特許第6685594号(P6685594)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三機工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6685594-吊支持具、及び、支持構造 図000002
  • 特許6685594-吊支持具、及び、支持構造 図000003
  • 特許6685594-吊支持具、及び、支持構造 図000004
  • 特許6685594-吊支持具、及び、支持構造 図000005
  • 特許6685594-吊支持具、及び、支持構造 図000006
  • 特許6685594-吊支持具、及び、支持構造 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6685594
(24)【登録日】2020年4月3日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】吊支持具、及び、支持構造
(51)【国際特許分類】
   F16L 3/14 20060101AFI20200413BHJP
   F24F 13/02 20060101ALI20200413BHJP
【FI】
   F16L3/14 B
   F24F13/02 F
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-52730(P2016-52730)
(22)【出願日】2016年3月16日
(65)【公開番号】特開2017-166586(P2017-166586A)
(43)【公開日】2017年9月21日
【審査請求日】2018年11月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001834
【氏名又は名称】三機工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111095
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 光男
(72)【発明者】
【氏名】井上 弘晶
【審査官】 渡邉 聡
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−114624(JP,A)
【文献】 実開昭60−161213(JP,U)
【文献】 実開平05−047209(JP,U)
【文献】 特開平11−159850(JP,A)
【文献】 特開2005−194805(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 3/14
F24F 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部が所定間隔毎に形成された一般構造用圧鋼板の床板材の上面に支持される支持板と、
前記支持板の相対する一対の側辺部からそれぞれ下方に延出する係止部と、
前記支持板のうち一対の前記係止部の中間位置から下方に延出するとともに上下方向を長手方向とし、短手方向の幅が床板材の開口部の短手幅より大きい板状の延出部と、
前記延出部の側面下部に溶接して設けられ、全ねじボルトを連結可能な長ナットとを備え、
上下方向において、前記係止部の下端部と、前記長ナットの上端部との間の距離は、床板材のうち開口部が形成されている部位の上下幅よりも長く、
床板材の開口部に対し、上方から前記長ナット、及び、前記延出部を挿通させることで、前記支持板の下面を床板材の上面に当接させるとともに、前記係止部を前記延出部が挿通されている開口部とは別の開口部に挿入させ、当該開口部の周縁部に係止可能に構成されることを特徴とする吊支持具。
【請求項2】
前記係止部は、前記延出部が挿通されている開口部とは隣の開口部に挿入可能に構成されていることを特徴とする請求項1に記載の吊支持具。
【請求項3】
上記請求項1又は2に記載された前記吊支持具を用いる支持構造において
所定距離を隔てて一対で設けられた前記吊支持具と、
一対で設けられた前記吊支持具の前記長ナットに対してそれぞれ連結された一対の全ねじボルトと、
一対で設けられた前記全ねじボルトの下端部間に架け渡すようにして取付けられた支持材とを備え、
前記支持材の上方にダクト、ケーブルラック、又は、配管が設置される構成であって、
床板材の開口部は、長孔形状をなし、
前記延出部、及び、前記係止部の横幅は、床板材の開口部の長手方向における幅よりも短く構成されていることを特徴とする支持構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般構造用圧鋼板でできた床板材に対してダクトや配管を吊下げる場合に使用される吊支持具、及び、吊支持具を使用した支持構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、工場やビル等の内部空調のために設置される、屋外外気を取り入れる外気調和機や、外気と熱交換される空冷チラー、冷却塔もしくは屋外機など、屋外や半屋外に設置する空調設備や、それら設備に供給する電力を変電するキュービクルなど電気設備等(以降、空調設備等という。)では、建築工事側で空調設備等をなす複数の機器を、整列配列しながら高い位置に設置できる架台をH形鋼などで組み、空調設備等の複数の機器のメンテナンススペースを共用するため、機器の架台上端レベルに一般構造用圧鋼板を敷き詰めて、点検歩廊として平面にどの方向にも行けるようにするケースが増えている。空調設備等に接続されるダクト、配管、及び、ケーブル等については、空調設備等へのメンテナンスを可能にする上記点検歩廊の下方を通す形で、整列のしやすさや平面スペース有効利用を図っているのである。これにより、ダクト等が点検歩廊の上方に設置されるような場合に比べ、作業者の空調設備等へのアクセスを良好としたり、意匠性を向上させたりすることができる。ちなみに、高層建物である事務所ビルや熱負荷の多い工場等では、多数となる空調設備等を複数層に段積みするニーズがあり、新鮮な外気取り入れや、外気との熱交換のため新鮮外気の流通が必要なことから、メンテナンス用の点検歩廊を介して外気流通を促進し熱の滞留を無くさなければならず、一般構造用圧鋼板である点検歩廊に空気流通性能が要求され、大きなスリット開口が設けられる床板材となっている。
【0003】
ところで、従来、点検歩廊の下方にダクトや配管等を設ける場合には、図6に示すように、点検歩廊として設置される一般構造用圧鋼板である床板材41を支持している一対の梁材42(H鋼)に対し、両者間に架け渡すようにしてサブ材43(二本の山形鋼を背合わせにスペーサで間隔をあけて溶接した材料が代表的)を、例えばクランプ的な取り付け金物を介して取付けるとともに、サブ材43に対して一対の全ねじボルト44を吊下げるようにして取付け、さらに、一対の全ねじボルト44の下端部間に架け渡すようにして支持材45(山形鋼)を取付け、当該支持材45の上にダクト46等を設置するといった構造が採用されていた。しかしながら、当該構造を採用する場合、建築側構造材である梁材42(H鋼)は頑丈な材料だが大きな設置ピッチで設けられ、サブ材43には設備側の重量の小さくないダクトや配管が吊られるので、梁材42のピッチ分の長さが必要なサブ材43は、撓みや座屈性能からある程度の断面2次モーメントが要求される、大きな鋼材となり、この取り扱いにより、ダクト等の設置に関する作業性の低下や、設置コストの増大を招くことが懸念される。
【0004】
これに対し、床板材の下方において、水平方向に延びる支持材を吊下げる技術として、平面視矩形状の板材に対して長孔形状をなす複数の開口部が規則的に形成されたグレーチングである床板材に対し、床板材の上面に当接して支持される支持板と、支持板の下面に対して溶接され、床板材の開口部に対して上方から挿通される全ねじボルトとを具備する吊支持具を取付け、該吊支持具の全ねじボルトに対して、支持材を連結するといった技術がある(例えば、特許文献1等参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−33592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1では、吊支持具の全ねじボルトと、支持材との間に、全ねじボルトに螺着されるナットと、ナットの下面に溶接されたフランジとを備える上構成部と、下部において支持材を吊支えるための機構が連結されるとともに、上部においてフランジを備える下構成部と、上部及び下部にフランジを備えるとともに、支持材の高さ調節のために上構成部と下構成部との間に連結される中間構成部とを介在させている。このため、吊支持具の全ねじボルトと、支持材との間を連結する構成の複雑化等を招き、設置作業性の低下や、設置コストの増加等を招くことが懸念される。
【0007】
また、特許文献1では、グレーチング床の開口部に対して上方から挿通される支持ボルトの上端には上側止め金具が溶接され、その上側止め金具の折曲部がグレーチング床の上面に係止されるので、グレーチング床の上方から挿通された支持ボルトは、その先端部がグレーチング床下面から所定量突出したところに固定用ナットが螺合され、固定用ナットを締め付けることで、支持ボルトはグレーチング床に固定される形となっている。つまり、グレーチング床の上面から支持ボルトを挿通し、グレーチング床の下面から固定用ナットの締結が必要であり、固定されたグレーチング床への設備工事としての取り付けが、床上面作業と、足場が必要な床下作業との両方を要求する大掛かりな工事となり、設置作業性の低下や、設置コストの増加等を招くことが懸念される。
【0008】
本発明は、上記例示した問題点等を解決するためになされたものであって、その目的は、一般構造用圧鋼板である床板材に対して簡単かつ好適に取付けることのできる吊支持具、及び、吊支持具を用いた支持構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、上記目的等を解決するのに適した各手段につき項分けして説明する。なお、必要に応じて対応する手段に特有の作用効果等を付記する。
【0010】
手段1.開口部が所定間隔毎に形成された一般構造用圧鋼板の床板材の上面に支持される支持板と、
前記支持板の相対する一対の側辺部からそれぞれ下方に延出する係止部と、
前記支持板のうち一対の前記係止部の中間位置から下方に延出するとともに上下方向を長手方向とし、短手方向の幅が床板材の開口部の短手幅より大きい板状の延出部と、
前記延出部の側面下部に溶接して設けられ、全ねじボルトを連結可能な長ナットとを備え、
上下方向において、前記係止部の下端部と、前記長ナットの上端部との間の距離(高低差)は、床板材のうち開口部が形成されている部位の上下幅よりも長く、
床板材の開口部に対し、上方から前記長ナット、及び、前記延出部を挿通させることで、前記支持板の下面を床板材の上面に当接させるとともに、前記係止部を前記延出部が挿通されている開口部とは別の開口部に挿入させ、当該開口部の周縁部に係止可能に構成されることを特徴とする吊支持具。
【0011】
手段1によれば、吊支持具の設置は、床板材の開口部に対して延出部を挿通させ、支持板を床板材に当接させるだけで完了する。また、吊支持具が設置されることで、床板材の下方に長ナットが設置されることから、当該長ナットに対し、好適な長さとされた全ねじボルトを連結することができる。そして、当該吊支持具、及び、全ねじボルトを一対で設置するとともに、一対の全ねじボルトの下端部間に架け渡すようにして支持材を取付けることで、当該支持材の上にダクトや配管を設置することができる。このため、例えば、支持材を床板材ではなく、床板材を支持する梁材に吊下げる構成や、吊支持具において、ナットではなく全ねじボルトが設けられ(溶接され)、全ねじボルトと、支持材との間に、支持材の高さ調節を可能とする機構を介在させるような構成に比べ、ダクト等を吊下げる構成の設置や取外しに際しての作業性の向上、設置コストの抑制等を図ることができる。これは、空調設備等のメンテナンススペースに敷き詰められた、十分な強度がある床板材の均等に開設された開口部を有効利用することで、ダクト、配管、ケーブルラックなど設備用の吊り下げ対象の重量を、鋼材として一番強度が出る伸展のみで受け止めることができ、断面2次モーメントの小さい短い吊支持具にて有効に重量物が吊れることを意味する。従来技術における梁のように強度はあるが大きくピッチが飛んでいる材料から吊る場合、横方向の撓み側で強度が必要な断面2次モーメントの大きな部材が必要となるケースに比べると、明らかに鋼材の量や取り回しの容易さなどで優位である。
【0012】
また、例えば、支持板の下面に全ねじボルトを直接溶接する場合に比べ、用途に応じて、吊支持具のナットに連結される全ねじボルトの長さを適宜変更することができ、汎用性や利便性の向上等を図ることができる。さらに、吊支持具を極力コンパクトに構成することができ、持ち運び易さや保管し易さ等を向上させることができる。加えて、支持材を床板材ではなく、床板材を支持する梁材に吊下げる構成に比べ、支持材の位置を床板材により近付ける(支持材に支持されるダクト等の位置を高くする)ことができ、床板材の下方の空間の有効利用を図ったり、施設の設計段階で、かかる空間の高さ(床板材の位置)を低くしてコストの削減等を図ったりすることができる。
【0013】
また、吊支持具の一対の係止部が、床板材に形成された開口部のうち延出部が挿通された開口部とは別の開口部に挿入され、該開口部の周縁部に係止されることから、吊支持具が、該係止方向において位置ずれしたり、回転したりすることを防止することができる。さらに、吊支持具を床板材に設置しても、吊支持具は、床板材から支持板の厚みだけ上方に突出する程度であるため、作業者の通行の妨げになるといった事態を回避することができる。
【0015】
また、吊支持具の設置に際し、長ナットを開口部に通過させてから、係止部が対応する開口部に挿入されるように、吊支持具の位置調整を行うことができる。これにより、例えば、長ナットが開口部から下方に抜けきっていない状態において係止部の位置調整を行わなければならない構成に比べて、調整可能な変位量を大きくすることができ、利便性の向上等を図ることができる。特に、例えば、床板材の開口部に対して長ナットがぎりぎり通るような関係である場合において、長ナットが開口部を通過しきる(長ナット全体が床板材の下方位置に達する)前に、係止部が床板材の上面に当接してしまい、もう少しだけ位置をずらすだけで使用可能であるにもかかわらず使用できなくなってしまう(不良品の発生リスクが高まってしまう)といった事態を回避することができる。
手段2.前記係止部は、前記延出部が挿通されている開口部とは隣の開口部に挿入可能に構成されていることを特徴とする手段1に記載の吊支持具。
【0016】
手段3.上記手段1又は2に記載された前記吊支持具を用いる支持構造において
所定距離を隔てて一対で設けられた前記吊支持具と、
一対で設けられた前記吊支持具の前記長ナットに対してそれぞれ連結された一対の全ねじボルトと、
一対で設けられた前記全ねじボルトの下端部間に架け渡すようにして取付けられた支持材とを備え、
前記支持材の上方にダクト、ケーブルラック、又は、配管が設置される構成であって、
床板材の開口部は、長孔形状をなし、
前記延出部、及び、前記係止部の横幅は、床板材の開口部の長手方向における幅よりも短く構成されていることを特徴とする支持構造。
【0017】
手段3によれば、一対の吊支持具、一対の全ねじボルト、及び、支持材を具備することにより、ダクト等を確実に支持することができる。また、全ねじボルトを所定の高さ位置に取付けるための構成、及び、支持材を所定の高さ位置に取付けるための構成がいずれもシンプルであることから、ダクト等の設置や取外しに際しての作業性の向上、設置コストの削減等を図ることができる。
【0018】
さらに、延出部、及び、係止部の横幅は、床板材の開口部の長手方向における幅よりも短いことにより、吊支持具は、床板材に設置された状態において、床板材の開口部の長手方向に沿ってスライド可能に構成されている。このため、一対の吊支持具の間の距離が、支持材の長さと若干ずれた場合には、吊支持具の位置を少しスライドさせるだけで、解消させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】ダクトの支持構造を示す断面図である。
図2】床板材に吊支持具を設置した状態を示す斜視図である。
図3】床板材に設置された吊支持具に全ねじボルトを接続した状態を示す断面図である。
図4】吊支持具の正面図である。
図5】吊支持具の側面図である。
図6】従来のダクトの支持構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、一実施形態について図面を参照して説明する。図1に示すように、本実施形態では、空調装置(図示略)等の複数の機器を、整列配列しながら高い位置に設置できる架台をH形鋼などで組み、空調設備等をなす複数の機器のメンテナンススペースを共用するため、機器の架台上端レベルを仮想フロアとして床板材1が敷設され、当該床板材1に対してダクト7が吊支えられるようになっている。図2に示すように、床板材1は、平面視略矩形状をなす本体部2と、本体部2の両長側辺部から下方に延びる脚部3とを備えている。また、本体部2には、複数の開口部4が本体部2の長手方向において等間隔で並ぶようにして形成されている。本実施形態の開口部4は、本体部2の短手方向において幅広となる長孔形状をなし、本体部2のうち一方の長側辺部近傍から、他方の長側辺部近傍にかけて延びている。
【0021】
そして、床板材1は、一対の梁材9の間に架け渡すようにして、長手方向を梁材9に対して直交させる向きで敷き詰めて設置されている。尚、床板材1には、開口部4の周縁部から下方に延びる下面リブ5が設けられ、下面リブ5の本体部2からの突出長は、脚部3の本体部2からの突出長よりも短く構成されている。
【0022】
さて、本実施形態では、床板材1にダクト7を支持させるために、吊支持具11が使用されるようになっている。図4図5に示すように、吊支持具11は、床板材1の上面に支持される平面視矩形状の支持板12と、支持板12の両短側辺部からそれぞれ下方に延出する係止部13と、支持板12のうち一対の係止部13の中間位置から下方に延出する延出部14と、延出部14の側面に対して上下に貫通する向きで取付けられたロングナット15(長ナット)とを備えている。支持板12及び係止部13は、平面視矩形状をなす金属板の両端部を下方に向けてほぼ直角に折り曲げることで形成されている。また、延出部14は、短手方向の幅が支持板12の短手方向の幅と同じ金属板を、支持板12の長手方向中央部を通り、短手方向が支持板12の短手方向と平行に延び、短手方向両端部の位置を支持板12の短手方向両端部の位置と揃え、かつ、支持板12の下面に対して直交するようにして、支持板12の下面に溶接することにより構成されている。さらに、ロングナット15は、延出部14の側面下部に溶接されている。
【0023】
支持板12、係止部13、及び、延出部14の厚みはいずれも2.5mmであり、支持板12の長手方向における幅は67mmであり、係止部13の支持板12からの突出長は12.5mmである。また、支持板12、及び、延出部14の短手方向における幅は30mmとなっている。さらに、延出部14の厚みと、ロングナット15の外径とを足した長さが20mm以下(例えば、18.5mm)となっている。
【0024】
これに対し、床板材1の開口部4の短手幅は20mmであり、床板材1(本体部2)の長手方向に並ぶ開口部4間の距離は20mmとなっている。このため、図2図3に示すように、開口部4の長手方向と、支持板12及び延出部14の短手方向とを揃えるようにして、床板材1の開口部4に対し、上方から延出部14、及び、ロングナット15を挿通させることができる。さらに、一対の係止部13については、それぞれ延出部14が挿通されている開口部4とは別の開口部4に挿入させることができる。
【0025】
但し、本実施形態では、延出部14の厚みと、ロングナット15の外径とを足した長さが、開口部4の短手幅よりも若干短いだけであることから、ロングナット15が開口部4(下面リブ5)の内周側に位置する状況では、吊支持具11を開口部4の短手幅方向において変位させることはほぼできない。
【0026】
さらに、延出部14が支持板12の長手方向中央部に溶接され、該支持板12の側面にロングナット15が溶接されていることから、床板材1の開口部4にロングナット15を挿入し、そのまま真っ直ぐに吊支持具11を下降させた場合、一方の係止部13が床板材1の上面に突き当たることとなる。
【0027】
この点、本実施形態では、図3に示すように、上下方向において、係止部13の下端部と、ロングナット15の上端部との間の距離(高低差)は、床板材1のうち開口部4が形成されている部位の上下幅よりも長くなっている。このため、係止部13の下端部が床板材1の上面と同じ高さになる状況では、ロングナット15の全体が、床板材1の開口部4(下面リブ5)を抜けて床板材1の下方に位置することとなる。従って、吊支持具11を開口部4の短手方向において変位させて、各係止部13と、開口部4との位置を合わせ、各係止部13をそれぞれに対応する開口部4に挿入させることができるようになっている。
【0028】
さらに、延出部14、及び、一対の係止部13をそれぞれ開口部4に挿入させることで、支持板12の下面を床板材1の上面に当接させることができる。これにより、支持板12が床板材1に支持されるとともに、一対の係止部13が開口部4の周縁部(下面リブ5)に係止され、開口部4の短手方向(本体部2の長手方向)における位置ずれや、回転等が防止されるようになっている。
【0029】
また、図1に示すように、本実施形態の吊支持具11は一対で使用される。つまり、ダクト7の設置作業に際しては、先ず、床板材1に対し、一対の吊支持具11を互いに所定距離を隔てるようにして設置する。さらに、一対の吊支持具11のロングナット15に対してそれぞれ全ねじボルト21を吊下げるようにして連結する。各全ねじボルト21には、ロングナット15と螺着される側において、緩み止めナット22が螺着されており、全ねじボルト21をロングナット15に螺着させた後、緩み止めナット22をロングナット15側に移動させ、緩み止めナット22とロングナット15とを圧接させる。
【0030】
尚、全ねじボルト21の長さについては、設置されるダクト7の大きさ等に応じて適宜設定される。また、本実施形態では、延出部14の下端部が、ロングナット15の下端部よりも下方にまで延出しないように(同じ高さに)なっており、緩み止めナット22をロングナット15側に移動させる作業が行い易くなっている。
【0031】
さらに、一対の全ねじボルト21の下端部間に架け渡すようにして支持材23を取付ける。支持材23は山形鋼により構成され、山形鋼には、一対の全ねじボルト21の下部をそれぞれ挿通可能な一対の挿通孔(図示略)が形成されている。そして、前記各挿通孔に全ねじボルト21を挿通させた状態で、各全ねじボルト21の下端部に対し、それぞれ支持ナット24を2つずつ螺着させる。
【0032】
以上のようにして、水平方向に延びる支持材23が、一対の吊支持具11、及び、一対の全ねじボルト21を介して、床板材1に取付けられることとなる。さらに、ダクト7の延設方向において、支持材23を同様にして所定距離を隔てて複数取付け、各支持材23の上方にダクト7を設置することで、ダクト7が床板材1に吊支えられるようになっている。
【0033】
また、床板材1の開口部4の長手幅は200mm程度となっており、支持板12及び延出部14の短手方向における幅(横幅)が30mmである吊支持具11は、支持板12及び延出部14の短手方向が、開口部4の長手方向となるように床板材1に設置されることから、吊支持具11を開口部4の長手方向に沿ってスライドさせ、吊支持具11の位置調整を行うことが可能である。
【0034】
以上詳述したように、本実施形態によれば、吊支持具11の設置は、床板材1の開口部4に対して延出部14を挿通させ、支持板12を床板材1に当接させるだけで完了する。また、吊支持具11が設置されることで、床板材1の下方にロングナット15が設置されることから、当該ロングナット15に対し、好適な長さとされた全ねじボルト21を連結することができる。そして、当該吊支持具11、及び、全ねじボルト21を一対で設置するとともに、一対の全ねじボルト21の下端部間に架け渡すようにして支持材23を取付けることで、当該支持材23の上にダクト7を設置することができる。このため、例えば、支持材23を床板材1ではなく、床板材1を支持する梁材9に吊下げる構成や、吊支持具11において、ロングナット15ではなく全ねじボルトが設けられ(溶接され)、全ねじボルトと、支持材23との間に、支持材23の高さ調節を可能とする機構を介在させるような構成に比べ、全ねじボルト21を所定の高さ位置に取付けるための構成、及び、支持材23を所定の高さ位置に取付けるための構成をシンプルなものとすることができる。従って、ダクト7を吊下げる構成の設置や取外しに際しての作業性の向上、設置コストの抑制等を図ることができる。
【0035】
また、例えば、支持板12の下面に全ねじボルトを直接溶接する場合に比べ、用途に応じて、吊支持具11のロングナット15に連結される全ねじボルト21の長さを適宜変更することができ、汎用性や利便性の向上等を図ることができる。さらに、吊支持具11を極力コンパクトに構成することができ、持ち運び易さや保管し易さ等を向上させることができる。加えて、支持材23を床板材1ではなく、床板材1を支持する梁材9に吊下げる構成に比べ、支持材23の位置を床板材1により近付ける(支持材23に支持されるダクト7の位置を高くする)ことができ、床板材1の下方の空間の有効利用を図ったり、施設の設計段階で、かかる空間の高さ(床板材1の位置)を低くしてコストの削減等を図ったりすることができる。
【0036】
また、吊支持具11の一対の係止部13が、床板材1に形成された開口部のうち延出部14が挿通された開口部4とは別の開口部4に挿入され、該開口部4の周縁部に係止されることから、吊支持具11が、該係止方向において位置ずれしたり、回転したりすることを防止することができる。さらに、吊支持具11を床板材1に設置しても、吊支持具11は、床板材1から支持板12の厚みだけ上方に突出する程度であるため、作業者の通行の妨げになるといった事態を回避することができる。
【0037】
また、上下方向において、係止部13の下端部と、ロングナット15の上端部との間の距離(高低差)が、床板材1のうち開口部4が形成されている部位の上下幅よりも長く構成されているため、吊支持具11の設置に際し、ロングナット15を開口部4に通過させてから、係止部13が対応する開口部4に挿入されるように、吊支持具11の位置調整を行うことができる。これにより、例えば、ロングナット15が開口部4から下方に抜けきっていない状態において係止部13の位置調整を行わなければならない構成に比べて、調整可能な変位量を大きくすることができ、利便性の向上等を図ることができる。特に、本実施形態のように、床板材1の開口部4においてロングナット15を通過させる余裕がそれほどない場合において、ロングナット15が開口部4を通過しきる(ロングナット15全体が床板材1の下方位置に達する)前に、係止部13が床板材1の上面に当接してしまい、もう少しだけ位置をずらすだけで使用可能であるにもかかわらず使用できなくなってしまう(不良品の発生リスクが高まってしまう)といった事態を回避することができる。
【0038】
さらに、支持板12(係止部13)、及び、延出部14の短手方向における幅(横幅)は、床板材1の開口部4の長手幅よりも短くなっている。これにより、吊支持具11は、床板材1に設置された状態において、床板材1の開口部4の長手方向に沿ってスライド可能に構成されている。このため、一対の吊支持具11の間の距離が、支持材23の長さと若干ずれた場合には、吊支持具11の位置を少しスライドさせるだけで、解消させることができる。
【0039】
尚、上記実施形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施してもよい。勿論、以下において例示しない他の応用例、変更例も当然可能である。
【0040】
(a)上記実施形態では、吊支持具11及び全ねじボルト21によって吊支えられる支持材23にダクト7を設置する構成について説明しているが、ダクト7に代えて、又は、加えて、配管やケーブルを設置するように構成してもよい。また、床板材1の形状等(開口部4の数や配置等)については特に限定されるものではなく、吊支持具11を設置した場合に、吊支持具11の延出部14、及び、一対の係止部13をそれぞれ異なる開口部4に挿入可能となっていればよい。
【0041】
(b)上記実施形態において、吊支持具11を床板材1の下面側からでも床板材1に設置したり、回収したりすることができるように構成してもよい(例えば、支持板12及び延出部14の横幅を床板材1の開口部4の短手方向の幅よりも短くする)。この場合、ダクト7を設置したり、位置調節を行ったりしつつ、吊支持具11の位置を変更したり、数を増減させたりすることができ、作業性の向上等を図ることができる。
【0042】
(c)また、吊支持具11のうち少なくとも支持板12の上面に対して、床板材1との区別がつき易くなるような目印を付すこと(例えば、床板材1と異なる色が着色されたシールを貼る等)としてもよい。この場合、吊支持具11の位置を把握し易くすることができ、作業者が吊支持具11につまずいたり、ひいては、支持材23が傾いたりするといった事態をより確実に抑止することができる。さらには、吊支持具11の設置位置の確認や回収完了の確認等を行い易くすることができる。
【0043】
(d)図1では、一対の吊支持具11が同一の床板材1に設置されているが、異なる床板材1に設置されるように構成してもよい。また、上記実施形態において、支持板12、係止部13、及び、延出部14を一体形成してもよい。さらに、支持板12の短手幅と、延出部14の短手幅とを異ならせることも可能である。加えて、支持板12の外周縁をテーパ状に形成してもよい。この場合、支持板12の外周縁に作業者等がよりつまずき難くなるとともに、台車等で支持板12をより乗り越え易くすることができる。
【符号の説明】
【0044】
1…床板材、4…開口部、7…ダクト、11…吊支持具、12…支持板、13…係止部、14…延出部、15…ロングナット、21…全ねじボルト、22…緩み止めナット22、23…支持材。
図1
図2
図3
図4
図5
図6