【実施例1】
【0015】
図1は本実施例における配管ネットワーク漏れ検知システムの構成を示すブロック図である。
【0016】
図1に示した配管ネットワーク漏れ検知システムは、圧力センサX11、X13、流量センサX12、配管ネットワーク漏れ検知装置X2、入力装置X3を備えている。そして、配管ネットワーク漏れ検知システムの対象となる空圧システムは、圧縮機1により圧縮された圧縮空気を空気槽2で一時的に蓄積したあと、この空気槽2から継ぎ手や空気配管10を介して、エアシリンダやエアブロー等の圧縮空気を消費する末端設備9へ供給する配管設備である。
【0017】
図1において、圧力センサX11は、空気槽2から供給される圧縮空気の圧力を検出する。センサの設置場所は空気槽2の内部、または出口のいずれの場所でも構わない。流量センサX12は、空気槽2から供給される圧縮空気の流量を検出する。圧力センサX13は、末端設備9の入口の圧力を検出する。ここで、
図1において、点線は、データ・信号の流れを示しており、圧力センサX11、X13、流量センサX12の検出値は、配管ネットワーク漏れ検知装置X2に入力される。
【0018】
配管ネットワーク漏れ検知装置X2は、圧力センサX11、X13、流量センサX12の検出値を入力として、配管ネットワーク内の圧力と流量を計算し、漏れ位置およびその位置における漏れ量を検知し、結果を表示装置に表示する。なお、これらの処理は、ソフトウェア処理により実施される。
【0019】
配管ネットワーク漏れ検知装置X2は、各時系列計測値取得部X21、時系列計測データ抽出部X22、配管ネットワークモデル構築部X23、時系列応答計算部X24、漏れ位置、漏れ量決定部X25、出力表示部X26から構成される。以下、配管ネットワーク漏れ検知装置X2の概略構成について説明する。
【0020】
各時系列計測値取得部X21は、圧力センサX11から検出する空気槽圧力計測データP
0、流量センサX12から検出する空気槽出口流量計測データG
0、圧力センサX13から検出する末端設備入口圧力計測データP
1を取得し、格納する。
図2は、各センサからサンプリング時間2秒で取得した時系列計測値を格納する具体例を示している。このデータは、配管ネットワーク漏れ検知システムまたは配管ネットワーク漏れ検知装置に設けられている出力画面で出力してもよい。
【0021】
時系列計測データ抽出部X22は、各時系列計測値取得部X21で取得した時系列計測値から、ある一定の時間帯の計測データを抽出する。抽出した計測データは、時系列応答計算部X24における配管ネットワーク内の圧力、流量の時系列応答計算の境界条件となる。ここで、本実施例において、漏れ位置、漏れ量を決定するためには繰り返し計算が必要となるため、短い計算時間に高精度で漏れ位置、漏れ量を検知するために、変動が大きい時間帯の計測データを優先的に抽出する。
図3、
図4を用いて、本実施例における時系列計測データ抽出部の具体例を説明する。
【0022】
図3、
図4は
図2に格納した末端設備圧力時系列計測値において時刻14:00〜14:30と、14:30〜15:00の30秒間に対する時系列計測データの具体例である。
図3と
図4のデータを比較して、
図4の14:30〜15:00の時間帯の圧力変動が大きいため、末端設備入口圧力境界条件P
11として抽出し、格納する。ここで、各時間帯に対する計測値の変動量は、例えば式(1)に示すように、サンプリング時間間隔に対する計測値の変化を加算することで算出する。
【0023】
Σ
Ni=1 │X
i−X
i+1│ …(1)
式(1)において、X
iは時刻t
iに対する計測値、X
i+1は時刻t
i+1に対する計測値、Nは評価時間帯に対するサンプリング点数である。
図3、
図4に示す例では、X
i、X
i+1は圧力であり、サンプリング点数は16である。
【0024】
次に、上記抽出時間帯14:30〜15:00に対する空気槽出口圧力時系列計測データを空気槽出口圧力境界条件P
01として抽出し、格納する。同様に、14:30〜15:00に対する空気槽流量時系列計測データをG
01として抽出し、格納する。本実施例では、時系列計測データから、式(1)に基づいて各時間帯に対する変動量を計算し、変動が大きい時間帯の計測データを境界条件として自動的に抽出し、格納するため、人の作業を必要としない。
【0025】
配管ネットワークモデル構築部X23は、入力装置X3を介して、圧縮機、末端設備、空気槽等の空圧機器および継ぎ手をノードとして表現し、空気配管をラインとして表現するネットワークシミュレーションモデルを構築する。
図5を用いて、配管ネットワーク漏れ検知システムの入力画面を説明する。
【0026】
図5に示すように、配管ネットワークシミュレーション装置の表示画面の上左側に、配管ネットワークモデルを入力する具体例を示している。
図5では、配管の機器属性である配管長、呼び径、部材の設定値が表示されている。配管長は値を入力し、呼び径と部材はプルダウンメニューで表示される内容から選択する。
図5では、呼び径をプルダウンメニューで選択している状態を示している。また、表示画面の上右側に、配管ネットワークをノードとラインとして入力した例を示している。この例では、圧縮機1、空気槽2、末端設備9に対して、空気配管10として、配管の分岐点である分岐3、6と、配管の曲がり部分であるエルボ4、5、7、8とで示している。さらに、配管ネットワークシミュレーション装置の表示画面の下側に、時系列計測データ抽出部X22にて抽出した空気槽と末端設備の圧力境界条件および空気槽流量時系列計測データが色付けて強調されている。
【0027】
時系列応答計算部X24は、配管ネットワークモデルに基づいて、空圧機器および配管の摩擦損失および熱損失を考慮し、時系列計測データ抽出部X22にて抽出された空気槽出口圧力境界条件P
01と末端設備入口圧力境界条件P
11に対する配管ネットワーク内の圧力、流量の時系列応答を計算する。
【0028】
漏れ位置、漏れ量決定部X25は、時系列計測データ抽出部X22に計算した配管ネットワーク内の圧力、流量の時系列応答に基づいて、圧縮空気の漏れ位置、漏れ量を決定する。具体的には、漏れ量を未知パラメータとして、空気槽出口流量時系列計測データG
01と配管ネットワーク内の時系列応答計算による空気槽出口流量時系列計算データG
0’の差を最小化する問題を解く。ここで、圧縮空気は配管を接続する継ぎ手、弁、末端設備などで漏れると仮定し、漏れ位置を配管ネットワークモデル上のノードに限定する。
【0029】
出力表示部X26は、配管ネットワークモデル上で漏れ位置を表示する。また、漏れ位置における漏れ量から損失コストを算出する。なお、出力表示部X26は、出力部が配管ネットワーク漏れ検知装置内に設けられ、表示部は当該装置とは別に出力画面を設けてそこに表示させるようにしてもよい。
【0030】
図6は、配管ネットワークシミュレーション装置の出力画面であり、出力表示部による表示例である。
図6においては、配管ネットワークモデル上で配管に対して圧縮空気流れの方向を矢印で表示した例を示している。また、漏れ位置は二重丸で強調表示されていて、各検知された漏れ位置に番号が付けられている。さらに、配管ネットワークシミュレーション装置の表示画面の下部に、漏れ検知結果として、各検知された漏れ位置における漏れ量、年間損失が表示されている。
【0031】
図6の例では、検知された漏れ位置(1)の漏れ量は0.05 m
3/minであり、年間損失コストは55,440円になる。ここで、年間損失コストは稼動時間と圧縮空気の単価より計算する。漏れ位置(1)に対する例では、稼動時間8,400時間/年とすると、年間25,200m
3の漏れとなり、圧縮空気の単価を2.2円/ m
3とすると、年間損失コストは55,440円になる。また、漏れ位置(2)の漏れ量は0.03 m
3/minであり、年間損失コストは33,264円になる。
【0032】
以上が、配管ネットワーク漏れ検知装置X2の概略構成である。
【0033】
入力装置X3は、キーボードやマウスなどを備えて、ネットワークシミュレーションモデルを構築する。
【0034】
以上が、配管ネットワーク漏れ検知システムの概略構成である。
【0035】
次に、
図7を用いて、本実施例における漏れ位置、漏れ量を決定する計算処理のフローを説明する。
図7において、ステップS1(各ノードに対する漏れ量予測過程)として、配管ネットワークモデルの各ノードに対する漏れ量の予測値を代入する。漏れないと判断できる場合はゼロとして代入する。
【0036】
ステップS2(空気槽流量計算過程)として、配管ネットワークモデル情報、空気槽出口圧力時系列計測データP
01と末端設備入口圧力時系列計測データP
11を境界条件として、配管ネットワーク内の圧力、流量の時系列応答を計算することにより、空気槽出口流量時系列計算データG
0’を計算する。
【0037】
ステップS3(空気槽流量計算データと流量計測データ確認過程)として、ステップS2で得られた空気槽出口流量時系列計算データG
0’と空気槽出口流量時系列計測データG
01との差ΔGを計算し、その差分値がある閾値内に収まるか否かを判定する。判定結果がYesならば終了し、Noの場合は、ステップS4(各ノードに対する漏れ量修正過程)へ進む。ここで、ΔGは以下の式(2)より計算する。
【0038】
ΔG=∫│G
0’− G
01│dt …(2)
ステップS4(各ノードに対する漏れ量修正過程)として、式(2)により計算される目的関数が最小となるように、公知の最適化計算手法を利用し、ステップS1にて予測した各ノードに対する漏れ量を修正し、ステップS2に戻る。
【0039】
以上が、配管ネットワーク内の漏れ位置、漏れ量決定する計算処理のフローである。
【0040】
本実施例では、X21(各時系列計測値取得部)において、漏れ位置を把握するために従来必要とされた全工場を巡回する定期的な点検を不要とし、漏れ位置、漏れ量を決定するための計算を夜間や平日にも実行できることにより、人手をかけずに漏れ位置、漏れ量を検知できる。
【0041】
また、X22(時系列計測データ抽出部)、X24(時系列応答計算部)、X25(漏れ位置、漏れ量決定部)において、空気圧縮機が稼働中の変動が大きい時間帯の計測データを基に、配管ネットワーク内の圧力、流量の時系列応答を計算し、時系列計測値と時系列応答計算値が一致するように漏れ量を修正することで圧縮空気の漏れ位置および漏れ量を決定するため、漏れ情報に関する確度の高い検知結果が得られ、圧縮空気漏れへの迅速な対策が可能である。
【0042】
また、配管ネットワークにおける漏れ場所候補の指定が不要であり、X23(配管ネットワークモデル構築部)、X26(出力表示部)において、出力画面上で配管ネットワークモデルに対する検知された漏れ位置を表示し、素早く漏れ箇所を特定できる。さらに、漏れ量に応じて年間損失結果を出力し、経済効果を確認することができる。
【0043】
以上のように、本実施例においては、従来必要とされた定期的な点検を不要とし、圧縮機が稼働中の時系列計測値を利用するために、漏れ検知の精度が高い配管ネットワーク漏れ検知システム、及びそれに用いる漏れ検知装置、漏れ検知方法を提供できる。
【実施例2】
【0044】
本実施例は、時系列計測データを複数回抽出し、漏れ検知を実施し、その履歴と結果を確認することができる例について説明する。
【0045】
本実施例における配管ネットワーク漏れ検知システムの構成を示すブロック図は、実施例1の
図1とほぼ同じであるので図は省略する。本実施例が
図1と異なる点は、
図1における出力表示部X26が、異なる時間帯に対して、複数回漏れ位置と漏れ量を検知することにより、漏れ検知結果を表示する機能を有する点である。
【0046】
図8は、本実施例における出力画面の具体例を示す。実施例1の
図6に示す出力画面の具体例と相違する点は、漏れ検知結果のほか、漏れ検知履歴の項目が設置されている点である。
図8において、漏れ検知履歴のボタンをチェックすると、配管ネットワークシミュレーション装置の表示画面の下部に、漏れ検知履歴として、実施日、データ計測日、漏れ箇所が表示される。さらに、データ計測日のボタンをチェックすると、漏れ検知に使った境界条件の詳細データを確認できる。
【0047】
また、
図9は
図8に示した出力画面にチェックされた実施日に対する漏れ検知結果を表す図である。実施例1における
図6の出力画面の具体例と相違する点は、漏れ率と検知回数の結果が設置されている点である。漏れ率は全ての検知履歴に対する検知された回数から漏れ位置の漏れ確率を計算する。
【0048】
本実施例では、実施例1で得られる各効果に加えて、異なる時間帯に対して、複数回漏れ位置と漏れ量を検知することにより、漏れ位置に対する漏れ率を算出し、高い精度で漏れ位置と漏れ量を検知できる。また、漏れ率に応じて漏れ箇所を順番に改善することができる。さらに、一度直したとしても時間が経過すると劣化やゆるみなどにより、漏れが再発する可能性がある箇所に対して、定期的に新しい計測データを利用し、自動検知できる。
【0049】
以上実施例について説明したが、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記実施例は空気圧縮機を用いて説明したが、空気の圧縮機に限定されず一般的な気体の圧縮機でもよく、また液体でも適用可能である。その場合、圧縮機は、気体を送る空気圧縮機や送風機、液体を送るポンプ等が考えられる。すなわち、上記実施例において、空気を気体または液体と読み替えてもよい。また、上記実施例における空気槽は、気体槽、液槽でもよく、それらを総称して供給槽としてもよい。