(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
大腿骨近位部骨折や転子部骨折に対しては、骨固定器具を用いた骨接合術による治療が広く行われている。骨接合術においては初期の段階での整復とその固定方法が術後の経緯に大きく影響するため、骨固定器具には良好な整復位を保つための強固な固定力が求められている。そして、より適切な処置を行うためには、骨折の状態に応じて使用する旋回防止部材の本数や挿通角度を選択できるのが好ましい。
【0003】
この点、特許文献1に開示の大腿骨固定器具は、大腿骨骨幹部に挿入される髄内釘と、髄内釘に挿通されるラグスクリュ及び3本の旋回防止ピンと、髄内釘に内嵌されたセットスクリュ(調整具)と、を備え、3本の旋回防止ピンのうち、一本の旋回防止ピンは髄内釘にラグスクリュと平行に挿通され、残り2本の旋回防止ピンは、ラグスクリュに対して傾斜すると共に、これら旋回防止ピンの先端側部位が平面視においてクロスするように髄内釘に挿通される。即ち、このセットスクリュは、比較的長さの長いスライド部を有するため、使用する旋回防止ピンの本数や挿通角度の選択肢を広げることができ、接骨を良好に行うことができる。
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示の構成では、旋回防止ピンが髄内釘に対して固定されていないため、旋回防止ピンが緩んで抜ける(バックアウト)という不具合が起こる虞がある。
【0005】
一方、付勢部材や弾性部材を利用してラグスクリュや旋回防止ピンを固定する大腿骨固定器具も提案されている。例えば、特許文献2に開示の大腿骨固定器具においては、コイルバネの付勢力を利用したロック機構が備える第2の要素をインプラント(ラグスクリュ)の当接構造に係合させて、ラグスクリュの内側移動を防止している。
【0006】
特許文献3及び4に開示の髄内固定システムは、髄内釘本体と、髄内釘本体に収容された第1の係合部材と、第1の係合部材に収容された第2の係合部材と、髄内釘本体と第1の係合部材に挿通される骨ねじ(旋回防止ピン)と、を有する。当該システムでは、第2の係合部材に外嵌されたコイル状の弾性部材によって第2の係合部材を初期位置に保持しておき、髄内釘本体に挿入されたエンドキャップの先端部で第2の係合部材を押し下げることで骨ねじを拘束し、骨ねじの髄内釘本体からの脱落を防止している。
【0007】
特許文献5に記載の骨固定システムは、髄内釘本体と、髄内釘本体に収容されるインサートと、髄内釘本体及びインサートに挿通される複数本の骨ねじと、を備える。インサートは、軸線に沿って配列された複数個の開口域を有し、各開口域に骨ねじが挿通される。エンドキャップが髄内釘本体にねじ込まれると、インサートはエンドキャップにより末端側へ押し下げられ、各骨ねじは対応する一対の弾性係合部により末端側へ押圧されると共に、髄内釘本体の軸線方向に垂直な横断方向に挟持され、これにより骨ねじは髄内釘本体に対して固定される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態に係る大腿骨固定器具について添付の図面を参照して説明する。
図1〜
図3を参照して、本実施形態に係る大腿骨固定器具1は、大腿骨の近位部にて骨折が発生した際に用いられるものであって、骨折した大腿骨のうち大腿骨頭を含む骨へ挿入されるラグスクリュ2と、大腿骨骨幹部に挿入される髄内釘3と、髄内釘3に内嵌された調整具(セットスクリュ)4と、髄内釘3の上端に螺合によりはめ込まれるエンドキャップ(蓋部材)5と、髄内釘3に挿通されて用いられる1本以上の旋回防止ピン(ここでは3本の旋回防止ピン(旋回防止部材)61,62,63)と、を備える。
図1及び
図2においてエンドキャップ5は省略されている。
【0018】
以下の説明において、大腿骨固定器具1が所要の通りに大腿骨に取り付けられた状態において、大転子側を上側(第1側)、遠位端側を下側(第2側)と定義して説明する。
【0019】
ラグスクリュ2の軸方向X1における一端側には雄ねじ部21が形成され、他端側にはラグスクリュ2の軸方向X1に沿って延びる複数本の溝部22が周方向D3に間隔を空けて形成されている。各溝部22の幅寸法Wは、雄ねじ部21が形成された一端側へ向かうに従い漸増すると共に、ラグスクリュ2の径方向内方(深さ方向)へ向かうに従い漸減する。
【0020】
髄内釘3は上下方向(第1方向)D1に延び、長孔3aと、挿通孔3bと、少なくとも1つの補助孔(ここでは3つの補助孔3c,3d,3e)と、が設けられている。長孔3aは上下方向D1に沿って髄内釘3を貫通し、長孔3aの内面上端部には
図3に示すようにエンドキャップ5の雄ねじ部51が螺合するための雌ねじ部31が設けられている。挿通孔3b及び補助孔3c〜3eは、それぞれラグスクリュ2及び3本の旋回防止ピン61〜63を挿通させるためのものであり、髄内釘3の周面を貫通し長孔3aと交差するように設けられている。
図5に示す様に、旋回防止ピン61〜63は、所要の通りに大腿骨Tに挿入された際に、これらの先端が大腿骨頭T2に到達できる長さに設定されている。
【0021】
図2に示す様に、調整具4は髄内釘3の長孔3a内に装着されており、調整具4の下端には止め部4aが設けられている。止め部4aをラグスクリュ2のいずれか1つの溝部22に係止させることにより、ラグスクリュ2の周方向D3への回転を阻止する。また、調整具4には上下方向D1に沿って調整具4を貫通する貫通孔40が形成されている。
【0022】
調整具4は、スライド部8と、回転部9と、を備え、
図4に示す様に、回転部9はスライド部8の上端部8aに回転自在に連結され、スライド部8の下端部8bには上述した止め部4aが設けられている。
【0023】
図2を参照して、スライド部8は長孔3a内を上下方向D1にスライド移動自在であるが、髄内釘3に対して相対的に周方向D2への回転は出来ないようにされている。このような構成としては、例えば長孔3aを略D字状横断面を有するように設け、スライド部8もこれに対応して略D字状横断面を有するようにすればよい。
【0024】
回転部9は、外周面にねじ加工が施された雄ねじ部材であって、髄内釘3の長孔3aの内周面に設けられた雌ねじ部3fに螺合している。また、回転部9はスライド部8に対して回転自在とされており、回転部9を髄内釘3に対して周方向D2に回転させると、調整具4全体が上下方向D1に移動する。このとき、回転部9は回転しながら上下動するが、スライド部8は髄内釘3に対して回転することなく上下動する。また、回転部9の上端には上述した貫通孔40の一部を構成する操作孔91が形成されている。操作孔91は外部の操作具(図示せず)が挿入されるものであって、本実施形態では操作具として六角レンチが用いられ、操作孔91は六角レンチの横断面に対応して六角形状の横断面を有するように形成されている。よって、術者は操作孔91に六角レンチ(図示せず)を挿入して回転させることにより、回転部9を回転させることができる。
【0025】
図4を参照して、スライド部8には、スライド部8を上下方向D1に貫通して上述の貫通孔40の一部を構成する貫通孔(図示せず)が設けられていると共に、補助孔3c〜3eに対応する3個の干渉防止部85a,85b,85cが設けられている。干渉防止部85a〜85cは上下方向D1と交差する方向に延びる干渉防止孔及び/又は干渉防止溝であり、旋回防止ピン61〜63を髄内釘3に挿通させると、これらは干渉防止部85a〜85cを通り、スライド部8(調整具4)による干渉が防止される。
【0026】
より具体的に、干渉防止部85aは、旋回防止ピン61を挿通させるための挿通孔である。干渉防止部(第1空間)85bは、旋回防止ピン(第1旋回防止部材)62が挿通される空間であって、本実施形態では挿通孔とされており、干渉防止部85aよりも上方に位置している。干渉防止部(第2空間)85cは、旋回防止ピン(第2旋回防止部材)63が挿通される空間であって、本実施形態では挿通孔とされており、干渉防止部85bよりも上方に位置し、かつ上下方向D1に垂直な横方向(第2方向)D4において干渉防止部85bと部分的に重なっている。
【0027】
スライド部8は更に、干渉防止部85a内に設けられた付勢部81と、干渉防止部85b内に設けられた付勢部(第1付勢部)82と、干渉防止部85c内に設けられた付勢部(第2付勢部)83と、を有する。付勢部81は、干渉防止部85aの側壁81aから干渉防止部85a内に向かって上下方向D1と交差する方向へ板状に延出している。付勢部82は、干渉防止部85bの側壁82aから干渉防止部85b内に向かって上下方向D1と交差する方向へ板状に延出している。付勢部83は、干渉防止部85cの側壁83aから干渉防止部85c内に向かって上下方向D1と交差する方向へ板状に延出している。
【0028】
上記構成を有する大腿骨固定器具1は次のようにして大腿骨に装着される。
図2及び
図5を参照して、予め調整具4が装着された髄内釘3を大腿骨骨幹T1の骨髄に図中上方から所定深さまで挿入させる。次に、ラグスクリュ2を髄内釘3の挿通孔3bに挿通させながら、大腿骨頭T2に向かって所要の深さまで大腿骨Tにねじ込む。
【0029】
次に、旋回防止ピン61〜63を髄内釘3の補助孔3c〜3e(
図1)に挿通させながら大腿骨Tに挿入させる。このとき、調整具4には干渉防止部85a〜85cが設けられていることから、旋回防止ピン61〜63は調整具4によって干渉されることなくスムーズに挿通される。なお、このとき旋回防止ピン61〜63は、干渉防止部85a,85b,85cのうち、付勢部81,82,83よりも下方部位に挿通される。
【0030】
このように挿入された旋回防止ピン61はラグスクリュ2よりも上方に位置し、旋回防止ピン61の軸線X2はラグスクリュ2の軸線X1と実質平行に延びる。また、旋回防止ピン62,63は、旋回防止ピン61よりも上方に位置し、正面視において旋回防止ピン62,63の軸線X3,X4はラグスクリュ2(及び旋回防止ピン61)の軸線X1に対して斜めに傾斜して延びる。また、平面視において、旋回防止ピン62,63の軸線X3,X4は、旋回防止ピン62,63の先端側部位において横方向にクロスするよう、相互に傾きをもって延びている。
【0031】
このように、ラグスクリュ2に対して上下方向D1に傾斜して延びる旋回防止ピン62,63を用いることができるので、旋回防止ピン62,63を斜めに入った骨折線に対しても直角又は直角に近い角度で挿入させることができ、骨折部位をより効果的に固定する。
【0032】
この状態で外部の操作具(図示せず(例えば、六角レンチ))を用いて調整具4の回転部9を所定の締付方向に回転させると、調整具4全体が下降する。そして、調整具4が所定位置まで下降すると、止め部4aが溝部22内に係止されてラグスクリュ2の周方向D3への回転が阻止されると共に、旋回防止ピン61,62,63はそれぞれ付勢部81,82,83により下方に押圧されて固定され、旋回防止ピン61,62,63が髄内釘3から脱落するのが防止される。即ち、本実施形態における付勢部81〜83は、旋回防止ピン61〜63を抑えつけるための板バネの役割を果たす。
【0033】
より具体的に、溝部22は雄ねじ部21が設けられたラグスクリュ2の一端側に向かうに従いその幅寸法Wが漸増することから、止め部4aは溝部22内を一端側に向かう矢印Y方向へのスライド移動は許容されるが、他端側に向かう矢印Z方向への移動は阻止される。これは、ラグスクリュ2が髄内釘3に対して矢印Z方向へ相対的に移動するのは許容されるが、矢印Y方向への相対移動は阻止されることを意味する。これにより、ラグスクリュ2が誤って髄内釘3に対して矢印Y向へ相対移動して大腿骨頭T2から突き出てしてしまうのを防止している。なお、このようにラグスクリュ2の矢印Y方向への相対移動は阻止される一方で矢印Z方向への相対移動が許容された状態をスライディング可能状態という。
【0034】
また、調整具4が上述の様に下降すると、付勢部81〜83はそれぞれ旋回防止ピン61〜63に上方から当接し、調整具4が上記所定位置に到達すると、付勢部81〜83は旋回防止ピン61〜63を下方に付勢し、旋回防止ピン61〜63は付勢部81〜83と髄内釘3の補助孔3c,3d,3eの底壁(又は旋回防止ピン61〜63が挿入された大腿骨T)との間で挟持されて固定され、旋回防止ピン61〜63が髄内釘3から抜けてしまうのを防止する。
【0035】
そして、この状態から調整具4の回転部9が更に所定の締付方向に回転されると、止め部4aがラグスクリュ2に対して更に強固に押圧され、ラグスクリュ2は矢印Y方向に加えて矢印Z方向へも髄内釘3に対して相対移動できなくなり、ラグスクリュ2は髄内釘3に対して完全に固定された状態となる。このようにラグスクリュ2の矢印Y方向及び矢印Z方向への相対移動が共に阻止された状態を完全ロック状態という。この状態においても、旋回防止ピン61〜63は付勢部81〜83によって押圧されて固定された状態に維持される。
【0036】
このように、本実施形態においては、付勢部81〜83で旋回防止ピン61〜63を押圧するので、ラグスクリュ2がスライディング可能状態とされている場合でも、また完全ロック状態とされている場合でも、旋回防止ピン61〜63を強固に固定することができる。また、付勢部81〜83で旋回防止ピン61〜63を下方に押圧して固定するため、干渉防止部85bと干渉防止部85cとが上述のように横方向D4において部分的に重なる構成としても、これらに挿通される旋回防止ピン62,63の直径を過度に小さくする必要が無く、旋回防止ピン62,63の強度を維持できる。
【0037】
特許文献2と異なりコイルバネを収納するスペースが不要であるため、調整具4のスライド部8の長さを長くでき、旋回防止ピンを挿通可能な領域を十分に確保できる。また、特許文献3,4と異なりコイル状の弾性部材を調整具4に外嵌させる等の必要がないので、これによっても調整具4における旋回防止ピンを挿通可能な領域を十分に確保できる。
【0038】
なお、旋回防止ピン61〜63については、術者は必ずしもこれらの全てを使用する必要はなく、骨折の種類や状態に応じて何れか1本又は複数本を使用すればよく、全く使用しないことも可能である。
【0039】
また、本実施形態においては、干渉防止部85a,85b,85cのそれぞれに付勢部81〜83を設けたが、本発明の他の実施形態においては、付勢部81〜83の何れか1個又は2個が省略されるのが好ましい。
【0040】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態にかかる大腿骨固定器具について説明する。
図6及び
図7を参照して、本実施形態の大腿骨固定器具101は、上述した大腿骨固定器具1と略同一であるが、調整具4に代えて調整具104を備える点で異なる。よって、ここでは調整具104についてのみ説明し、残りの説明は省略する。また、本実施形態及び以下の実施形態において、第1実施形態におけるものと実質同一の部材については同一の参照番号を付し、その説明は省略する。
【0041】
本実施形態の調整具104は、スライド部108と、スライド部108の上端部に回転自在に連結された回転部9と、を備える。スライド部108はスライド部8と略同一であるが、スライド部108には干渉防止部85a,85b,85cに代えて干渉防止部185a,185b,185cが設けられており、干渉防止部185a,185b,185cはそれぞれ付勢部181,182,183により主空間11,13,15と副空間12,14,16に仕切られている。各付勢部181,182,183は上下方向D1と交差する方向に延びており、その両端が干渉防止部185a,185b,185cの側壁に一体的に接続されている。即ち、第1実施形態の干渉防止部85a,85b,85cは片持ち構造であったが、本実施形態の干渉防止部185a,185b,185cは両持構造とされている。また、各干渉防止部185a,185b,185cは波形形状を有し、波形形状の各山部Pは干渉防止部185a,185b,185cの軸線方向(旋回防止ピン61〜63の挿通方向/軸線X1,X2,X3に沿う方向(
図5))に沿って延びている。
【0042】
本実施形態においても、旋回防止ピン61〜63を補助孔3c〜3e(
図1)に挿通させた状態で調整具104を下降させると、旋回防止ピン61,62,63はそれぞれ付勢部181,182,183により下方に押圧されて固定され、旋回防止ピン61,62,63が髄内釘3から脱落するのが防止される。また、各干渉防止部185a,185b,185cは両持構造であって且つ波形形状を有することから、旋回防止ピン61,62,63をより強固に固定できる。なお、波形形状の具体例としては、正弦波形状、三角波形状、矩形波形状、及びのこぎり波形状が挙げられる。
【0043】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態にかかる大腿骨固定器具について説明する。
図8を参照して、本実施形態の大腿骨固定器具201は、第2実施形態の大腿骨固定器具101と略同一であるが、旋回防止ピン61,62,63に代えて旋回防止ピン261,262,263を備える点で異なる。各旋回防止ピン261,262,263には、その長手方向に沿って延びる複数本の溝G1が周方向に並設されている。
【0044】
よって、上述のようにして各旋回防止ピン261,262,263が各付勢部181,182,183(
図7)により下方に押圧されると、各付勢部181,182,183の山部Pが旋回防止ピン261,262,263の溝G1と係合し、これにより旋回防止ピン261,262,263はより強固に固定される。
【0045】
[第4実施形態]
次に、本発明の第4実施形態にかかる大腿骨固定器具について説明する。
図9及び
図10を参照して、本実施形態の大腿骨固定器具301は、第1実施形態の大腿骨固定器具1と略同一であるが、調整具4に代えて調整具304を有すると共に、旋回防止ピン61,62,63に代えて旋回防止ピン361,362,363を備える点で異なる。
【0046】
調整具304は、スライド部308と、スライド部308の上端部に回転自在に連結された回転部9と、を備える。スライド部308は上述のスライド部8と略同一であるが、付勢部81,82,83に代えて付勢部381,382,383が設けられている点でスライド部8と異なる。付勢部381,382,383は付勢部81,82,83と略同一であるが、その下面には下方に向かって突出する複数本の突部P2が設けられ、各突部P2は付勢部381,382,383の延出方向に沿う方向(旋回防止ピン361,362,363の挿入方向(軸線X2,X3,X4)と交差する方向)に延びている。各旋回防止ピン361,362,363の周面には、周方向に沿って延びる溝G2が設けられている。なお、
図9に示す例では溝G2は螺旋状に構成されているが、円環状の溝を軸線X2,X3,X4に沿って複数本配設させたものであっても良い。
【0047】
かかる構成において、第1実施形態の場合と同様に各旋回防止ピン361,362,363が各付勢部381,382,383により下方に押圧されると、各付勢部381,382,383の突部P2が旋回防止ピン361,362,363の溝G2と係合し、これにより旋回防止ピン361,362,363は強固に固定される。また、突部P2及び溝G2は旋回防止ピン361,362,363の挿入方向(軸線X2,X3,X4)と交差する方向に延びるので、旋回防止ピン361,362,363が髄内釘3から抜けてしまうのをより確実に防止することができる。
【0048】
[第5実施形態]
次に、本発明の第5実施形態にかかる大腿骨固定器具について説明する。
図11〜
図13を参照して、本実施形態の大腿骨固定器具401は、第1実施形態の大腿骨固定器具1と略同一であるが、調整具4に代えて調整具404を有し、エンドキャップ5に代えてエンドキャップ405を有する点で異なる。
【0049】
調整具404は、スライド部408と、スライド部408の上端部408a(
図12(c))に回転自在に連結された回転部9と、を備える。スライド部408には干渉防止部85a,85b,85cに代えて干渉防止部485a,485b,485c(
図12(f))が設けられている。また、スライド部408は、支持部481と可動部482とに分割されて構成されている(
図12(a))。
【0050】
図12(a)に示す様に、支持部481は上下方向D1に延びて下端に止め部4aを有する。支持部481は、第1部位483と、第1部位483と一体に形成された第2部位484と、を有する。第1部位483は、上下方向D1に延びる側面481aを有し、側面481aには空間481b,481c,481dが形成されている(
図12(b))。第2部位484は側面481aから延びて上方を向く受面481eを有し、受け面481eにはU字状の切り欠き481fが形成されている。
【0051】
図12(a)及び
図12(e)に示す様に、可動部482は、本体482Aと、一対のバネ部481i,481iと、を有する。本体482Aは、上下方向D1に延びる側面481gと、下面481hと、を有し、側面481gには空間481j,481kが形成されている。一対のバネ部481i,481iは本体482Aの下面481hから下方に延出し、本実施形態では波形形状の板バネとされている。
【0052】
かかる構成を有する調整具404は次のようにして組み立てられる。まず、
図12(a)を参照して、可動部482の側面481gを支持部481の側面481aに対向させて一対のバネ部481i,481iを支持部481の受け面481eに載置し、スライド部408を
図12(c)に示す様に組み立てる。そして、スライド部408の上端部408aを回転部9の切欠部91aを介して回転部9に挿入させる。
【0053】
この状態において、支持部481の空間481bと切り欠き481fが干渉防止部485aとして機能し、支持部481の空間(第1空間)481cと可動部482の空間(第2空間)481jが干渉防止部485bとして機能し、支持部481の空間(第3空間)481dと可動部482の空間(第4空間)481kが干渉防止部485cとして機能する。
【0054】
ここで、
図12(c)に示すフリー状態において、可動部482の上端481nは支持部481の上端481mよりも上方に位置している。即ち、
図12(a)に示す様に、支持部481の上端481mから受け面481eまでの距離H1よりも、可動部482の上端184nから可動部482の下端281oまでの距離H2の方が大きく設定されている。そして、この状態で可動部482の上端481nを下方に押圧すると、一対のバネ部481i,481iは上下方向D1に圧縮され、可動部482の空間481j、481kは支持部481に対して下降する。
【0055】
図13(a)に示す様に、エンドキャップ405は、髄内釘3の雌ねじ部31と螺合するための雄ねじ部51と、雄ねじ部51から下方に延びる胴部52と、胴部52の下面から下方に延びて胴部52よりも小径の突部53と、を有し、胴部52の下面は押圧面52aとして機能する。ここで、
図13(b)に示す様に、調整具404の貫通孔40は、回転部9に設けられた操作孔91と、操作孔91と連続するようにスライド部408に設けられた貫通孔80と、を有し、胴部52は回転部9の操作孔91に挿入可能に構成され、突部53はスライド部408の貫通孔80に挿入可能に構成されている。
【0056】
上記構成を有する大腿骨固定器具401は次のようにして大腿骨に装着される。まず、予め調整具404が装着された髄内釘3を大腿骨骨幹T1(
図5)の骨髄に所定深さまで挿入させ、第1実施形態の場合と同様にラグスクリュ2と旋回防止ピン61〜63を髄内釘3及び調整具404を介して大腿骨(T)に挿入させる。
【0057】
この状態で外部の操作具を用いて調整具404の回転部9を所定方向に回転させると、調整具404全体が下降し、止め部4aが溝部22内に係止されてラグスクリュ2の回転が阻止され、ラグスクリュ2は上述したスライディング可能状態又は完全ロック状態とされる。その後、エンドキャップ405を髄内釘3の長孔3aに挿入すると、エンドキャップ405の押圧面52aは調整具404の可動部482の上端481nに当接する。この状態でエンドキャップ405の雄ねじ部51を髄内釘3の雌ねじ部31に螺着させると、エンドキャップ405の押圧面52aは可動部482を下方に押し下げ、これによりバネ部481i,481iが圧縮されて可動部482の本体482Aは支持部481に対して下降し、干渉防止ピン61(他の旋回防止部材)は本体482Aの下面481hによって下方に押圧されて固定され、また干渉防止ピン62,63は空間481j,481kの上壁によって下方に押圧されて固定され、干渉防止ピン61,62,63が髄内釘3から抜けるのが防止される。
【0058】
このように、本実施形態の大腿骨固定器具401においては、調整具404全体の高さ位置(即ち、調整具404のラグスクリュ2に対する押圧力)は回転部9の回転量によって調整される一方、可動部482の支持部481に対する高さ位置(即ち、可動部482の干渉防止ピン61,62,63に対する押圧力)はエンドキャップ405の締め付け量によって調整されるので、ラグスクリュ2に対する押圧力(固定力)と干渉防止ピン61,62,63に対する押圧力(固定力)とを別個に調整することができ、押圧力の調整を容易に行うことができる。また、本実施形態においては、旋回防止ピン61〜63を付勢部材が有する付勢力を利用せずにエンドキャップ405によって直接押圧するので、旋回防止ピン61〜63への押圧をより強固にすることができる。
【0059】
なお、本体482Aの下面481hは、
図12(e)に示す様に凹部が形成されたものであってもよく、或いはこれに代えて突部が形成されたものであっても、凹凸のない平面状に形成されたものであってもよい。
【0060】
以上、本発明の実施形態に係る大腿骨固定器具について添付の図面を参照して説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されず、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形、修正が可能である。
【0061】
例えば、上記第5実施形態では調整具404のスライド部408は支持部481と可動部482とに分割されて構成されたが、本発明の他の実施形態においては、支持部481と可動部482(より具体的に、支持部481の受け面481eとバネ部481i,481iの下端)とは一体的に構成されるのが好ましい。
【0062】
また、上記第5実施形態では、調整具404は一対のバネ部481i,481iを有して構成されているが、本発明の更に他の実施形態においては、これに代えて単一のバネ部を有するのが好ましく、少なくとも1個のバネ部を備えていればよい。
【0063】
更に、異なる実施形態においては、
図12(f)に示す干渉防止部485a,485b,485cに、
図4(d)に示す付勢部81,82,83、
図7に示す付勢部181,182,183,又は
図10(c)に示す付勢部381,382,383を設けるのが好ましい。この場合、可動部482の下面481hに切り欠きを設け、
図12(f)に示す下面481hの高さ位置に付勢部を設ける。また、可動部482の空間481j,481kを上方に広げ、付勢部を
図12(f)に示す干渉防止部485b,485cの上面の高さ位置に設ける。
【解決手段】大腿骨固定器具1は、髄内釘3と、髄内釘3に挿通される旋回防止ピン62と、髄内釘3に内嵌する調整具4と、を備える。調整具4は回転部9とスライド部8を有し、回転部9は髄内釘3内に回転自在に螺合し、スライド部8の上端部に回転自在に連結されている。スライド部8には、旋回防止ピン62が挿通される空間85bが設けられ、空間85bの側壁からは付勢部82が空間85b内へ延出している。回転部9が髄内釘3に対して所定方向に回転されると、調整具4は下降し、付勢部82は旋回防止ピン62を下方に向けて押圧して固定させる。