【実施例】
【0026】
本発明の具体的な実施例について図面に基づいて説明する。
【0027】
本実施例は、液体水素などの極低温流体の荷役に適した流体荷役装置用の緊急離脱機構である。
【0028】
具体的には、本実施例の緊急離脱機構は、夫々に緊急時に流体の流通を遮断するための緊急遮断弁(弁座6及び弁体7)が設けられた一対のカプラー1が連結機構10により分離自在に突き合せ状態で連結されてなり、緊急離脱時は、連結機構10が連結解除動作してカプラー1同士の連結を解除し、このカプラー1同士の連結が解除されることにより各カプラー1に設けられた弁体7が閉弁動作して各カプラー1の開口部を閉塞し、流体荷役配管及び緊急離脱機構内の流体の流通を遮断するとともに流体の外部流出を防止した状態で緊急離脱するように構成されている。
【0029】
より具体的には、本実施例のカプラー1は、流体が流通可能な筒状に形成されたカプラー本体部5と、緊急時にこのカプラー本体部5の開口部を閉塞して流体の流通を遮断するとともに流体の外部流出を防止する緊急遮断弁と、この緊急遮断弁を動作させるための弁体駆動機構とからなる構成とされている。
【0030】
以下、本実施例に係る構成各部について詳述する。尚、本実施例の連結機構10に関しては、公知の従来構造と同様の構成のものが作用されているので説明を省略し、本実施例においてはカプラー1について詳述する。
【0031】
本実施例のカプラー本体部5は、流体がその内部を通過する先端側に開放状の内筒部2と、この内筒部2との間に真空層9を形成する先端側に開放状の外筒部3と、内筒部2と外筒部3との間を閉塞する連結フランジ部4とからなる構成とされている。
【0032】
即ち、本実施例のカプラー本体部5は、流体が流通する内筒部2と、この内筒部2を包囲する外筒部3との間に形成される空間部に真空層9が形成された真空断熱二重壁構造とされ、また、内筒部2と外筒部3とは連結フランジ部4を介して連結される構成とされ、言い換えると、本実施例のカプラー本体部5は、この連結フランジ部4が内筒部2と外筒部3との間の熱の行き来が可能な熱伝導部となる構成とされている。
【0033】
この熱伝導部となる連結フランジ部4は、肉厚が外筒部3の肉厚よりも薄い肉厚に設定されており、この連結フランジ部4の肉厚を外筒部3よりも薄くして、この熱伝導部となる連結フランジ部4の熱伝導性を低下させることで(熱を伝えにくい構造とすることで)、内筒部2と外筒部3との間の熱伝導作用が可及的に抑制される構成とされている。
【0034】
具体的には、本実施例においては、外筒部3の肉厚が8mmとされているのに対して、連結フランジ部4の肉厚は6mmとされている。尚、この連結フランジ部4の肉厚に関しては、より肉薄に設定されることが好ましく、この連結フランジ部4の強度に問題の無い範囲であれば上記寸法に限らず適宜寸法変更可能なものとする。
【0035】
また、本実施例のカプラー本体部5は、外筒部3の先端側から所定長さ部分が拡径されており、且つ拡径された部分における内筒部2と外筒部3との内外壁間距離が他部よりも長い距離となるように構成されている。
【0036】
具体的には、本実施例のカプラー本体部5は、この外筒部3が拡径された部分において先端部が最も内外壁間距離が長くなるラッパ形状に形成され、この内外壁間距離が最も長い先端部、具体的には、内筒部2と外筒部3との各先端部間に連結フランジ部4が架設状態に設けられて、この連結フランジ部4が内筒部2と外筒部3との間に形成される真空層9となる空間部の先端側開口部を閉塞するように設けられた構成とされている。
【0037】
即ち、本実施例は、内筒部2と外筒部3との内外壁間距離が最も長い部位に連結フランジ部4を設けて、連結フランジ部4の幅寸法を長くし、この熱伝導部となる連結フランジ部4の熱伝導性を低下させることで(熱を伝えにくい構造とすることで)、内筒部2と外筒部3との間の熱伝導作用が可及的に抑制される構成とされている。
【0038】
即ち、本実施例のカプラー本体部5は、内筒部2と外筒部3との間に架設されこの内筒部2と外筒部3との間の熱伝導部となる連結フランジ部4が薄肉化且つ大径化されて熱伝導作用が小さい低熱伝導部に構成されており、この低熱伝導部となるように構成された連結フランジ部4によって内筒部2と外筒部3との間の熱伝導作用が可及的に抑制されることで、外気からの熱が内筒部2内の流体に伝わり内筒部2を流通する流体の温度が上昇することが抑制されるとともに、内筒部2の流体の冷却作用による外筒部3表面の極低温化になることが抑制される構成とされている。
【0039】
また、本実施例の緊急遮断弁は、カプラー本体部5の開口部の周縁に設けられ、この開口部を区画する弁座6と、この弁座6に圧接係合してカプラー本体部5の開口部を開閉させる弁体7とからなる構成とされている。
【0040】
具体的には、本実施例の弁体7は、カプラー本体部5内に収容された弁体基部7Aと、この弁体基部7Aの先端側を覆う弁体先端部7Bとで構成され、後述する弁体駆動機構によりカプラー本体部5の開口部側(先端側)に付勢され、カプラー1同士が分離した離脱状態時に弁体基部7Aが弁座6に圧接係合してカプラー本体部5の開口部を閉塞するように構成されている。
【0041】
より具体的には、本実施例の弁体7は、弁座6に圧接係合した状態、即ちカプラー本体部5の開口部を閉塞した状態において、弁体基部7Aがカプラー本体部5内に収容された状態で、弁体先端部7Bがカプラー本体部5の開口部から外方に突出しカプラー本体部5外(大気中)に露出する構成とされている。
【0042】
即ち、本実施例は、カプラー1同士が離脱した状態になった際には弁体先端部7Bがカプラー本体部5から先端側に突出しており、カプラー1同士が連結している状態では夫々のカプラー1の弁体7同士(弁体先端部7B同士)が相互に押圧し合うことで、夫々の弁体7がカプラー本体部5の基端側に押戻されてカプラー本体部5の開口部が開口状態となる構成とされている。
【0043】
更に具体的には、本実施例は、弁座6及び弁体基部7Aは金属部材からなる構成とされ、また、弁体先端部7Bは低熱伝導性部材、具体的には、熱伝導性の低い合成樹脂、より具体的には、熱伝導性が低く耐久性に優れた繊維強化プラスチック(FRP樹脂)からなる構成とされている。
【0044】
即ち、本実施例は、カプラー同士が分離している状態において大気中に露出状態となる弁体7の弁体先端部7Bを低熱伝導性部材で構成することで、この弁体先端部7Bを介する熱伝導作用が抑制された構成とされている。
【0045】
即ち、本実施例は、この弁体先端部7Bを低熱伝導性部材で構成することでカプラー本体部5内の流体からの冷却作用を受けにくい構成とし、これにより大気中に露出する弁体先端部7Bの極低温化を抑制して、この弁体先端部7Bの周囲の酸素の液化を可及的に抑制するように構成されている。
【0046】
また、本実施例の緊急遮断弁は、弁座6と弁体基部7Aとが複列状に配置された複数のシール材8により密着係合してカプラー本体部5の開口部を閉塞するように構成されている。
【0047】
具体的には、弁座6と弁体基部7Aとの夫々の係合面が段差状に形成されるとともに、弁体基部7Aの各段差部にシール材8が配置され、この弁体基部7Aに設けられた複数のシール材8により弁座6と弁体7(弁体基部7A)とが複列式にシールされる構成とされている。
【0048】
即ち、本実施例の緊急遮断弁は、リークし易い液体水素に対して複数個所でシールして液密を保持し耐リーク性を向上させた構成とされている。尚、本実施例においては図示するように各係合面の段差を三段にして各段部にシール材8を配置した三重シール構造とされているが、係合面の段差数、即ち、シール材8の数及びシール位置に関しては適宜設計変更可能なものとする。
【0049】
また、本実施例の弁体駆動機構は、弁体7をカプラー本体部5の先端側に付勢する、言い換えると、弁体7を弁座6に圧接係合させるための付勢体11と、弁体7の移動をガイドする弁体ガイド部12と、この弁
体ガイド部12に移動案内されるスライド部13とからなる構成とされている。
【0050】
具体的には、弁体ガイド部12は、リング状に形成され、カプラー本体部5の内筒部2の内面に弁体ガイド支持部14を介して設けられた構成とされている。
【0051】
より具体的には、本実施例の弁体ガイド部12は、カプラー本体部5内に、このカプラー本体部5内(内筒部2内)を流通する流体の流れ方向に沿って複数(本実施例では二体)設けられた構成とされている。
【0052】
また、付勢体11とスライド部13は、弁体7(弁体基部7A)に設けられた構成とされている。
【0053】
具体的には、付勢体11はバネ体11(コイル状バネ)からなり、流体の流通方向に沿って設けられ、長手方向一端部が弁体基部7Aに連接され、他端部がカプラー本体部5、具体的には、カプラー本体部5の内筒部2に設けられた弁体受部15に連接された構成とされている。
【0054】
また、スライド部13は、流体が流通可能な多数の透孔13Aを有し、バネ体11を収容可能な(包囲する)多孔円筒板からなり、弁体基部7Aの底部に設けられ、上述した弁体ガイド部12の内側に配され、この弁体ガイド部12に対してスライド自在に設けられた構成とされている。
【0055】
即ち、本実施例の弁体駆動機構は、弁体7を流体の流れ方向に突没動作(前進後退動作)させるように構成されており、具体的には、バネ体11の伸長により弁体7をカプラー本体部5の開口部側(弁座6側)に突出移動(前進移動)させ、バネ体11の縮退により没入移動(後退移動)させる構成とされている。
【0056】
また、本実施例の弁体駆動機構は、上記のように構成部材が全てカプラー本体部5内(内筒部2内)に設けられ、カプラー本体部5の外側に露出しない構成とされてい
る。これにより、弁体駆動機構がカプラー本体部5の内外間の熱伝導部にならず、この弁体駆動機構を介しての熱伝導作用が生じない構成とされている。
【0057】
即ち、先願発明は、緊急遮断弁(弁体)を開閉動作させる弁体駆動機構の一部がカプラーの外側に露出し、この一部が外部に露出する弁体駆動機構を介してカプラー内外間で熱伝導作用が生じてしまう構成であったが、本実施例の緊急離脱機構は、その構成部材が全てカプラー本体部5内(内筒部2内)に設けられ、カプラー本体部5の外側に露出しない構成とされていので、弁体駆動機構がカプラー本体部5の内外間の熱伝導部にならず、この弁体駆動機構を介してのカプラー1内外間で熱伝導作用が生じない構成とされている。
【0058】
以上のように構成される本実施例は、通常状態、即ち
カプラー1同士が連結している連結状態においては、各カプラー1(カプラー本体部5)の連結フランジ部4以外は熱の出入りが真空層9により遮断され、また、唯一の熱伝導部となる連結フランジ部4は、可及的に熱伝導性を低下させた構成とされているから、外筒部3への入熱が内筒部2内を流通する流体に伝導して流体の温度が上昇したり、内筒部2内を流通する極低温流体による冷却作用で外筒部3が極低温化したりすることが可及的に抑制されることとなる。
【0059】
また、緊急離脱状態、即ちカプラー1同士が分離した離脱状態においては、弁体7の弁体先端部7B、連結フランジ部4及びカプラー本体部5の開口部に設けられた弁座6が大気中に露出するが、弁体先端部7Bは低熱伝導性部材で構成され熱伝導部としてほとんど機能しないので、この弁体先端部7B以外の連結フランジ部4と弁座6が熱伝導部となるが、これらの外部露出面積は極めて小さいものとなるから、この離脱状態においても前述した連結状態と同様、熱伝導作用が可及的に抑制されて、外部からの入熱が内筒部2内を流通する流体に伝導して流体の温度が上昇したり、内筒部2内を流通する極低温流体による冷却作用で外筒部3が極低温化したりすることが可及的に抑制されることとなる。
【0060】
このように、本実施例は、カプラー連結状態、カプラー離脱状態のいずれの状態においても、カプラー
1の内筒部2と外筒部3との間の熱の出入りが生ずる熱伝導部を少なくするとともに形成される熱伝導部の熱伝導性を低下させることで優れた断熱性能を発揮し、先願発明に比して、より一層流体荷役装置内を流通する流体の温度上昇による蒸発を防止し流体荷役作業の効率向上を実現可能とするとともに、より一層確実に周囲に存在する酸素の液化を防止し、支燃性のある液化酸素の発生をより一層確実に防止する極めて安全性に優れた流体荷役装置用の緊急離脱機構となる。
【0061】
また、本実施例は、緊急離脱状態において、カプラー本体部5の開口部が複列状態でシールされるから、耐リーク性が向上して、リークしやすい液体水素のリークが可及的に抑制され安全性がより一層向上する実用性に優れた流体荷役装置用の緊急離脱機構となる。
【0062】
尚、本発明は、本実施例に限られるものではなく、各構成要件の具体的構成は適宜設計し得るものである。