【文献】
Jpn. J. Clin. Immunol.,2015年,Vol.38, No.2,pp.86-92
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を説明する。本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常に用いられる意味を有する。
【0012】
1.軟骨組織修復用組成物の作製方法
本発明は、以下の工程(1)〜(3)を含む、軟骨組織修復用組成物の作製方法:
(1)インターロイキン−6シグナル刺激剤を含む培地中で、間葉系幹細胞を培養する工程;
(2)工程(1)で得た細胞を繊維スキャフォールドの存在下で培養する工程;及び
(3)工程(2)で得た細胞及び繊維スキャフォールドを単離する工程
を提供する。本明細書中、上記軟骨組織修復用組成物の作製方法を「本発明の作製方法」とも称し、本発明の作製方法により作製される軟骨組織修復用組成物を「本発明組成物」とも称する。
【0013】
軟骨組織とは、軟骨基質及び軟骨細胞により構成される結合組織である。軟骨は、軟骨基質の性質により、硝子軟骨(関節軟骨、骨端板、肋軟骨、気管軟骨、喉頭軟骨など)、線維軟骨(仙腸関節、顎関節、胸鎖関節、椎間円板、恥骨結合、関節半月、関節円板など)及び弾性軟骨(外耳道、耳管、耳介軟骨、喉頭蓋軟骨など)に分類される。本発明組成物は、硝子軟骨、線維軟骨、弾性軟骨のいずれの修復においても有用に用いることができるが、好ましくは硝子軟骨、中でも好ましくは関節軟骨修復用組成物として用いることができる。
【0014】
本明細書中、軟骨組織修復用組成物とは、軟骨組織の修復(再生)のために使用される組成物を意味する。本発明組成物を、軟骨組織の修復(再生)の所望される生体内の部位に投与すると、投与された部位に軟骨組織が局所的に形成され、軟骨組織の修復(再生)が達成される。
【0015】
(i)工程(1)について
本発明の作製方法工程(1)では、間葉系幹細胞をインターロイキン−6シグナル刺激剤と一定期間接触させることにより、軟骨細胞分化へ方向付けされた細胞を得ることができる。
【0016】
間葉系幹細胞
本明細書中、間葉系幹細胞(MSC)とは、多分化能(multipotency)及び自己複製能力を有し、骨細胞、軟骨細胞及び脂肪細胞の全てに分化が可能な細胞を意味し、間葉系幹細胞様細胞、間葉系前駆細胞等と呼ばれる細胞も包含する意味で用いられる。本発明において用いられるMSCは、細胞表面マーカーCD166陽性、CD105陽性、CD44陽性、CD29陽性、CD34陰性、CD45陰性であることが好ましい。
【0017】
本発明において用いられるMSCは、通常、哺乳動物由来のものである。哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類、ウサギ等のウサギ目、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ等の有蹄目、イヌ、ネコ等のネコ目、ヒト、サル、アカゲザル、カニクイザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジーなどの霊長類等を挙げることが出来る。MSCは、好ましくは霊長類又はげっ歯類由来のものであり、より好ましくはヒト由来である。
【0018】
MSCは、公知の方法により入手することができる。例えば、MSCは、骨髄組織、羊水、脂肪組織、歯髄、滑膜組織、軟骨組織、臍帯血、胎盤等の様々な部位から単離することにより得ることができる(米国特許第5486359号、国際公開第2013/077428号、Zuk PA et al., Mol Biol Cell 2002; 13: 4279-4295、国際公開第2013/146992号等)。例えば、MSCは、Percoll 密度勾配遠心法により骨髄液から単離することができる(Hum. Cell, vol.10, p.45-50, 1997)。或いは、骨髄穿刺後の造血幹細胞等の培養及び継代によりMSCを単離することができる(Journal of Autoimmunity, 30 (2008) 163e171)。また、ヒト滑膜、半月板、関節内靭帯、筋肉、脂肪組織、及び骨髄からセルソーターでMSCを単離する方法が報告されている(Journal of Orthopaedic Research, 27:435-441, 2009)。
また、MSCは、市販のものを用いることもでき、例えば、国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所JCRB細胞バンク、ロンザジャパン株式会社等から入手することもできる。
【0019】
MSCを採取するソースとなる個体は特に制限されないが、例えば、軟骨組織修復を必要とする動物への投与のため、本発明組成物を作製する場合、MSCは、ドナーのMSCに由来する軟骨細胞が生着可能である程度に組織適合性を有するものが好ましい。
例えば、本発明組成物を、ヒトにおける軟骨損傷の治療に使用する場合、移植片拒絶及び/又はGvHDを予防するという観点から、MSCは、患者本人の細胞であるか、あるいは患者のHLA型と同一又は実質的に同一であるHLA型を有する他人から採取されることが好ましい。本明細書中使用される「実質的に同一であるHLA型」とは、ドナーのHLA型が、免疫抑制剤等の使用を伴う患者に移植した場合に、ドナーのMSCに由来する軟骨細胞が生着可能である程度に、患者のものと一致することを意味する。例えば、主たるHLA(HLA-A、HLA-B及びHLA-DRの主要な3遺伝子座、あるいはさらにHLA-Cwを含む4遺伝子座)が同一であるHLA型等が挙げられる。
【0020】
本発明の作製方法の工程(1)に使用するMSCは、好ましくは単離されている。「単離」とは、目的とする成分や細胞以外の因子を除去する操作がなされ、天然に存在する状態を脱していることを意味する。単離された間葉系幹細胞の純度は、通常70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは99%以上、最も好ましくは100%である。
【0021】
インターロイキン−6シグナル刺激剤
本明細書中、「インターロイキン−6シグナル刺激剤」とは、インターロイキン−6(IL-6)が結合したインターロイキン−6受容体(IL-6R)の、gp130(glycoprotein 130)への会合により媒介されるシグナル伝達を活性化する物質を意味する。本発明において用いられるIL-6シグナル刺激剤は、可溶性IL-6R、又は可溶性IL-6RとIL-6との組み合わせであり、好ましくは可溶性IL-6Rである。
工程(1)で用いられる培地は、IL-6を含まなくてもよい。理論になんら拘束されるものではないが、IL-6は培養に付されるMSC自体が産生することが推測される。
【0022】
可溶性IL-6Rとは、IL-6受容体αの細胞外領域に相当するペプチドであって、IL-6及びgp130ホモ二量体と結合して、gp130と結合するJAK(ヤーヌスキナーゼ)を活性化するペプチドを指す。可溶性IL-6Rは、IL-6受容体切断酵素の働きによるIL-6受容体の切断、または選択的スプライシングにより生じることが知られている。ヒト可溶性IL-6Rの例としては、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質が挙げられるが、これに限定されない。また、上記ヒト可溶性IL-6Rのアミノ配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつIL-6、IL-6R及びgp130により媒介されるシグナル伝達を活性化するタンパク質を用いることもできる。
例えば、IL-6シグナル刺激剤として可溶性IL-6Rを用いる場合、培地中の可溶性IL-6Rの濃度は、10 ng/mL〜1000 ng/mL、好ましくは25 ng/mL〜500 ng/mL、より好ましくは50 ng/mL〜200 ng/mL、さらに好ましくは80 ng/mL〜120ng/mLである。
例えば、IL-6シグナル刺激剤として可溶性IL-6RとIL-6との組み合わせを用いる場合、培地中の可溶性IL-6Rの濃度は、10 ng/mL〜1000 ng/mL、好ましくは25ng/mL〜500 ng/mL、より好ましくは50 ng/mL〜200 ng/mL、さらに好ましくは80 ng/mL〜120ng/mLであり、培地中のIL-6の濃度は、10 ng/mL〜1000 ng/mL、好ましくは25ng/mL〜500ng/mL、より好ましくは50 ng/mL〜200ng/mL、さらに好ましくは80 ng/mL〜120ng/mLである。
【0023】
工程(1)において、MSCは、IL-6シグナル刺激剤の存在下で、軟骨細胞分化への方向付けに十分な時間(6時間以上、好ましくは8時間以上、より好ましくは12時間以上、更により好ましくは18時間以上)、培養する。工程(1)においては、間葉系幹細胞の軟骨細胞への分化が方向付けられれば十分であり、軟骨細胞分化の完了までは要しない。この観点から、工程(1)における、IL-6シグナル刺激剤の存在下での培養時間は、7日以内、72時間以内、好ましくは48時間以内、より好ましくは24時間以内である。間葉系幹細胞の分化が軟骨細胞へ方向付けられたことは、評価対象の細胞を、軟骨細胞分化条件下で培養し、出現する軟骨細胞の全細胞中の割合を測定し、この割合が、間葉系幹細胞をIL-6シグナル刺激剤不在下で培養することにより得られた陰性対照細胞を、同一の軟骨細胞分化条件下で培養した時よりも、増加しているか否か評価することにより、確認することができる。
【0024】
工程(1)において、培養開始時の培地中のMSCの濃度は、添加するIL-6シグナル刺激剤の濃度や培養時間によっても異なるが、通常1×10
4〜1×10
7個/cm
3、好ましくは、2×10
4〜5×10
5個/cm
3、より好ましくは5×10
4〜2×10
5個/cm
3である。
【0025】
工程(1)における培養条件は、間葉系幹細胞の軟骨細胞への分化が方向付けられる限り特に限定されず、培養の目的に応じて通常の哺乳動物細胞の培養に用いられる培養条件を適宜採用し得る。
【0026】
工程(1)において使用する培地は、哺乳動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として調製することができる。基礎培地としては、例えば、BME培地、BGJb培地、CMRL 1066培地、Glasgow MEM培地、Improved MEM Zinc Option培地、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle MEM培地、αMEM培地、DMEM培地、ハム培地、Ham’s F-12培地、RPMI 1640培地、Fischer’s培地、およびこれらの混合培地など、哺乳動物細胞の培養に用いることのできる培地であれば特に限定されない。
工程(1)において使用する培地は、市販の間葉系幹細胞培養用の培地を用いてもよい。市販の間葉系幹細胞培養用培地の例としては、TheraPEAK
TM Chemically Defined Mesenchymal Stem Cell Growth Medium (MSCGM-CD
TM)(ロンザジャパン株式会社)、MSCBM-CD
TM 間葉系幹細胞基本培地(ロンザジャパン株式会社)、StemXVivo
TM 間葉系幹細胞培地(R&D Systems Inc.)、MSC NutriStem(登録商標)ヒト間葉系幹細胞用ゼノフリー培地(Biological Industries Ltd)等が挙げられる。
【0027】
一態様において、工程(1)において使用する培地は、無血清培地である。無血清培地とは、無調整又は未精製の血清を含まない培地を意味する。精製された血液由来成分や動物組織由来成分(例えば、サイトカイン)を含有する培地は無血清培地に該当するものとする。
【0028】
工程(1)において使用する培地は、血清代替物を含有していてもよい。血清代替物は、例えば、アルブミン、トランスフェリン、脂肪酸、コラーゲン前駆体、微量元素、2−メルカプトエタノール又は3’チオールグリセロール、あるいはこれらの均等物などを適宜含有するものであり得る。かかる血清代替物は、例えば、WO98/30679記載の方法により調製できる。また、本発明の作製方法をより簡便に実施するために、血清代替物は市販のものを利用できる。かかる市販の血清代替物としては、例えば、KSR(knockout serum replacement)(Invitrogen社製)、Chemically-defined Lipid concentrated(Gibco社製)、Glutamax(Gibco社製)が挙げられる。
【0029】
工程(1)において使用する培地は、間葉系幹細胞の軟骨細胞への分化の方向付けが損なわれない範囲で、他の添加物を含むことができる。添加物としては、例えば、インスリン、鉄源(例えばトランスフェリン等)、ミネラル(例えばセレン酸ナトリウム等)、糖類(例えばグルコース等)、有機酸(例えばピルビン酸、乳酸等)、血清蛋白質(例えばアルブミン等)、アミノ酸(例えばL−グルタミン等)、還元剤(例えば2−メルカプトエタノール等)、ビタミン類(例えばアスコルビン酸、d−ビオチン等)、抗生物質(例えばストレプトマイシン、ペニシリン、ゲンタマイシン等)、緩衝剤(例えばHEPES等)等が挙げられるが、これらに限定されない。
工程(1)において使用する培地は、腫瘍壊死因子-α(TNF-α)、IL-1β及びIL-17等の、MSCの軟骨細胞への分化を阻害する物質を含まないことが好ましい。
【0030】
工程(1)において、細胞の培養に用いられる培養器は、細胞の培養が可能なものであれば特に限定されないが、フラスコ、組織培養用フラスコ、ディッシュ、ペトリデッシュ、組織培養用ディッシュ、マルチディッシュ、マイクロプレート、マイクロウェルプレート、マルチプレート、マルチウェルプレート、マイクロスライド、チャンバースライド、シャーレ、チューブ、トレイ、培養バック、及びローラーボトルなどが挙げられる。
【0031】
工程(1)において、細胞の培養に用いられる培養器は、細胞接着性であることが好ましい。MSCの軟骨細胞への分化の方向付けが損なわれない限り、細胞接着性の培養器は、培養器の表面の細胞との接着性を向上させる等の目的のために、親水性を付与されたものであってもよく、細胞外マトリックス(ECM)等の任意の細胞支持用基質又はそれらの機能をミミックする人工物でコーティングされていてもよい。
MSCの軟骨細胞への分化の方向付けが損なわれない限り限定されるものではないが、培養器をコートするECMとしては、ファィブロネクチン、コラーゲン等が挙げられ、ファイブロネクチンが好ましい。
【0032】
工程(1)において、MSCは、接着培養、浮遊培養、組織培養などの自体公知の方法により培養可能であるが、接着培養されることが好ましい。
【0033】
その他の培養条件は、適宜設定できる。例えば、培養温度は、所望の効果を達成し得る限り特に限定されないが、約30〜40℃、好ましくは約37℃である。CO
2濃度は、約1〜10%、好ましくは約2〜5%である。酸素濃度は、通常1〜40%であるが、培養条件などにより適宜選択される。
【0034】
本明細書中、上記の方法により一定時間IL-6シグナル刺激剤と接触させたMSCを「インターロイキン−6受容体刺激した間葉系幹細胞」(IL-6R刺激したMSC)と称する場合がある。
【0035】
工程(1)は、IL-6R刺激したMSCを回収する工程をさらに含み得る。IL-6R刺激したMSCは、培養後、分散・剥離処理(トリプシン/EDTA処理等)に付し、必要に応じてピペッティング、吸引操作等を行うことにより培養器から剥離させて回収することが可能となる。十分に分散処理を行った後に、IL-6R刺激したMSCを遠心分離機に付す等して、所望の細胞を濃縮させてもよい。IL-6R刺激したMSCは、シグナル伝達兼転写活性化因子3(STAT3)がリン酸化されていることが好ましい。
【0036】
工程(1)により、軟骨細胞分化へ方向付けされた細胞が得られる。該細胞は、軟骨細胞以外に、骨細胞及び/又は脂肪細胞への分化能を維持していてもよいし、骨細胞及び脂肪細胞への分化能を喪失していてもよいが、骨細胞及び脂肪細胞への分化能を喪失していることが好ましい。
【0037】
(ii)工程(2)について
工程(2)において、工程(1)で得た細胞を、繊維スキャフォールドと一定時間接触させることにより、軟骨組織修復用組成物を得ることができる。
【0038】
繊維スキャフォールド
本明細書中、繊維スキャフォールドとは、数平均による単繊維直径が1nm以上100μm未満であるファイバーが集合した物を指す。
所望の効果を得られ、かつ生体への移植に適したものである限り特に限定されるものではないが、本発明において使用する繊維スキャフォールドを構成するファイバーは、生分解性のものが好ましい。
生分解性のファイバーとしては、ポリ乳酸グリコール酸共重合体(PLGA)ファイバー、ポリグリコール酸(PGA)ファイバー、ポリL乳酸(PLLA)ファイバー、ポリD乳酸(PDLA)ポリマー、ポリカプロラクトン(PCL)ファイバー、L-乳酸/ε-カプロラクトン共重合体(LCL)ファイバー、ポリ-p-ジオキサノン(PDO)ファイバー、ポリブチレンサクシネート(PBS)ファイバー等の合成ファイバー、並びにコラーゲン、ゼラチン、キトサン等の天然ファイバーが挙げられる。合成ファイバーは、原料となるポリマーに高電圧を加えることにより紡糸する方法(エレクトロスピニング法:Doshi, J. and Reneker, D. H. (1995) Journal of Electrostatics 35 (2-3): 151-160等)、複合溶融紡糸法又はメルトブロー法などの公知の方法により、作製することができる。
本発明に用いる繊維スキャフォールドを構成するファイバーは、所望の効果が得られる限り特に限定されるものではないが、好ましくは上記合成ファイバーであり、より好ましくはポリ乳酸グリコール酸共重合体(PLGA)ファイバー、さらに好ましくはポリ乳酸とグリコール酸の組成比(モル比)が1:1であるファイバーである。
本発明に用いる繊維スキャフォールドを構成するファイバーの平均繊維径は、所望の効果が得られる限り特に限定されるものではないが、通常1 nm〜100 μm、好ましくは1 nm〜50μm、より好ましくは5 nm〜20μm、さらに好ましくは500 nm〜15μm、さらにより好ましくは800 nm〜10 μmである。
【0039】
繊維スキャフォールドは市販の物を用いてもよく、例えば、帝人ファーマ株式会社等から市販されている繊維スキャフォールドを用いることもできる。
本発明に用いる繊維スキャフォールドの形状は、所望の効果が得られる限り特に限定されるものではないが、移植する際の操作の簡便性の観点から、シート状の形態(例えば紙、不織布、織物の形態等)を呈することが好ましく、より好ましくは紙、不織布又は織物の形態、さらに好ましくは不織布の形態を呈する。
本発明に用いる繊維スキャフォールドの形状がシート状である場合、その厚さは所望の効果が得られる限り特に限定されるものではないが、通常1 μm〜 10 mmであり、好ましくは10 μm〜 1 mmであり、より好ましくは、30 μm〜200 μmである。
【0040】
本発明に用いる繊維スキャフォールドは、約1μmから50μm程度の微細な開孔を多数備え、細胞の生存に十分な多孔質性を有していることが好ましく、移植等の操作に耐えうる力学的強度を有することが好ましい。
【0041】
本発明に用いる繊維スキャフォールドは、所望の効果を損なわない限り、各種の添加剤、例えば、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤等)、帯電防止剤、充填剤、滑剤、湿潤剤、可塑剤、増粘剤、分散剤、発泡剤、界面活性剤等、吸湿剤、保湿剤、撥水剤、保温剤、アミノ酸、タンパク質、ビタミン類等を含有してもよい。
【0042】
工程(2)においてシート状の繊維スキャフォールドを用いる場合、繊維スキャフォールドの細胞接触面の単位表面積あたりに播種される、工程(1)で得た細胞の量は、通常1×10
4〜1×10
7個/cm
2、好ましくは、2×10
4〜5×10
5個/cm
2、より好ましくは5×10
4〜2×10
5個/cm
2である。
【0043】
工程(2)において、工程(1)で得た細胞は、繊維スキャフォールドと十分な接着を示すまでの時間培養する。所望の効果を有する軟骨組織修復用組成物が得られる限り特に制限されるものではないが、工程(2)における繊維スキャフォールド存在下での工程(1)で得た細胞の培養時間は、通常、6時間以上、好ましくは12時間以上、より好ましくは18時間以上である。培養時間の上限については特に制限されるものではないが、通常は72時間以下、好ましくは48時間以下、より好ましくは30時間以下である。
【0044】
工程(2)において使用する培地は、IL-6シグナル刺激剤を実質的に含まなくてもよい(IL-6シグナル刺激剤濃度が、間葉系幹細胞の軟骨細胞への分化の方向付けを促進しない濃度である)ことを除いては、上記工程(1)と同様の培地を用いることができる。
【0045】
工程(2)において、細胞の培養に用いられる培養器は、上記工程(1)に記載した培養器と同様のものを用いることできるが、好ましくは細胞非接着性である。
【0046】
(iii)工程(3)について
工程(3)において、工程(2)で得た細胞及び繊維スキャフォールドを単離することにより、本発明組成物を得ることができる。
細胞及び繊維スキャフォールドは、通常、培養器と接着していないため、滅菌されたピンセット等を用いて、培養器から容易に取り出すことができる。
本発明組成物中の培地の持ち込みを減少させるため、細胞及び繊維スキャフォールドを、キムワイプ等に接触させて、培地を取り除くこともできる。
【0047】
2.IL-6R刺激した間葉系幹細胞及び繊維スキャフォールドを含む組成物
さらに、本発明は、上記の本発明の作製方法によって得られる、軟骨組織修復用組成物を提供する。
【0048】
本発明組成物中の細胞は、生存しており、繊維スキャフォールドへ接着している。
【0049】
一態様において、本発明組成物は、培地と共に提供され得る。別の一実施態様として、本発明組成物は凍結保存させた状態で提供され得る。本発明組成物は、凍結保存することも可能であり、必要に応じて融解・起眠して使用することができる。凍結保存は、自体公知の細胞凍結保存方法を使用することができる。凍結保存の例としては、本発明組成物にジメチルスルホキシドを加え、−80〜−200℃、好ましくは−196℃(液体窒素中)の条件で本発明組成物を保存する。
本発明組成物は、適切な容器中に封入されていてもよい。
【0050】
本発明組成物は、他の化合物、例えば、抗生物質、抗炎症剤、免疫抑制剤、サイトカイン、防腐剤、鎮痛剤、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤等)、他の治療剤等をさらに含んでもよい。
【0051】
本発明組成物は、好ましくは硝子軟骨組織修復用であり、中でも好ましくは関節軟骨修復用である。
【0052】
3.軟骨損傷の治療方法
本発明は、哺乳動物の、軟骨組織修復を必要とする部位に、治療上有効量の本発明組成物を移植する工程を含む、軟骨損傷の治療方法を提供する。
【0053】
本発明組成物は、軟骨損傷の治療用移植材料として好適である。本明細書中、軟骨損傷とは、スポーツや事故等による物理的な軟骨の欠損/変性/損傷、並びに関節リウマチ、変形性膝関節症、変形性股関節症、骨肉腫、大腿骨頭壊死症、臼蓋形成不全、半月板損傷、外傷性関節炎等の疾患に起因する軟骨の欠損/変性/損傷を包含する意味で用いられる。特に、本発明組成物は、軟骨組織特異的障害を示す変形性膝関節症及び変形性股関節症の治療に対し強力なツールになる。
【0054】
軟骨組織修復を必要とする部位としては、例えば、軟骨組織の欠損/変性/損傷を有する、関節軟骨、骨端板、肋軟骨、気管軟骨、喉頭軟骨、仙腸関節、顎関節、胸鎖関節、椎間円板、恥骨結合、関節半月、関節円板、外耳道、耳管、耳介軟骨及び喉頭蓋軟骨等が挙げられる。
【0055】
本発明組成物は、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類、ウサギ等のウサギ目、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ等の有蹄目、イヌ、ネコ等のネコ目、ヒト、サル、アカゲザル、カニクイザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジーなどの霊長類等への移植用として用いることができる。本発明組成物は、好ましくは霊長類又はげっ歯類への移植用であり、より好ましくはヒトへの移植用である。
【0056】
本明細書中、「有効量」とは、所望の効果を生み出す活性成分の量を意味する。
本明細書中使用される「治療上有効量」とは、対象に投与される時、所望の治療効果(例、硝子軟骨を形成する等)をもたらす活性成分の量を意味する。治療上有効量は、一度に投与(移植)されてもよく、複数回に分けて投与(移植)されてもよい。移植の適用回数は疾患に応じて医療従事者、ガイドラインに従って決定される。また複数回移植を行う場合、インターバルは特に限定されないが、数日〜数週間の期間を置いても良い。
【0057】
本発明組成物の適用可能な疾患部位の範囲は、対象疾患、投与対象の動物種、年齢、性別、体重、症状などに依存して適宜選択される。
【0058】
本発明組成物は、医療従事者、ガイドラインに沿った適切な移植方法に従って移植される。例えば、膝関節に本発明組成物を移植する場合、関節の移植部位にメス等で切れ目を入れ、関節腔を開いて空洞を作り、該関節腔に本発明組成物を投与することにより、移植することができる。
【0059】
治療上有効量の本発明組成物を、軟骨組織修復を必要とする部位に移植すると、移植した細胞が軟骨細胞へと分化し、該軟骨細胞及び該軟骨細胞により産生される軟骨基質が欠損部位を補うことにより、軟骨が修復され治療効果が達成される。その結果、本発明組成物によりアグリカン陽性の硝子軟骨を再生することが可能となる。
【0060】
本発明組成物は、軟骨組織修復を必要とする部位に直接投与することができる。例えば、軟骨組織修復を必要とする部位が関節軟骨である場合、本発明組成物は、関節軟骨の関節腔に直接投与することができる。
【0061】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0062】
実施例1:IL-6シグナル刺激剤存在下での間葉系幹細胞の培養
ヒト間葉系幹細胞は、ロンザジャパン株式会社から入手した骨髄由来ヒト間葉系幹細胞を用いた。MSCは、細胞培養用プレート(TC DISH 100x20 SI、nunc)を用い、5% CO
2/37 ℃の条件で維持培養した。培地にはMSC増殖培地(ロンザジャパン株式会社)にペニシリン/ストレプトマイシン、L−グルタミンを添加したものを用いた。
トリプシン-EDTA処理により、MSCを培養器から剥離させシングルセルレベルに分散させた。上記培地(対照培地)、又は上記培地に可溶性インターロイキン6受容体(カタログ番号:200-06R、PEPRO TECH, INCより購入)100 ng/mLを加えた培地(IL-6R培地)中に、分散させたMSCを1×10
5個ずつ播種し、オーバーナイトで培養した。培養は、24-wellの細胞培養用プレート(MULTIDISH 24 WELLS、nunc)を用い、5% CO
2/37 ℃の条件で培養した。
培養後、0.01% トリプシン-EDTA処理を行い、遠心分離操作により細胞を回収した。
実施例2:間葉系幹細胞及び微細繊維系素材繊維スキャフォールドの培養
繊維スキャフォールドとして、乳酸とグリコール酸の組成比が1:1である、ポリ乳酸グリコール(PLGA)シート(帝人ファーマ株式会社より購入;分子量IV 1.0、大きさ50 mm× 50 mm、厚さ 84.4±17.4μm、繊維径4.80±0.47 μm、嵩密度(304 kg/m
3))を用いた。
1cm×1cmの大きさのシート状の繊維スキャフォールド(PLGAシート)を、24-wellの細胞培養用プレート(MULTIDISH 24 WELLS、nunc)に置き、実施例1で得た細胞、又はIL-6R刺激していないMSCを、1wellあたり1 x10
5〜3x10
5個播種した。
培地にはMSC増殖培地(ロンザジャパン株式会社)にペニシリン/ストレプトマイシン、L−グルタミンを添加した培地を用い、5% CO
2/37 ℃の条件で24時間培養した。培養後、オートクレーブにより滅菌したピンセットを用いて培養器から、繊維スキャフォールド及び細胞を含む組成物を単離した。単離した組成物を、キムワイプと接触させ、培地を除去した。
実施例3:間葉系幹細胞及び繊維スキャフォールドを含む組成物の、関節への投与
5週齢の雌ラットは、日本チャールスリバー株式会社から購入した。組成物の投与7日前及び14日前に、0.25 mL complete Freund’s adjuvant(CFA)及び0.5 mg メチル化BSA(mBSA)のエマルジョンをラットの下腹部に注射し、関節炎を誘導した。
ラットの両側の膝関節に刃(メス)で切れ目を入れ、関節腔をハサミで開き空洞をつくった。一辺が1cmの正方形である、実施例2で得た細胞及び繊維スキャフォールドを含む組成物を、ピンセットで二回折り返し適切な大きさにした後、ピンセットを用いて関節腔に移植し、即座に絹縫合糸で関節腔を閉じた。もう一方の膝関節には、陰性対照として、MSCを含まない、一辺が1cmの正方形である繊維スキャフォールド、又はIL-6シグナル刺激していないMSC及び繊維スキャフォールドを含む組成物を移植した。
移植の30日後に、ラットの関節におけるヒトアグリカンの発現を抗体染色により検証した。
結果を
図2に示す。
【0063】
IL-6R刺激したMSC及び繊維スキャフォールドを含む組成物を移植すると、ヒトアグリカン陽性の軟骨が再生された。しかしながら、IL-6R刺激していないMSC及び繊維スキャフォールドを含む組成物、あるいは繊維スキャフォールドのみを移植した場合、ヒトアグリカン陽性の軟骨は再生されなかった。
実施例4:IL-6シグナル刺激剤存在下での間葉系幹細胞の培養
IL-6R培地中でMSCを、3時間、24時間又は7日間培養した。培養は、培養時間が異なることを除いては、実施例1と同様に行った。得られた細胞を、実施例2と同様に繊維スキャフォールドと共培養し、細胞及び繊維スキャフォールドを含む組成物を得た。該組成物を実施例3と同様に、関節炎を有するラットの関節へ投与した。移植30日後に膝関節のサフラニンO染色により硝子軟骨組織の再生を検証した。結果を
図3(D)〜(F)に示す。
また、実施例3と同様にCFA及びmBSAにより関節炎を誘導したが、何も移植しなかったラット(CFA及びmBSAの初回投与から44日後)(AIA)についても、膝関節のサフラニンO染色を行った(
図3(B))。さらに、正常ラット(Wild-type)についても、膝関節のサフラニンO染色を行った(
図3(A))。
【0064】
IL-6R培地中でMSCを3時間、24時間又は7日間培養した場合[それぞれ(AIA、NF+(MSC + IL-6R): 3h)、(AIA、NF+(MSC + IL-6R): 24h)、(AIA、NF+(MSC + IL-6R): 7d)]には、硝子軟骨の再生が観察された。特に、IL-6R培地中でMSCを24時間又は7日間培養した場合では、顕著な硝子軟骨再生が観察された。しかしながら、IL-6R培地中でMSCを7日間培養した場合では、脛骨(下側の軟骨)において、サフラニンOの染色が薄い部分が存在した(
図3(F))。一方、IL-6R培地中でMSCを24時間培養した場合は、サフラニンOの染色により、ほとんどの軟骨組織が染まっており、薄い部分は認められらなかった(
図3(E))。従って、IL-6Rで24時間刺激したMSCを用いた場合、より効率的に軟骨組織を修復出来ることが明らかになった。
【0065】
実施例5:IL-6存在下での間葉系幹細胞の培養
MSC増殖培地(ロンザジャパン株式会社)にペニシリン/ストレプトマイシン、L−グルタミン、100 ng/mL IL-6(カタログ番号:200-06、PEPRO TECH, INCより購入)を含む培地(IL-6培地)中でMSCを、24時間培養した。培養は、可溶性IL-6Rの代わりにIL-6を用いること及び、培養時間を除いては、実施例1と同様に行った。得られた細胞を、実施例2と同様に繊維スキャフォールドと共培養し、細胞及び繊維スキャフォールドを含む組成物を得た。該組成物を実施例3と同様に、関節炎を有するラットの関節へ投与し、30日後にサフラニンO染色により硝子軟骨組織の再生を検証した。結果を
図3(C)に示す。
IL-6培地中でMSCを培養した場合には、硝子軟骨組織の再生は観察されなかった。