特許第6685583号(P6685583)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6685583
(24)【登録日】2020年4月3日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】シナモンの香り増強剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/10 20160101AFI20200413BHJP
【FI】
   A23L27/10 C
   A23L27/10 H
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-106373(P2014-106373)
(22)【出願日】2014年5月22日
(65)【公開番号】特開2015-221005(P2015-221005A)
(43)【公開日】2015年12月10日
【審査請求日】2017年4月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】519127797
【氏名又は名称】三菱商事ライフサイエンス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160978
【弁理士】
【氏名又は名称】榎本 政彦
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 悠希
(72)【発明者】
【氏名】安松 良恵
(72)【発明者】
【氏名】阿孫 健一
【審査官】 林 康子
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第101690579(CN,A)
【文献】 特開2014−000088(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第102613524(CN,A)
【文献】 特開2015−039331(JP,A)
【文献】 特開2010−081860(JP,A)
【文献】 特開昭61−268151(JP,A)
【文献】 天然酵母でヘルシーアップルシナモンロール,[online],2007年12月12日,[2018年2月20日検索],インターネット <URL:https://coocpad.com/recipe/474128>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/WPIDS/FSTA(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シナモンと酵母エキスを、乾燥物重量比100:1〜100:100で混合し、加熱することで得られるシナモン加工香辛料であって、前記酵母エキスが合計4重量%以上の5’−ヌクレオチド類(5’−イノシン酸ナトリウム、5’−グアニル酸ナトリウム、5’−ウリジル酸ナトリウム、5’−シチジル酸ナトリウムおよび5’−アデニル酸ナトリウム)を含有する酵母エキスまたは1重量%以上のグルタチオンを含有する酵母エキスである、シナモン加工香辛料。
【請求項2】
シナモンまたはシナモンを含有する飲食品に、合計4重量%以上の5’−ヌクレオチド類(5’−イノシン酸ナトリウム、5’−グアニル酸ナトリウム、5’−ウリジル酸ナトリウム、5’−シチジル酸ナトリウムおよび5’−アデニル酸ナトリウム)を含有する酵母エキスまたは1重量%以上のグルタチオンを含有する酵母エキスを添加し加熱することを特徴とする、前記シナモンの香りの増強方法。
【請求項3】
5’−ヌクレオチド含有酵母エキスおよび/またはグルタチオン含有酵母エキスからなる、シナモンの香り増強剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シナモンにおいて、香りの増強方法およびそれを増強する酵母エキスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
シナモンは、古くから飲食品への香り付けや呈味付与用途として使用されており、例えばアップルパイのフィリングなどの菓子、シナモンチャイなどの飲料、ハム・ソーセージなどの畜肉加工品やカレーなどの煮込み料理のスパイスとして利用されている。しかしその香気成分は揮発性物質から成り、加熱によって失われてしまうものが多い。
【0003】
食品の香気増強に関して、これまで様々な検討がなされてきた。例えば、特許文献1には香気成分を有する酵母エキスが白胡椒の香気を増強することが報告されている。しかし、酵母エキスでシナモンの風味を増強できるという報告はこれまでされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−000088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、シナモンに対し、例えば煮込み料理や焼き菓子等に使用した際、加熱によってその香気成分の一部が揮発し、香りが弱まってしまう点である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題の解決につき鋭意研究の結果、シナモンと酵母エキスを混合し、加熱することで、シナモン由来の香りを消失させず、むしろ増強できることを見出し、本発明に至った。
すなわち本発明は、
(1)シナモンと酵母エキスを混合し、加熱することで得られる、シナモン加工香辛料、
(2)シナモンまたはシナモンを含有する飲食品に、5´−ヌクレオチド含有酵母エキスまたはグルタチオン含有酵母エキスを添加し加熱することを特徴とする、前記シナモンの香りを増強する方法、
(3)上記(2)に記載の方法によりシナモンの香りが増強された飲食品、
(4)5´−ヌクレオチド含有酵母エキスおよび/またはグルタチオン含有酵母エキスからなる、シナモンの香り増強剤、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明のシナモンの香り増強剤である酵母エキスをシナモンまたはシナモンを含む飲食品に添加することで、加熱によって失われがちなシナモン独特の爽やかな香り、風味を保護するだけでなく、さらに増強することができ、シナモンの風味豊かな飲食品が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に用いる酵母エキスは、望ましくは5´−ヌクレオチド含有酵母エキス、またはグルタチオン含有酵母エキスである。
【0009】
本発明に用いる5´−ヌクレオチド含有酵母エキスは、5´−ヌクレオチド類、具体的には5´−イノシン酸ナトリウム、5´−グアニル酸ナトリウム、5´−ウリジル酸ナトリウム、5´−シチジル酸ナトリウムあるいは5´−アデニル酸ナトリウム、を含有したもので、含有量は、前記5´−ヌクレオチド類の合計で4重量%以上であり、好ましくは20重量%以上含有したものである。
【0010】
本発明に用いるグルタチオン含有酵母エキスは、グルタチオンを1重量%以上含有している酵母エキスであり、好ましくは3重量%以上、さらに好ましくは10重量%以上含有しているものである。
【0011】
本発明の酵母エキスの製造に用いられる酵母としては、パン酵母、ビール酵母、トルラ酵母などを挙げることができ、中でもトルラ酵母が望ましい。
【0012】
本発明に用いる酵母エキスは、酵母から公知の方法で抽出されたものでよく、市販されているものを用いてもよい。
本発明に用いる5´−ヌクレオチド含有酵母エキスは、以下のように得ることが出来る。酵母の培養後、酵母菌体内の酵素を失活させ、酵母を熱水等により抽出した抽出物、あるいは酵母に細胞壁溶解酵素などを添加して得られた抽出物に、核酸分解酵素、必要に応じてアデニル酸分解酵素を作用させることにより製造することができ、具体的には、興人ライフサイエンス(株)製の「アロマイルド」、富士食品工業(株)製の「バーテックスIG20」等が挙げられる。
【0013】
本発明に用いるグルタチオン含有酵母エキスは、グルタチオン含有酵母を、温熱水で抽出する方法、蛋白分解酵素、細胞壁溶解酵素などを添加して抽出する方法、酵母中の酵素を利用して自己消化により抽出する方法等で得られた、グルタチオン1重量%以上含有している酵母エキスをいい、好ましくは3重量%以上、さらに好ましくは10重量%以上含有しているものである。
【0014】
本発明で使用できるシナモンは、産地、製法を問わない。形状は限定されず、粉末でもスティック状でもよく、またそれらを含有する食品であってもよい。
【0015】
本発明のシナモン加工香辛料は、シナモンに酵母エキスを添加し、加熱することで得られる。
シナモンと酵母エキスとの配合量は、乾燥物の重量比で100:1〜100:100が望ましい。酵母エキスがこれより少ないと、原料シナモンに比べて香りの高い香辛料が得られにくく、酵母エキスがこれより多いと、シナモンに対して酵母エキスの風味が異味として感じられることがある。
前記シナモン、前記酵母エキス、水を混合し、水溶液または懸濁液を調製する。各成分の添加量、および添加の順番は任意であるが、望ましい配合量は、水100重量部に対し、シナモンと酵母エキスの混合物1〜50重量部である。
【0016】
このようにして得られたシナモンと酵母エキスの混合水溶液または懸濁液について、加熱を行い、シナモン加工香辛料を得る。
加熱反応は、90〜120℃にて、10分から2時間程度行う。加熱反応は圧力釜、オートクレーブ等の密封系で実施することが望ましい。このようにして得られた加熱反応後の水溶液または懸濁液は、そのままシナモン加工香辛料として用いても良いが、乾燥して粉末状のシナモン加工香辛料とすることもできる。
【0017】
本発明の、シナモンの香りを増強する方法は、シナモンまたはシナモンを含有する飲食品に、5´−ヌクレオチド含有酵母エキスまたはグルタチオン含有酵母エキスを添加して、加熱することである。
添加する量は、シナモンの乾燥物重量100重量部に対して酵母エキス1重量部以上とすることが望ましい。1重量部より少ないと、シナモンの香りを増強する効果が得られにくい。なお、酵母エキス自体に呈味性がある場合は、添加量が多すぎて食品の風味を損なわないように注意する。
【実施例】
【0018】
以下に実施例および比較例を用いて、本発明を具体的に説明する。
本発明はこれらに限定されるものではない。
【0019】
<実施例1>
粉末シナモン(ヤスマ株式会社製)0.5gと、酵母エキス「アロマイルド」(興人ライフサイエンス株式会社製)(イノシン酸ナトリウム含量10.24重量%、グアニル酸ナトリウム含量9.80重量%)0.5gを水1gに添加、撹拌して混合し、ガラスバイアルに封入した。オートクレーブにて105℃、60分加熱し、得られた水溶液を、水を添加してシナモンが0.1重量%となるよう調整した水溶液を実施例1のサンプルとし、下記の評価試験に供した。
【0020】
<実施例2>
粉末シナモン(ヤスマ株式会社製)0.5gと、酵母エキス「ハイチオンエキスYH−15」(興人ライフサイエンス株式会社製)(グルタチオン含量15.3重量%)0.5gを水1gに添加、撹拌して混合し、ガラスバイアルに封入した。オートクレーブにて105℃、60分加熱し、得られた水溶液を、水を添加してシナモンが0.1重量%となるよう調整した水溶液を実施例2のサンプルとし、下記の評価試験に供した。
【0021】
<実施例3>
粉末シナモン(ヤスマ株式会社製)0.5gと、酵母エキス「バーテックスIG20」(富士食品工業株式会社製)(イノシン酸ナトリウム含量10.25重量%、グアニル酸ナトリウム含量9.86重量%)0.5gを水1gに添加、撹拌して混合し、ガラスバイアルに封入した。オートクレーブにて105℃、60分加熱し、得られた水溶液を、水を添加してシナモンが0.1重量%となるよう調整した水溶液を実施例3のサンプルとし、下記の評価試験に供した。
【0022】
<実施例4>
粉末シナモン(ヤスマ株式会社製)0.4gと、酵母エキス「アロマイルド」(興人ライフサイエンス株式会社製)(イノシン酸ナトリウム含量10.24重量%、グアニル酸ナトリウム含量9.80 重量%)0.1gと、酵母エキス「ハイチオンエキスYH−15」(興人ライフサイエンス株式会社製)(グルタチオン含量15.3重量%)0.1gを水1.4gに添加、攪拌して混合し、ガラスバイアルに封入した。オートクレーブにて105℃、60分加熱し、得られた水溶液を、水を添加してシナモンが0.1重量%となるよう調整した水溶液を実施例4のサンプルとし、下記の評価試験に供した。
【0023】
<実施例5>
粉末シナモン(ヤスマ株式会社製)0.4gと、酵母エキス「ハイチオンエキスYH−15」(興人ライフサイエンス株式会社製)(グルタチオン含量15.3重量%)0.2gを水1.4gに添加、攪拌して混合し、ガラスバイアルに封入した。実施例4と同様に加熱し、調整した水溶液を実施例5のサンプルとした。
【0024】
<実施例6>
粉末シナモン(ヤスマ株式会社製)0.4gと、酵母エキス「アロマイルド」(興人ライフサイエンス株式会社製)(イノシン酸ナトリウム含量10.24重量%、グアニル酸ナトリウム含量9.80 重量%)0.2gを水1.4gに添加、攪拌して混合し、ガラスバイアルに封入した。実施例4と同様に加熱し、調整した水溶液を実施例6のサンプルとした。
【0025】
<比較例1>
実施例1において、シナモンを添加しないこと以外は、実施例1と同様に加熱し、得られた水溶液に非加熱のシナモンを0.5g添加し、水を加えてシナモンが0.1重量%となるよう調整し、比較例1のサンプルとした。
【0026】
<比較例2>
実施例2において、シナモンを添加しないこと以外は、実施例2と同様に加熱し、得られた水溶液に非加熱のシナモンを0.5g添加し、水を加えてシナモンが0.1重量%となるよう調整し、比較例2のサンプルとした。
【0027】
<比較例3>
実施例3において、シナモンを添加しないこと以外は、実施例3と同様に加熱し、得られた水溶液に非加熱のシナモンを0.5g添加し、水を加えてシナモンが0.1重量%となるよう調整し、比較例3のサンプルとした。
【0028】
<評価試験>
実施例1〜6と比較例1〜3のサンプルを、におい・VOC分析器のフラッシュGCノーズHeraclesII(アルファ・モス・ジャパン社製)に供した。2種類のカラムを用いて、それぞれクロマトグラムを得た。
<分析条件>
カラム:DB−5、DB−WAX
キャリアガス:水素
サンプル量:5mL(20mL ヘッドスペースバイアル)
インキュベーション:60℃、10分間
ヘッドスペース注入量:1mL
【0029】
実施例1と比較例1のサンプルについて、カラムとしてDB−5を用いて得られたクロマトグラムを図1に、DB−WAXを用いたものを図2に示す。
図1図2いずれにおいても、比較例1に対し、実施例1のピークは明らかに高く、揮発性成分が多く検出されている。つまり、シナモンと酵母エキス「アロマイルド」を混合して加熱した実施例1の方が、加熱後にシナモンを添加した比較例1と比べて、におい成分が増加し、香りが増強されているといえる。
【0030】
実施例2と比較例2のサンプルについて、 カラムとしてDB−5を用いて得られたクロマトグラムを図3に、DB−WAXを用いたものを図4に示す。
比較例2に対し、実施例2のピークは明らかに高く、揮発性成分が多く検出されている。つまり、シナモンと酵母エキス「YH−15」を混合して加熱した実施例2の方が、加熱後にシナモンを添加した比較例2と比べて、におい成分が増加し、香りが増強されているといえる。
【0031】
実施例3と比較例3のサンプルについて、 カラムとしてDB−5を用いて得られたクロマトグラムを図5に、DB−WAXを用いたものを図6に示す。
比較例3に対し、実施例3のピークは明らかに高く、揮発性成分が多く検出されている。つまり、シナモンと酵母エキス「バーテックスIG20」を混合して加熱した実施例3の方が、加熱後にシナモンを添加した比較例3と比べて、におい成分が増加し、香りが増強されているといえる。
以上、図1図6から、シナモンに酵母エキスを添加し加熱することで、シナモンの香りが増強されることが示された。
【0032】
実施例4、実施例5、実施例6のサンプルについて、 カラムとしてDB−5を用いて得られたクロマトグラムを図7に、DB−WAXを用いたものを図8に示す。
図8においては、ピークによって、実施例4、実施例5、実施例6の高さの順位が異なるものの、概ね実施例6に比べて実施例4、実施例5が高いという結果が得られた。
図7においては、ほとんどのピークにおいて実施例6に比べて実施例4、実施例5が高いという結果が得られた。
このデータから、5´−リボヌクレオチド含有酵母エキス、グルタチオン含有酵母エキスともに、シナモン香を増強する機能があるが、グルタチオン含有酵母エキスの方がシナモンの香りを増強する効果が高いことが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0033】
以上説明してきたように、本発明によると、シナモン独特の香りが増強されたシナモン加工香辛料が得られ、通常のシナモンの代替として使用することができる。また、シナモンを用いている食品、たとえば菓子、飲料などの製品またはその製造工程に酵母エキスを添加することにより、その後の加熱によってシナモン独特の爽やかな香り、風味を増強させることができ、風味豊かな食品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1図1は、実施例1と比較例1のサンプルをフラッシュGCノーズHeraclesIIのDB−5カラムで分析したクロマトグラムである。
図2図2は、実施例1と比較例1のサンプルをフラッシュGCノーズHeraclesIIのDB−WAXカラムで分析したクロマトグラムである。
図3図3は、実施例2と比較例2のサンプルをフラッシュGCノーズHeraclesIIのDB−5カラムで分析したクロマトグラムである。
図4図4は、実施例2と比較例2のサンプルをフラッシュGCノーズHeraclesIIのDB−WAXカラムで分析したクロマトグラムである。
図5図5は、実施例3と比較例3のサンプルをフラッシュGCノーズHeraclesIIのDB−5カラムで分析したクロマトグラムである。
図6図6は、実施例3と比較例3のサンプルをフラッシュGCノーズHeraclesIIのDB−WAXカラムで分析したクロマトグラムである。
図7図7は、実施例4、実施例5、実施例6のサンプルをフラッシュGCノーズHeraclesIIのDB−5カラムで分析したクロマトグラムである。
図8図8は、実施例4、実施例5、実施例6のサンプルをフラッシュGCノーズHeraclesIIのDB−WAXカラムで分析したクロマトグラムである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8