(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6685498
(24)【登録日】2020年4月3日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】多層構造ブラシ
(51)【国際特許分類】
A46B 15/00 20060101AFI20200413BHJP
A46B 9/02 20060101ALI20200413BHJP
【FI】
A46B15/00 Z
A46B9/02
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-201780(P2015-201780)
(22)【出願日】2015年10月13日
(65)【公開番号】特開2017-74083(P2017-74083A)
(43)【公開日】2017年4月20日
【審査請求日】2018年10月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】591168932
【氏名又は名称】株式会社SHINDO
(74)【代理人】
【識別番号】100148437
【弁理士】
【氏名又は名称】中出 朝夫
(72)【発明者】
【氏名】十九波 敏美
(72)【発明者】
【氏名】中山 敏幸
(72)【発明者】
【氏名】君島 学
【審査官】
石井 茂
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−296496(JP,A)
【文献】
特開2013−000336(JP,A)
【文献】
国際公開第2015/056528(WO,A1)
【文献】
特開2014−054450(JP,A)
【文献】
特開2013−094391(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A46B 1/00−17/08
A46D 1/00−99/00
A61C 17/22−17/40
D04B 1/00−1/28
D04B 21/00−21/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維束から成るブラシ毛がU字状に折り返された状態で並列して、この折り返し部の近傍が経編組織の編目の鎖編糸で編成固定して一体化されたブラシ材であって、
前記ブラシ毛は複数の層を成しており、かつ、これらブラシ毛がそれぞれ異なる編目の鎖編糸に囲まれて互いに独立して拘束保持されていることを特徴とする多層構造ブラシ。
【請求項2】
繊維束から成るブラシ毛がU字状に折り返された状態で並列して、この折り返し部の近傍が経編組織の編目の鎖編糸で編成固定して一体化されたブラシ材であって、
前記ブラシ毛は複数の層を成して編目の鎖編糸により拘束保持されており、かつ、これら複数の層のうちの少なくとも2層間において、略等間隔で配列した一方のブラシ毛のブラシ毛束の立毛位置が、他方の層のブラシ毛のブラシ毛束の立毛位置の合間であることを特徴とする多層構造ブラシ。
【請求項3】
ブラシ毛を編成固定する経編組織が、表裏に編目列を有するダブルラッセル組織であることを特徴とする請求項2記載の多層構造ブラシ。
【請求項4】
ブラシ毛の少なくとも1層のブラシ毛の素材が、他の層のブラシ毛の素材と異なることを特徴とする請求項1〜3の何れか一つに記載の多層構造ブラシ。
【請求項5】
ブラシ毛の少なくとも1層のブラシ毛の長さが、他の層のブラシ毛の長さと異なることを特徴とする請求項1〜4の何れか一つに記載の多層構造ブラシ。
【請求項6】
ブラシ材の少なくとも1層のブラシ毛の折り返し数が、他の層のブラシ毛の折り返し数と異なることを特徴とする請求項1〜5の何れか一つに記載の多層構造ブラシ。
【請求項7】
ブラシ毛の一部が導電性を有する素材であることを特徴とする請求項1〜6の何れか一つに記載の多層構造ブラシ。
【請求項8】
ブラシ毛の一部が防虫成分を練り込んだ防虫繊維であることを特徴とする請求項1〜7の何れか一つに記載の多層構造ブラシ。
【請求項9】
ブラシ毛の折り返し部側の端部において、熱溶融繊維の編構造によってブラシ材の長さ方向に延びる凸状の取付凸部が設けられていることを特徴とする請求項1〜8の何れか一つに記載の多層構造ブラシ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、掃除機ヘッドの吸い込み口に設けられる集塵ブラシや画像処理機等において静電気を除去するための除電ブラシ等のブラシ材の改良、更に詳しくは、ブラシ材としての柔軟性を損なわずにブラシ毛の本数を増加し、かつ、均一な配列密度を可能とし、しかも、種々の機能性を発揮させることもできる多層構造ブラシに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、画像形成装置などの用紙取り扱い装置において静電気が発生すると、搬送などにおいて種々のトラブルを起こすことから、導電性素材を用いた除電ブラシを用紙に接触せしめて、この除電ブラシを介して接地する除電方法が行われており、例えば、<特許文献1>では、複数の導電性ブラシ毛がふたつ折りに屈曲して並列され、このブラシ毛の屈曲部側を織物構造により一体化した除電ブラシが提案されている。この織物構造による<特許文献1>の技術によれば、ブラシ毛の向きをブラシの長さ方向に対して交差する方向にして、多数本並んだシート状のブラシ材が容易に得られる。
【0003】
しかしながら、実際の製造過程は、ブラシ毛の長さの2倍の細幅織物において、織物の両耳近傍だけに経糸を配列して導電性繊維束からなる緯糸を織物の両耳で折り返しながら製織して、織幅の中央をカットするものであるため、一つの緯入れ機構で1本の織物しか得られず、ブラシ毛の本数が少なく生産性が低くて製造コストが高い難点があった。
【0004】
また、<特許文献2>では、複数の導電性ブラシ毛がふたつ折りに屈曲して並列され、このブラシ毛の屈曲部側が2列の鎖編で一体に保持された経編技術による除電ブラシが提案されており、この経編技術であれば1台の経編機により多数本取りで編成することができるので高い生産性が得られることから、最近ではブラシ生産に多用されている
【0005】
しかしながら、複数本の繊維束からなるブラシ毛は編糸により拘束されているので、ブラシ毛束間に隙間が生じる問題があり、また、ブラシ毛の本数を増やす場合、ブラシ毛束自体の直径が増大してしまい、ブラシ毛として要求される柔軟性が損なわれて被接触体を傷つけてしまう懸念がある。
【0006】
また、最近ではブラシ材は種々の用途に使われるようになり、しかも多機能性が要求されるケースも多いが、1種類のブラシ毛で多機能性を発揮させることは困難であることから、例えば、<特許文献3>のように、機能が異なる複数のブラシを積層して接合する方法が提案されているが、複数種のブラシの準備や、精度よく接合するための作業等は非常に面倒であり、製造コストが高くなるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭59−105408号公報
【特許文献2】特開平10−23927号公報
【特許文献3】特開2006−296496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来のブラシ材に上記のような問題があったことに鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、ブラシ材としての柔軟性を損なわずにブラシ毛の本数を増加し、かつ、均一な配列密度を可能とし、しかも、種々の機能性を発揮させることもできる多層構造ブラシを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者が上記技術的課題を解決するために採用した手段を、添付図面を参照して説明すれば、次のとおりである。
【0010】
即ち、本発明は、繊維束から成るブラシ毛がU字状に折り返された状態で並列して、この折り返し部の近傍が経編組織
の編目の鎖編糸で編成固定
して一体化されたブラシ材であって、
前記ブラシ毛は複数の層を成しており、かつ、これらブラシ毛をそれぞれ異なる
編目の鎖編糸に囲まれて互いに独立して拘束保持するという技術的手段を採用したことによって、多層構造ブラシを完成させた。
【0011】
また、本発明は、繊維束から成るブラシ毛がU字状に折り返された状態で並列して、この折り返し部の近傍が経編組織
の編目の鎖編糸で編成固定
して一体化されたブラシ材であって、
前記ブラシ毛は複数の層を成して
編目の鎖編糸により拘束保持されており、かつ、これら複数の層のうちの少なくとも2層間において、略等間隔で配列した一方のブラシ毛のブラシ毛束の立毛位置を、他方の層のブラシ毛のブラシ毛束の立毛位置の合間にするという技術的手段を採用することもできる。
【0012】
また、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、ブラシ毛を編成固定する経編組織を、表裏に編目列を有するダブルラッセル組織にするという技術的手段を採用することもできる。
【0013】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、ブラシ毛の少なくとも1層のブラシ毛の素材を、他の層のブラシ毛の素材と異なるようにするという技術的手段を採用することもできる。
【0014】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、ブラシ毛の少なくとも1層のブラシ毛の長さを、他の層のブラシ毛の長さと異なるようにするという技術的手段を採用することもできる。
【0015】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、ブラシ材の少なくとも1層のブラシ毛の折り返し数を、他の層のブラシ毛の折り返し数と異なるようにするという技術的手段を採用することもできる。
【0016】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、ブラシ毛の一部を導電性を有する素材にするという技術的手段を採用することもできる。
【0017】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、ブラシ毛の一部を防虫成分を練り込んだ防虫繊維にするという技術的手段を採用することもできる。
【0018】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、ブラシ毛の折り返し部側の端部において、熱溶融繊維の編構造によってブラシ材の長さ方向に延びる凸状の取付凸部を設けるという技術的手段を採用することもできる。
【発明の効果】
【0019】
本発明にあっては、繊維束から成るブラシ毛がU字状に折り返された状態で並列して、この折り返し部の近傍を経編組織で編成固定して、前記ブラシ毛は複数の層を成しており、かつ、これらブラシ毛をそれぞれ異なる鎖編糸に囲まれて互いに独立して拘束保持したことによって、ブラシ材としての柔軟性を損なわずにブラシ毛の本数を増加し、かつ、均一な配列密度を可能とし、しかも、種々の機能性を発揮させることもできる。
【0020】
また、ブラシ毛が複数の層を成して鎖編糸により拘束保持して、かつ、これら複数の層のうちの少なくとも2層間において、略等間隔で配列した一方のブラシ毛のブラシ毛束の立毛位置を、他方の層のブラシ毛のブラシ毛束の立毛位置の合間にしたことによっても、ブラシ材としての柔軟性を損なわずにブラシ毛の本数を増加し、かつ、均一な配列密度を可能とし、しかも、種々の機能性を発揮させることができる。
【0021】
このように、ブラシ毛は少なくとも2層からなって一体化されており、各層のブラシ毛は互いに異なる鎖編糸により互いに分離されつつ繊維束単位で強固に拘束されているので、ブラシ毛密度を高めてもブラシ毛抜けを抑制することができる。
【0022】
また、各層を異なる繊維素材としても、これらの繊維同士が混ざり合うことなく前後の位置関係で確実に分離されているので、各繊維素材の持つ機能を効果的に発揮させることができる。
【0023】
更にまた、ブラシ毛の本数を増加することが容易であり、さらにブラシ毛の配列において隙間なく配列することができるので、ブラシ毛の密度を高めることができ、掃除機やクリーナー等において漏れなく塵埃を掃き出すことができる。
【0024】
更にまた、必要に応じて、本発明の多層構造ブラシにおける複数層のブラシ毛をダブルラッセル組織で一体化させることができ、各層を別々に製造した後に合わせて縫合したりする手間が省け、しかも、各層間のブラシ毛の配列は編組織により均一に配列させることができる。
【0025】
更にまた、必要に応じて、ブラシの少なくとも1層のブラシ毛の素材を他の層のブラシ毛と異なる素材とすることができ、複数の機能を発揮させることが可能であり、更には、ブラシ毛を3層や4層として、中央部に比較的脆弱な機能性繊維の層を配置した場合であっても、外側に耐久性のある繊維を使用することにより、この機能性繊維を保護することができる。
【0026】
更にまた、必要に応じて、ブラシの少なくとも1層のブラシ毛の長さを他の層のブラシ毛の長さと異なる長さとすることができ、長いブラシ毛層の片側または両側に短いブラシ毛層を配置することによって、長いブラシ毛の倒れ変形の抑制や折れ防止効果などによって、耐久性のあるブラシとなる。
【0027】
更にまた、必要に応じて、ブラシ毛の一部を導電性を有する素材にすることができ、ブラシ毛と被接触体との摩擦による帯電に対して導電性素材を介して除電が可能となり、静電気による種々のトラブルを防ぐことができる。
【0028】
更にまた、必要に応じて、ブラシ毛の一部を防虫成分を練り込んだ防虫繊維にすることができ、本発明の多層構造ブラシを住宅窓枠等のシール材として用いることにより、虫が防虫剤の匂いで窓枠近傍には近寄らないので、窓を開け閉めしても虫が室内へ侵入することを防ぐことができる。
【0029】
更にまた、必要に応じて、ブラシ毛の折り返し部側の端部に、熱溶融繊維を含む編構造によってブラシの長さ方向に延びる凸状の取付凸部を設けることができ、この取付凸部の熱溶融性繊維の融点以上に加熱して型成形することによって、樹脂注入成形などの煩雑な成形加工を施すことなく、簡単に取付凸部を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の第1実施形態の多層構造ブラシの構造を表す概略図である。
【
図2】本発明の第1実施形態の多層構造ブラシの構造を表す概略断面図である。
【
図3】本発明の第1実施形態の多層構造ブラシの構造を表す部分斜視図である。
【
図4】本発明の第1実施形態の多層構造ブラシの経編組織図である。
【
図5】本発明の第2実施形態の多層構造ブラシの構造を表す概略図である。
【
図6】本発明の第2実施形態の多層構造ブラシの構造を表す概略断面図である。
【
図7】本発明の第2実施形態の多層構造ブラシの構造を表す部分斜視図である。
【
図8】本発明の第2実施形態の多層構造ブラシの経編組織図である。
【
図9】本発明の第3実施形態の多層構造ブラシの構造を表す概略断面図である。
【
図10】本発明の第3実施形態の多層構造ブラシの構造を表す部分斜視図である。
【
図11】本発明の第4実施形態の多層構造ブラシの構造を表す概略断面図である。
【
図12】本発明の第4実施形態の多層構造ブラシの構造を表す部分斜視図である。
【
図13】本発明の実施形態の多層構造ブラシの応用例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明を実施するための形態を具体的に図示した図面に基づいて更に詳細に説明すると、次のとおりである。
【0032】
『第1実施形態』
本発明の第1実施形態を
図1から
図4に基づいて説明する。図中、符号1で指示するものはブラシ本体であり、符号2a、2bで指示するものは経編組織の編目であり、符号3a、3bで指示するものは繊維束から成るブラシ毛である。
【0033】
図1は本実施形態の多層構造ブラシの構造を表す概略図である。ブラシ毛3a・3bは上下の位置関係で、共に細幅テープ状の両耳でU字状に折り返された状態で並列しており、この折り返し部の近傍を経編組織の編目2aと編目2bの二つの鎖編糸で編成固定して一体化する。
【0034】
本実施形態の概略断面図を
図2に示す。前記ブラシ毛は複数の層(本実施形態では2層)を成しており、かつ、これらブラシ毛がそれぞれ異なる鎖編糸に囲まれて互いに独立して拘束保持されている。
【0035】
即ち、
図3にも示すように、ブラシ毛3a・3bは表側と裏側とに完全に分かれており、表側のブラシ毛3aは編目2bの鎖編糸により拘束され、裏側のブラシ毛3bは編目2aの鎖編糸により拘束されているため、2つのブラシ毛3aおよび3bは鎖編糸によりそれぞれ独立した状態で分離され、かつ、鎖編糸によりそれぞれ独立した状態で拘束されている。
【0036】
このように、2つのブラシ毛3a・3bが確実に分離して拘束され、そして表裏で配列することによって、ブラシ毛の繊維本数密度を増やすことが容易に可能である。この際、更に、表裏のブラシ毛素材を違えることによって、二つの機能を発揮させるブラシを得ることもできる。
【0037】
そして、こうして編成された細幅テープ状基材の中央部を、長さ方向(
図1中の一点鎖線)にカットすることで、二つのブラシを得ることができる。
【0038】
ここで、本実施形態の編組織を
図4に示す。本実施形態では、筬L1と筬L3が鎖編糸(鎖編組織)で、筬L2と筬L4にブラシ毛の繊維束による8針横振り挿入組織とすることによって、筬L1の鎖編糸が筬L2と筬L4の両ブラシ毛を拘束するが、筬L3の鎖編糸は、筬L4のブラシ毛のみを拘束するので、それぞれのブラシ毛を独立状態で拘束することができるのである。
【0039】
本実施形態の経編組織としては、鎖編組織であるとブラシの長さ方向への伸長が抑制されるので、ブラシの寸法安定性の面から最も好ましいが、1/1トリコット編やコード編、またはこれらの組み合わせであっても構わない。また、ブラシ毛3のU字状の折り返し部近傍を編成する編目列は、ブラシ毛3を確実に保持することを目的とするものであり、2〜5列並行させて編成することが好ましい。
【0040】
また、編目2a・2bを形成する糸種としては、一般に経編でよく使用されているポリアミド繊維、ポリエステル繊維等のマルチフィラメント糸、およびそれらの加工糸を採用することができ、繊度としては30〜600dtex程度が好ましい。繊度が30dtexより小さいとブラシ毛3となる繊維束への締付力が不足してブラシ毛3が抜け易い問題があり、一方、繊度が600dtexより大きくなると編目2の厚みが増える問題や、ブラシ毛の繊維束間の編糸の存在により繊維束間の隙間が大きくなる問題がある。
【0041】
また、編目2a・2bは鎖編組織であることからブラシ毛3に沿って移動し易いので、確実に固定する手段として、低融点繊維を編目2a・2bの鎖編糸と引き揃えて編成したり、または鎖編糸自身を低融点ポリマーと高融点ポリマーとの芯鞘複合糸を用いて編成し、低融点の融点以上の温度の加熱処理でブラシ毛と編目を接着させることができ、同時にブラシ毛3の抜け防止対策になる。
【0042】
本実施形態の多層構造ブラシの編成条件における編成密度としては、ブラシの用途により異なるが、ブラシ毛の繊維束の太さが細く、緻密な配列が望まれるものは高密度に編成する必要があり、一方、太い繊維束で強力な掃き出しを狙う用途では粗密度に編成となることから、例えば、使用するラッセル編機のゲージとしては、16〜24ゲージ/25.4mm程度で、コース密度としては、10〜25コース/25.4mmの範囲であることが好ましい。
【0043】
また、本実施形態の多層構造ブラシのブラシ毛3の素材としては、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、アクリル繊維等の合成繊維、炭素繊維やステンレス繊維、あるいは導電物質を含む合成繊維等の導電性繊維、また、防虫剤や抗菌剤が練り込まれた機能性繊維等を採用することができる。この際、二つのブラシ毛3a・3bの素材が同一であっても構わないが、それぞれのブラシ毛3に機能性の異なる素材とすることで複数の機能を発揮させることができる。
【0044】
ブラシ毛3a・3bに、炭素繊維や金属繊維、あるいは導電物質を含む合成繊維などの導電性繊維を用いることによって、それらの繊維自身は帯電しないようにし、また、他の合成繊維と併合して用いた際には、発生した静電気を導電性繊維を介して逃がしてやることができ、静電気による種々のトラブルを防ぐことができる。
【0045】
また、防虫性の機能性繊維を採用することによって、例えば、ピレスロイド系殺虫剤が熱可塑性樹脂に練り込まれて繊維状にした繊維等、一般に市販されている防虫繊維を用いることができ、防虫繊維をブラシ毛としたブラシを窓枠等のシール材として用いることにより、隙間から虫の侵入を防ぐと同時に、防虫剤の匂いで窓枠近傍には虫が近寄らないので、窓を開け閉めしても虫が室内へ侵入することを防ぐことができる。
【0046】
そしてまた、抗菌性の機能性繊維を採用することによって、例えば、抗菌性を有した銀イオンを持つ銀系化合物、陽イオン界面活性剤の一つである第四級アンモニウム塩化合物、更には天然のキチン、キトサンなどが熱可塑性樹脂に練り込まれた繊維などがあり、掃除機の吸い込み口などのブラシ材に利用することによって、床やカーペットなどの敷物の抗菌作用が期待できる。
【0047】
なお、ブラシ毛3に使用する繊維種の中でも、防虫剤や抗菌剤を練りこんだ繊維は比較的に磨耗に弱く、また、導電性の炭素繊維においては、引っ張り強度は優れるものの曲げに対して折れやすいという欠点を有しているので、2層のブラシ毛3a・3bのどちらか、あるいは3層や4層のブラシ毛3c・3d・3eの層に、これらの機能性繊維を配列させて、ブラシ使用時における倒れに対して後押しとなる側(被さる側)、または外側にポリアミド繊維等のような靭性を有した繊維を配列させることによって、機能性繊維の耐久性を増すことができる。
【0048】
また、どちらか一方の層を長いブラシ毛とし、もう一方の層を短いブラシ毛とすることによって、短いブラシ毛を長いブラシ毛の倒れ防止用として作用させて長いブラシ毛を補助することができる。具体的な製造方法としては、例えば、長いブラシ毛には熱収縮の小さい繊維を用い、もう一方の繊維には熱収縮の大きい繊維を用いて編成し、中央部をカットした後に加熱して、一方の繊維を大きく収縮することによって異なる長さのブラシ毛を形成することができる。更には、ブラシ毛の短い方のみに熱収縮性の加工糸を用いることもできる。
【0049】
『第2実施形態』
次に、本発明の第2実施形態を
図5から
図8に基づいて説明する。
図5は本実施形態の多層構造ブラシを表す正面図である。本実施形態は、第1実施形態と同様に、繊維束から成るブラシ毛がU字状に折り返された状態で並列して、この折り返し部の近傍が経編組織で編成固定されたブラシ材であるが、前記ブラシ毛は複数の層を成して鎖編糸により拘束保持されており、かつ、これら複数の層のうちの少なくとも2層間において、略等間隔で配列した一方のブラシ毛のブラシ毛束の立毛位置を、他方の層のブラシ毛のブラシ毛束の立毛位置の合間にする点において異なる。
【0050】
まず、ブラシ毛3a・3bは、それぞれ表裏関係で層を成し、表側層のブラシ毛3aは表側の編目2aにより一体化され、裏側層のブラシ毛3bは裏側の編目2cにより一体化されている。
【0051】
そして、表側の編目2aと裏側の編目2cとはそれぞれ鎖編組織を成しており、鎖編のシンカーループ同士が交錯し合って両編目が結合されている。この結合方法としては、同一の鎖編糸で前後2列の針床を交互に編成させても良いし、更には、両編目間に鎖編糸とは別の連結糸を設けて互いに連結させることもできる。
【0052】
また、ブラシ毛3a・3bは、それぞれ両耳端でU字状に折り返されて層を成し、両耳端近傍で編目2a・2cにより一体化されており、第1実施形態と同様に、編成後に細幅テープ状基材の中央部を、長さ方向(
図5中の一点鎖線)にカットすることで、二つのブラシを得ることができる。
【0053】
本実施形態の概略断面図を
図6に示す。また、
図7に示すように、表側層のブラシ毛3aは、表側編目2aの鎖編糸の編目とシンカーループにより拘束されて、編目2aと同間隔で配列しており、一方、裏側層のブラシ毛3bは裏側編目2cの鎖編糸の編目とシンカーループにより拘束されて、表側層と同様に、編目2cと同間隔で配列している。
【0054】
本実施形態では、ダブルラッセル編機で編成することが好ましい。ダブルラッセル編機は、前後2列の針床が交互に上下して編成されるので、編地の長さ方向において、表側編目と裏側編目とのピッチが編目長さの1/2長さ分ずれるため、編目により拘束されているブラシ毛3a・3bは、表側層のブラシ毛3aの立毛位置が裏側層のブラシ毛3bの配列の隙間の位置(合間)になる。
【0055】
したがって、ブラシの掃き出し方向(ブラシの長手方向)において、表側ブラシ毛3aの配列の隙間に丁度裏側ブラシ3bが存在するので、ブラシ毛が隙間なく配列されたのと同じ効果を発揮することになるため、高密度の経編機など特殊な経編機を用いなくとも、また、太い繊維束で無理して編成することなくとも、通常の経編機で容易に高密度立毛のブラシを得ることができる。
【0056】
ここで、本実施形態の編組織を
図8に示す。本実施形態では、筬L2と筬L3が鎖編糸(鎖編組織)で、筬L1と筬L4にブラシ毛となる繊維束による8針横振り挿入組織とすることによって、(前)筬L2で後ろ針床の編針で鎖編を編成し、逆に、(後)筬L3で前針床の編針で鎖編を編成することによって、鎖編のシンカーループ同士が交錯し合って一体化することができるのである。
【0057】
『第3実施形態』
次に、本発明の第3実施形態を
図9および
図10に基づいて説明する。本実施形態では、ブラシ毛3の層を3層とする構造である。即ち、表側層のブラシ毛3aは表側の編目2aの側面で、かつ、裏側層のブラシ毛3bは裏側の編目2cの側面で、それぞれの鎖編のシンカーループに囲まれて保持されており、それらのブラシ毛3a・3bの層間において、両鎖編目2a・2cのシンカーループの間に挟まれる形でブラシ毛3cが保持された3層構造を成している。このように、本実施形態における各ブラシ毛は、単独あるいは複数のそれぞれ異なる鎖編糸に囲まれて互いに独立して拘束保持されている。
【0058】
このような3層構造とすることにより、ブラシの長手方向に対してブラシ毛3a・3c・3bがブラシの長さ方向に少しずれながら順に並ぶので、隙間がなく、確実な掃き出し作用が期待できる。更には、前述したように曲げや磨耗に弱い機能性繊維を中央に配列せしめて、その両側に耐久性の優れた繊維を配列させて保護するような3層構造にすることもできる。
【0059】
『第4実施形態』
次に、本発明の第4実施形態を
図11および
図12に基づいて説明する。本実施形態では、ブラシ毛3の層を4層とする構造である。即ち、表側層のブラシ毛3aは表側の編目2aの側面に配列され、そして、2層目のブラシ毛3dが表側1層目のブラシ毛3aに重なるようにして配列されて、表側の別々の鎖編糸でそれぞれ独立して保持されている一方、4層目のブラシ毛3bは裏側の編目2cの側面に配列され、3層目のブラシ毛3eが4層目のブラシ毛3bと重なり、裏側の別々の鎖編糸でそれぞれ独立して保持されており、2層目のブラシ毛3dと3層目のブラシ毛3eを保持する鎖編糸同士が交錯して一体化している。
【0060】
このような形でブラシ毛を4層とすることにより、中間層の2層のブラシ毛3d・3eは、両サイドのブラシ毛と同一位置の配列となることから、中間層の2層を確実に保護することが可能である。また、中間層の2層について別の機能性繊維を配列させることもでき、複数の機能を発揮するブラシを提供することができる。また、各層の繊維束はそれぞれ独立して編糸により確実に拘束されていることから、ブラシ毛の抜けを効果的に防ぐことができる。
【0061】
<応用例>
本実施形態の多層構造ブラシの応用例を
図13に示す。本応用例は、ブラシ毛3の折り返し部側の端部に、熱溶融繊維から成る編構造によってブラシの長さ方向に延びる凸状の取付凸部4を設けたものである。具体的には、ブラシ本体を編成後に、ブラシ毛3の折り返し部側の端部の熱溶融性繊維の融点以上に加熱して型成形することによって、樹脂注入成形のような煩雑な成形加工をすることなく、掃除機等のブラシ取り付け用スロットに挿入可能な取付凸部4を形成することができる。
【0062】
この際、取付凸部4の厚みt1としては、スロットから外れない(抜けない)厚さが必要であり、型成形後においてブラシ毛3の厚さt0よりも8mm以上の厚さであることが好ましく、実際には型成形することで厚みが減少するので、型成形後においてはブラシ毛3の厚みt0よりも4mm以上の厚さであれば問題ない。
【0063】
また、取付凸部4の形状としては、図示の形状以外にも、ブラシ毛3の折返し側の端部から二重組織でY字状に枝分かれさせて、T字状、または端部で上方に折り返して成形する方法や、端部に二重組織で袋状として袋内に角棒体などを挿入して成形する方法であっても構わない。
【0064】
なお、取付凸部4を成形するにあたり、熱溶融繊維として、低融点ポリマーと高融点ポリマーからなる芯鞘複合糸を使用したり、あるいは低融点繊維を含めて編成することによって、比較的低い温度で取付凸部4を硬化させて成形することができるので好ましい。
【0065】
本発明は、概ね上記のように構成されるが、本発明は図示の実施形態に限定されるものではなく、「特許請求の範囲」の記載内において種々の変更が可能であって、ブラシ毛3の横振り挿入を編目毎に配列させた例を示したが、例えば、機能性繊維が非常に高価であって、ブラシ1の所々に点在するだけで効果が得られるような場合においては、機能性繊維束の折り返し数(頻度)を少なくして、機能性繊維の使用量を少なくすることができ、そうすることでブラシの製造コストを下げることができる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の多層構造ブラシは、ブラシ材としての柔軟性を損なわずにブラシ毛の本数を増加し、かつ、均一な配列密度を可能とし、しかも、種々の機能性を発揮させることもでき、種々の用途に適用できることから、その産業上の利用価値は非常に高い。
【符号の説明】
【0067】
1 ブラシ本体
2(2a・2b・2c・2d) 編目
3(3a・3b・3c・3d・3e) ブラシ毛
4 取付凸部