【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題の解決は、本発明に係る板ガラスにより達成される。すなわち、この板ガラスは、表面に、ドットを構成単位とする情報表示部が設けられた板ガラスにおいて、ドットが、環状の溝で形成され、表面は、溝により、溝の内側に区画される内側区画領域と、溝の外側に区画される外側区画領域とに区画されており、内側区画領域は平坦な形状をなし、かつ内側区画領域と外側区画領域とが同一平面上にある点をもって特徴付けられる。
【0009】
このように、本発明では、板ガラスの表面に、ドットを構成単位とする情報表示部を設けるに際し、ドットを、環状の溝で形成したことを特徴とする。このようにドットを環状の溝で形成することで、この環状の溝で囲まれた領域(溝より内側の領域)がレーザーにより除去されることなく残存する。これにより、外径寸法を同一とする従来形状(略有底円筒状)の凹部と比べて、本発明に係る凹部の容積が大幅に減少するので、板ガラスの情報表示部が設けられた領域の強度低下を可及的に防止することが可能となる。また、環状の溝であれば、外径寸法が変わらない限り溝の幅寸法を小さくしたとしても視認性がそれほど大きく低下することもない。よって、溝の外径寸法を変えることなく幅寸法を小さくすれば、その分だけ溝よりも内側の領域の体積を大きくとることができ、これにより視認性を確保しつつも所要の強度を確保することが可能となる。
【0010】
また、本発明では、板ガラスの表面が、溝により、溝の内側に区画される内側区画領域と、溝の外側に区画される外側区画領域とに区画され、内側区画領域は平担な形状をなし、かつ内側区画領域と外側区画領域とが同一平面上にあるようにしたので、板ガラスの表面に形成される溝の輪郭が鮮明になる。よってこの溝で形成されるドットの視認性をさらに高めることが可能となる。
【0011】
また、本発明に係る板ガラスは、上記溝が、円環状をなすものであってもよい。
【0012】
ドットは、情報表示部の構成単位であるから、ドットに汎用性をもたせる観点から、ドットを形成する溝については、点対称であると視認し得る形状が好ましい。従って、溝を円環状、特に真円環状とすることで、この溝で形成されるドットの配置態様に関する汎用性を高めることが可能となる。
【0013】
また、本発明に係る板ガラスは、ドットの外径寸法を0.05mm以上でかつ0.2mm以下としたものであってもよい。
【0014】
このようにドットの視認形態となる環の外径寸法を規定することで、ドット及びドットを構成単位とする情報表示部の視認性を満たしつつ、板ガラスに対して所要の強度を確保することが可能となる。
【0015】
また、本発明に係る板ガラスは、ドットを形成する溝の内径寸法を0.0375mm以上でかつ0.125mm以下としたものであってもよい。
【0016】
このようにドットの視認形態となる環の内径寸法を規定することによっても、ドット及びドットを構成単位とする情報表示部の視認性を満たしつつ、板ガラスに対して所要の強度を確保することが可能となる。
【0017】
また、本発明に係る板ガラスは、ドットを形成する溝の深さ寸法を2.0μm以上でかつ30μm以下としたものであってもよい。
【0018】
このようにドットを構成する溝の深さ寸法を規定することによっても、ドット及びドットを構成単位とする情報表示部の視認性を満たしつつ、板ガラスに対して所要の強度を確保することが可能となる。
【0019】
また、本発明に係る板ガラスは、互いに隣り合うドットの中心間距離を0.06mm以上でかつ0.25mm以下としたものであってもよい。
【0020】
このように、互いに隣り合うドットの中心間距離を規定することによっても、ドット及びドットを構成単位とする情報表示部の視認性を満たしつつ、板ガラスに対して所要の強度を確保することが可能となる。
【0021】
また、本発明に係る板ガラスは、表面が円板状をなし、その周縁部に位置決め部が設けられ、情報表示部の円周方向中央位置が、位置決め部の円周方向中央位置を基準として円周方向に2°以上でかつ10°以下の範囲に設定されるものであってもよい。
【0022】
本発明に係る板ガラスであれば、情報表示部が形成される領域の強度を確保することができるので、例えば上述のように表面が円板状をなし、周縁部に位置決め部が設けられる板ガラスにおいて、この位置決め部の近傍(円周方向に所定の位相分だけずれた位置)に情報表示部が形成される場合であっても、本発明を好適に適用することが可能となる。
【0023】
また、本発明に係る板ガラスは、情報表示部が、文字、記号、二次元コード、及び図形を含む群から選択される1種以上の要素を有するもので、要素が複数のドットで構成されるものであってもよい。
【0024】
このように、情報表示部が、文字、記号、二次元コード、及び図形等の要素を有する場合にあっては、当該文字等の要素を複数のドットで構成することができる。従って、情報表示部の種類によらずその要素(いわば中間構成単位)をドット(いわば最小構成単位)でもって正確に表示することができる。
【0025】
また、本発明に係る板ガラスは、情報表示部が、板ガラスの寸法、線膨張率、ロット、偏肉率、製造者名、販売者名、及び材質コードを含む群から選択される少なくとも1つの情報を示すものであってもよい。なお、ここでいう寸法には、板ガラスの厚み寸法、外径寸法など(後述するように、板ガラスに切欠き部等の位置決め部が設けられる場合には、切欠き部の深さ寸法や開口幅寸法など位置決め部の形状、大きさを代表する部位の寸法が含まれる)が含まれるものとする。
【0026】
本発明に係る板ガラスによれば、その表示形式を問わず、様々な種類の情報を視認性よく板ガラスの表面に表示することが可能となるので、例えば上記例示の情報を示す情報表示部であっても問題なく板ガラスの表面に形成することが可能となる。
【0027】
また、前記課題の解決は、本発明に係る情報表示部の形成方法によっても達成される。すなわち、この方法は、板ガラスの表面への情報表示部の形成方法であって、情報表示部はドットを構成単位とし、かつドットを、環状の溝で形成する点をもって特徴付けられる。
【0028】
上述のように、本発明に係る情報表示部の形成方法によれば、本発明に係る板ガラスと同様に、ドットを環状の溝で形成することで、この環状の溝で囲まれた領域が残るので、外径寸法を同一とする従来形状(略円筒状)の凹部と比べて、凹部の容積が大幅に減少する。従って、板ガラスの情報表示部が設けられた領域の強度低下を可及的に防止することが可能となる。また、環状の溝であれば、外径寸法が変わらない限り当該溝の幅寸法を小さくしたとしても視認性がそれほど大きく低下する心配もない。よって、溝の外径寸法を変えることなく幅寸法を小さくすれば、その分だけ溝よりも内側の領域(溝で囲まれる領域)の体積を大きくとることができ、視認性を確保しつつも所要の強度を確保することが可能となる。あるいは、同様の理由で、溝の深さ寸法を、従来形状の凹部の深さ寸法より小さくすれば、視認性を確保しつつも所要の強度を確保することが可能となる。
【0029】
また、本発明に係る情報表示部の形成方法は、環状の溝を、レーザー光を照射してアブレーションにより形成するものであってもよい。
【0030】
レーザー光を照射することで対象物の表面に何らかのマークを形成する(いわゆるレーザーマーキングを行う)に際しては、レーザー光を照射した領域を溶融することでマークをなす凹部を形成するのが一般的である。しかしながら、板ガラスの如き脆性材料にレーザーマーキングを施すに当たっては、レーザー光の照射時に板ガラスに蓄積される熱に起因したひずみ(熱ひずみ)に留意する必要がある。すなわち、レーザー光の照射により板ガラスを加熱溶融して凹部を形成する場合、レーザー光の照射領域及びその周囲に熱の蓄積が生じる。この熱の蓄積は板ガラスの表面にひずみを生じさせるため、強度低下の一因となる。また、溶融した部分は周囲に流動して残るため、レーザー光の照射領域に倣って正確な形状及び寸法の溝を形成することが難しい。
【0031】
この点に関し、本発明では、環状の溝を、レーザー光を照射してアブレーションにより形成するようにしたので、レーザー光が照射された領域のガラスが気化することで消失する。また、アブレーションを生じさせるために、ごく短時間に高エネルギー密度のレーザー光を照射することで、レーザー光の照射領域及びその周囲に熱が蓄積する事態を抑制することができる。よって、熱ひずみの発生を抑制しつつ溝を形成することができ、レーザー光の照射領域における強度を確保することが可能となる。また、アブレーションにより溝を形成することで、溶融したガラスの流動量が減少することが期待できるため、レーザー光を照射した領域に倣って正確な形状及び寸法の溝を形成することが可能となる。
【0032】
また、この場合、本発明に係る情報表示部の形成方法は、レーザー光を環状に走査することにより環状の溝を形成するものであってもよい。
【0033】
また、本発明に係る情報表示部の形成方法は、レーザー光として、パルス幅がピコ秒からフェムト秒オーダーのパルスレーザーを用いるものであってもよい。
【0034】
例えばこの種のマーキングに一般的に使用されているナノ秒レーザー(パルス幅がナノ秒オーダーのパルスレーザー)を用いた場合であっても、その照射条件を精密に制御すれば、レーザー光の照射領域にアブレーションを発生させることは可能と考えられるが、その場合にも少なからずガラスの溶融は生じる。これに対して、レーザー光にパルス幅がピコ秒からフェムト秒オーダーのパルスレーザー(ピコ秒レーザー又はフェムト秒レーザー)を用いるようにすれば、パルス幅が非常に短いために、ガラスに熱が蓄積することなくレーザー光の照射領域にアブレーションのみを生じさせることができる(レーザー光の照射領域の周囲におけるガラスの溶融は実質的に生じない)。従って、熱ひずみの発生を確実に防止して、より安定的に強度を確保することが可能となる。また、ガラスが溶融して周囲に流動する事態を防止できるので、レーザー光を照射した領域のみに溝を形成することができ、溝の形状精度ないし寸法精度の向上が期待できる。また、ピコ秒レーザーやフェムト秒レーザーであれば、ナノ秒レーザーのように溶融したガラスの流動を考慮することなくレーザー光の照射条件を設定できるため、制御も簡易なもので済む。