特許第6685589号(P6685589)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6685589不織布濾過材及びエアクリーナエレメント
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6685589
(24)【登録日】2020年4月3日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】不織布濾過材及びエアクリーナエレメント
(51)【国際特許分類】
   B01D 39/16 20060101AFI20200413BHJP
   D04H 1/559 20120101ALI20200413BHJP
   F02M 35/024 20060101ALI20200413BHJP
【FI】
   B01D39/16 A
   D04H1/559
   F02M35/024 501J
   F02M35/024 511G
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-248142(P2015-248142)
(22)【出願日】2015年12月21日
(65)【公開番号】特開2017-113653(P2017-113653A)
(43)【公開日】2017年6月29日
【審査請求日】2018年8月30日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000108498
【氏名又は名称】タイガースポリマー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】水田 真介
(72)【発明者】
【氏名】梅本 翔太
【審査官】 青木 太一
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭53−067176(JP,A)
【文献】 特開平10−273870(JP,A)
【文献】 特開2002−105826(JP,A)
【文献】 特開2014−133198(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 39/00−39/20
D04H 1/00−18/04
F02M 35/024
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上流側に位置する粗層部と下流側に位置する密層部とを有する密度勾配を持った多層構造の不織布濾過材であって、
前記粗層部及び密層部はドライ層であり、
粗層部の空間率は90〜99%であり、密層部の空間率は80〜95%であり、
粗層部の目付が、40〜200g/平方メートルであり、密層部の目付が、70〜300g/平方メートルであるとともに、
前記粗層部中には、平均繊維径が15〜45μmの捲縮している複合繊維と、
平均繊維径が5〜20μmであって前記複合繊維よりも繊維径の細い細繊維とが含まれており、
前記捲縮している複合繊維は、コイル状もしくはスパイラル状の立体捲縮構造を有し、
前記粗層部における繊維の配合割合が、複合繊維が30〜60重量%であり、細繊維が30〜70重量%であり、
前記密層部は、ポリエチレンテレフタレート樹脂製のレギュラー繊維により構成されている、
不織布濾過材。
【請求項2】
粗層部に含まれる細繊維には、低融点成分を含む芯鞘構造の細繊維が配合されている、請求項1に記載の不織布濾過材。
【請求項3】
粗層部に含まれる細繊維の内、低融点成分を含む芯鞘構造の細繊維の配合割合が40〜80重量%である、請求項2に記載の不織布濾過材。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3にいずれかに記載の不織布濾過材を有する、自動車の内燃機関用もしくは自動車の燃料電池用のエアクリーナエレメント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不織布濾過材、特に空気中の塵埃のろ過に使用される不織布濾過材、及び不織布濾過材を用いたエアクリーナエレメントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
不織布濾過材は、自動車等に使用される内燃機関や燃料電池等のエアクリーナなどの濾過材として、空気のろ過に使用されている。このような用途においては、多量の空気から細かな塵埃を効率的に除去することが求められる。そして、不織布濾過材には、高い清浄効率と、長期間にわたって目詰まりせずにダストを除去しうる長寿命性、及び、限られた空間で十分なろ過性能を発揮しうるコンパクト性が求められる。
【0003】
特に近年では、これらエアフィルタにおいて、カーボンダストのような微粒子ダストを除去する性能の向上が求められている。カーボンダストのような微粒子ダストの除去が不十分であると、濾過材(フィルタエレメント)の下流側に配置された流量センサなどの検出装置にダストが堆積し、検出装置の出力の正確さや安定性が不十分となりうるからである。
【0004】
従来公知の不織布濾過材においては、多層からなる濾材構成であれば、カーボンダストのような微粒子ダストは、最もかさ密度が高く繊維径が小さい層で捕捉されることが多い。そのため、カーボンダストが捕捉されると濾過材の圧力損失が上昇しやすく、寿命が短くなる。特に、密層のかさ密度を高くするなどして、微粒子ダストの捕捉効率(清浄効率)を高めると、濾過材がより目詰まりしやすくなる。すなわち、不織布濾過材においては、微粒子ダストについて、清浄効率と濾過材の寿命との間にトレードオフ関係がある。
【0005】
例えば、特許文献1には、オイルを含浸させていない複数の不織布層からなる不織布濾過材が開示され、当該不織布濾過材の空間率を、上流側の不織布層よりも下流側の不織布層が小さくなるように形成し、下流側の不織布層の空間率を85〜92%の範囲とし、下流側の不織布層を構成する繊維の平均繊度を3デシテックス以下、上流側の不織布層を構成する繊維の平均繊度を3デシテックス以上とすることが開示されている。当該不織布濾過材によれば、吸気脈動によるダスト透過が防止され、カーボンダスト清浄効率とカーボンダスト保持量を良好に維持できるとの効果が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−349389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の不織布濾過材によってもなお、カーボンダストのような微粒子ダストを高い清浄効率でかつ大量に捕捉することには限界があり、より高い捕捉効率とより長寿命の濾過材が求められるに至っている。
【0008】
微粒子ダストの捕捉に有利な極細繊維により不織布を構成する試みもいろいろ行われているが、汎用されるメルトブロー法で得られるような極細繊維不織布では、極細繊維が平面的に配置されてしまい、立体的構造を有する厚みのある不織布の製造は困難である。そのため、極細繊維を用いても、微粒子ダストについての清浄効率と濾過材の寿命との間のトレードオフ関係を解決することは難しかった。
【0009】
本発明の目的は、微粒子ダストの捕捉性能(清浄効率)と、長寿命性をバランスよく備えうる不織布濾過材を提供することにある。また、本発明の他の目的は、自動車の内燃機関や自動車の燃料電池に供給する空気のろ過に適した不織布濾過材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者は、鋭意検討の結果、特定の密度勾配を有する多層構造の不織布濾過材において、上流側の粗層部に、特定の太さの捲縮複合繊維と特定の細さの細繊維とをそれぞれ特定の配合量で配合すると、粗層部における微粒子ダスト捕捉性能が向上し、上記課題が解決されることを知見し、本発明を完成させた。
【0011】
本発明は、上流側に位置する粗層部と下流側に位置する密層部とを有する密度勾配を持った多層構造の不織布濾過材であって、前記粗層部及び密層部はドライ層であり、粗層部の空間率は90〜99%であり、密層部の空間率は80〜95%であり、粗層部の目付が、40〜200g/平方メートルであり、密層部の目付が、70〜300g/平方メートルであるとともに、前記粗層部中には、平均繊維径が15〜45μmの捲縮している複合繊維と、平均繊維径が5〜20μmであって前記複合繊維よりも繊維径の細い細繊維とが含まれており、前記捲縮している複合繊維は、コイル状もしくはスパイラル状の立体捲縮構造を有し、前記粗層部における繊維の配合割合が、複合繊維が30〜60重量%であり、細繊維が30〜70重量%であり、前記密層部は、ポリエチレンテレフタレート樹脂製のレギュラー繊維により構成されている、不織布濾過材である(第1発明)。
【0012】
第1発明においては、粗層部に含まれる細繊維には、低融点成分を含む芯鞘構造の細繊維が配合されていることが好ましい(第2発明)。さらに、第2発明においては、粗層部に含まれる細繊維の内、低融点成分を含む芯鞘構造の細繊維の配合割合が40〜80重量%であることが好ましい(第3発明)。
また、本発明は、第1発明ないし第3発明のいずれかの不織布濾過材を有する、自動車の内燃機関用もしくは自動車の燃料電池用のエアクリーナエレメントである(第4発明)。
【発明の効果】
【0013】
第1発明において、粗層部中に捲縮複合繊維と細繊維が特定の配合割合で配合されることにより、粗層部中に細繊維が立体的に配置されて、この立体的に配置される細繊維がカーボンダストのような微粒子ダストの捕捉性能向上に貢献する。本発明の不織布濾過材(第1発明)によれば、微粒子ダストの捕捉性能(清浄効率)と、長寿命性をバランスよく高めうるという効果が得られる。
【0014】
また、第2発明の不織布濾過材は、低融点成分を含む芯鞘構造の細繊維が配合されているため、さらに、通気性能も向上できる。さらに、第3発明のように、低融点成分を含む芯鞘構造の細繊維の配合量を定めると、通気性能と微粒子ダストに対する寿命をさらにバランスよく高めることができる。また、第4発明のエアクリーナエレメントは、微粒子ダストの捕捉性能(清浄効率)と、長寿命性をバランスよく高められており、自動車の内燃機関や燃料電池に好ましく使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】発明の第1実施形態の不織布濾過材の断面構造を示す模式図である。
図2】不織布濾過材を用いたエアクリーナエレメントの構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下図面を参照しながら、自動車の内燃機関(エンジン)に供給する空気をろ過するためのエアクリーナのフィルタ材として利用可能な不織布濾過材を例として、発明の実施形態について説明する。発明は以下に示す個別の実施形態に限定されるものではなく、その形態を変更して実施することもできる。
【0017】
図1は、発明の第1実施形態の不織布濾過材1の断面構造を示す模式図である。本実施形態の不織布濾過材はシート状の不織布であって、自動車エンジンのエアクリーナ用に供される場合には、通常、襞折りされた状態で枠に固定されたエアクリーナエレメント2として使用される。図2にエアクリーナエレメントの構造を模式的に断面図で示す。エアクリーナエレメント2は襞折りされた不織布濾過材1の周囲を枠体21で囲って一体化し、枠体21の周囲にシール部材22、22を設けて構成される。エアクリーナエレメントの具体的構成としては、公知の構成が採用でき、特に限定されない。エアクリーナエレメント2は、枠体21やシール材22を有しない構成であってもよい。
【0018】
不織布濾過材1は、複数の不織布層を積層した多層構造の不織布濾過材である。図1に不織布濾過材が使用される際の気流の流れを矢印で示すように、本不織布濾過材においては、上流側で使われるべき層と、下流側で使われるべき層があらかじめ定められている。不織布濾過材1は、上流側に位置する粗層部11と下流側に位置する密層部12とを有する。粗層部11は、密層部12よりも、不織布層のかさ密度が低い。換言すると、粗層部11は、密層部12よりも、不織布層の空間率が高い。すなわち、不織布濾過材1は、上流側に粗層部11を有し、下流側に密層部12を有し、密度勾配を持っている。
【0019】
ここで不織布層の空間率とは、不織布層の単位体積当たりに占める空間体積(不織布層全体が占める体積から繊維が占める体積を除いた体積)を百分率で示した値である。不織布層が粗であるとは、空間率が大きいことを意味し、不織布層が密であるとは、空間率が小さいことを意味する。粗層部11の好ましい空間率は90〜99%程度である。また、密層部12の好ましい空間率は80〜95%程度である。本実施形態においては密層部12の空間率が93.5%とされている。
【0020】
不織布濾過材の粗層部11と密層部12の不織布層の目付は特に限定されないが、粗層部11の目付が、40〜200g/平方メートル程度、密層部12の目付が、70〜300g/平方メートル程度であることが好ましい。本実施形態においては、粗層部11の目付が75g/平方メートル、密層部12の目付が125g/平方メートルとされている。
【0021】
不織布濾過材1は、粗層部11、密層部12以外の層を有していてもよい。例えば、粗層部11よりも上流側に、プレフィルタ層を有していてもよい。あるいは、粗層部11と密層部12の間に中間層を設けてもよい。あるいは、密層部12よりも下流側に基材層13を設けてもよい。これら他の層を設けることは必須ではない。本実施形態の不織布濾過材1は、密層部12よりも下流側に基材層13が設けられており、基材層13は、主に不織布濾過材1の製造効率を高める役割で設けられている。
【0022】
粗層部11及び密層部12は、ドライ層とされている。ドライ層とは、不織布層に実質的にオイルが含浸・塗布されていない層のことである。不織布濾過材1においては、カーボンダストのような微粒子ダストは、主に、粗層部11及び密層部12で捕捉される。いわゆるビスカスタイプのフィルタエレメントに含浸されるオイルが、これら層に含浸されていると、微粒子ダストが抜けやすいため、粗層部11及び密層部12はドライ層とされる。
【0023】
粗層部11や密層部12以外の層については、必ずしもドライ層である必要はなく、オイルを含浸させたビスカス層であってもよい。例えば、粗層部の上流側にビスカス層を設けてもよい。なお、不織布濾過材1の一部の層をビスカス層とする場合には、粗層部11と密層部12が確実にドライ層となるように、オイルの付着や移行を防止することが好ましい。
【0024】
粗層部11の構成についてより詳細に説明する。不織布濾過材1において、粗層部11は、微粒子ダストの大部分を捕捉する役割を有している。
粗層部11は、繊維の太さが異なる複数種の繊維が混紡されて構成された不織布層である。粗層部11中には、平均繊維径が15〜45μmの捲縮している複合繊維と、平均繊維径が5〜20μmであって前記複合繊維よりも繊維径の細い細繊維とが含まれている。
【0025】
これら複合繊維と細繊維は、粗層部11の中で互いに交絡し合って立体的に配置されている。複合繊維と細繊維の交絡状態は、繊維同士の摩擦やバインダによる接着や接着性繊維(いわゆる低融点繊維など)等により維持される。また、これら複合繊維と細繊維は、長く連続した繊維であってもよいが、短い繊維であってもよい。混紡がたやすく、不織布からの繊維の脱落が少ないという観点から、好ましくは、これら繊維は30〜80mm程度の長さにされて不織布化される。
【0026】
ここで、繊維の平均繊維径について説明する。繊維が単一の材料・種類である場合には、平均繊維径とは、デニールやデシテックスといったその繊維の繊度と、繊維を構成する材料の密度から、繊維が円断面であるとして直接計算される繊維径のことである。平均繊維径を求めたい繊維群の繊維が複数の種類である場合や、繊維が複数の構成材料からなる場合には、それぞれの繊維や構成材料について、繊度や密度からそれぞれの平均繊維径を求めたうえで、それぞれの繊維や構成材料の配合割合に応じて平均繊維径の加重平均を取ったものを、平均繊維径として扱えばよい。また、繊維が異形断面や中空構造を有する場合には、繊維の顕微鏡写真から複数個所で繊維の幅を測定し、それら幅の算術平均を取ったものを繊維の平均繊維径として扱えばよい。
【0027】
粗層部11に含まれる捲縮した複合繊維について説明する。複合繊維とは、材料の種類や特性が異なる複数の材料を組み合わせて構成した繊維のことである、複合繊維としては、熱収縮率の異なる樹脂を同時押出した、偏心構造やサイドバイサイド構造を有する複合繊維(いわゆるコンジュゲート繊維)や、熱収縮率の異なる繊維を組み合わせたバイコン繊維などが例示される。複合繊維は、捲縮した状態で粗層部11に配合されている。なお、複合繊維が捲縮すると、一般に、立体捲縮構造を有する捲縮形態となる。立体捲縮構造としては、コイル状・スパイラル状といった三次元的な捲縮形態が代表的であるがこれらに限定されない。また、複合繊維は中空の複合繊維であってもよい。複合繊維が中空であると、捲縮状態がより強力に維持されて好ましい。
【0028】
複合繊維に使用される材料は、典型的には化学繊維材料が用いられるが、天然繊維と化学繊維を複合したものであってもよい。化学繊維の材料としては、典型的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂のようなポリエステル樹脂、ナイロン6のようなポリアミド樹樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂のようなアクリル樹脂、ポリプロピレン樹脂のようなポリオレフィン樹脂が使用できる。
【0029】
本実施形態においては、捲縮した複合繊維として、ポリエステル樹脂とポリエステル系樹脂とをサイドバイサイド構造で複合化した複合繊維に対し、熱処理により捲縮を加えた、平均繊維径26.8μmの複合繊維が用いられている。
【0030】
粗層部11に含まれる細繊維について説明する。細繊維が粗層部に混紡されて配合されることにより、細繊維の表面に微粒子ダストが吸着し、粗層部11で微粒子ダストを効果的に捕捉することが可能となる。微粒子ダストを効率的に捕捉するために、粗層部11に含まれる細繊維の平均繊維径が5〜20μmとされ、かつ、細繊維の繊維径は、上述した複合繊維の繊維径よりも、細くされている。かかる構成により、粗層部11においては、捲縮した複合繊維により、かさ高の粗層部の立体構造が維持され、細繊維により微粒子ダストが捕捉される。
【0031】
粗層部11に含まれる細繊維としては、天然繊維でもよいが、合成繊維が好ましく使用される。合成繊維としては、例えばPET(ポリエチレンテフタレート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)及びPTT(ポリトリメチレンテレフタレート)のようなポリエステル、PP(ポリプロピレン)及びPE(ポリエチレン)のようなポリオレフィン、6−ナイロン及び66−ナイロンのようなPA(ポリアミド)、ポリアクリルなどの樹脂原料から製造された繊維や、レーヨン繊維などをあげることができる。これら合成繊維は、単独で、もしくは他の繊維と一緒に粗層部11に混紡される。サーマルボンド法が利用できるように、粗層部11に含まれる細繊維として、低融点成分を含む芯鞘構造の細繊維(高融点成分を芯として低融点成分を鞘とした、いわゆる低融点繊維)を含ませてもよい。また、粗層部11に含まれる細繊維に対し、エレクトレット処理や撥油処理を施して、微粒子ダストの捕捉性能を高めてもよい。
【0032】
本実施形態においては、粗層部11に含まれる細繊維として、平均繊維径11.6μmのレギュラーPET繊維と、平均繊維径14.3μmの低融点成分を含む芯鞘構造のPET繊維が用いられている。
【0033】
不織布濾過材1において、粗層部11における繊維の配合割合は、複合繊維が30〜60重量%であり、細繊維が30〜70重量%とされる。複合繊維が30重量%以上であり、かつ、細繊維が70重量%以下であることにより、粗層部11において、細繊維がつぶれた平面的配置になってしまうことなく、立体的に配置される。また、細繊維が30重量%以上であることにより、粗層部において多量の微粒子ダストを捕捉することが可能となる。粗層部11における繊維の配合割合は、複合繊維が40〜50重量%であり、細繊維が40〜60重量%とされることが好ましい。
【0034】
粗層部11に含まれる細繊維として、低融点成分を含む芯鞘構造の細繊維が配合される場合には、粗層部11に含まれる細繊維の内、低融点成分を含む芯鞘構造の細繊維の配合割合が40〜80重量%であることが好ましく、50〜70重量%であることが特に好ましい。配合割合が40%以上であれば、粗層部を構成する繊維の立体的配置がより良好に維持され、配合割合が80%以下であれば、粗層部全体にわたって細繊維が均一に分散しやすくなって好ましい。
【0035】
本実施形態においては、粗層部11に含まれる捲縮した複合繊維が45重量%、粗層部11に含まれる細繊維としてのレギュラーPET繊維が20重量%、粗層部11に含まれる細繊維としての低融点成分を含む芯鞘構造のPET繊維が30重量%含まれており、その他に、粗層部11には、平均繊維径24.7μmのレギュラーPET繊維が5重量%含まれている。
【0036】
密層部12の構成についてより詳細に説明する。不織布濾過材1において、密層部12は、粗層部11を通過してきた微粒子ダストを捕捉する役割を有している。
かかる役割を考慮して、密層部12は微粒子ダストの捕捉に適した構成を採用することが好ましい。例えば、密層部12を構成する繊維として、平均繊維径が5〜30μmのものが好ましく、5〜20μmのものが特に好ましい。また、密層部を構成する繊維の材料は、粗層部11に含まれる細繊維と同様の材質の繊維が使用できる。また、密層部の繊維配置構造がつぶれてしまわないように、もっと太い繊維を混ぜてもよい。
なお、密層部12を細い繊維で構成し、かさ密度を大きく(空間率を小さく)すれば、微粒子ダストの捕捉効率(清浄効率)を高めることはできるが、一方で、密層部が微粒子ダストによって目詰まりしやすくなり、濾過材の寿命が短くなりやすい。
【0037】
本実施形態においては、密層部12には、平均繊維径17.5μmのレギュラーPET繊維が40重量%、平均繊維径11.6μmのレギュラーPET繊維が60重量%含まれている。
【0038】
第1実施形態の不織布濾過材1の製造方法について、説明する。不織布濾過材1は、粗層部11、密層部12、基材層13になるべきそれぞれの繊維集合体(ウェブあるいは不織布)を積層させる第1の工程と、その積層体にニードルパンチや水流交絡処理や熱処理やバインダ処理を施して一体化する第2の工程を含む、不織布製造方法により製造される。この製造方法は公知である。
【0039】
第1の工程においては、まず、粗層部を構成する原料繊維を開繊・混紡し、軽量・給綿工程を経て粗層部となるべきウェブを得る。同様に、密層部を構成する原料繊維を開繊・混紡し、軽量・給綿工程を経て密層部となるべきウェブを得る。基材層としては、ウェブから製造してもよいが、あらかじめ製作しておいたスパンボンド不織布を用いることもできる。次いで、基材層となるスパンボンド不織布の上に、密層部となるべきウェブおよび、粗層部となるべきウェブをこの順序で積層する。以上が第1工程である。
【0040】
次いで、得られた積層体をニードルパンチ工程に供し、各層が所定の空間率となるように制御しながら一体化する。ニードルパンチ工程に引き続き、バインダー液に浸漬し、熱処理して、繊維の交点部分を固定することが好ましい(第2工程)。この一体化工程を経ることで、不織布濾過材1が得られる。なお、粗層部11に含まれる捲縮した複合繊維を捲縮するタイミングについては、特に限定されない。複合繊維の捲縮を、第1の工程の開繊・混紡工程に先立ってあるいは並行して行ってもよいし、第2工程におけるニードルパンチ工程や熱処理工程の中で複合繊維が捲縮するようにしてもよい。
【0041】
上記実施形態の不織布濾過材1の作用および効果について説明する。
不織布濾過材1においては、粗層部11がドライ層であり、粗層部11中には、平均繊維径が15〜45μmの捲縮している複合繊維と、平均繊維径が5〜20μmであって前記複合繊維よりも繊維径の細い細繊維とが含まれており、粗層部11における繊維の配合割合が、複合繊維が30〜60重量%であり、細繊維が30〜70重量%である構成であることにより、粗層部11により、カーボンダストのような微粒子ダストを高い捕捉効率(清浄効率)で、大量に捕捉することができる。
【0042】
特許文献1に開示されるような従来の多層構造不織布においては、上流側の粗層部は、JIS−8種ダストのような比較的粗いダストを多量に捕捉することを狙っており、上流側粗層部で微粒子ダストを捕捉しようという技術思想はなかった。また、従来の多層構造不織布においては、微粒子ダストの捕捉は、もっぱら、細い繊維により構成される密層側で行われていた。しかしながら、密層部を構成する細い繊維では、濾過材を通過する気流に抵抗しながら、繊維の立体配置や高い空間率を維持することは困難であり、密層部においては繊維の配置がつぶれた平面的な繊維配置構造となりがちであった。そのため、従来技術においては、微粒子ダストの捕捉効率を高めると、すぐに目詰まりしてしまい、微粒子ダストに対する捕捉効率(清浄効率)と、高寿命を両立しがたいという困難があった。
【0043】
上記実施形態の不織布濾過材1においては、粗層部中に、比較的太い捲縮した複合繊維と比較的細い細繊維とを配合し、捲縮した複合繊維により、粗層部の立体的な繊維の配置を維持しながら、細繊維によって微粒子ダストを高い効率でかつ大量に捕捉することができる。かかる高効率かつ、大量の微粒子ダストの捕捉が可能となるよう、粗層部11における繊維の配合割合が、特定の太さの複合繊維が30〜60重量%であり、特定の太さの細繊維が30〜70重量%である構成であるようにされている。
【0044】
特に、粗層部11において、捲縮した複合繊維と、細繊維を組み合わせることにより、細繊維の立体的配置が効果的に実現される。捲縮した複合繊維は、いわゆるコイル状やスパイラル状の立体捲縮形態に捲縮することが多く、そのような立体捲縮した構造に細繊維が引っかかって交絡し、細繊維の立体構造がつぶれにくくなるからである。細繊維の立体的配置が効果的に実現されることにより、粗層部11の全体において、微粒子ダストが細繊維に吸着されることになり、粗層部11における微粒子ダストの体積濾過が実現され、微粒子ダストを高い捕捉効率で捕捉しながらも、長寿命を実現することが可能となる。
【0045】
さらに、粗層部11に配合される細繊維に、低融点成分を含む芯鞘構造の細繊維が配合されていると、芯鞘繊維を熱処理することにより、低融点成分を溶かして、粗層部における繊維の交点を固定することができる。これにより、気流により粗層部に含まれる細繊維の立体配置がつぶれてしまうことが抑制されるので、不織布濾過材の通気性能が高められる(すなわち濾過材の通気抵抗が下がる)。
【0046】
さらに、粗層部に含まれる細繊維の内、低融点成分を含む芯鞘構造の細繊維の配合割合が40〜80重量%となるように配合すれば、配合割合が40%以上であることにより、粗層部を構成する繊維の立体的配置がより良好に維持されやすく、配合割合が80%以下であることにより、粗層部全体にわたって細繊維が均一に分散しやすくなって、通気性能と微粒子ダストに対する寿命をさらにバランスよく高め、両立することができる。
【0047】
また、上記不織布濾過材1は、自動車の内燃機関に供給する空気を濾過するエアクリーナや、自動車の燃料電池に供給する空気を濾過するエアクリーナに好適に用いることができる。これらエアクリーナにおいては、エアクリーナエレメントをコンパクトに実現する必要があることから、空気用フィルタ素材としては、比較的高い通過流速で濾過材が使用されることになり、濾過材に求められる性能が特に厳しいものとなりがちである。上記不織布濾過材1は、このような厳しい性能が要求される用途においても、微粒子ダストを高い効率でかつ大量に捕捉することが可能であり、これら用途のエアクリーナエレメントに使用できる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明の実施例を説明する。なお、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
また、以下に示す実施例や比較例において、いずれの例における濾過材も、相違する旨の記載のない繊維の材質や厚みや目付け量、積層された層の間の密度勾配等の構成は、実質的に同じであり、試験に供する際に成形したフィルタエレメントの形状や襞折りの仕様も同一としている。実施例及び比較例の繊維構成や性能評価結果を表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
(実施例1)
実施例1は、上記第1実施形態として説明した不織布濾過材1である。粗層部11の目付は75g/平方メートル、空間率は96。6%である。密層部12の目付は125g/平方メートル、空間率は93.5%である。基材層13には目付は15g/平方メートルのスパンボンド不織布を用いた。
粗層部11の繊維構成は、平均繊維径26.8μm(繊度7.8デシテックス)のポリエチレンテレフタレート樹脂製の複合繊維を捲縮した繊維が45重量%、平均繊維径24.7μm(繊度6.6デシテックス)のポリエチレンテレフタレート樹脂製のレギュラー繊維(R−PET:複合繊維でない通常のPET繊維)が5重量%、細繊維としての平均繊維径11.6μm(繊度1.45デシテックス)のポリエチレンテレフタレート樹脂製のレギュラー繊維(R−PET:芯鞘繊維でない通常のPET繊維)が20重量%、細繊維としての平均繊維径14.3μm(繊度2.2デシテックス)のポリエチレンテレフタレート樹脂製の低融点成分を含む芯鞘構造の繊維(L−PET)が30重量%である。したがって、粗層部11に含まれる細繊維の内、低融点成分を含む芯鞘構造の細繊維(L−PET)の配合割合は60重量%である。
密層部12の繊維構成は、平均繊維径17.5μm(繊度3.3デシテックス)のポリエチレンテレフタレート樹脂製のレギュラー繊維が40重量%、平均繊維径11.6μm(繊度1.45デシテックス)のポリエチレンテレフタレート樹脂製のレギュラー繊維が60重量%である。なお、密層部には40g/平方メートルのバインダ処理を施している。
【0051】
(実施例2)
粗層部における細繊維の配合を、平均繊維径11.6μm(繊度1.45デシテックス)のポリエチレンテレフタレート樹脂製のレギュラー繊維が50重量%、低融点成分を含む芯鞘構造の繊維(L−PET)は無し、に変更し、他は同様である不織布濾過材を実施例2とした。
【0052】
(実施例3)
粗層部における細繊維の配合を、細繊維としての平均繊維径11.6μm(繊度1.45デシテックス)のポリエチレンテレフタレート樹脂製のレギュラー繊維が35重量%、細繊維としての平均繊維径14.3μm(繊度2.2デシテックス)のポリエチレンテレフタレート樹脂製の低融点成分を含む芯鞘構造の繊維が15重量%、に変更し、他は同様である不織布濾過材を実施例3とした。
【0053】
(比較例1)
粗層部を、平均繊維径24.7μm(繊度6.6デシテックス)のポリエチレンテレフタレート樹脂製のレギュラー繊維を100重量%で構成し、他は実施例1と同様である不織布濾過材を比較例1とした。
【0054】
(比較例2)
粗層部を、平均繊維径26.8μm(繊度7.8デシテックス)のポリエチレンテレフタレート樹脂製の複合繊維を捲縮した繊維を100重量%で構成し、他は実施例1と同様である不織布濾過材を比較例2とした。
【0055】
(比較例3)
粗層部を、平均繊維径24.7μm(繊度6.6デシテックス)のポリエチレンテレフタレート樹脂製のレギュラー繊維を50重量%、細繊維としての平均繊維径11.6μm(繊度1.45デシテックス)のポリエチレンテレフタレート樹脂製のレギュラー繊維を50重量%で構成し、他は実施例1と同様である不織布濾過材を比較例3とした。
【0056】
実験:微粒子ダスト(カーボンダスト)についての性能評価
得られた不織布濾過材を襞折り構造に形成して枠体を取り付けて、エアクリーナエレメントとし、試験に供した。エアクリーナエレメントについて、JISD1612(自動車用エアクリーナ試験方法)に準じて、カーボンダストについてフルライフの清浄効率(捕捉効率)試験、ダスト捕捉量試験、及び通気抵抗試験を行った。その試験条件を下記に示す。
【0057】
濾過材有効濾過面積:0.18平方m
試験ダスト:カーボンダスト(軽油燃焼カーボン)
ダスト供給量:カーボンダスト(0.10g/分)
試験流量:4.2立方m/分
通気抵抗:濾過材の上流と下流の間の差圧(試験開始時)
増加通気抵抗が2.94kPaに達したときをフルライフとし、それまでに捕捉したダストの量をフルライフ捕捉量とする。
【0058】
試験結果を評点で表1に示している。なお、評点は、比較例1の試験値を基準(10点)として、各性能がどの程度向上/悪化したかを、段階的なレベルで示しており、点数が大きいほど好ましい性能(清浄効率が高くなる、微粒子ダストに対するフルライフ捕捉量が増大する(寿命が長くなる)、通気抵抗が減少する)であることを表している。
例えば、清浄効率の評点が10から12に上がることは、清浄効率が75%であったものが85%に向上する程度の改善があったことを表している。
微粒子寿命の評点が10から15に上がることは、微粒子のフルライフ捕捉量が1.5倍に増加することを表している。
通気性能の評点が10から11に上がることは、濾過材の通気抵抗が5%程度改善することを表している。
【0059】
いずれの実施例においても、比較例1に対し、微粒子ダストに対する清浄効率と寿命の評点が大きく向上しており、両者のトレードオフを克服して両性能を向上できていることがわかる。捲縮した複合繊維を用いた比較例2、粗層に細繊維を導入した比較例3では、あまり性能向上せず、実施例ほどの清浄効率や寿命の向上は見られない。このことから、粗層部における捲縮した複合繊維と、粗層部に配合された細繊維との組み合わせによる相乗的な作用によって、各実施例における清浄効率や寿命の飛躍的な向上がもたらされていることがわかる。
【0060】
また、実施例1,2,3の比較で、粗層部に低融点成分を含む芯鞘構造の細繊維をどの程度入れるかが異なっているが、粗層部に低融点成分を含む芯鞘構造の細繊維を配合することにより、通気性能が効果的に高められることがわかる。また、粗層部に低融点成分を含む芯鞘構造の細繊維を多く配合する、好ましくは、粗層部に含まれる細繊維の内、低融点成分を含む芯鞘構造の細繊維の配合割合が40重量%を超えるように配合する(実施例1が該当する)と、通気性能と寿命をバランスよく向上できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明に係る不織布濾過材は、例えば自動車用エンジンに供給する空気を濾過する用途に使用でき、特にカーボンダストのような微粒子ダストのろ過性能に優れており、産業上の利用価値が高い。
【符号の説明】
【0062】
1 不織布濾過材
11 粗層部
12 密層部
13 基材層
2 エアクリーナエレメント
21 枠体
22 シール部材
図1
図2