特許第6685404号(P6685404)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6685404配管ネットワーク漏れ検知システム、及びそれに用いる漏れ検知装置、漏れ検知方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6685404
(24)【登録日】2020年4月2日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】配管ネットワーク漏れ検知システム、及びそれに用いる漏れ検知装置、漏れ検知方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 3/28 20060101AFI20200413BHJP
【FI】
   G01M3/28 B
   G01M3/28 A
【請求項の数】13
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-534353(P2018-534353)
(86)(22)【出願日】2017年8月7日
(86)【国際出願番号】JP2017028605
(87)【国際公開番号】WO2018034187
(87)【国際公開日】20180222
【審査請求日】2019年2月6日
(31)【優先権主張番号】特願2016-160680(P2016-160680)
(32)【優先日】2016年8月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】劉 雅萍
(72)【発明者】
【氏名】矢敷 達朗
【審査官】 素川 慎司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−339195(JP,A)
【文献】 特開2002−098061(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/189921(WO,A1)
【文献】 特開2010−048058(JP,A)
【文献】 特開平07−063637(JP,A)
【文献】 特開2003−279392(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 3/00 − 3/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機により圧縮された圧縮気体または液体を供給槽で一時的に蓄積した後、該供給槽から配管を介して圧縮気体または液体を消費する末端設備へ供給する配管ネットワークにおける気体または液体の漏れ検知装置であって、
前記気体または液体の前記供給槽から供給される供給槽圧力と供給槽流量及び前記末端設備の入口の末端設備圧力のそれぞれの時系列計測値を取得する時系列計測値取得部と、
前記時系列計測値から一定時間帯の圧力の変動が大きい時系列計測データを抽出する時系列計測データ抽出部と、
前記圧縮機、前記供給槽、前記末端設備と前記配管を含む配管ネットワークモデルを作成する配管ネットワークモデル構築部と、
前記配管ネットワークモデルに基いて、前記抽出した時系列計測データを境界条件として、前記配管ネットワーク内の流量や圧力の時系列応答を計算する時系列応答計算部と、
前記計算された流量や圧力の時系列応答に基づいて、前記配管ネットワーク内の前記気体または液体の漏れ位置およびその位置における漏れ量を決定する漏れ位置漏れ量決定部と、
前記漏れ位置と前記漏れ量を表示する出力表示部と、を備えたことを特徴とする漏れ検知装置。
【請求項2】
請求項1に記載の漏れ検知装置であって、
前記漏れ位置漏れ量決定部は、前記漏れ量を未知パラメータとして、前記時系列計測データ抽出部による供給槽流量の時系列計測データと前記時系列応答計算部による供給槽流量の時系列計算データの差を最小化するように問題を解くことで前記漏れ量を修正することを特徴とする漏れ検知装置。
【請求項3】
請求項1に記載の漏れ検知装置であって、
前記出力表示部は、前記圧縮気体の流れの方向、前記漏れ位置、前記漏れ量、年間損失を表示することを特徴とする漏れ検知装置。
【請求項4】
請求項1に記載の漏れ検知装置であって、
前記時系列計測データ抽出部によって前記時系列計測データを複数回抽出し、前記漏れ位置漏れ量決定部によって前記漏れ検知を複数回実施し、
前記出力表示部は、前記漏れ検知の履歴と結果を表示することを特徴とする漏れ検知装置。
【請求項5】
請求項4に記載の漏れ検知装置であって、
前記出力表示部は、前記漏れ検知の履歴における実施日、データ計測日、境界条件、漏れ箇所を表示することを特徴とする漏れ検知装置。
【請求項6】
請求項4に記載の漏れ検知装置であって、
前記出力表示部は、漏れ率、検知回数を表示することを特徴とする漏れ検知装置。
【請求項7】
圧縮機により圧縮された圧縮気体または液体を供給槽で一時的に蓄積した後、該供給槽から配管を介して圧縮気体または液体を消費する末端設備へ供給する配管ネットワークにおいて配管内を流れる気体または液体の漏れを検知する配管ネットワーク漏れ検知システムであって、
前記供給槽から供給される圧縮気体または液体の圧力を検出する供給槽圧力センサと、
前記供給槽からの気体または液体の流量を検出する供給槽流量センサと、
前記末端設備の入口の圧力を検出する末端設備圧力センサと、
配管ネットワーク漏れ検知装置と、
表示装置とを備え、
前記配管ネットワーク漏れ検知装置は、
前記供給槽圧力センサと前記供給槽流量センサと前記末端設備圧力センサから、前記圧縮機が稼働中の時間帯における各圧力センサと流量センサの時系列計測値を取得、格納する時系列計測値取得部と、
前記取得した時系列計測値から一定の時間帯内に変動率が大きい時系列計測データを抽出する時系列計測データ抽出部と、
前記圧縮機、前記供給槽、前記末端設備と前記配管を含む配管ネットワークモデルを作成する配管ネットワークモデル構築部と、
前記配管ネットワークモデルに基づいて、前記抽出した時系列計測データを境界条件として、流量や圧力の時系列応答を計算する時系列応答計算部と、
前記計算された時系列応答に基づいて、配管ネットワーク内の漏れ位置およびその位置における漏れ量を検知する漏れ位置漏れ量決定部と、
前記漏れ位置と前記漏れ量を前記表示装置に送る出力表示部を備えたことを特徴とする配管ネットワーク漏れ検知システム。
【請求項8】
請求項7に記載の配管ネットワーク漏れ検知システムであって、
前記出力表示部は、前記圧縮気体または液体の流れの方向、前記漏れ位置、前記漏れ量、年間損失を前記表示装置に送信し、前記表示装置は受信した情報を表示することを特徴とする配管ネットワーク漏れ検知システム。
【請求項9】
請求項7に記載の配管ネットワーク漏れ検知システムであって、
前記時系列計測データ抽出部によって前記時系列計測データを複数回抽出し、
前記漏れ位置漏れ量決定部によって前記漏れ検知を複数回実施し、
前記出力表示部は、前記漏れ検知の履歴と結果を前記表示装置に送信し、前記表示装置は受信した情報を表示することを特徴とする配管ネットワーク漏れ検知システム。
【請求項10】
請求項9に記載の配管ネットワーク漏れ検知システムであって、
前記出力表示部は、前記漏れ検知の履歴における実施日、データ計測日、境界条件、漏れ箇所を前記表示装置に送信し、前記表示装置は受信した情報を表示することを特徴とする配管ネットワーク漏れ検知システム。
【請求項11】
請求項9に記載の配管ネットワーク漏れ検知システムであって、
前記出力表示部は、漏れ率、検知回数を前記表示装置に送信し、前記表示装置は受信した情報を表示することを特徴とする配管ネットワーク漏れ検知システム。
【請求項12】
圧縮機により圧縮された圧縮気体または液体を供給槽で一時的に蓄積した後、該供給槽から配管を介して圧縮気体または液体を消費する末端設備へ供給する配管ネットワークにおける圧縮気体または液体の漏れ検知方法であって、
前記圧縮機、前記供給槽、前記末端設備と前記配管を含む配管ネットワークモデルを構築し、
前記供給槽から供給される供給槽圧力と供給槽流量及び前記末端設備の入口の末端設備圧力のそれぞれの時系列計測値を取得し、
前記配管ネットワークモデルに基いて、前記時系列計測値を用いて前記配管ネットワーク内の流量や圧力の時系列応答を計算し、
前記計算された流量や圧力の時系列応答に基づいて、前記配管ネットワーク内の気体または液体の漏れ位置およびその位置における漏れ量を決定し表示し、
前記時系列計測値から一定時間帯の圧力の変動が大きい時系列計測データを抽出し、
前記抽出した時系列計測データを境界条件として、前記配管ネットワーク内の流量や圧力の時系列応答を計算し時系列計算データを生成することを特徴とする漏れ検知方法。
【請求項13】
請求項12に記載の漏れ検知方法であって、
前記漏れ量の決定は、前記漏れ量を未知パラメータとして、前記供給槽流量の時系列計測データと前記供給槽流量の時系列計算データの差を最小化するように問題を解くことで前記漏れ量を修正することを特徴とする漏れ検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮気体または液体の供給装置、配管、圧縮気体または液体を消費する機器を含む配管ネットワークにおいて、圧縮気体または液体の漏れ位置および漏れ量を検知し出力する配管ネットワーク漏れ検知システムに関する。
【背景技術】
【0002】
工場内の各部署に圧縮空気を供給する空圧システムは、空気圧縮機により圧縮された圧縮空気を空気槽で一時的に蓄積したあと、この空気槽から配管経路および空圧機器(フィルタ、ドライヤー、制御弁等)を介して、工場内のエアシリンダやエアブロー等、工場の生産工程で圧縮空気を消費する機器(末端設備)へ供給する配管設備である。圧縮空気が空気圧縮機から配管ネットワークを通って末端設備に供給される過程において、空気配管の経年劣化、配管継ぎ手・曲部に生じる隙間等が原因となり、配管ネットワーク中で圧縮空気漏れが生じることが多い。圧縮空気漏れへの対策がない工場では、一般的な統計で空気圧縮機吐出流量の約20〜30%が圧縮空気漏れであるとも言われる。また、液体を供給する配管ネットワークにおいても、同様の液体漏れが生じる可能性がある。
【0003】
また、近年、地球温暖化防止、省エネ法といった消費電力削減の流れのなかで、工場に対しても消費電力を削減することが求められている。そこで、空気圧縮機の消費電力削減には、圧縮空気漏れ量、漏れ位置を把握し、漏れ防止対策をとることが重要となる。しかし、圧縮空気漏れは目に見えなく、臭いがなく、または人体にも環境にも無害のため、漏れ対策を具体的に実施することが困難な場合もある。
【0004】
従来の圧縮空気漏れ対策では、圧縮空気漏れ有無の確認のために、休日など工場生産を行っていない日に空気圧縮機を稼働させ、末端設備に取り付けられている流量計や電力計の測定値を基に漏れ量を計算する必要がある。実際の漏れ位置の把握には、上記と同じく工場生産を行っていない日に空気圧縮機を稼働させて工場を巡回し、超音波漏れ検知器などで40KHz付近の超音波を検知しなければならないため、作業者にとってかなりの負担となる。また、圧縮空気は空気配管の継ぎ手などから漏れる場合が多く、一度直したとしても時間が経過すると劣化やゆるみなどにより、漏れが再発する可能性があるため、定期的な確認・修理が必要である。
【0005】
また、本技術分野の背景技術として、特開2011−54209号公報(特許文献1)がある。特許文献1では、利用者がネットワークにおける圧縮空気漏れ位置候補を入力し、配管ネットワークシミュレーション装置によるネットワークの計算値と計測値を用いて、定義される目的関数が最小となる最適化問題を解くことにより、圧縮空気漏れ場所候補とその漏れ量を計算する圧縮空気漏れ診断技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−54209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、上述した通り、空圧機器と、圧縮空気の漏れから構成される仮想的な圧縮空気消費機器として定義した配管ネットワークにおいて、圧縮空気漏れ位置候補を事前に入力し、指定された各圧縮空気の漏れ場所のすべての組み合わせに対して、ある時間における配管ネットワーク全体の定常状態を計算し、上述した最適化問題を解くことにより、圧縮空気漏れ位置を決定している。
【0008】
しかし、特許文献1に記載の技術では、利用者があらかじめ圧縮空気の漏れ場所候補を入力することが必須であり、入力された圧縮空気の漏れ場所候補の中から可能性の高い候補を出力する。すなわち、圧縮空気の漏れ場所候補に対して実際に漏れているか否かを診断するため、漏れ場所候補として指定されない場所は漏れ場所に含まれず、漏れ場所の検知に抜けが生ずる可能性がある。また、圧縮空気の漏れ場所すべての組み合わせに対する最適化計算を行う必要があり、大規模の配管ネットワークの場合は膨大な計算量を処理する問題がある。
【0009】
また、特許文献1に記載の技術では、配管ネットワークにおける計測値については何ら具体的な説明が示されていない。すなわち、計測に必要な場所および数などを記述していない。これらの計測値の選定は、最適化計算結果を大きく左右するため、圧縮空気の漏れ場所および漏れ量に関する検出精度が保証されていないという課題もある。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、配管ネットワークにおける漏れ場所候補の指定が不要であり、圧縮機が稼働中の任意の時間帯計測値を基に、圧縮気体または液体の漏れ位置およびその位置における漏れ量を検知し出力できる配管ネットワーク漏れ検知システム、及びそれに用いる漏れ検知装置、漏れ検知方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記目的を達成するために、その一例を挙げるならば、圧縮機により圧縮された圧縮気体または液体を供給槽で一時的に蓄積した後、供給槽から配管を介して圧縮気体または液体を消費する末端設備へ供給する配管ネットワークにおける気体または液体の漏れ検知装置であって、気体または液体の供給槽から供給される供給槽圧力と供給槽流量及び末端設備の入口の末端設備圧力のそれぞれの時系列計測値を取得する時系列計測値取得部と、時系列計測値から一定時間帯の圧力の変動が大きい時系列計測データを抽出する時系列計測データ抽出部と、圧縮機、供給槽、末端設備と配管を含む配管ネットワークモデルを作成する配管ネットワークモデル構築部と、配管ネットワークモデルに基いて、抽出した時系列計測データを境界条件として、配管ネットワーク内の流量や圧力の時系列応答を計算する時系列応答計算部と、計算された流量や圧力の時系列応答に基づいて、配管ネットワーク内の気体または液体の漏れ位置およびその位置における漏れ量を決定する漏れ位置漏れ量決定部と、漏れ位置と漏れ量を表示する出力表示部とを備えた構成とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、従来必要とされた定期的な点検を不要とし、圧縮機が稼働中の時系列計測値を利用するために、漏れ検知の精度が高い配管ネットワーク漏れ検知システム、及びそれに用いる漏れ検知装置、漏れ検知方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1における配管ネットワーク漏れ検知システムの構成を示すブロック図である。
図2】実施例1における各センサから取得した時系列計測値の具体例を示す説明図である。
図3】実施例1における末端設備圧力時系列計測データの具体例である。
図4】実施例1における末端設備圧力時系列計測データの具体例である。
図5】実施例1における配管ネットワーク漏れ検知システムの入力画面を示す説明図である。
図6】実施例1における配管ネットワーク漏れ検知システムの出力画面を示す説明図である。
図7】実施例1における配管ネットワーク漏れ検知システムの漏れ位置と漏れ量を決定する計算処理を示すフローチャートである。
図8】実施例2における配管ネットワーク漏れ検知システムの出力画面を示す説明図である。
図9】実施例2における配管ネットワーク漏れ検知システムの他の出力画面を示す説明図である。出力具体例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0015】
図1は本実施例における配管ネットワーク漏れ検知システムの構成を示すブロック図である。
【0016】
図1に示した配管ネットワーク漏れ検知システムは、圧力センサX11、X13、流量センサX12、配管ネットワーク漏れ検知装置X2、入力装置X3を備えている。そして、配管ネットワーク漏れ検知システムの対象となる空圧システムは、圧縮機1により圧縮された圧縮空気を空気槽2で一時的に蓄積したあと、この空気槽2から継ぎ手や空気配管10を介して、エアシリンダやエアブロー等の圧縮空気を消費する末端設備9へ供給する配管設備である。
【0017】
図1において、圧力センサX11は、空気槽2から供給される圧縮空気の圧力を検出する。センサの設置場所は空気槽2の内部、または出口のいずれの場所でも構わない。流量センサX12は、空気槽2から供給される圧縮空気の流量を検出する。圧力センサX13は、末端設備9の入口の圧力を検出する。ここで、図1において、点線は、データ・信号の流れを示しており、圧力センサX11、X13、流量センサX12の検出値は、配管ネットワーク漏れ検知装置X2に入力される。
【0018】
配管ネットワーク漏れ検知装置X2は、圧力センサX11、X13、流量センサX12の検出値を入力として、配管ネットワーク内の圧力と流量を計算し、漏れ位置およびその位置における漏れ量を検知し、結果を表示装置に表示する。なお、これらの処理は、ソフトウェア処理により実施される。
【0019】
配管ネットワーク漏れ検知装置X2は、各時系列計測値取得部X21、時系列計測データ抽出部X22、配管ネットワークモデル構築部X23、時系列応答計算部X24、漏れ位置、漏れ量決定部X25、出力表示部X26から構成される。以下、配管ネットワーク漏れ検知装置X2の概略構成について説明する。
【0020】
各時系列計測値取得部X21は、圧力センサX11から検出する空気槽圧力計測データP、流量センサX12から検出する空気槽出口流量計測データG、圧力センサX13から検出する末端設備入口圧力計測データP1を取得し、格納する。図2は、各センサからサンプリング時間2秒で取得した時系列計測値を格納する具体例を示している。このデータは、配管ネットワーク漏れ検知システムまたは配管ネットワーク漏れ検知装置に設けられている出力画面で出力してもよい。
【0021】
時系列計測データ抽出部X22は、各時系列計測値取得部X21で取得した時系列計測値から、ある一定の時間帯の計測データを抽出する。抽出した計測データは、時系列応答計算部X24における配管ネットワーク内の圧力、流量の時系列応答計算の境界条件となる。ここで、本実施例において、漏れ位置、漏れ量を決定するためには繰り返し計算が必要となるため、短い計算時間に高精度で漏れ位置、漏れ量を検知するために、変動が大きい時間帯の計測データを優先的に抽出する。図3図4を用いて、本実施例における時系列計測データ抽出部の具体例を説明する。
【0022】
図3図4図2に格納した末端設備圧力時系列計測値において時刻14:00〜14:30と、14:30〜15:00の30秒間に対する時系列計測データの具体例である。図3図4のデータを比較して、図4の14:30〜15:00の時間帯の圧力変動が大きいため、末端設備入口圧力境界条件P11として抽出し、格納する。ここで、各時間帯に対する計測値の変動量は、例えば式(1)に示すように、サンプリング時間間隔に対する計測値の変化を加算することで算出する。
【0023】
Σi=1 │X−Xi+1│ …(1)
式(1)において、Xは時刻tに対する計測値、Xi+1は時刻ti+1に対する計測値、Nは評価時間帯に対するサンプリング点数である。図3図4に示す例では、X、Xi+1は圧力であり、サンプリング点数は16である。
【0024】
次に、上記抽出時間帯14:30〜15:00に対する空気槽出口圧力時系列計測データを空気槽出口圧力境界条件P1として抽出し、格納する。同様に、14:30〜15:00に対する空気槽流量時系列計測データをG1として抽出し、格納する。本実施例では、時系列計測データから、式(1)に基づいて各時間帯に対する変動量を計算し、変動が大きい時間帯の計測データを境界条件として自動的に抽出し、格納するため、人の作業を必要としない。
【0025】
配管ネットワークモデル構築部X23は、入力装置X3を介して、圧縮機、末端設備、空気槽等の空圧機器および継ぎ手をノードとして表現し、空気配管をラインとして表現するネットワークシミュレーションモデルを構築する。図5を用いて、配管ネットワーク漏れ検知システムの入力画面を説明する。
【0026】
図5に示すように、配管ネットワークシミュレーション装置の表示画面の上左側に、配管ネットワークモデルを入力する具体例を示している。図5では、配管の機器属性である配管長、呼び径、部材の設定値が表示されている。配管長は値を入力し、呼び径と部材はプルダウンメニューで表示される内容から選択する。図5では、呼び径をプルダウンメニューで選択している状態を示している。また、表示画面の上右側に、配管ネットワークをノードとラインとして入力した例を示している。この例では、圧縮機1、空気槽2、末端設備9に対して、空気配管10として、配管の分岐点である分岐3、6と、配管の曲がり部分であるエルボ4、5、7、8とで示している。さらに、配管ネットワークシミュレーション装置の表示画面の下側に、時系列計測データ抽出部X22にて抽出した空気槽と末端設備の圧力境界条件および空気槽流量時系列計測データが色付けて強調されている。
【0027】
時系列応答計算部X24は、配管ネットワークモデルに基づいて、空圧機器および配管の摩擦損失および熱損失を考慮し、時系列計測データ抽出部X22にて抽出された空気槽出口圧力境界条件P1と末端設備入口圧力境界条件P11に対する配管ネットワーク内の圧力、流量の時系列応答を計算する。
【0028】
漏れ位置、漏れ量決定部X25は、時系列計測データ抽出部X22に計算した配管ネットワーク内の圧力、流量の時系列応答に基づいて、圧縮空気の漏れ位置、漏れ量を決定する。具体的には、漏れ量を未知パラメータとして、空気槽出口流量時系列計測データG1と配管ネットワーク内の時系列応答計算による空気槽出口流量時系列計算データG’の差を最小化する問題を解く。ここで、圧縮空気は配管を接続する継ぎ手、弁、末端設備などで漏れると仮定し、漏れ位置を配管ネットワークモデル上のノードに限定する。
【0029】
出力表示部X26は、配管ネットワークモデル上で漏れ位置を表示する。また、漏れ位置における漏れ量から損失コストを算出する。なお、出力表示部X26は、出力部が配管ネットワーク漏れ検知装置内に設けられ、表示部は当該装置とは別に出力画面を設けてそこに表示させるようにしてもよい。
【0030】
図6は、配管ネットワークシミュレーション装置の出力画面であり、出力表示部による表示例である。図6においては、配管ネットワークモデル上で配管に対して圧縮空気流れの方向を矢印で表示した例を示している。また、漏れ位置は二重丸で強調表示されていて、各検知された漏れ位置に番号が付けられている。さらに、配管ネットワークシミュレーション装置の表示画面の下部に、漏れ検知結果として、各検知された漏れ位置における漏れ量、年間損失が表示されている。
【0031】
図6の例では、検知された漏れ位置(1)の漏れ量は0.05 m3/minであり、年間損失コストは55,440円になる。ここで、年間損失コストは稼動時間と圧縮空気の単価より計算する。漏れ位置(1)に対する例では、稼動時間8,400時間/年とすると、年間25,200m3の漏れとなり、圧縮空気の単価を2.2円/ m3とすると、年間損失コストは55,440円になる。また、漏れ位置(2)の漏れ量は0.03 m3/minであり、年間損失コストは33,264円になる。
【0032】
以上が、配管ネットワーク漏れ検知装置X2の概略構成である。
【0033】
入力装置X3は、キーボードやマウスなどを備えて、ネットワークシミュレーションモデルを構築する。
【0034】
以上が、配管ネットワーク漏れ検知システムの概略構成である。
【0035】
次に、図7を用いて、本実施例における漏れ位置、漏れ量を決定する計算処理のフローを説明する。図7において、ステップS1(各ノードに対する漏れ量予測過程)として、配管ネットワークモデルの各ノードに対する漏れ量の予測値を代入する。漏れないと判断できる場合はゼロとして代入する。
【0036】
ステップS2(空気槽流量計算過程)として、配管ネットワークモデル情報、空気槽出口圧力時系列計測データP1と末端設備入口圧力時系列計測データP11を境界条件として、配管ネットワーク内の圧力、流量の時系列応答を計算することにより、空気槽出口流量時系列計算データG’を計算する。
【0037】
ステップS3(空気槽流量計算データと流量計測データ確認過程)として、ステップS2で得られた空気槽出口流量時系列計算データG’と空気槽出口流量時系列計測データG1との差ΔGを計算し、その差分値がある閾値内に収まるか否かを判定する。判定結果がYesならば終了し、Noの場合は、ステップS4(各ノードに対する漏れ量修正過程)へ進む。ここで、ΔGは以下の式(2)より計算する。
【0038】
ΔG=∫│G’− G1│dt …(2)
ステップS4(各ノードに対する漏れ量修正過程)として、式(2)により計算される目的関数が最小となるように、公知の最適化計算手法を利用し、ステップS1にて予測した各ノードに対する漏れ量を修正し、ステップS2に戻る。
【0039】
以上が、配管ネットワーク内の漏れ位置、漏れ量決定する計算処理のフローである。
【0040】
本実施例では、X21(各時系列計測値取得部)において、漏れ位置を把握するために従来必要とされた全工場を巡回する定期的な点検を不要とし、漏れ位置、漏れ量を決定するための計算を夜間や平日にも実行できることにより、人手をかけずに漏れ位置、漏れ量を検知できる。
【0041】
また、X22(時系列計測データ抽出部)、X24(時系列応答計算部)、X25(漏れ位置、漏れ量決定部)において、空気圧縮機が稼働中の変動が大きい時間帯の計測データを基に、配管ネットワーク内の圧力、流量の時系列応答を計算し、時系列計測値と時系列応答計算値が一致するように漏れ量を修正することで圧縮空気の漏れ位置および漏れ量を決定するため、漏れ情報に関する確度の高い検知結果が得られ、圧縮空気漏れへの迅速な対策が可能である。
【0042】
また、配管ネットワークにおける漏れ場所候補の指定が不要であり、X23(配管ネットワークモデル構築部)、X26(出力表示部)において、出力画面上で配管ネットワークモデルに対する検知された漏れ位置を表示し、素早く漏れ箇所を特定できる。さらに、漏れ量に応じて年間損失結果を出力し、経済効果を確認することができる。
【0043】
以上のように、本実施例においては、従来必要とされた定期的な点検を不要とし、圧縮機が稼働中の時系列計測値を利用するために、漏れ検知の精度が高い配管ネットワーク漏れ検知システム、及びそれに用いる漏れ検知装置、漏れ検知方法を提供できる。
【実施例2】
【0044】
本実施例は、時系列計測データを複数回抽出し、漏れ検知を実施し、その履歴と結果を確認することができる例について説明する。
【0045】
本実施例における配管ネットワーク漏れ検知システムの構成を示すブロック図は、実施例1の図1とほぼ同じであるので図は省略する。本実施例が図1と異なる点は、図1における出力表示部X26が、異なる時間帯に対して、複数回漏れ位置と漏れ量を検知することにより、漏れ検知結果を表示する機能を有する点である。
【0046】
図8は、本実施例における出力画面の具体例を示す。実施例1の図6に示す出力画面の具体例と相違する点は、漏れ検知結果のほか、漏れ検知履歴の項目が設置されている点である。図8において、漏れ検知履歴のボタンをチェックすると、配管ネットワークシミュレーション装置の表示画面の下部に、漏れ検知履歴として、実施日、データ計測日、漏れ箇所が表示される。さらに、データ計測日のボタンをチェックすると、漏れ検知に使った境界条件の詳細データを確認できる。
【0047】
また、図9図8に示した出力画面にチェックされた実施日に対する漏れ検知結果を表す図である。実施例1における図6の出力画面の具体例と相違する点は、漏れ率と検知回数の結果が設置されている点である。漏れ率は全ての検知履歴に対する検知された回数から漏れ位置の漏れ確率を計算する。
【0048】
本実施例では、実施例1で得られる各効果に加えて、異なる時間帯に対して、複数回漏れ位置と漏れ量を検知することにより、漏れ位置に対する漏れ率を算出し、高い精度で漏れ位置と漏れ量を検知できる。また、漏れ率に応じて漏れ箇所を順番に改善することができる。さらに、一度直したとしても時間が経過すると劣化やゆるみなどにより、漏れが再発する可能性がある箇所に対して、定期的に新しい計測データを利用し、自動検知できる。
【0049】
以上実施例について説明したが、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記実施例は空気圧縮機を用いて説明したが、空気の圧縮機に限定されず一般的な気体の圧縮機でもよく、また液体でも適用可能である。その場合、圧縮機は、気体を送る空気圧縮機や送風機、液体を送るポンプ等が考えられる。すなわち、上記実施例において、空気を気体または液体と読み替えてもよい。また、上記実施例における空気槽は、気体槽、液槽でもよく、それらを総称して供給槽としてもよい。
【符号の説明】
【0050】
1:圧縮機、2:空気槽、3、6:分岐、4、5、7、8:エルボ、9:末端設備、10:空気配管、X11、X13…圧力センサ、X12…流量センサ、X2…配管ネットワーク漏れ検知装置、X21…各時系列計測値取得部、X22…時系列計測データ抽出部、X23…配管ネットワークモデル構築部、X24…時系列応答計算部、X25…漏れ位置、漏れ量決定部、X26…出力表示部、X3…入力装置、S1…各ノードに対する漏れ量予測過程、S2…空気槽流量計算過程、S3…空気槽流量計算データと流量計測データ確認過程、S4…各ノードに対する漏れ量修正過程
図1
図2
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図4
図5
図6
図7
図8
図9