特許第6685246号(P6685246)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6685246
(24)【登録日】2020年4月2日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】流体荷役装置用の緊急離脱機構
(51)【国際特許分類】
   F16L 37/30 20060101AFI20200413BHJP
   B67D 7/32 20100101ALI20200413BHJP
   F16K 17/36 20060101ALI20200413BHJP
   B67D 9/00 20100101ALN20200413BHJP
【FI】
   F16L37/30
   B67D7/32 J
   F16K17/36 Z
   !B67D9/00 Z
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-23081(P2017-23081)
(22)【出願日】2017年2月10日
(65)【公開番号】特開2018-128120(P2018-128120A)
(43)【公開日】2018年8月16日
【審査請求日】2020年2月7日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】303046602
【氏名又は名称】東京貿易エンジニアリング株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091373
【弁理士】
【氏名又は名称】吉井 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100097065
【弁理士】
【氏名又は名称】吉井 雅栄
(72)【発明者】
【氏名】河合 務
(72)【発明者】
【氏名】梅村 友章
【審査官】 渡邉 聡
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−020584(JP,A)
【文献】 特開2006−194422(JP,A)
【文献】 特開2008−218809(JP,A)
【文献】 特開2015−097246(JP,A)
【文献】 特開2016−070374(JP,A)
【文献】 特開昭58−178087(JP,A)
【文献】 実開昭58−130193(JP,U)
【文献】 特開平10−335252(JP,A)
【文献】 英国特許出願公開第1002559(GB,A)
【文献】 特表2015−517061(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 37/30
B67D 7/32
F16K 17/36
B67D 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
夫々に緊急時に流体の流通を遮断するための弁体が設けられた一対のカプラーが連結機構により分離自在に突き合せ状態で連結されてなり、緊急離脱時は、前記連結機構が連結解除動作して前記カプラー同士の連結を解除し、このカプラー同士の連結が解除されることにより各カプラーに設けられた前記弁体が閉弁動作し各カプラーの開口部を閉塞して、流体の流通を遮断すると共に流体の外部流出を防止した状態で緊急離脱するように構成されている極低温流体を荷役する流体荷役装置への適用に好適な流体荷役装置用の緊急離脱機構であって、前記一対のカプラーの夫々は、流体が流通可能な筒状に形成されたカプラー本体部と、緊急離脱時に前記カプラー本体部の開口部を閉塞する前記弁体と、この弁体を動作させるための弁体駆動機構とからなり、前記弁体動作機構は、全ての構成部材が前記カプラー本体部内に設けられていると共に前記弁体を前記カプラー本体部の開口部側に付勢する付勢体を有する構成とされ、前記弁体は、このカプラー本体部内に設けられた弁体動作機構の前記付勢体の付勢力により前記カプラー本体部の開口部側に付勢され、前記カプラー同士が連結した状態では他方の弁体と相互に押し合って前記付勢体の付勢力に抗して没入移動して前記カプラー本体部の開口部を開口状態にし前記カプラー同士の連結が解除されて分離した状態では前記付勢体の付勢力により突出移動して前記カプラー本体部の開口部に圧接係合してこのカプラー本体部の開口部を閉塞状態にするように構成され、前記カプラー本体部は、流体がその内部を通過する内筒部と、この内筒部に比して先端側が拡径している外筒部と、前記内筒部と前記外筒部との間を閉塞する連結フランジ部とで形成されていると共に、前記内筒部と前記外筒部との間が真空層に形成されている構成とされ、前記連結フランジ部は、肉厚が前記外筒部の肉厚よりも薄い肉厚に設定され、前記内筒部と前記外筒部との離間距離が最も大きい前記内筒部と前記外筒部との先端部間に設けられている構成とされて、前記カプラー同士が連結した状態では、前記内筒部と前記外筒部との間の熱伝導部が前記連結フランジ部のみとなるように構成されていることを特徴とする流体荷役装置用の緊急離脱機構。
【請求項2】
前記弁体は、弁体基部と、この弁体基部の先端側を覆い前記カプラー同士が分離している状態において大気中に露出状態となる弁体先端部とからなり、前記弁体先端部は、合成樹脂製であることを特徴とする請求項1記載の流体荷役装置用の緊急離脱機構。
【請求項3】
前記カプラー本体部は、開口部の周縁にこの開口部を区画する弁座が設けられていて、この弁座とこの弁座に圧接係合する前記弁体基部の夫々は、金属製であることを特徴とする請求項記載の流体荷役装置用の緊急離脱機構。
【請求項4】
前記弁座と前記弁体基部は、夫々相互に係合する係合面が段差状に形成され、前記弁座若しくは前記弁体基部の各段差部にシール材が設けられていて、前記係合面に複列状に設けられた複数の前記シール材により前記弁座と前記弁体基部とが密着係合するように構成されていることを特徴とする請求項記載の流体荷役装置用の緊急離脱機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体水素などの極低温流体の荷役に適した流体荷役装置用の緊急離脱機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化の問題が深刻化するなかで、石油・天然ガス等の化石燃料に代わるエネルギーとして、太陽光や風力、水力、地熱等の自然エネルギー(再生可能エネルギー)の利用拡大が推進されてきている。この自然エネルギーは、現状、ほぼ電気という形のエネルギーに変換されているが、電気は大量貯蔵には不向きなものであり、また、輸送ロスも大きいことから、近年、大量貯蔵、長距離輸送が可能な水素を、自然エネルギーを活用して製造し水素エネルギーとして積極的に利用してゆく取り組みが検討されている。
【0003】
水素は、単に貯蔵、輸送が可能であるというメリットだけでなく、水や化合物として地球上に無尽蔵に存在する物質であることや、ロケット燃料として利用されるなどエネルギーとしてのパワーが大きいこと、更に、燃焼しても空気中の酸素と反応して水を生成するだけで二酸化炭素や大気汚染物質を排出しないクリーンエネルギーである等の様々なメリットがある。
【0004】
また、日本国内の自然エネルギーは量的限界があるため、将来的には、国外の自然エネルギーを活用し水素を大量製造し、これを貯蔵、輸送することで日本国内のエネルギー問題を解消することも検討されている。
【0005】
このような背景のもと、水素利用の拡大に伴い、この水素の貯蔵・輸送技術の確立が急務となっており、そのなかの一つとして、液体水素を荷役するための流体荷役装置(ローディングアーム)の開発が挙げられている。
【0006】
水素は常温では気体であり、この気体の状態では体積が大きく、貯蔵、輸送には不向きな形態であるため、一般的には液化状態で貯蔵・輸送される。
【0007】
水素の沸点は、−253℃であるから、液化するためには温度を−253℃以下にする必要があり、また、液化した水素は非常に蒸発し易いため、液体水素の貯蔵、輸送においては−253℃以下の環境を保持することが必須要件である。
【0008】
しかしながら、従来の緊急離脱装置(緊急離脱機構)は、断熱性能が低く、外部から侵入した熱が流体に伝わり易く、よって、液体水素を流通した場合、外気温による入熱が流通する液体水素の液温を上げ、流通中に液体水素が蒸発して気体状態になってしまい効率的に輸送することができないという問題がある。
【0009】
また、極低温の液体水素を流通することで装置表面温度が液体水素と同等の温度(−253℃)になり、これにより、装置表面付近の酸素(沸点:−183℃)が液化して液化酸素が生成され、この液化酸素が流体荷役装置の周囲に溜まってしまう。更に、緊急離脱動作が行われて、海上側、陸上側の夫々の配管を連結しているカプラー同士が分離状態になると、流体を遮断する弁体が露出状態となるが、この露出した弁体自体も表面温度が液体水素と同等の温度(−253℃)になるため、この露出する弁体付近に存在する酸素(沸点:−183℃)が液化酸素となって周囲に溜まってしまう。この液化酸素は支燃性であるため、万が一、トラブル等で火気が生じた場合、この支燃性ガスである液化酸素が周囲に存在してしまうことは非常に危険である。
【0010】
本発明者らは、このような液化水素を荷役する際に発生する様々な問題について鋭意検討し、これらの問題を解決し安全に効率よく液体水素を荷役することができる流体荷役装置の緊急離脱装置を特許出願(特願2015−139092)している。
【0011】
この流体荷役装置の緊急離脱装置(以下、先願発明という)は、各カプラーを真空二重壁構造にするとともに、二体の緊急遮断弁を流体流通方向に並設し、緊急離脱時は、まず二体の緊急遮断弁を閉弁状態にし、その後、この二体の緊急遮断弁によって仕切られた区間に残留する流体を残留流体移送機構により荷役配管内に戻してこの二体の緊急遮断弁で仕切られた区間を空間にし、この二体の緊急遮断弁で仕切られた空間が断熱部として作用し、連結状態、離脱状態でのカプラー内部と外部との間の熱の出入りを可及的に抑制し、カプラー内の流体の蒸発を防止するとともに、外部露出しているカプラー外表面(外側の緊急遮断弁及び外壁部)に対する流体の冷却作用を可及的に低減して、カプラー外表面付近の極低温化による周囲の酸素の液化を防止するように構成されたものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、この先願発明の改良に係るもので、極めて簡易な構成で、カプラー同士が連結している状態、カプラー同士が分離している状態のいずれの状態においても優れた断熱性能を発揮して、カプラー内を流通する流体の温度上昇による蒸発作用を抑制して効率的な流体荷役作業が行えるとともに、周囲に存在する酸素の液化を抑制して液化酸素の生成の抑制し、周囲の安全性の向上を実現可能とする画期的な流体荷役装置用の緊急離脱機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0014】
夫々に緊急時に流体の流通を遮断するための弁体7が設けられた一対のカプラー1が連結機構10により分離自在に突き合せ状態で連結されてなり、緊急離脱時は、前記連結機構10が連結解除動作して前記カプラー1同士の連結を解除し、このカプラー1同士の連結が解除されることにより各カプラー1に設けられた前記弁体7が閉弁動作し各カプラー1の開口部を閉塞して、流体の流通を遮断すると共に流体の外部流出を防止した状態で緊急離脱するように構成されている極低温流体を荷役する流体荷役装置への適用に好適な流体荷役装置用の緊急離脱機構であって、前記一対のカプラー1の夫々は、流体が流通可能な筒状に形成されたカプラー本体部5と、緊急離脱時に前記カプラー本体部5の開口部を閉塞する前記弁体7と、この弁体7を動作させるための弁体駆動機構とからなり、前記弁体動作機構は、全ての構成部材が前記カプラー本体部5内に設けられていると共に前記弁体7を前記カプラー本体部5の開口部側に付勢する付勢体11を有する構成とされ、前記弁体7は、このカプラー本体部5内に設けられた弁体動作機構の前記付勢体11の付勢力により前記カプラー本体部5の開口部側に付勢され、前記カプラー1同士が連結した状態では他方の弁体7と相互に押し合って前記付勢体11の付勢力に抗して没入移動して前記カプラー本体部5の開口部を開口状態にし前記カプラー1同士の連結が解除されて分離した状態では前記付勢体11の付勢力により突出移動して前記カプラー本体部5の開口部に圧接係合してこのカプラー本体部5の開口部を閉塞状態にするように構成され、前記カプラー本体部5は、流体がその内部を通過する内筒部2と、この内筒部2に比して先端側が拡径している外筒部3と、前記内筒部2と前記外筒部3との間を閉塞する連結フランジ部4とで形成されていると共に、前記内筒部2と前記外筒部3との間が真空層9に形成されている構成とされ、前記連結フランジ部4は、肉厚が前記外筒部3の肉厚よりも薄い肉厚に設定され、前記内筒部2と前記外筒部3との離間距離が最も大きい前記内筒部2と前記外筒部3との先端部間に設けられている構成とされて、前記カプラー1同士が連結した状態では、前記内筒部2と前記外筒部3との間の熱伝導部が前記連結フランジ部4のみとなるように構成されていることを特徴とする流体荷役装置用の緊急離脱機構に係るものである。
【0015】
また、前記弁体7は、弁体基部7Aと、この弁体基部7Aの先端側を覆い前記カプラー同士1が分離している状態において大気中に露出状態となる弁体先端部7Bとからなり、前記弁体先端部7Bは、合成樹脂製であることを特徴とする請求項1記載の流体荷役装置用の緊急離脱機構に係るものである。
【0016】
また、前記カプラー本体部5は、開口部の周縁にこの開口部を区画する弁座6が設けられていて、この弁座6とこの弁座6に圧接係合する前記弁体基部7Aの夫々は、金属製であることを特徴とする請求項記載の流体荷役装置用の緊急離脱機構に係るものである。
【0017】
また、前記弁座6と前記弁体基部7Aは、夫々相互に係合する係合面が段差状に形成され、前記弁座6若しくは前記弁体基部7Aの各段差部にシール材8が設けられていて、前記係合面に複列状に設けられた複数の前記シール材8により前記弁座6と前記弁体基部7Aとが密着係合するように構成されていることを特徴とする請求項記載の流体荷役装置用の緊急離脱機構に係るものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明は上述のように構成したから、極めて簡易な構成でありながら、内筒部と外筒部との間の熱伝導作用が可及的に抑制され、カプラー同士が連結している状態、カプラー同士が分離している状態のいずれの状態においても優れた断熱性能が発揮され、これにより、内筒部内を流通する流体の温度上昇による蒸発作用が抑制されて効率的な流体荷役作業が行えるとともに、周囲に存在する酸素の液化が抑制され液化酸素の生成が抑制されて周囲の安全性の向上する画期的な流体荷役装置用の緊急離脱機構となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施例(連結状態)を示す説明正断面図である。
図2】本実施例(離脱状態)を示す説明正断面図である。
図3】本実施例の緊急遮断弁の要部拡大断面図である。
図4図1におけるA−A断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
好適と考える本発明の実施形態を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0021】
本発明は、内筒部2と外筒部3との間に真空層が形成されているから、内筒部2と外筒部3との間の熱伝導は連結フランジ部4を介することとなる。
【0022】
即ち、外部からの熱は、外部(大気中)に露出する外筒部3から連結フランジ部4を通じて内筒部2に熱伝導し、また、流体の熱(冷却作用)は、流体が接する内筒部2から連結フランジ部4通じて外筒部3に熱伝導することとなる。
【0023】
ここで、本発明は、この内筒部2、外筒部3間の熱伝導部となる連結フランジ部4の肉厚が外筒部3の肉厚よりも薄い肉厚に設定されており、この連結フランジ部4における熱伝導性が外筒部3の熱伝導性に比べて低くなる構成(熱が伝わりにくい構成)とされているから、外筒部3から内筒部2への熱伝導作用、及び内筒部2から外筒部3への熱伝導作用が生じにくく、よって、外気温による入熱が内筒部2内を流通する流体に熱伝導して流体温度が上昇することが抑制されるとともに、内筒部2内を流通する極低温流体(液体水素)の冷却作用による外筒部3(外筒部3表面)が極低温化することが抑制される。
【0024】
これにより、内筒部2内を流通する流体の蒸発作用が可及的に抑制されて効率的に流体荷役作業を行うことができるとともに、周囲に存在する酸素の液化が抑制され支燃性の液化酸素の生成が抑制されて装置周囲の安全性を確保することができる。
【0025】
このように、本発明は、極めて簡易な構成でありながら、カプラー1を構成する内筒部2と外筒部3との間の熱伝導作用が可及的に抑制され、カプラー1同士が連結している状態、カプラー1同士が分離している状態のいずれの状態においても優れた断熱性能が発揮される実用性且つ安全性に優れた画期的な流体荷役装置用の緊急離脱機構となる。
【実施例】
【0026】
本発明の具体的な実施例について図面に基づいて説明する。
【0027】
本実施例は、液体水素などの極低温流体の荷役に適した流体荷役装置用の緊急離脱機構である。
【0028】
具体的には、本実施例の緊急離脱機構は、夫々に緊急時に流体の流通を遮断するための緊急遮断弁(弁座6及び弁体7)が設けられた一対のカプラー1が連結機構10により分離自在に突き合せ状態で連結されてなり、緊急離脱時は、連結機構10が連結解除動作してカプラー1同士の連結を解除し、このカプラー1同士の連結が解除されることにより各カプラー1に設けられた弁体7が閉弁動作して各カプラー1の開口部を閉塞し、流体荷役配管及び緊急離脱機構内の流体の流通を遮断するとともに流体の外部流出を防止した状態で緊急離脱するように構成されている。
【0029】
より具体的には、本実施例のカプラー1は、流体が流通可能な筒状に形成されたカプラー本体部5と、緊急時にこのカプラー本体部5の開口部を閉塞して流体の流通を遮断するとともに流体の外部流出を防止する緊急遮断弁と、この緊急遮断弁を動作させるための弁体駆動機構とからなる構成とされている。
【0030】
以下、本実施例に係る構成各部について詳述する。尚、本実施例の連結機構10に関しては、公知の従来構造と同様の構成のものが作用されているので説明を省略し、本実施例においてはカプラー1について詳述する。
【0031】
本実施例のカプラー本体部5は、流体がその内部を通過する先端側に開放状の内筒部2と、この内筒部2との間に真空層9を形成する先端側に開放状の外筒部3と、内筒部2と外筒部3との間を閉塞する連結フランジ部4とからなる構成とされている。
【0032】
即ち、本実施例のカプラー本体部5は、流体が流通する内筒部2と、この内筒部2を包囲する外筒部3との間に形成される空間部に真空層9が形成された真空断熱二重壁構造とされ、また、内筒部2と外筒部3とは連結フランジ部4を介して連結される構成とされ、言い換えると、本実施例のカプラー本体部5は、この連結フランジ部4が内筒部2と外筒部3との間の熱の行き来が可能な熱伝導部となる構成とされている。
【0033】
この熱伝導部となる連結フランジ部4は、肉厚が外筒部3の肉厚よりも薄い肉厚に設定されており、この連結フランジ部4の肉厚を外筒部3よりも薄くして、この熱伝導部となる連結フランジ部4の熱伝導性を低下させることで(熱を伝えにくい構造とすることで)、内筒部2と外筒部3との間の熱伝導作用が可及的に抑制される構成とされている。
【0034】
具体的には、本実施例においては、外筒部3の肉厚が8mmとされているのに対して、連結フランジ部4の肉厚は6mmとされている。尚、この連結フランジ部4の肉厚に関しては、より肉薄に設定されることが好ましく、この連結フランジ部4の強度に問題の無い範囲であれば上記寸法に限らず適宜寸法変更可能なものとする。
【0035】
また、本実施例のカプラー本体部5は、外筒部3の先端側から所定長さ部分が拡径されており、且つ拡径された部分における内筒部2と外筒部3との内外壁間距離が他部よりも長い距離となるように構成されている。
【0036】
具体的には、本実施例のカプラー本体部5は、この外筒部3が拡径された部分において先端部が最も内外壁間距離が長くなるラッパ形状に形成され、この内外壁間距離が最も長い先端部、具体的には、内筒部2と外筒部3との各先端部間に連結フランジ部4が架設状態に設けられて、この連結フランジ部4が内筒部2と外筒部3との間に形成される真空層9となる空間部の先端側開口部を閉塞するように設けられた構成とされている。
【0037】
即ち、本実施例は、内筒部2と外筒部3との内外壁間距離が最も長い部位に連結フランジ部4を設けて、連結フランジ部4の幅寸法を長くし、この熱伝導部となる連結フランジ部4の熱伝導性を低下させることで(熱を伝えにくい構造とすることで)、内筒部2と外筒部3との間の熱伝導作用が可及的に抑制される構成とされている。
【0038】
即ち、本実施例のカプラー本体部5は、内筒部2と外筒部3との間に架設されこの内筒部2と外筒部3との間の熱伝導部となる連結フランジ部4が薄肉化且つ大径化されて熱伝導作用が小さい低熱伝導部に構成されており、この低熱伝導部となるように構成された連結フランジ部4によって内筒部2と外筒部3との間の熱伝導作用が可及的に抑制されることで、外気からの熱が内筒部2内の流体に伝わり内筒部2を流通する流体の温度が上昇することが抑制されるとともに、内筒部2の流体の冷却作用による外筒部3表面の極低温化になることが抑制される構成とされている。
【0039】
また、本実施例の緊急遮断弁は、カプラー本体部5の開口部の周縁に設けられ、この開口部を区画する弁座6と、この弁座6に圧接係合してカプラー本体部5の開口部を開閉させる弁体7とからなる構成とされている。
【0040】
具体的には、本実施例の弁体7は、カプラー本体部5内に収容された弁体基部7Aと、この弁体基部7Aの先端側を覆う弁体先端部7Bとで構成され、後述する弁体駆動機構によりカプラー本体部5の開口部側(先端側)に付勢され、カプラー1同士が分離した離脱状態時に弁体基部7Aが弁座6に圧接係合してカプラー本体部5の開口部を閉塞するように構成されている。
【0041】
より具体的には、本実施例の弁体7は、弁座6に圧接係合した状態、即ちカプラー本体部5の開口部を閉塞した状態において、弁体基部7Aがカプラー本体部5内に収容された状態で、弁体先端部7Bがカプラー本体部5の開口部から外方に突出しカプラー本体部5外(大気中)に露出する構成とされている。
【0042】
即ち、本実施例は、カプラー1同士が離脱した状態になった際には弁体先端部7Bがカプラー本体部5から先端側に突出しており、カプラー1同士が連結している状態では夫々のカプラー1の弁体7同士(弁体先端部7B同士)が相互に押圧し合うことで、夫々の弁体7がカプラー本体部5の基端側に押戻されてカプラー本体部5の開口部が開口状態となる構成とされている。
【0043】
更に具体的には、本実施例は、弁座6及び弁体基部7Aは金属部材からなる構成とされ、また、弁体先端部7Bは低熱伝導性部材、具体的には、熱伝導性の低い合成樹脂、より具体的には、熱伝導性が低く耐久性に優れた繊維強化プラスチック(FRP樹脂)からなる構成とされている。
【0044】
即ち、本実施例は、カプラー同士が分離している状態において大気中に露出状態となる弁体7の弁体先端部7Bを低熱伝導性部材で構成することで、この弁体先端部7Bを介する熱伝導作用が抑制された構成とされている。
【0045】
即ち、本実施例は、この弁体先端部7Bを低熱伝導性部材で構成することでカプラー本体部5内の流体からの冷却作用を受けにくい構成とし、これにより大気中に露出する弁体先端部7Bの極低温化を抑制して、この弁体先端部7Bの周囲の酸素の液化を可及的に抑制するように構成されている。
【0046】
また、本実施例の緊急遮断弁は、弁座6と弁体基部7Aとが複列状に配置された複数のシール材8により密着係合してカプラー本体部5の開口部を閉塞するように構成されている。
【0047】
具体的には、弁座6と弁体基部7Aとの夫々の係合面が段差状に形成されるとともに、弁体基部7Aの各段差部にシール材8が配置され、この弁体基部7Aに設けられた複数のシール材8により弁座6と弁体7(弁体基部7A)とが複列式にシールされる構成とされている。
【0048】
即ち、本実施例の緊急遮断弁は、リークし易い液体水素に対して複数個所でシールして液密を保持し耐リーク性を向上させた構成とされている。尚、本実施例においては図示するように各係合面の段差を三段にして各段部にシール材8を配置した三重シール構造とされているが、係合面の段差数、即ち、シール材8の数及びシール位置に関しては適宜設計変更可能なものとする。
【0049】
また、本実施例の弁体駆動機構は、弁体7をカプラー本体部5の先端側に付勢する、言い換えると、弁体7を弁座6に圧接係合させるための付勢体11と、弁体7の移動をガイドする弁体ガイド部12と、この弁ガイド部12に移動案内されるスライド部13とからなる構成とされている。
【0050】
具体的には、弁体ガイド部12は、リング状に形成され、カプラー本体部5の内筒部2の内面に弁体ガイド支持部14を介して設けられた構成とされている。
【0051】
より具体的には、本実施例の弁体ガイド部12は、カプラー本体部5内に、このカプラー本体部5内(内筒部2内)を流通する流体の流れ方向に沿って複数(本実施例では二体)設けられた構成とされている。
【0052】
また、付勢体11とスライド部13は、弁体7(弁体基部7A)に設けられた構成とされている。
【0053】
具体的には、付勢体11はバネ体11(コイル状バネ)からなり、流体の流通方向に沿って設けられ、長手方向一端部が弁体基部7Aに連接され、他端部がカプラー本体部5、具体的には、カプラー本体部5の内筒部2に設けられた弁体受部15に連接された構成とされている。
【0054】
また、スライド部13は、流体が流通可能な多数の透孔13Aを有し、バネ体11を収容可能な(包囲する)多孔円筒板からなり、弁体基部7Aの底部に設けられ、上述した弁体ガイド部12の内側に配され、この弁体ガイド部12に対してスライド自在に設けられた構成とされている。
【0055】
即ち、本実施例の弁体駆動機構は、弁体7を流体の流れ方向に突没動作(前進後退動作)させるように構成されており、具体的には、バネ体11の伸長により弁体7をカプラー本体部5の開口部側(弁座6側)に突出移動(前進移動)させ、バネ体11の縮退により没入移動(後退移動)させる構成とされている。
【0056】
また、本実施例の弁体駆動機構は、上記のように構成部材が全てカプラー本体部5内(内筒部2内)に設けられ、カプラー本体部5の外側に露出しない構成とされている。これにより、弁体駆動機構がカプラー本体部5の内外間の熱伝導部にならず、この弁体駆動機構を介しての熱伝導作用が生じない構成とされている。
【0057】
即ち、先願発明は、緊急遮断弁(弁体)を開閉動作させる弁体駆動機構の一部がカプラーの外側に露出し、この一部が外部に露出する弁体駆動機構を介してカプラー内外間で熱伝導作用が生じてしまう構成であったが、本実施例の緊急離脱機構は、その構成部材が全てカプラー本体部5内(内筒部2内)に設けられ、カプラー本体部5の外側に露出しない構成とされていので、弁体駆動機構がカプラー本体部5の内外間の熱伝導部にならず、この弁体駆動機構を介してのカプラー1内外間で熱伝導作用が生じない構成とされている。
【0058】
以上のように構成される本実施例は、通常状態、即ちカプラー1同士が連結している連結状態においては、各カプラー1(カプラー本体部5)の連結フランジ部4以外は熱の出入りが真空層9により遮断され、また、唯一の熱伝導部となる連結フランジ部4は、可及的に熱伝導性を低下させた構成とされているから、外筒部3への入熱が内筒部2内を流通する流体に伝導して流体の温度が上昇したり、内筒部2内を流通する極低温流体による冷却作用で外筒部3が極低温化したりすることが可及的に抑制されることとなる。
【0059】
また、緊急離脱状態、即ちカプラー1同士が分離した離脱状態においては、弁体7の弁体先端部7B、連結フランジ部4及びカプラー本体部5の開口部に設けられた弁座6が大気中に露出するが、弁体先端部7Bは低熱伝導性部材で構成され熱伝導部としてほとんど機能しないので、この弁体先端部7B以外の連結フランジ部4と弁座6が熱伝導部となるが、これらの外部露出面積は極めて小さいものとなるから、この離脱状態においても前述した連結状態と同様、熱伝導作用が可及的に抑制されて、外部からの入熱が内筒部2内を流通する流体に伝導して流体の温度が上昇したり、内筒部2内を流通する極低温流体による冷却作用で外筒部3が極低温化したりすることが可及的に抑制されることとなる。
【0060】
このように、本実施例は、カプラー連結状態、カプラー離脱状態のいずれの状態においても、カプラーの内筒部2と外筒部3との間の熱の出入りが生ずる熱伝導部を少なくするとともに形成される熱伝導部の熱伝導性を低下させることで優れた断熱性能を発揮し、先願発明に比して、より一層流体荷役装置内を流通する流体の温度上昇による蒸発を防止し流体荷役作業の効率向上を実現可能とするとともに、より一層確実に周囲に存在する酸素の液化を防止し、支燃性のある液化酸素の発生をより一層確実に防止する極めて安全性に優れた流体荷役装置用の緊急離脱機構となる。
【0061】
また、本実施例は、緊急離脱状態において、カプラー本体部5の開口部が複列状態でシールされるから、耐リーク性が向上して、リークしやすい液体水素のリークが可及的に抑制され安全性がより一層向上する実用性に優れた流体荷役装置用の緊急離脱機構となる。
【0062】
尚、本発明は、本実施例に限られるものではなく、各構成要件の具体的構成は適宜設計し得るものである。
【符号の説明】
【0063】
1 カプラー
2 内筒部
3 外筒部
4 連結フランジ部
5 カプラー本体部
6 弁座
7 弁体
7A 弁体基部
7B 弁体先端部
8 シール材
9 真空層
10 連結機構
11 付勢体
図1
図2
図3
図4