特許第6685588号(P6685588)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6685588
(24)【登録日】2020年4月3日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】微生物担体
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/10 20060101AFI20200413BHJP
   C12N 11/082 20200101ALI20200413BHJP
【FI】
   C02F3/10 A
   C12N11/082
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-242176(P2015-242176)
(22)【出願日】2015年12月11日
(65)【公開番号】特開2017-104829(P2017-104829A)
(43)【公開日】2017年6月15日
【審査請求日】2018年9月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100098752
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 吏規夫
(72)【発明者】
【氏名】高森 義久
【審査官】 ▲高▼ 美葉子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−124306(JP,A)
【文献】 特開2014−073476(JP,A)
【文献】 特開2004−174491(JP,A)
【文献】 特開平10−314780(JP,A)
【文献】 特開2001−239293(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/02−3/10
C12N 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
嫌気性微生物を表面に保持する微生物担体において、
前記微生物担体は、ポリオレフィン系樹脂と、前記ポリオレフィン系樹脂とは異なる樹脂である非相溶性樹脂と、無機粉末を含み、真比重(JIS Z 8807準拠)が1より大の非多孔質体の樹脂からなり、断面形状が断面周方向において3個以上の突起が形成された形状の中実体であって、前記断面周方向に隣合う突起同士の基部が接触して該突起の表面間に谷部が形成され、前記突起の表面に凹凸形状を有することを特徴とする微生物担体。
【請求項2】
前記非相溶性樹脂は、アクリル樹脂(ポリメタクリル酸メチル:PMMA)、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリウレタン樹脂の一種類または複数種類であることを特徴とする請求項1に記載の微生物担体。
【請求項3】
前記断面形状が十字形であることを特徴とする請求項1または2に記載の微生物担体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中沈降性及び嫌気性微生物の付着性に優れると共に、付着した微生物の脱落を抑えることのできる微生物担体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、排水等に対する水処理には、嫌気性微生物による働きで溶存有機物を分解させる嫌気性処理がある。嫌気性処理においては、汚水浄化槽における反応槽(嫌気濾床層)に流動性の微生物担体を投入または充填して汚水(有機性排水)を通水させることで、微生物担体に付着した嫌気性微生物による働きで汚水中の溶存有機物を分解している(特許文献1、特許文献2)。
【0003】
嫌気性処理では、嫌気性雰囲気で微生物が働くため、反応槽等内に投入された流動性の微生物担体は速やかに水中に沈降して水面に長く浮き上がっていない事が、水処理能力向上に必要となる。特に有機性排水を上向流通水して高速処理を行う場合、水沈降性が高いことが求められる。
水沈降性の向上を図った嫌気性処理用の微生物担体として、オレフィン系樹脂とセルロース系粉末を含むオレフィン系樹脂発泡体からなり、あるいはさらに無機粉末を含むオレフィン系樹脂発泡体からなり、発泡体の表面にメルトフラクチャー状態を有するものがある(特許文献2、特許文献3)。
【0004】
しかしながら、オレフィン系樹脂とセルロース系粉末を含むオレフィン系樹脂発泡体、あるいはさらに無機粉末を含むオレフィン系樹脂発泡体で構成されて、発泡体の表面にメルトフラクチャー状態を有する微生物担体は、発泡剤を使用することで表面の凹凸状態を発現させているものの、発泡体で中空状態からなるため、依然として水沈降性が良好ではなく、水処理能力も充分ではなく、さらに含有されている木粉等のセルロース系粉末が微生物担体自体を脆くさせるため、水中で長時間使用されると微生物担体の破片が水中に流れ出し、水中汚染を生じる問題がある。さらに、微生物担体の発泡体のセル内部に、微生物から発生するガスが溜まることによって浮力が増加して水沈降性が低下する問題がある。
【0005】
また、ポリオレフィン系樹脂と無機粉末を含む非多孔質体からなる筒状の外周面を、大径部と小径部が交互に存在する波形状の凹凸にして、凹部に微生物が付着保持されるようにした微生物担体がある(特許文献4)。
しかしながら、大径部と小径部が交互に存在する波形状の凹凸とした円柱状の微生物担体は、排水等の処理時に微生物担体同士が衝突した際に、微生物担体の表面に付着している微生物が脱落するおそれがあり、その場合に排水処理性能を十分に発揮できなくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−211881号公報
【特許文献2】特開2012−110843号公報
【特許文献3】特開2009−66592号公報
【特許文献4】特開2014−73476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記の点に鑑みなされたものであって、水沈降性及び付着した嫌気性微生物による水処理能力に優れ、かつ微生物が脱落し難い嫌気性処理用の微生物担体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明は、嫌気性微生物を表面に保持する微生物担体において、前記微生物担体は、ポリオレフィン系樹脂と、前記ポリオレフィン系樹脂とは異なる樹脂である非相溶性樹脂と、無機粉末を含み、真比重(JIS Z 8807準拠)が1より大の非多孔質体の樹脂からなり、断面形状が断面周方向において3個以上の突起が形成された形状の中実体であって、前記断面周方向に隣合う突起同士の基部が接触して該突起の表面間に谷部が形成され、前記突起の表面に凹凸形状を有することを特徴とする。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1において、前記非相溶性樹脂は、アクリル樹脂(ポリメタクリル酸メチル:PMMA)、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリウレタン樹脂の一種類または複数種類であることを特徴とする。
【0010】
請求項3の発明は、請求項1または2において、前記断面形状が十字形であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の微生物担体は、ポリオレフィン系樹脂と、前記ポリオレフィン系樹脂とは異なる樹脂である非相溶性樹脂と、無機粉末を含み、真比重(JIS Z 8807準拠)が1より大の非多孔質体の樹脂からなるため、排水等に投入された際に、速やかに沈降することができ、微生物担体に付着した嫌気性微生物による汚水処理を効率良く行うことができる。
【0012】
また、本発明の微生物担体は、断面形状が、断面周方向において3個以上の突起が形成された形状であり、断面周方向において隣接する突起間の基部を中心とする隣接する各突起の表面(斜面)との間に、いわゆる谷部を形成する。このため、表面積が増え、付着する嫌気性微生物の量を増大させ、嫌気性微生物による処理能力を高めることができる。さらに本発明の微生物担体は、汚水処理中に微生物担体同士が衝突する際、奥まった位置となる断面周方向において隣接する突起間の基部については、いわゆる各突起間の谷部が存在するので、他の微生物担体と接触し難いため、突起の基部に付着した嫌気性微生物が脱落し難くなり、嫌気性微生物による良好な汚水処理性能を維持することが可能となる。
【0013】
さらに、本発明の微生物担体において、微生物担体の表面に凹凸形状を設けることにより、表面の凹部に付着した嫌気性微生物をより確実に保持することができ、嫌気性微生物による良好な処理性能を維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1実施形態に係る微生物担体の斜視図である。
図2】突起形状が三角の場合を示す本発明の第2実施形態に係る微生物担体の斜視図である。
図3】表面に凹凸形状を有する本発明の第3実施形態に係る微生物担体の斜視図である。
図4】本発明の微生物担体を製造する装置の概略図である。
図5】実施例1の押出成形体と実施例2の押出成形体の側部外面を撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態に係る微生物担体について説明する。図1に示す第1実施形態の微生物担体10は、排水等に対する嫌気性処理に使用されるものであり、ポリオレフィン系樹脂と無機粉末を含み、真比重(JIS Z 8807準拠)が1より大の非多孔質体(非発泡体)からなり、長さ方向に垂直な断面形状が、断面周方向において3個以上の突起が形成された形状(断面複数突起形状)のものである。前記微生物担体10は長さ方向に垂直な断面形状が、断面周方向において3個以上の突起が形成された形状の押出成形体を所定長に切断して得られる。なお、前記微生物担体10の長さ方向は、微生物担体の製造時に押出機から押し出す押出方向と一致する。
【0016】
第1実施形態の微生物担体10では、中央部11とその長さ方向に垂直な断面周方向に形成された3個以上の突起(図示の例では十字形を構成する4個の突起)12とよりなる。前記突起12は、第1実施形態では断面が正方形あるいは長方形などの四角形からなる。前記微生物担体10の外寸法(突起12の先端間寸法)a及び奥行き長さbは、それぞれ1mm〜20mmの範囲であり、より好ましくは4〜8mm程度である。また、前記微生物担体10の突起12は、突起12の長さcが0.1mm〜8.5mmの範囲であり、より好ましくは2〜4mmであり、突起12の基部における幅dが0.1mm〜19mmの範囲であり、より好ましくは1〜3mm程度である。
【0017】
また、断面周方向における突起12の数は、3個以上(図示の例では十字形を構成する4個)であり、より好ましくは3〜8個であり、更により好ましくは4〜6個である。後述する実施例の測定結果に示す通り、断面周方向における突起12の数を3〜8個とすることで、初期付着汚泥重量を9.5g以上に増やすことができ、撹拌後付着汚泥重量を7.3g以上とすることができ、また、汚泥付着減少率を34.5%以下とすることができる。
更に断面周方向における突起12の数を4〜6個とすることで、撹拌後付着汚泥重量の評価試験後の汚泥重量の脱落量(差:脱落汚泥重量)を1.3〜2.2gに減らすことができ、汚泥付着減少率を7.8〜23.2%と小さくすることができる。
断面周方向における突起12の数が3個より少ないと、表面積は増えるものの有効な谷間を形成することができず、基部に付着した汚泥付着減少率が大きくなる。8個より多くなると、谷間の空間がかえって狭くなって、基部に付着した初期付着汚泥重量が少なくなる。
【0018】
前記突起12の断面形状は四角形に限られず、三角形であってもよい。図2に、突起12Aが三角形からなる第2実施形態の微生物担体10Aを示す。三角形の突起12aの寸法は、前記四角形の突起12の寸法と同様である。なお、第2実施形態の微生物担体10Aにおいて、符号11aは前記微生物担体10Aの断面の中央部である。また、前記微生物担体10Aの長さ方向に垂直な断面周方向における突起12の数は、3個以上であり、より好ましくは図示の例のように十字形を構成する4個である。
【0019】
前記微生物担体10及び10Aは、表面に凹凸を有するものがより好ましい。
図3に、表面に凹凸を有する一例として、第3実施形態の微生物担体10Bを示す。第3実施形態の微生物担体10Bは、突起12bの形状が四角形の場合であり、前記微生物担体10Bの表面に凹凸13bを有する。符号11bは中央部である。前記凹凸13bは、前記微生物担体10B用の押出成形体を押出成形する際に、押出成形体の表面に形成される凹凸であり、メルトフラクチャーとも称される。
【0020】
前記ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)樹脂、ポリスチレン(PS)樹脂等を挙げることができ、それらが単独で又は二種類以上組み合わせて使用される。特にポリエチレン樹脂は、本発明において好適なポリオレフィン系樹脂の一つである。ポリオレフィン系樹脂の量は、非多孔質体100質量%中、30〜90質量%が好ましく、特に30〜70質量%が好ましい。30質量%未満の場合には非多孔質体の結合力が弱くなる。
【0021】
前記無機粉末としては、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、ゼオライト、タルク、酸化チタン、チタン酸カリウム、水酸化アルミニウム等を挙げることができ、それらの一種あるいは複数種類を組み合わせて使用することができる。特に炭酸カルシウムは好適である。無機粉末は、前記微生物担体10、10A、10Bを構成する非多孔質体の比重を増大させる作用を有する。無機粉末の量は、非多孔質体100質量部中、10〜70質量部が好ましく、特に30〜50質量部が好ましい。無機粉末の量を非多孔質体100質量部中10〜70質量部とすれば、微生物担体10の真比重を1より大で1.6までの非多孔質体(非発泡体)とすることができ、嫌気性処理に適したものとなる。70質量部を超える場合には、結合力が弱くなって水中で微生物担体10が分離し易くなる。
【0022】
前記ポリエチレン系樹脂及び無機粉末と共に非相溶性樹脂が添加されるのが好ましい。前記非相溶性樹脂は、前記ポリオレフィン系樹脂とは異なる樹脂であって、前記ポリオレフィン系樹脂よりも溶解度パラメータδ(SP値)が1〜5(MJ/m1/2大きいものが好ましい。SP値の差が1(MJ/m1/2未満では、ポリエチレン(PE)樹脂およびポリプロピレン(PP)樹脂中において相溶化しやすく、表面に凹凸を発生させる作用を生じにくく、逆に、SP値の差が5(MJ/m1/2より大きい場合、押し出し成形時にストランドが切断されやすく、微生物担体として長期使用中に分離しやすくなる。
【0023】
前記非相溶性樹脂としては、アクリル樹脂(ポリメタクリル酸メチル:PMMA)、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリウレタン樹脂等を挙げることができ、それらの一種類あるいは複数種類を組み合わせて使用することができる。特にアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂およびABS樹脂は、ポリエチレン(PE)樹脂およびポリプロピレン(PP)樹脂よりもSP値が大きく、その差は1〜5(MJ/m1/2であるため、ポリエチレン(PE)樹脂やポリプロピレン(PP)樹脂と混合されると、押し出し成形時にダイ内壁面で臨界せん断応力を超え、表面に凹凸を発生させやすく、好ましいものである。前記非相溶性樹脂は、前記非多孔質体に適宜含まれる添加剤であり、非多孔質体に含まれることによって表面の凹凸を形成し易くできる。前記アクリル樹脂は、前記非多孔質体に含有させる場合、前記非多孔質体100質量%中1〜20質量%が好ましい。1質量%未満の場合、アクリル樹脂による効果が得られず、一方、20質量%を超える場合には、ポリオレフィン系樹脂の含有量が少なくなって成形しにくくなる。
【0024】
なお、溶解度パラメータδ(SP値)は、フェダーズ(Fedors)の方法により決定される25℃におけるポリマーの繰り返し単位の値を指す。当該方法は、R.F.Fedors,Polym.Eng.Sci.,14(2),147(1974)に記載されている。即ち、求める化合物の構造式において、原子および原子団の蒸発エネルギーとモル体積のデータより次式により決定される。
δ=(ΣΔei/ΣΔvi)1/2
ただし、式中、ΔeiおよびΔviは、それぞれ原子または原子団の蒸発エネルギーおよびモル体積を表す。求める化合物の構造式はIR、NMR、マススペクトルなどの通常の構造分析手法を用いて決定する。
【0025】
図4は前記微生物担体10、10A、10Bの製造装置の概略図である。前記製造装置30は、押出機(単軸又は多軸押出機)31、水中冷却槽33、ストランドカッター(引き取り装置及び切断装置)35からなる。前記製造装置30を用いる微生物担体10、10A、10Bの製造は、次のようにして行われる。
【0026】
まず、前記ポリオレフィン系樹脂、無機粉末、及び適宜添加する非相溶性樹脂を前記の割合で押出機31に投入し、前記押出機31内で溶融混練して押出機31から気相中に非多孔質状態で断面形状が長さ方向に垂直な断面周方向において3個以上の突起が形成されたストランド状に押し出し、水中冷却槽33中を通して冷却硬化させ、前記ストランドをストランドカッター35の引き取り装置で引き取って、所定長に切断装置で切断することにより、前記微生物担体10、10A、10Bを得る。なお、押出機のダイ形状は、前記微生物担体10、10Bに対しては、先端が四角形をした十字形であり、一方、前記微生物担体10Aについては、先端が三角形をした十字形である。前記微生物担体10Bの表面の凹凸(メルトフラクチャー)13bは、押出機31のバレル設定温度を通常温度よりも低めに設定することによって形成することができる。
【実施例】
【0027】
以下の原料と図4に示した製造装置30を用いて表1に示す参考例1、実施例2、実施例3及び実施例4を製造した。参考例1は、前記第1実施形態の微生物担体10と同様、複数の突起として十字形を構成する4個の突起12の形状が四角形からなって、表面に凹凸(メルトフラクチャー)を有しない例である。実施例2は、前記第3実施形態の微生物担体10Bと同様、複数の突起として十字形を構成する4個の突起12bの形状が四角形からなって、表面に凹凸(メルトフラクチャー)13bを有する例である。実施例3は、複数の突起として3個の突起を有し、かつ突起の形状が四角形からなって、表面に凹凸(メルトフラクチャー)を有する例である。実施例4は、複数の突起として5個の突起を有し、かつ突起の形状が四角形からなって、表面に凹凸(メルトフラクチャー)を有する例である。なお、参考例1、実施例2、実施例3及び実施例4の微生物担体の長さ(ストランドの切断長さ)は何れも3mmである。
【0028】
・ポリオレフィン系樹脂:ポリエチレン樹脂、品名;ニポロンハード5700、MFR1.0(g/10min)、東ソー社製
・無機粉末:炭酸カルシウム、品名;BF300、備北粉化工業社製
・アクリル樹脂:品名;アクリペットVH−001、三菱レイヨン社製
ポリオレフィン系樹脂/無機粉末/アクリル樹脂=45質量部/50質量部/5質量部
【0029】
前記押出機31は、品名;二軸押出機KTX30、神戸製鋼社製である。押出機の条件は、ダイが参考例1、実施例2〜4の何れもストランド押出用の穴×4つ、バレル設定温度が参考例1では220℃、実施例2〜4では180℃、吐出量が参考例1、実施例2〜4の何れも60kg/時、押し出し速度が参考例1、実施例2〜4の何れも10m/分、スクリュー回転数が参考例1、実施例2〜4の何れも400rpm、引き取り速度が参考例1、実施例2〜4の何れも11m/分である。なお、ダイのストランド押出用の穴の寸法は、突起を十字形に4個設ける参考例1と実施例2用のダイについては、図1のaに対応する寸法が6mm、cに対応する寸法が2mm、dに対応する寸法が2mmである。また、突起の数が3個の実施例3用のダイ及び突起の数が4個の実施例4用のダイについては、図1とは突起の数が相違するが、aに相当する部分の寸法が6mm、cに相当する部分の寸法が2mm、dに相当する部分の寸法が2mmである。
【0030】
図5は、前記ストランドカッターで切断する前の参考例1の押出成形体100と実施例2の押出成形体100Aについて側部を、スケール110と共に撮影した写真である。スケール110の目盛りの値「1」は1cm(10mm)であり、「2」は2cm(20mm)である。参考例1の押出成形体100は、表面に凹凸(メルトフラクチャー)が無く、一方、実施例2の押出成形体100Aは、表面に凹凸を有する。押出成形体100及び110は、その後に前記ストランドカッターで長さ3mmに切断されて参考例1の微生物担体と実施例2の微生物担体となる。
【0031】
また、比較例1として、外径10mm、内径8mmのポリエチレン製中空パイプを長さ10mmに切断して微生物担体を形成した。
比較例2、3として、参考例1、実施例2〜4と同一の配合からなる原料及び同一の製造装置を用い、以下に示す押出機の条件で微生物担体を製造した。比較例2は、表面に凹凸(メルトフラクチャー)が無い円柱状のものであり、比較例3は、表面に凹凸(メルトフラクチャー)を有する円柱状のものである。
【0032】
比較例2、3に対する押出機の条件は、ダイが比較例2、3の何れも直径3mm×4つ、バレル設定温度が比較例2では220℃、比較例3では180℃、吐出量が比較例2、3の何れも60kg/時、押し出し速度が比較例2、3の何れも9m/分、スクリュー回転数が比較例2、3の何れも400rpm、引き取り速度が比較例2、3の何れも9m/分である。また、比較例2及び比較例3の微生物担体の長さ(ストランドカッターによる切断長さ)は、何れも3mmである。
【0033】
【表1】
【0034】
参考例1、実施例2〜4と比較例1〜3の微生物担体に対して、真比重(JIS Z 8807準拠)、かさ比重(JIS K 7365準拠)、体積充填率(%)、沈降性(mm/s)、汚泥付着減少率(%)を測定した。なお、比較例1は、沈降しなかったため、沈降性については測定できなかった。測定結果を表1に示す。
【0035】
体積充填率は、[体積充填率=かさ比重/真比重]の式で計算した。体積充填率が高い(大きい)ほど、排水(処理用液体)と担体との接触面積が大きくなり、微生物担体に付着した微生物による処理能力を高くできる。
【0036】
沈降性は、200mm×200mm×350mmの水槽を用い、その水槽内に底から300mmの位置まで水を投入し、微生物担体を水槽表面で水に漬けて微生物担体の表面に水を付着させた後、水面の位置(水槽の底から300mmの位置)で微生物担体を静かに放して水槽の底に到達するまでの時間をストップウオッチで測定し、[(底までの距離(300mm))/(底に到達するまでの時間(秒))]の式で沈降速度(mm/秒)を計算した。沈降速度が大であるほど沈降性が高く、嫌気性微生物による処理に好適であると。なお、沈降速度は、n=5で測定して平均値を算出した。
【0037】
汚泥付着減少率は、次のようにして測定した。
・初期付着汚泥重量の測定
園芸用土壌2kgに水1リットルを加え、よく混ぜて粘りのある汚泥を作成した。次に重量測定済みの容器にサンプル(微生物担体)を所定量収容して、[容器+サンプル]の重量を測定し、得られた[容器+サンプル]の重量から容器の重量を差し引いてサンプル重量(初期サンプル重量)を算出する。次に、前記初期サンプル重量のサンプル(微生物担体)が収容されている容器に、サンプル(微生物担体)が埋まるように過剰の汚泥を投入し、汚泥とサンプル(微生物担体)を撹拌してサンプル(微生物担体)表面に汚泥を絡ませる。容器から汚泥とサンプル(微生物担体)をふるい(JIS Z8801 規格;平織金網 目開き2mm)上に落とし、1分間ふるいにかけてサンプル(微生物担体)に絡まって(付着して)いない汚泥をふるい落とす。ふるい上に残ったサンプル(微生物担体)を熱風オーブン式乾燥機(品名;DKM600、YAMATO製)で80℃×10時間乾燥させた後、乾燥後のサンプル重量(乾燥後サンプル重量)を測定する。乾燥後サンプル重量から初期サンプル重量を減算して初期付着汚泥重量を算出する。初期付着汚泥重量は、多いほうが良く、9g以上であれば良い。
・撹拌後付着汚泥重量の測定
容積1リットルの容器に、初期付着汚泥重量の測定で得られた乾燥後サンプル(微生物担体)を投入し、スターラー(条件;300rpm)で1分間撹拌させた後、容器内の収容物(汚泥とサンプル(微生物担体))を、ふるい(JIS Z8801 規格;平織金網 目開き2mm)上に落とし、1分間ふるいにかけてサンプル(微生物担体)から脱落した汚泥をふるい落とす。ふるい上に残ったサンプル(微生物担体)を熱風オーブン式乾燥機(品名;DKM600、YAMATO製)で80℃×10時間乾燥させた後、乾燥後のサンプル重量(撹拌後サンプル重量)を測定する。撹拌後サンプル重量から初期サンプル重量を減算して撹拌後付着汚泥重量を算出する。撹拌後付着汚泥重量は、多いほうが良く、7g以上であれば良い。
また、初期付着汚泥重量から撹拌後付着汚泥重量を減算して脱落汚泥重量を算出し、さらに[脱落汚泥重量/初期付着汚泥重量×100]の式によって汚泥付着減少率を算出する。汚泥付着減少率は、少ないほうが良いが、36%以下であれば良い。
【0038】
表1の参考例1、実施例2〜4及び比較例1〜3の測定結果について以下に示す。
参考例1は、微生物担体の断面形状が4個の複数突起(=十字形)を有するため、円柱の比較例2と比べて初期付着汚泥重量が大であり、嫌気性微生物による処理性能が良好となる。
【0039】
実施例2は、参考例1と同様に微生物担体の断面形状が4個の複数突起(十字形)を有するため、円柱の比較例2と比べて初期付着汚泥重量が大であり、さらに、実施例2では表面に凹凸(メルトフラクチャー)を有するため、凹凸(メルトフラクチャー)の無い参考例1よりも、初期付着汚泥重量が大であって、かつ撹拌による汚泥付着減少率が小さく、嫌気性微生物による処理性能がより良好なものである。また、実施例2と比較例3を比較すると、両者は何れも表面に凹凸(メルトフラクチャー)を有するが、4個の複数突起(十字形)を有する実施例2は、円柱形の比較例3よりも、初期付着汚泥重量が大であって、かつ撹拌による汚泥付着減少率が小さく、嫌気性微生物による処理性能がより良好なものである。
【0040】
実施例3は、微生物担体の断面形状が3個の複数突起を有するものであり、実施例2と比べて初期付着汚泥重量が大であるが、撹拌による汚泥付着減少率が大きく、実施例2と比べて嫌気性微生物による処理性能が劣るものである。しかし、実施例3は、比較例3よりは嫌気性微生物による処理性能が良好なものである。
【0041】
実施例4は、微生物担体の断面形状が5個の複数突起を有するものであり、実施例2と比べて初期付着汚泥重量が小であって、撹拌による汚泥付着減少率が若干大きく、実施例2と比べて嫌気性微生物による処理性能が劣るものである。しかし、比較例3よりは嫌気性微生物による処理性能が良好なものである。
【0042】
比較例1は、中空円柱形状のため、体積充填率が小さく、しかも真比重が1より小で沈降性が低く、浮上するため、嫌気性微生物による処理には不適である。
比較例2は、体積充填率は大であるが、円柱形のため、初期付着汚泥量が少なくなっている。
比較例3は、表面の凹凸(メルトフラクチャー)により初期付着汚泥量は多いが、外形が円柱形のため、撹拌による汚泥付着減少率が大きく、嫌気性微生物による処理性能に劣ることになる。
【0043】
このように、本発明の微生物担体は、円柱形状の微生物担体に比べて嫌気性微生物による良好な汚水処理性能を得ることが可能となる。
【符号の説明】
【0044】
10、10A、10B 微生物担体
12、12a、12b 突起
13b 表面の凹凸(メルトフラクチャー)
図1
図2
図3
図4
図5