(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記回転体は、前記台車枠が上下に変動しても、前記回転体と前記車輪との対向面積が0より大きく、かつ前記回転体の外径面積よりも小さくなるように、前記台車枠に回転自在に取り付けられる、請求項2乃至6のいずれか一項に記載の列車。
【発明の開示】
【0005】
米国特許公開公報2014/0132155号に記載された自転車用ダイナモを列車用の発電機に応用する場合、永久磁石を車輪から一定の距離に離して配置しなければならないため、例えば、列車の台車枠に永久磁石を取り付けることが考えられる。しかしながら、列車の台車枠は、その上方に配置される貨車や客車の重量によって上下位置が変動する。また、列車の走行中の振動によっても、台車枠は上下する。さらには、列車の車輪は、レールとの摩擦によって接触面が変形するため、定期的に接触面を削る転削と呼ばれる保守作業を行う必要がある。転削を行うたびに、車輪の外径サイズが小さくなるため、車輪と永久磁石との位置関係も変化してしまう。
【0006】
このように、台車枠が上下に変動したり、車輪の転削を行ったりすると、永久磁石と車輪との位置関係が変化して、所望の発電性能が得られなくなるおそれがある。
【0007】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、台車枠が上下に変動したり、車輪の転削を行っても、所望の発電性能が得られるようにした列車および列車用ブレーキ制御装置を提供するものである。
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様によれば、車輪と、
前記車輪に対して非接触で対向配置され、前記車輪の回転方向に応じて発生するローレンツ力によって所定の回転軸回りに回転する永久磁石を有する回転体と、
前記回転体の回転による運動エネルギを電気エネルギに変換する発電部と、を備える、列車が提供される。
【0009】
前記回転体は、前記車輪との対向面積が一定になるように配置されてもよい。
【0010】
前記回転体と前記車輪との対向面積が一定になるように、前記回転体の取付位置を制御する制御部を備えてもよい。
【0011】
前記回転体と前記車輪との対向面積は、前記回転体の外径面積よりも小さくてもよい。
【0012】
前記回転体は、車軸に接続された一対の前記車輪同士の対向面のうち少なくとも一方に対向配置されてもよい。
【0013】
車輪を回転自在に支持する台車枠を備え、
前記回転体は、前記台車枠に回転自在に取り付けられてもよい。
【0014】
前記回転体は、前記台車枠が上下に変動しても、前記回転体と前記車輪との対向面積が0より大きく、かつ前記回転体の外径面積よりも小さくなるように、前記台車枠に回転自在に取り付けられてもよい。
【0015】
前記回転体は、前記車輪の回転中心位置を通過して前記台車枠の長手方向に向かう方向に配置されてもよい。
【0016】
前記回転体は、前記車輪の半径をr1、前記回転体の半径をr2、前記車輪に対する前記回転体の相対的な下降距離をΔhとしたときに、前記車輪の回転中心位置を通過して前記台車枠の長手方向に向かう方向を中心方向として、以下の(1)式で示す±θの角度範囲内に配置されてもよい。
【数1】
【0017】
本発明の他の一態様によれば、車輪に対して非接触で対向配置され、前記車輪の回転方向に応じて発生するローレンツ力によって所定の回転軸回りに回転する永久磁石を有する回転体と、
前記回転体の回転による運動エネルギを電気エネルギに変換する発電部と、
前記車輪の回転速度を検知する速度センサと、
前記発電部が変換した電気エネルギを電力源として、前記速度センサの検知信号に基づいて前記車輪の制動時にアンチロック制御を行うアンチロック・ブレーキ制御部と、を備える、列車用ブレーキ制御装置が提供される。
【0018】
本発明によれば、台車枠が上下に変動したり、車輪の転削を行っても、所望の発電性能が得られるようになる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
図1は列車1の車輪5の周辺の構造を示す斜視図である。
図1は、本実施形態の特徴部分に関連する構造を抽出して図示した簡略化した斜視図である。
図1に示すように、一対の車輪5を車軸10に組み付けた構造体である2つの輪軸12が台車枠13の長手方向の両端側に回動自在に取り付けられている。台車枠13の長手方向Xが列車1の走行方向である。
【0021】
図1はインダイレクトマウント台車と呼ばれる構造を示しているが、本実施形態は、ダイレクトマウント台車やボルスタレス台車などにも適用可能である。
図1の台車枠13の上面には、枕バネ14が設けられており、枕バネ14はその上の枕ばり15を揺動自在に支持している。枕ばり15の中央部には、心皿16が設けられている。枕ばり15の上には、貨車や客車等の不図示の車体が配置され、車体と枕ばり15とは、心皿16に差し込まれた不図示の中心ピンにて連結される。枕ばり15の下側にはボルスタアンカ17が設けられている。ボルスタアンカ17は、枕ばり15と台車枠13とを連結するものである。
【0022】
輪軸12における一対の車輪5の対向する内側の面の少なくとも一方には、回転体2が非接触で対向配置されている。回転体2は、台車枠13に支持されている。本実施形態による列車1は、車輪5に対して非接触で対向配置される回転体2と、回転体2の回転による運動エネルギを電気エネルギに変換する発電部とを備えている。回転体2は、車輪5の回転方向に応じて発生するローレンツ力によって所定の回転軸回りに回転する永久磁石11を有する。なお、回転体2を一対の車輪5の対向する内側の面ではなく、その反対側の外側の面に対向配置させてもよい。以下では、一例として、一対の車輪5の対向する内側の面に回転体2を対向配置させる例を説明する。
【0023】
図2〜
図4は車輪5の回転により回転体2が回転する原理を説明する図である。
図2は車輪5および回転体2の正面図、
図3は回転体2の永久磁石11の磁極配置と磁化方向を示す図である。
【0024】
図2に示すように、回転体2は、車輪5から離隔して配置されており、その回転軸2a周りに回転する。回転体2は、車輪5の回転方向に応じた方向に回転する。
【0025】
図2に示すように、永久磁石11の回転軸2aと、車輪5の回転軸5aとは平行に配置されており、永久磁石11の外周面2cに連なる一側面2dの少なくとも一部は、車輪5の外周面5bに連なる一側面5cに対向配置されている。より具体的には、永久磁石11が有する複数の磁極2bのうち、2つ以上の磁極2bが車輪5の一側面5cに対向配置されている。これにより、後述するように、永久磁石11と車輪5との磁気結合量を増やすことができ、車輪5の一側面5c上に生じる渦電流を増大させることができる。
【0026】
車輪5は、例えば車両の車輪5やホイールなどである。車輪5は、永久磁石11に対向配置された一側面5cに渦電流を発生させる。渦電流を発生できるように、車輪5の少なくとも一側面5cは、金属などの導電材料で形成されている必要がある。
【0027】
本実施形態では、永久磁石11の各磁極2bからの磁束により、車輪5の一側面5cに渦電流を発生させる。よって、永久磁石11の一側面2dと車輪5の一側面5cとの間の間隔は、永久磁石11の各磁極2bからの磁束が車輪5に到達可能な範囲内に制限される。
【0028】
永久磁石11の各磁極2bは、対向する永久磁石11の一側面2dに向かう方向またはその反対方向に磁化されている。また、永久磁石11の隣接する磁極2b同士の磁化方向は逆である。
図3では、永久磁石11の各磁極2bの磁化方向を矢印で示している。
図3に示すように、永久磁石11の一側面2dには、周状にN極とS極が交互に並んでいる。また、永久磁石11の車輪5に対向する一側面2dとは反対側の側面2eは、一側面とは逆極性になる。
【0029】
図4は車輪5の一側面5cに発生する渦電流6a,6bにより永久磁石11が回転する原理を説明する図である。永久磁石11の一側面2d上に周状に並ぶ複数の磁極2bのうち、車輪5の一側面5cに対向配置された磁極2bからの磁束は、車輪5の一側面5c方向に伝搬する。永久磁石11の一側面2dと車輪5の一側面5cとの間は、エアギャップであり、永久磁石11からの磁極2bはこのエアギャップを伝搬する。
【0030】
車輪5が回転すると、車輪5の一側面5cには、永久磁石11からの磁束の変化を妨げる方向に渦電流が生じ、この渦電流による磁束と永久磁石11からの磁束との相互作用(反発力および誘引力)により、永久磁石11は回転する。ただし、永久磁石11の一側面2dの表面速度は、対向する車輪5の一側面5cの表面速度よりも遅くなる。
【0031】
例えば、永久磁石11のN極が車輪5の一側面5cに対向配置されている場合、N極の回転方向前方のエッジe1からの磁束が到達する車輪5の一側面5c部分に発生する渦電流6aの向きと、N極の回転方向後方のエッジe2からの磁束が到達する車輪5の一側面5c部分に発生する渦電流6bの向きとは相違している。N極の回転方向後方のエッジe2からの磁束により発生する渦電流6bは、N極からの磁束とは反対方向の磁束を発生させる向きに流れる。一方、N極の回転方向前方のエッジe1からの磁束が到達する車輪5の一側面5c部分に発生する渦電流6aは、N極からの磁束と同方向の磁束を発生させる向きに流れる。いずれの渦電流6a,6bも、車輪5の回転に伴う永久磁石11からの磁束の変化を妨げる方向に流れる。
【0032】
上述したように、永久磁石11のN極の回転方向前方のエッジe1側では、渦電流6aによる磁束と永久磁石11のN極からの磁束との方向が同じになることから、互いに引き寄せ合う誘引力が働く。一方、永久磁石11のN極の回転方向後方のエッジe2側では、渦電流6bによる磁束と永久磁石11のN極からの磁束とは反対方向になることから、互いに反発し合う反発力が働く。永久磁石11の一側面2dの表面速度が、対向する車輪5の一側面5cの表面速度より遅い場合には、上述した、永久磁石11と渦電流6a、6bの関係が常に成り立つ。これにより、永久磁石11は、対向する車輪5の一側面5cの移動表面を追いかけるようにして、対向する車輪5の一側面5cの表面速度よりも遅い表面速度で回転することになる。
【0033】
図2の例では、永久磁石11の車輪5に対向する一側面2dとは反対側の側面2eには、コイル3が対向配置されている。コイル3と、対向する永久磁石11の側面2eとの間には、エアギャップが設けられている。コイル3は固定されており、回転する永久磁石11からの磁束がコイル3を鎖交する。永久磁石11の周状に配置された複数の磁極2bの極性は、交互に変化するため、コイル3を鎖交する磁束はその向きが周期的に変化する交番磁束である。よって、コイル3には、永久磁石11からの磁束の変化を妨げる方向に誘導電流が発生し、この誘導電流を抽出することで、交流からなる誘導電力を生成することができる。このように、コイルを設けることで、車輪5の運動エネルギを電気エネルギに変換することができる。よって、コイルは発電機として機能する。
【0034】
永久磁石11からの磁束は、
図2の矢印y1,y2に示すように、コイル3を鎖交した後、空気中を伝搬して永久磁石11に戻る。磁束の通過する経路は磁路と呼ばれている。磁路の大部分が空気である場合、空気中の磁気抵抗は大きいことから、コイル3を通過する磁束密度が小さくなり、結果として誘導電流も小さくなる。また、磁束が空気中を伝搬している最中に磁束の漏れが生じたり、また、周辺の導電材料または磁性材料の影響で磁路が変化するおそれもある。そこで、2に示すように、コイル3を鎖交した磁束が通過する磁路内にヨーク4を設けるのが望ましい。ヨーク4は、鉄などの透磁率の高い材料で形成されており、例えば、コイル3の永久磁石11に対向する面と反対側の面にヨーク4を密着配置することで、コイル3を鎖交した磁束を漏れなくヨーク4に導いて、ヨーク4内を通って永久磁石11に戻すことができる。これにより、磁束の漏れを防止でき、磁気効率を高くすることができる。
【0035】
上述したように、車輪5が回転すると、車輪5の表面には渦電流が発生し、この渦電流による磁束と永久磁石11の磁束との誘引力および反発力により、回転体2は車輪5と同じ回転方向に回転する力が発生する。よって、回転体2は、車輪5が回転を開始すると、回転を開始する。また、車輪5の移動速度または回転速度が速くなるほど、回転体2を回転させる力も強くなる。
【0036】
回転体2の車輪5に対向する主面全体が車輪5の対向面と重なりあっている場合には、回転体2における永久磁石11の各磁極に作用するローレンツ力が互いに相殺し合って、回転体2はほとんど回転しなくなり、発電性能も著しく減殺されてしまう。よって、安定した発電性能を得るには、
図4に示すように、回転体2と車輪5との対向面積を回転体2の主面の全面積よりも小さくするのが望ましい。
【0037】
図5は車輪5と回転体2との位置関係を示す図、
図6Aおよび
図6Bは
図5のP方向から見た平面図である。
図5では、回転体2の理想的な配置位置をA、第1比較例の配置位置をB、第2比較例の配置位置をCとしている。
【0038】
図6Aは第1比較例における回転体2と車輪5との位置関係を示し、
図6Bは第2比較例における回転体2と車輪5との位置関係を示している。
図6Aおよび
図6Bに示すように、列車1の車輪5は、輪軸12を構成する一対の車輪5同士の対向面側にフランジ5dが設けられている。フランジ5dを設けることで、車輪5がレールから外れる脱線が生じにくくなる。車輪5のフランジ5dよりも内周側には略平坦な面(以下では、平坦面と呼ぶ)5eが設けられ、この平坦面5eよりも内周側にはエッジ5fが設けられ、このエッジ5fよりも内周側は、車輪5の幅が狭くなっている。なお、
図2等では、簡略化のために、車輪5の回転体2に対向する側の全体を平坦面5eとしているが、実際には、
図6Aおよび
図6Bのように、車輪5の回転体2に対向する側の一部だけが平坦面5eになっている。
【0039】
本実施形態では、回転体2を車輪5の平坦面5eから所定のギャップを隔てて配置し、かつ回転体2と平坦面5eとの対向面積が0より大きくて、回転体2の主面の面積よりも小さくなるようにしている。すなわち、回転体2の主面全体が車輪5の平坦面5eと対向配置することがないようにしている。上述したように、回転体2の主面全体が車輪5の平坦面5eと対向配置されると、回転体2がほとんど回転しなくなるためである。なお、本明細書において、回転体2の主面とは、回転体2の車輪5に対向する側の面全体を指す。
【0040】
図6Aおよび
図6Bに示すように、輪軸12を構成する一対の車輪5同士の対向面側には、フランジ5d、平坦面5eおよびエッジ5fが設けられている。回転体2に発生する回転エネルギは、回転体2と車輪5とのギャップが最小になる部分の面積に依存する。本明細書では、回転体2と車輪5とのギャップが最小になる部分の面積を、回転体2と車輪5との対向面積と定義している。よって、回転体2が車輪5のフランジ5dと対向していたり、車輪5のエッジ5fよりも回転中心側で対向していたとしても、対向面積には含めない。
【0041】
図5では、水平方向すなわち台車枠13の長手方向をX、鉛直(上下)方向をYとしている。本実施形態では、
図5の位置Aに示すように、回転体2を車輪5の回転中心位置O1すなわち車軸位置O1を通って台車枠13の長手方向Xに向かう方向に配置している。
図5の位置Aに回転体2を配置する理由は、回転体2を支持する台車枠13は、車体の重量や走行時の振動等により、上下に変動するが、
図5の位置Aであれば、台車枠13が上下に振動しても、回転体2の主面の全体が車輪5の平坦面5eからずれてしまうおそれがないためである。
【0042】
例えば、
図5の位置Bや位置Cに回転体2が配置されていた場合、台車枠13が上下に変動すると、回転体2の主面の全体が車輪5の平坦面5eに対向配置されたり、あるいは回転体2の主面の全体が車輪5の平坦面5eからずれてしまったりする。
図6Aおよび
図6Bには、台車枠13の上下によって回転体2の位置が変化した状態を破線で示している。図示のように、台車枠13がわずかに数十mm上下に移動しただけで、回転体2の主面の全体が車輪5の平坦面5eに対向配置されたり、あるいは回転体2の主面の全体が車輪5の平坦面5eに対向しない位置まで移動してしまう。
図6Aと
図6Bの破線位置では、回転体2での発電性能は著しく減殺されてしまう。
【0043】
また、列車1の車輪5は、摩耗により形状が変形するため、定期的に車輪5の転削を行って車輪5とレールとの接触性を改善させる必要がある。転削を行うたびに、車輪5の外径がフランジ5dを含めて小さくなる。
図7は転削により車輪5の外径が縮んだ例を示している。車輪5の平坦面5eの外周側に回転体2を取り付けた場合、台車枠13が上下に変動しなくても、車輪5の転削により車輪5の平坦面5eと回転体2との位置関係が変化してしまい、回転体2の主面の全体が車輪5の平坦面5eに対向しない状態になることが起こりえる。
【0044】
一方、回転体2が
図5に示す位置Aに配置された場合に、例えば台車枠13が上下に変動したり、車輪5の転削により車輪5の外径サイズが小さくなったとしても、車輪5と回転体2との重なり割合はそれほど大きく変化しない。
図8Aは、台車枠13が下方に移動する前の状態を示している。
図8Aでは、車輪5の平坦面5eの内周面上に回転体2の回転中心位置がある例を示している。車輪5の回転中心位置O1から回転体2の回転中心位置までの距離は例えば400mmとしている。
図8Bは回転体2が相対的に下方に例えば40mm移動した状態を示している。この場合、車輪5の回転中心位置O1から回転体2の回転中心位置までの距離は、以下の(2)式に示すように、約402mmとなり、
図8Aに比べてわずか2mm程度しか増えない。
【数2】
【0045】
よって、回転体2の外径サイズにもよるが、
図5の位置Aに回転体2を配置した場合には、台車枠13が上下に変動したとしても、回転体2の主面の全体が車輪5の平坦面5eに対向配置されたり、あるいは回転体2の主面の全体が車輪5の平坦面5eからずれてしまう不具合が起きにくくなる。
【0046】
このように、回転体2の理想的な配置場所は、
図5の位置Aである。より正確には、回転体2の理想的な配置場所は、車輪5の回転中心位置O1を通過して台車枠13の長手方向Xに向かう方向であって、回転体2の主面と車輪5の平坦面5eとの対向面積が0より大きくて、回転体2の主面の外径面積よりも小さい位置である。
【0047】
列車1の車輪5の周囲には、列車1に搭載される種々の機器類が配置されるため、回転体2を上述した理想的な場所に必ずしも配置できないことが想定されうる。回転体2が上述した理想的な場所から多少ずれた場所に配置されても、実用上支障がない程度の発電能力が得られればよい。
【0048】
図9および
図10は回転体2の配置場所の許容範囲を説明する図である。
図9および
図10では、車輪5の平坦面5eの内周面の半径をr1、回転体2の主面の半径をr2、台車枠13の上下変動による回転体2の相対的な下方変動幅をΔhとしている。
【0049】
図9は、車輪5の回転中心位置O1から台車枠13の長手方向Xに向かう方向を基準方向として、±θの範囲内に回転体2を配置する例を想定している。
図10は、
図9の一部を拡大した図である。
図10では、回転体2が車輪5に対して相対的にΔhだけ下がったときに、回転体2の主面が車輪5の平坦面5eと完全に対向しなくなる限界角度をθとしている。また、
図10では、回転体2の位置がΔhだけ下がったときの回転体2の回転中心位置と基準方向までの距離をX、車輪5の回転中心位置をO1、回転体2がΔh下がる前の回転中心位置をO2、Δh下がった後の回転中心位置をO3、回転中心位置O2,O3を通る線が基準方向Xと交わる点をP、車輪5の回転中心位置O1と回転体2の回転中心位置O3を通る線が車輪5の平坦面5eの内周面と交わる点をQとしている。
【0050】
図10において、三角形O2O3Qと三角形O1O3Pは相似形である。よって、以下の(3)式に示す比例式が成立する。
Δh:r2=r1−r2:X …(3)
【0051】
(3)式をXについて解くと、以下の(4)式が得られる。
【数3】
【0052】
線分O2Pは、以下の(5)式で表される。
O2P=r1sinθ=Δh+X …(5)
【0053】
(5)式のXを(4)式に置き換えて、θについて解くと、以下の(6)式が得られる。
【数4】
【0054】
よって、回転体2の配置位置の許容範囲は、基準方向Xから±θの角度範囲内であり、θは、(6)式からわかるように、車輪5の平坦面5eの内周面の半径r1、回転体2の半径r2、回転体2が車輪5に対して相対的に沈み込む距離Δhの3つのパラメータにより決定される。
【0055】
回転体2が基準方向Xから±θの角度範囲内に配置された場合には、回転体2が車輪5に対して相対的にΔhだけ沈み込んでも、回転体2の主面の全体が車輪5の平坦面5eに対向配置されたり、回転体2の主面の全体が車輪5の平坦面5eからずれてしまうおそれがなくなり、実用上支障がない程度の発電性能を得ることができる。
【0056】
このように、本実施形態では、列車1に非接触発電機を搭載するにあたって、車輪5に非接触で対向配置される回転体2の配置場所を最適化する。より具体的には、車輪5の回転中心位置O1を通って台車枠13の長手方向Xに向かう方向を基準方向として、(6)式に示す±θの角度範囲内に回転体2を配置する。これにより、回転体2を支持する台車枠13が上下方向に変動した場合でも、回転体2と車輪5との対向面積に大きな差違が生じなくなり、常に安定した発電性能が得られる。
【0057】
(第2の実施形態)
第2の実施形態は、列車1に搭載した非接触発電機で発電した電気エネルギを電力源として、アンチロック・ブレーキ制御を行うものである。
【0058】
図11は列車用ブレーキ制御装置20の概略構成を示すブロック図である。
図11の列車用ブレーキ制御装置20は、回転体2と、発電部21と、エネルギ蓄積部22と、速度センサ23と、ABS(Antilock Brake System)制御部24とを備えている。
【0059】
回転体2と発電部21は、第1の実施形態で説明したものを適用可能である。速度センサ23は、車輪5の回転速度を検知する。
【0060】
発電部21は、コイル等を用いて回転体2の回転エネルギを電気エネルギに変換し、変換した電気エネルギをエネルギ蓄積部22に蓄積する。
【0061】
ABS制御部24は、回転体2の回転エネルギに応じた電気エネルギを電力源として、速度センサ23の検知信号に基づいて、車輪5の制動時にアンチロック制御を行う。より詳細には、ABS制御部24からの制御信号は、ブレーキ制御バルブ25に送られる。この制御信号を受けて、ブレーキ制御バルブ25の開閉が制御され、これによりブレーキパッド26にて断続的に車輪5にブレーキをかける。
【0062】
従来の列車用ブレーキ制御装置20では、電力源を確保するために、電源ケーブルを引き回す必要があった。これに対して、本実施形態では、発電機で発生した電気エネルギを主としてABS制御に用いることができ、電源ケーブルを長く引き回す必要もなくなり、列車1内の配線量を削減でき、断線等の不具合も生じにくくなる。
【0063】
このように、第2の実施形態では、車輪5に非接触で対向配置される回転体2の回転エネルギにより得られた電気エネルギをABS制御に用いるため、ABS制御のための電力源の確保が容易になり、電源ケーブルを長く引き回す必要もなくなり、断線等のトラブルも生じにくくなる。また、回転体2の配置場所を第1の実施形態で説明した場所にすることで、安定した発電性能が得られるため、ABS制御という車両にとって極めて重要な機能の電力源として使用することができる。
【0064】
本発明の態様は、上述した個々の実施形態に限定されるものではなく、当業者が想到しうる種々の変形も含むものであり、本発明の効果も上述した内容に限定されない。すなわち、特許請求の範囲に規定された内容およびその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更および部分的削除が可能である。