導入口8a、導出口8bと濾液排出口4とが中空糸膜を構成する壁材により隔てられ、連続しない構造となっている。
【0017】
なお、
図1に示す中空糸膜モジュールAは、各部分を容器1の胴部2、頭部3、頭部9というように区別しているが、これは便宜的なものである。設計上、容器1の胴部2、頭部3および頭部9が別々のパーツから形成されている場合でも、導入口8aと導出口8bが中空糸膜を構成する壁材で隔てられることなく連続しており、更に導入口8aおよび導出口8bと濾液排出口4とが中空糸膜を構成する壁材により隔てられている構造を備えていれば、各種構造をとることが可能である。
【0018】
前記中空糸膜モジュールAは、細胞への細菌の混入を防ぐ観点から、滅菌したものでもよい。滅菌方法は、特に限定されず、γ線滅菌、電子線滅菌、EOG滅菌、高圧蒸気滅菌などの医療用具の滅菌に汎用されている滅菌方法を好適に用いることができる。
【0019】
中空糸膜モジュールの容器の素材として、アクリロニトリルブタジエンスチレンターポリマー等のアクリロニトリルポリマー;ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンのコポリマー、ポリ塩化ビニル等のハロゲン化ポリマー;ポリアミド、ポリイミド、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルクロリドアクリルコポリマー、アクリロニトリル、ブタジエンスチレン、ポリスチレン、ポリメチルペンテン等を使用できる。特に耐滅菌性を有する素材、具体的にはポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリメチルペンテン、ポリスチレン等が好ましい。
【0020】
中空糸膜を固定する樹脂層部の素材としては、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、およびシリコン樹脂など一般的な接着材料が好ましく用いることができる。
【0021】
前記中空糸膜モジュールには、中空糸膜を10〜1000本程度束ねたものを容器内に充填していることが好ましい。なお、本発明において、中空糸膜の配置は、直線状になっていても、撓んでいても、らせん状になっていてもよく、導入口と導出口の間に中空糸膜の両端が保持されていれば特に形状は限定されない。さらに、プライミングを行う際の中空糸膜は鉛直方向に配置されていても、水平方向に配置されていても、斜め方向に配置されていてもよいが、有効濾過面積を最大化するためには、中空糸膜が鉛直方向に配置している方がより好ましい。なお、有効濾過面積とは、プライミング後に中空糸膜の外側がプライミング液に浸っている部分の中空糸膜内側の膜面積のことである。
【0022】
本発明に用いられる中空糸膜の樹脂材料は、材料の安全性、安定性などの点から合成高分子材料が好ましく用いることができる。この中でも、ポリスルホン系又はセルロース系の親水性の高分子材料がより好ましく用いることができる。さらに、ポリエーテルスルホン、セルロースエステルが材料の安全性、安定性、入手のしやすさから最も好適に用いることができる。
【0023】
また、中空糸膜の壁に設けられた孔の孔径は0.1μm以上1.5μm以下が好ましい。前記孔径が0.1μm未満であると、プライミングの際に中空糸膜外側に存在する空気がプライミング液によって置換されない、または細胞懸濁液の濃縮時に不要な蛋白質などの夾雑物を効率的に除去できないため好ましくない。前記孔径が0.1μmを下回ってくると、孔の大きさは通常分画分子量で表現されるが、例えば500kD程度の中空糸膜では、表面張力によりプライミング液が中空糸膜の孔を通過できないため、中空糸膜外側に存在する空気がプライミング液によって置換されない。一方、前記孔径が1.5μmを超えても、プライミングの工程で特段の問題は生じないが、細胞の大きさに近い孔径が中空糸膜上に存在するため、細胞懸濁液を濃縮する工程において孔への詰まりが生じ、細胞回収率が大きく低下する可能性があるため好ましくない。
前記孔径の上限は、1.5μm以下が好ましく、1.2μm以下がより好ましく、1.0μm以下がさらに好ましい。
前記中空糸膜の孔径は、中空糸膜の平均孔径を指し、一般的にパームポロメーターにより測定、算出される。
なお、前記中空糸膜の内側に形成される内径については、細胞懸濁液を通液できる大きさがあればよく、特に限定はない。
【0024】
前記プライミング液としては、生理食塩液、蒸留水、リンゲル液に代表される輸液や、無機塩、糖類、血清、タンパク質を含む液体、緩衝液、血漿、培地等が挙げられる。特に安全性の観点から生理食塩液や輸液を好適に用いることができる。また、血清、血漿、タンパク質を含む液体は、中空糸膜の表面をタンパク質でコーティングすることによって、細胞の中空糸膜への接着が抑制され、細胞回収率の向上が期待できることから、プライミング液として好適に用いることができる。プライミング液は1種類の液体である必要はなく、これらの群から2つ以上の液体を混合して使用することもできる。2つの液体を混合して使用する例としては、アルブミンを添加した生理食塩液や、血清を添加した培地といった組み合わせが挙げられる。
【0025】
本発明のプライミング方法は、細胞懸濁液を導入する前に、中空糸膜モジュールの導入口または導出口よりプライミング液を線速度35cm/分以上450cm/分以下で、中空糸膜モジュールの容積に対して15%以上充填するプライミング工程を含むことに特徴があり、これにより細胞処理時の中空糸膜モジュールの有効濾過面積が大きくなり、細胞回収率の低下を引き起こすことなく濾過速度を向上させることが可能となる。
なお、有効濾過面積とは、中空糸膜の外側がプライミング液に浸っている部分の中空糸膜内側の膜面積であり、本発明では、以下の式1:
(有効濾過面積(cm
2))=π×(中空糸内径(cm))×(中空糸の外側がプライミング液に浸っている部分の中空糸膜の長さ(cm))×(中空糸本数(本))(式1)
で求めることができる。
【0026】
前記線速度(cm/分)とは、単位時間当たりに中空糸膜内側に流入する液量、すなわち流速(cm
3/分=mL/分)を中空糸膜の総断面積(cm
2)で除した値である。
本発明のプライミング方法において、中空糸膜内側に導入するプライミング液の線速度の下限は、35cm/分である。また、中空糸膜内側に導入するプライミング液の線速度の上限は、450cm/分であり、好ましくは420cm/分、より好ましくは300cm/分である。前記線速度が35cm/分未満であると、プライミング工程に時間がかかりすぎることが懸念され、また、450cm/分を超えると、中空糸膜外側の空気がプライミング液に置換される前に中空糸膜の内側がプライミング液により浸潤し、中空糸膜の外側にプライミング液を充填することができなくなる。
【0027】
なお、ここでいう中空糸膜の総断面積とは、中空糸膜モジュールに充填された中空糸膜の内腔の断面積の合計面積であり、以下の式2:
(総断面積(cm
2))=(中空糸本数(本))×π×(中空糸内径(cm))×(中空糸内径(cm))÷4(式2)
で求めることができる。
若しくは、中空糸内径(cm)、濾過面積(cm
2)、樹脂層部間の距離(cm)から、以下の式3:
(総断面積(cm
2))=[(中空糸内径(cm)]×[濾過面積(cm
2)]÷[樹脂層部間の距離(cm)] ÷4(式3)
で求めることができる。
【0028】
また、前記濾過面積とは、以下の式4:
(濾過面積(cm
2))=π×(中空糸内径(cm))×(樹脂層部間の距離(cm))×(中空糸本数(本))(式4)
により求められた値のことである。
前記樹脂層部間の距離とは、中空糸を中空糸膜モジュール内上下2箇所で固定した樹脂層部の間の距離をさす。
【0029】
中空糸膜モジュールの容積(cm
3)は、以下の式5:
(中空糸膜モジュールの容積(cm
3))=(中空糸膜モジュールの総断面積(cm
2))×(中空糸膜モジュール両端の樹脂層部間の距離(cm))(式5)
により算出される。
【0030】
前記中空糸膜モジュールの容積は10cm
3以上500cm
3以下が好ましい。前記容積が10cm
3未満では、中空糸膜モジュール両端の樹脂層部間の距離を十分に確保することができず、その場合は、本発明のプライミング処理を行ってもすぐに中空糸膜内側が完全に濡れてしまい、中空糸膜外側の空気がプライミング液に置換されない。また、前記容積が500cm
3を超えると、プライミング工程に時間がかかりすぎることが懸念される。前記容積の下限は、20cm
3がより好ましく、30cm
3がさらに好ましい。前記容積の上限は、400cm
3がより好ましく、300cm
3がさらに好ましい。
【0031】
本発明のプライミング方法においては、中空糸膜モジュールを構成する容器の前記容積に対してプライミング液が15%以上充填されている。ここで、前記プライミング液の充填率とは、プライミングを実施した後の前記容器内に充填されている量をいい、具体的には、中空糸膜の外側がプライミング液に浸っている部分の中空糸膜の長さ(cm)を中空糸膜モジュール両端の樹脂層部間の距離(cm)で除した値をパーセントで表示することによりプライミング液の充填率(%)を算出することができる。
【0032】
前記プライミング液の充填率が15%未満であると、有効濾過面積が小さいため、細胞を含む液体を処理する際に、細胞が中空糸膜に詰まりやすく、細胞回収率の低下を引き起こすことが懸念される。前記プライミング液の充填率は、40%以上が好ましく、中でも70%以上であることで、細胞が中空糸膜に詰まりにくく、その結果細胞回収率がより高くなるためより好ましい。
【0033】
また、本発明のプライミング方法では、プライミング時の中空糸膜の内圧と外圧の圧力差が7mmHg(933Pa)以上29mmHg(3866Pa)以下となるように調整することが好ましい。
【0034】
前記中空糸膜の内圧(mmHgまたはPa)とは、プライミング時の中空糸膜の内側の圧力の絶対値のことであり、中空糸膜モジュールの導出入口(導出口および/または導入口)付近の空気の圧力測定値の絶対値を参照している。従って、プライミング液の導入口付近にポンプを配置して線速を制御し、プライミング液を中空糸膜の内側に導入する場合は、内圧測定値(内圧値ともいう)が陽圧になり、反対にプライミング液の導出口付近にポンプを配置して線速を制御し、プライミング液を中空糸膜の内側に導入する場合は、内圧値が陰圧になる。内圧値は陰圧であることが好ましい。内圧値が陰圧になることで、プライミング液の中空糸膜の内側の導入と、中空糸膜外側の空気のプライミング液への置換とをより効率よく行うことができる。
例えば、
図1に示す中空糸膜モジュールAでは、プライミング液の導出口8b付近に備えられたポンプ11aを用いて線速を制御するために、内圧は陰圧になる。このように、内圧が陰圧になることで、プライミング液の中空糸膜の内側の導入と、中空糸膜外側の空気のプライミング液への置換とをより効率よく行うことができる。内圧の下限は8mmHg(1067Pa)であることが好ましく、上限は66mmHg(8799Pa)であることが好ましい。
また、
図2に示す中空糸膜モジュールBのようにプライミング液の導入口8a付近にポンプ11a’を備えている場合には、前記ポンプ11a’を用いて中空糸膜モジュールB内に導入するプライミング液の線速を制御するために、内圧は陽圧になる。
なお、前記内圧の測定方法としては、前記中空糸膜モジュールAに充填された中空糸膜5の内側に導入されている液体の圧力を測定すればよい。例えば、
図1に示すように、プライミング液の導出口8bとポンプ11aとを接続したチューブの任意の位置に圧力計14aを接続して内圧を測定すればよいし、
図2に示すように、プライミング液の導入口8aとポンプ11a’とを接続したチューブの任意の位置に内圧を測定するための圧力計14a’を接続してもよい。
【0035】
また、前記中空糸膜の外圧(mmHgまたはPa)とは、プライミング時の中空糸膜の外側の圧力の絶対値のことであり、中空糸膜外側の空間における空気の圧力測定値の絶対値を参照している。プライミング液の導入口付近にポンプを配置して線速を制御し、プライミング液を中空糸膜の内側に導入する場合は、外圧測定値(外圧値ともいう)が陽圧になり、反対にプライミング液の導出口付近にポンプを配置して線速を制御し、プライミング液を中空糸膜の内側に導入する場合は、外圧値が陰圧になる。外圧の下限は0mmHg(0Pa)であり、上限は46mmHg(6133Pa)であることが好ましい。
なお、前記外圧の測定方法としては、
図1、2に示す中空糸膜モジュールA、Bに充填された中空糸膜5と胴部2との間隙にある液体の圧力を測定すればよく、例えば、
図1において胴部2の側面に圧力計接続口15を設け、この圧力計接続口15に圧力計14bを接続して測定すればよい。
【0036】
前記圧力差(mmHgまたはPa)は、前記内圧測定値から外圧測定値を引いた差の絶対値をさしている。
前記圧力差が7mmHg(933Pa)未満の場合は、線速が小さすぎてプライミング工程に時間がかかりすぎる。また、前記圧力差が29mmHg(3866Pa)を超えると、線速が大きすぎて、すぐに中空糸膜内側がプライミング液で完全に濡れてしまい、中空糸膜外側の空気がプライミング液に置換されない。
本発明のプライミング方法において、前記圧力差の下限は7mmHg(933Pa)が好ましく、また、前記圧力差の上限は29mmHg(3866Pa)が好ましく、22mmHg(2933Pa)がより好ましく、17mmHg(2266Pa)がさらに好ましい。
【0037】
なお、プライミング液の導入口付近に備えられたポンプを用いて線速を制御し、プライミング液を導入口より中空糸膜の内側に導入する場合は内圧値から外圧値を引いた差が正の値になり、反対にプライミング液の導出口付近に備えられたポンプを用いて線速を制御し、プライミング液を導入口より中空糸膜の内側に導入する場合は、内圧値から外圧値を引いた差が負の値になる。
【0038】
また、本発明は、前記のようなプライミング方法を中空糸膜モジュールに施した後に、細胞懸濁液を前記中空糸膜モジュールの導入口または導出口より導入し、細胞を含まない濾液を濾液排出口より排出しながら、細胞懸濁液を濃縮する工程、を含む細胞濃縮液の製造方法に関する。
【0039】
ここにおける細胞としては、例えば人工多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性幹細胞(ES細胞)、間葉系幹細胞、脂肪由来間葉系細胞、脂肪由来間質幹細胞、多能性成体幹細胞、骨髄ストローマ細胞、造血幹細胞等の多分化能を有する生体幹細胞、T細胞、B細胞、キラーT細胞(細胞障害性T細胞)、NK細胞、NKT細胞、制御性T細胞などのリンパ球系の細胞、マクロファージ、単球、樹状細胞、顆粒球、赤血球、血小板、神経細胞、筋細胞、線維芽細胞、肝細胞、心筋細胞などの体細胞、遺伝子の導入や分化などの処理を行った細胞、腫瘍細胞、内皮細胞、胎児細胞などの希少細胞が例示される。
【0040】
前記細胞懸濁液は、前記細胞を含む懸濁液であれば特に限定されないが、例えば、脂肪、皮膚、血管、角膜、口腔、腎臓、肝臓、膵臓、心臓、神経、筋肉、前立腺、腸、羊膜、胎盤、臍帯などの生体組織を酵素処理、破砕処理、抽出処理、分解処理または超音波処理などをした後の懸濁液、血液や骨髄液を密度勾配遠心処理、ろ過処理、酵素処理、分解処理または超音波処理などの前処理をして調製された細胞懸濁液等が例示される。
【0041】
また、前記に例示した細胞を生体外で培養した後の細胞懸濁液を使用することができる。細胞を生体外で培養するときの培養液の例としては、DMEM、α−MEM、MEM、IMEM、RPMI−1640等が挙げられる。また、サイトカイン、抗体やペプチドなどの刺激因子を添加した培養液も使用できる。
【0042】
前記細胞懸濁液を濃縮する工程とは、具体的には、中空糸膜モジュールの導入口または導出口から中空糸膜の内側に流入した細胞懸濁液から、細胞を含まないタンパクや無機塩などの成分が濾液として中空糸膜の外側に濾別され、細胞成分が濃縮された細胞懸濁液を導出口または導入口より流出させる工程のことである。また、中空糸膜モジュールの導入口と出口は回路で接続されており、濃縮された細胞濃縮液を、再び中空糸膜の内側に流入させ、細胞成分がさらに濃縮されるように構成される。この濃縮が繰り返されることにより、細胞懸濁液の濃縮が進んで所望の細胞濃度にまで濃縮された細胞濃縮液が生成されることになる。なお、前記細胞濃縮液とは、中空糸膜モジュールを通過することにより濃縮された細胞懸濁液のことを表す。
【0043】
細胞懸濁液は、プライミング液と同じように導入口から中空糸膜モジュールに導入してもよく、逆にプライミング液の導出口から中空糸膜モジュールに導入することもできる。
【0044】
前記中空糸膜モジュールに導入するときの細胞懸濁液の線速度は、500cm/分より大きく、2000cm/分以下であることが好ましい。
前記線速度が500cm/分以下であると、濃縮処理に時間がかかり効率的でない。2000cm/分を超えると、細胞へのせん断や圧力によるダメージが大きくなることが懸念される。
前記線速度の下限は500cm/分より大きいことが好ましく、800cm/分より大きいことがより好ましく、1200cm/分より大きいことがさらに好ましい。また、前記線速度の上限は2000cm/分であることが好ましく、1800cm/分がより好ましく、1500cm/分がさらに好ましい。
【0045】
前記濃縮工程における、細胞懸濁液の濾過速度は(mL/m
2/分)は、1000mL/m
2/分以上4250mL/m
2/分以下であることが好ましい。
前記濾過速度とは、濾液排出口より排出される中空糸膜面積1m
2あたりの濾液の流量(mL/分)を、時間(分)で除した値のことである。
前記濾過速度が1000mL/m
2/分未満の場合、濃縮処理に時間がかかり効率的でない。4250mL/m
2/分を超えると、細胞が中空糸膜に詰まりやすく、細胞回収率の低下を引き起こすことが懸念される。
また、前記濾過速度の下限は、1000mL/m
2/分が好ましく、1250mL/m
2/分がより好ましく、1500mL/m
2/分がさらに好ましい。また、前記濾過速度の上限は、4250mL/m
2/分が好ましく、4000mL/m
2/分がより好ましく、3750mL/m
2/分がさらに好ましい。
中でも、前記細胞懸濁液の濾過速度は、1500mL/m
2/分以上3750mL/m
2/分以下であることで短時間かつ回収効率の高い濃縮処理が可能となるため好ましい。
【0046】
なお、前記濾過速度を求める際の中空糸膜面積は、中空糸膜の外側が液体で浸潤しているかどうかに関わらず、中空糸膜モジュールに充填された中空糸膜全体の膜面積のことをさしており、
(膜面積(m
2))=(中空糸の内径(m))×π×(樹脂層部間の距離(m))×(中空糸本数(本))
により算出される。
【0047】
前記膜面積としては、0.05m
2以上0.20m
2以下が好ましい。前記膜面積が0.20m
2を超えると細胞懸濁液が中空糸膜内に残存する液量が多くなり回収率が低下することが懸念され、また、0.05m
2未満では、濾過流量が十分でなく短時間で処理ができない、もしくは細胞が中空糸膜に詰まりやすく、細胞回収率の低下を引き起こすことが懸念される。前記膜面積の下限は0.05m
2が好ましく、0.07m
2がより好ましく、0.09m
2がさらに好ましい。前記膜面積の上限は0.20m
2が好ましく、0,18m
2がより好ましく、0.16m
2がさらに好ましい。
【0048】
以下、本発明のプライミング方法および細胞濃縮液の製造方法を、
図1を使用して例示するが、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明の主旨に反しない範囲で各種変更することができる。
【0049】
まず、中空糸膜モジュールAの導入口8aおよび導出口8bにチューブ等を取り付ける。導入口8aおよび導出口8bに取り付けたチューブの端はプライミング液が入ったバッグなどの貯留容器10に連結し、前記貯留容器10と中空糸膜モジュールAとの間でプライミング液などの液体が循環できるように回路16を形成する。さらに取り付けたチューブ内を、プライミング液などの液体が循環できるように、ポンプ11aをこのチューブに介在させてもよい。また、濾液排出口4はプライミング工程が終わるまで二方活栓12で閉じた状態にしておく。中空糸膜モジュールAおよびチューブ等の全体の取り付けは、クリーンベンチ等の無菌的な環境下で行われることが好ましい。
【0050】
次に、ポンプ11aを
図1に示す回路16からみて反時計周りに動かしてプライミング液を中空糸膜モジュールAの下方にある導入口8aから中空糸膜内側に充填する。前記ポンプ11aの駆動速度は、プライミング液の線速度が35cm/分以上450cm/分以下になるように調整し、前記中空糸膜モジュールAの容積に対して15%以上になるまでプライミング液が充填されていることを確認してからポンプ11aを止めてプライミングを終了する。
【0051】
次に、プライミングが終了したら、前記貯留容器10内のプライミング液を細胞懸濁液に交換し、濾液排出口4と廃液容器13とを連結しているチューブにある二方活栓12を開放し、ポンプ11aを
図1に示す回路16からみて時計周りに動かして細胞懸濁液の濃縮工程を開始する。
このとき、濾液排出口4側の流路を狭くするなどして中空糸膜に圧力をかけながら濾過することもできるし、濾過側のチューブにポンプなどの機械11bを設置して圧力をかけながら濾過を行ってもよく、一般的な中空糸膜モジュールで用いられる各種濾過方法を併用することができる。
【0052】
また、前記濃縮工程後に、細胞濃縮液を回収する方法としては、例えば、前記導入口8aと貯留容器10とを接続する回路16の適当な場所に分岐部として三方活栓17を設け、この分岐部の三方活栓17に回収容器18を接続し、前記ポンプ11aを駆動しながら、中空糸膜モジュールA、貯留容器10および回路16内の細胞濃縮液を前記回収容器18に導入する方法が挙げられるが、特に限定はない。
【0053】
以上のようにして、閉鎖環境を維持して得られる細胞濃縮液には細菌などの混入がないことから、そのまま各種疾患の治療用途に提供することができる。
例えば、前記製造方法で得られる細胞濃縮液をヒトや非ヒト動物に投与する各種疾患の治療方法に関する。
【0054】
前記治療方法としては、細胞障害性T細胞、NK細胞、NKT細胞、樹状細胞などの免疫細胞を使用したがんに対する免疫細胞療法、間葉系幹細胞などの多分化能を有する生体幹細胞を使用した、骨、関節、血管、臓器などの組織再生に対する細胞移植治療法、間葉系幹細胞を使用したGVHD治療法が挙げられる。これらの治療に用いられる細胞は、iPS細胞、ES細胞より誘導した細胞や、各種遺伝子を導入した細胞を使用することもできる。さらに、前記製造方法で得られる細胞濃縮液は、細胞濃縮液に新鮮な培地を加え、再び培養を行う培地交換の用途としても好適に使用することができる。
【実施例】
【0055】
以下、実験結果を用いて本発明を説明する。
細胞回収率(%)とは、一定量まで濃縮した時点での細胞懸濁液中の細胞数を、処理をする前の細胞懸濁液中の細胞数で除した値で、値が高いほど回収効率に優れていることを示す。
細胞数(個)は、細胞懸濁液を血球カウンター(シスメックス製、商品名「K−4500」)により測定し、白血球分画の細胞濃度を本実施例での細胞濃度として算出し、細胞懸濁液量(mL)と細胞濃度(個/mL)の値の積で算出することができる。
細胞回収率(%)は70%以上であることが好ましく、85%以上がさらに好ましい。85%未満になると、細胞治療用途として患者に投与する際に必要な細胞数を確保できない可能性がある。さらに70%未満になると、細胞損失が大きすぎて細胞処理用途としての使用に適さないと判断される可能性が高い。
【0056】
また、ここで細胞生存率比とは、回収容器18に回収した細胞懸濁液中の細胞生存率を、処理をする前の細胞懸濁液中の細胞生存率で除した値をパーセントで表示したものであり、値が高いほど細胞に与えるダメージが少ないことを示す。細胞生存率は{細胞生存率(%)=100−死細胞率(%)}により算出される。
【0057】
死細胞率(%)は、細胞濃度が1mLあたり10の6乗個になるよう調製した各細胞懸濁液100μLに対し、via−probe(BD製)を10μL加え10分間室温暗所で静置させた後、フローサイトメーター(BD製、商品名「FACSCanto」)に取り込み、via−probeの陽性率(%)として測定することができる。
【0058】
本発明において細胞生存率比は、95%以上であることが好ましく、96%以上がさらに好ましい。95%未満の場合は、細胞濃縮工程において細胞が大きくダメージを受けており、例えば細胞治療用途として患者に投与したときに、細胞が正常に機能せず、治療効果を発揮しない可能性がある。
【0059】
実施例に使用する細胞懸濁液は、培養したJurkat細胞を含有する細胞懸濁液(10%FBS入りRPMI1640培地)1500mLとした。
【0060】
各実験例におけるプライミング方法および細胞濃縮液の製造方法は、
図1に示すように、中空糸膜モジュールA、貯留容器10および廃液容器13をチューブで接続した装置を用いて行った。前記中空糸膜モジュールAとしては、下方にある頭部9の底面に導入口8a、その付近の胴部2側面に濾液排出口4が設けられており、前記中空糸膜モジュールAの上方にある頭部3の天面に導出口8b、その付近の胴部2側面に圧力計接続口15が設けられているものを用いた。
また、各実施例に記載した中空糸膜モジュールAの導入口8a、および導出口8bにそれぞれ塩化ビニルチューブをつなげた。導入口8aおよび導出口8bにつなげた塩化ビニルチューブのそれぞれの他方端は生理食塩液が貯留されたプラスチック製の貯留容器10に接続し、貯留容器10中の生理食塩液が中空糸膜モジュールAと貯留容器10との間を、チューブを介して循環できるように回路16を形成した。
導出口8b側の塩化ビニルチューブにはポンプ11aおよび内圧圧力計14aを設置し、生理食塩液が後述の実施例に記載した流速で流れるように設定した。
中空糸膜モジュールAの濾液排出口4にはチューブおよび二方活栓12を取り付け、チューブの端を廃液容器13と接続し、さらに前記チューブにはポンプ11bを設置して、濾液が後述の実施例に記載した流速で排出されるように設定し、二方活栓12を閉じた。
また、前記圧力計接続口15には外圧圧力計14bを取り付けた。
また、貯留容器10と中空糸膜モジュールAの導入口8aとを接続しているチューブに三方活栓17を取り付け、さらに、この三方活栓17にチューブを介してプラスチック製の回収容器18を接続した。
【0061】
次に、ポンプ11aを駆動して、導入口8aから中空糸膜モジュールA内に生理食塩液を充填し、このときの外圧圧力計14bと内圧圧力計14aの値(mmHg)、中空糸膜の外側がプライミング液に浸っている部分の中空糸膜の長さ(cm)をそれぞれ記録した。
なお、外圧圧力計14bの値を中空糸膜の「外圧」とし、内圧圧力計14aの値を中空糸膜の「内圧」とした。
また、中空糸膜の外側がプライミング液に浸っている部分の中空糸膜の長さ(cm)を中空糸膜モジュール両端の樹脂層部間の距離(cm)で除した値をパーセントで表示することによりプライミング液の充填効率(%)を算出した。
【0062】
続いて、二方活栓12を開け、生理食塩液が貯留された貯留容器10を細胞懸濁液が貯留された別の貯留容器10に無菌的に交換し、ポンプ11aの流速について後述の実施例に記載した流速になるよう設定し、通液方向はプライミング液の通液方向と逆方向になるようにした。
すなわち、導出口8bより細胞懸濁液を中空糸膜モジュールAに導入し、前記貯留容器10との間で細胞懸濁液を循環させながら濾液を濾液排出口4より排出した。
濾液の容量が一定量(70mL〜80mL)になるまで濃縮した後、二方活栓12を閉じ、チューブ、中空糸型分離膜5内の細胞濃縮液をポンプ11aにより流量75mL/分で導入口8aから押し出して導入口8aと貯留容器10との間にある回路16から分岐した回収容器18に回収した。
【0063】
細胞懸濁液の通液開始から回収終了までに要した時間をストップウォッチで計測し、処理時間を測定した。最後に回収容器18中の細胞濃縮液の細胞数を測定し、細胞回収率および生存率比を算出した。以下に実施例を示す。
【0064】
(実施例1)
側面端部に濾液排出口4および圧力計接続口15を備えた直径4.5cm、高さ24cmの円筒型容器1に、ポリエーテルスルホン(PES)製の中空糸膜〔商品名:MFC−K1、中空糸内径570μm、孔径0.2μm、東洋紡社製〕300本を充填し、この中空糸膜の束5の両端を樹脂層部7で容器1内部に固定した。
このときの両端の樹脂層部7間の距離は23cmであった。次に、円筒型容器1の両端面に導入口8a、導出口8bが設けられた頭部(3、9)を取り付け、中空糸膜モジュールAとした。
【0065】
作製した中空糸膜モジュールAの濾過面積は0.18m
2、総断面積は前記式2を用いて0.77cm
2と算出した。プライミング条件は、導出口の流量が27mL/分(線速度35cm/分)とした。
このとき、内圧値は−8mmHg、外圧値は−1mmHg、圧力差の絶対値は7mmHgであった。
【0066】
また、中空糸膜モジュールAの両端の樹脂層部7間の距離は23cmであり、そのうちプライミング終了時に中空糸膜の外側がプライミング液に浸っている中空糸膜の垂直方向の長さは21cmであった。
従って、プライミング液の充填効率(モジュール両端の樹脂層部7間の距離に対する中空糸膜の外側がプライミング液に浸っている中空糸膜の長さの割合)は、91%と算出された。
【0067】
濃縮条件は、プライミング液導出口8b付近の流量が450mL/分(線速度588cm/分)、濾液排出口4より排出される濾過速度は1823mL/m
2/分とした。その結果、処理時間は362秒、細胞回収率は86%、生存率比は97%であった。
【0068】
(実施例2)
実施例1と同様の中空糸膜モジュールAを用いた。プライミング条件は、導出口8b付近の流量が230mL/分(線速度300cm/分)とした。
このとき、内圧値は−32mmHg、外圧値は−15mmHg、圧力差は17mmHgであった。
また、中空糸膜モジュールAの両端の樹脂層部7間の距離は23cmであり、そのうち中空糸膜の外側がプライミング液に浸っている中空糸膜の長さは17cmであった。
従って、プライミング液の充填効率は、74%と算出された。
濃縮条件は、プライミング液導出口8b付近の流量が450mL/分(線速度588cm/分)、濾液排出口4より排出される濾過速度は1823mL/m
2/分とした。その結果、処理時間は364秒、細胞回収率は85%、生存率比は96%であった。
【0069】
(実施例3)
実施例1と同様の中空糸膜モジュールAを用いた。プライミング条件は、導出口8b付近の流量が322mL/分(線速度420cm/分)とした。このとき、内圧値は−34mmHg、外圧値は−12mmHg、圧力差は22mmHgであった。
また、中空糸膜モジュールAの両端の樹脂層部7間の距離は23cmであり、そのうち中空糸膜の外側がプライミング液に浸っている中空糸膜の長さは10cmであった。
従って、プライミング液の充填効率は、44%と算出された。
濃縮条件は、プライミング液導出口8b付近の流量が450mL/分(線速度588cm/分)、濾液排出口4より排出される濾過速度は1823mL/m
2/分とした。その結果、処理時間は365秒、細胞回収率は73%、生存率比は97%であった。
【0070】
(実施例4)
実施例1と同様の中空糸膜モジュールAを用いた。プライミング条件は、導出口8b付近の流量が344mL/分(線速度450cm/分)とした。このとき、内圧値は−36mmHg、外圧値は−7mmHg、圧力差は29mmHgであった。
また、中空糸膜モジュールAの両端の樹脂層部7間の距離は23cmであり、そのうち中空糸膜の外側がプライミング液に浸っている中空糸膜の長さは4cmであった。
従って、プライミング液の充填効率は、17%と算出された。
濃縮条件は、プライミング液導出口8b付近の流量が450mL/分(線速度588cm/分)、濾液排出口4より排出される濾過速度は1823mL/m
2/分とした。その結果、処理時間は363秒、細胞回収率は70%、生存率比は95%であった。
【0071】
(実施例5)
実施例1と同様の中空糸膜モジュールAを用いて、実施例1と同じ条件でプライミングを実施した。
濃縮条件は、プライミング液導出口8b付近の流量が600mL/分(線速度784cm/分)、濾液排出口4より排出される濾過速度は2422mL/m
2/分とした。
その結果、処理時間は297秒、細胞回収率は76%、生存率比は98%であった。
【0072】
(実施例6)
混合セルロースエステル(ME)製の中空糸膜〔商品名:D06−M20U−06−N、中空糸内径600μm、孔径0.2μm、Spectrum社製〕が、側面端部に濾液排出口4および圧力計接続口15を備えた直径6.98mm、高さ68cmの円筒型容器1に濾過面積が335cm
2になるよう充填され、中空糸膜の両端を樹脂層部7で固定された中空糸膜モジュールAを使用した。
このときの両端の樹脂層部7間の距離は65cmであった。これらの値を前記式3に代入することにより、中空糸膜の総断面積を0.077cm
2と算出した。
プライミング条件は、導出口8b付近の流量が2.7mL/分(線速度35cm/分)とした。このとき、内圧値は−55mmHg、外圧値は−46mmHg、圧力差は9mmHgであった。また、中空糸膜モジュールAの両端の樹脂層部7間の距離は65cmであり、そのうち中空糸膜の外側がプライミング液に浸っている中空糸膜の垂直方向の長さは62cmであった。
従って、プライミング液の充填効率は、95%と算出された。
【0073】
(実施例7)
混合セルロースエステル(ME)製の中空糸膜〔商品名:D06−M10U−06−N、中空糸内径600μm、孔径0.1μm、Spectrum社製〕が、側面端部に濾液排出口4および圧力計接続口15を備えた直径6.98mm、高さ68cmの円筒型容器1に濾過面積が335cm
2になるよう充填され、中空糸膜の束5の両端を樹脂層部7で容器1内部に固定された中空糸膜モジュールAを使用した。
このときの両端の樹脂層部7間の距離は65cmであった。これらの値を前記式3に代入することにより、中空糸膜の総断面積を0.077cm
2と算出した。
プライミング条件は、導出口8b付近の流量が2.7mL/分(線速度35cm/分)とした。このとき、内圧値は−66mmHg、外圧値は−46mmHg、圧力差は20mmHgであった。また、中空糸膜モジュール両端の樹脂層部7間の距離は65cmであり、そのうち中空糸膜の外側がプライミング液に浸っている中空糸膜の長さは46cmであった。
従って、プライミング液の充填効率は、71%と算出された。
【0074】
(比較例1)
実施例1と同様の中空糸膜モジュールAを用いた。プライミング条件は、導出口8b付近の流量が459mL/分(線速度600cm/分)とした。このとき、内圧値は−58mmHg、外圧値は−28mmHg、圧力差は30mmHgであった。
また、中空糸膜モジュールAの両端の樹脂層部7間の距離は23cmであり、そのうち中空糸膜の外側がプライミング液に浸っている中空糸膜の長さは1cmであった。
従って、プライミング液の充填効率は、4%と算出された。濃縮条件は、プライミング液導出口8b付近の流量が450mL/分(線速度588cm/分)、濾液排出口4より排出される濾過速度は1823mL/m
2/分とした。
その結果、処理時間は364秒、細胞回収率は65%、生存率比は95%であった。
【0075】
(比較例2)
ポリエーテルスルホン(PES)製の中空糸膜〔商品名:D06−E500−05−N、中空糸内径500μm、分画500kD、Spectrum社製〕が、側面端部に濾液排出口4および圧力計接続口15を備えた直径6.98mm、高さ68cmの円筒型容器1に濾過面積が370cm
2になるよう充填され、中空糸膜の束5の両端を樹脂層部7で容器1内に固定された中空糸膜モジュールAを使用した。このときの両端の樹脂層部7間の距離は65cmであった。これらの値を前記式3に代入することにより、中空糸膜の総断面積を0.071cm
2と算出した。
プライミング条件は、導出口8b付近の流量が2.1mL/分(線速度35cm/分)とした。このとき、内圧値は−55mmHg、外圧値は89mmHg、圧力差は144mmHgであった。
また、中空糸膜モジュールAの両端の樹脂層部7間の距離は65cmであり、そのうち中空糸膜の外側がプライミング液に浸っている中空糸膜の長さは0cmであった。
従って、プライミング液の充填効率は、0%と算出された。
【0076】
実施例1〜5および比較例1、2の中空糸膜モジュールの条件、プライミング条件、濃縮条件および性能を表1に示す。なお、実施例6、7および比較例2ではプライミングのみを行い、細胞濃縮は行わなかった。
【0077】
【表1】
【0078】
表1に示す結果から、実施例1〜5では、プライミング液を中空糸膜モジュールに線速度35cm/分以上450cm/分以下で、中空糸膜モジュールの容積に対して15%以上充填するプライミング方法とすることにより、比較例1に比べて有意に高い細胞回収率および生存率比で細胞濃縮液を製造できることは明らかである。また、実施例1〜5のように、プライミング時の線速度を濃縮時の線速度よりも低く調整することで、中空糸膜の内側と外側の両方にプライミング液を簡便に充填でき、続く細胞懸濁液処理工程において有効濾過面積が大きくなり、細胞の回収率や濾過速度を向上させることができる。さらに、実施例1〜5では閉鎖環境を維持したまま細胞処理を完遂できるため、得られた細胞は治療用途として提供することができる。
【0079】
また、表1に示す実施例3と実施例5との結果から、プライミング時の線速を下げ、細胞処理時の有効濾過面積を大きくすることにより、細胞回収率の低下を引き起こすことなく濾過速度を向上させることができ、これにより細胞懸濁液の処理時間の短縮が期待される。
【0080】
表1に示す実施例1および実施例6は、中空糸膜の材料としてポリスルホン系、およびセルロース系の高分子材料がより好ましく用いられることを示している。また、実施例1と実施例7と比較例2との結果から、プライミングを行う場合、中空糸膜の壁に設ける孔径は0.1μm以上が好ましいことを示している。